恋に弄ばれる馬鹿共よ   作:肉塊

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ピポワン大好き!


最高に退屈で最低な朝だ

 「ちょアレ見てよ…」

 「えぇ…なにあの子…」

 「何で蓼丸さんこんな所で寝てるのぉ?」

 「チュン! ヂュンヂュン!!」

 「〜〜〜〜〜ッ?」

 直に聞こえる雀の可愛らしい鳴き声と、知らない人達の響めく声。まだまだ私は眠っている最中だというのに、周囲からの雑音によって意識が少しずつ覚めていくのを感じた。ていうか春なのになんかいつもの朝より寒くない?寝返りも痛いし。これじゃあ布団っていうかアスファルトだよ。毛布もどこ行ったの〜?

 ……アスファルト??

 「はぁあ!?!?」

 私は慌てて上体を起こして目を大きくかっ開き周囲を確認した。此処は確か見覚えがある。いつも通る…いつも通る通学路じゃん!!え!?何で!!?ていうか私の周り人多ッ!!主婦っぽい人もおじいちゃんも学生に社会人もさぁ!!朝なんだから早く移動しなよ!!!

 「って、…」

 人だかりの中に誠悍の制服を着た学生が居るのを確認し、私は咄嗟に顔を手で隠して下のアスファルトに顔を向けた。下を向いた瞬間、自分の格好と体の違和感に気がついた。今私が身に纏っているのは、私自身が持っていないし家で見た事も無い着心地の良い可愛いパジャマだった。確かこれは昨日フェネスさんから…。そしてアスファルトに面している皮膚は見るだけでも痛い位派手な跡がついていた。実際にそこを認識するとじんわりと痛みが浮き上がってきた。一体いつからここで寝てたんだろう。他に身につけている物も無くて、足も靴下すら履いてない裸足だった。辺りを見ても私の所有物らしい物は無くて、他人の靴しか見えなかった。そんな中、一つの少し古びた金色の指輪が私の目を奪った。

 「あの指輪…」

 

 「……なんかあっちに人集り出来てんな。…駿の家の方か…。…そういえばさっき朝練禁止の連絡来てたからな。見に行くついでにアイツ迎えに行くか」

 

 

 人集りの中から、いつも私に挨拶してくれる顔見知りのおばさんが私に心配そうな表情で声をかけてくれた。

 「貴女、蓼丸さん家の駿ちゃんよね…?どうしたのよこんな場所で寝転んじゃって…!」

 「あ…おばさん。イテテ…。おはようございます。実は私もどういう状況か分からなくて…」

 おばさんが私の隣に駆け寄って、背中を優しく摩ってくれた。それによって、この状況からなる不安と困惑がちょっと楽になるのを感じて、ほんの少し視野が広くなったのを感じた。それによって人集りの中から聞くだけで安心する声が段々と近づいて来ているのに気がついた。

 「オラァテメエらぁ!!何見てんだ馬鹿!!見せ物じゃねぇぞ!!通行の邪魔だ退け!!あっテメェ誠悍の生徒だな?何勝手に駿の写真撮ってんだ!!今すぐ消せ!!!消さねぇと目の前で携帯叩き折るからな!!!生徒指導にもチクってやる!!!」

 「跳琉!?」

 「あら?お友達?」

 「はい…!」

 人集りを乱暴に退け払いながら、跳琉は急いで私に駆け寄ってくれた。

 「お前どうした。こんな所で何してんだよマジで。大丈夫か?…いや、大丈夫な訳ねぇか。何か盗まれて無いか?立てる?取り敢えず駿の家に帰ろう。付き添うよ。って、お前足何も履いてないじゃん。しかもなんか跡凄いし。…お前こんなパジャマ持ってたっけ?どうなってんだよマジで…」

 跳琉は着ていた学校指定のジャージを私にパジャマの上から着させてくれて、足元には体育で使用するグラウンドシューズを置いてくれた。そして少し寒そうにしながらスマホを取り出して学校へ電話をかけようとしてくれた。

