転生させる側の女神になるなんて聞いてません。   作:セパさん

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過去の亡骸など聞いていません。 

 アリオンの地に魔族が襲来して5日、魔素に充てられ昏睡していた者たちも聖素を充足させ瘴気を取り除く術式により無事に回復、一件落着。……わたしは改めてわたし自身を見つめなおす、〝襲撃〟という分かりやすい非現実的な事態に舞い上がってしまった。アムちゃん曰くこの襲撃は、わたしが作り出した勇者が余りにも強力すぎて不審に思ったケリドウェンの魔女が、復活した神族の指導者……つまりわたしの存在を訝しんで投じた釣り餌に過ぎないという。

 

 そしてそんな陳腐な釣り餌にまんまと引っ掛かりそうになったのが、わたしという訳だ。きっとわたしが出て行ったならばアリオンの地は本格的に魔族と神族の対立する激戦地となり、何ならケリドウェンの魔女なる存在とわたしの直接決着の場所となっただろう。無辜の民にどれだけの被害が出るか想像するも憚ることだ。

 

 ……そんなことは分かりきっているのだが、でも、だって、しかし、という反駁の言葉ばかりが脳裏を過る。いきなり女神様なんてよくわからない存在に転生させられ、いきなり〝導きし者〟〝主様〟なんて崇め奉られて、挙句一室に軟禁されてやることと言ったら異世界に赴く勇者へ異能力……祝福(ギフト)を与える仕事くらい。

 

 わたしは異能力を駆使して冒険がしたいんだ、決して与える神様の役割なんて望んでいない。それ故にあの場で感情の暴発があったことは反省こそするが、致し方無いものだと開き直りの感情も持っている。

 

 ああ、モヤモヤする。こういう時は……

 

「アムちゃん、森井孝臣とは違う、わたしの生前だという亡骸、聖骸と呼んでいたでしょうか、聖墓の守護者(アドヴォカトゥス・サンクティ・セプルクリ)とはアムちゃんのお父様がされていたのですか?」

 

 ……こういうちょっとしたファンタジー要素で心を慰めるくらいだ。

 

「はい、わたしの父が主様の聖骸を守護しておりました。最高位である黒の称号を冠した自慢の父に御座います。」

 

「ん?ということは聖骸というのはアリオンの地にあるのですか?わたしはまだ目にしたことが無いのですが。」

 

「いいえ、離散(ディアスポラ)を余儀なくされた我々神族が初めに降り立った地、ダッティムに聖骸は安置されております。聖墓の守護者(アドヴォカトゥス・サンクティ・セプルクリ)の役割は今、他の同志が継ぎ、わたくしは母の生まれであるアリオンの地で、聖地奪還のため魔素を回収する大役を仰せつかりました。」

 

「そうですか、お父様とお母さまの写真があれば見てもよろしいでしょうか。」

 

「はい、ここに。」

 

 アムちゃんがローブからペンダントを取り出して開くと、ビジョンとして二人の人物が映し出された。えっと……どっちがアムちゃん?アムちゃんはまだ35歳で、神族を人間換算するならば3,4歳だからこんな見た目をしているのかと思ったけれど、アムちゃんのお父さんも赤毛をボブに揃えたロリロリしい見た目で、お母さんはなんというか……、流れるような銀髪と豊満な身体を持って整った容姿をした長身の美女だ。お母さんの要素どこいった?

 

「素敵なご両親ですね。」

 

「ありがとうございます。偉大なる父母に笑われないよう努めを全うする次第にございます。」

 

「大変良い心構えです。……そういえば勇者ダニエルの様子はどうですか?」

 

「未だ街の情報収集に勤しんでおり、目立った不穏要素はございません。ただ不自然なのは転移時に渡した金を使わず、街の飲食店の残飯を漁る浮浪者のような生活を送っております。貨幣制度に慣れていないのか、有限であるため温存しているのか分かりかねますが……。」

 

 この世界は魔物や魔族を倒したところでゴールドを落とすようなゲームじみた仕様になっていない。如何に祝福(ギフト)を受け取った勇者とはいえ、こちらが渡した金を失えば、異界に順応するため日銭を稼ぐというなら労働をしなくてはならない。そりゃわたしが与えた〝運命を操る能力〟だの〝願いが叶う能力〟だのデタラメな力を得たならば金には一切苦労しないだろうが。

 

「そうですか、しかし彼女には〝目に写したあらゆる情報を分析できる能力〟があるのです。貨幣制度について理解し、効率的に金を得る手段も見つけるでしょう。」

 

「そうですね……。やはり懸念を申しあげるならば〝何故彼女が乞食のような真似をしているか〟でしょうか。彼女の能力ならば主様の仰るように貨幣制度や金の稼ぎ方を熟知していてもおかしくありません。何か目立たず隠密に暮らさなければならない理由が出来たのか……。勿論推測の域を出ませんが。」

 

 どうだろう。神の身許へ往くために再び戦いを挑んだなんて電波じみた話をしてきた彼女だ、そこにはわたしが及ばない清廉な理由があるのではないだろうか?もちろんこれも推測であり、結局わからないという結論に帰結するのだが。

 

「勇者ダニエルについては引き続き要観察で、何かあれば報告をしてください。」

 

「かしこまりました。仰せのままに。」

 

 【反逆の勇者】か……、かなり厨二心を擽られるワードだ。まぁ今のところ裏切りが確定事項という訳ではないし、魔族の仲間となったならば奪還は容易ではないだろう。わたしは祝福(ギフト)を取り上げるくらいならできるが、実際仕事をするのはこちらから送り込む討伐隊か、先にカリフへ送り込まれた全く仕事をしない勇者だろう。

 

