スキル《忘却補正》
アヴェンジャーのクラス別能力。
人は忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より(つまり、相手が忘れきった時に)襲い来るアヴェンジャーの攻撃は痛打の一撃となり得る。
故に彼らの取り扱いには気をつけるべきだ。
復讐を核とする以上、彼らの価値と判断基準は最早、我々の知る既存の英霊のそれともきっとまるで違う筈なのだから。
───倒壊したビルの屋上に残されたとある手稿より
【⬛︎園⬛︎⬛︎聖杯⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎から⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎日目⬛︎昼⬛︎/追⬛︎イベント】
【常夏休暇記録・無為ヶ浜】うそをつくな
【Recommend BGM……〈Crucial Issue〉】
細波に攫われでもしたのか、二人の間に不透明な沈黙が流れる。
奪われた言葉の先を確かめるように、狐のショウジョの言葉を聞き届けたもう一人は下唇をちろりと舐めた。
「アルターエゴ、ねぇ?」
揶揄い、ではあるのだろうか。
どこか皮肉が多分に混じる茶化しに、狐のショウジョは肩を竦めた。
「心外だな、別に嘘は言ってないさ。この霊基は紛れもなくアルターエゴ。元がどうあれ、ね」
事実、誰が観測してもそこには紙一枚の隙もない程に。
狐のショウジョは間違いなく、多少の脆弱さはあろうともだ、アルターエゴのクラスであることに疑いようがなかった。
それはたとえ、ノウム・カルデアが観測したとしてもだろう。
「まあ、実際上手くやったよね。暫く動けないからって新しい霊基を作るだなんて、さ……おまけにエクストラクラスだなんて、とことん私たちと相性の悪い品に誂えて」
「……まあね。とはいえ、私一人の力じゃない。業腹だが“キャスター”の、ほら
ここに来て語られるのは、この場に居ない第三者。
けれどどうしてか、ショウジョの口振りには何時もの軽快なそれがない。
どちらかと言えば歯切れが悪く。
もっと言えば、実に苦々しげであった。
「そのせいで無駄な借りを、また一つ……いや、三つも作る事になったがね。まさか」
それもその筈だろう。
「特異点を考えなしに破壊しない」
「何かする時はとにかく相談する」
「昔と比べて自棄っぱちになったからと言って殴ってから解決しようとしない」
ショウジョの小さな指で折り数え出すのは、
「……だなんていう、雑な自己強制証明を結ばされる羽目になるとは。以前はのらりくらりと躱していた癖に、サーヴァントになったらセーフとは……昔より色々雑になってないか、彼」
科学者気取りの敗北者風情が、と語気こそ抑えているがその可憐な姿に似つかわしくない程には荒々しい言葉を口にするショウジョに、鯨の彼女は宥めかける。
けれど肩を熱り立たせたショウジョにそれは、馬ならぬ狐の耳というやつだ。
「そもそもだ、あんな男に感謝するというのは甚だ不本意なんだよ、私は」
「って言っても私たち、あの頭でっかちにはなんだかんだ世話にはなってるしね。ほーんと嫌だけど」
「分かるだろう?あの無駄な研究ばかりして、煙ばかり焚いてくる穀潰しに私がどれほど辟易しているか。やれ、昼食の味が薄いだの、珈琲と紅茶を混ぜるだなんて淑女の風上にもおけないだの、化粧品なんぞ集めても無駄だの、数学への理解が絶望的に欠如してるだの口を開けばいつもいつもへらず口ばかり……!」
「うへー、めちゃめちゃ溜まってるねー……でも、さ?」
思わず握り締めた拳を振るわせる長年の友人に、鯨のショウジョも苦笑いを浮かべてしまう。
どうやら今自分達の脳裏に描く偏屈を極めたような、詐欺師めいた科学者に対して、彼女の思うところは随分と大きそうだった。
