リコリス・リコイル RELOAD   作:紅葉555

2 / 4
二発目 自分の居場所

 

 任務前の仲間内での模擬戦、それは新人である俺の基礎能力や現場指揮能力、判断力等の実戦にて必要になる実力の確認の為に行われた。

 

 体の芯まで叩き込まれた行動を実行し、実際の任務に近い内容を行っていく。

 

 そしてその模擬戦終了後……

 

「ま、初陣にしちゃあ上出来だな。動きそのものは悪くないぞ」

 

 千堂隊長とベンチで休憩中、内容の結果について話をしていた。

 

「ありがとうございます」

 

「でもお前、何であの時に撃ったんだ? ほら、俺が暁に……って名前言ってもわかんねぇか。相手に誘き出されて人質になった時だ」

 

 そう、隊長は模擬戦の最中敵である2人組の1人に捕まってしまった。あとから聞くと最初っからそういうプランだったらしいのだが……

 

「あくまで任務の内容は敵チームに奪われていたサンプルの回収です。しかもその目的の物を持っていたのはあの人でした。相手のペースに乗るわけにはいきません。その場で射殺できるのならすべきです」

 

「でもそれだと俺が死ぬだろ」

 

「……捕まる方が悪いと思います。生殺与奪の権利を与えた時点で負けです」

 

 そもそも、俺たちは死ぬことなんて日常茶飯事の中にいるんじゃないのか。訓練生だった頃ですら事故や失敗で死んでしまうことがあった。

 

 任務を成功させられない兵士はいらない。

 

 優秀であるためには生きることなんかよりも成功させることだ。

 

「まぁそれを言われちゃこっちは何も言えない訳だが……んー、そうだ。隊長としてお前に初の命令する。この先何があっても仲間は必ず“護れ”」

 

「なんですかその変な命令は」

 

「いくら強いつっても俺たちは人間だからな。1人じゃどうにもできないことばかりだ。それに俺たちチームは家族だろう?」

 

「家族?」

 

「ああそうさ。このチームが俺たちの帰る場所であって、守るべきもんなんだよ」

 

「でもそのせいで任務を失敗してしまったら意味ないじゃないですか。その居場所とやらもここに戻って来れなくなったら何のために……」

 

「生きるためだ」

 

 命よりも結果を求める俺と、結果よりも命を取る隊長。互いの意見を話していると俺の言葉をかぶせるように隊長は言った。

 

「誰かと話してる時。誰かに必要とされている時。誰かのことを思ってる時。その時に初めて俺は“生きている”と思う。任務なんて最悪どうとでも言い訳のつく、けど死んじまったらそれこそ本当に何も無くなるだろ」

 

「戦術よりも気持ちを優先するってことですか?」

 

「あぁ」

 

「理解に困りますね」

 

「いつか分かるさ」

 

 そう言って優しく頭を撫でてくる千堂隊長は俺の顔を見て少し笑うと大きく背伸びをして立ち上がった。

 

「よーし、そんじゃ改めて家族みんなに自己紹介でもしに行くか! 挨拶の前にいきなり戦わせちまったからな、なんかこう色々気まずいだろ」

 

「……はい」

 

 それでも納得のいかなかった俺は隊長の言葉に疑問を感じながらもチームメンバーとの挨拶に向かった。

 

 

 

 

 

 そして3日後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、蓮、今回の作戦は頭に叩き込んでるな?」

 

「はい」

 

 目標の物がある建物を確認できる位置で、俺と千堂隊長は待機していた。

 

 今回の任務の目的は海外マフィアから銃火器を取引したという組織の確認、及び阻止。ただあくまでその事実を確認出来れば良いのと、外部から情報を抜き取れるように敵組織のコンピュータに直接メモリをぶっ刺すことが目的。可能であれば現場の人間を1人捕縛するというもの。

 

 初めての任務らしく逃げの選択肢も用意されてる仕事だ。

 

「じゃ、予定通りまず俺が上から侵入する。お前は俺のバックアップをしつつ周囲を警戒しながら付いてこい」

 

「はい、了解しました」

 

「そんで今作戦での命令は3つ。“死ぬな”“死にそうになったら逃げろ”“その後隠れろ”“運が良けりゃ隙をついてぶっ倒せ”……これじゃ4つか」

 

「ですね」

 

「まぁとにかく死ぬなって事だ。死ななけりゃ後のことは万事どうにでもなる」

 

「……善処します」

 

「よし、じゃおっぱじめるとするか」

 

 そう言って隊長は支給されたものとは違う銃を取り出してニヤリと笑みを浮かべた。

 

 何故かその姿を俺は強く印象に残す。

 

 理由は分からない。でもその笑顔の裏に何が強い決意のようなものがあるような気がしてたまらなかった。

 

「今日もよろしくな、“レッド9”」

 

 隊長の持っている銃には赤い9の数字が刻印されていた。

 

 

 

 

 

 

 任務中、基本は潜入だったにも関わらず1度交戦をしてしまった。だが、隊長は戸惑うことなく確実に生きる為に敵を倒していく。

 

 そう。

 

 隊長は決して人を殺さなかった。

 

 味方は誰1人殺させやしない。そして敵すらも殺しはしない。実弾を使用しながらもそれを使って殺めることはせず徒手空拳で気絶、ものを使って気絶、意識を絶つことはしてもそれ以上の一線は超えなかった。

 

 驚くべきなのはその信念を貫けるだけの実力を確かに持っていること。

 

 俺にはとても……出来そうにない。

 

「なんで隊長は殺人をしないのですか」

 

 任務終了後、俺は純粋に気になって質問をしてみた。

 

「なんでってお前……人を殺さないのは当たり前だろ?」

 

