転生させる側の女神になるなんて聞いてません。   作:セパさん

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神々の思惑なんて聞いてません。

 エルインストの制圧は一瞬の出来事だった。雷鳴轟く熱波の嵐が魔王群を蹂躙し、魔王も幹部も部下も十把一絡げに焼き尽くされ凍り漬けにされ、民たちは突然現れた救世主を手放しで絶賛。今や私が送り出した転生者山田星之は英雄として祀り上げられている。

 

「いやはや7日で魔王軍を制圧……最初の5日は情報収集と能力の確認だったから実質2日で壊滅させるとは……。様々な転生者を見てきたが、前例のない話じゃ。」

 

「エルインスト……でしたっけ?その異世界はもう平和が戻り、わたしたちが関与することはもうないということですか?」

 

ウィリアムさんは(あまりにも見た目と所作がロリロリしいので心の中でアムちゃんと呼んでいる)口を尖らせ難しい顔をしながらお茶を啜った。

 

「そうもいかん、モリー嬢の与えた祝福(ギフト)はあまりにも強力すぎる。人間とは身の丈に合わぬ力を持ち合わせたとき暴走するのが常。第二の魔王になってもおかしくはないし、暴虐の王に変貌しても不思議ではない。やつの命終まで観察を続けなければならないじゃろう。」

 

「それほど危険な能力を授けてしまったのですね。」

 

「7日で世界を救ったのじゃ、7日で世界を滅ぼすこともできるじゃろう。」

 

 なんてこった、まるで聖書の神様じゃないか。

 

「2日で世界を壊滅させる人間を常時監視など、現実的ではありません。いっそ祝福(ギフト)を剥奪し、そのうえでエルインストの英雄として余生を過ごしてもらうことはできないのですか?」

 

「……正直そうしたいのは山々だ。先も言ったように、人間とは身に余る力を得たとき暴走することがある。禍害(わざわい)を成す転生者の能力を奪い取るための部隊も存在はしているのだが……」

 

「……わたしの与えた祝福(ギフト)が強力すぎると。」

 

「解っているではないか。悪戯に刺激すればそれこそ世界を荒らす滅亡者となる。……とんでもない爆弾を抱え込ませてくれたものよのぉ。」

 

「わたしは山田星之の命終までエルインストの観察を続けなければならないのでしょうか?……というか、女神となったわたしに寿命というのはあるのでしょうか?」

 

「不老長寿ではあるが、我々とて永遠を生きるわけではない。持ち合わせる聖素の量によって異なるが……。まだ貴女の聖素を測定していなかったな。転生者が女神になるなど前例がない故、失念しておった。この魔力計器を握りしめてみよ。」

 

 それはプラスチックとは似て異なる素材でできた握力測定器のようなものだった。ちょうど盤面には矢印とメモリがついており白・青・黄・緑・赤・黒と別れている。

 

「……ひょっとしてこのメモリの色が、称号になったりするんですか?」

 

「うむ、貴女を最初に見つけた女神は黄色を、我は黒の称号を冠しておる。聖素が多いほど与えられる祝福(ギフト)は強力なものが多く、任される仕事も変わってくる。7日前お主に祝福(ギフト)を与える大役を任せたのも、我であれば〝祝福(ギフト)の書き換え〟という能力があったからじゃ。……別方向に心配を起こさせてくれたがな。」

 

「あはは……」

 

 わたしは苦笑いし、そのままアムちゃんから渡された測定器を握りしめた。思ったよりも軽いな……なんて考えが過ったのも束の間、測定器の取っ手はベキベキメキメキというあってはならない音を立てて粉々に砕け散った。

 

「あれ?……え?」

 

「はああああああああああああ?」

 

「あの、壊れていたのですかね。」

 

「そんなはずはない。まて、もう一度……。」

 

 アムちゃんは黒いローブからもうひとつの測定器を取り出し、入念にチェックをし(アムちゃん自身も測定したが黒で矢印は止まった)わたしに渡した。しかし結果は同じであり、生卵でも割るかのように、取っ手からバキバキと音を立て粉砕、測定器の矢印は完全にひしゃげてしまった。

 

「……導きし者。」

 

 アムちゃんの顔が急に真面目なものに変わり、ブツブツと何かつぶやいたあと、いきなり私に向かって(ひざまず)き、(こうべ)を垂れた。

 

「数々の無礼を御赦し下さい!モリー様!我々神族を導き、禍害(わざわい)を駆逐し、真なる福音を(ほどこ)してくださる救世主様の復活とはいざ知らず、不埒にもモリー様へ神を名乗る大罪。どうかこの首一つでどうか御赦しください!」

 

 もうアムちゃんは顔さえ見せず首の青筋が見えるほど深々と頭を下げている。ああ、あれだ。多分首を切っても構いませんとかいう儀礼だ。アムちゃんはまるで見た目通りの子供が如くガタガタと震えており、とてもまともな会話ができそうにない。

 

「あの、ウィリアムさん?わたしはそんな大層な者ではございません。どうかお顔を上げてください。」

 

「いえ、先の転生者の祝福(ギフト)で気が付くべきだったのです。汗顔の至りにございますが、わたくし如きが神族の頂点を司る代行者と憫笑されても仕方のない思い上がりをしていたのです。それ故こんなにも近くに貴女様がおりましたことを認知できず……」

 

「ですから、顔を上げてください!」

 

 あとついでに状況を説明してください、助けて。……という前にアムちゃんを正気に戻さなければ。わたしは震えるアムちゃんを思いっきり抱擁した。

 

