梔子ユメの最後の冒険 〜チョロアホガールとポンコツ詐欺師の復讐劇〜   作:外柴葡萄

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激突そして、

 今回の敵は、最初から何かがおかしかった。

 

  

 どれだけ徒党を組んでみたところで所詮はその辺のチンピラだ。ホシノにしてみればものの数ではない。

 実際、公園で最初に向かって来たヘルメット頭のほとんどは一瞬で蹴散らされて今頃ベンチで伸びている。

 だが、今度の奴らはとにかくしつこかった。

 不良連中の間で何か連絡でも回っているのか、どこからともなく次々に新手が現れては向かってくる。

 

 アビドスの校舎の屋上に陣取って、ホシノは考えを巡らせる。

 昨日の昼過ぎに始まった喧嘩は結局一昼夜を掛けても収まらず、装備していた弾薬を消費し尽くしたホシノはこうして校舎へ補給に戻らざるを得なくなっている。

 日が落ちて市街地が闇に落ちてからも、襲撃者達はしつこく校舎の周りをうろついていた。

 良いだろう、そっちがその気ならとことんやってやる。

 もとより夜戦は大得意だ。

 戦略を機動防御に切り替えたホシノは一晩中をかけてモグラ叩きに躍起になった。

 

 そうこうしている内にあっという間に朝が来て本来の登校時間を優に一時間は過ぎてからも、またしてもユメは登校して来なかった。

 まるで自分から非を認めるように思えてズルズル先延ばしにしてきたユメとの連絡もその頃にはついに我慢の限界が来ていた。そしてそういう時に限って悪い予感というのは当たるものだ。

 モモトークに既読がつかないだけならいざ知らず、朝から何度通話を掛けてみても電波が通じない場所にいるとしか返って来ない。

 となればおそらく、そういうことなのだろう。

 

 想像はついたが、不可解な点も多い。

 いつもの敵なら、人質を取った時点で何らかの交渉を仕掛けてくる筈だった。ほとんどの場合、下らないカツアゲじみた要求か、詐欺まがいの被害にかこつけた賠償請求だ。

 要求があれば場所を割り出して突っ込めば良い。いつもならそれでだいたい片がつく。

 

 

 自分自身でも薄々自覚があるのだが、ホシノはこの手の政治めいた話には疎い。正直今でもよく分かっていないと思う。

 それでもこの半年ほどのほんの短い高校生活の間で嫌が奥にも見えてきたキヴォトスの法いうものがある。普通それを教えてくれるはずの先輩があれだったのだから、自分で調べて覚えるほかなかったのだ。

 つまり、どれほど弱体化したといえどもアビドスはこれでも、あまねくキヴォトスを統べる朝たる連邦生徒会によって正式に認められた自治権を持つ、れっきとした公の学園政府なのだ。

 その実態が生徒数たったの二人という、もはや組織の体を成していない存在だとしても、ヘルメット団やそこいらのチンピラ連中のような仁義のみを担保とする疑似家族集団や、ブラックマーケットに出入りする法令すれすれの会社もどきとはその本質的な立場がまるで違う。

 アビドス生徒会は、その保有する行政区内において独自の法令制定と治安活動の権限をその裁量によって行使できると連邦法ではっきりと定められている。要はルールを決める側なのだ。正義は間違いなくこちらにある。

 自治区を一歩でも飛び出して外の世界に蔓延るゲヘナだがD.U.だかいう他所の学園を相手にすれば話は違ってくるらしいのだが、殊アビドスの自治区の中にいる限りにおいて生徒会より権威ある組織などありはしないのだ。

 それはつまり、たとえ敵がどんな要求を持って来ようとも、武力で抑え込まれでもしない限り最終的な決定権はこちらが握っているということだ。最高権力者さえ無事であれば(・・・・・・・・・・・・・)

 そのはずなのに、いつまで経っても敵側からの要求が来ない。こうなるとそもそもの戦略を考え直さなければならなかった。

 

 多分、一つ一つを潰しているだけでは駄目だ。

 ホシノは考える。

 もとよりアビドスに備蓄されている弾薬はそれほど潤沢ではない。このまま校舎に立て籠っていても、何れ補給が尽きてジリ貧だろう。

 であれば残された手段は一つしかない。打って出るべきだ。

 そもそも弾薬や食料を別にすれば、今のアビドスに是が非でも守らねばならないようなものはあまり無い。校舎ごと吹き飛ばされでもすれば事だが、どうもそういうつもりもなさそうだ。

 何より、ホシノにとって最大の急所たる生徒会長の所在が不明のままでは、待っているだけリスクが増えるばかりだった。

 別に勘が外れたなら、戻ってきて違う手段を考えれば良いのだ。

 校舎の破壊が狙いでないのなら、何の問題もないはずだ。奪われたものは、奪い返せば済む。

 

