梔子ユメの最後の冒険 〜チョロアホガールとポンコツ詐欺師の復讐劇〜   作:外柴葡萄

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未だ福音無き世界だとしても

 アビドス自治区、市街地中心から離れた旧市街の片隅にある、裏路地の枯れた噴水広場。

 

 マコトに指定された待ち合わせ場所には、なにやら厳つめのファッションに身を包んだ目つきの悪い少女が、如何にも話しかけるなと言わんばかりのオーラを纏って一人佇んでいた。

 少女は今どき珍しい有線イヤホンをこれ見よがしに両耳に刺して、音楽でも聴いているのか噴水の縁に腰掛けて目を閉じたまま、じっとして動かない。

 

 少し離れた小道からしばらく遠巻きに、恐る恐るという感じで様子を伺っていたユメが意を決して近づき話しかけようとすると、まるで最初から察知していたかのように目を開いた少女が、機を制して声をかけてくる。

 

「あなたが梔子ユメ? はじめまして、鬼方カヨコよ。マコトの奴から話は聞いてる、ついてきて」

 

「あの、マコトちゃんの友達の人ですか?」

 

 一度つけた弾みを止めきれないユメに、掛け違えた服のボタンのような噛み合わない言葉を投げ返されたカヨコは一瞬、素で怪訝そうな顔をした。

 イヤホンを引き抜きながら立ち上がり、ぶっきらぼうに答える。

 

「トモダチ……? 冗談でしょ。悪いけど全然、そんなんじゃないから……そういうあなたは、へえ。アイツに本当に友達なんていたんだ。正直、半分くらい狂言じゃないかと疑ってた」

 

 結構酷いことを言われているのに、そんなカヨコの言葉を聞いて、ユメはいきなりニコニコしだした。

 案の定、マコトちゃんは何処に行ってもマコトちゃんなんだなあ等と暢気に考えている。

 

 どうもユメの中の羽沼マコト像はいつの間にやら、どんな悪口を言われようとも平然と誰とでも友達になれるスーパーウーマンと化しており、従って彼女の理解ではマコトの悪口を言う者はイコールでマコトの友達、というとんでもない図式が出来上がっているのだ。

 

 初対面の相手に初っ端から友人を腐されておいて、何の含みも無さ気になぜか気分良さそうにしている、そんなおかしな女を前にして、警戒心も顕に予防線を張り巡らせようとするカヨコの方が却って面食らってしまっていた。

 

 対面のそんな戸惑いも知らぬげに、すっかり気を良くしたユメが勢い込んでカヨコに話しかける。礼儀正しく頭も下げる。

 

「あの!カヨコちゃんって呼んで良いかな? 私はユメ、梔子ユメです。マコトちゃんがお世話になってますっ」

 

「え。ちょ、そんなやめて下さい、先輩!分かりましたから……その、私の方こそ、すいません失礼な事言って」

「ううん、全然だよ!よろしくね、カヨコちゃん」

 

 そういってユメは、純然たる好意のみが籠もる信頼し切った笑顔を向けて手を差し出してくる。彼女は友達の友達は友達だと固く信じている。

 その手をおずおずと握り返しながら、キラキラした瞳から放たれる眩しすぎる視線から少しでも逃れようとするカヨコは、傍目にも分かるほど随分と困惑していた。

 臆病なハリネズミの如き慎重さで一部の隙も無く構築したはずの絶対防衛ラインは、針に貫かれるのをまるで意にも介さず踏み込んでくる距離感の怪獣の前では、どうしようもなく無力であった。

 

 彼女にしてみれば、はっきり言って、完全に想定外の人物像である。

 なんと言っても、あの羽沼マコトが大仰に先輩などと呼ぶ人物に会うつもりでやってきたのだ。

 一体どんな荒唐無稽な陰謀の片棒を担がされるものかと、内心で恐れと自暴自棄な好奇心を半分ずつ抱えていたカヨコにしてみれば、話が違うと叫びたくなるのも仕方がない話であった。

 

 

「……とにかく!ここまで手を貸した以上、引き受けた分の案内はさせて貰います。正直、貴方みたいな人がどうしてマコトなんかとつるんでるのか、見当もつかないけれども」

「うん!ありがとうカヨコちゃん。マコトちゃんみたいにしっかりしてないけど、私も頑張るね!」

 

