恋に弄ばれる馬鹿共よ   作:肉塊

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情にかけたって 棒に振ったって

 耳障りな警報が、夜の静かな屋敷の中に響き渡る。“天使“が現れたと知らせてくれるその警報は、皮肉にも執事達の耳に染み付いており、先程まで励んでいた各々の仕事を迅速に止めて、彼らは屋敷三階の奥の会議室に向かって走り出した。

 

 

 「皆、集まったかな?」

 薄暗い会議室の細長い会議机の上座に、いつもより硬い表情のルカスが立っていた。その隣にはお馴染みのベリアンが立っており、彼もまた真剣な表情を浮かべており、二人の違った雰囲気に他の執事達は固唾を飲んでいた。

 「いいえ。まだバスティンくんとフルーレくん。ボスキくん、ラトくん。…主様も居らしておりません」

 「…主様も?まだ屋敷に居らっしゃる筈だけど…。まぁ、今回はしょうがない。事態は少し深刻だからね。先に話させて貰おう。後で主様含めこの場にいない執事と会った場合は情報共有をしてもらうね」

 他の執事達がルカスに「はい」と各々バラバラに返事をする。そんな中、ロノは後頭部に手を組んで不服そうな表情を浮かべていた。

 「では早速本題に入ろう。昨日と引き続きまた天使が襲来した。今回は二体同時出現。しかも二体は二箇所に分かれており、討伐は二つの班に分かれて行ってもらう。一箇所はここから5km先の森林。もう一箇所はその森を抜けた先の廃村だ。幸い今回も人気の無い場所での出現だから、一般人がその場に居ない限りは討伐優先で考えても良さそうだね。

 作戦は、先程言った通り二手に分かれて行動してもらうよ。先ずは森林チーム、メンバーはベリアン、ロノくんとナックくんにアモンくん。廃村チームはハウレスくんとフェネスくん、バスティンくんとラムリくんで動いてもらうよ。名前を呼ばれなかった執事は屋敷の警備を固めてくれるかい?

 そして討伐順だが、この場合遮蔽物が木しか無く、見通しも悪い森林チームからの討伐が望ましいから、先に主人様を森林チームと同席してもらう為馬車での移動をお願いするよ。廃村チームは馬での移動だね。

 また、主様は先日の天使狩りで鼻血を出して失神してしまった為、馬車の中で手厚いサポートを頼むよ」

 「え〜〜!?ルカス様屋敷に残っちゃうんですか〜!?ルカス様が来てくれたら百人力で天使なんて指先一つでチョチョイのチョイなのに〜!」

 「こらラムリ。何ですかその口の聞き方は。ルカスさんが立案した作戦なんですから、言われた通りになさい!」

 「ウゲェウザナック」

 「何ですって…?」

 張り詰めた会議室の空気が、ラムリとナックの今にも口喧嘩が始まりそうな予感に周囲の執事達が少し呆れていたその時、空気を読んだかのようなのでタイミングで、勢い良く重たい会議室の扉が開かれた。執事達が驚いて目線を移した先には、滝の様な汗をかき肩で呼吸をしたフルーレの姿があった。

 「ハァッ…!ハァッ!」

 「どうしたんだいフルーレくん?そんなに慌てた様子で」

 ルカスがキョトンと首を傾げてフルーレに質問する。それに応えようとフルーレは少しずつ呼吸を整えて、額の汗をハンカチで拭って口を開いた。

 

 

 「あッ!主様が…!ボスキさんと一緒に天使の討伐にそのまま向かっちゃいました!!」

 

 