 「付き添うって…。跳琉学校どうするの?そんな事しちゃったら遅刻しちゃうよ」

 跳琉にそう言うと、ムッとした表情でスマホを一旦しまって私の頭を優しく撫でた後にいきなり高威力のデコピンをおでこに放った。

 「えてっ」

 「ばーか。普通学校より友達優先だろうが。おばさん、この子私の友達なんで後は私が面倒見ます。お世話してくれてありがとうございます」

 「あら、そう?偉いけど、ちゃんと学校行くのよ?何かあったら言いなさいね。おばさん、ここの曲がった先に吉冨の表札で一軒家に住んでるから。いつでも来なさい」

 「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」

 「ありがとうございました…。おばさん」

 私抜きで話が進んでる…。凄いありがたいけど。そして私達はお辞儀をして、心配そうな表情で帰っていくおばさんを手を振って見送った。おばさんが曲がり角を曲がった後、跳琉はまたスマホを取り出して学校に電話をかけてくれた。

 「……はぁ」

 俯いて、深い溜息を吐いた。不甲斐なさと不可解さが私の頭の中で段々と不安として存在が拡大されていく。幸いおばさんと跳琉が居てくれたお陰で心臓の鼓動がまだまともだけど、もし居なかったら私はもっとパニックになっていただろう。それに跳琉にはいつも助けてもらってばかりで感謝しなきゃだ。

 それにしても、何で私はこんな所で寝ていたんだろう。昨日は確か、お屋敷でふかふかなベッドで寝た筈。…お屋敷?私の部屋にもベッドはあるけど、昨日寝たベッド程ふかふかじゃないし。さっきもフェネスさんって人物名が頭の中から出て来たし…。

 「…………あれ?」

 昨日の記憶をもう一度、遡ってみよう。昨日の私は学校ではいつも通りだった。朝練して勉強してご飯食べて部活して、三人で途中まで帰って、此処で猫ちゃんを助けた。そういえば此処の歩道、昨日猫ちゃんを助けた場所だ。すぐ隣に車道があって、景色に何のズレもない。

 「あっ!」

 私は跳琉から借りたシューズを履いて、先程地面に転がっていた指輪を探して拾い上げた。指輪は金色に輝いていていた為、黒いアスファルトによく映えていて直ぐに見つかった。ホッとして私は指輪を両手に強く包んで脱力した。

 「…はぁ、良かった」

 「ん?何その指輪。駿の?」

 「え、あ。ええと、昨日友達から貰ったんだ」

 「ふーん?貴重品は持ってないのに、貰い物は大事そうに持ってんだ」

 「大事…だけど、落としちゃってたから大切な物ってちゃんと言い切れるかな」

 「はは。駿らしいな」

 「え…。何それ。その言葉どう受け取ればいいの?」

 指輪を包んだ両手の力を緩めて、指輪を摘んで太陽に当てた。所々小さな錆があるけど、アンティークみたいな渋みがあってかえって骨董品のようなお洒落さを感じる。…凄い高価そうな指輪だけど、一体いくらなんだろうこれ。

 

 『私の名はベリアン。貴女様、主様に支える執事でございます』

 

 指輪から放たれる綺麗な光と一緒に、昨日言われた温かい台詞を思い出した。それから芋蔓式に昨日の出来事を鮮明に思い出したけど、目の前に広がる景色と寝る前に見た景色は全然違っていた。

 「……やっぱ、夢なのかな」

 「お〜い、しゅ〜ん」

 跳琉から呼びかけられ、私は指輪をパジャマのポケットに仕舞って、彼女の側に駆け寄った。

 「何?」

 「学校と帆波に連絡入れ終わった。今日は二人で休もう。この後一旦駿の家に行って、一息ついたら交番に行って家の鍵とスマホの紛失届を出そう。体調に違和感あったら病院にもな。全部終わったら、適当にお菓子買って、サブスクでマーブル映画でも見ようぜ」

