恋に弄ばれる馬鹿共よ   作:肉塊

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実は作者は激甘恋愛小説を読むとドキッとして何故か手のひらに蕁麻疹が出ちゃう体質なんだ。
肉の分際で


くるくる迷いたいこのstage

 私はベッドから出ようと、腰を右に向け体を前に傾けて座面からお尻を少し浮かそうとした。が、膝と腰に力が入らなかったのか、そのまま前の方へ倒れかけてしまった。咄嗟に腕を前に出したがまだ少し手先が麻痺しており、私は目を瞑ってそのまま衝撃に耐えようとした。

 「わっ」

 転ぼうとしていた私の体がピタリと止まった。私は戸惑いながら目を開き目線を少し右へ移した。移した先にはベリアンさんの綺麗なお顔が視界いっぱいに映り込んでおり、私は思わず「へぁ」と間抜けな声を出してしまっていた。どうやらベリアンさんは咄嗟に転びそうになった私の体を抱きしめて守ってくれたらしく、私の胴体。特に胸と右腕周辺に彼の硬い腕と胸で包まれていた。

 「主様、お怪我は無いですか?」

 彼のその心配が余分に上乗せされた言葉に私はまた戸惑いながら「あ…ありがとうございます」と感謝を伝える。すっっっっっっっっごい顔が近い!!綺麗な!!顔!!!私のその戸惑いの感情が顔に出ていたのか、ベリアンさんはすぐにハッとして、私をゆっくり床に座らせた後に急いで腕を退かせ言葉を詰まらせながら「大変申し訳ございません!!」と顔を真っ赤にして大きな声で謝罪をしてきた。私は彼の突然の謝罪に驚いた。

 「え!?あ、いや!助けてくれたのに謝罪しないで下さい!!?」

 「で…ですが主様、流石に今の行動は少し配慮に欠けたというか、主様のお身体に多く触れてしまいましたので…!」

 「は、配慮に…」

 ベリアンさんのお陰で転ばずに済んだのに謝罪だなんて。執事って大変なんだな。すると、後ろの方から小さな笑い声が聞こえてきた。

 「羨ましいねぇベリアン。若い女性の身体に触れられて」

 「ルッ…!ルカスさん!!」

 おじさんっぽい発言をするルカスさんに、ベリアンさんは恥ずかしそうに彼の名前を言いながら怒鳴った。それにルカスさんは「冗談だよ。こわいこわい」と手をあげて微笑みながら私たちの方へ歩いてきていた。

 「しかし、思っていたより重症だね。鼻血に失神、立ち眩み。主様のこの症状は悪魔の力を解放した代償と考えるのが自然だろうけど、歴代の主様達にこの様な例があったなんて記録も無かった…、主様が別の世界から来た人間だから発症した…?それか単純に耐性が無い?」

 「…すみません、もしかして私力不足ですかね」

 申し訳なくなって、私は思わず下を向いてしまった。助けると豪語したばかりなのに介抱されて…。

 「いいや?そんな事無いですよ。何を気にしていらっしゃるんですか?問題の天使はちゃんと討伐出来たし被害者もゼロ。初陣としては申し分の無い戦果です。それに最初から全て上手くいく人間なんている訳無いしね。それよりも主様、聞きましたよ?屋敷の麓まで迷い込んだ子供を助けたんですってね?ロノ君が主様のことをベタ褒めしてましたよ」

 「へ」

 私は後ろを向き、小刻みに震えながら頭を抑えるロノさんを見た。ロノさんは私に気付いてニッカリ眩しい笑顔で私にVサインを送ってくれた。うわぁ〜!早速Vサインしてくれてる。ロノさん!ちょっと恥ずかしいけど!!仲良くなれそう!!!

 

 「主様、お手をどうぞ」

 「は、はい。ありがとうございます」

 ベリアンさんは私に手を差し出してくれて、ゆっくりと立ち上がらせてくれた。立ってみた感じ、足の骨が抜けちゃったみたいな感覚だった。

 「では主様、まずはお食事に致しましょうか。…移動が難しいようでしたら、私が主様を食堂までお運び致しますが、如何なさいますか?」

 「…!?!?」

 え、それってもしかしてお姫様抱っことかそういうアレですか…??憧れあるけど、絶対に私重たいよね…。ベリアンさん見た感じ華奢な体型だし…。抱っこされた瞬間ベリアンさん折れないかな。

 「だ、大丈夫です…!このままゆっくりのご案内をお願いします!!」

 私がそう断ると「あ、…失礼致しました!では、このままの状態でご案内させて頂きますね」とベリアンさん何も悪くないのに謝罪が返ってきた。めちゃくちゃ申し訳ない。

 そしてゆっくりと、ベリアンさんは私のペースに合わせて手を引き初めてくれた。優しい…。でもこれ傍から見たらリハビリみたいだ…!私達が少しづつ進んでいくと他の覗き見をしていた執事さん達はゾロゾロと部屋の扉から退散していった。でもロノさんだけ何かを思い出したのか血相変えて走って行ったな…。執事って大変なんだなぁ。

 「…あ」

 「?主様、如何なされましたか?…ペースが早かったでしょうか?」

 ふと思った事に、私は無意識にだけど小さく声を出していた。その私の小さな声に彼はいち早く反応して、その場で立ち止まってくれて私の顔を覗き込んだ。凄い心配してくれているのが分かる。

 「いえ、そういえば男性の手に触れるのって、お父さん以外初めてだなって思っただけです。ペースはこのままで大丈夫ですよ。気にかけてくれてありがとうございます。…やっぱ男性の手って大きいですね」

 「か、かしこまりました。このペースでよろしかったですね…」

 ベリアンさんは少しだけ困惑した様子だったが、またゆっくりと手を引いてくれた。

 

 部屋を出たら、凄いアンティークというか中世イギリスというか、ただひたすらに洋風オシャレな廊下が続いていた。床には赤い絨毯。照明は電気ではなくシャンデリアに蝋燭。さっき屋敷を出た時は急いで廊下とかの景色なんて全然見えてなかったけど、こういうオシャレとか疎い私でもその波動を凄い感じる。さすが異世界だ。心なしか、廊下の先から食欲を唆られる様な美味しそうな匂いが漂っていて、ギュ〜ッとお腹から情けない音が出てしまった。

