企画ものです 詳しくは活動報告で!

これは武器が使い物にならずに少し困った勇者の物語

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勇者しか抜けない剣を抜いたら刺さってた部分にまだ魔王が刺さったままだった

 ああ、また誰かやって来たのか。初めましてでもお久しぶりでも好きな方を選べば良いさ。

 僕は誰かって? 神だよ、無数に存在する世界を管理して、そこで実験を行っているね。

 

 ある時は妻子持ちを魔法少女にして、ある時はトイレを召喚出来る力を与えた子を異世界の砂漠に送り込んだけど、まさか後にドラゴンの群れを撃退して英雄になるだなんて驚きさ。

 

 今回の実験場は魔王によって平和が脅かされた世界。魔族の支配者である存在と人類の代表である勇者との戦いなんだけれど、今はちょうど決着の瞬間だ。

 

 え? 実験は良いのかって? ああ、未だやってないだけさ。

 

 

 

 世界の希望に異変が起きた時、使命を押し付けられた存在はどうするのか、ってね

 

 

 

 刃が肉と骨を貫く鈍い音が響き、金色に輝く切っ先がズタボロに破壊された鎧の装飾を押し退けて飛び出した。

 鎧の持ち主の名はカラトー、絶大なる魔力を有する魔王である。

 

 側頭部より生えた湾曲した角、赤銅の如き色の皮膚、何よりも何処を見ているか定かではない瞳はこの世全ての光を飲み込みそうな程に深い黒。

 

 カラトーの視界に映るのは玉座の間に積み重なった屍の山と夥しい血の河、人も魔も区別なく倒れ伏し、カラトーの角の半分もへし折れて転がり、その視界は徐々にぼやけ始めていた。

 強大なる力による恐怖で魔も人も支配せんとした魔王、神の敵対者であるその生命が終わりを向かえる中、まるで今まで弄びながら命を奪って来た相手の様にその体が激しく震え、喉の奥から声が漏れ出る。

 

 

カハッ! カハハハハハハハハッ!

 

 但しそれに込められたのは恐怖や後悔ではなく、嘲笑。強靭な肉体が食い込んだ刃を締め付け動く事を許さない中、無理に体を捻って背後より自分を刺し貫いた相手を見やり、心底楽しそうに笑う。

 カタカタとぶつかり合う歯の隙間からは止めどなく青黒い血が飛び出すが、その嘲笑は修まる、どころか激しさを増していた。

 

「……何が可笑しい? 貴様の配下は全滅、貴様とて長くは持たず、私を道連れにする力も残っておるまい。それとも貴様が死ねば城が崩れて私を殺せるとでも?」

 

「いいや、その様な仕掛けは無いさ。我は可笑しいから嗤っている、それだけだ。なあ、勇者キャラメリゼよ」

 

 勇者、数多の世界で魔王を討伐する使命を与えられた、もしくは討伐した者に与えられる称号であり、不愉快そうにしながらも企みは無駄だと嘲り返す彼女もその一人だ。

 

 

 軽く化粧をさせ髪を整えれば、さぞや絶世の美姫として持て囃されたであろう赤髪の女性、そろそろ少女とは言われなくなる年頃の肉体には戦士としての鍛え上げられたものであり、新旧合わせて数多くの痛々しい傷跡が刻まれ、バサバサの髪は所々、焦げていたり1部だけが断たれてしまっている。

 

「聖剣に選ばれた事で勇者という栄誉だけの生贄に選ばれて一国の姫としての人生を捨てさせられ、多くの仲間の屍に乗り越えた挙句が死んだふりからの不意打ちとは。誉もクソも無い方法で世界を救った気分はどうだと思うだけで笑いがこみ上げるではないか!」

 

 

 魔王とは強大な存在だ。そもそも魔族は一定以上魔力が低くないモノか聖なる力以外は受け付けず、魔王に対抗可能な魔力の持ち主など存在しない。

 だからこそ聖剣を振るう勇者は人類の希望であり、栄光と高潔さを求められる。

 

 だから魔王は嘲笑うのだ。貴様の勇者としての人生は地に落ちたんだと。

 

 

 

「はっ! 私の栄誉など世界を救う為ならば野良の餌にしてやれば良いさ。栄誉? 栄光? そのようなものなくて大いに結構っ! 死した者達に報いる、それだけで充分だ!」

 

 

 そんな魔王の嘲笑をキャラメリゼが鼻で笑うと同時に聖剣が強く輝いてカラトーを包み込む。

 二度と復活出来ぬ様にその肉体と魂を完全に封印し、やがて消滅させる。

 聖剣も新たな魔王が誕生し、世界に危機が訪れるまで長き眠りにつくのだ。

 