 執事一同がフルーレの発言に凍りつき、一斉に慌てだす。

 「えッ!?どういうこと!?天使の情報聞いてないよね!?」

 「というかボスキさんと主様たった二人で!?無茶だろそんなの!!」

 ハウレスが血相変えた顔でフルーレに早歩きで近付き、両肩を掴んで揺らしながら大きく口を荒げた。

 「向かっちゃいましたじゃないだろう…!!何故その場で止めなかったフルーレ!?」

 ハウレスの鬼気迫る姿にフルーレは少々怯えながら、「すみません」と小さく呟き、目を見て言葉を続けた。

 「それが、急いで“本”を取りに自室へ戻られたかと思ったら、…そのまま窓から飛び降りちゃって。見つけた頃にはもうボスキさんと声の届かない場所に居て…」

 そう聞いた瞬間、執事達は静まり返り、フルーレの肩を強く掴んでいたハウレスの手は緩くなっていた。

 「…流石主様。若いね♪

 では皆。主様が先陣を切ってくれたよ。遅れは許されない。各々準備が出来次第馬小屋に集合だ!いいね?」

 「「「「「はい!!!」」」」」

 

 

 

〜〜〜〜〜

〜〜〜〜

〜〜〜

 

 「おい!振り落とされんじゃねぇぞ!!」

 「はッ…はい!」

 馬を走らせるボスキさんの体を、後ろから精一杯隙間無く抱きしめて私達は風を切る。生まれて初めての乗馬がこんな緊迫した状況だなんて思っても見なかった。それに私達は今から敵と戦いに行くんだ。馬の脚が前に力強く進む度に、私の心は「怖い。泣きそうにう」と力無く弱音を吐き始める。

 「…なんだお前。緊張してんのか?」

 「え…?」

 「手、震えてんぞ」

 無愛想な声で私を指摘するボスキさん。手を意識してみると、確かに両腕が小刻みに震えている上に冷や汗でヒンヤリしているのが分かる。ボスキさんが馬を走らせていて前を向き続けているからだけど、不意に「もしかしたら怒っているんじゃないか」と感じ、心がざわついていく。私は本を落とさない様に、急いで震えている手を結び直し、強く拳を握った。おかしいな、昨日は移動中こんなに震えなかったのに。

 「ご、ごめんなさい。…もう大丈夫です」

 「……。いや、別に謝るこたぁねぇだろ。アンタの立場だったら戦いなんて怖いに決まってるし、昨日と比べて今日は実感がわける様になってんだ。…まぁ、さっきので俺はアンタが意外と肝が据わっているって知れたし、きっと大丈夫だろ。慣れだ慣れ。…ま、俺はアンタの事まだ“主様“として認めてねぇけどな。自惚れんなよ」

 意外にもボスキさんは、ぶっきらぼうに私の事を気遣ってくれた。その言葉の中に怒気は無く、「当たり前」として肯定してくれた安心感で私は喉に詰まっていた小さな息を吐けた。そして新鮮な空気を吸えた事により、頭が少し冴えていく感じがした。そしてそれにより、ボスキさんの先程の言葉の中から疑問点が出てきた。

 「ありがとうございますボスキさん。お陰でちょっと気が楽になりました。ところで、ボスキさんが言ってた“さっきの“って何ですか?」

 「あ?さっきのってそりゃお前。二階の部屋の窓から飛び降りてそのまま走って来た事だろ。ガキがそんな危ねぇことしてんじゃねぇよ。無事だから良かったけどよ」

 「え、でも急いでたんですよね?窓からの方が早いし良いかなって。それにあの程度の高さじゃ私は怪我なんてしませんよ」

 「………お前、やっぱ馬鹿だろ」

 アンタ呼びからお前呼びに格下げされてしまった…。

 「……そういえば、私達天使が何処に出たか聞かずそのまま走って来ちゃいましたけど、ボスキさんは天使の場所に心当たりあるんですか?」

 「いや無ねぇ。ほぼ勘だ」

 「そうな…はッ、はい!?えッ?大丈夫なんですかそれ!?」

 しれっとボスキさんの口からとんでもない言葉が出てきたことに私は焦り、強く結んでいた両手を直ぐに解き、先程よりも激しく震えながらボスキさんの両肩を強く掴んだ。

 「ウルセェ。揺らすな。それに心配はいらねぇ。じきに天使に会える。しっかり掴まってろ」

 「へ…?」

 馬はそのまま勢いを下げる事なく正面の森林に入った。目に映る景色は真っ暗で数m先の木々も見えづらく、地面も段々と岩盤や木の根っこが露出されて上下左右の揺れが激しくなった。私は振り落とされないように、ボスキさんの肩を強く掴み、また密着した。

