梔子ユメの最後の冒険 〜チョロアホガールとポンコツ詐欺師の復讐劇〜   作:外柴葡萄

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暴かれた玄室の奥に

 広大な『生徒会の谷』の片隅、砂漠の地下のかつて宝物が並んでいたはずの伽藍洞の展示室を探索しながら、梔子ユメは一人ぷんすかしていた。

 

 せっかく見つけ出した伝説の谷に隠された秘宝を探し出すまたとない機会だというのに、ユメの宝探しの案を聞いたマコトの反応はにべもなかった。

 

 マコトにしてみれば、かつての生徒会時代に既に何度も訪れていた場所であったし、アビドスの衰退が始まって以来歴代の生徒会が事あるごとに資金捻出のためその所蔵品を売り払ってきた事を知っていたので、今更大した金目の物が残っているとは思えなかったのだが、初めて谷に訪れたユメの膨れ上がった期待はそんな言葉で折れはしなかった。

 やれ時間の無駄だの選択と集中だのと難しげな言葉を並べ立てるマコトにいたく立腹したユメは「マコトちゃんのわからず屋!契約知らずのへっぽこ悪魔!そんなに電車が好きならハイランダーの子になっちゃえばいいでしょ!」の捨て台詞とともに飛び出して、こうして一人狭い地下に籠もって宝探しに邁進しているのだった。

 

 

 意外かもしれないが、ユメには自信があった。

 

 その半分は希望的観測に基づく根拠のない過信だったが、もう半分はユメなりの理論に基づく確固たる確信であった。が、それをこともあろうにあの屁理屈魔神を相手にして順序立てて説明出来るほど口達者でない自覚がユメにはあった。

 説得を早々に諦めて飛び出してきたのは、その自信がマコトの理屈によって容易く破壊されてしまうのが怖かったのもあるかもしれない。

 

 本来収まっているべき廟の主が悉く出払って、閑散とした空き部屋が並ぶ展示室はちょっとどころでなく気味が悪かったが、半ば怒りによって突き動かされているユメは心細さを敢えて気にしないようにしてずんずん奥へ進んでいく。

 

 

 谷に入ってすぐ、列車砲が鎮座している地上の一角は巧妙に要塞化されており、拠点防衛用の迎撃システムや火砲が至る所に顔を出していた。

 元々聞いていた宝物を収める展示場としてなら、全く必要のないはずの設備である。

 だが基の遺構の上にうまく溶け込んではいるものの、表の軍事設備にはゲヘナの校章が入っていたりするように明らかに後から増設されたものであり、注意深く観察すれば、地面に敷かれた敷石や壁材のレリーフといった基礎にあたる箇所にはアビドスに特有の意匠が施されているのが分かるのだ。

 そうした表層を離れて広い基地の奥深く、本来の施設の面影が色濃く残った一帯へと入って行くに連れてユメはますます確信を深くする。

 ゲヘナの手が入っているのはこの広大な「記念館」のあくまで一部分であって、深部に収められた本命は実は今もこの奥で眠っているのではないだろうか。

 

 見て回る内になんだかワクワクしてきたユメの足取りはどんどん軽くなり、ついにはスキップまで混じりだす。

 

 マコトの説得など試みなくて良かったのかもしれない。まるで理論化などされていないのだが、趣味で各地の遺構を回ってきたユメにはなんとなくだがその傾向が分かるのだ。

 この谷はおそらく、百年前とかの一つの時代の生徒会だけで作ったものではなく、長い時を越えて幾度となく改修や増設を繰り返してきたものなのではないだろうか。

 最表層のゲヘナが持ち込んだ部位に限らず、時代的に矛盾した装飾パターンが唐突に切り替わっている境のような箇所がいくつも見つかるのだ。

 他にもユメには、入口以外に明かり窓一つ無い薄暗い展示室の奥に入り込んでぐるぐるしていても、ちゃんと出口の方角が分かる。室内の壁を延々と続く幾何学模様のレリーフには実はあるパターンがあって、つぶさに観察すればどこでも最寄りの出口の方角と距離が分かるようになっているのだ。