だが、宥めるように言った鯨のショウジョの言う通り、
「……ああ、頭では分かっているんだよ。彼の功績は大きい。どれほど私が忌み嫌っていたとしても、ね。それこそ彼らの協力なしでは如何に我々がこの世界において異質と言えど」
この場に居ない
その存在がショウジョ達にとってどれだけ重要なのかは、互いが同じ程度には理解している。
理解しているこそ、吐露する言葉も必然、重くなった。
「今回のように
───鼠。
それが何を指すのかを、二人以外に理解できるモノはこの場にはナニもいない。
それでも万が一を考えて、か。
先ほどまでの熱が何処に行ったのかと言うほどに、狐のショウジョは冷めて密やかになっていた。
「随分思い切ったよね」
「……やるしか、あるまいよ。こちらとしても干渉は避けて然るべきだ。必要に駆られたとしても、なお我々はノウム・カルデアになぞ関わるべきじゃない」
「……一度は人理修復を果たした善き人々。そして人類最後のマスターかぁ」
ただ少なくとも、ノウム・カルデアにとっては他人事でない事は確かだろう。
けれどそれを言及する者は誰もなく、ショウジョ達もまた、つい一瞬前まであった押し殺すような空気を霧散させてしまっていた。
「さて、ね。そちらに関して私が知っているのは、あくまで報告書をなぞる言葉の羅列だけさ」
のんびりと空想に耽るような鯨のショウジョの言葉に、狐は気取って返す。
ショウジョはそれ以上カルデアについて触れたくないのか、それともそもそも興味がないのか。
気づけば随分と砂埃の汚れが目立ち出したサングラスを袖で軽く拭き始める始末。
そんな、自分が一日働いた程度のバイト代ではとても買う余裕なんてないであろう高級品を粗雑に拭く姿に呆れつつ、鯨のショウジョは話を振る。
「んー、でも想像ぐらい、できるでしょ?」
大した事のない世間話。
朝登校して顔を合わせた友人と話すような、なんて事のない、けれどもう二度と彼女達には手に入らない気やすさで。
「……人類最後のマスターである以上、
鯨の言葉に訝しみつつ、狐のショウジョはサングラスを拭く手を止めた。
眩しいだけで暑さの一つも感じない陽射しを忌々しげに見上げてから、心底気怠げに額へ手の甲を乗せた。
「どういう人物かなぞ分かりかねるが、あのサーヴァントの数だ。さぞ真っ当な人間か、はたまた狂人の類だろう。そして少なくとも彼女を除けば我々の先達とも呼べる数少ない存在であり」
ショウジョの脳裏に浮かぶのは一人の存在。
カルデアのマスター。
人類最後という称号を背負わされ幾つもの特異点と異聞帯を踏破してきた、紛れもない。
「同時に我々が危惧すべき“戦力”でもある」
───強敵。
「総数にして四百を下らないサーヴァントとの同時契約。カルデアという組織やシステムを介してだとしてもあまりにも規格外だ。単純な戦力として数えるというのなら、
油断、懈怠、慢心。
それら一切を排除した上での宣言をしたショウジョの瞳に宿るのは鋭利な色。
見据える先、水平線と空が混じる先に透けて見える白紙化地球の青を睨む。
「ただの非力な人間?魔術の心得すらない一般人?戦闘能力に乏しい数合わせ?───馬鹿馬鹿しい」
最早鯨のショウジョを置いてけぼりにする程まで、先程までキャスターについて管を巻いていた時よりもずっと荒々しい声。
そこにあるのはじめりとした温度だった。
「我々はあの手の手合いをよく知っている」
「我々はあの戦い方を知っている」
「我々は背にいるその存在の恐ろしさと頼もしさを誰よりも……そうだ。誰よりもずっと、ずっと肌身を通して実感してきたのだから」
息を呑ます程に力強く、澱みもまたなく。
けれど何処か不安定に震える声のまま、ショウジョはカルデアのマスターという存在を評価する。
カルデアのマスターという戦力に心と喉を震わせる。