 「主様、周りをよく見てみろ。真っ暗でほとんど見えねぇだろ」

 真っ暗で何も見えないのは一目瞭然だけど、私はボスキさんの言う通り目を凝らして周囲を見渡した。すると私達が向かっている正面上空に宙に浮いている白い光を見つけた。進む度に光は段々と強くなり、その光が、人体から発光しているが故の大きさと形だとゆっくりと理解した。

 「天使は白く発光しているから夜に出てくりゃ遠くから目を凝らせば直ぐに場所が分かる。今回はその光が見当たらなかったから、もしかしてと思って森に入ったが、ビンゴだったな」

 ボスキさんは両肩にある私の手を払って、馬が走っているにも関わらずその場に立ち上がった。

 「善は急げだ。アンタはそのまま力の解放を頼む」

 「え!?はッ…はい!!」

 慌てて本を出して構える私とは対照的に、ボスキさんは腰に下げていた刀の刀身を鞘から少しだけ出し、呼吸を整え、落ち着いて天使を見定めていた。

 

【挿絵表示】

 

 本を開き、触れた瞬間にページ全体が光出し、昨日と同様読めなかった文字が口から流れる様に文章として吐き出される。

 

 「…来たれ、闇の盟友よ。我は汝を召喚する。

 この悪魔との契約により、ボスキ・アリーナスの力を開放せよ…!」

 

 詠唱が終わった瞬間に、指先の感覚が遮断される感覚と、唐突な吐き気と頭痛が襲ってきた。鼻血もドロドロと流れ出し、目眩で視界が霞み、上体が前へと倒れ込む中、正面に立っていたボスキさんはそのまま天使目掛け凄まじい脚力で飛んで行ったのを捉えた。やばい、これまた気絶しちゃうかも。と頭が悟ったその時、幸いにも現在も馬は颯爽と走り抜けており、不安定な足場故に体が大きく上に揺れた事により気を失わずに済んだ。ハッと目を見開き、後ろを振り向くと上空で既にボスキさんは天使をまるで江戸の処刑人の様に横から半分まで切っており、天使諸共地面に向かって落下していた。

 「(クソッ!惜しかった…!刀を振った瞬間、俺に気付いてそのまま刀を片手で受け止めやがった!幸いそのまま首には入ったが一緒に落ちている以上、ゼロ距離からの攻撃に上手く対応出来るか分かんねぇ。攻撃を受ける前に即刻ケリを着けねぇと!)…チィッ!!」

 ボスキさんは首に入っていた刀を乱暴に引き抜き、刀を抑えていたであろう天使の手を切り捨てて逆方向から再度刀を入れようとしていた。しかし実際にはそう上手くいかず、天使の首はいきなりグルリと回転し、表情何一つとして変らない彫刻の様な綺麗な顔が、前を駆け抜け続ける私に向けた。

 「死になさい、命の為に」

 「…ッ!?」

 切り落とされていない方の手を私に向け、瞬間に天使の光が強まる。まずい。攻撃される。私はそう悟っても何もできずに守りの姿勢を取ろうとした。

 「…オイコラ。テメェの相手はッ…俺ッだろーがッ!!!」

 天使が攻撃を仕掛けた瞬間、ボスキさんの足が天使の頭をボールのように勢いよく蹴り飛ばした。首は今すぐにでも千切れそうな位にギュルギュルと回転し、そのまま遠くへと飛ばされてしまった。

