梔子ユメの最後の冒険 〜チョロアホガールとポンコツ詐欺師の復讐劇〜 作:外柴葡萄
【 簡単!たのしい! セネト・ゲームの遊び方 】
アビドス地域に古来より伝わる伝統的遊戯『セネト』は双六に似た二人対戦用のシンプルなボードゲームです。
セネト・ゲームでは一般的に3✕10のマス目状のゲーム盤の左上からスタートした駒をZの字を描くように左上の1のマスから右下の30のマスの先のゴールを目指してつづら折りに進めて行き、対戦相手より先に全ての持ち駒を盤から出したプレイヤーの勝利となります。
①先番・後番を決めたら左上のマス目から順路に沿って先番後番が交互になるよう順番にそれぞれの持ち駒を置いていきます。持ち駒はそれぞれ7基もしくは5基ずつが一般的です。
②お互いのプレイヤーは順に裏表の分かる投棒4本を宙に投じ、出た表の数だけ自分の駒を進める事が出来ます。ただし4本とも裏の場合のみ5マス進める事が出来ます。
③既に相手の駒があるマスに自分の駒を進める場合、相手の駒を攻撃し自分の駒が元あったマスと位置を入れ替える事が出来ます。ただし移動するマスにある相手の駒が2基以上隣り合っている場合、それらの駒は守護されそのマスに自分の駒を置くことは出来ません。
④既に自分の駒があるマスにもう一つ自分の駒を置くことは出来ません。相手の駒や自分の駒でどの駒も動かせない場合はその移動は無効となり権利を失います。
⑤投棒の出目が1・4・5であった場合、その移動の後、もしくは動けない場合はその権利消費の後に、何連続でももう一度投棒を振る事が出来ます。
⑥ボードの最後の5マスにある駒は隣り合っていても守られません。
⑦ボードの最後の5マスである26、27、28、29、30のマスは特殊マスでありそれぞれのルールに従います。
26のマス【美の家】 全て駒は丁度の出目でここに停まらなければこの先に進めない。
27のマス【水の家】 このマスに自分の駒が停まった時、もう一度投棒を振る事は出来ず手番は終了する。このマスに駒は置けず止まった駒は15のマスへ戻す。戻したマスに既に駒がある場合もっとも近いその前のマスに戻す。
28のマス【三人の判事の家】 ここに停まった駒の持ち主は次に3の出目を出すまでその駒を動かせない。
29のマス【二人の判事の家】 ここに停まった駒の持ち主は次に2の出目を出すまでその駒を動かせない。
30のマス【%!#の家】 ここに停まった駒の持ち主は次にどの出目を出してもその駒をゴール出来る。
28,29,30のマスに停まっている駒が攻撃された場合、攻撃された駒は27のマスに移動する。
「キヒヒヒヒッ。ほらほら、どうしたどうした先輩。本当にそこで良いのかあ?しっかりと考える事だな!」
「ううううう。そんなこと言ったって、他に動かせるとこ無いんだもん。酷いやマコトちゃん、あんまりだよう」
すっかり日も暮れた砂漠の最果て、枯れた谷の底に広がる物騒な基地の敷地で、二人の少女が焚き火の辺りで小さな盤を囲んでゲームに興じていた。
無骨な兵器に油断なく武装された洒落っ気のない基地の中にあって、その場所だけが何故か異様にカラフルな光線に照らし出されている。
二人が盤上の駒を動かす度に臨場感たっぷりの安っぽい効果音のようなものまで鳴り響いている凝りようだ。
「キキッどうだ。これで私の持ち駒は二人目の”上がり”だ。どんどん差が広がっていくなあ?」
「ひぃん……こんなの絶対おかしいよ!さっきからマコトちゃんの駒ばっかり動かして。ズルっ子だあ!」
「ううん?しかしこれはルールブックに則った正式な権利の行使だからなあ?恨むなら己のツキの無さを呪うのだな!」
調子づく蛇を前に憐れな蛙の子が精一杯の抗議の声を揚げるが、無慈悲な
悪運の強さには妙な定評のあるマコトが順調に駒を進めていく一方で、さっきからユメは運に見放されたように全くツイていない。
折角の余興を盛り上げようと煽り倒すマコトも内心引くレベルである。
実際に一度やってみるのが手っ取り早いのだが、セネトは実にシンプルかつ奥深いボードゲームである。
10✕3のマス目で構成されたボード盤は、7駒ずつのルールでは始まった時点から既に全体のほぼ半分のマスが駒に占められており、始めはいかにも小さく感じる。
しかしいざ勝負が始まれば、その窮屈さが却ってその戦略性を高めているのに気付くだろう。
