竜と呪いの千回紀   作:稲荷竜

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第46話 時代

 ところで『なんだそのファッションセンス。始祖竜(オリジン)かよ』というのは、俺の中でめちゃめちゃ攻めた服を(まと)う者に対し、いつか捧げようと思っている言葉だ。

 

 幸運にも実際に言う機会には巡り合ったことはないのだが、とにかく始祖竜という連中は、服装がぶっ飛んでいるっていうか、そもそも服じゃない。

 

【静謐】……は、まあ、はい。素敵だったと思います。

 

【躍動】は十二、三歳ぐらいの少女の肉体を、炎のようにゆらめくものでわずかにブラインドしている感じの、すさまじい露出度だった。

 

【変貌】は木の葉と花を体に貼り付けているような格好であり、その豊満な肉体もあって、多くの男に様々な妄想を抱かせた。

 

【解析】なんかは自分の髪を全身に巻きつけて袖口の広いローブみたいなシルエットを生み出していたのだが、そもそも髪は着るものではない。

 

 このようにかなりアグレッシブな格好をしている者の多い始祖竜ではあるのだが、それでも、彼女らは人外レベルの美貌と芸術品のような体つきがあったため、似合っていないということはなかった。

 

 むしろ露出によるエロティックさよりも、観賞用芸術のような美しさが先立っており、造形美に目を奪われることがあっても、胸とか尻とかをいやらしい目で見るには、いくらかの慣れが必要なほどだったのだ。

 

 ではここで【露呈】の服装に意識を戻せば……

 

 彼女は光っていた。

 

 全裸で光っている━━『光を纏っている』とも言えるが、その衣服のかたちは、まばゆすぎて見えない。

 

 結果、俺からは服装という体裁さえとっていないように見えた。

 

 さすがに当時、始祖竜の圧というのか、人外のもの特有の空気感にやられていた俺は『服着ろ』とは言えなかったが、思い返すと、始祖竜のおかしな方向に振り切ったヤバさを前にして無言になってしまう。

 

「お前、わたくしが話しかけているのだから、なにか反応なさいよ。もう、つまらないわね。いえ、面白いわ。うふふ。だって久々の目覚めで出会った『対象』が、こんなにも自分を世界の中心であるかのように考えているんですもの。やる気が出てくるというものね」

 

【露呈】は俺の体をぺたぺた触り、いかにも癒し系という感じで下がったまなじりをさらに下げながら、他の始祖竜に比べてちょっと丸みの強めの顔をかたむけた。

 

「まったく、【解析】はアホなのかしら。いいえ、アホね。竜を殺せば恋が叶うなんて焚き付けておいて、自分だけが答えを持ったまま接続を切ってしまうのだから。あの自己満足の狂った研究者と、このわたくしが姉妹だなんて、なにかの間違いだわ。ほら、肯定なさい」

 

 こういうヤバそうな連中を目の前にすると、ついつい従ってしまう弱さが俺にはあった。

 なので「そ、そうですね」とわけもわからず肯定した。この人生、わけもわからず肯定することにかけてはちょっとしたものだった。

 

「そうそう。お前は時代の添え物なのだから、そこを自覚して、中心人物の盛り立て役に徹するべきなのだわ。……ああ、それにしても、本当になんで記憶を持ったままの転生をしないのかしら? なによ。もう、【解析】は大事なことをはっきり言うのが嫌いなんだから……求められているのは【静謐】姉様のような、断固とした態度よ。肯定なさい」

 

 ところで俺に近付いてくる女は全体的に、相手が理解してるかどうか関係なく言いたいことだけまくしたてる傾向にある。

 

 あ、その、【静謐】は例外です。はい。

 

 などという、会話と呼ぶにはかなり抵抗がある声の交換会をしていると、何者かが遠方からすさまじい勢いで接近してくるのがわかった。

 

 接近してきたそいつは俺のそばに出現すると、始祖竜【露呈】を突き飛ばした。

 

 それは魔導王にして第四災厄【守護】だった。

 

「始祖竜! 死ね!」

 

 問答無用である。

 

