「主様、魔軍の襲来によるカリフの被害ですが武器工場のひとつが破壊されただけであり、あれほど電撃的な襲撃があったと考えれば被害は軽微といえましょう。反逆者ダニエラですが、案の定こちらの尋問には一切口を割りません。口を開いたかと思えば〝殺せ〟というばかりで一向に埒が明かない状態です。牢獄へ監禁し、自殺を防止するため、拘束着を着せ24時間の監視をつけております。」
オークなら〝グヘヘ〟となるようなシチュエーションだな……なんて下らないことを考えつつアムちゃんからの報告を受ける。ダニエラは遠視の鏡にて一挙手一投足を監視されていた。どのような経緯から【反逆】を決意したのかも気になるところだが、一番の謎は〝どのように魔族側とコンタクトをとったのか〟だ。
ダニエラの
「そうですか、食事はとっておりますか?」
「いいえ、一切口に致しません。仕方が無いので鼻腔から胃にかけて管を入れ、直接流動食と水を流し込んでおります。」
何それグロい。もっと魔法的な力で何とかならなかったのか。わたしが直接ダニエラと話が出来ればいいのだが、異界から異界への移動は一生に一度まで……そういえばその理屈もよくわからないな。一度ワープホールを作ってしまえば往復くらいなら出来そうなものだが。
「アムちゃん、今更の質問ですが、何故異界に赴けるのは一度きりなのでしょうか?往復などは出来ないのですか?」
「はい、我々神族に〝異界に赴く〟という能力を与えて下さったのは他ならぬ主様だからです。2000年前のオリハルオンにて魔族に支配者の地位を追われ、成す術なく殺戮される運命にあった我々神族に主様が〝異界に赴く能力〟そして〝オリハルオンへ降り立つ能力〟を下賜してくださいました。そして祖先たちは各地の異界に降り立ち、再び聖地奪還のため戦うことを許され、我々神族たちはその御力を綿々と受け継いでおり……それが
なるほど、元々神族の持つ能力という訳ではないのか。〝主様〟なんて讃えられるくらいなのだから、異世界を何時でも何処でも行き来できる能力くらい渡せなかったのかね。随分とキツイ縛りを与えたものだ。しかしオリハルオンへの行き来はフリーパスなのだな。しかし聞かなければわたしだってそんな能力あるなんて知らないぞ。
ゲームシステムみたいに【オリハルオンの地へ降り立ちますか?】 【 はい →いいえ 】 みたいな選択肢が脳裏に浮かんでくるわけでもない。もしわたしを異世界に降り立たせた神様がいるとするならば随分不親切な仕様にしてくれたものだ。
まぁわたし自身を神様だなんて崇められる存在に仕立て上げ、こんな無味乾燥とした異世界生活を送らせている時点で、その神様というのは無慈悲でドSな存在に違いない。
横を見るとアムちゃんがわたしが考え事をしていることを察し、邪魔をしまいと真面目な表情で佇立している。安心しろアムちゃん、大体はどうでもいいことしか考えていないし、神族の行方を左右するような重大案件なら君に丸投げする覚悟が出来ている。
「失礼、考え事をしておりました。話を戻しまして、反逆者ダニエラの処遇ですが、彼女は一種の狂信者であり口を開くとは思えません。確かにこのままでは埒が明かないでしょう。カリフの街を襲った魔族側の視点からも調査を進め、真相の解明をしてください。」
「かしこまりました。次いでご報告いたしますが、カリフの街を守護した勇者ナカムラですが、その功績を称えて
そりゃ金もあってハーレムも出来上がっているのだから、貴族の位なんて窮屈でしかないだろうよ。ナカムラのしたことは身に降りかかる火の粉を振り払ったに過ぎない。……勇者的行動ねぇ、わたしが〝こちらのいう事を聞かないと
アムちゃんのことだからわたしにその能力があると知ったなら、役に立たない勇者の