「勇者で言えばフルキの調子はどうですか。〝願いが叶う能力〟……その弱点は、自分が〝可能だ〟と思った範囲にしか適応されないということでしたが、正常に力は発揮できていますか。」

 

「はい、既に魔族に支配されていた要塞都市を陥落させております。囚われていた精霊族と亜人を仲間に入れて、第二の都市へ出発しております。」

 

 どうせその精霊族とやらも亜人も可愛い女の子なんだろうな!聞かなくてもわかる。精神的に強靭かは置いておいて、妄想力は豊かそうだったから、さぞ楽しい日々を送っているのだろうよ。ああ、妬ましい。

 

「そうですか、しかし慎重に冒険を進めておりますね。アムちゃんとしては【熱力学第二法則を無視する】だの【65536(カンスト)のダメージを与える】だの2,3日で世界を制圧できる能力の方がありがたいですか?」

 

「いいえ、主様の与える祝福(ギフト)を疑うなどあってはならないことです。何より魔族に支配されていた土地を神族の作り出した〝勇者〟が蹂躙する様は魂が清められるかの思いです。」

 

 そんなことにカタルシスを覚えられるアムちゃんに羨望を覚える。魔族がどうなろうと究極言ってしまえば〝どうでもいい〟の一言に尽きる。いや、命が失われているのだから深刻に受け止めるべきなのだろうが、それこそわたしには、遠い異世界の出来事としてしか受け止めることが出来ないのだ。何だか女神になってから自分が本当に人の心を無くしたかのように思えて恐ろしい。

 

「ならばいいのです。かく言うわたしもどのような祝福(ギフト)を与えられるのか選ぶ手段を持たないので、詮もないことを聞きましたね。」

 

 そんなアムちゃんとの雑談をしていると魔法陣が光り始めた。わたしの唯一の仕事の始まりだ。名前は岩城和宏、21歳男性、死因は転落死……不慮の事故で死んだ人間が来る割合が高いのは何故なのだろう?

 

「ようこそ!選ばれし勇者よ!」

 

 わたしは彼に悪しき魔女を倒すべく選ばれた勇者であり、異界に赴いて欲しい旨をいつも通り伝える。

 

「では勇者イワキよ!貴方へ与える祝福(ギフト)は……【媒概念不周延の虚偽を真実へ変える能力】です!」

 

「「……。」」

 

 はい、アムちゃん。出番です!

 

「ええっと……貴殿は〝過去の偉人は読書家である、そしてわたしは読書家だ、つまりわたしは偉人である〟と話してくる人間がいたとしてどう思う?」

 

「正直いって馬鹿じゃないかと。友達にはなりたくないですね。」

 

「そう、過去偉人が読書家であったのは知識を得るための手段であり、〝賢くなるための媒体〟だ、これを媒概念という。そして偉人に読書家が多かっただろうが、読書家だから偉人であるとは限らない。この論理の飛躍を不周延という。……貴殿の能力はこの論理の飛躍を実現にしてしまうものとなる。例えば〝伝説の勇者は〇〇という技を使い魔王を打ち倒した〟と伝承される剣技を模倣してみれば自分の力として取り込めるし、他に言い伝えでも何でも簡単に自分のものとして扱うことができる。強力なコピー能力とも言えよう。」

 

「はぁ……。上手く扱えるか自信はないですが……。」

 

「まぁ論より証拠。一つくらい覚えてから異界に赴いていいだろう。<神炎(エリウル)>!」

 

 アムちゃんが手をかざし詠唱すると、神殿内は蒼い炎に包まれた。

 

「さぁ今わたしは手をかざし〝えりうる〟と叫ぶことで魔法を使った。貴殿も試してみるといい。」

 

「ええっと……えりうる!」

 

 その一言で再び神殿内を蒼い炎が覆う。勇者イワキはポカンとしている様子だ。

 

「まぁこのように相手の動作や言葉遣いだけでその能力を手に出来る。因みに<神炎(エリウル)>は魔族の魔素を焼き尽くす高等魔法であり、今後の旅で役に立つだろう。」

 

「では勇者イワキよ、その能力を以って悪しき魔女の眷属と魔族を打ち倒すのです。」

 

 そうして勇者は淡い光となって異界に飛び立った。

 

 

 ●

 

 

 褐色の肌をもつ容姿端麗とした女性はホンノリした紅い頬に、何かしらニコニコと微笑を含みながら一冊の本を読んでいた。その眼眸と瞳の光りの清らかさは、深窓に育った姫君のように静かに澄み切って見える。

 

「ケリドウェン様、失礼します。」

 

 しかしノックの音を聞いて急いで本を座る玉座の後ろに隠し、その双眸は鋭いものに変わる。

 

「〝Q〟の居場所は突き止められたか?」

 

「いいえ、ヘルム族の支配する地域へ調査兵を出しましたが、見つけること叶わず。同志たちはヘルム族によってマナとなり消滅しました。」

 

「そうか、やはりダッティムにいる線が濃厚か?」

 

「その可能性が高いかと。2000年前ケリドウェン様がその手で討ち取った〝Q〟の死骸が祀られる地。強い結界が張られており、こちらからは干渉が出来ません。」

 

「犠牲となった同志たちは丁寧に供養するように、マナは忌まわしきヘルム族に回収され、転生もできぬのだ。」

 

「かしこまりました。そのように。」

 

 家臣が去った部屋でケリドウェンは胡乱なため息を吐く。玉座の手すりに頭を預け、足をぶらぶらと宙に遊ばせている。

 

「もう、〝Q〟って誰?ヘルム族って何?……このままずっとご本読んでたい。でもわたしも魔法が使えるんだよね!ワクワクする!」

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