 「あらら」

 ベリアンさんは私のお腹の音をちゃんと聞いていたのか、ニコリと笑って「ペースを少しだけ上げてみますか?」と提案してきた。私は顔の熱が上がるのを感じながら「お願いします」と小さく彼に返事をした。すると、ほんのちょっとだけ、彼の進むスピードが上がったのを感じた。

 「主様。ここからは階段なので足元の方お気を付け下さい。…途中移動が難しかったら遠慮なくお申し付けください。その時は恐れ入りますが私が主様をお運びいたします!」

 また申し訳なさそうな顔をして提案してくるベリアンさんに、私も申し訳なさを感じながら「大丈夫です!!私多分絶対重たいんで!!」ときっぱりお断りした。してしまった。善意を断るのは苦しいがベリアンさんが折れてしまっては元も子もない。

 「…左様ですか。失礼いたしました。……そういえば私達はまだ主様の事を少しだけしか把握できていませんね。主様がよろしければ、貴女様の好きなモノや、苦手なモノ、体質に合わないモノ等を教えて頂けると幸いです。主人の好みや体質を把握するのも執事の役目ですからね」

 「え。あ、そうですね…確かにまだ名前だけしか名乗ってないですね…」

 階段をゆっくり降りながら執事って勤勉なんだなぁとまた感心した。そうして私は自分の情報をベリアンんさんにゆっくりと教えた。

 「改めて、私の名前は蓼丸駿です。一人暮らしで、誠悍学院高校っていう学校に通ってて二年生の16歳です。陸上部に入っているので、他の女子と比べて筋肉質かもです…。脚とか特に筋肉凄いです。でも走るスポーツをしてるんで、体の部位で一番脚が大切ですね。身体に合わない食材とか薬は無いです。好きなモノは……友達と、恋愛漫画と恋愛小説。あとゼリー(Inゼリー)と甘い食べ物とやs」

 一瞬、椰檜田先輩というワードが出かかった。初対面の男性にこういう色恋のお話ってどうなんだろう。男の人と恋バナなんてした事無いから恥ずかしいしなんか困っちゃうな。

 「…やし?」

 「…野菜、好きです!」

 咄嗟に先輩の事を隠してしまった。けど、別に野菜は好きだから嘘では無い。だからセーフ。…けどなんかちょい後味悪いな。

 「フフ。お野菜が好きなのはとても素晴らしいですね。主様のお話を聞くと、こちらの世界と主様の世界が大分違っている様に思えたのですが…リクジョウブ、というワードが先程お話に上がっておりましたが、それは学校が運営している組織?であっておりますか?」

 「そ、組織。…というかスポーツクラブですね」

 部活動を組織っていう人初めて。でもそうか。この世界は部活なんてモノ無いんだ。それじゃあ組織って考えに至るのも仕方ないのかな。

 「倶楽部!…走る事を中心に活動するのですか?」

 「まぁ、そうですね。走る事以外にも種目があるんですけど、私がメインでやってるのは短距離走っていう100メートルの距離を誰よりも速く駆け抜けるのを競う競技をやってます。他には…棒を使って誰よりも高く跳べるかを競う棒高跳び、誰よりも遠くに重たい鉛玉を投げるのを競う砲丸投げとか…。あとは中距離に長距離とリレー…etc…。ここの世界と違って天使なんていう突然出てくる化け物は無いから、皆平和に自由に色んなモノで高め合ってます。定期的に地区の大会があって、そこで他の学校の生徒や同級生、先輩に後輩が敵になってタイムを競ってますね。なんで休日なんかずぅっと外で走ってます」

 「す、凄いですね。主様の世界にはそんな……。では全面的に主様をサポートしなければですね!!………因みに主様は100メートルをどの位の速さで走られるのですか?」

 ベリアンさんは少しワクワクした顔で私にそう聞いてきた。…いつでも、こういう期待の眼差しで自分の記録を聞かれると恥ずかしいものだなあ。でもこっちの世界で私の陸上の記録は果たして通用するのだろうか。

 「私の記録は、100メートル11秒79です」

 「11秒…??女性で…?…主様の世界でも、悪魔と契約するのですか…?」

 「…え、悪魔に会った事無いんでまず私の世界に居るかは分からないですけど…悪魔と契約したら多分ドーピングなんで失格になって記録抹消されちゃいますね…」

 「で、では、主様のその御御足で…?」

 「まだ二年生に上がったばっかなので去年の大会の記録ですけど、先輩にたまに勝ったりして、たまーに二位とか」

 そう言うとベリアンさんはワナワナと震えだして、キラキラとした眩しい表情で私の顔を見ていた。こ、これは!たまに部活や大会まで応援に来てくれるあの可愛い女子達と一緒の!「応援ありがとう」とお礼に行こうとしたら叫んで何処かへ行っちゃう女子達と似た!!なんか輝いている顔!!!

 「まさかそこまでとは…!凄いです!!それ程の実力の持ち主ならばバスティン君達と良い競争相手に……!」

 途中までウキウキで喋っていたベリアンさんは急にハッと何か思い出した様な顔をして喋るのを止めてしまった。ベタ褒めされて内心めっちゃはしゃぎ騒いでたのに。きっと彼の話していた内容の中に執事として何処か駄目な所があったんだろうなぁと私は考えながら、「どうされました?」と聞いた。

 「い、いえ…勝手に知らない人間と比べられるのは嫌ではないかと…。申し訳ございません。実は主様程の年齢の女性とこういった会話をする事がとても久しく…。それにそれが主様という事もあって…お恥ずかしい話、少し会話の展開の仕方に困ってしまって…」

 物凄い気にかけてくれてる…優しい人なんだなぁベリアンさんは。

 「初対面ですし無理もないですよ。ていうか、私程の歳って…。ベリアンさんと私の年齢ってそこまで離れてない様に思えますけど…、失礼ですが、ベリアンさんって何歳なんですか?」

 「私の年齢は29歳です」

 「え゜」

 「……主様?」

 なんとか階段を降り、体全体がまるで木の枝の様に固まるのを感じた。疲れじゃなくて驚きで。え、ベリアンさん、29歳なの?そんな綺麗な髪の毛とお顔で…?だとしたら童顔過ぎじゃない?29…?え、担任の立群先生と同い年??え?29??