「はっきりと私個人の考えを口にしよう。抑止力を除外するという条件を定めた時、恐らく人類史上において最強のマスターは間違いなくカルデアのマスターだ」
いつの間にか彼女の拳が白くなるほど握られているのを、鯨のショウジョは気づいていた。
それが何を意味するのかも。
何故なら自分もまた、同じように拳を固めていたのだから。
「サーヴァントの運用において畢竟、個人の実力なぞ関係はない、意味はない。求められるのは如何に巧く使うかだ、如何に共に足並みを揃えるかだ、如何に最後まで戦い抜けるかだ」
何故なら誰よりも自分たちが身を持ってその闘い方を知っているから。
緊迫した空気は解けることなく周囲を巻き込んでは剣呑と漂い続ける。
追いかける狐のショウジョの声にも張りが満ちる。
「個の強さなぞ人の強みではない。個の優劣なぞ世界の危機を前に欠けらの役にも立ちはしない。誰か一人が強くたって……何の意味もない」
けれどそれが終わりを迎えた。
遂に失速した音は、宛てもなく彷徨う迷子のように、或いは栓を抜かれて空に放たれた風船のように。
急速に萎みだす。
「……そんなか弱い群体である人間が、自ら選び掴んだ最適解。それが
いつの間にか音を消してしまったかのように張り詰めていたものは、ショウジョの口元を歪める皮肉めいた笑みに釣られて霧散する。
「頼まれても相手になんかしたくないだろう、ね?」
そう言って最後を締め括ったショウジョは、いつも通りの皮肉屋気取りの様子に戻っていた。
「……んー、ごもっとも」
それを見て、聞いて、鯨のショウジョもまたいつのまにか肩に入れていた力を抜く。
心臓に水銀でも飲み込んだような、臓腑を冷やす静かな悪寒の名残りを感じていたことなぞ気取らせることなく。
ただ戦友がそうするのに倣って、いつも通りのショウジョの笑い方に戻って。
「でもさ、だったら
話もまた、今一度原点に帰る。
何故。
どうして。
今更なのだ、と。
何せ、鯨のショウジョはこれを聞くために、無理を押して特異点に訪れたのだから。
そして狐のショウジョもまた、それを聞かれるだろうと予測していた。
「……仕方がない。イレギュラーが発生した」
「カルデア、ねぇ?」
「頼むから先走らないでくれよ?我々の事情を鑑みても、そして彼らカルデアと白紙化地球の状況を鑑みても。ここでの余計ないざこざは面倒を生むだけだ」
予測していたからこそ返答ぐらいは用意していた。
「えー?本音はー?」
「……はあ」
とはいえ相手は長い付き合いのある戦友だ。
今更額面通りの建前なぞ、通じる筈もないわけで。
ショウジョは深々と吐いてから、自らの中に湧き出る感情と血の気の薄い頬に感じる火照りを無視してぼそりと呟いた。
「あれだけの健闘をしている彼らの戦いに、余計な負担も面倒もかけたくないんだよ」
「うっへっへ、わたしもー!」
返事を期待しないどころか寧ろ無視して欲しいと言ったぐらいの小声。
けれど、年頃らしい恥じらいに対する応答は、いっそ少々食い気味なぐらいであった。
我が意を得たり、というよりも分かった上で聞いてきたといった弾み具合すら感じさせる。
これには狐のショウジョも思わずと横に座るショウジョを睨んだが、相手はどこ吹く風。
ついでに下手くそな口笛まで吹いている。
白々しい、おやつ抜き、ついでに帰ってから暫くお風呂上がりの髪のケアもしてあげない。
そう心に固く誓った狐のショウジョを詰るような視線にそろそろ耐えきれなくなったか。
鯨は困ったように笑いつつ、けれど少しだけ優しく目元を緩めて告げた。
「……それにライダーもきっとそう思ってるよ、きっとね」
ライダー。
そのクラスもまた、この特異点にはいないサーヴァントを指す記号。
彼女を引き合いに出されると流石の狐もお手上げなのか、それともはたまた別の理由があるのか。
そっぽを向いて黙りこくってから、漸く開いた口からゆっくりと出てきたのは不機嫌その物であった。
「……そこでキャスターとアサシンが出てこないあたり、実に頭を悩めるよ」