 「…逃がすかよ」

 ボスキさんは近くの木に刀を刺して地面に落ちる事なく、両足を木に着けて、バネのような脚力でそのまま天使を飛ばした方角へと飛んで行った。ボスキさんが足場にした木はその衝撃で真っ二つへ折れ、大きな音を立てて地面に倒れた。

 「…す、凄い」

 ボスキさんの戦いの様子を眺めていると、また上下に大きく馬が弾み、私はバランスが保てなくなりそのまま馬から転げ落ちてしまった。咄嗟だった上に体の感覚が無い為、上手く受け身を出来ずに硬い地面に打ち付けられてしまい、体の感覚が残っている箇所に鈍い痛みが走った。私はその衝撃で直ぐに立てず、少しの間身悶えした。

 「ぃ…ったァッ…!…いや、ていうか馬ッ!!」

 上体をゆっくり起こし、後ろを振り返ると馬は不規則な軌道で暗い森の中に溶けるように消えていった。屋敷の馬なのに行方不明になったらマズイ!!と体を向けるも、今直ぐ走っても馬の脚力に追いつく自信も無ければ、知らない真っ暗闇の山の中を馬を見つけるまで走り抜ける体力も無い。頭の中が不安で渦巻く中、私は座り込んだまま深呼吸をし、覚悟を決め本を持ってボスキさんが向かった方へと足を踏み込んだ。

 

 

 

 

〜〜〜

〜〜〜〜

〜〜〜〜〜

 

 

 

 近くの方角から、「ヒヒーン!」と聞き慣れた荒ぶった馬の鳴き声が聞こえた。

 俺は励んでいた素振りを止め、馬の鳴き声が聞こえた方へと体を向けて目を凝らした。するとやはり、“屋敷で世話をしていた馬“が、俺目掛けて走って来ていた。俺も急いで馬に駆け寄り、馬の頭を優しく抱きしめ「どう、どう」と撫でて落ち着かせた。

 「よし、落ち着いたな。それにしても、こんな時間にどうかしたのか…?」

 俺は馬が走ってきた方向の森林に目を向けた。すると森林の中央寄りの場所が小さく光出し、ドォンと木が倒れる様な音も聞こえた。ああ、天使か。きっと今屋敷の誰かが戦っているのだろうと理解した。そう森林を眺めていたら、そのまた左奥に行った廃村にも小さな光が点滅しているのに気が付き、俺は逃げてきた馬を撫でながら瞳を見て口を開いた。

 「すまない。どうか、俺を彼処まで連れて行ってくれないか?」

 

 

 

〜〜〜〜〜

〜〜〜〜

〜〜〜

 

 「ハァッー…!ハァッー!!」

 耳元にボスキサンの乱れた呼吸が当たる。私は疲労困憊のボスキさんの腕を担ぎ、森林の出口に向かって足を運んでいた。

 私がボスキさんと合流した頃には既に天使を倒していて、彼は力無く地面へと転がり込んでいた。悪魔の力を開放下代償で、どうやら立てなくなるくらいに体力を消耗してしまうらしい。

 「だ、大丈夫ですか…?やっぱりおんぶした方が良いですよね?」

 そう問いかけるとボスキさんは今残っている力でゆっくり首を横に振る。執事の立場以前にどうやらプライドが許さないみたいだ。なら肩貸して一緒に歩いているのは執事の立場的にOKなのかな。基準ブレブレすぎじゃない?