 「…お、お若いですね〜」

 思考が停止した後に脳みそを絞ってもそれくらいしか返事が思いつかなかった。私はギャルではないから軽い返事も高いテンションも出す事が出来ない。悲しい。ベリアンさんは静かに微笑んで「ありがとうございます」とお世辞を流すような感謝を私に言った。あれ、もしかして返事ミスったかな。さっきとはあからさまにテンションが違う。ギャル返事だったらもっと会話盛り上がってたかな。

 再び私達は階段からゆっくりと歩き出し、またベリアンさんに話しかける。

 「…そういえば、さっきバスティンくんってベリアンさん言われてましたけど、その方も執事の方ですか?」

 先程ベリアンさんがウキウキしながら喋ってくれていた内容を思い出した。競争相手として名前が挙がるということはきっとそのバスティンくんは脚が速いのだろう。だとしたら会ってその人の走るフォームを確認したい。

 「ええ。バスティン君もこの屋敷の執事の一人です。主様の言う通り、脚が速くとても強い執事なんですよ。ちょっとミステリアスな雰囲気はありますが、主様なら直ぐに仲良くなれると思います。(脚が速い者同士で)」

 「へぇ〜…ミステリアスな人…!仲良くなれるかな…?でも、とても脚が速いなら一緒に競争してみたいですね!!」

 私がそう反応をするとベリアンさんは嬉しそうにまた柔らかい微笑みを浮かべて「競争される際は観客として同席させて頂きますね」と応えてくれた。

 

 廊下を少しづつ歩いて、美味しそうなご飯の匂いも濃ゆくなってくるのを感じる。目の前に広がるベリアンさんの少し華奢な背中から視点をズラそうと左へ頭を動かした。すると5メートル位先の壁を曲がった先から湯気が出ていた。そして同時に多分ロノさんの声であろう慌て声が微かに聞こえていた。料理が難航してるのかな。

 「お疲れ様です主様。もう少しで食堂でございますよ。この左側の壁を曲がった先にございます。」

 「ベリアンさんこそ、ここまで連れてきてくれてありがとうございます!ご飯凄い楽しみです…!」

 「いえいえ、主様とお話しが出来てとても良かったです。……それにしても食堂が騒がしいですね。どうしたんでしょう」

 私達は食堂から鳴り響いた音を不思議に思いつつ、左の角を曲がった。すると大きな扉から此方に顔を覗かせていた水色の綺麗な髪の誰かが「主様来たよ!!早くしてよね!!」と慌てた様子で食堂の中の誰かに伝えていた。

 「フルーレ君?食堂が騒がしいようですが、中で一体何が…?」

 「アッ…!ベ、ベリアンさん!!…じ、実は」

 扉から隠れていた体を出したフルーレという男の子。紫陽花色の綺麗な髪の毛に編み込みがあって、服も可愛いフリルやリボンが沢山装飾されていて、とてもキラキラしているように見えた。ベレー帽みたいな帽子も似合ってて素敵。…一見美少女と見間違えたがあえて口に出さないぞ私!!でもどうしてそんなに「あわわ」って感じで慌ててるんだろう。もしかしてまだ料理が完成出来てないとか?私全然待つのに。フルーレ君がベリアンさんに耳打ちしようとした瞬間、扉からロノさんの「ッ捕まえたァ!!…フルーレェ!!もう大丈夫だぜ!!」と元気な声が響き出ていた。

 ……捕まえた??

 「…大丈夫っぽいです!」

 「なッ中で一体何が……!??」

 「もう主様来てんだろ〜?料理出来てるから主様お通しして大丈夫だぜフルーレ!」

 「ですって!」

 「ほ、本当ですか…?」

 大変だなぁ、執事って。

 怯えるベリアンさんの手を握りながら、ゆっくりと食堂へ入る。するとそこにはディ●ニー映画でしか見たことない位の長いテーブルに、左の方には音楽室とおんなじピアノが置いてあり、とてもお洒落だった。そして正面に汗だくで息絶え絶えのロノさんが苦しそうに笑顔で迎えてくれていた。ロノさんの後ろからドコドコと騒がしい音と声が聞こえていていた。

 「主様!!ここまでマジ早かったですね!!流石です!!」

 「え…ロノさん。大丈夫ですか…?なんか疲れてません?肩めっちゃ揺れてるし。後ろ凄い騒がしいし」

 「いや〜ハハ。…お腹空きましたよね?どうぞ椅子にかけられてて下さい!今料理お運び致しますんで!!」

 「質問の返事が返ってこなかった…怖〜」

 ロノさんは走って奥の部屋に行き余計に騒がしくなったのを確認しながら、私はゆっくり席に腰掛け気長に料理が運ばれるのを待った。普段ならお手伝いしに行こうとしていたけど、今この脚で手伝いに行っても余計に面倒くさくなるしなぁ。…ネズミでも出たのかな。こんな綺麗なお屋敷でも出るもんは出るのか。そう考えていると私の後ろにベリアンさんが立っているのに気が付き「何で私の後ろで立ってるんですか?」と尋ねた。

 「執事ですので。主様と同様に座る事は出来ないのです」

 「え…」

 後ろでずっと立たれる方が困っちゃう…。後ろから視線感じながらご飯食べるのなんて初めてだから慣れないかも。…というか、ずっと立ってるってことは。

 「え!?てことは一緒にご飯食べないんですか!?」

 「…執事ですので、仕えている主様と一緒にお食事の場に同席するのは致しかねます。申し訳ございません」

 「えええ!?そんな…」

 私の大きな反応もあってベリアンさんはとても申し訳なさそうにしていた。そっか、執事ってとてもお世話を焼いてくれるお父さんやお母さんとかそんな身近な存在だと思ったけど違うんだ。主に仕える人…お仕事みたいなものだからそりゃ一緒の立場になったらダメだよね。ダメ…。ダメなんだぁ。

 「すみませんベリアンさん。私てっきり勘違いしてて、学校以外の場で誰かと一緒に食事が出来るって思ってました。私の家に家族の人が居ないままいつも一人でご飯を食べる事が多くて…。浮かれてしまってました…」

 「主様…」

 向こうから、ゴロゴロと台車の車輪が転がる音が聞こえ私はそっちに目線を移す。すると奥の部屋からキラキラと光って嗅ぐだけでもお腹いっぱいになりそうな大量のご飯がロノさんが台車に乗せて運ばれてきていた。見たことも食べた事のない料理が多いけど、それでも一目見ただけで美味しそうだと思った。アレをロノさんが作ったというのか!?