「実際あの二騎はほら……アサシンちゃんはともかく、あの研究バカはさ」
とはいえ、それがきっかけとなったのだろう。
話というのは共通事項があれば盛り上がるものだ。
悩みの種であるのなら尚のこと。
「本当に、ああ本当につくづく、だよ」
尻尾が右に左にと揺れ始めたのを見れば、この話題というのがショウジョにとって都合が良いのは一目瞭然だろう。
実際、さっきまでとは打って変わって流れ始めてきていた生温い空気に耐えかねていたショウジョにとっては渡りに船だったのは間違いない。
「アサシンは良い、彼女には今も嫌というほどの無理をさせている。第一、だ。己が誇りをかけ歯を食い縛りながら、それでも我々と共にあることを選んでくれた彼女の友誼に対して、私の口は簡単に語れってやれる安い言葉を持ちやしない」
もっとも、その船は鯨のショウジョにとっては泥舟どころか暴走モーターボートに違いないのだが。
「だというのにだ。あの穀潰しの厄介ファンは本当に……これだからインテリは嫌いなんだ。ライダーにも悪影響しか与えん。そのせいで我々が何度苦汁を舐める羽目になったことか」
「うへー、もしかして話題選び失敗しちゃった?」
もしかしてなくてもそうである。
「大体だね、今回のことだって本当だったら内々で処理できる筈だったんだ。それをアイツが実験だのなんだのと唆して……しかもだ!」
「あー、うん」
完全に失敗したことに気づいたショウジョはゴソゴソと上着の影に隠しつつスマホを起動する。
そうでもしないとやってられない、というのを嫌というほど理解しているからだ。
「オリジナルが出立する時に見送った奴の姿を見たかい!?!」
「うんうん、それはアイツが悪いよねー」
「私の!良いかい?私が!帰ったら!!みんなで食べようと思って!!!冷蔵庫に取っておいたとっておきのロールケーキを!!!!」
「あ、アサシンから連絡来てるや……げ、何やってるのさ……」
聞いているのか、いないのか。
それを確認するのは野暮というもの。
そして狐のショウジョにとってそんな事は最早関係ない程度にヒートアップを始めている。
「あの男はこれ見よがしに頬張りながら手を振っていたんだよ!?!?許せないよね!?」
「そうだねー、ひどいよねー……うわぁ、これ大丈夫かな。調子乗るとヤバいんだけどなぁ」
「ちょっと!ねぇ!!聞いているのかい!?!」
「きいてるよー、私、じゃなかった。おじさんのばっちり大きなお耳できいてるよー」
ビーチチェアを蹴り倒す勢いで立ち上がった正気は、いつの間にか手にしていた錆びついた直剣で地面を叩き殴っては砂を撒き散らす。
非力を自称するとは言ってもそこはサーヴァント、それなりの力もあってか巻き上がる粉塵に鯨のショウジョは嫌そうにしつつ、ついでと言わんばかりに背を向けた。
勿論、ショウジョの愚痴に付き合うためだ。
「大体だね!この前の朝ご飯に私が折角!!!良いかい!!!?折角特製の!!すっごい時間かけて淹れた珈琲を!焙煎まで頑張って用意したのに!!!あの穀潰し!!!なんて言ったか分かる!?一口飲んで自分が淹れた方が美味い、もっと勉強しろって!!!本当許せない!!!!」
「そうだよねー、美味しいよねー」
「でしょ!!!私が淹れたのだって絶対美味しいよね!?先生だって前にそう言ってくれたもん!!!」
「言ってたよー、言ってたよー……あーあ、知らないよ、これ。絶対面倒なことなるって」
「もうほんとに信じられない!!!!」
「うんうん、しんじられない、しんじられない……とりあえず先手打ってあの辛気臭い詐欺師には連絡しとこ」
最後の叫びついでに剣を深々と砂浜に突き立てて、肩で息をするショウジョの姿はようやく満足し終えたのだろう。
抉れた地面と機関銃のような叫びで一応の発散は相なった様子であった。
そのストレス発散に付き合わされた宝剣は声も涙もなく泣いていた。