 最初に因縁をつけられた公園付近での戦闘以来、町中で暴れながらなんとなく気になっていた事がある。

 ヘルメット団は本来、その辺のチンピラの寄り合い所帯のはずだが、今度の奴らの動きには何処となく組織的な意図を感じた。

 それに一人一人はいつものどうしようもない不良達なのだが、時たま妙に戦い慣れた連中が混ざっているのだ。もっともホシノが手こずる程の敵など居ようはずもなかったのだが。

 

 もちろん、罠の可能性もある。

 十分にあり得る話だ。だが、敵の目的さえ不明であるこの状況にあっては、罠かもしれないという事自体が貴重な情報だ。そこに飛び込んで駄目なら、潔く諦めるしかない。

 ホシノは覚悟を決めた。

 アビドスという末期的な学校で、入学以来の半年余りを小鳥遊ホシノという少女が一人戦ってきた戦場は、もとよりそういうものだったのだから。

 

 作戦目標を決めたホシノは弾薬庫から持てるだけの装備を掻き集めるとその足で校舎を出て、学校から一番近くの敵が即席で野戦要塞化していた前線基地代わりの建屋に正面から突っ込んだ。

 

 あっという間に制圧するやいなや、指揮を採っていたらしきケツにトンガリ尻尾を生やしたヘルメット頭をとっ捕まえて尋問にかける。

 最初は強固に口を割らない姿勢を貫こうとした生意気そうな尻尾野郎も、寝不足で隈の浮いたホシノの鬼の形相に睨みつけられ口内にショットガンの銃口を突きつけてドスの利いた声で脅しをかけられると、結局堪りかねて半ベソを掻きながら口を割った。

 不良にしては根性を見せたほうだ。褒めてやろう。

 

 

 

 

 

 

 昼過ぎ。アビドス市街地某所、ホシノはようやく見つけ出した敵の本拠地らしき建物に対して真っ向切って突撃した。

 

 戦術もクソもない大味に過ぎる正面突破は果たして、効果てきめんであった。

 だいたいにして、敵がどれほど入念に準備をしていたところで不良如きの放つ凶弾で傷がつくほど、ホシノのヘイローは柔ではない。

 この世紀末極まるキヴォトスに生まれ落ちてから十五年と少し、チャカの弾き合いで遅れを取った経験など一度もないホシノである。正々堂々と叩き潰して二度と反抗する気にならないようにしてやるのが武士の情けというものだった。

 

 

 見張りについていたチンピラ風を順ぐりに局所的な一対一に持ち込んで、小さな体の利点をめいいっぱい利用した各個撃破であっという間になぎ倒すとそのまま間髪入れず建物内に突入する。

 神速のヒット・アンド・アウェイは常識的な組織戦を想定した遅滞戦術を念頭に構築された防御網を面白い位に容易く切り裂いていく。

 一人また一人と敵を倒すうちにホシノは疑惑を深める。やっぱりコイツら普通の不良ではない。巧妙に偽装しているが持ってる装備の質が段違いだ。性能的にも値段的にも。だが一体なぜ?

 

 考えながらも見る間に浸透した出入り口近くで大量の物資が積まれた弾薬庫らしき部屋をみつけたホシノの決断は早かった。

 持ってきていた虎の子の手榴弾のピンを口で抜いて投げ込むと即座に近くの窓から身を投げ建物の外へと速やかに退避する。突入からまだ30秒と経っていない。

 そうして建物から飛び出す寸前、ホシノのオッド・アイは見た。横合から伸びてきた小さな足が、ホシノの投げた手榴弾を間一髪の完璧なタイミングで蹴り返すのを。

 

 

 アビドス市街。チンピラどもが屯するとある建物の外。

 やおら見張り連中が騒がしくなったかと思えば、突如窓から横っ飛びに飛び出してきた小さな少女がそのままの勢いでいきなり爆発した。

 少なくとも、傍目にはそう見えた。

 

 動物やロボットといった多様な姿の路行く市民たちは、不意を突かれたようにちらりとそちらを見やったきりすぐにも関心を失ってはやれやれと避難していく。

 キヴォトスという世界において銃撃や爆発を伴う喧嘩の一つや二つ、さして珍しい話でもない。ましていまや治外法権一歩手前にまで来ているアビドスにおいてはなおさらだ。

 

 

 もうもうと立ち昇る煙の中から、のそり(・・・)と少女が起き上がる。

 

 衣類こそぶすぶす音を立てて爆炎に焦げているものの、少女の表情は実に気怠げだ。

 まるで昼寝中に急に強烈なライトを浴びせられたかのように、眩しそうに目を細めながらのへっとした顔をした少女が言う。

 