 「わぁ」

 「へへ〜ん主様。どうだぁ?すげ〜でしょ。俺が作ったフルコース!!きっと泣けるぐらい美味いですよッて…、え?もう泣きそうな顔視点じゃないですか。どーしたんすか主様」

 「ロノ君」

 「あ…。ぇー…どうなされましたか?主様」

 「わぁ違和感」

 後ろのベリアンさんが何か合図を送ったのか、ロノさんの顔は直ぐに引き攣って先程の発言を敬語に直していた。

 「…実はですね、執事の皆さんとご飯が食べれると思って。浮かれちゃってて」

 「え、そりゃ当たり前ですy(この間コンマ三秒。ロノは蓼丸の食事環境を思い出した)……主様〜ッ!そうだよなぁ!!誰かと食う飯のがウメェよなぁ!!?」

 私がそういうとロノさんの方が泣きそうな顔になっていた。感受性が豊かなのかな。だけど直ぐにロノさんは難しそうな顔をして「でもちょっとそれは厳しいですね」と言った。ロノさんまでもそう言うのか、と私は驚きと哀しさで少し固まってしまったが、直ぐに「ま、まぁ気にしないで下さい!!ワガママ言っちゃってごめんなさい!よ〜し!!頑張って食べるぞ〜!!」と苦し紛れ感が否めないけど、この場の空気を濁した。

 「………」

 「………」

 余計に気まずい空気になってしまった。…恥ずかしい。嘘バレバレな感じじゃん。

 「主様」

 静かな食堂で、ベリアンさんが後ろから優しい声色で私を呼んだ。それに私は椅子の手すりに両手を乗せて上半身を横に出してベリアンさんの方を向いた。下から覗くベリアンさんの顔は通常の穏やかな微笑みを浮かべていて、その顔を見ていると不思議と自然に恥ずかしいという気持ちが心から少しずつ蒸発していくのを感じた。

 「提案なのですが。主様がご命令を出して頂けたら我々がこのお食事の場に同席する事が可能ですが、如何なさいますか?」

 ベリアンさんのその優しい提案に私の口はゆっくりと開いて口角もジワジワ上がっていくのを感じた。嬉しさで思わず上半身に重心が行きそうになったが何とか堪えて「良いんですか!?では是非!!命令させて頂きますね!!」とベリアンさんに言った。私の反応に驚いたのか、ベリアンさんは一瞬目を見開いたけど直ぐに「はい。かしこまりました」と了承してくれた。

 「ですが主様。執事の中に数名、お食事の場に同席出来ない者も居るのでそこはご了承下さい。そして、先程もお伝え致しましたが執事は基本仕える者とお食事をするのはあまり宜しくない事なので、この命令はあまり多用しない様にお願い致します」

 「へ、はっはい!!全然!!大丈夫です!!それでも凄い嬉しいです!!その約束守ります!!ありがとうございますベリアンさん!!」

 テンションが高いのが漏れ出てしまっているけど、私がそう言うとベリアンさんも嬉しそうに微笑んで「流石主様です。私も、主様と食事が出来るなんて光栄です」と言ってくれた。私は直ぐに体勢を戻して正面のロノさんに口パクで「やった!」と伝えると、ロノさんも口パクで「やったな!」と言ってVサインをしてくれた。それに私は小さく机で見切れているかもだけどVサインで返事をした。

 「それでは主様。私は他の執事達にこの事を伝えて参りますので、少々お待ちくださいね」

 「はい!ゆっくりで大丈夫ですよ」

 背後からのベリアンさんの言葉に振り返りつつまた振り返ろうとすると既に彼はもう姿を消しており、あっちの入って来た方からバタンと扉の閉まる音が聞こえた。嬉しくなってテンションが上がったから気付かなかったのかな。それにしても行動が早い。流石執事さんだ。

 「あー…なら俺も一旦厨房に戻ってよろしかったですか?盛り付けた料理が待ち時間で冷めるなんて勿体ねぇし、執事の皆が揃うタイミングまで温め直したくて」

 「確かに。じゃあお願いしますね!楽しみにしてます!」

 「おう!あ、あと!主様の隣の席俺の予約で!折角なら少しでも話せる俺が近くに居た方が気が楽で良いだろ?」

 「ロノさ〜ん! 」

 そう言い残してロノさんは台車の軌道を直して厨房へと消えていった。ベリアンさんにロノさん…なんて良い人達なんだッ…!初対面なのに皆優しくしてくれる…。私が主様だからか。そう考えながら私は心を穏やかにしながら椅子の背もたれに大きくもたれて天井から吊るされた綺麗で立派なシャンデリアを眺めた。…あれどうやって火つけてるんだろ。結構天井高そうだけど。脚立でつけてるのかな。…脚立で高さ足りる?

 「あの」

 ギイィとゆっくりと入り口の扉が開く音と、少し高くて戸惑ったような声が小さく聞こえた。私はシャンデリアから扉の方へ視線を移した。扉の方には、体を右半身だけ出した先程の綺麗な執事さんが立っていた。

 「…あの、さっきベリアンさんが同席出来る執事の皆と新しく来た主様と食事をするって…言われてたのですが。…本当に主様は俺達と食事したいの?命令らしいですけど。こんな命令初めて聞きました」

 「え、…そりゃ一緒に食べたいですよ。一緒にご飯食べた方が美味しいですし、それに執事の皆さんと交流したいので」

 「…へー。交流」

 扉に居る執事さんは、他の執事さんと比べて少しテンションが低く、警戒されているのかさっき食堂に入る前にチラリとお会いした時とまるで違う。…そういえば自己紹介してないな。確かに、身分が分からない人間が急に上司になったら困るし警戒もするだろう。私は椅子から立ち上がり、扉の方へ行き、その綺麗な執事さんの正面に立った。

 「ぇ、…何ですか」

 「自己紹介がまだだって思って。私の名前は蓼丸駿って言います。16歳で、走るのが得意なんです。不束者ですけどどうかお願いしますね」

 正面の執事さんはポカンと口を開いて、直ぐに「あ…!そうだった…!俺ってば」と呟いてせっせと軽く身だしなみを整えて咳払いをした。それが終わったら背筋をピンと伸ばして、お上品なお辞儀?をした。