哀れである。
とはいえ砂浜と剣と、一応聞き役に徹したショウジョの犠牲もあってか。
苛立ちを隠すようにしてまた蹴飛ばしたビーチチェアにどかりと座ったショウジョは幾分の落ち着きを取り戻したように見えた。
「……ふぅ。うん、分かったよ」
「ええっと、一応聞くけど……なにが?」
「やはり彼が全ての諸悪の根源だ。私の霊基が戻り次第───彼の計算機を一つ残らず叩き潰すとしよう」
やっぱりダメだったよ。
「うへー、本当毛嫌いしてるねー。私が言うのもなんだけどもうちょっと仲良くしてあげたら?私は絶対嫌だけど」
「……まあ一応、最低限礼儀は持って関わってはいるさ、一応はね」
そんな自分の様子に自分より幼い子を掛けるような声で諭されたのに気づいたからか、ショウジョは平静を取り戻しつつ不貞腐れる。
「甚だ不愉快だが、なにせ我々は一蓮托生。この関係が無事に終わりを迎えるのはまだまだ先だろうとも」
そして同時に。
心の底から忌々しいと、キャスターにではなく。
「それこそ腐り堕ちた交差点を抜け出し、安息を迎えるその日までは……いや」
世界の全てに対して、苦虫を潰すように奥歯を噛み締めながら。
「───裏切り者に最後の審判が訪れるその日までは、ね」
やはり皮肉気にそう呟くのだった。
【人理漂白⬛︎日目午前/特殊イベント】
【常夏休暇記録・無為ヶ浜】そんなものはない
【Recommend BGM……〈Up to 21℃〉】
「まあ、正確にはサーヴァントである以上原則須くは死人であるに違いはない。ならこの場合は、活動を停止したというのが正しいだろう」
遠い目をしてアルターエゴを名乗ったショウジョが語り出すのを、誰も止める事はできなかった。
カルデアのマスターは気づいたのだ。
『あ、この子案外苦労人タイプだな』、と。
半分は正解である。
「だがまあ、こんな言い方をする私をどうか許してほしい。我々も多少の哀愁なりは持ち合わせているんだ。一度活動を完全に停止して退去したならば、我々はそれを死と捉えたい。たとえそれが」
とはいえ、ここでショウジョの視点は過去の散々たる失敗ではなく今を見てから。
「───過去の残影であったとしても、ね」
声を淑やかに潜めた。
気取っているわけでも上品振っているわけでもない。
ただ悠々と穏やかに、けれど何処かに憂いを帯びて一人言のように告げる瞳の色は、いっそ淑やかですらあった。
→「(……やっぱり喋り方に品がある)」
→「(着てる水着もそうだけど、生前は貴族とか王族とかだったのかな?ら)」
思えば立ち振る舞いもそうであった、とカルデアのマスターは僅かに流れ始めた緩やかな静寂の中で考えをまとめる。
別に大仰としているわけではないが、こちらを見やる時の所作、話す時の言葉選び。
特別偉ぶっているわけではないが、丁寧さの中に上位者としての自負が確たるものとしてあったのをマスターは感じ取っていた。
それはカルデアという、古今東西の為政者や気位の高いサーヴァントや人間が集まるという特異な場所で揉まれ続けてきたからの気づき。
彼らに近しい物を目の前のショウジョから微かに感じ取った。
だから彼は、やはり出会ってからずっと引っ掛かっている真名という疑問への思索に、沈黙へ背を預けて更けようとする。
「さて、ここからは質問に答えがてら、この特異点の成り立ちを話していこう」
けれどその静寂も、決して長いものにはならなかった。
「ああ、問題はないよ。先の話の続き、つまりは我々がアルターエゴに分たれたのとこの特異点の成り立ちはまあ言ってしまえば不可分な話なのだから」
「興味深いね。僕は別に魔術師というわけじゃないが、後学の意味も含めて是非に教えてもらえるかな?」
「勿論だとも。まず、この特異点は黒幕の願いから生まれた」
「願い……ですか?」
ファウストから漏れた疑問の声にちらりとだけ流し目を送ると、ショウジョもまた、疲れたように息を漏らした。
