転生させる側の女神になるなんて聞いてません。   作:セパさん

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そんな抵抗勢力聞いていません。

 ダルフの制圧だが、それはもうあっという間だった。過去最短で魔族を討伐したのは木村星之の2日だったが、愛須ちゃんは1日で世界を仮想世界で覆いつくし、ダルフに住まう全ての生物を夢と幻のワンダーランドに(いざな)った。喋る魚は空を飛び、木々や花々は歌い、ミスリルの剣はプルプルのグミに、黒光りする大砲はオモチャの弾を放つ遊具と成り果てた。

 

 豊穣の女神イズンの御力によって樹々は育み、神樹イグドラシルを拠点としている勇者アイス。彼女の13歳という見た目から高を括り討伐してやろうと襲い掛かってきた魔族は月の女神ディアナと星の竜が一閃一光を放ち、竜戦車ヴリトラが隊列を成して征伐し、それでも襲い掛かる愚者には時の女神イーヴが邪神を封印した際に用いたとされる永久の封印を……アイスちゃん厨二病入ってない?いや、年齢的に丁度中学二年生なんだけどさ。〝願いが叶う能力〟の上位交換と言っていたけれど、差し詰め〝妄想が全部現実になる能力(仮想世界限定)〟と言ったところか。凄まじい。

 

 まぁ兎に角メルヘン・神話・童話と何でもありの仮想世界でアイスちゃんは魔都ダルフを一日もせずに掌握した。問題があるとすれば……。

 

「主様、やはりダメですね。非物体的言語世界に隔絶された魔素は勇者アイスの世界に留まりアリオンの地に回収することができません。また彼女の支配者然とした様子を見るに勇者ホシユキ、勇者マドカのように爵位を与え領地を平和的に運営させるなど出来ないでしょう。考えるも憚られることですが、彼女が膨大な魔素を手に裏切りの大罪を犯したとするならば……ダリフの地が我々のものとなることは永劫ないと断言できます。」

 

「まぁほぼ緊急避難でしたからね。あのデタラメ極まる祝福(ギフト)がアリオンの地で暴走しなかっただけ良しとしましょう。」

 

 仮想世界の女王様だからね、貴族になるなんて提案歯牙にもかけないだろう。もしアイスちゃんの祝福(ギフト)を回収したとしたら膨大な魔素も一緒に吸収することになって、わたしはバケモノに成り果てるのだろうか?そう考えれば本当に手出しができない。

 

「そういえばアムちゃん。我々神族は魔素を過度に浴びると身体・精神に重大な障害を来すとのことですが、ダルフの街には人間……精霊などの他種族もいましたよね?神族の血脈が無いものには魔素とは無害な物質なのですか?」

 

「いいえ、神族以外の種族でも高濃度の魔素を浴びれば3日と経たず精神に異常を来すでしょう。ダルフに住んでいた一見他種族と見える者たちは魔族の血脈が入っていると考えられます。」

 

「では聖地オリハルオンに住まう人々も今は少なからず魔族の血が入っているのですね。」

 

「大変忌々しいことに……。この2000年で魔族は多くの種族と契りを交わしその汚らわしい血脈を連ねているのでしょう。今や聖地オリハルオンは汚穢で満たされ一掃すべき地と化し忸怩たる思いに御座います。」 

 

 おいおい……それって仮に聖地を奪還出来たとしたら関係のない一般市民まで大虐殺するって宣言しているようなものじゃないか。そんな残虐非道な真似に手を貸すつもりはないぞ。

 

「アムちゃん、今の発言は穏やかじゃありませんね。我々神族が他種族と契りを交わしたように、オリハルオンの殲滅すべき魔族以外はケリドウェンの魔女に(たぶら)かされた無辜の民です。慈悲を与える必要があるでしょう。」

 

「しかし不穏の種は一掃すべきかと……。いいえ、主様が仰るのでしたら。」

 

 渋々……という感情を全身で表しながらもアムちゃんは納得をしてくれた。神族が暴政を働いていたというのはダニエラの記憶から受け取ったものだが、暴政の有無は置いておいて神族が心底極端な種族であることだけは確かなようだ。

 