 「ぁ…主様から名乗らせてしまい、申し訳ございません。俺の名前はフルーレ・ガルシア。気軽にフルーレとお呼びください。…年は二十歳で、服を作るのが得意です」

 「え!!服!?え、す…凄い…!!もしかして執事さん達の服とかフルーレさんが作ってるんですか!?」

 照れながら、所々震えた小さな声で自己紹介するフルーレさんを見て、私はこの人はちょっとだけ初対面の人とお話しするのが苦手なんだと気付いた。気付いたけれど、彼の特技が凄過ぎて私は興奮のあまりがっついてしまった。

 「へ、…いや、まぁ…。」

 「あ…すみません。やかましかったですよね」

 私がそう謝るとフルーレさんは「あ!いや、違うんです!」とあたふたと手を動かし始め、少し恥ずかしそうに俯いた。

 「…これはちょっと、俺は人見知りしちゃう性格なので…最初はどうしてもこうなっちゃうので、主様が悪い訳じゃないです…。」

 「あ〜人見知り。…成程」

 私が悪い訳ではないと彼は言うけど、でも私の興奮でフルーレさんをビックリさせてしまったのは事実。私は一歩分後退りしフルーレさんに「では、フルーレさんが嫌じゃ無かったら、この距離感でお話ししませんか?」と言った。するとフルーレさんは「は?」って顔をした後に「いや、まずは立ち話も何ですから、が基本でしょ?」と笑いながら席に向かって歩き始めた。

 

〜〜〜〜〜〜

 「へ〜、主様の世界って色々と発展しているんですね。この世界とは大違いだ」

 「まぁ確かに。だってこの世界電気もなければスマホだって無いですよね?」

 「…?すまほ?何それ」

 「この光るかまぼこ板みたいな」

 「な、何それ〜〜〜〜ッ!?!?」

 席につきながら、私とフルーレさんはいつの間にかお喋りに夢中になっていた。最初はぎこちなかったけれど、ものの数分で何となく仲良くなれた気がする。フルーレさんのお仕事は衣装係らしく、趣味は洋服屋巡りとバレエとのことで。洋服を話題にして掘り下げていったらいつの間にか空気が緩和されていった。そして現在、私は彼にスマホを見せた事により、ドラ●もん気分を味わっていた。ネットも電波も無い世界だけど、カメラとフォトの機能は生きているらしく、私はフルーレさんに軽くスマホの機能を説明すると物凄い目を輝かせ、いつの間にか私のスマホはフルーレさんの手に渡ってしまい、席も隣になっていた。

 「こ、こんな凄い板がッ!主様の世界に!?すっ凄すぎる!これさえあれば最新の洋服のトレンドなんか簡単に把握できちゃうじゃないかッ!!」

 「え。あ、まぁ衣装係だから思う所そこだよね」

 「凄い凄い!!しかもこのカメラって機能!!目の前の景色が色付きで保存されて!しかも拡大も縮小も出来る!!これがあれば目に付かない小さな縫い目も確認できるし、街の洋服屋に飾られてて買えない服も写真として保存出来ていつでも見れる!!!…でもこの世界じゃその板で洋服を探す事は出来ないんですよね…」

 「通信環境じゃないですからねぇ。あとお店の商品を撮る時は店員さんにちゃんと声掛けましょうね。…あ、でも私の友達に凄いオシャレな子が居るし、たまに一緒に洋服買いに行ったりするんでその時の写真で良かったら撮って来ましょうか?」

 「え!?見たいです!見たい見たい!」

 「! そういえば、持ち物を持ったまま私この世界に来たから、もしかしたら私が身に付けてる物と所持してる物はこの世界にも…?それなら洋服とか色んな物持って来れますね!」

 「えええ〜〜!!良いんですか主様!!?」

 「え、見たくないんですか?」

 「凄い見たいです!!!当たり前でしょ!!」

 キラキラと目を輝かせたフルーレさんを見て良い気分で居た時。また入り口の扉の方からギィと音が聞こえた。その音を聞いたフルーレさんは急に静かになり、物凄い速さでスマホを返却し席を一個ずらして移動した。

 「…何だぁ?部屋の外から元気の良いフルーレの声が聞こえたが、急に静かになったなぁ」

 「ね。珍しいよね。フルーレのあんな楽しそうな声」

 ゾロゾロと扉から色んな執事さんがフルーレさんを揶揄いながら入ってきた。それにフルーレさんは「も〜別に良いだろ!!」とほっぺを膨らませて怒ったような態度を取っていた。何それ可愛い。

 フルーレさんの可愛い仕草に心を掴まれながら、私は椅子から立って入室してきた執事さん達に「初めまして!蓼丸駿です!!」と言ってお辞儀をした。それに執事さん達は戸惑ってるのかその場で立ち止まり、何故か「え…?」と騒めいていた。さっきのお辞儀をする前にチラッと部屋に入ってきた執事さんを見たけど、ベリアンさんの言っていた通り男性の方しか居らず、ちょっと心のどこかで怖気ついちゃった。

 「ちょっ!主様?何最初にそんな深々と頭下げてるんスか!?」

 最初に声をかけてくれたのは、明るい声色の執事さんだった。

 「初対面でそんなに頭下げちゃったら舐められちゃうっスよ?」

 靴の音が此方に向かって聞こえてくる。多分今喋りかけてくれた執事さんだろう。私はゆっくり頭を上げると、目の前には少し奇抜な格好をした執事さんが凄い近くに現れて「わぁ!?」と情けなくもびっくりしてしまった。

 「あら凄い綺麗なお顔。…じゃなくて、コホン。お初にお目にかかります、主様。俺の名前はアモン・リード。庭整備系の担当をしてるっス。どうぞよろしく」

 アモンと名乗る執事さんは、私の前に膝まついて爽やかに挨拶をしてくれた。よく見ると彼のシャツはバラ柄で素敵な燕尾服だった。お花が好きなんだなって一発で分かる素敵なシャツ。柄シャツが似合うのって羨ましいなぁ。