なんせ幸先よく先番を掴んだはずのユメは、なんとも間の悪い事に初手に2を出してしまった。
互いの駒が交互に並ぶ初期配置において、2の出目では自分の駒に塞がれて一番先頭の一つを動かすより他に選択肢がないのだ。
そんな自身のツキの無さをほとんど理解しないままにポカンと口を開けて素直に手番を渡したユメの次に棒を振ったマコトは、首尾よく1、4、1、3と続けて出して、あっと言う間に前の方のユメの駒を蹴っ飛ばして隊列の先頭を牛耳ると強固な壁を築いてしまった。
味方同士で隣り合う駒は攻撃出来ないというルールに守られたマコトの城壁に遮られて、序盤からほとんど何もさせてもらえていないユメはちっとも楽しくない。
ぐぬぬぬぬと固く拳を握り締め、まるで迫力の足りない顔面に精一杯の怒りを込めたユメが、えいやっと可愛らしい掛け声と共に投棒を宙に放り投げる。
不遜な態度で笑って見せながらも、さっきから2とか3とかの弱い出目しか出せないでいる先輩のあまりにか弱い運命力を見せつけられているマコトも内心冷や汗ものである。
勢いよく放り投げられた飾り棒はくるくる舞いながら落下し、踏み固めた砂地の上をころころ転がっていく。
投げた棒の内、表の数だけ駒を進められる。
真剣な2対の眼差しが見守る中、古式ゆかしい儀式に則りお伺いを立てられた神がその意思を露わにする。
表の数は0。
がっかりしたユメががっくり肩を落とした瞬間、傍らから突如鳴り響く盛大なファンファーレ。
今回のルールでは表0の場合は5マス進める事になっている。その上もう一度連続で棒を振れる特典付きの最大値だ。
ようやく事態を理解したユメは飛び上がらんばかりに狂喜しながら動かす駒を選び出した。
マコトが築いた意地の悪い4マスの壁を飛び越えて、ついに先頭に躍り出たユメはすっかり大威張りである。
内心ホッとしたマコトもノリノリで悪態をついてみせるからもうウッキウキである。
さて、二人が勝負を始める少し前に時を戻してみよう。
古代文字の解読というあまりにしぶい特技に驚いたマコトに質問攻めにされたユメの反応は始め、鈍かった。
本人にしてみればアビドスの遺物調査はあくまで個人的な趣味の範疇でしかなかったし、だから敢えて人前で披露しようなどという気もまるでなかった。
誰かに話して馬鹿にされたら悲しいし、そうでなくとも個人の嗜好を打ち明けるのは少し恥ずかしい。
なにより信用した相手に変な奴だと思われるのは怖かった。
だからではないが、うっかりしてバレた後、マコトが思いの外に食いついてきた事にユメはひどく戸惑った。
実際、マコトにしたところでユメが谷の底からあんな大発見を成し遂げていなければ、精々が変わった趣味ぐらいにしか取り合わなかったかもしれない。
しかし、現実に眼の前であれだけの成果を見せられては話が違ってくるのが人情だ。現金なものである。
予想を上回る真剣さで話に聞き入るマコトに、期待と恐怖を半分ずつ抱えたユメはおっかなびっくり解説していく。
「時にユメ先生、私は詳しく知らんのだがこういう
「えっと、よく勘違いされてたんだけどヒエログリフと一緒で古代アビドス文字は
時々独自の見解を交えながらユメが語る
そんなマコトの様子を見ている内に、始めはどこか気恥ずかしそうにしていたユメも段々と調子づいてくる。
裏面の説明書きを基に件の金属箱を開いてみせ、中から出てきたパピルスの束がルールブックだと解読した頃にはすっかりその気になっていた。
ユメにしてみれば、こうして人にない長所を買われて教えを請われる事などめったに無い機会である。良い気になるなと言うほうが無理な話であった。
やおら張り切りまくったユメはむふーと一息、鼻息も荒く解読したパピルスのテキストから拾い上げた単語を基にして、ゲームに必要そうなものを手当たり次第で掻き集めてくる。
「マコトちゃんっ!そっちの駒全部で何個あった?5個か7個ずつ要るみたいなんだけど。あと、アストラガルスって何か分かる?」
「駒というのはこのチェス駒のような奴だな?白黒10個ずつはあるはずだ。アスパラガスは知らん。何に使うものだ?おやつか?」
「う、うーん……分かんない。あ、けどこっちのこれなんか食べ物かも。ちょっと食糧庫探してみるねっ」
「あ、おい、冗談だ……行ってしまった」
まさかマコトの軽口を真に受けたわけでも無いだろうが、ユメは真剣な顔のまま倉庫へと駆けていってしまった。