「けほ。はー、なーるほどね~。つまり、君がこいつらの親玉ってわけだ。まったく散々勿体つけてくれちゃってさ、やーっと見つけたよ〜」

 

 少女の視線の先、飛び出してきたばかりの窓の内側にいる誰かを見据える。表情は依然、緩いままだ。

 

「ふーん……思ったよりちっこいんだね。なんかあんまり大したことなさそう」

 

 表情とは裏腹に、少女の吐く言葉にはまるで遠慮呵責のない毒が込められている。

 

 明確な敵意を一身に受けながらもさしてそれを気にする風でもなく、呼びかけられたもう一人の少女が窓のひさしを軽々と乗り越えて現れる。

 真っ赤なジャージにお決まりのフルフェイスヘルメットから、波打つ銀の長髪を無造作に溢れさせている。

 その頭上に禍々しいほどの威圧感を放つ巨大なヘイローを付き従えて、ピンクの少女の前に白銀の少女が降り立つ。

 

 ピンク髪の少女、小鳥遊ホシノが言う通り、その身の丈はお世辞にも大きいとは言えない。

 発言した当人からして1年生である事を考慮してもなお随分小柄なのだが、そのホシノと比較してもまだ小さく見えるのだから、言いたくなるのも分からいではない。

 だが、大したことなさそうかと問えば、大概の者は首を横に振るだろう。

 なんせ件の少女は、その細腕に本人の身長とさほど違わないほどの銃身を誇る如何にも無骨な機関銃をまるでそれが当然と言わんばかりに悠然と携えながら、さも今初めてその存在を認識したとでもいうかのように不思議そうに小首を傾げて物珍しげに対面の敵を見据えているのだから。

 ほぼ丸一日を費やした血みどろの抗争の果て、ついに本拠地を炙り出された町の不良の(ヘッド)の態度にしては、些か大物ぶりが堂に入り過ぎていた。

 

 ようやく探り当てた憎っくき敵の首魁のそんなどこまでもふてぶてしい態度を目の当たりにして、しかしホシノは実に嬉しそうに嗤う。

 いいね。そうでなくては面白くない。

 散々好き放題に暴れ回っておいて、いざ天誅が降るや急に悲劇ぶって命乞いなどされてしまっては寝覚めが悪いどころの話ではない。悪役なら悪役らしく、相応の矜持くらいは持っているべきだ。その方が存分に叩き潰せるというものだ。

 

「うへ。まあなんでも良いんだけどさ。んで」

 

 得物であるシンプルなショットガン(Eye of Horus)を見せつけるように構えると、眼前のチビの顔をヘルメットの鏡面越しに貫かんばかりに睨みつける。

 

 彼我の距離は10mもない。

 壁を背に立つ敵の機関銃がどれだけ高級品だか知らないが、この距離でそう易易と振り回せるようなブツではあるまい。取り回しの良さなら断然こちらに分があるはずだ。一息に間合いを詰めてゼロ距離から撃ち込めば一瞬で勝敗は決するだろう。

 

 コンマ数秒の間にそんな計算を終えたホシノが、最後通牒を突きつけるようにして発したその声は、外気の温度を一瞬で消し去るほどに冷え切っていた。

 

「ユメ先輩を、何処へやった?」

 

 意外なことに、自前の顔すら持たない人形(モブ)のように見えたそいつは返事をした。

 

「ユメ先輩?何のことかしら」

 

「へえ。とぼけるんだ? 早めに素直になっといた方が、後から痛い目見ないで済むのに」

 

 敵の答えはただ、小さく首を傾げるのみであった。

 メットの鏡面に阻まれて顔も見えないはずなのに、その時、ホシノは何故だか、嗤われたような気がした。

 そこが臨界だった。

 それ以上を猶予してやる謂れも義理も、あるはずがなかった。

 

 

 開戦と同時に、ホシノは深く身を沈めた。

 彼我の間を隔てる距離を一足で消し飛ばす、跳躍のための予備動作。

 ホシノの動きに相手は即座に対応してくる。照準はアバウトにしてとにかく速度重視で射撃体勢へ。その機関銃の出鱈目な連射性能を十全に生かす()があるのなら、一発必中に意味はない。

 

 良い反応だ。

 ホシノがほくそ笑む。

 

 想定通りの相手の動きを後の先で観て採ったホシノはフェイントの軸足を利用して倒れ込むようにして後ろへ跳んだ。自身の体を楯に隠し持っていた閃光弾が正対した敵の視界の中央へと転がり出る。