 「こ、此方こそよろしくお願いしま」

 「っしゃああ〜!俺が一番乗りでご挨拶したっスよ〜!!イエ〜イ好印象〜!てか主様は何か好きな花ありますか?あったら庭とか主様の部屋にいっぱい飾ってあげるっス」

 「へぁ」

 「ア…アモン、そんな急に大きな声出しちゃうと主様ビックリしちゃうよ」

 「あ。いっけね。すみませ〜ん主様!でも悪気ないんで許して下さい!!あと舐めてもないっス!」

 「へ、へへへ…」

 アモンさんはテヘッとあざとくポーズをした後に私の肩に腕を乗せて一気に距離を縮めてきた。私はそんな陽キャな彼にドキドキしながら既視感を感じていた。

 「……も〜主様ったらシャイなんだから〜!ま、この光景ベリアンさんに見られたら怒られちゃうんで」

 そう言ってアモンさんはパッと腕を退かして離れていった。何だったんだ。

 「でッでは…!!」

 カチコチと硬い動きをしながら、次はハウレスさんが目の前に立って「ぁ…改めましてッ!」とアモンさん同様膝まついた。この人いつまであわあわしてるんだろう。大丈夫かな。

 「俺の名前はハウレス・クリフォード。訓練係と設備管理係を担当しています。二階に所属しております」

 「所属…?」

 ここに来て初めて聞く単語に私は首を傾げた。二階に所属ってことは、この館にはまばらに執事さんが散らばっているって事なのかな。

 「ふっふっふ、流石主様。聡明でございますね」

 左耳から、ヌルリとまた聞いた事の無い男性の声。それに私は驚いて咄嗟に左耳を手で隠して上半身を右に傾けた。

 「おお…何と素晴らしい反射神経…!」

 「ぅあ、は、初めまして…蓼丸です…ッ!」

 「驚かせてしまったのなら申し訳ございません。私の名はナック・シュタイン。担当は掃除清掃に会計管理、交渉補佐を任されております。以後、お見知り置きを」

 「お、お見知り置きを…!」

 明るい緑のパーマっぽいオシャレな髪の毛に、赤と青の左右違う色の瞳。左の頬に小さな傷がある眼鏡の男性。見た目だけでもちょっと派手なのに喋り方もちょっと派手…!てか脚長ッ!マントかっこいい!!

 「というか、なんで私の考えてた事分かったんですか?口に出てましたか…?」

 私がそう尋ねるとナックさんは眼鏡をクイーッと上げて「それはですね!」と溜める。彼からはなんでもお見通しですという気迫を感じる。もしかしてナックさんは心が読める人…!?エスパー的な…?此処は私にとって異世界のような所だからそういうトンデモ展開が…!?ナックさんのテンションに私も若干引っ張られちゃって、彼が口を開くまで逆に私の口が徐々に広がっていくのを感じた。

 「私は心が読めるーッ…という訳ではなく、主様の顔に書かれてましたので」

 「あ、はは…なんだぁ…書いてましたかぁ」

 「おや?私に読心術があると期待しておりましたか?それは申し訳ございません。…では、先程の主様の疑問にお答え致しましょう。この館、devil‘s palaceは地下を含めた四階建てで、各階に執事の部屋が備え付けられております。先程主様に紹介をしたアモンくんとハウレスさんは二階に所属している執事で、他にあと二人の執事がおります。因みに私は三階に所属しております。御用がある際は是非、何処へでも駆けつけます」

 「た、頼もしい…」

 「ぁ…あのぅ。僕がその残りの二階の執事の一人です」

 細々と手を挙げて、同じように声も弱々しい執事が一人。だけどその態度とは裏腹に服越しでも超分かるガタイの良さによってその人はギャップを炸裂させていた。落ち着いた茶髪で執事っぽい片目だけの眼鏡に蝶々みたいだけど綺麗で落ち着いた燕尾服。色んな執事さんの中で一番親近感ある。

 「初めまして、主様。俺の名前はフェネス・オズワルド。俺の担当は入浴補助と設備管理補佐です。主様がいつでもコンディション万全で大会へ出場出来る様、最高のひと時を過ごせますよう頑張らせて頂きます」

 「お風呂!素敵ですね…!私浴槽にアヒル乗せるのが夢なんです!その時はよろしくお願いしますね!」

 「あ…アヒル…?主様の世界の方々はアヒルと一緒に湯船に…?」

 「え、あ。私の住む国では実物のアヒルじゃなくて、おもちゃのアヒルと湯船に入る感じですね…。あれ、そういえば大会…?私皆さんに陸上の事言ったっけ?」

 「そりゃあさっきベリアンさんが主様の事を俺らにちょっと教えてくれたからな」

 「ボスキ」

 そう教えてくれながら私の方に歩いてきた全体的に青くて顔の半分仮面を被った執事さん。フェネスさんがボスキと言っていたから、この人の名前なのかな。

 目の前に止まって私をジーッと見つめる彼。数秒も無言で見つめられるから私はちょっと恥ずかしくなって顔を逸らしてしまった。え、てかなんか睨まれてない…?何で…?

 「あ…えぇと。この執事はボスキ・アリーナスっていう名前で、設備管理係を担当してます…。それと二階所属の執事の一人です…」

 あまりにもボスキさんが見つめてくるからフェネスさんが代わりにボスキさんを紹介してしまっていた。周囲、主に二階所属の執事さん達から「失礼だぞボスキ!」「ボスキさ〜ん?そんなに主様見つめちゃってどうしたんスか?」と叱責と心配の声が上がっていた。

 「…聞いたぜ?10メートルを一秒で走るバケモンだってな」

 「…え、は、バケ?」

 「その脚の筋肉もすげぇな。血が滲む努力の結果が恐ろしい程に詰まってやがる。…他にも見えてないだけで、アンタの身体はあらゆる鍛錬で極められてきたんだろうな」

 ほ、褒められてる?ちょっと顔が怖いけど褒めてくれるのなら嬉しいかも。

 「そ、それ程でも」

 「だが駄目だね。ナヨナヨして自信がねぇし、部下にヘコヘコ頭下げる。流されやすい上にチョロい。おまけに悪魔の力をたった一回解放しただけでぶっ倒れるような弱っちい年下の女を、俺は主人と認めねぇ」