 こうした基本的な装飾の規則は、時代ごとに細かな特徴に差異があるもののずっと共通しているアビドス固有のものだ。

 

 想像でしかないが、百年くらい前まではこうした装飾コードはアビドスの代々の職人達にきちんと伝達され、受け継がれていたのではないだろうか。

 そんな事を想像しながら壁を見ているだけで、なんだか楽しい気持ちになってくる。

 

 

 ところで、ホシノには何度話しても信じてもらえないのだが、ユメには実は方向を探すのが得意だという隠れた特技がある。

 暗い夜道や建物が周りにない砂漠の中を歩く時でも、自分が今どちらを向いているのかがいつも何となく分かるのだ。

 そのせいかユメには、砂漠の民には当然のはずのコンパスを持ち歩くという習慣が無かった。無くて困ったことがほとんどなかったからだが、しばらく前にユメが町の不良集団に攫われた時には大変だった。

 流石のユメでも、目隠しをされて暗い荷台に押し込まれたまま見知らぬ砂漠の真ん中に放り出されてしまえば、自分の位置など分かるはずも無かったのだ。

 この時ユメを探し出すのに散々苦労したホシノは爾後、ユメがコンパスを待たないのを知って激怒した。

 以来、事あるごとにコンパス不携帯をネタにいびられてきたのだが、冷静に考えれば誘拐犯がわざわざ人質に脱出の助けになる道具を持たせておくはずもない。

 なので、仮にこの時ユメがコンパスを携帯していたところで、スマホ等と一緒に取り上げられていただろうことを思うとこれは少々理屈に合わない主張なのだが、怒れる桃色小台風にはもはやそんな些細な筋立てなど通用しなかった。「なんでそんな変な所で見栄を張るんですか。もっと他に気にするところあるでしょう」というのが当時のホシノの言である。実に手厳しい。

 

 

 しかして、しばらくの間くるくると暗い展示室を歩き回って頭の中に大まかな地図を作り出していたユメはある時、展示場の目立たない一角にまるで普通に歩いていれば自然と足が向かなくなるように意図したような、小さな廊下があるのに気がついた。

 唯一の光源であるスマホのライトをかざして、周囲の壁を照らしてみる。壁にはこうあった。

 

 

『  スタッフ専用 来場のお客様の立ち入りはご遠慮下さい  』

 

 

 さらにその表示の下には、マーキング用らしい色気のない塗料で何やらでかでかと走り書きされている。ひどい癖字だがなんとか判別はつく。

 

 

 

『 要調査ポイントD 重要性評価A+ 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユメが砂漠の地下で一人冒険に張り切っていた頃、地上のマコトは列車砲の調査に腐心していた。

 

 一通り周囲を回って目に付く損傷が無いのを確かめてから、タラップを登って本体に取り付く。

 基地司令室に無造作に放置されていた鍵でハッチを開いて乗り込むと、狭い通路に身を縮こませながら中央にある動力室に向かう。折々スマホで資料写真を撮るのも忘れない。

 

 これだけの巨体にも関わらず、列車砲の内部は驚くほどに狭かった。

 

 動力室と通路一本で繋がるようにして、本体車両前方に申し訳程度の車長席が設けてあるが、左右に侍る牽引車に視界のほとんどを塞がれていて、その視認性は最悪の一言に尽きる。

 実戦使用するなら指揮官は牽引車の方に乗るか、さもなければいっそ別車両から監督した方が良いだろう。

 主砲の上に文字通り乗っている副砲砲座と一体化した管制官席は視界だけはすこぶる良いが、主砲の射角に拠って恐ろしく傾斜がかかる上に本体車内と完全に独立しているために、もはや無線で外から号令するのとあまり変わらない。

 司令席ですらそんな扱いなのだ、ましてや他の乗員の快適性など推して知るべしといった無頓着さである。

 