興味があったのは古代文明の知識そのものなので、マコトにしてみればぶっちゃけ内容についてはそれほどでもないのだが、すっかりやる気になっている大先生に水を差すのも気が引ける。
置いていかれたマコトは調子に乗っておだて過ぎたなと反省しながら一人ため息を付くと、観念して付き合うことにした。
夜ももうそろいい具合に更けて来ていたが、ユメの発する興奮の波に引きずられてか未だ眠気の気配もない。こういう時ぐらい偶の余興もいいだろという気になっていた。
ふと気になってスマホを取り出し確認してみたが、あれからチャットに新着メッセージはない。それどころかよくよく見てみれば右上の表示は圏外を示していた。
冷静に考えてみればこんな砂漠の真ん中の無人基地で電波を拾えている方がおかしな話なのかもしれない。メンテもされていないはずの機器がいつ不調を起こしても不思議はなかった。
さしもの妖怪きりたんぽといえども流石に電波もないのでは連絡のとりようもないのか。とすれば例の動力室の解析もどれだけ進められているか怪しいところだ。
手持ち無沙汰になったマコトは今後の予定に考えを巡らせる。
いくら足を確保したとはいえ、日の落ちた中での砂漠横断は流石に冒険とも呼べぬ自殺行為だ。
借り物のジープがエンストでも起こせばさして車に詳しくもない自分達にはどうしようもない。
今夜はここで泊まるものとして、明日の正午までにはアビドス旧市街に戻らねばならない。
別に何が何でも列車砲の所有権が必要なわけでもないが、正直最近のネフティスはあまり信用できるパートナーとは思えない。ましてやカイザーなど何をかいわんやである。
末端がどれほどお気楽に見えても、あの会社に纏わるきな臭い噂の数々は常識的な域を超えている。口出しされる口実は潰しておくに越したことはないだろう。
その列車砲の解析についても、ひとまずは電波のある場所まで行ってヒマリの連絡を待つほかあるまい。
反応が無いようならヴェリタスとやらについて調査に入らねばならない。いや、そこはどちらにせよ必要な行程ではあるか。
それからカヨコが知らせてきたヒナの不穏な動きも気にかかるところだ。
空崎ヒナは何日も黙って様子見していられるほど気が長い奴ではない。人が何ヶ月もかけて準備した計画を非効率の一言でまとめて切り捨てて成果だけ攫っていくような女だ。それでも味方である内は頼もしいが、今回ばかりはそうもいくまい。近い内に必ず何か仕掛けてくるという確信がマコトにはあった。どうにか動向を探るべきだ。
こうして考えてみれば、まだまだやることは山積みなのだった。
一つずつ片付けて行くほかないが、ヒマリのようなわけのわからない異分子がこれ以上増えるのは正直勘弁してほしいところだ。
それに加えて──。
マコトは傍らで眠り込んでいる正体不明の少女の様子を一瞥する。ついで周りに並べた財宝の山へ目線を移す。
これらの度を越した計算外達をどう扱ったものか、正直言って決めかねたていた。
少女の方はまあ、まだいい。
少々得体のしれないところはあるが、偶々遺跡に迷い込んだ浮浪児の線が濃い。
しかし財宝の方はどうするべきなのだろう。
大発見の興奮も収まってきて冷静に考えると、この発見がマコトの計画やアビドスの抱える問題の解決にどう影響するのか、判断しかねるのだ。
仮に単純に金銭に変えてしまうにしても、果たして一体如何程の値がつくものか。マコトには大まかな予想さえ立てようがない。
想像を逞しくして考えるなら、こういった考古遺物は基本的に一点ものだろうから、定価などというものは存在しないだろう。それはつまり、うまくすればいくらでも言い値を釣り上げられる反面、こうしたものに金を積む好事家に伝手がなければ一銭にもならないという事でもある。
最悪の場合、目ざといバイヤー共にカモにされて詐欺のような値段で押し買いされても適正価格か分からないのだ。殊に発見者はあのドが付くほどのお人好しである。放っておけば酷い事になるのは目に見えていた。
いや、待てよ。そこまで考えてマコトははたと気がついた。
話を聞いた限りではあるが、この場合ひょっとして発見者はユメではなくあの少女になるのではないか?いや、そもそもこういった考古遺跡からの発掘品の所有権というのは現実的にどういう扱いなのだろう。もしかしてこれは、ものすごく面倒な問題に行き合ってしまったのではないか……?