 「グワアーッ!!?」

 あまりにも鋭い言葉の数々に私は図星で苦笑いで固まってしった。周囲は慌てた様子で私を擁護してくれるが、彼の言っている事はほぼ全部事実なので逆に擁護してくれる執事さんの対応の方が苦しい。

 「まぁまぁ。ボスキくん。その位に。さっきも言ったが主様は別の世界の人間だし、悪魔の力だって未知数だ。倒れるのも無理は無いよ。それに犠牲者もゼロで抑えてるんだし」

 「る…ルカスさぁん泣」

 「フン…ま、お手並み拝見だな」

 腕を組んで鼻で笑われた。悲しい。というか悔しい。私と身長同じくらいなのに。くそ〜。

 「あッ主様…、後程ボスキには厳しく言っておきますので…」

 ハウレスさんが血相変えてボスキさんの代わりに物凄い頭を下げてきた。それに私は「いや、事実ですので」と軽く彼の謝罪を受け流す。気づけば食堂は静まり返り、気まずい空気が流れていた。どうしよう。これから執事の皆さんとご飯だっていうのにこんな空気の中で食べれないよ!!

 私がそう心の中で勝手に焦っていると、また扉がギィと開いた。

 

 「おッ待たせしましたルカス様〜♡♡♡♡!!!!」

 

 素晴らしい程の声量とテンションの高さと共に扉から出来てきたのは、これまたド派手で可愛らしい癖っ毛が目立つ明るい星柄の燕尾服を着た執事さんとベリアンさん。

 「おや、ラムリくん。お掃除はもう終わったのかい?」

 「はい!!ルカス様とご飯をご一緒出来るのならあんなのチョチョイのチョイですよ!!」

 「本当でしょうねぇラムリ。食事が終わり次第確認しますからね私?」

 「うーわウザ。何でいつも突っかかってくる訳ぇ?もっとボクの事信用してくれてもよくない?」

 「な、何ですって…?貴方がいつも仕事をサボったり粗末な掃除をしなければ私も叱責する事はないのですよ…?」

 ド派手な執事さんとナックさんが火花が散るくらいに睨みあって、完全に三人の空間になっていて他の執事さん達は溜息混じりで「またか」と呆れていたり苦笑いをしていた。恒例みたいなものなのかな。

 「大丈夫ですよナックくん。ラムリくんはちゃんと最後まで丁寧かつ迅速にお掃除を頑張ってました」

 ベリアンさんが微笑みながらナックさんにそう伝えるとナックさんは「ベリアンさんがそう言うのならば信じましょう」と直ぐに冷静になって眼鏡をまたクイっと上げていた。

 「それよりもラムリくん、先ずは主様にご挨拶しなきゃだよ。ほら、行っておいで」

 ルカスさんがそう言ってド派手執事さんを私の前に誘導した。

 「…初めまして。……貴女が新しい主様?」

 「は、はい!蓼丸駿って言います。よろしくお願いしますね」

 私がそう挨拶すると彼は目を細めて私の周りを動き回りながら一分位観察された。ボスキさんと連続でこうずっと見られるとやっぱり緊張するなぁ。

 「ふーん?ねぇ、主様はゲコちゃん好き?」

 「え?げ、ゲコちゃん?」

 「カエルのこと」

 突然の質問に私は少し戸惑いながら質問を復唱した。世間話の様な質問のわりに質問をした本人は眉間にシワを寄せていて物凄い剣幕で、まるで面接官みたいだった。

 「カエルは、そうですねぇ。色んな種類のカエルが居るから見てて楽しいと思ってます…。最近は飼育で可愛いカエルがブームですし。好きかどうかと言われたら好き…かな。特に溶けるアマガエルは見てて癒されるので好きです」

 「カエル、食べてって言われたら食べれる?」

 さらに眉間にシワを寄せて、目つきも鋭くなるラムリさんの気迫に負けそうになりながら私は思考を巡らせた。

 「た、食べれると思います。私の世界のカエルは食用のカエルもあるし。食感は鶏肉みたいで美味しいって聞きますから。それに食わず嫌いも良くないし」

 私がそう言った瞬間、目の前のド派手執事さん以外ドン引きの様な、気不味そうな顔で私を見ていた。え、私変な事言った?当たり障りの無い発言だと思いますけど…?

 「…ふーん?ふぅぅん??」

 目の前の執事さんはちょっと口角を上げて私の顔を猫みたいにマジマジと見る。この時にはもう彼の表情はすっかり晴れていた。

 「ヘヘッそっかぁ!!主様はとぉ〜っても良い人ですね!!ボク主様の事気に入っちゃった!!」

 満面の笑みで目の前の彼は急に私の体に抱きついてきた。それに他の執事さん達はびっくりした後に直ぐに焦り出して「ちょちょちょっ!?」って言いながら目の前の彼を引き剥がそうと説得したり三人ぐらいが引っ張ったりし始めた。特にナックさんが一番焦っていた。

 「ボクの名前はラムリ!!ラムリ・ベネットって言います!!年は23で趣味は星を眺めること!!三階に居ます!!よろしくお願いしますね!主様!!」

 「わ、わわッ!?よ、よろしくお願いしますラムリさん!」

 

【挿絵表示】

 

 「…ッ!良い加減ッ、離れなさいッ!!!」

 スポッとナックさん達の力によってラムリさんは綺麗に私から剥がされた。

 「はぁ!?何!?ちゃんと主様に挨拶してたじゃん!!?何でこんな手荒にする訳!?マジありえない」

 「あり得ないのは貴方でしょう!?!?主君への最初の挨拶の場で急に抱きつく従者なんて馬鹿は居ません!!貴方はもっと立場を弁えなさい!!」

 息を切らしながらラムリさんにブチ切れ説教をするナックさん。色々と苦労してるんだろうなぁ。ていうか23って。ベリアンさん然りフルーレさん然り、ここの執事さんは意外と見た目に反してとても若く見える。何か秘訣があるのかな。…みんな本物のイケメンだからそういうの関係ないのかな…?

 「あ、ええとナックさん。大丈夫ですよ。ちょっとビックリしましたけど別に嫌なことされた訳じゃないですし」

 「ほら〜!!主様そう言ってんだから別に良いじゃん!!説教うざいんだよクソナック!!まずお前は主様みたいな広〜い器を見習ってよね!」

 ラムリさんがそう言うとナックさんはみるみる顔を赤くして今にも噴火寸前だった。あれ、もしかして私火に油を注いじゃった…?