 

 要塞兵器等と銘打ってはいるが、その仕様と兵器特性を考えるなら本来この兵器はあくまで超長距離からの一方的な砲撃戦を想定したものであるはずで、要塞としての機能はおまけに過ぎないのだろう。

 設計者が精神をおかしくしたのだとしか思えないその主砲の威力を企画通りに発揮し、作戦目標に合わせて線路上を自由に移動出来さえすれば、取り回しや快適性などといった些事はどうでも良いのだ。

 そもそも主砲の回頭機能すらないのだから、本体のみでの防衛戦闘など臨み得るはずもない。本質的にはこの基地のような補助設備ありきの、移動もできる固定砲台なのだ。

 

 だがだとすれば、なぜここまで余裕のない造りになっているのかという逆の疑問が湧いてくるところだが、その要因は本体の体積の特に上層部の大半が主砲とその照準機器で構成されているのに加えて、残った下部のほぼ全てがこの動力室に横たわる謎の黒い箱に占拠されている為だ。

 

 動力室と名がついているくせに、実はこの列車砲の機関部に当たるはずのこの部分は、その巨体が移動するための推進機関としての機能を一切有していない。

 列車砲が線路を走る上での動力は全て、左右に連結した牽引車両の強力な機関部に依存しており、その介助無しではこの列車砲本体は自力で走行すら出来ないのだ。

 

 ではいったいこの馬鹿げた鉄箸の如き主砲の下に箸置きのようにくっついているお荷物(デッドウェイト)が何のためにあるのかというと、これがさっぱり分からない。

 

 マコトはかつてその開発に当たって起動テストに何度か立ち会ったことがあるが、それに際して一度たりともこの動力室が稼働しているのを見たことがない。

 だから確かな事など何も言えないのだが、いかに巨大な砲だといってもたかだかその照準や管制のためだけにこれほど大掛かりな動力やシステムを必要とするものなのだろうか。

 

 目的すら不明な機構であるにも関わらず、その開発に失敗したというだけでそこ以外のほとんど全てが完成していたというのに、それまで費やした多額の損失も顧みず列車砲の開発計画そのものが完全に凍結したという事実が、その疑念に拍車をかけている。

 

 

 いったいあの女は、こんな物をつかって何がしたかったのだろう。

 

 

 

 どれが何のスイッチなのかも分からないままコンソールに向かい、適当な操作を一通り繰り返して何の反応もないのに飽きたマコトが嘆息する。

 苛立ち紛れに最後に一度ぶん殴ってみるが、深い海の底のような真っ暗な画面にはさざ波一つ立ちはしない。

 

 やはりこれは始めから失敗作、もしくは不良品なのだろう。

 

 自力で調べるのは諦めて、専門家に解析を頼もうとマコトは方策を練り始める。

 とはいえ伝手などあるわけでも無い。

 まずはミレニアムのどこかの部活と接触するところから始めねばなるまい。少々不安はあるが、やはり有名なエンジニア部あたりが妥当だろうか。

 

 

 ミレニアムサイエンススクールは、最近になって三大校に数えられるほど力をつけてきた新興勢力だ。

 

 その政治的な立ち位置は未だはっきりしないが、基本的には実利に聡い機会主義的な単純(シンプル)な校風のはずである。少なくとも、ゲヘナやトリニティほど歴史的なしがらみは多くないだろう。

 学術的な価値のある研究材料だと思わせられれば、一部の好事家達はあちらから頼んででも調査に協力しそうな手応えはある。

 統括団体のセミナーの目さえ盗めれば、巻き込むのはそう難しくないはずだ。

 

 何よりあそこは、連邦生徒会と適度な距離を保っているのが良い。

 醜い政争に巻き込まれたくないのか知らないが、それだけの勢いがあるにも関わらずミレニアムは基本的に連邦議会への関心が薄い。金なら出すから放っておいてくれと言わんばかりだ。