 ニヤリと狡賢く笑う跳琉に、先程まで抱いていた跳琉に対する不甲斐さなを軽減出来た。跳琉ったら、多分これ学校をサボる口実として学校に連絡を入れたなぁ。私を心配してくれてるのは確かなんだろうけれど。そういえば前に見たかった映画がサブスクで出たって言ってたっけ。学校サボって友達と観る映画かぁ。

 「そんな。わざわざ悪いよ」

 「建前だろそりゃ。お前は相変わらず、嘘をつくのが下手だな。さ、早く映画を観る為にちょっとだけ頑張ろうぜ。あ、あと。何でこんな状況になったかお前が分かる情報だけで良い。根掘り葉掘り細かぁ〜く聞くからな」

 「ふふっ。うん!」

 「あ、それと」

 跳琉は私の目を見た後、微笑んで口を開いた。

 「おはよ、駿」

 「…!おはよ、跳琉!!」

 まだ朝の挨拶を交わしていないのを思い出し、こちらも全力の笑みで返事をした。そうだ、跳琉は凄い挨拶を大切にしてるんだった。挨拶を交わした瞬間、イレギュラーな朝なのにいつも通りの清々しい朝と感じた。改めて私は跳琉が友達で良かったと思いながら、そのまま帰路についた。

 

 

 「で、何であんな所で寝てたのか覚えてるか?」

 跳琉の定期的に手入れされた綺麗なグラウンドシューズでアスファルトを踏み進みながら、彼女からの質問を受けた。

 「…覚えてない。ていうか昨日家に辿り着いた記憶すらない。気が付いたら昨日こっちに居た時と同じ場所に寝てた。けどね実は」

 私が続きを言いかけた瞬間、隣を歩いていた跳琉の姿が視界の端から消えた。途中で立ち止まったのだろう。私は後ろを振り返って、「跳琉…?」と呼びかけた。跳琉の顔には影が差し掛かっていて、何となく険しそうな感じだった。

 「まぇ…」

 「前…?」

 ズカズカと大きくて野蛮な歩き方で私の正面にまで一気に距離を詰めて、私の肩に両手をポンと軽く置いた後、力一杯に指を肩にのめり込ませて、前後に激しく私の胴体を揺さぶり始めた。

 「お・ま・ええええええ!!!!はぁ!?何だそれ!?急に事件性増したじゃねぇ〜かッ!!!記憶無くて!!格好が変わって貴重品が無い!!!そして元居た場所にリリースって!!完全に誘拐のそれじゃねぇか!!」

 「あうあうあう…ッ。ってぃぃ痛い痛い痛い!!おッ落ち着いて跳琉ッ!」

 「落ち着いてられるかっ!今すぐ警察行くぞ!!紛失届けどころじゃねぇ!!例えお前が誘拐されてなくても調べて貰うからな!!!」

 「ちょっ……!一旦話を最後まで聞いてよ!!記憶はちゃんとあるから!!」

 「って、なんだ記憶あんのかよ。ちゃんと簡潔に言えよな。…で?続きは?」

 「……異世界、行ってたかも」

 「……はぁ?」

 少し遅い朝の通学路を、女子高生二人(片方可愛いパジャマ)が大声で叫びながら互いを全力で引っ張りあう姿を、他の通行人が変なものを見る様な目で見ていた。当たり前だ。朝から異世界だの悪魔だの。厨二病と疑われても仕方ない。

 

〜〜〜

〜〜

 「ハーッ!ハーッ!!」

 「ゼェ…!ゼェ…!」

 跳琉の根が折れるまで、体感30分かかった気がする。「普段嘘をつかない駿が本気の目で言ってるから信じる」と苦虫を噛んだような、全力で気を使われたような、そんな表情でそんな事を言われた。いつも表情を変えない跳琉なのに、私が説得をしていた時間は今までに見た事ない顔のままだった。眉間のシワの数どうなってたんだ。

 「その…駿の話は確かに信じるよ…。だけどさ、あまりにも話がファンタジーすぎる。何だよイケメン悪魔系戦闘執事って。属性てんこ盛りだって。胸焼けもんだわ。だからさぁ、多分それたまたま設定が凝った夢だぜ?」