「別なんて事はない話でね。その子はどうしても叶えたい願いがあって外に出ようとした」
→「外……?」
「言いたいことは分かるが、我々にはそうとしか形容出来ないんだ。黒幕はその生まれからして特殊でね、契約から生まれた以上はソレから外れる願望は須く外と言っても差し支えないとさせてほしい」
マスターが口を挟んだのも無理はない話だった。
事実、ショウジョもその疑念を抱いた事に肯定の色を見せる。
言うことを欠いて“外”とは一体何を指すのか。
ファウストを含めて全員が共通する疑問に、けれどショウジョはさらりと流した上で続きを話し始めた。
「さて、話を戻そう。とは言ってもだ、外は白紙化した地球だった。外に出たかったと言っても、白紙化地球になぞ、望む行き先なんて場所は何処にもない」
ショウジョが遠く見やる先にあるのは偽りの天蓋。
特異点を覆う空の先に透けて見える、白紙化地球の青空。
「だから、外に出てしまった黒幕は絶望してせめて自分の心を慰撫する場所を創ろうとした」
その視線と、これまでの話から想像してしまったのだろう。
頭にハテナマークを浮かべている呑気なファウストの隣で、マシュはそっと胸元で拳を握っていた。
何もないのだ、白紙化地球には。
愛した場所も、人も、営みも。
痕跡一つ残さず丸のまま文字通り白紙と化しているのだ。
それを見たという特異点の創造者を想い、優しいショウジョは縛り付けられるような錯覚を確かに胸に抱いた。
隣のファウストは相変わらずちんぷんかんだと言わんばかりに小首を傾げていたが。
「自分の記憶の中で一番幸せだった時間。既に忘れかけてちぐはぐになったパッチワーク。必死にかき集めた砂の城……小さな小さな、あまりにも弱々しい特異点はそうして生まれた。けれど」
そう、
ショウジョのその先に続く言葉をマシュは勿論、ファウスト以外のこの場にいる誰もが理解している。
「特異点。それは間違いなくこの世界にとって悪しき影響を与えるモノに他ならない。特異点がこの世界にあるのなんて、幾ら白紙化していようと悪影響しかないのは道理だろう?」
「はい。特異点を解消せずに放っておいた場合、人理への多大な負担となることは間違いありません。たとえそれが微小な物であっても、規模の大きさではなく
→「ハロウィン……チェイテピラミッド姫路城……梁山泊……うっ、頭が……!」
「ハロウィンですか?いいですよね!私も以前お友達と一緒に参加したことがありましたけどすごい楽しかったです♡」
「いえ、ファウストさん……その、今ファウストさんが思い浮かべている一般的なハロウィンと我々カルデアが抱える大きな問題には隔たりがありまして……」
「やめとけ、マスター。お竜さんもアレを秋以外で思い出したくない。ファウスト、お前もあんな物は知らなくていいぞ」
「なんなら、秋にも思い出したくないけどね」
「君たちもまた随分と数奇な冒険を辿っているようだね……」
言葉を飾らず言うのであればまさにドン引き、といった様子でショウジョはカルデアのどんよりと漂う空気を眺める。
何がどうしてハロウィンなんていう万聖祭の前日祭が、こんな雰囲気を醸し出すのか。
それはカルデアと御仏のみが知ることだろう。
あと、主犯の某エリザベート。
「それはとにかく。特異点を残すという選択は人理にはない。だからその成立を止め、いち早く問題を解決する為に英霊らしく派遣されたのが我らがオリジナル。つまりは脳筋担当だった」
咳払いを一つ。
じめっとしだした空気を払拭するべくか、ショウジョは敢えて陳腐なフックを作りつつ話の軌道修正を測った。
「の、脳筋ですか?」
「そう、脳筋だ。空席なのをいい事に、あろう事かいつものバーサーカーではなくセイバークラスで召喚された彼女は黒幕の考えや企み、或いは願いを全て無視して最速最短での解決を測った」