地形のおかげか空気がほとんど動かない谷の中は思いの外快適だったが、それでも忍び寄る砂漠の冷気を完全に遮断できるわけでもない。
焚き火に手をかざして暖を取りながら、営巣跡から引っ張り出してきた埃っぽいブランケットにくるまるマコトはしばし一人物思いに沈んでいった。
そうしてマコトが暢気に構えている間に、何かの樽や果物、謎の木の根っこのようなものを腕いっぱいに抱えて戻ってきたユメは本当に料理めいた事を始めてしまった。
マコトにすればボロっちい落書きにしか見えないパピルスの束と顔を突き合わせては、何処からか持ち出してきた禍々しい鍋で根っこをグツグツ似たり、真っ赤な果肉の果実をザクザク切っては一人でブツブツ呟くユメは何やら昔話に出てくる悪い魔女めいている。
端から見ているだけの目にまで染みて来そうななんとも曰く言い難い異臭を漂わせ、異様な集中力を発揮しながら座った目つきで作業に没頭しだしたユメは、内心少し引いているマコトが何を話しかけてももはや上の空である。
仕方がないのでマコトは、ユメが集めてきたゲームに使うと思しきアイテム達を眺めるでもなく確認しながら黒魔術の完成を待つのであった。
まず、マコトが目をつけた升目状の模様と怪しげな生き物達が描かれた金属製の箱。
それから水晶を削り出した白の糸巻き型の駒と、同じように黒曜石を削り出した黒の円錐形の駒が各10基。
ついでサイコロ代わりに持ってきた材質不明の真っ黒な正六面体が1ヶ。
最後に太い木の棒を真っ直ぐ縦に割ったような半円柱状の飾り棒が4本。
ボードゲームという話だったはずだが、太古にも通じていそうな砂漠の深い闇の中でこうして妖しく焚き火に照らされる古道具を見ていると、なにやら邪教の呪術めいたおどろおどろしさを感じなくもないではない。
そうして内心で少しずつ後悔し始めていたマコトに向けて、ユメが心底嬉しそうな歓声とともに声をかけた。
「で、できたー!!ほら見てマコトちゃんっ。マンドラゴラのジュースだよ!」
爽やかな汗を掻いてニコニコしながらユメが掲げるカップになみなみ入ったその液体は、マコトの目には今にも屠殺したばかりの人間の生き血か何かのように見えて仕方がなかった。
キヴォトス最古ともされる長い長い歴史を誇るアビドスの地に太古の昔から伝わる神聖な儀式の準備をつつがなく終え、勝負の舞台となる金属の盤を挟むようにして厳かに向かい合った二人が静々と腰を下ろす。
自ら仕向けた以上ケチをつけるわけにもいかず、目元をひくつかせながらマコトは覚悟を決める。
劣化の著しいパピルスの束を慎重に左手に捧げ、もう片方の手に鮮やかな紅の液体に満ちた杯を掲げたユメが、いざ
『♪〜古代遊戯体験コーナーへヨウコソ! セネト・ゲームをプレイされますか? プレイヤーIDをお持ちの方は認証カードを近ヅケテ読み込ませてクダさイ!』
やたら陽気な効果音と共に、素っ頓狂な機械音声が突如としてあたりに響き渡った。
驚いたユメはパピルスを取り落として周囲をキョロキョロ見回し、マコトは咄嗟に野戦反応で飛び退ると匍匐体勢でSRを構える。
オリエント趣味とレトロゲー風味がない混ぜになったような、なんともチープな音源が鳴り響く中でよくよく周囲を探してみれば、ユメが積み上げたアイテムの山の下にあった黒い
山の底から掘り起こして見ると、驚いた事にそのキューブはひとりでに浮かび上がった。
フワフワ漂いつつユメの顔の前の辺りで静止すると、ユメの鼻先へ向けた頂点の一角から何やら拡散する虹色の光を全身に向けて放ちはじめる。
驚愕で硬直する二人の前を飛び回ってマコトにも同じように光を放つと、再びその漆黒の立方体は口を利いた。