「そうですか、勇者ナカムラなりに思うところがあるのでしょう。反逆者ダニエラをカリフに置いている以上、奪還を目的として魔族の襲来があるかもしれません。そのときの防衛機能としてそのまま置いておきましょう。」
「はい、主様の仰せのままに。……それにしても先に見た勇者ナカムラの
そりゃ天変地異を引き起こし挙句隕石まで操る〝運命を操る能力〟を博打の大勝とハーレム作りに利用していれば、後者の方が魅力的と思う人間もいるだろうよ。わたしならそんな能力を身に着ければどちらも楽しみたいものだが、ナカムラという人物は冒険に心底興味が無いらしい。召喚の儀式に現れた人間としては確かに変わっているといえば変わっているか。
「主様、召喚の儀式の時間に御座います。」
「ああ、今回は早いですね。もうそんな時間ですか。」
召喚陣から現れたのはまだ年若い男性。名前は渡辺啓斗、年齢は17歳、死因はイジメを苦にした自殺……おいおい、重い過去を持った人間が来たな。
「ようこそ勇者ワタナベケイト!わたしはあなたに
この召喚陣に現れた人間は大体2種類に分かれる。異世界転生を知識としてもち、理解しているか、していないかだ。――――ダニエラのように煉獄と勘違いし神のため戦う第二の人生を与えられたとダイナミック解釈をする例外もいるが。
どうやらケイト君は前者であるらしく、最初こそ驚いていたが、異世界における未知の冒険に思いを馳せ、目を輝かせている。わたしは形式として悪しき魔女がおり、その眷属たる魔族を討伐して欲しいといういつもの説明を終え、内なる力を顕現させる。
「それでは勇者ケイト、貴方へ与える
……いつだかの65536のダメージ与える剣に続き、随分と分かりやすい、それでいてアムちゃんの方が混乱する能力が出てきた。
「貴君に与えられた能力は……その……レベルとは何を指すのだ?筋力?聖素?俊敏性?そして9999が示すのは……199番目の回文数であり……。」
案の定アムちゃんはその能力を把握しきれていない。まぁこの世界にはレベルという分かりやすい概念がないので、正直わたしもレベル9999がどれほどのものかはわからない。だが今まで与えてきた
「さぁ勇者ケイトよ、その
このままアムちゃんの理解を待っていても埒が明かないと判断したわたしは勇者を異界に送り飛ばした。
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「ケリドウェン様、同志ダニエラを同行させた都市爆撃作戦ですが、カリフの地に潜伏していた別の〝勇者〟により同志たちの軍は壊滅、同志ダニエラはヘルム族に捕らえられ、都市爆撃作戦に従軍していた同志はヘルム族によってマナとなり消滅いたしました。」
「事前に異能力者を潜伏させていたとは狡猾な……。わかった、同志ダニエラを奪還したいところだが、軽率に動けばヘルム族の思う壺だろう。」
「この度の失敗の責任は全てわたくしに御座います!何卒この首ひとつでご容赦ください!」
「馬鹿を言うな!癪なことだが、ヘルム族の方が一歩上手だっただけだ。それに責任とは上に立つ者の役目、つまりはわたしにある。貴殿はその能力をヘルム族殲滅のため使ってくれればいい。」
「ありがたきお言葉、幸甚の至りにございます。」
「わかったならばそれでいい。……少し一人にしてくれ。」
家臣の去ったケリドウェンの住まう絢爛豪華な一室。ケリドウェンと呼ばれた褐色の肌と豊満な身体を持つ美女は、その鋭く輝いた双眸を、丸々と優しい深窓の令嬢といった清らかな眼眸に変える。
「ふぅ、ケリドウェン様のお記憶があるとはいえ、えらい人のふりって本当に疲れてしまいます。ダニエラ様には悪いことをしてしまいました。だって1700前に亡くなったはずの方がまた蘇るんですもの。ビックリいたしましたわ。ヘルム族の〝主様〟とは余程デタラメな御力をお持ちのようですね。わたくしが勝てるのでしょうか?」