 実際近年では多くの発明がミレニアムから生まれ、校の資金繰りは相当恵まれているらしい。

 雷帝という規格外(イレギュラー)を失ったゲヘナの技術力が追いていかれる日も、そう遠くないかもしれない。

 

 

 前にユメに語ったように、基本的にマコトはミレニアム系統の発明は役に立たない嗜好品だと考えている。対してゲヘナの雷帝の手になる発明品は、偏執的な程に突き詰められた機能主義の結晶だと言って良い。

 発明家であるとともに政治家でもあった雷帝は徹頭徹尾、意味のあるものしか作らなかった。その意味するところは詰まる所、兵器開発の専門家(スペシャリスト)である。

 だが、最近マコトはこうも思うのだ。結局のところ兵器も嗜好品も同じなのではないかと。

 

 古今東西、軍隊というものはいつだって金食い虫だ。

 兵器開発は言うに及ばず、その維持費や兵員の育成、強化にだって金がかかる。その上いざ戦争を始めてしまえば支出は更に跳ね上がる。

 日々消費される弾薬や兵士の補給のためにも、平時から常に有事を見越して予備を作っておかねば戦争などやっていられない。そしてそんなものは、気にしだしたら切りが無い。

 にも関わらず、普通の産業と違って、軍隊は基本的に何も生産しない。

 国の貴重な資源をあらん限りに投入して、それをただ消費するだけの最悪の業種こそ軍事屋という連中だ。

 もちろん軍隊が強大化すれば軍事関連の業種は潤うだろう。だがその富は行政体単位で見れば他業種から吸い上げ、支えられた上で成り立つ歪な繁栄だ。

 結局のところ軍隊がその役目を果たし利益を上げる方法など、戦争に勝って敗者から賠償やその領土を奪い取って揚げる戦利品でしかありえないのだ。そしてそれにしたって、結局最後に物を言うのは戦後処理に従事する政治屋の腕次第だ。戦争に勝って却って国庫が傾いた事例など歴史に事欠かない。

 まさに今マコトがやろうとしている事も、同じ理屈だ。

 アビドスはもはや自治区としては余命宣告を受けたに等しい状態だが、そんな敗者であっても外交さえ上手く捌けば勝者を手玉に取って実質的な勝利を得る事は不可能ではないのだ。戦争も所詮、外交の一手段でしかないのだから。

 他校の兵器開発に協力してその口実を与えているようでは、一体何のための事業だったのか分からないではないか。もっとも、裏切り者さえいなければ起こり得なかった事象なのかもしれないが。

 

 要するに戦争などというものはとどの詰まり、人の命をかけた究極の虚業(エンタメ)なのだ。

 

 安全保障など所詮、安心などという心の内にのみ存在する虚像を言い値で買っているに過ぎない。どれだけ準備したところで略奪者や無法者が消えてなくなる事などないのだから。

 真の意味でそれを実現したいなら、悪の組織よろしく世界征服に邁進し統一政府でも作るほかあるまい。もっともそんな野望が完遂された例などないのは、今の世相が全ての答えだ。如何なる時代でもいずれ滅びる定めにあるのが悪の習わしというものだろう。

 

 結局のところ、雷帝はそこのところが分かっていなかったのだ。

 あれを礼賛し祭り上げた連中にしたところで、最初はあの稀有な才能の生み出す機能美の粋を極めた作品に酔いしれ、そこに投資することで他校を圧倒する力を得られると夢想したのだろうが、夢は所詮どこまで行っても泡沫だ。財政の破綻という現実に打ち勝つ程の力は無かった。

 なんせあれには、手塩にかけて作り上げた傑作を披露する舞台がなかった。

 単なる芸術家なら好事家(スポンサー)の家に飾って金を貰えればそれで良いかも知れないが、国家事業となればそんなわけには行かない。飾られない芸術と同じで戦場のない兵器などゴミに等しい。