 段々と、対面の先輩が心底何の衒いもなしにあの羽沼マコトを信頼し切っているらしい事を感じ取り始めたカヨコの脳裏に、嫌な理解が浸透していく。

 

「……貴方、ユメさん?本当に騙されてないのよね?今から何をするのか、ちゃんと理解してる?」

「?」

 

 ぽかんとした顔を向けてくるユメを見つめて、頭を抱えるカヨコが、せん方なしに提案する。

 

「……分かった。こうしましょう。マコトの奴が野暮用から戻るまで、まだ少し時間がある。何処かで座って、一旦落ち着いて話しましょう」

 

 

 

 

 

 そして結局、二人が近場の開いているサ店をなんとか見つけ、お見合いよろしく初々しく茶をしばきながら話し込んでから、予定の時間をたっぷり30分は超えても、羽沼マコトが姿を見せる事は無かった。

 

 口下手なユメのどうにも怪しい説明をその鋭すぎる洞察力によってなんとか補いながら、カヨコは息も絶え絶えといった有り様でどうにか事の経緯を再確認した。

 ユメの言葉をそっくりそのまま鵜呑みにするならば、まるで神か仏かと錯覚してしまいそうになるマコトの企む計画はまさしく悪魔の発想に違いなく、それより何よりあの羽沼マコトがほとんど嘘らしい嘘をついていなかったという驚愕の事実に打ち震えながらも、連絡一つ取れなくなった彼女の身に何が起こったのかをその優れた頭脳と元情報部員としての経験で大方察した鬼方カヨコは、次第に一つの信じ難い現状認識を確定させつつあった。

 その認識を、一言で簡潔に換言すればこうなるだろう。

 

 私がなんとかするしかない。

 

アビドスの借金にも、情報部の勢力争いにも、特段何の関係もないところに突然放り込まれた部外者はそうして、静かに決意を固めてしまう。

 とはいえ、対面に運ばれてきたパフェを心底幸せそうにほうばりながらもちゃもちゃ喋る油断し切った顔を見遣りながら、降って湧いたそのあんまりな想定外を前にしてカヨコはまだ当惑を隠せないでいる。

 例の一件で部を追われて以来、久しく使われていない錆び切った心の筋肉がギシギシ音を立てて駆動している気がする。

 

 だが、今まさに胸中に生まれつつあるその感情は、かつて彼女が予想していたよりもずっと、悪くない気分だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うなら、交渉は思いの外あっさりとまとまった。

 

 

 ホシノとヒナが死闘を繰り広げていたアビドスの市街地から少し離れたところにある旧市街。そのほぼ中央に聳え立つ巨大なビルの中。

 

 ユメとカヨコの二人はさっぱり連絡の取れないマコトを待つのを諦めて、ここセイント・ネフティス本社に列車砲を含む砂漠横断鉄道の権利再購入の交渉に訪れていた。

 建物の規模感に比べれば随分と閑散としているロビーを通り抜け、情報部時代に培った手管を駆使してカヨコがどうにか取り付けていたアポを受付で申し伝える。

 しばらく待たされた後に一人の機械の男が現れて、二人は二階にある小さな応接室に通された。

 

 鉄道事業の担当者だという陰気な空気を纏った男は最初、液晶表示の顔面にピコピコと慇懃な表情を浮かべながら胡散臭そうに二人の来訪者をじろじろ値踏みしていたが、ユメがアビドスの現役の生徒会長だと分かるや態度を急変させた。

 男の思考は実に分かりやすかった。

 表面上はへりくだった態度で用向きの伺いを立てながらも、内心では面倒事を持ち込まれるのを嫌がっているのが見え見えだったが、ユメの用件が砂漠横断鉄道の買い戻しだとわかると露骨に色気を見せ始める。男にしてみれば、願ってもない棚ぼたであった。

 

 日々アビドスの過酷な環境に晒されて、見る間に損傷を深めていく未完成の鉄道は、喩え仮に完成させたとて採算の取れる目などあるはずもなく、かといってそのままにしておけば、何処まででも永遠に価値を落としていく一方だった。

 そもそもこんな事態に陥った原因が、目の前の少女たちの前任者にあるのをよく知る彼にすれば、飛び出しそうになる恨み言をしっかり飲み込んだだけ自らの自制心を褒めたいくらいだ。