 自分の城の庭に現れた始祖竜を相手に、第四災厄【守護】はとびっきりの魔術を放った。

 

 それは緑の魔力光をまとった、天に(ふた)するほど巨大な、風の球だ。

 

 余波だけであちこちに突風を起こし、中庭を囲む城の壁を舞い上げながら形成されたそれは、一瞬ののちに始祖竜【露呈】へと放たれる。

 

 ……この唐突な攻撃の理由だが、現代視点で推察するに、たぶん、八つ当たりであり逆恨みであり、あとは、この当時の俺を守ろうとしてのこと、だったのだろう。

 

 魔導王はかつての戦争の時に始祖竜【解析】に騙されるかたちで戦争を止めてしまったことがある。

 

 一時は『見事に騙されて萎えた』状態だったようだが、時が経つにつれだんだん許せなくなってきており、最近では始祖竜を見つけたらあの時の恨みを晴らすみたいなことまで言うようになっていた。

 

 ちなみにその始祖竜【解析】だが、すでに魔導王自身の手で殺しているので、逆恨みというか、八つ当たりというか、他の始祖竜にまで恨みを波及させるのはどうなんだと思わなくもない。

 

 さて、始祖竜【露呈】は……

 

 第四災厄【守護】から放たれた風球(ふうきゅう)を、息のひと吹きでかき消した。

 

 ━━ありえない。

 

 始祖竜は災厄と対峙しただけで大幅な弱体化を受ける。

【躍動】なんかはそれでも応戦してみせたが、弱体自体は受けていた。

 これは、始祖竜と災厄を取り巻く絶対不変の法則のはずだった。

 

 ところが【露呈】はなんの影響もなさそうに、毒気のない、癒されるような笑みを浮かべて、そこにしっかり立っている。

 

「お前、人の魔術が竜に効くと思ったの? 自分が世界最強だと信じているのね。かわいそうに」

 

「……【解析】のやつが嘘をついた?」

 

「ええ? お前、言葉をかけるならもうちょっと答えやすい文章作りをしなさいよ。これだから王とかいう連中は……誰もがお前の意図を察するために頭を働かせてあげるだなんて勘違いしないでよ。面白くないわ」

 

 あまりにも正論すぎて、魔導王はちょっとあとずさった。

 

【露呈】はふにゃりと微笑んで、

 

「まあ、それについては記憶の共有があったわ。お前は『竜は災厄と対峙すると弱体化するはずでは? そう解説した【解析】は嘘をついたのか?』と言いたいのでしょう? 整理してあげたわよ。感謝なさい」

 

「そ、そうだ」

 

「竜は人間と違って嘘なんかつかないわよ。【解析】の言葉に嘘はないわ。けれどね、あいつは黙っていたこともあるのよ。なんていうか……うーん、なんでわたくし、お前に懇切丁寧に説明してあげようとしているのかしら。面倒くさいわね」

 

「そこまで言ったなら言えよ!」

 

「お前とわたくしは、時代が違う(・・・・・)のよ」

 

「……?」

 

「顔面に『私はバカです』って表示するのをやめて。あのねぇ、お前が災厄に成り下がることができたのは、『解析の時代』。【解析】がもういないんだから、その時代の辞任要求(・・・・)が時を超えてわたくしに通じるわけがないでしょう?」

 

「……えーっと」

 

「飽きたわ、説明。もう、つまらないわね。わたくしはもっと楽しいところに行くわ。けど、この庭は気に入ったから綺麗にしておきなさいよ。わたくし、ここでならたまに来てお話ししてあげてもいいから」

 

 言うやいなや、すさまじい光があたりを満たし、俺たちの視界はあっというまに真っ白になった。

 

 そうして、光が晴れたころ……すでに、【露呈】の姿は、庭園のどこにも見当たらなかった。

 

「なんなんだあいつは!」

 

 魔導王がその後、八つ当たりで自分の城を半壊させ……

 

「今度会ったら、私の城を勝手に壊したことを謝罪させてやる」

 

 すっかり責任転嫁をしながら、まだ壊れていない部分に戻っていった。

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