『プレイヤー1 ゲスト1 認証を完了シました 引き続きゲームをプレイしますカ?』
その傷一つないツルッ剥げの形態の果たしてどこにスピーカーが仕込まれているのかも分からないが、それでも明らかにそこから朗されるあからさまな機械音声は節々で歪んで、なんとも聞き取りづらい。
「なんだ、コイツは。どういうオモチャだ」
羽虫の如く頭の周りを飛び回るキューブに向かって、警戒態勢を維持しながらマコトが独りごちる。
『回答 当端末は展示エリアガイドのためにAI『オリオン』によって制御される多機能インターフェイスです 来館者の快適ナ学習体験を支援する音声案内を主目的としまス』
「……ひょっとして今、私の声に反応したのか?」
『肯定 当端末は音声入力に対する対話機能を有しマス ゲスト1』
「ゲスト1?」
『肯定 ID非所持者にはゲストネームが与えられます 登録名を変更シますか?』
マコトとユメは顔を見合わせる。
空飛ぶ立方体を指差して、説明を求めるようなジト目を向けるマコトにユメは慌てて首を振ってよこす。
ほんの一日の内に三度遭遇したわけのわからない不確定要素を前にして、見に回ったマコトはそのままじっとり黙っている。
仕方がないので今度はユメが代わって質問をする。
「えっと、登録名?を変えるとどうなるの……ですか?」
『回答 ゲストネームの場合は来館予定日に限って呼称と表記が変更サれます ID所持者は以前に登録した名称ヲ引き続き使用可能です 以前の登録名を再使用シマスか? プレイヤー1』
「? 以前の登録名って? 私ここに来たの初めてだよ?」
『回答 プレイヤー1には登録名『シリウス』が与えラれた記録があります 登録日は!@$%年!%月^#日となります』
「???」
混乱するユメを尻目にマコトが鼻を鳴らす。
「フン。覚えのない登録に話の通じぬガイドロボか。キッ面白くなって来たではないか!」
言葉とは裏腹にマコトの表情はちっとも楽しそうではない。
不機嫌を隠す素振りもなく、やおらその無機物めいた顔面に不快感を貼り付けて神経質そうに貧乏揺すりまでし始める。
「えぇーっヤだよ私、しりうすなんて。カワイくない。ねえオニオンさん、私の名前変えられないの?」
しかしそこは流石に天下無双の天然ジゴロであった。養殖物の相棒の不機嫌な素振りにまるで気付く様子もなく、素っ頓狂な抗議の声を上げるユメを見つめて目を丸くしたのはおそらくマコトだけではなかったはずである。そいつに目玉がついていればの話であるが。
『……』
「オニオンさん?」
『否定 該当のプレイヤー名はロックされています 重ねて否定 当AIの名称は『オリオン』です タマネギではありません』
こらえきれずに大笑いしだしたマコトの横でユメは平身低頭、五体投地までしそうな勢いで謝り倒すのであった。
なにやら賑やかな笑い声に誘われて少女は目を覚ました。
はじめは何やら分からない。何か随分久しぶりに心底安心して眠っていた気がするが、目覚めて最初に目に映った光景には全く心当たりがなかった。
いまだまどろみに半ば意識を残しながら、少女はぼんやり辺りを見回してみる。
どうやら屋外で寝コケていたらしく、近くでは燃え盛る焚き火が熱を発しながら爆ぜている。
その近くでは二人の少女が卓を囲んで何やら盛り上がっていた。
二人の笑い声を聞きながら少女は思い出す。
夕刻ごろ、ねぐらの近くで出会った緑髪の柔らかい女とともに、突如として崩れだした棲家の遺跡を飛び出して来た後、疲れて眠ってしまったのだった。
少女はしばし逡巡していたが、意を決すると二人の様子を見に近づいた。