 「え」

 「え、じゃねぇよ。言っとくけど、誘拐の可能性まだあるからな?」

 「でっ!でもさ、ご飯食べたからいつもより全然お腹減ってないし!パジャマだって執事さんから貰った物だし!」

 「いや…。空腹感に関しては分からねぇけど、誘拐犯が勝手に着替えさせたんじゃねぇの?そのタイミングで駿の裸見られたりして」

 「何でそんな怖い事言うのぉ…?」

 やっぱり、私の話の内容は信憑性が無さすぎて、流石の跳琉も信じられないという反応をしていた。でもしょうがない。もし私が逆の立場だったら、一言一句同じ説明をされたとして私も跳琉と同じ反応をとっているだろう。それに跳琉は私の事を凄い心配してくれてるからこんなに全力になってくれてるんだし…。

 だけど、私が昨日体験した出来事を、夢として否定したくないんだ。

 私の表情を見て何かを察したのか、跳琉は深い溜息を吐いて、額に滲み出た汗を拭って再度口を開いた。

 「…分かったよ。取り敢えず警察に行こう。な?さっき駿が倒れてた所の電柱に防犯カメラあったから、警官にそれに映ってた映像確認してもらおう。それで今日のタスクは終了。大丈夫だから」

 「…うん。そうしよう。…ありがとう跳琉」

 また私が跳琉に謝意を伝えたタイミングで、跳琉のスカートが小刻みに震え出した。跳琉が「あ〜?」と首をかしげながら、スカートのポケットからスマホを取り出した。取り出した後も、相変わらず物凄い勢いの通知音と振動の勢いに私達二人は戸惑いながら、跳琉は急いで通知元を探し出した。

 「げぇ」

 「な、何の通知…?」

 「帆波からのライン。アホみたいにスタ連して電話の着信まで来てる。どんだけ寂しがり屋なんだよアイツ。てか今この時間ホームルーム始まってる時間だろ。全く。……もしもし」

 「出るんだ…」

 跳琉は帆波との通話を開き、スピーカーにして私にも帆波の声を聞こえてくれる様にしてくれた。

 『うおおおおお!!!(小声)もしもしィィ!(小声)何私一人置いて二人揃って休んでんじゃゴラアアア!!!(小声)もぉ〜!寂しいじゃんかよ〜!駿ちゃんは大丈夫か〜!?(泣)ライン見たけど異世界てドユコト〜??(大声)』

 「コイツうるせぇな。切るか」

 「ひどいな」

 「…今から二人で交番行って携帯と家の鍵の紛失届出すとこ。あと事情聞いてもらう。幸い私、駿の家の鍵のスペア持ってるから、その後は駿の家で映画パーティする予定」

 『何でお前駿ちゃんの家の鍵持ってんだよ??謎すぎ』

 「てかお前、この時間もうホームルーム始まってんだろ。何電話してきてんだ。校則違反だろ捕まれ」

 そんな。じゃあなんで帆波からの通話に応答したんだこの人。

 『やば。今すげぇありえねぇ理不尽に全力でぶつかったな。普通にまだ先生来てないからかけただけだよん。だからまだギリで校則違反じゃないで〜す!じゃなるはやで話すわ。今日水曜で部活停止日だから、そのまま駿ちゃん家直行するねぇ〜。だから何か欲しい物あったら連絡して〜。私的オススメはマヌドのバーガー。んじゃね』

 そう言って帆波との(一方的な)通話は終了した。最後に関しては帆波が食べたいだけでしょ。

 「…あいつ、明後日が発育測定なの忘れてんのか…?」

 「また当日になって泣き喚くのかな…。見てらんないよ」

 「構うな。行くぞ」

 そうして、数分後。私たちは無事交番まで辿り着き、中に居るお巡りさんに事の顛末を全て話した。

 そこからはあっという間だった。スマホと家の鍵、念の為財布も追加で紛失届を書きながら、お巡りさんがカメラ映像の確認を終わらせてくれるのを二人で座りながら待っていた。話の内容を聞いてお巡りさんは事件性があると判断して直ぐにお仕事に取り組んでくれた。迅速な判断で市民に寄り添って動いてくれるなんて…。警察の人達には頭が上がんないや。

