転生させる側の女神になるなんて聞いてません。   作:セパさん

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魔族側の正義なんて聞いていません。

「アムちゃん、勇者ケイトの様子はどうですか?」

 

「はい、どうやら〝れべる〟というのは攻撃・防御・俊敏性といった身体能力、魔術を扱う上での内に秘めたる聖素、また【運】という不確定要素も含めた総合的な能力値を指していたようで、魔族の討伐において八面六臂の活躍をしております。ただ懸念されるのが麻痺・混乱・道惑いといった搦め手の魔術には耐性がなく、今は能力のデタラメさから何とかなっていますが、対策を練られれば苦汁を舐めることになりかねないかと。」

 

 【Lv9999】とかいう頭の悪い祝福(ギフト)だからなぁ。まぁ力こそパワーの精神で乗り切れそうではあるけれど、状態異常対策ねぇ。仲間に補助魔導士でもいれば心強いな。

 

「そうですか、今のところ彼は一人で冒険を?」

 

「いえ、勇者ケイトは冒険者ギルドに登録した冒険者として活動しており、第三王女の護衛任務を行った際襲撃してきた野盗を撃退。その姿に感銘を受けた第三王女が<回復魔法士(ヒーラー)>として旅に同行しております。」

 

 何故異世界の野盗とは世紀末覇王伝並みに相手の力を見極めず襲い掛かってくるのやら。そして王族のフットワークの軽さは何なんだ。(まつりごと)をしろよ。……まぁ勇者ケイトに仲間が出来たというのは素直に喜ばしいことだ。何しろ死因が死因だし、彼には幸せな異世界生活を送ってほしい。

 

「わかりました。今後も観察を継続してください。」

 

「かしこまりました。次に反逆者ダニエラですが、本人は相変わらず黙秘を貫いております。しかし遠視の鏡で見た彼女の形跡を辿っておりますと、巧妙にカモフラージュはされておりますが2日目の夜よりカリフにおける首都機能・武器工場・インフラを目視するような動きをしており、このことから魔族と接触を持ったのは彼女がカリフに降り立って2日目であるかと推測されます。ただしその方法がわからず、通信の魔石と言った媒体はおろか、通信魔法が使われた形跡すら御座いません。」

 

 やはり魔族側から接触があったのか。それにしても何故彼女を反逆者に選んだ?わたしが与えてきた祝福(ギフト)の持ち主ならば魔族に寝返れば神族を1日で殲滅できるような猛者が集まっているというのに。まぁ確かにダニエルの持つ【目に写したあらゆる情報を分析できる能力】があれば都市の弱点をついて痛手を被らせることもできるだろうし、実際その能力を基にして都市爆撃作戦なんてことをやってきたわけだが。

 

「そうですか、アムちゃんならば〝異界の異能力者に一切の痕跡を残すことなく通信で洗脳を試みる〟ということはできそうですか?また、そのような通信に特化したプロフェッショナルの女神はこの組織におりますか?」

 

「力不足を露呈させるようで誠に申し訳ございませんが、わたくしでは不可能にございます。そして他の同志でも主様の申し上げた技術を要する者はいないでしょう。」

 

「では少なくともアムちゃん以上の実力者ですか、そんなものが敵にいると思うとゾッとする話ですね。」

 

「はい、これはあくまで推測に過ぎませんが、ケリドウェンの魔女が関係したのではないかと。」

 

「魔族の大将が直々にですか。」

 

「ケリドウェンの魔女はどのような邪術かわかりませんが、その能力と記憶を8代に渡って継承している存在です。我々が口伝でしか継承できない歴史も、奴からすれば〝過去の記憶〟でしょう。もし本当にダニエラ・バルカが1700年前神族に【反逆】をしたと伝わる少女と同一人物であったならば、一度滅んだ人間が再び蘇ったこととなります。そして我々が創り出した〝勇者〟は魔族にとって戦況を大きく変える存在。その情報収集を怠るとは思えません。」

 

 なるほど、聖地奪還を夢見る原初の神族が既に命終したいま、過去2000年の記憶を持つのはケリドウェンの魔女だけとなるのか。そりゃ1700年前に亡くなったはずの【反逆者】がいきなり現代に蘇ったら向こうさんもビックリするわな。

 

「ではケリドウェンの魔女が直々に反逆者ダニエラへメッセージを送っていたと考えるのが一番辻褄が合いますね。彼女の力はわたしでも底が知れません。」

 