 それが長き間繰り返された人と魔の歴史。魔王が消滅し、その影響で魔族が消えれば世界は平和になるが、やがて人と人との間で争いが起きる。

 流れる血と涙は怨嗟の声と共に世界に広がり、それがやがて新しき魔族を誕生させるのだ。

 

「カハハハハッ! 勇者よ、愚かな娘よ、何度も何度も繰り返した歴史の通りに此度も進むとでも? 奪う価値のある土地も! それを奪うための余裕も! 貴様が優秀であった為に世界には多く残っているぞ! カハハハハハハハッ!」

 

 これから起きるであろう悲劇の要因の一つはお前だと告げたカラトーは聖剣と共に消え去り、残ったのは苦虫を噛み潰した様な顔のキャラメリゼだけ。

 

 

「さて、吟遊詩人に大衆が好む英雄譚を考えさせねばな……」

 

 

 こうして世界に束の間の平穏が訪れる。魔族は存在せず、災害や飢饉、そして戦等の難題が多く残る中、長い長い時が過ぎて……。

 

 

 

 

 

 

 

「……あら? もうそんな時期だなんてビックリだわ」

 

 日課である午睡から覚醒すれば、その原因となったであろう鐘の音が外から響き、お城の中は凄い騒ぎになっていたわ。

 先程まで見ていたのは昔の夢、私が勇者だなんて呼ばれていた頃を懐かしみながら右手の甲をそっと撫でる。

 

 微かに残るのは勇者の証である痣、女神アマトーの紋章は今となっては引っ掻き傷程度まで薄まっているけれど、これを見ていると昔の記憶が蘇るわね。

 八歳の時に痣が現れて以来、私に待っていたのは礼儀作法や踊りに政務などの勉強よりも白兵戦や軍略のお勉強の日々。

 当時は辛くて投げ出したいとも思ったけれど、何時からか誇りになっていて……。

 

 

「それにしても私も性格は丸くなったわ……」

 

 夢の中の私と今の私を比べればまるで別人だもの、ビックリしちゃう。子供達なんて当時の私の話を大袈裟に勇猛さを盛ったのだと思っているけれど、実は抑えられた物もある……ふぅ。

 

 

 

「母上! 国の、いえ、世界の一大事です!」

 

「騒がしいですよ、カラメル。この国を背負う王族たる者、常に冷静にいなさい」

 

 廊下を慌ただしく走り、勢い良く扉を開けて入ってきた我が子に厳しい言葉を投げ掛ける。

 小さく愛しい息子でも、地位に伴う責務からは逃れる事は許せないもの、多少の威圧は仕方ないわよね?

 

 

「も、申し訳御座いません。それですが母上……」

 

「魔王が復活し、新たな魔族達が生み出されるのでしょう? 従来よりも早いけれど、これも発展の代償かしらね」

 

 ゆっくりと椅子から立ち上がった私が手を伸ばした先には装飾用の剣、但し実戦でも十分に使える代物よ。

 

 病気の治療法、街道の補修技術、生活を楽にする各種技術、人類の持つ技術は歴史と共に発展し、それが新たな悲劇の種にもなり得るのは皮肉な話、人口の増加も関わっているのでしょうね。

 

 

「聖剣の丘に行きましょう。異例の事態で存命中の先代勇者として次の勇者の顔を見たいもの」

 

「ははぁ! 直ぐに馬車を用意致します!」

 

「なるべく急がせなさい。外からの見栄えさえ取り繕えば良いわ」

 

 私の鳩尾の辺りまでしかない息子に指示を出しながら窓の外を見れば遠くの丘で光の柱が天に向かって伸びていた。

 

 本当は直ぐに走って向かいたいけれど、多少時間を無駄にしても王族としての面目は緊急事態であろうとも……いえ、民を導く王族として緊急事態だからこそ保つべき物があるのよ。

 

 聖剣が刺さった岩が在る勇者の丘、代々我が国の王族が儀式を行う事で次期勇者を世界の何処かからでも召喚出来る。

 私の時はお祖父様の後ろに居たのに一瞬で前に移動してたから驚いちゃったのよね。

 

 

 

「さてと、過酷な旅になるでしょうし、出来るだけの支援はしてあげないと」

 