 「あっえ、ええとそんなつもりじゃッ」

 「ラムリくん」

 スッとルカスさんがラムリさんの前に立って、ゆっくり子供を叱る様静かに「駄目だろう?」と言って執事以前に大人としてとかの優しい説教をしていた。私は大人じゃないから頭にその説教が入らなかったケド。少しして、ラムリさんは「あ…」とつまった顔をして少しの沈黙の後小さく「ごめんなさい主様、ルカス様…」と謝罪した。

 

 場は静まり返り、私はまた一人で静かに気不味さを感じた。

 え。皆でご飯!の前に執事さん説教されて静まり返るって、え。どうしよ。そんな時私が勝手にキョドリ始めたのが周囲の執事さん達が感じ取ったのか、一番最初にベリアンさんが私の近くに来てくれた。

 「主様。先程は驚かせてしまい大変申し訳ございません。では、切り替えまして。コホン!以上で主様とお食事に同席する執事達の自己紹介は終了になります。今回は残念ながら地下の執事二名と一階の執事一名は欠席となっております。少し寂しいですが、ご了承下さいまぜ。」

 「え…は、はい!分かりました!…ええと…ッ!皆さん、私の勝手なわがままな命令に応えてくれた上にご挨拶して頂きありがとうございます!!…あとで良かったらなんですけど、もっといっぱいお話ししましょうね!」

 そう言った後、「待たせたな」というセリフと後ろの厨房の扉が大きな音を立てて開いた。私は後ろを向き、厨房から出てきた沢山の美味しそうなご馳走を運ぶ仕事人(プロフェッショナル)ロノさんに目がいくが、明らかにさっきより彼の格好は何故かズタボロになっていた。さっき温め直すって言ってたけど、温め直すだけでズタボロになるってどういうことなんだ。私達が各々話している間にロノさんに一体何があったんだろう。

 「え、ロノさん…大丈夫ですか?」

 私は恐る恐るロノさんにそう尋ねると、彼はフッと鼻で笑って「厨房は戦場だからな」と私にとって理解のできない返事が来た。そして扉の閉まった厨房からまた激しい音が響きり始めた。ロノさんと厨房に一体何があったんだ。

 「りょ、料理が来たことだし、席につきましょう主様!ねっ?あと俺主様の隣で良いですか?さっきのお話をもっと詳しくお聞かせください!!」

 「え、良いですけど…。厨房大丈夫なんですか?なんか凄い変な音聞こえますけど」

 「気のせいですよ主様!あと片方の隣の席、俺のですからね?俺も主様のお話聞きてー!」

 「厨房…」

 「えー!!なんで〜!?ボクも主様の隣で食べたーい!!!!」

 フルーレさんとロノさんが若干焦りながら私を椅子に座らせる。その後に続いて他の執事さん達が「失礼致します」と言って各々席についた。

 

 しばらくして、大きくて長い机の上に、空白を許さないと言わんばかりに沢山のご馳走が綺麗に並んだ。す、凄い。見ているだけで幸せになれる。

 目の前の豪勢な料理を見て、ふと私は日頃家で一人で食べていた食事を思い出す。コンビニで買ったゼリーと栄養調整食品にゆで卵。スーパーで買った2ℓの天然水。両親と一緒にいた時には、ラップで包まれた冷めたお惣菜と謝罪と愛が記された手紙。たまに跳琉のお家に招待された時は暖かくて美味しいご飯は食べれたけど、流石に毎日は食べられない。邪魔になるからっていうのもあるけど、家族の味というものに触れたら、私は多分苦しくなっちゃうから。

 「じゃじゃ〜ん!!凄いでしょ主様!俺主様の為に頑張りました!沢山食べてくださいね!」

 「……」

 「? 主様、どうかなされましたか?」

 初対面だけど多分これから一緒に過ごすであろう人達と、温かくて美味しそうなお料理。

 

 「…幸せかも」

 

 無意識にボソリと口に出てしまった本音と、それに続いて生温い涙が流れる。これが夢でも、宇宙まで飛び跳ねられるくらい嬉しい。

 「え。主様泣いて」

 「えっ!?な、なんか嫌いなモノとか入ってました!??!?すみません!!直ぐ取り下げますので!」

 「…いえ」

 執事さん達が心配しない様に、私は下を向いて急いで涙を拭き、顔を上げて手を合わせた。

 「いただきます!!」




おまたせしました。

今更主人公紹介


【挿絵表示】


蓼丸 駿(タデマル シュン)

私立誠悍学院高校(セイカンガクインコウコウ)
二年三組18号
身長172cm 体重57kg 筋肉質でガタイが良い 一度見た技能(スポーツのみ)はそのまま盗む上にクオリティが高い ガチのフィジカルギフテッド かわいいね
走りやすさを重視して晩年ショートヘア
胸はEカップ
陸上部所属 種目短距離走 自己記録100m11秒79
一人暮らしの為基本食事はプロテイン、ゼリー、たまにサラダバー
愛用の靴はアシックス

人目を物凄く気にする性格の為、入学当初はリボンで登校していたが、過激蓼丸ファンクラブのクラウドファンディングによりネクタイを贈呈され、一度ネクタイを付けて登校した際大勢の女子生徒が歓喜咽びまくって、リボンに戻ったらどうなってしまうんだという不安と恐怖と申し訳なさにずっとネクタイを付けている。噂では、次はズボンを履かせようとまた裏でクラウドファンディングを募っているらしい。そんな事知らずに蓼丸は今日も走る。かわいいね

画像は西田と桜庭と遊びに行った際に生まれて初めて撮ったプリクラのポーズ。恥ずかしいけど一番お気に入りのポーズ 胸でか

Chilli Beans.とSHISHAMOとあいみょんの曲を混ぜてそこに負けヒロインエキスを5ℓぶち込んだキャラ
肉塊は音楽鑑賞が大好きだからサブタイも好きな曲の歌詞から取ってます
暇だったら探してみるのもアリかもね


【挿絵表示】


僕の推しはベリアンです。
湿った未亡人の匂いがする。

ちなみに絵は全部肉塊が描いてる。肉の塊の癖に一丁前に筆が握れる。
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