 というか会ったこともないし、どんな人物かわたしの軽い脳みそでは想像もつきません。

 

「主様の仰るように、その可能性が一番高いかと。ダニエラという前例が出来た以上、他の〝勇者〟にも反逆や洗脳の兆しがないか要観察をする次第にございます。(もっと)も……主様の下賜された祝福(ギフト)を持った勇者が反逆などすれば、我々は驚き滅び去る運命以外道は見えませんが。」

 

 アムちゃんの声色は深刻なものであったが、わたしは楽観視している。いざとなれば祝福(ギフト)を回収してやればいいだけだからだ。そういえばダニエラにもう祝福(ギフト)は不要だな。一度練習がてら回収してみよう。そう考えわたしは内なる聖素を顕現させた。……その瞬間、わたしを激しい頭痛が襲った。

 

「主様!如何なさいましたか!?」

 

――――2000年前、最大にして最上の美を誇った天空都市オリハルオン。しかしその煌びやかな外観も建築物も、腐敗の種を隠すことはできなかった。オリハルオンを支配していた【神族】は、自らの権力を思うがままに謳歌していた。奴隷労働に依存した不健全な経済。広がる一方の貧富の差。荘厳な広場を一歩出ればゴミゴミとした貧民街が広がっていた。貧困からの脱却は困難であり、職は少なく、技術のないものには事実上皆無。失業者を暴動に走らせないため、公費による公開劇が多く取り扱われた。最初は馬のレースと言った穏やかなものだった。

 

 だが、オリハルオンの頂点に立つ皇女エリーゼ=オリハルオンが即位してから、剣闘奴隷による死を掛けた闘いが人気を博す惨状。また、オリハルオンは為政者の決定に選挙制度を導入していたが、エリーゼの時代に全権力が彼女へ集約され、エリーゼは法を超えた独裁者となった。エリーゼの種族は自らを【神族】と称し、あらゆる(まつりごと)の頂点に君臨し、全ての種族を権力と力で従属させた。

 

 そんな暴政に一人の女性が立ち上がる。当時最高の魔導士として名を馳せていたヴィニフレート=ケリドウェンであり、人々は彼女に鼓舞され剣を持ち、【神族】を謀るヘルム族と戦い、遂にはエリーゼ=オリハルオンを討ち取ることに成功。指導者を失ったヘルム族はオリハルオンの地から離散し、平和の戻ったオリハルオンはケリドウェンが統治をすることで各種族が平等に暮らす安寧の土地となった。

 

 しかし権力からの追放を座視しているヘルム族ではない。彼らは2000年もの間、〝聖地奪還〟をスローガンに掲げ〝勇者〟と称した〝殺戮者〟を各異世界に送り込み、ケリドウェンの種族であるラウバル族を虐殺、その身体の構成要素の大半がマナであるラウバル族は本来死後マナとなり輪廻転生を繰り返すのだが、悍ましいことにヘルム族はマナを強奪するという真似にでた。

 

 当然マナを回収されたラウバル族はその力を衰退させていく。このままでは待ち受けるのはヘルム族によるオリハルオン統治の再来であり、約束された暴政である。暴政からの解放を宣言したケリドウェンはヘルム族の支配を阻止するため、今日もまた思案する。それは恒久的な平和を約束するために――――

 

 これは……ダニエラの記憶?わたしは情報過多で頭がいっぱいになってしまい、未だ収まらない頭痛と合わさり、玉座から崩れ落ちそうになる。

 

「主様!どうされたのですか!?」

 

「いえ、アムちゃん。お見苦しい姿をみせました。もう大丈夫です。」

 

 エリーゼ=オリハルオン……これがアムちゃんたちのいう〝主様〟であり、わたしの森井孝臣とは異なる前世?ダメだ、これだけ情報が与えられたというのに全然記憶にない。ダニエラはこの情報をケリドウェンから受け取って反逆したのか?……生前は神のため暴政を強いるローマ軍と戦っていたなんて言っていた彼女だ、ありえる。しかしこれが〝魔族側の正義〟か。なるほど、こんな教育をされたら神族討つべしとなっても仕方がない。

 

 それにしてもケリドウェンさんとは殺し合いにならない方法で一度会ってみたいものだ。本当にわたしが〝主様〟……もといエリーゼ=オリハルオンの生まれ変わりなのか。神族が働いていた暴政とは真実なのか。そして何より……わたしが女神に転生した理由さえ、2000年の時を生きる唯一の証言者ならば答えてくれる気がする。

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