 そんな事を思いながら、待つ事二十分程。お巡りさんが首を傾げながら自信無さげにパソコンを持って私達の前の席に座った。

 「あの…、蓼丸さんが倒れていらっしゃったと言われた場所のカメラの映像を遡ってみたのですが…」

 「ありがとうございます。誘拐犯居ましたか?」

 「だから誘拐じゃないってば」

 跳琉がそう尋ねると、お巡りさんは歯切れが悪そうな、不気味な物を見たような顔をしていたから、私達二人は「何だろう」と顔を見合わせた。

 「い、いえ…。カメラには誘拐犯らしき人物は一人も映っておりませんでした。おりませんでしたし…、何とお伝えすれば良いのか。映像から、昨夜の下校中と思われる蓼丸さんの姿はありましたが…。19時49分、まるで誰かに切り取られたかの様に、蓼丸さんの姿がパッと消えて無くなっておりまして。そして時間を飛ばしまして、ここ。深夜1時頃に突然今までそこで寝てたかの様な姿で映り出しまして…」

 「は…?」

 お巡りさんがカメラの映像を照らし合わせながら私達に分かりやすく説明してくれた。最初は何言ってんだこの人。と疑問に思ったけど、確かにお巡りさんの言う通りで、映像の中の私はまるで消しゴムマジックを使ったかの様に綺麗さっぱり消し去られていた。

〜〜〜〜

〜〜〜

〜〜

 

 「んで〜??結局わからずじまいで帰ってきたワケ、と」

 放課後、17時。私はパジャマから適当な部屋着に着替え、家のリビングでマヌドの商品を広げながら、ソファーで三人座ってテレビで格闘ゲームに勤しんでいた。そんな中、マヌドのポテトを寝転んで咥えながらハメ技を私に決め込んでいた帆波が再度私達に今日の出来事のまとめを確認してきた。それによって私の使っていたキャラクターはステージから落とされてしまった。

 「………。そんな食べ方してると明後日の体重測定泣く事になるよ」

 「フン、分かってないなぁ駿ちゃんは。こういうのはね、ギリギリになってからが本番なんだよ」

 「何がだよ」

 「自信ありげに何言ってんの?」

 「チッ。クソスリム体型共が」

 「勝手にキレ始めたな…。…結局病院にも行かなかったよ。見た感じ怪我も無さそうだったし。あ、でもさっき、駿が着替えてる時に見えちゃったんだけど、右太腿の裏に治りかけの小さな擦り傷があったな」

 「え!?見てたの!?えっち!」

 「ごめちょ」

 「擦り傷だぁ〜?」

 帆波は跳琉の言った事を鸚鵡返しした後に私の腰回りまで物凄い勢いでハイハイして来て、帆波が使っているキャラクターが不利な状況のまま私に無理矢理使っていたコントローラーを渡してきた。

 「任せたぜ駿ちゃん」

 「ええ〜。私もう三位確定したんだから二人でやってよ〜」

 「負けたら椰檜田先輩からのお手紙あーげない」

 「え゜!?!?やる!!!!!」

 「オラオラこのデスコンボに耐えられるかな」

 「痛い痛いやだ死ぬ」

 私は帆波のコントローラを握って、頑張って跳琉からの猛攻に耐えようと回避とガードを駆使しながら、モゾモゾと私の擦り傷があったらしい場所に顔を近付ける帆波に意識を向けていた。じっくりと太腿を見てくるものだから、段々と集中力が切れていくのを感じながら、帆波の使っていたキャラの必殺技のコマンドを思い出す事に専念しようとした。

 「ん〜。ハーパンだから地味に見えねぇなぁ。実際に見せてみやがれっ」

 「きゃっ!?」

 「あっ」

 突如帆波が私の履いていたハーフパンツを思い切り足首まで下げられた事により、その驚きと恥ずかしさによって跳琉からのデスコンボへの防御を解いてしまい、呆気なく操作キャラが画面外まで飛ばされてしまった。

