転生させる側の女神になるなんて聞いてません。   作:セパさん

15 / 16
そんな改心聞いていません。

「……主様、その、どうされるのでしょう?そんなにわたしをジッと見つめて。」

 

「いいえ、なんでもありません。ちょっとした気まぐれです。」

 

「いえ!主様のお役に立つのでしたらこの身この魂全てを捧げる次第にございます!ご思案の邪魔をしてしまい申し訳ございません。」

 

 反逆者ダニエラから回収した祝福(ギフト)……その過程でわたしはダニエラの〝記憶〟を見た。それは2000年前神族はオリハルオンの地で暴政を働いており、ケリドウェンの魔女と呼ばれている存在が反逆の旗手となって平和を取り戻したという物語。ダニエラには【目に写したあらゆる情報を分析できる能力】があった。そう考えるとわたしの頭に流れ込んだ情報は信ぴょう性が高い。

 

 しかし、ダニエラは直接オリハルオンの地に足を踏み入れたわけではない。それに神族と魔族……ダニエラの情報でいうところのヘルム族とラウバル族をカリフでその目に写しているだろうが、2000年もの歴史を全て把握するほど強力な分析能力だろうか?……まぁ今までわたしが与えてきた祝福(ギフト)のデタラメさを考えれば有り得ない話ではないが、【反逆】の罪に関しては間違いなくケリドウェンの魔女が一枚嚙んでいる。全てを鵜呑みにするのは早計だろう。

 

 そしてわたしがアムちゃんを凝視していた理由だが、回収した記憶があるのだから回収した祝福(ギフト)を自分のものに出来ないのだろうかとテストをしていた。しかし誠に残念ながら与えた祝福(ギフト)は聖素となって還元されたらしい。……もし与えた祝福(ギフト)を回収して自分のものに出来るならば、わたしも【Lv9999】になって【熱力学第二法則を無視】して通常の100倍以上の雷を放って、【運命を操る能力】で天変地異を起こし、【65536のダメージを与える剣】で敵を鎧袖一触に伏し、【願いが叶う能力】で聖地オリハルオンを奪還してやりたかったのに。

 

 はぁ……妄想に耽る日々は当分続きそうだ。いや、いいんだけどね。前世から慣れてるし、これじゃあ転生した意味が無いじゃないかという理不尽にも慣れたし……

 

「ところでアムちゃん、ラウバル族について詳細を聞きたいのですが、何か知っていますか?」

 

「ラウバル族……ですか?大変申し訳ございません、わたくしは寡聞にして存じ上げません。」

 

「そうですか、ではこの組織で最も長く生きている者でしたらどうでしょう?」

 

「少々お待ちください。……ラヴァーズ、わたしだ。ラウバル族という種族を知っているか?主様が知識を望まれている。……そうか、最優先調査事項として候補にあげておいてくれ。主様、申し訳ございません、800年の時を生きる最年長者に尋ねましたが、やはり知識にはないとのことです。我々の無力を御赦しください。」

 

「いいえ、知らないのならばいいのです。ただ調査はしてみてください。」

 

「かしこまりました。ちなみに主様はラウバル族なる種族をどこで耳にされたのですか?もしその深淵なるお考えの一端でも拝聴できれば幸甚の至りにございます。」

 

 さて、どう誤魔化したものか……。ダニエラの祝福(ギフト)を回収したらついでに記憶まで付いてきたなんて本当のこと言う訳にもいかないし、ダニエラの記憶をアムちゃんに話したところで〝魔族が神族を貶めるためでっち上げた大嘘だ〟と激高するのは火を見るよりも明らかだ。

 

「ご存じのようにわたしは2000年前に生きた主様……アムちゃんたちのご先祖様を率いていた本当の〝導きし者〟の記憶がありません。しかしあるときにふっと〝ラウバル族〟という単語が曖昧ながらも脳裏に過ったのです。」

 

「おお!それは主様がご記憶を回復なされる兆しかもしれません!大変喜ばしいことです。」

 

「どうでしょう。何しろ名前さえ思い出せないのですから、道のりは遠いものですね。」

 

「いえ、ご記憶が戻らなかったとしても主様の高潔さは何物にも代えがたいものです。」

 

 ……少し鎌をかけたが、エリーゼ=オリハルオン、2000年前君臨していたという〝主様〟の名前についても知らないか。魔族側には伝承されていて、神族はその歴史を知らない?しかしアムちゃんは〝後世に名前を残さないことは最大の侮辱〟と言っていたじゃないか。主様の尊き名など、教科書の1ページ目に記されていてもおかしくない。後世に名前を残せないような特別な事情でもあったのか?