 「へ、へへ。ゲホッ!…しかし、悪ぃな。アンタも体キツいってのに、肩貸して貰って…。ハァ…、その場で休みてぇところだったが、生憎此処は野生の動物が沢山出るからな。そんな危ねぇ場所じゃあちゃんと休めねぇからな」

 「ですね。じゃあ早く屋敷に戻ってルカスさんに診てもらいましょう」

 「………ところで、アンタのその鼻血といい、顔色といい。確か手の感覚も無いんだろ?まるで俺らと一緒で代償受けてるみたいだな」

 「…そういえば、確かに」

 「それは怖くねぇのかよ」

 「…どうでしょう。皆さん、命を懸けて戦っている訳ですし。…まぁ、このくらいの代償は、皆さんと一緒に戦っていく上で必要な対価なんじゃないかなって。それにきっと慣れてきますよ次第に。心配してくれてありがとうございます」

 「ふ〜ん…?まだ天使狩り二回しか同席してねぇ癖に大口叩きやがる。…全く、“主様“の流され易さには痛み入るぜ。…くぁ〜ッ!……じゃぁ俺は、少し寝、る…」

 「ん?え、ちょ!?ボスキさん!?ボスキさん!!…本当に寝ちゃった」

 耳元に当たっていた疲労による吐息は、いつの間にか小さな寝息へと変化し、彼の体は脱力し私の肩からスルリと滑り落ちそうになる。…寝るのもOKならおんぶの方が絶対に良いじゃん。

 それにしても、私が進んでいる足場は相変わらず不安定で、その上に体を鍛えているであろう成人男性の体を担いで歩くのはいつもより体力の減りが激しく、彼の力の開放時に例の症状が出てしまっている為疲労感が半端なく、本音を言うと足の感覚もほぼ残って無いから早く体を休めたい。きっとこのまま歩いてお屋敷を目指すのであれば朝になってしまうだろう。私は明日も学校があるし、朝練にも参加したい。体も馬から落ちて何ヶ所か怪我してしまっている為早く手当てもしたい。ボスキさんが寝てしまった為に辺りは静寂が走り、遠くの方から動物の鳴き声などが聞こえてきたりと、段々心の中の不安がまた存在感を強めていくのを感じる。

 「……あ、これ」

 しばらく歩いていると、足場がいつの間にか真っ平らになっており、土の足場から煉瓦の道へと変化していた。私達がお屋敷から此処に向かっていた時は、地面にはずっと草しか無く、整備なんてされていなかった筈だった。多分道に迷ってしまったんだろう。だけど、整備されている道ってことは、きっとこの先に人が居る可能性があるってことだよね?なら良かった、もし人が居たらお屋敷までの道を教えて貰おう。それにこの森を抜けたら開けた場所だった筈だし、きっと大丈夫だ。そう考えるだけで私の棒の様に硬く金属の様に重かった脚は羽が付いた様に軽くなった。

 「もう大丈夫ですボスキさん!きっと早くルカスさん達に会えます!」

 ボスキさんの腕を残っている力で握り、スキップに似た足取りで森の出口を抜け、そのまま足元の煉瓦の道だけを見て辿り、段々と道が大きくなっていくのを見て安心感が募っていく。だがしかし、どんなに道を辿っても周囲は暗く、人工の光の気配は無かった。

 「…あれ」

 視界を足元から正面に移す。そこには灯りも無ければ、人の気配も無い。崩れかけの建物だけが沢山並んでいた。私達に静かに吹く風は先程の森林の中よりも少しだけ冷たく感じ、ただただ虚無感が私を襲う。

 「ここ、もしかして廃墟…?だよね…」

 心障りが良くない不安感で、身体の不調がじわじわ蘇っていく。ふと、私は隣で疲れて眠ているボスキさんを見た。

 先程の天使が私を攻撃しよう都したあの時、瞬時に守ってくれた。きっと私があの時あそこで気付かれなければ決着は早く着いていた筈だった。そうであれば私はこの人に無駄な体力を消費させてしまった。

 「…もしかしたら、休めるところがあるかも。ボスキさんには休んで貰って、私は辺りを探索すれば良いだけの話だしね。うん、大丈夫。…よーし!もう一踏ん張りだ!」

 私は私を鼓舞し、そのまま廃墟へと足を踏み入れた。微かに、近くで鳥が羽ばたく音が聞こえたが、それを気に留められる程、私の頭にはそんな余裕は無かった。

 