「ああ……これが魂と魂の抱擁……不信心ながらこのウィリアム欣喜雀躍(きんきじゃくやく)の思いに御座います……。」

 

 ダメだ、目が完全にアッチへいっている。すすり泣きながらわたしに甘える姿に先ほどまでの威厳は皆無だ。

 

「ウィリアムよ!まずわたしの身に何があったのか説明するのです!そしてわたしの話を聞きなさい!」

 

 下手に出ていてもキリがない。そう思ったわたしは口調を厳しくして対応した。すると嘘のようにシャキンと背筋を伸ばし(表情は硬く汗は絶え間なく吹き出ている状態だが)わたしを見つめた。

 

「まだ記憶がお戻りになられないのですね。失念しておりました、ご寛容ください。」

 

 そのまま3つほど深呼吸をし、アムちゃんは言葉を紡いだ。

 

「そもそも我々神族が転生者を異世界へ送り出す理由は、忌々しい魔女ケリドウェンの手によって離散(ディアスポラ)を余儀なくされた聖地オリハルオンへ再集結するためなのです。」

 

 いきなり電波な話が飛び出してきてわたしはビックリしているよ。どうすればいい?

 

「散り散りになった神族は各地を流浪し、あるものは異世界の土着神へ、あるものは奇跡と慈悲を与える存在に……中には堕天しケリドウェンの眷属が如き厄災を振りまくものもおります。」

 

「神様にも色々あるんですねぇ……。へぇー。」

 

 わたしはもう茫然とするしかなかった。気分は既に玄関先に現れた聖書を持ったおばちゃんの話を聞くそれだ。

 

「しかし我々は2000年前よりタリエシンという神族の集団を作り、異世界に点在する魔女ケリドウェンの眷属たる〝魔族〟を撃退し魔素と聖素の……」

 

「ちょっと待ってください。何でその仕事を転生者に?魔族が嫌なら祝福(ギフト)を与えて勇者として送り出すなんて面倒なことをせず、そのままぶっ倒せばいいじゃないですか?」

 

「はい、我々神族は聖素の塊です。あの悪辣な魔女は一定量の聖素と魔素が融合したとき、その瘴気を浴びた神族を堕落させる呪いを掛けたのです。実際神族としての誇りを忘れ悪鬼羅刹に成り果てた同志も少なくありません。そこで転生者に祝福(ギフト)というごく少量の聖素をつかい、魔族を斃すことで生じた魔素を異世界内に分散させ回収しているのです。」

 

「回収!?混ざればマズい物体なんですよね?なんでそんなことを……。」

 

「あの魔女とて無から眷属を生み出せません。魔素を回収すればそれだけヤツが弱体化したことになります。魔素を回収する装置は2000年前に発明されました。その効果はしっかりと出ており、聖地オリハルオンを覆う魔素は微弱ながら減少がみられております。」

 

「この2000年でどのくらいですか?」

 

「0,001%ほどです。」

 

 思わずめまいがする・気の長い話だと思うが、そもそも人間と時間の感覚がズレているのだろう。

 

「聖地……に戻りたいんですよね?みんなで団結して魔女をぶっ飛ばすという考えにはならないのですか?」

 

「モリー様を(いや)しめる訳ではございませんが、かつて神族を率いていた主ですらケリドウェンの魔の力には叶わず、復活を約束し消滅なさいました。実際に魔女へ戦いを挑んだ同志もおりますが、皆消息を絶っております。それゆえ約束の地へ戻るためならば臥薪嘗胆の覚悟でどのような屈辱にも耐えると誓ったのです。」

 

 そう語るアムちゃんの拳は強く握られ、目からは涙が零れていた。

 

「しかし!先日ヤマダホシユキへ贈られた祝福(ギフト)を見て確信いたしました!モリー様は眷属ではなく、オリハルオンそのものへ祝福(ギフト)を授けた勇者を送り出し、忌まわしき魔女ケリドウェンを討つ力がございます!早速そのお力で、我ら神族を約束の地へと!」

 

 んなこと言われたってぇ……。

 

「あの山田星之をそのオリハルオンとやらに送り出しますか?」

 

「……確かに彼の力は強大で心強いのですが、一度異世界に送った人間をこちらに再召喚は出来ないのです。」

 

「すみません……まだ頭が混乱しています。一端整理の時間をください。」

 

「かしこまりました。執事やメイドの代わりに幾人かの同志を遣わせます。何なりとお申し付けくださいませ。」

 

「いや、ここはウィリアムさんの部屋……。」

 

「窮屈でしょうか?ああ、わたくしの痕跡が気に食わないのであればいくらでも再構成いたします。モリー様に相応しい玉座となれば即座にとはいきませんのでお時間をいただきます。」

 

「そこまでしなくていいです!ありがたく使わせていただきます!」

 

 

 

 ●

 

 

 

「ねぇお姉ちゃん聞いた?」

 

 後ろから〝やめてください、お願いします!〟という悲痛に満ちた怨嗟の声が聞こえるが、まったく知らないとばかりに城内の装飾品や金銀財宝を女二人が集めている。

 

「なんだ?」

 

「タリエシンに主様が復活した話。」

 

「ふん、あんな人間に冒険ごっこをさせていた場所に主様が現れるものか。どこもかしこも自分の行動に箔を付けたがる。」

 

「信じてないのね。でも魔力計器を粉々にするほどの聖素を有しているらしいわ。」

 

「ほぉ、だがオリハルオン奪還には関係のない話だ。」

 

「主様に手厳しいわね。」

 

「我々は経済を制圧する。そして経済戦争であの魔女を追放し、約束の聖地へ戻る。」

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