 「っ〜!ちょっっと何してんの急に!?帆波のえっち!!」

 「ほほ〜ん?ふむふむ。確かに擦り傷あるねぇ。でもなんでこんな変な所に擦り傷が出来んのさ」

 「え、ええと…。とっ…取り敢えずズボン上げていい?」

 私はソファーから立ち上がり、ハーフパンツを急いで穿き上げて、振り返って寝転んでいる帆波のおでこに軽いデコピンを喰らわした。

 太腿裏の擦り傷は、勿論心当たりはある。昨日ロノさんと一緒に戦った時、私が男の子を咄嗟にスライディングで守ったあの瞬間だ。山道だったから、滑り込んだ時に木の枝とかで切ったんだろう。あの時は必死でこんな些細な傷の存在なんて感じる事出来なかった。

 「心当たりありそうな顔でござんすね?異世界ですか?」

 「……」

 「えへへ。そんなとこ」

 「異世界で滑り込みとか、陸上選手っぽいねぇ〜。うんうん。あ、私は駿ちゃんの異世界トリップ信じてるから!オタクだしね!あと明日は朝練出来る日らしいからちゃんと来なね〜」

 そう言って、帆波はソファーからゆっくりと立ち上がって帰りの支度をし始めた。跳琉も帆波の動きを見て時計の時刻を確認し、ゲーム機とテレビの電源を切って、周辺に転がったゴミ達を持参していたゴミ袋に入れて軽い整理をしてくれた。

 「なんかいつもより解散早くない?」

 私は跳琉から朝借りたジャージをお菓子と一緒に入れた紙袋を持って、帰りの支度を終わらせて玄関に向かおうと歩く二人を後ろについて行く。

 「居て欲しいの間違いだろ?別にまだ居れるけど。帆波の電車今から向かえば丁度良いタイミングだし。私が長居するとコイツまで帰んないじゃん」

 「実はですねぇ〜。日本史の特別課題の提出期限が明日の朝までなので…。まだスマブロやりたいけど今の内に帰らなきゃ面倒臭くなっちゃってやらないかもなので…。はい…」

 「春休みの課題間に合わなかったんだ…」

 「ドン引くなよ。私が悪いみたいだろ」

 「いや悪いよ…」

 帆波はム〜ッと頬を膨らませた後、何かを思い出したのか「そうだ!」と言って風船が割れたみたいに頬が萎んで、帆波のリュックから、大きな付箋が付いた一つのゼリー飲料を取り出して私の持っている跳琉への荷物を取りあげて、私の手の平にポンと優しく置いてくれた。

 ゼリーの付箋には、「無理すんなよ!元気になったら部活で!」と優しい文章が達筆な字で書かれていた。

 「こ、この字は…。椰檜田先輩の…!?」

 「キッショ。何で分かんだよ。実は今日職員室で会ってさ、先輩が駿ちゃん珍しく見かけないけどって言ってたから、体調不良って言ったんだよね。そしたら放課後に下駄箱で会ってこれ渡して言われてさ」

 「えっっっ???」

 帆波の口から夢の様な情報が溢れ出した事により、嬉しさのあまり私の体と脳が緊急停止してしまった。

 「駿ちゃんスマブロ負けちゃったけど、どうせ私が持ってても要らないし、まずゼリー系はもっと甘いのが食べたいしねぇ。……固まってる」

 「じゃあな、駿。今日は色々あったからゆっくり休めよ」

 「うんうん。それどころじゃ無いと思うけど、ゆぅっくり休みなね〜。バイバ〜イ」

 「……………ハッ!バイバイ!今日ありがと!」

 二人はニッと笑って玄関の扉を引いて帰ってしまった。窓からは春の温かい夕焼けの日差しが眩しく私の居る廊下に差し込まれて、二人が帰って静かになったこの空間がより強調されていた気がした。でもこの寂しさも今ならへっちゃら。いつもなら寂しさを紛らわす為に部屋に戻って課題をする所だけど、今の私の手には、椰檜田先輩の、直筆の、私の体調を心配した、お手紙が、あるのだから!!