 

 

 

 

 「それにしても、やっぱ夜の廃墟…廃村って安定の怖さがあるなぁ…。跳琉達と観た和ホラー映画とはまた違う雰囲気。ハハッ。もっと洋画ホラーを履修してたらマシだったのかな?…てか、寝具全部汚いよ!!埃被るのは分かるけどなんでベッドそのものが割れてたり血が付いてたりが多いのさ!?これじゃボスキさんゆっくり寝させられないよ!!」

 駄目だ。もう独り言を言ってないと正気を保てない。怖すぎる。なんでこの廃村ってこんなに血痕が多いんだ。地面も抉れているし。今まで住んできた生活感に破壊に血が混じってて、景色だけで正気を削られる。最初は人が居たら良いなって思ってたけど、逆に居た方が怖すぎる。どうしよう、最初は優しそうな印象持てるけど実は幽霊とか呪いに精通している部族のみたいな人が出て来たら。その場合ボスキさん担いで逃げれるかな。いや、気付かれぬ内に呪いとかかけられて全身から血流して死ぬのかな。…いや、跳琉達とホラー見まくったせいで嫌な予感が止まんないな。

 トボトボと遅い足を進ませること体感約20分。周辺の建物の探索を終え、次に曲がり角を曲がった先の建物を探索してみようと、また足を踏む混み視線を移したその時、先ほどまで見ていた白くて神々しい光が、私の目を痛く染みらせる。私は急いで体を戻し、蹲み込んで口を塞いだ。あの光を見た瞬間に鼓動が激しくなり、呼吸が乱れて額から汗が滲んだ。これは疲労や代償などではない。恐怖による緊張感だ。

 天使だ。

 なんで?まだ居たの?そんな、どうしようッ!?ボスキさん起きないし私まだ逃げ切れる体力回復出来てないよ!!この場で息を潜めてたら大丈夫かな…?それとも私が囮になってボスキさんから遠ざける?いやでも、私は天使と戦う術なんて持ち合わせていないし、天使って急に私達感知するよね?それじゃボスキさん危ないままだし!

 「…どうしよう、私。…あ」

 いつの間にか白い光が私達を照らしていた。私はゆっくりと、顔を光が差す方へ向ける。顔を上げると、すでに天使は私たちに気付いており、上から覗き込んでいた。

 あ、駄目だ。死んじゃう。

 「死になさい、命のた___ッ

 甲高い天使の声は、まるで何かに遮られたかのように途切れ、物凄い速さで曲がり角の方へ引っ込んだ。そして瞬く間にドゴォン!!と大きく瓦礫が崩れる音が聞こえた。私はこの一瞬で何が起こったのか理解できず、そのまま曲がり角を隠れながら覗き込んだ。突き当たり真っ直ぐの建物には大きくヒビが入り、その正面には鋭い光を放つ天使と、真っ黒な服を着た、大剣を握り締めた人が立っていた。

 「…だ、誰?」

 

 「シ、死ニナ死に勿Saイィいのチの為に」

 「いいや、死ぬのはお前だ。天使」

 その人は大剣を構え、また目に追えない程の速さで剣捌きで天使に斬撃を与えた。攻撃を一身に受ける天使は反撃も出来ず、次第に崩れて消えていった。

 「た…助かった…!」

 私はその場で立ち上がり、ボスキさんを担いでその人の元へお礼をしようと歩み寄る。重たい足を進ませる度に、彼が身に纏っているものが燕尾服だと気付いた。私はもしかしてと思いつつも彼から数m後に立ち、声をかけた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「あ、あの。…先程は助けて下さってありがとうございます」

 「………」

 私の声に彼はピクリと反応し、体はそのままで顔を振り向かせる。

 彼の眼はまるで野生の動物の様に鋭く、私はその圧で言葉が喉に詰まった。

 「…誰だ、アンタ」




転職に引越しで更新できませんでした
すみまあああ
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