 明らかに戦闘用でないとはいえフルフェイスの鏡面越しでは意表を付くのが精々だろうが関係ない、数瞬でも気を引ければ充分だ。

 閃光が炸裂した時にはホシノはもう違う場所にいる。

 右利きの腰だめでは咄嗟に対応しづらいのを瞬時に看破して右周り敵を旋回するように突進し、その勢いを殺さないまま肉薄した建屋の壁を蹴り上げて三角跳びの要領で思い切りよく跳ね上がる。そのままチビの頭上越しに弾け飛ぶ身体にひねりを加えて慣性を強引に捻じ曲げると、空中で加点が貰えそうなほどに完璧な1回転半を決めながらピクリとも反応出来ずにいるヘルメットの後頭部に銃口を叩きつけんばかりに突きつけつつ着地する。

 まるで彼我の力量差を殊更見せつけるかのような非合理的な接近戦は、相手の戦意を奪うという治安維持目的のためにホシノが編み出したひとつの最適解だ。

 紫電一閃、身軽さを十二分に生かした神速のアクロバットによって目論見通りに背後を取ってみせたはずだったのが、何故かホシノの眼前狙いすましたような位置にはピタリと据えられた機関銃の銃口があった。

 

 息のかかりそうな至近で互いに銃口を向け合いながら、二人の少女が対峙する。

 

 

「へえ。思ったよりやるじゃん」

 

 

 強気な姿勢はあくまで崩さないままに、ホシノが少女に声をかける。

 まるで背中に目でもあるかのように苦も無く背後のホシノに銃口を向けて見せた少女が、顔ごとゆっくりと振り返る。

 初見でホシノの動きについて来てみせたその難敵は、あくまでも寡黙だった。

 だから、その言葉は表情一つ読み取れないフルフェイスの鏡面に跳ね返されて、図らずも自分の顔に向かって語りかけるような形になった。

 

 そいつは、なんとも酷い顔をしていた。

 濃い隈を浮かべた両の瞳に隠しきれない疲労の色を讃えて、一晩がけで砂漠の乾気に痛めつけられた頬はあちこちささくれだち、唇はあかぎれだらけで端からひび割れを起こしている。

 

 なんて無様な奴だろうと思った。

 

 この世の全てを恨むような拗ねた瞳に暗い憎悪の炎を燃やしたそいつは、何処からどう見ても悪から町を守る正義の味方には見えない。

 思い通りにならない世の中に全ての責任を押し付けて、我儘放題に暴れるだけの小さな暴君の姿がそこにはあった。

 

 

 

『それに、何でも武力で解決するようになったら、いつか自分を見失っちゃうと思うの』

 

 

 

 その言葉は、それまでの脈絡を全て無視するようにして、ふいにホシノの頭の上に降ってきた。

 それを聞いたのがいつの事だったのか、正確にはもう思い出すこともできないくらいに同じ時間を過ごすようになった先輩が、口癖のように口にするいつもの言葉。

 

 ホシノは思う。

 あのひとが言う事は、きっと正しいのだろう。

 

 本当は、ホシノだって分かってはいるのだ。

 こんなことをいつまで続けてたみたところで、何の解決にもなりはしない事は。

 

 だって、仕方が無いじゃないですか。

 誰に責められた訳でもないのに、ホシノは一人心の中で言い訳をする。

 喩え間違っていると分かっていても、それでも他に、どうすればいいのか分からないのだから。

 

 

 

 

 そうして、ホシノがほんの一瞬気を逸らした隙を見逃してくれるほど、今度の敵は甘くはなかった。

 

 至近距離から不意打ちに放たれた銃弾のその最初の一発目を躱せたのはMG42の大雑把な命中精度が生んだ偶然でしかなかったが、遣い手はそんな事は当然のように織り込み済みだった。

 驚愕に見開かれるホシノの眼前、轟音を響かせながら駆動するローラーロッキング機構が生み出す絶大なリコイルを右腕一本で完璧に押さえ込んでみせた敵は、紙一重で難を逃れて回避に入ったホシノの動きにぴったり合わせるせるようにしてその鈍重な銃身をまるで本物の電ノコさながらに軽々と切り返ししてくる。

 そうして射出された弾丸の縦列が織り成す芸術的な曲線が、さながら一本の鞭のようにしなりうねりながら、ホシノめがけて一直線に襲いかかる。

 精度の甘さを弾数でカバー?見当違いも甚だしい。遣い手の企図するがまま自在次第に弾幕を踊らせ、まるで玩具か何かのように重火器に振り回すソレは、少女の形をした別のナニカに違いなかった。

 あまりにも出鱈目なその攻撃にたまらずホシノは離脱を図る。

 彼我の射程の差を考えれば距離を取った方がなおさら不利になるはずだったが、そんな事を考えている余裕はもはやなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




その銃身を、振り回せんのかよ……!
いやバトル書けん
銃器とか全然知識が無いんで雰囲気です
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