どうやら駒を使ったボードゲームのようなもので遊んでいるらしい。
二人の勝負は意外な展開を迎えていた。
ある意味では案の定と言うべきなのか、序中盤を常に如才なく優勢に進めていたマコトは終盤に入って突如として躓き出した。
セネトは所謂バックギャモンや双六のルーツともいわれるが、そうしたゲームのお約束とも言える「振り出しに戻る」に似たシステムがこのゲームにも存在する。
丁度の出目を出さねばその先に進めない26マスの「美の家」と、その次の27マス「水の家」の踏むと15マス「第二の人生の家」まで戻るルールに阻まれ足踏みしている間に、じっくりじわじわと隊列を押し上げて来ていたユメの駒に取り囲まれて、早い内に数を減らしていたマコトの駒はすっかり身動きが取れなくなってしまったのである。
そのままマコトが足踏みしている間に形成はひっくり返り、勝負は今まさに正念場を迎えていた。
序盤、マコトが意図して作り出した壁戦法を意図せずしてやり返す形になった事に気づいたユメはすっかりご満悦である。
「ふっふっふー。どうかなどうかなマコトちゃん、これぞ秘技・
「フゥーン。中々やーるではないか!少ーしばかり見くびっていたやもしれんなぁ。だぁが!今、貴様がゴールさせた分を合わせても?持ち駒はこれでやっとトントンだ。そしてぇ私の活路も今、開かれた!その選択をぉ、直に後悔、させてやろうキッキッキッキ!」
焚き火の炎に照らし出されて愉快軽快に遊戯に興じる二人の顔は、何故か随分と赤らんでいる。
近くに寄った少女は異臭に気づいて顔をしかめる。
匂いは近くに転がっているカップの周りに撒き散らされた血溜まりのようなところから、ことさら強く香って来ていた。
「あー!くーちゃんおはよー!あのねあのね、すごいんだよ。絶対負けちゃうって思ってたのに、マコトちゃんったらさっきからずうっと川に落ちてるの!くひひひひひ」
「なぁにを言うかあ!ユメ先輩のくせに、ナマイキなぁ!みてろ、すーぐにおいついて吠え面をかかせてくれるわっ!」
どうにか虚勢を張ってみるものの、強がりも虚しくマコトの出目はまさかの1。
黒に進路を塞がれた白は否応なしに川へと飛び込み、傍らの立方体が奏でる悲しげなBGMに演出されながら哀れマコトは15マスまで戻されてしまう。
そしてそこが勝負の分水嶺だった。
もはや打つ手がないと悟ったかマコトは完全に拗ねて寝っ転がってふて寝を決め込むと、そのままぷかぷか本当に寝入ってしまった。
「アハハハハハハハハハハ!いえーい、くーちゃん勝ったよ!えらい?えらい?」
酒臭い息を漂わせながらユメがしなだれかかってくる。
寝入る前とはあまりに異なる二人の様子に困惑しながら少女はユメを抱きとめる。
酔っ払い特有の沸点の低さで笑い転げるユメにビビりながら少女は声をかける。
「なに、やってるの?」
「んー?セネトっていうんだってー。私がかいどくしたんだよ!くーちゃんもやる?わたしつよいよ?」
「……せねと」
けらけら笑うユメに撫で回されながら少女は興味深そうに盤を覗き込む。
盤上は実はまだ決着がついていない。
マコトは諦めたがユメの最後の駒がゴールする前に追いつく可能性は、限りなく低くはあるもののいまだ0ではないのだ。
「そーだ!くーちゃんちょっといい?はい、これプレゼント。カッコイイでしょ。ぶふふふふふ」
突然何か思いついたユメは近くに置いてあった黄金の虫の飾りを持ってくると、それを少女の胸元に取り付けた。そのまま一人で満足げにうんうん言っている。
まるで意に介した様子もない少女は、じっと盤を見つめていたかと思うとこういった。