 とはいえ最近になって、アビドス中の土地という土地を買い占めまくっているあのカイザーグループからも鉄道購入についての商談が来ている事は来ていたのだが、その余りにも足元を見た値の付け方には正直頭に来ていたところでもあった。この際少しでも色を付けた値で処分出来るのなら上等である。

 しかしそうはいっても、腐ってもかつてはキヴォトスに勇名を馳せた大企業の重役である。当然のように旨い話には裏があることをまず疑った。こんな不良債権の見本のような産物を買い戻して、彼女らは一体どうするつもりなのだろう。

 

 そんな男がデジタル表記の仮面の下に隠した思惑を敏感に察知して、交渉の席につくユメの後ろで付き添いのように突っ立っていたカヨコはそっと嘆息する。

 だいたい事前に予想した通りの反応だった。

 

「私共と致しましては、願ってもないお申し出と存じますが、何分急なお話ですので……色々と社内で調整いたしません事には。しかし、つかぬことをお伺い致しますが、どうしてまた買い戻されるおつもりに?前回に弊社の方でお引き受けするというお話になってから、まだそう経ってもおりませんが」

 

 用心深く様子見してくる男の質問に、対面に座るユメは何の迷いもなく答えを返した。

 

「だって。せっかくアビドスとネフティスの人が一緒になって自治区を復興しようとして造ったものですし、このまま無かった事になっちゃうのは悲しいなって。アビドスに遺されたものはもう少ないですけど、私はできるだけ多くのものを、後輩に残してあげたいんです」

 

「……」

「?」 

 

 カヨコが苦心して教え込んだ列車砲入手の方便を、ユメは実に巧みに自己流の言葉に落とし込んでみせた。

 内心ではこの建前を、どれだけ本当らしく見せられるかが交渉の肝だと睨んでいたカヨコも、あまりにも自然体で何も考えていなさそうな顔をして見せるユメの胆力に舌を巻く。

 こうした交渉の青写真を描くだけならともかくとして、直接対面して化かし合いに興じるのは彼女にしてみれば些か心理的なハードルが高かった。

 毛ほどもそんなつもりは無かったのにも関わらず、後になってから脅しを掛けられたと訴え出られてちゃぶ台を返された過去の苦い経験は、今でも彼女の胸の内にかさぶたのようなしこりを残している。本人にしてみればきわめて普通にしているつもりなのだが、真剣になるほどに鋭さを増すカヨコの相貌は、対面の相手にしてみれば畏怖を覚えすにはいられないほどの威圧感を与えてしまうようなのだった。

 

「……たいへん良く分かりました。今すぐにとは参りませんが、此方と致しましても出来うる限り前向きに検討させて頂きたいと存じます……どうでしょう、正式な書類を準備する時間と合わせまして、明日の同じ時間にお越しいただければ、仔細準備致しましょう。こういう話は早い方がよろしいでしょう?」

「! ほんとですか!? うわあ、ありがとうございます!」

 

 なんの屈託もなく喜ぶユメの様子を見てとった男が内心でほくそ笑む。その様子を見たカヨコも胸を撫で下ろす。ともかく交渉の最大の山場は越えたと言ってもいいだろう。

 

「ところで、お値段の方なのですが、此方と致しましては……ヒッ!」

 

 すかさず葱を背負ってきたカモから尻の毛まで毟ろうとする汚い大人の気配を察知したカヨコが、それまで努めて隠してきた気配を俄に解き放つや、ぎろりと交渉相手を睨み付ける。

 

「? どうかしましたか?」

 

「い、いえ。お、お支払いは、前回のお取り引きで此方がお支払いしたのと同額でっ如何でしょう? たしか総額で、百万程であったと記憶しておりますが」

「じゃあ、それでお願いします!」

 

 アビドス生徒会に今も所属する残虐極まる鬼の副会長の存在を、ぼんやり噂だけで知っていた担当者の男が震え上がりながら提示してきたその金額を受けて。

 カヨコの小難しい説明の要点を単純に、列車砲については話してはいけない、とだけ理解していたユメは、何にも考えないままのホクホク笑顔でにっこりと承諾したのだった。

 

 

 

 

 

 問題は後になってから発覚した。

 

 

 余りにもあっさりユメが請け負ったもので、カヨコもうっかり何か当てがあると思い込んでいたのだが、百万などという大金はユメの手元にあるはずもない。

 