 勿論現在戦争中の国に停戦と勇者の支援要請を持ち掛け、民を保護して、更には余計な横槍を避ける為に魔族の相手をする部隊の編成も。

 それを考えれば経験した世代が生きている今回は運が良いと言うべきか、生きている間に二度目を経験する事を嘆くべきなのか。

 

 

 ……先代として有りもしない不手際を追求されそうね。

 

「あら、いけない」

 

 待ち受ける面倒事を考えていると剣の柄が少しひしゃげる。ちょっと力を入れちゃったみたい。

 

 駄目よ、こんな時こそ落ち着かないと。

 

「そろそろ馬車の準備が済む頃ね。急ぎましょうか」

 

 少し時間が経った頃、少しもどかしい思いをしながらも勇者の丘に到着したのだけれど……あれ? 地面が盛り上がってないかしら?

 

「目が悪くなった自覚はないのだけれど、地面が盛り上がってるとか気のせいよね?」

 

「いえ、私にもそう見えます」

 

「そうよねえ」

 

 若い頃よりもむしろ動体視力含めて上がっているし、何度見ても地面は盛り上がっている。聖剣は鍔から先が地面に刺さっていて、そこまでは私の頃と同じなのに一体何が……。

 

「さてと、そろそろ召喚しましょうか」

 

「この状況でですか!?」

 

「この状況だからよ。何が起きているのか実際に見ないとわからないでしょう? ほら、今の国王は貴方なのだからしっかりなさい」

 

 息子を急かし、儀式を始める姿を目にしながら昔を懐かしむ。あの時、急に景色が変わって、父の背中を見ていたのが、正面から向かい合っていたのよね 

 

 

「そうそう、こんな風…に……」

 

 何故か息子が目の前で私と向かい合ってる。えぇ……。

 

 

「は、母上!? これは一体何が!?」

 

「じゃあ、抜くわね」

 

「この状況でですか!?」

 

 まさかの勇者召喚二回目。落ち着いて行動しなさいと普段から注意してるのに慌てている息子を無視して柄を掴む。

 これ、要するに私がまた勇者をしろって事でしょう? 先代が生きているのだもの、こんな事だって……えぇ……。

 

 

 

 

「カハハハハハハハハ! よもやこの様な事になるとはな! やはり人とは度しがたい!」

 

 なんか魔王が刺さったままだったわ。これには流石にビックリよね。

 

 あの時、聖剣と共に消えた魔王はそのままの姿で目の前にいる。これは非常に困った話ね。

 

「むっ? まさか貴様は……」

 

 そして魔王は私が誰か分かったみたい。あの頃と随分変わったのに関心さえしちゃうわ。

 

 

「まさか再び貴様が勇者に……なんかデカくないか? そしてゴツい!?」

 

 

「失敬ね。身長と腕周りが六十センチ程度増えただけじゃないの」

 

 姫の教育よりも勇者としての訓練が優先だったし、平和になっても体を鍛えるのが習慣になった上に使命を果たした開放感からか身長も凄く伸びたけれど、女性に対しての発言じゃないわよ。

 

 

 ちょっと腹が立ったので魔王の角を掴んで持ち上げつつ胸から突き出した刃に視線を向ける。

 流石にこれじゃあ剣としての役割は果たせないわよね。

 

 

 

 

「あっ! 良い事を思いついちゃった」

 

 

 

 

 そして振り被る! ミチミチと鳴る筋肉!! 

 

「お、おい!? 貴様まさか!?」

 

 

 

 

 

 そうび はずす → 聖剣

 

 そうび つける → 魔王カラトー

 

 

 

 

 

 

 

「剣が使えないなら! 魔王を使えば良いだけよ!」

 

 

「んな訳あるかぁあああああああ!!」

 

 タッパもマッスルも足りない息子を巻き込まない様に空に向かってフルスイング!! 放たれるインパクト!! 吹き飛ぶ雲!!

 

 

 

「魔王よ、一つ教えてあげるわ。今の私なら……昔の私を指先一つでダウンさせられるわ!」

 

「でしょうね……」

 

 気絶した魔王をブラブラさせながら呟けば息子は何処か疲れた様子。もうちょっと体力つけなさいな。

 

 

 

 

「まあ、武器はこれで良いとして、新しい魔王を倒すまで三日って所かしら?」

 

「あんまり大口を叩かない方が良いですよ、母上」

 

 

 この息子の言葉は現実になる。まさか他国とのやり取りで五日も潰して、発言から一週間も必要になるなんて私も衰えたわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の実験は……見なかった事にしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 




きっと何人かはこう書いてくれる 筋肉だ、筋肉は全てを解決する、と

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