 そしてダニエラの記憶で気になる単語として出てきたのが〝ラウバル族〟と〝マナ〟という単語だ。わたしたちが〝魔族〟と呼んでいる存在はラウバル族という種族であり、〝魔素〟と呼んでいる物質は〝マナ〟という大気中に含まれる魔法の元となる成分である……可能性がある。

 

 この玉座の間で大体わかってきたことだが、この戦いは神族が絶対的正義であり、悪たる魔族を打ち倒すなんていう単純な話ではない。どちらにも正義があって護るべきモノがある。決してアムちゃんたちが嘘を言っていると思っている訳ではない。ただわたしの前世である森井孝臣の記憶が【神族側の正義】の妄信を阻害するのだ。

 

 しかし主様なんて讃えられ神族として生まれ変わってしまった以上わたしは神族の味方でいるしかない。優先順位としては魔族<他種族<神族≒転生者の味方といったところだろうか。

 

「主様、話は変わりますが、以前お話をしましたレジスタンス活動をしている胡散臭い集団が独演会を始めるほどまで力を付けてまいりました。数十人規模のビアホールでのバカ騒ぎと言ってしまえばそれまでですが、処分いたしましょうか?」

 

「独演会ですか、どのような主張をしているのですか?」

 

「ええっと……〝為政者はどこを見渡しても神族ばかりである。我々は奴隷だったのだ。同志たちよ剣をとれ〟とまぁ、稚拙極まる内容です。」

 

 標的は神族だけか。これで〝為政者はどの異世界も神族と魔族ばかりである〟という主張なら神族と魔族に共通の敵が出来て少しは平和的解決の糸口が見つかるかと思ったけれど、アリオンの地ではこうなるか。計画は失敗かな。

 

「放置して構いません。余りにも目に余るようならばその時に対処すればよろしいでしょう。」

 

「かしこまりました。仰せの通りに。」

 

 そのレジスタンス活動団体を異世界にぶっ飛ばすなんてことが出来ればいいのだけれどなぁ……。

 

 

 

 ●

 

 

 

 オリハルオンに居を構えるケリドウェンの玉座の間。そこには褐色肌の豊満な肉体を持ちあわせた妙齢の女性が、その姿に似合わない清く澄み切った深窓に育った姫君のように静かな眼眸で本を読んでいた。

 

「ケリドウェン様、失礼いたします。」

 

 しかしその姿もノックの音で一変し、双眸は鋭くなり、本は玉座の後ろに隠された。

 

「どうした。〝Q〟について動きがあったか?」

 

「いいえ、相変わらず〝Q〟については情報がつかめておりません。しかしながら新たな〝勇者〟が1日でダルフの街を占拠。その能力は奇々怪々なものであり異空間らしきものがダルフを覆いつくし、その異空間ではミスリルが菓子に、大砲が玩具に変わるという不可思議な現象が発生。また神話に言い伝えられる女神や伝説級のドラゴンまで使役し同志は殲滅されました。」

 

「……明らかに今までヘルム族が送り込んできた〝勇者〟と次元が違うな。このまま手を拱いていればオリハルオンにデタラメな力を持つ〝勇者〟が送り込まれてもおかしくない。やはり〝Q〟の居場所を早急に特定しなければならないだろう。」

 

「はい。尽力をあげて捜索に当たります。……もう一つ報告なのですが、オリハルオンにおいて不敬にもケリドウェン様に対しレジスタンス活動をする団体が見受けられております。現在武装決起というほどではなく、安酒場で演説会を開く程度で御座いますが、処理いたしましょうか?」

 

「そんなことに時間を割いている暇はない。放っておけ。今は〝Q〟の居場所を探ることだけに総力をあげろ。」

 

「かしこまりました。仰せのままに。」

 

 部下が去った玉座の間。ケリドウェンの瞳の光りに清らかさが戻り大きくため息をつく。

 

「ヘルム族とラウバル族に共通の敵が出来れば〝Q〟……いいえ、エリーゼ=オリハルオンさんとも平和的な話し合いが出来ると思ったのですが。やはり戦う以外に運命はないのでしょうか。ラウバル族だけが正義だとは、わたしはどうしても思えないのです。」

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