 

 魔族側が知っているのはケリドウェンの魔女が2000年の記憶を持っているからだろう。……ダメだ、〝アムちゃんたちが知らない理由〟なんて、アムちゃんたちよりIQが低いわたしに解き明かせるわけがない。少しずつ記憶が戻ったふりをしてアムちゃんたちに探りを入れてみるか。

 

「アムちゃんすみませんね、少し考え事に耽ってしまいました。」

 

「いえ、主様のご高察に水を差すなど不敬の極みにございます。」

 

「過大評価しすぎですよ、他愛もない考え事です。……送り込んだ他の勇者に【反逆】の兆しはありませんか?」

 

「今のところ問題はありません。勇者キムラ・ホシユキ、勇者サイトウ・マドカは爵位を賜り、こちらが送り込んだ同志の助言に沿って順調に領地の経営を拡大させております。フルキは既に精霊族・亜人族・竜族・霊族・鬼族・エルフ族・人魚族・吸精族の8名を仲間に連れて魔族の討伐に大きな活躍をみせております。イワキはコピー能力をうまく活用できており、わたしが教えた<神炎(ウリエル)>以外にも伝承の潰えた勇者や大賢者の技を習得し、活躍しております。勇者ケイトですが、懸念されていた麻痺や混乱などの搦め手の魔法に弱いという点ですが、補助魔導士を仲間に引き入れることで解消されたといえるでしょう。……勇者ナカムラは相変わらずクズです。」

 

「そうですか……因みに勇者フルキが仲間にしているという鬼族と吸精族というのは魔族とは違うのですか?あと吸精族というのはサキュバスという認識であっているでしょうか?それと人魚はどうやって旅に同行を?」

 

「はい、吸精種というのはサキュバス・インキュバスとも呼ばれる種族ですね。魔素の大半を己の糧とする魔族とは別種族です。また鬼族も見た目こそ魔族に似ていますが、力が強く魔法は扱えない別種族です。人魚族は能力の高い者だと、その尾鰭を足にする秘術が使えます、恐らくはその秘術で足を作り同行しているのかと。」

 

「全員女の子ですか?」

 

「そうですね、全員女性です。年も若く、誰も成人に至っておりません。」

 

「(ふざけんな糞が妬ましいマジぶっ殺すぞむしろ死ね羨ましい祝福(ギフト)を回収してやろうかボケが)そうですか、他の勇者たちに反逆の兆しがないのでしたら何よりです。領地運営に際してですが、平和的な統治はできておりますか?」

 

「未だ魔族との争いにおける爪痕が強く残っており、完全に平和とは言えませんが、民たちに被害はなく、比較的安定して暮らせていると言えるでしょう。」

 

 そういえばこのアリオンの地も神族が統治しているという。しかしこの目で見たが民は平和に暮らし交易も盛ん、奴隷がいるという話も聞いたことが無い。オリハルオンの地で暴政を行っていたというダニエラの記憶は何なんだ?離散(ディアスポラ)を経て改心でもしたのか?権力は必ず腐敗するとはよく言うが、オリハルオンの地では権力を謳歌しすぎて調子に乗ってしまったのかな。

 

「主様、召喚の儀式の時間です。」

 

「ああ、そんな時間ですか。では行きましょう。」

 

 召喚門に現れたのは幼さの残る少女。坂木愛須(あいす) 13歳 死因:交通事故 ええっ……こんな子を勇者として送り込むの?流石に罪悪感が沸くんだが。ていうか魔族と戦える?とはいえ仕方がない。キョロキョロとおっかなびっくりしている愛須ちゃんに目線を合わせ話しかける。

 

「ようこそお越しくださいました。勇者さま。」

 

「勇者?」

 

 勇者というより魔法少女って感じだ。兎に角愛須ちゃんに魔族という悪い存在がいて、それらを倒してほしいことを伝えた。愛須ちゃんは異世界転生というものをよく理解していないようだが、思春期の少女らしい好奇心の旺盛さで目を輝かせて聞いていた。なるほど、召喚門から出てくるだけあって素質はあるのか。