バーサーカー以外に適性はないと思ったのだけど案外いけるものでね、と続けるがサーヴァントという物は案外ころころとクラスを変える事を知っているマスター達はなんとも思わない。
そんな霊基がそう簡単に変わることも、クラス適正ごとにサーヴァントが違う霊基で召喚される事例を確認する事がそうあるわけがないということを、切実に誰か彼らに教えてあげて欲しいものである。
「その……最短最速というのは?」
「ああ、詰まるところ我らがオリジナルはこの地に訪れたその瞬間に」
そして気になるところ。
ショウジョの言った最短最速とは何を指すのか。
何となく嫌な気配を察知したマスターはこの先の言葉を聞くのがやや嫌になっていたが、止める間も話を逸らす間もなく、答えはやって来てしまった。
「
「……は?」
マシュのらしからぬ反応も宜なるかな。
「出来るか出来ないかで言えば出来る、と言える女なのだよ、残念なことに」
仕方ないのだ。
だってどう考えても特異点修復の手段として、真っ当な手法ではないのだから。
「何せ
「所謂トップサーヴァント、というやつかな」
→「アルトリアとかクー・フーリンとか」
→「イスカンダルとかカルナとか」
→「頼光さんとかジャンヌとか?」
「お、多いね……個人的にはクー・フーリンがいるのなら湖の騎士も挙げておきたいところだが、まあそれは良いとして」
トップサーヴァントという坂本龍馬からの指摘に、マスターの口からずらりと並べられふのはカルデアの錚々たる面々。
あまりの顔ぶれに引き笑いをしつつ、思わず気圧されるショウジョであったが、やはりもう一度咳払い。
「とにかくオリジナルというサーヴァントは、それこそ作りかけぐらいであれば、特異点を正面から叩き潰せるぐらいには火力のある脳筋だった」
ショウジョが言うそのオリジナルの真名が頑なに明かされぬままだということには、彼女も坂本龍馬も察したまま、話は次へと移っていく。
「とはいえ、それでも聖杯を用いて作ろうとした特異点だ。幾ら相性が良くても、流石のオリジナルも特異点の消滅には自分の霊基を使い潰すぐらいはしなくてはいけなかった」
「だろうな。お竜さんだって流石に骨が折れる」
「え!?お竜さんも出来ちゃうんですか!?」
「ふふん。こう見えてお竜さんはめちゃくちゃ強いからな」
「あー、いいかね?続けるよ?……特異点の物理的な破壊。実に考えなしな彼女らしいやり方だったが、いくら強力のサーヴァントでも霊基の出力には限界がある。逆に言えば
ファウストとお竜の駄弁りに水を刺されつつもショウジョは今度こそカルデアに伝えるべきこと。
「問題が三つ生じた」
つまりはショウジョがこの地にいた最大の理由である、本題に入った。
「一つ目。オリジナルとは別に抑止力として召喚されたサーヴァントがひと……いや一騎、特異点にいた。いたんだが……」
指を立てて意気揚々と数え始めようとした途端に、歯切れが悪くなったショウジョの顔色は悪い。
それを見てマスター達は察した。
多分、例のオリジナルとやらが何かやらかしたんだな、と。
正解である。
「……我々としても全く想定外なことに、その子が特異点破壊の衝撃で外の世界に弾き飛ばされた。残念ながら我々が気付いた時には手遅れでね、彼女は行方知らずになってしまっていたよ」
「まさか……っ!」
「そう、それが君だよ───ファウスト」
「……あ!もしかして、わ、私ですか!?」
「いや、そう言っているだろ」
お竜の淡々としたツッコミを受けつつもファウストは今日一番の驚愕を隠せないでいた。
それもそのはずだろう。
何せ自分が記憶喪失になるわ、土地の縁で特異点に召喚される筈だったのだろうと予測されたのになぜかカルデアに召喚されるわの踏んだり蹴ったり。
それらの答案が目の前から転がって来たのだから。