「ゴール、しないの?」
「んー?」
少女の言葉にうろんな目線を盤上に向けたユメは、にへらっと笑うと得意満面で請け負った。
「おー、良いよお。くーちゃんにもわたしのカッコイイとこ見せたげる。」
完全にいい気になっているユメは、意気揚々と散らばる投棒を拾い集める。
むにむに念仏を唱えてから思い切りよく放り投げると、そこで限界が来たのかそのまま糸が切れたように少女の腕の中へ倒れ込んで、すかすか寝息を立て始めた。
くるくると舞い上がった棒が落ちてきてころころと転がる。
示した出目は3。図らずもぴったりゴールであった。
瞬間、傍らをフワフワしていたキューブが虹色に輝き始めたかと思えば急にペラペラ喋りだした。
『確認 有資格者によって
目を丸くする少女の前でカウントは進む。
やがて、0とともに黒い箱の辺に沿って切れ目が入ると、立方体が展開されていく。
中から白い光が溢れ出し、近くにいたユメと少女の二人を巻き込むほどに広がる。
光はやがて、砂漠のただ中に打ち立つ巨大な光の柱となって、高く、高く、立ち昇っていく。
少女の意識はそこで途切れた。
天に向かって伸びる長大な光の柱の傍ら、放棄された展示場に唯一遺された
暗い動力室に据え付けられた無駄にデカいだけのコンソールに火が灯り、画面に起動マークが浮かび上がる。
巨体の上、仮に頭があるのであればそこであろうという位置に大きな光の輪が顕れる。全身の排気ダクトが呼吸をするように空気を吐き出し、駆動音と共に砂煙を上げる。
その巨大な列車はしばらく周囲を窺うように全身のセンサー類を蠢かしていたが、周りに動くものが何も無いのを確認すると、つまらなさそうに静かに休止モードに入った。頭上の光の輪が消える。
やがて立ち昇っていた光の柱が搔き消えると、それきり周囲の全ては深い眠りについていた。
翌朝、目覚めたマコトの体調は最悪だった。
ただでさえ冷える砂漠の乾燥した夜に、野外で寝たりなどすれば当然の結果であるかもしれない。
ガラッガラに嗄れた喉と二日酔いでガンガン響く頭を抱えて、気分はもういっそ引き籠もって二度寝を決め込みたいぐらいだったが、そうも言っていられない。
この状況で風邪を引いていないのは運が良かったとしか言いようがなかった。
昨日にもまして愚図るユメを叩き起こし、荷物をまとめてジープの座席に詰め込んだ頃、昨夜出会った少女の姿が何処にも見えない事にユメが気づいて、探しに行くと一通り騒いだが結局マコトの説得に折れた。
「大丈夫さ、元々アイツはここで一人で生きてきたんだろう?我々などおらぬ方が却って清々するというものだ」
「……」
「食糧庫には保存食が山ほど備蓄されてる。……まさか本気で引き取って子持ちになるつもりだったわけじゃあるまい?」
「……」
マコトが嘆息する。
「縁があれば、また会えるさ。行こう、先輩」
「……うん」
助手席からいつまでも谷を見つめているユメをちらちら気遣いながら、ぶり返す吐き気をなんとか気力でねじ伏せて、一行は一路、アビドス旧市街を目指して旅立って行った。
後に残されたのは、巨大な体を放り出して誰よりも長い二度寝を自堕落に一人貪っている誰かだけであった。
うん、いや今の時代未成年飲酒はダメでしょ
でも昔のラノベとかである飲酒回とか好きなんだ
あと単純にこの展開を酒呑ませずに描く腕が無かった
良い子は真似しちゃ駄目絶対
いや本来のセネトに酒を飲めなんてルールは無いのだけど、セクメトの神話的な逸話を絡めてみました
ユーチューブで食べてる人見たけどダンジョン飯によれば本物は毒あるらしいねマンドラゴラ
ただの二次創作だし、ままええやろの精神