 

「では異界へ赴く愛須さんに祝福(ギフト)を渡します。あなたの祝福(ギフト)は……【非物体的言語世界を創造し対象を現実から隔絶させ引き入れる能力】です!」

 

 はい、毎度のことながら訳がわかりません。

 

「ええっと……貴女はルイス・キャロル著:【アリスは不思議の国で】を読んだことがあるか?」

 

 疑問符を浮かべている愛須ちゃんに私が補足する。

 

「不思議の国のアリスのことです。」

 

「はい、それならあります。」

 

「主人公アリスが導かれたのはそれこそ不思議の国……この世の物理法則や精神的道徳を超越した狂人の世界だ。ビスケットを食べれば身体が大きくなったり小さくなったりし、時計がバラバラになれば時が止まる。これを非物体的言語世界と定義する。貴女に与えられた祝福(ギフト)はそんな〝自分が綴り織りなす〟世界を創り出し、相手をその世界へ誘導する能力だ。」

 

 わお!なんて祝福(ギフト)だい。仮想世界の女王様として君臨するか、魔法少女には過ぎた力だな。どちらかというと敵側の能力みたい。

 

「ごめんなさい……わたし頭がよくなくて……。結局どういうことなのですか?」

 

「アリスの導かれた世界に似た空間を貴女は創り出すことができる。そして非物体的言語世界……語弊を招くが仮想世界と言い換えよう。その仮想世界で神にも等しい能力を持つということだ。」

 

「わたしが神様?」

 

 そうだよね、いきなり神様なんて言われればビックリするよね、身を以て知っているよ。

 

「やってみたいです!頑張って悪い人を倒します!」

 

 何この切り替えの早さと判断力。最近の子怖い。

 

「それは何より。主様、ちょっとよろしいでしょうか?」

 

「どうされました?」

 

(正直言いましょう。この能力は危険すぎます。能力だけを見ればオリハルオンの奪還さえ可能でしょう。しかし聖地をワンダーランドにされても困ります。そして我々神族を総動員しても彼女の祝福(ギフト)を止める術をもちません。)

 

(何か弱点はないのですか?)

 

(非物体的言語世界に入らない限り能力の影響を受けない以外見当たりません。勇者フルキの〝願いを叶える能力〟の上位交換と言っても過言ではないでしょう。フルキの能力は〝自分が可能と思った願いしか叶わない〟〝物理法則を無視して願いを叶えることが出来ない。〟という弱点がありましたが、彼女が非物体的言語世界で願った全ては(すべか)らく実現します。何しろすべてが夢と幻の世界なのですから。そして非物体的言語世界が拡大していき世界を覆ったならば、彼女は正しく神となれるでしょう。)

 

(夢と幻で世界を覆ってしまったなら、そちらが現実になるということですか。寿命で死ぬのを待つとかは?)

 

(それも難しいでしょう。〝時よ止まれ〟〝不老不死になれ〟と願われればそれで終わりです。そして〝死にたくない〟と願ったなら誰も彼女を殺すことは出来ません。あえて弱点を申し上げるならば彼女が望んだ非物体的言語世界よりも魅力的な世界を創り出し、彼女を非物体的言語世界から引きずり出すことです。)

 

(それは……かなり難しいですね。以前来た勇者候補のようになかったことにして冥府へ帰しますか?)

 

(既に彼女はやる気になっております。説得に時間がかかるでしょう。その間に祝福(ギフト)を発動されればアリオンの地も、そして主様の身の安全も保障できません。)

 

(では異界に旅立ってもらいましょう。アムちゃん、なるべく同志が少なく魔族の多い異界は?)

 

(ダルフという魔族の支配する異界があります。同志も観測要因程度しかおりません。……申し訳ないですが、観測をしている同志には巻き込まれてもらうしかないかと。)

 

(わかりました。そこに送りますよ。)

 

「お待たせしました、勇者アイス。それではその祝福(ギフト)を使い悪しき魔女の眷属たちを討ち取るのです!」

 

「はい!がんばります!」

 

 愛須ちゃんは小さくガッツポーズをしてダルフの異界に消えていった。それにしても……自分の願いが全て思いどおりになるタイプの神様か、わたしもその立場になりたかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。