「と言ってもだ、まともにオリジナルと君が会話を交わすことはなかったからね。こうしてまた会って、ゆっくり話す機会があるだなんて……思ってもみなかったよ。それこそ」
だが、ショウジョはそんなファウストの反応に対して箸にも棒にも欠けないままトレンドマークの皮肉気な笑みを浮かべて告げる。
「───まるで悪い夢のようだよ」
どこまでもどこまでも、空虚な孔を瞳に浮かべるようにして。
「え……?あの、それは一体どういう……?」
「さて、時間も惜しい。話を続けよう「あれ?あの!!私について語る流れじゃ!?」二つ目の問題だ「無視!?」……んんっ、無事に黒幕ごと特異点を破壊する事に成功したオリジナルだったが、黒幕はそこまで計算していた」
だが、ショウジョはそんな話はなかったかのように時間が惜しいとさっさと二つ目の問題を口にし始める。
実際、時間がないというのは本当なのだろうとマシュや坂本龍馬はアタリをつける。
目の前で対峙して分かることだが、先ほど今いる空き家に来る前に声を掛けて来た時も、
それはつまり、それだけショウジョの霊基が不安定であり、今にも消滅しそうなほどには魔力が足りていない事を意味していた。
「誰が派遣されて、この特異点を見たその誰かがどういう行動を取るかを読んでいた。結果、黒幕の最後っ屁は無事に起動し、オリジナルが放った爆撃と誘爆し……無事、黒幕の計算を大きく上回る形で特異点と聖杯は壊れた上に、オリジナルも誘爆に巻き込まれて活動を停止した」
「つまり、敵は何かしらの策を講じて、それが上手く嵌ってしまったんだね?」
「ああ。それについては第三の問題として話すつもりだよ。兎にも角にも頭を抱えたのがオリジナルだ。まさかそこまで計算する頭が残っていただなんて思ってもみなかったようでね。それに」
ショウジョは両手を広げて特異点の方を指す。
その仕草がどこかお手上げと言わんとしてるように見えたのを、マスターは口を噤んでおく事にした。
「今こうして特異点が残ってしまっているように、片付けなくてはいけない後始末がある。だというのに動けないじゃ話は通らない。支援を呼ぼうにも人員の余裕はない。ところが霊基はほぼ全損だ。これじゃあどうしようもない……というわけでだ」
「君というアルターエゴを用立てた、か」
「そう。そしてここまで言えば分かるね?つまりだ、オリジナルは任務に失敗した時点でこう考えたのさ」
そして言葉を切ったショウジョは、今日マスター達と出会ってから何度目になるかも忘れた深い溜息を憤りと共に吐き出してから言った。
「『やっちゃったものは仕方ない!それじゃあ後始末はそのうち特異点を感知するだろうカルデアに任せちゃお☆一応管理人兼案内人を用意しとけば引き継ぎはオッケーじゃん、ね?』……とね。いや、本当に我が事ながら私の不始末を押し付けてしまってすまない……」
頭蓋骨の中身はスポンジでも詰まってるんだろうか、と遠い目をして謝る彼女に、今度こそカルデア一同は言葉を失うのであった。
1じゃんね☆
……ぜ、ぜんぜん話がすすまないよぉ……
なんか記憶のアルターエゴちゃんも当初のミステリアス路線から外れちゃった気がする……おかしい、構成段階ではこんな事になる筈では……
もっと謎の鯨ショウジョと皮肉の応酬をしつつ、カルデアをぶいぶい振り回してさくっと退場する筈だったのに……
と、とりあえず!次でやたら長くなってしまった特異点のあれこれについての話はおしまいにして!
ファウストちゃんの!(1が)待ちに待った!戦闘シーン!やるじゃんね☆
ちなみに次回は7/1の3:21じゃんね☆
その次からは多分投稿時間がちょっと変わる、予定じゃんね☆
そこら辺は次話の量次第だから頑張るじゃんね☆
また次回もよかったら読んでやってくださいな!……じゃんね☆
あ、あと3話でファウストちゃんはおしまいじゃんね☆
1も頑張るじゃんね☆
……最後に出てきたオリジナルちゃん?
それは勿論いつ通りの安価の結果……じゃんね☆