竜と呪いの千回紀   作:稲荷竜

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第21話 改変

 加護。

 

 それは災厄と直接対峙すると権能のほとんどを封じられる始祖竜(オリジン)が、それでも災厄を倒すために編み出した裏技だ。

 

『静謐の時代』、初めて災厄が観測された。

 

 それは【虚栄】と感じとられた(・・・・・・)災厄だった。

 

 雨が降るたび迷宮を生み出して、周辺の土地を汚染した。

 水溜りから邪悪なる生命を生み出して、世界各地にそれを放った。

 

 その邪悪な生命は、どれほど弱くても野生の狼相当には強く、さらには獣より知恵があり、なにより『人を殺す』という目的を一心不乱にこなそうとしてくる。

 通常の獣の行動が生存のために行われるのに対し、【虚栄】の放った邪悪な生命━━魔物(モンスター)は殺害のために行動するのだった。

 

 人類は抵抗するも、水溜りさえあればどこからでも湧いてくる魔物に対して劣勢だった。

 

 そこで当時の始祖竜【静謐】は、自分の力を権能によりパッケージングし、それを選び抜いた四名に与え、『【虚栄】本体へ特攻させる』という手段をとったわけである。

 

 ちなみに、始祖竜の力をただの人間が受け取るというのにはかなりのリスクが伴うらしかった。

 最初に選んだ四人が自分の力を受け入れた時、【静謐】は『ええ? 一人の犠牲者もなく!?』と完全におどろいており、横で聞いてた俺はどういう反応をしたらいいかわからなかった。

 

 まあ、その力を受け入れることができた連中は、みな、素晴らしいやつらだったので、そんな奇跡ぐらい起こしても、俺はおどろかなかったけれど。

 

 ちなみに俺はその四名の中には入っていないが━━

 

 ともあれ、『加護』というのは、始祖竜にとって『最後の手段』に類するものと思って間違いないだろう。

 

【静謐】の加護の場合、加護を与えたあと、【静謐】自身は普通の人間の少女ぐらいにまで弱体化した。

 あとあと与えた力を回収したらもとに戻ったが……

 

 では、【変貌】の加護とはどういうもので、どういったリスクを始祖竜にもたらすのか?

 

 どうやら、リスクは『死』らしかった。

 

 俺たちに加護を与えた【変貌】は、指先からはらはらと花びらをこぼす。

 

 最初はひとひらが指先からこぼれたのみだった。

 次第に、ありとあらゆるところから、花びらがこぼれ始める。

 

 花びらがこぼれるたび、【変貌】の存在感がどんどん希薄になっていくのを、俺たちは感じていた。

 

 俺たちは……特にもともと【変貌】に助け出され、災厄軍と名乗っていた俺たちは、すぐに彼女に駆け寄ろうとした。

 

 しかし、

 

「十三人の勇者たちよ。……どうか、彼を止めてください」

 

 命を賭した恩人の願いに、足を止め、『災厄』へと向き直った。

 

『変貌の時代』の俺は、加護を与えられた瞬間、自分がどのように変貌(・・)したかを感じ取った。

 

 まず、先ほどまで全身を気だるくしていた『酩酊』が消えている。

 

 さらに体中に力がみなぎっており、膂力(りょりょく)速力(そくりょく)も、これまでの比ではないほど強化されているとわかった。

 

 さらに俺は、どうにも自分にだけ与えられている力を理解していた。

 

 どうやら基本的な不調に対する防御力と身体能力の強化の他に、十三人それぞれが固有の能力をもらっているようだった。

 

 俺に与えられたのは、『改変』。

 

【変貌】が俺たちを連れ出してくれたあと、俺たちの拠点の植物を食べられるようにし、野生動物を家畜へとしたように、生命に変質をもたらす能力が自分に備わっていることを知る。

 

 ただしそれは、【変貌】のものに比べればずいぶん限定的というのか……彼女が見せてくれたようなことの、十分の一もできないだろう、という確信があった。

 

 ……この加護を与えられた時が、俺が【変貌】に個人的に声をかけてもらった、四回目。

 

 そして、五回目は。

 

 ……はらはらと散りゆく【変貌】がたしかに俺を見て、わずかに手を伸ばした。

 

 伸ばした指先からこぼれ落ちる花びらは、地面に落ちると吸い込まれるように消えていった。

 

 俺は強化された身体能力で【変貌】へと近寄り、用件に耳をかたむける。

 

「……まだ、あなたたちは『災厄』に及ばない。あと少し、足りないのです」

 

 絶望を告げるだけのその声は、しかし、暗くなかった。

 

 ただし、明るいというわけでもない。

 

 吹っ切れたような━━というのか。

 

 そんな声で、彼女は、

 

「私も協力します。あなたに与えた力で、私を剣と成しなさい。『災厄』を貫く剣にするのです」

 

 とても受け入れられない、提案をした。

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