 今更ながらに慌て始めたユメは何を期待したものか、カヨコの眼前に彼女が危なっかしく運転してきた砂漠仕様のジープの荷台に満載されていた、怪しげな金銀財宝をおずおずと披露して見せる。

 話には聞いていたものの、実際に目の当たりにすると正直コメントに詰まらざるを得ない、彼女の資産を見せつけられて、カヨコの目元が引き付けを起こす。

 本契約の期限まで、残りわずか一日である。 

 

 

 

 そうしてカヨコが新たに持ち上がった問題への対処方を思案し始めた時に、無造作にポケットに突っ込まれていたスマホを震わせて、その連絡はやってきた。

 

 なんという気もなく、スマホを確認したカヨコの思考が一瞬で停止する。

 次から次に、目まぐるしく持ち込まれる問題の対処が少し楽しくなりかけていた彼女の、常から鋭い眼光が窄まり、側にいたユメが一瞬怯える程の怒気が身を包む。

 

 

 そこに表示されていたのは、ずいぶん久しく連絡の無かった、“あの女”からの着信だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日々刻々と砂漠化が進むアビドスの自治区から見るなら離れて北方、広範な領域を無数の学園政府が分割して領邦するキヴォトスのほぼ真ん中にあたる一帯にD.U.と呼ばれる、どこの学園にも属さない連邦生徒会によって直轄で運営される地域が存在する。

 その上空に、連邦生徒会が本部とする、遥か蒼天を貫く白き異形の尖塔を天守に戴く摩天楼の如きビルを離れて、今まさに飛び立った飛行船の姿があった。

 

 楕円形の船体いっぱいに浮揚ガスを詰め込んで航行するその機体の上部、進行方向へ向けられた切っ先寄りの位置に巨大な光の輪を冠する船は一路、南へ向けて進路を取っている。

 その下腹部に取り付けられた船室の乗客用観覧席から、遥かに見渡せる外界の町並みを睥睨する者たちがいた。

 

 

「ねえねえリンちゃんリンちゃん。見てほら、あそこ! なにか動きましたよ? もしかしてクジラかなあ」

 

「誰がリンちゃんですか。連邦生徒会長、何度も申し上げるようですが、いい加減お立場をご理解なさって下さい。私如き一介の職員にそのように気易く接されると、組織の規律に障ります」

「ええーっ。だって、折角の同い年なのに。リンちゃん冷たい、ぶー」

 

「だってもへったくれもありません。サンクトゥムタワーに選ばれ、その管理者権限というこのキヴォトスに於いては神にも等しい力を有する限り、それが喩え年端もいかない童女であろうと、もはや一般の生徒とは遥かに隔絶された存在なのです。よほどご存知でしょうに。ましては貴方の次の継承権保有者である例のゲヘナの少女は未だ中等部にも上がっていない本物の幼子、タワーの正式な認証を受けられるまで何年かかることか分かりません。貴方にしっかりして頂かねば天下の趨勢に関わります。あと、リンちゃんではありません。連邦生徒会長」

 

「つーん。いいもん、じゃあもう一人で観てるもん。後で観たくなったって貸してあげませんからね、双眼鏡。あっ、また何か跳ねた!」

「はあ、まったく」

 

 水色の髪にまばらに桃色の混じった不思議な髪色をした少女は、展望室のパノラマから遠く臨める大海原を眺めて、そのまましばらくはしゃいでいた。

 やがて一人で騒ぐのにもようやく飽きたのか、傍らに侍るお気に入りの秘書官を捕まえておもむろに話し始める。

 

「そういえばだけどリンちゃん、昔録った私の生体データって結局どうなったのかな?D.U.の何処かの研究所で解析にかけるって話になってたのまでは覚えてるんですが」

「急に何の話ですか、連邦生徒会長。いつも言っていますが、順序立てて話して頂かないと。ただでさえ貴方の話についていくのは難しいのですから」

「さっき言ってた管理者権のスペアの話。緊急時の為に迂回路を準備しようって計画があったんですよ。何年前だったかなー」

 