 そして戦争で最も重要なのはいつだって大義名分だ。要は政治屋の分野だ。技術屋(夢想家)に扇動された戦争など悪夢でしかないだろう。まして軍事(手段)外交(目的)を取り違える政治家など論外だ。

 

 そういう意味では、ミレニアムのような学校が力を持ち始めたのはある意味歴史の必然なのかもしれない。

 同じように何も生まないどん詰まりの発明でも、嗜好品の方が人を苦しめないだけまだマシだ。世の中には案外、夢を買うためならどれだけ(人生)を浪費してもそれで満足する手合いは多いのだ。

 

 

 

 

 

 

 動力室の床に座り込んだマコトは、さして広くもない部屋に荷物をぶち撒け始めた。やることを決めたマコトの行動は早い。

 携帯用の小型端末を立ち上げてみれば、驚くことに基地の通信設備がまだ生きていた。これ幸いとタダ乗りして、前からアタリをつけていたチャットルームに接続する。情報部の支給品もそう馬鹿にしたものではない。

 

『いきなりで悪いがここはエンジニア部の連絡窓口で間違い無いか?少しばかり手を借りたい案件があって連絡したのだが』

 

 交渉に際して主導権を握るのは重要だ。

 こういう時マコトはまどろっこしい挨拶などしない。相手の都合など気にしないというアピールがポイントだ。

 それに餌の準備さえしっかりしていれば、礼儀どうこうで会話すら拒否するような頭の固い連中ではないはずだ。

 

 返事は思っていたより数倍早かった。

 とっとと用件を送りつけてから様子を見ようとしていたマコトの手が止まる。

 

『ご利用有難う御座います。こちらはヴェリタスカスタマーサービスです。製品の発注でしたら専用サイトが御座いますのでそちらをご利用ください。veritas.co.mill/xxxxxxxxxxxxxxxxxxx』

 

 ヴェリタス?

 聞いたことがない単語だった。

 念の為マコトはリンクを放置して考える。まさかウィルスが仕込んであるという事もあるまいが、用心するに越したことはない。

 とりあえず『ヴェリタス』を検索エンジンにかけてみるがめぼしい情報は引っかからない。

 

 そうこうしている内にチャット欄には新たな文章が書き込まれ始めた。

 

『ご機嫌よう。 

 何やら珍しい地域からのお客様ですね?

 せっかく実験用に用意したというのにどうにも反応が悪いですし、もしかすると言うまでも無いかもしれませんが先ほどの返信はAIが自動で送ったものですのでお気になさらないで下さい。 

 ところで貴方は非常に稀な幸運の持ち主ですね。

 実を言うと私は普段非常に忙しいのですが本日はたまたま手が空いております。

 よって何かご要件があるようでしたら直々にお伺いいたしましょう。 

  砂漠で軍用回線をご利用のどなたか知らぬ方 』

 

 

 なんだコイツ。

 

 画面の前でマコトは一人困惑した。

 エンジニア部への窓口だと思って繋いでみたのに、チャットルームに現れた謎の存在はどうにも得体がしれない。

 だが先手を取られて応手も返せず撤退では、羽沼マコトの名が廃る。どうにかして対話をしようと試みる。

 

『お前は何だ?馬鹿にしているのか?こんな見るからに怪しいリンクこのマコト様が踏むと思ったか?それよりヴェリタスとは何だ?エンジニア部ではないのか?』

 

『まあ!

 やっぱり怪しいですか?

 成功です。

 こんな怪しいもの見つけたら私なら徹底的に解析して正体を暴きたくなるはずなんですか、どうやらみなさんそうでもないようでして。

 意外と知的好奇心に乏しい方が多いんですね?

 退屈していたんです。

 ところでマコトさん?は一体どういったご要件でエンジニア部へ?

 状況から察するに砂漠で遭難されての救難要請でしょうか?