「しかし俺たちは殺人を許可されています。それに相手は重い軽いはあれど罪人なんです。人によってはこちらを殺す気で襲ってきます」

 

 そうだ。俺たちが相手にするのは一般の警察じゃ苦戦を強いられる様なテロリスト達が主になる。もちろんそれ以外も担当するが、基本は平気で人を殺す野放しにはしては行けない奴らの相手をすることになるんだ。

 

 少しの油断でこっちが簡単に殺される。

 

「なんつーか、殺人を許可されている事が殺人をしていい理由にはならないと思うんだ」

 

「すみません、何言ってるのかわかりません」

 

「命は大切にってやつさ、何かのゲームでもそんな作戦なかったか?」

 

「ゲームは知らないので」

 

 そうか、と俺の言葉を受け止めながら千堂隊長は自身の銃をメンテナンスし始める。

 

 そうだ、そういえば気になっていたんだ。

 

「その銃、支給された物じゃないですよね」

 

「おう、そうだぞ。これはモーゼルC96つってな、俺の大事なもんなんだ」

 

 隊長が触っている銃をまじまじと見てみる。なんかこう……独特な形をしている。グリップの前にマガジンが配置されていて、実戦で使っている時の動作や音からして恐らくボルトアクションなんだろう。

 

 装填数は10発。マガジンの中はダブルカラムになってるらしい。

 

 最近流行ってんのかな。

 

 まるでライフルみたいな拳銃だ。

 

「大切なもの?」

 

「ああ、ダチとの約束なんだ。もう随分前に死んじまったけどな」

 

「……すみません」

 

「謝んなって。そんなつもりじゃねぇよ」

 

 隊長の友達……

 

 友達……か。

 

「この銃はな、ソイツから貰ったんだ」

 

「御友人からですか?」

 

「あぁ、どこまでも真っ直ぐなバカでなぁ……アイツ、自分の撃った相手に手当とかし始めるんだぜ?」

 

「……貴重な情報を知っていて捕虜としての捕縛目的でですか?」

 

 わざわざ相手を治療するなんて、死なせたら困る理由があるからに決まってる。例えば犯行が予告されていたり、密会の時間を知っていたり、そんな時に居場所や内容を吐かせるためとか、その点で有益となる情報を持っているから。

 

「それが違くてさ、アイツ曰くもう目の前で誰かが死ぬところなんて見たくないんだとさ」

 

「アイツは幼い時、育ての親が銀行の爆破テロに巻き込まれて殺された。よっぽど辛かったんだろ」

 

「……」

 

 その心境はわからない。

 

 生みの親も知らない、軍隊のような環境で育ってきた俺にとっては“愛”の感情すら理解もできない。

 

 言葉の意味だけならわかる。でも、それは本当の意味での理解ではない。

 

 だから少しだけ、この人たちが羨ましいとも思えた。

 

「そこからアイツは俺たちと共に戦闘を学んだ。途中で乱入してきたくせに強くてなぁ……でも、最後は俺を守って死んだ」

 

「隊長を……!?」

 

「あぁ、ヘマをして腕を撃たれてな。他の仲間は全滅、残っていたのは俺とソイツだけだった。そんときに言ってたよ“生きよう”って」

 

「撤退の命令なんて出ていなかったのに、ソイツは任務を放棄して俺たちの命を選んだ。だから2人で逃げた。逃げて、逃げて、逃げまくった」

 

「ようやく敵を撒いた時、もう俺たちは死にかけだった。特に酷かったのは俺じゃなくアイツ。運悪く腹をぶち抜かれて……もう長くないと分かってたんだろうな。この銃を託された」

 

「そん時に誓った。こんな痛みを知る人が少しでも少なくなるように俺は戦うって」

 

 その時に思った。この人はきっとその友人のことが本当に大切だったんだろうなと。その時の心情はどんなものだっただろう。どれだけ辛かったのだろう。

 

 わからないけれど、きっと…………

 

「だからってお前は気にする事はないからな。死なない為に殺す必要がある時もある。そんな事は分かってるつもりだ」

 

 言葉に困っていた。

 

 大丈夫です。俺はとりあえず理解は出来ました。

 

 きっとそれはものすごく痛くて、辛くて、悲しくて、悔しくて。そんな思いをするのは敵とか味方とか関係なくて、この人は組織のために動いてるんじゃない。世界の為なんかで戦ってるわけじゃない。

 

 “人”の為に戦ってるんだ。

 

 だから任務に拘らない。

 

 俺もそんな大切な家族に加わったと考えた時、なんだか少し心が暖かくなった。

 

 知らないけれど、きっとお父さんってこんな感じなのかもしれない。

 

「わかってますよ。俺も……頑張ります。もっと強くなります」

 

「おう、期待しとくわ」

 

 そう言って撫でてきた手は少し大きくて、優しくて。

 

 嬉しかった。

 

「ほんじゃ! 帰って打ち上げでもするか〜! 家族も待ってる事だしな」

 

「まずは任務結果の報告ですよ」

 

「あ〜、全部お前に任せる! これも成長の為に必須だからな」

 

「面倒臭いだけでしょう」

 

「あぁ、ぶっちゃけ面倒臭い」

 

「ふふっ、仕方ないですね」

 

 その日、俺は初めて帰るべき場所を知った。

 

 何のために頑張っているのかも見つけた。

 

 この居心地の良い家族達との生活は、楽しかった。

 

 ずっとこんな生活が続いたら……なんて、虫の良い事を考えてたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そして1年後、あの伝説的な事件が発生する。

 

 10年経ったあと平和の象徴と謳われる事になった旧電波塔。それがテロリスト集団によって占拠されてしまう事件。

 

 俺たちリリベルはテロリスト達の無効化の令を受け、武力介入を開始する。

 

俺が家族を失った日。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。