 「…スゥーッ、……ィィぃいいやっほおおおおおオオオオオオオ!!!!!!!」

 私は全身で大きなジャンプをした後に私の部屋まで嬉しさを原動力に全身を使ってスキップして向かった。私の部屋の扉からすぐ正面の方にあるベッドにそのまま止まる事なくダイブし、その衝撃で体が上に大きく跳ねて、部屋着のポッケから指輪が出てしまい目の前で宙に舞ってベッドのどこかに落ちてしまった。段々とベッドの振動が減っていき、落ちてしまった指輪を拾って、背中から大きく寝そべって指輪を摘んで、先輩から頂いたゼリーと交互に眺めた。

 「わざわざゼリー購買に買いに行ってくれたのかな…?てか私が居ない事まで…。これは相当脈アリじゃない?」

〜〜〜

〜〜

 

 

 「そ、そんなっ!いけません先輩!!こ、こんな所でっ 

 「蓼丸…。いや、駿。俺、ずっとお前のことが好きだったんだ。お前を前にしてこの気持ちをもう抑える事なんて出来ねぇよッ

 「せ、先輩…。

 「バカ。俺のこと、先輩じゃなくて陽翔って呼べよ…?

 「は、…ハルト、さん」

 

 あれからどれくらい時間が経ったのだろう。私は感情を抑えきれず、ついに一人二役で私と先輩の理想アドリブ恋愛ドラマショーをベッドの上でやっていた。ふふふ。見える見える。キラキラなエフェクトと大きく咲き乱れる薔薇の花が。

 

 

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 空想の先輩に合わせて、手元にある指輪をまるでプロポーズをする男性を即興で真似て、ベッドの上で膝をつき、指輪を差し出す様に両手を伸ばして両手は指輪の箱に見立ててパカリと開けて、全力でキメ顔をした。

 「駿…。俺は、お前が欲しい。……結婚を前提に、俺とお付き合いしてくれないか…?

 「はっ…、はい…!ハルトさん」

 そのままの大勢で、先輩役のまま私の左手薬指に指輪をそっとはめた。先輩役の時なのに心臓がドキドキしすぎて、私は指輪が薬指の根元に辿り着いても瞼をキュッと固く瞑ってしまった。

 

 だけど、ふと足元のベッドの感触が急にフカフカかつ弾力がある感じに変化していて、一瞬思考が現実に戻ってしまった。しかしまだ私はまだ夢の中に浸っていたくて、引き続き芝居を再開した。

 「……椰檜田先輩。いえ、ハルトさん。不束者ではございませんが、これからも末長くよろしくお願いしますね…?それじゃあまず、結婚式は私とハルトさんが働き出して三年後経った位にしましょう。そして二人夫婦としての年月が二年くらい経った後に子供を…。子供はそうですね…。最低三人は欲しいです。女の子が多いと助かります。そしてそして」

 「主様はどうやらとても素敵な妄想に浸っていらっしゃる様子だ。やはりどの世界の年頃の女性は、熱烈で痛々しいほどの猛烈な恋心を抱く様だね。そうは思わないかい?皆」

 「へ」

 突如聞いた事ある声が、私の熱くなった恋心に冷たい水をかけた。

 目を開けると、視界には今まで私が一人芝居していた自室の景色は無く、その代わりに昨日見た素敵な装飾を施されたお屋敷の寝室へと変貌していた。足元の違和感も間違っていなかった様で、私が経っている場所は昨日私が寝たキングの屋根付きベッドだった。

 「は、ははは」

 「あ…主様って、意外と乙女なんすね…」

 周囲には、昨日出会ったばかりの男性の執事さん達が数人居り、全員私の先程迄の言動を見ていたのか、近くにある椅子に優雅に足を組んで笑っているルカスさん以外の方々は、少々引き攣った笑みを浮かべていた。

 当然私の方が引き攣っていたと思うし、ここまで夢であってくれと思ったことはなかった。

 

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ハーメルン難しいです
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