 エンジニア部は確か前に遭難者用のサバイバルキット付きの体験型人生ゲームを販売していたような。

 クレームでしたら正規のHPの方へどうぞ? 』

 

 なんだコイツ。

 

 わざとやっているのだろうか。

 どうにも要領を得ない相手の飛躍する話しぶりに、流石のマコトも警戒を通り越して薄気味悪くなってくる。

 

『お前は、なんだ。私はエンジニア部に用がある。解析を頼みたい研究対象があるのだ』

 

『あら、共同研究のお誘いでしたか。

 なるほどそれでしたら確かにそのような特異な場所から連絡されてくる事もあるかもしれませんね?

 ひょっとしたらその研究対象というのは今もお近くにあるのではないですか?

 先程からそちらの基地局の情報を解析しているのですが、非常に興味深い設備をお持ちのようで。

 マコトさんはゲヘナ学園の方なのでしょうか。是非ともお話をお聞きしたいですね?

 ところで私、ヴェリタスの代表を務めます明星ヒマリと申します。

 どうぞご贔屓に 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い地下の穴蔵を彷徨ってユメが見つけた通路の先には、不思議な空間が広がっていた。

 

 遠く高い壁の先に見上げる上空には、崖の淵に切り取られて細く伸びる空が見える。もうそろ日も落ちて来る晩夏の暮れの空が次第に夕闇に沈みつつある。

 

 崖の淵の少し下には、あれはキセキレイであろうか、雀を一回り大きくしたようなこぶりな鳥の番が巣を造っていた。

 子育ての季節には少しばかり遅い気がするが、巣には数羽の雛が孵っているらしく周囲を飛び回る親鳥が巣に近づく度に盛んに鳴き声を上げている。

 

 どうやらそこは『生徒会の谷』を進んだ先、深い枯れ谷の狭間にある小さな段丘のような場所らしかった。

 さして広くもないその空間は、切り立った岸壁に遮られていて谷の上からは到底見つけられそうもない位置にある。数歩行った先はまた断崖になっていて、覗き込んだ谷底は目が眩みそうなほどに深い。

 

 そんな珍妙な空間にあって、ユメの眼前に対峙するのはこれまた珍妙な一羽の大きな鳥。

 

 アオサギである。

 

 脚の先から頭の先までしっかり測れば1mほどにもなろうかというその鳥が、古びた石像の上に停まってじっとユメを見据えていた。

 

 

 段丘の端、最も開けた位置にぽつねんと置かれ雨風に存分に晒されて風化しきった石像を足場にしているアオサギの視点は、ユメの頭よりも少し高いところにある。

 

 石室を抜けてきたばかりで闇に慣れたユメの目には、対岸の断崖の照り返しを受けて逆光になっている鳥の姿はひどく眩しく映った。

 

 

 

 しばらくの間、一人と一羽でそんな無言のままに見つめ合う時間を過ごす。

 

 

 

 

 ユメの目がようやく光に慣れてきて、そのキレイな鳥にもう一歩近づこうとした瞬間、何かに反応した鳥がユメの横の空間に視線を移す。

 

 ユメの左後ろ、鳥に気を取られている間に密かに近寄ってきていた何者かが背後からユメに襲いかかる。

 

「え。ひぇあああああああああああああああああぁっ」

 

 ひとたまりもなく組み敷かれたユメは、為すすべもなくその何者かに降伏する。

 

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ泥棒じゃないんですちょっと宝探しをしてみたかっただけでゴメンナサイ呪わないでゴメンナサイゴメンナサイ」

 

 

 

 突然騒ぎ出した闖入者達に辟易したのか、アオサギは身を翻すと何処かへと飛び去っていってしまった。

 

 

 

 後には腰を抜かしてひたすらに許しを請うユメと、そんな彼女を不思議そうに見つめる小さな少女だけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




投稿後にもちょくちょく書き足してる内にそこそこな文字数になってしまった。
ただでさえ少ない登場人物が分かれてしまったためにまるで会話の無い色気の無い回に。いや設定考えるのは楽しいけど。
二人とも話し相手が見つかって良かったね。
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