「……そんな昔の話を、この間着任したばかりの私が把握していると思いますか?」

「ううん、聞いてみただけ。リンちゃんの話聞いてて思い出したの。そういえば別の使い道もあるなって」

「そうですか。気にかかるようでしたら調べてみましょうか?過去の行政文書を遡れば何か記録があるかもしれません」

「んー、やっぱ良いかな。まだただの思いつきですし、もうちょっと暇になってから考えましょう。ふう」

 

 そういうと水色の少女は高級そうなソファに座る秘書官の隣にどっかり腰掛けると、全身を弛緩させ休息の体勢に入る。

 全キヴォトスの頂点に君臨する比類なき才媛のそんな、まるで日曜の休みに居間で寝転がるサラリーマンのようなだらけぶりに、秘書官がひっそりと笑みを溢す。

 

「うー。それにしても、アビドスで一体、何が起こっているのでしょうか。先程感知されたエネルギー反応は、ただごとではありません。あの地域についてはこれまでも色々と調査をしてきましたが、例の計画が頓挫した今になってから急にこんな事になるなんて」

「現地では原因不明の通信障害も発生しているようです。そうでなくともあそこの自治区とは、前の生徒会が解散して以降はほとんど情報の遣り取りがありませんし、現地に行ってみないことにはなんとも。もっとも資料に拠れば、現在も残っている生徒はわずか二名とのことですので、果たして状況を把握している者がいるかどうか」

 

「……仕方がありません。それも私達の見落とし、失敗が生んだ結果なんですから……とはいうものの、ハア。せっかくあちこち頑張って、なんとかティーパーティーの皆さんを説得して、三大校の内二つもの生徒会の援助を得た未曾有の学際救援機関の創立へ向けて、条約締結の草案がまとまりそうだったのに。まさか雷帝さんの方があんな風に失脚してしまうだなんて、想定が外れました。おかげで事後処理でくたくたです」

「ゲヘナ学園は伝統的に多種族主義を標榜してきた関係で、市井の氏族連や民会……それらが担ぐ議会議員達の発言力が強いですからね。表面上は盤石な独裁体制を築いて見えたとはいえ、水面下では不満を募らせていた勢力が思いの外多かったのでしょう。特に観光協会と対立したのが決定的だったようです。保養地の開発権を強引に破却して資源採掘場への転換を断行したのが暴動の発端だったとか……少しばかり性急に過ぎたのかも知れませんね」

 

 岩を飲んだような顔で秘書官の分析を聞いていた少女が、苦虫を噛み潰すようにして断言する。

 

「でもリンちゃん、急がないと。もう既に被害は出てしまっているんです……アレが一体いつ頃から活動を始めていたのか。全く定かではありませんが、標的が一つだけとは思えません。放っておけばきっと、次はもっと酷い事になります。リンちゃんが嫌いな勘、ですけど」

 

「……いいえ、会長。今回ばかりは、私もその判断は間違っていない気がしています。それに私、これでも直感や虫の知らせといった迷信の類は無下にしない事にしていまして」

「あれ、そうでしたっけ???うーん……記憶違いでしょうか?」

 

「……会長、やはりお疲れなのです。無理もありません。中核と目されていた雷帝を失って以来、条約凍結の、責任追及に紛糾する議会をまとめるために連日、徹夜されていたのでしょう?」

「だ、だいじょーぶだよこれぐらい!自治区や学校、日々生きる場所を失ってしまった皆さんの苦しみに比べたら、なんてことありません!へっちゃらです!あっ……」 

 

 そういってやにわに立ち上がり、頑健さをアピールしようとダブルバイセップス・フロントのボーズを取ろうとした少女は、貧血でも起こしたのか、たたらを踏んでふらつくとそのままその場でうずくまってしまった。

 

「か、会長!?しっかりなさってください!……やはり大丈夫ではありませんっ。いますぐにでも仮眠を取られるべきです。移動中の間ぐらいでしたら雑事の処理程度、私でも代行できますから……すみません、どなたか手空きの職員はいらっしゃいませんか!会長をすぐ救護室へ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 開業!アホの子メンタルクリニック
 現代社会の荒んだ人間関係に疲れた貴方を、デッドエンドがほぼ確定している主人公が優しく癒します。ひでえ
 

 そしてついに姿を現す、全ての黒幕こと超人、連邦生徒会長。
 おのれ、独裁者め。僕らのカイザーに何をした。
 許さんぞ陸八魔アル。とっとと眼鏡を外せ。
 

 いや、なんだこのテンション
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