「ふぅ……にしても、ここも随分変わっちまったな」
テロリスト達が電波塔を占拠してから1時間、俺たちリリベルは万全の準備を整え作戦開始の合図を待っていた。
「ん? そんなに変わったっけ?」
昔を懐かしむように呟いた千堂隊長に、先輩である藤間 寛治が反応する。
「んや、俺の中での話だ。っと……ここらで改めて俺たちの動きの確認でもしとくか」
「まず俺が前衛を担当する。ことによっちゃ陽動等の動きをメインとするから、そうなった時は全員でバックアップ。勿論周囲の警戒も怠るな」
「俺が前方を確認し終えたら、寛治、お前が左右を確認しろ。お前は射撃のセンスがあるからな、前後左右どこにでも加戦出来るようにしておけ」
「そんで暁。お前は後方の警戒だ。油断させて狩ってくる奴らを逆に仕留めちまえ。基礎戦闘能力はお前が飛び抜けてるからな、最も肝心な退路の確保も任せる」
俺たちチームにとっての各々の最適な指示を千堂隊長は送る。
「最後に蓮。お前は“遊撃”だ。寛治と暁の間で“目”を使って全方位の警戒をしろ。お前はまだまだ実力は俺たちの個々に劣るが潜在能力は誰よりも秘めてる。ここぞって時に期待してるぞ」
「はい!」
『作戦開始時刻まで残り30秒』
そんな時にちょうどカウントダウンのアナウンスが耳元の装置を通して聞こえてくる。
「今回の仕事はテロリスト集団の無効化、要は殲滅ってやつだ。いつも以上に危険が伴う、だからこそ最も大事な命令をお前らに指示する」
『残り20秒』
「チームイーグル1、全員無事帰還し、拠点にて必ず顔を見せろ」
『10秒……9……8……』
「何があっても生き残れ」
『5……4……3……2……』
「“死ぬな”!」
『1……』
「「「おう!!」」」
『作戦を開始してください』
俺たちの返事を聞いたその直後、千堂隊長が目の前の扉を蹴り破り、警戒しつつも豪快に電波塔の内部に侵入する。
そのタイミングで各々のポイントで待機していた他のリリベルの奴らもほぼ同時刻に建物内に侵入した。
「イーグル1、エリアDクリア」
俺たちの命をかけた戦いが始まった。
それは普段とは少し違う、張り詰めた空気だった。いつもならおちゃらけた冗談を言う寛治先輩も物音1つ聞き逃さないように全神経を注いで周囲の警戒をしている。
暁先輩は普段は口数が少なくて結構怖い感じの人だけど、今この瞬間はその眼光で人でも殺せそうなほどの眼差しを様々な点に向ける。
そりゃそうだ。
もう既に3度の戦闘を開始している。
大雑把な敵の人数はある程度聞いてはいたが、このペースだと終盤の弾薬の残数が心配になってくる。最も、終わりなんていつくるのか分からないけれど。
なんて考えている時だった。
『緊急連絡、エリアF、G、Kにて本部隊の負傷を確認。状況は劣勢です。加勢部隊は各エリアで迅速に対応して下さい。繰り返します。エリア……』
F、G、Kのエリア……Fって建物の2回に上がってすぐの所じゃないか!?
予定より俺たちの進行が遅れているとはいえ、エリアFには5チーム集合する予定だったんだぞ……
それに本部隊の奴らは俺たちよりも質の良い武装をしてる。それが劣勢……?
「どう思いますか」
「どうって言われてもねぇ……相手にものすごく手強い奴がいると思うのが無難……かな」
と、話していると続いてオペレーターから状況報告が来る。
『エリアM、A、B、部隊が全滅しました! 気をつけてください! 敵は建物内部だけじゃありません! 外部から別働隊が入り込み奇襲を仕掛けています!』
「なっ……!」
そうか……! クリアしたエリアから襲われ、陣形が崩れて崩壊が始まったのか……!
だとしたら俺達ももう時間の問題かもしれない!
いや、それよりも救援に向かった方が良いのか!? どの道このままじゃ押し負けちまう!
……!
「隊長! 上ですっ!!」
部屋をまたぐ梁を超えた辺りで俺が見つけたのは、簡素に作られた赤く光る長方形の物体。
不格好にガムテープで引っ付いているそれからは、危険を知らせるかのように赤いライトがチカチカと点滅していた。
きっとこれは……爆弾────
とその正体に勘づいた時、俺は隊長から蹴り飛ばされた。
その瞬間、耳を塞ぎたくなる程の爆音が耳を叩いた後、連鎖するように広範囲へと広がりコンクリートの瓦礫が俺たちの道を塞ぐ。
「隊長! 隊長っ!!」
廊下のような一本道を歩いていた俺たち、しかし落下してきた瓦礫に阻まれ隊長とその他三人で綺麗に分断されてしまった。
しかも隊長のいる方から複数人の敵が現れる。
鳴り響く銃声がなかなか止まらない。
「寛治! 命令だ! 蓮と暁を連れて戦場から離脱しろ!」
その声を聞いた時、俺は考えるよりも先に体が動いていた。すぐさま自身の銃を取り出して目の前の瓦礫に向かって何発も弾丸を放つ。
もちろん。そんなことで道が開けたりする訳じゃないのに。
「けど千堂隊長! それじゃアンタは────」
「悪いけど俺はちょっとコイツらの相手して帰るわ! 買い置きしてたりんごジュース、取っといてくれよ!」
バンッ!!
隊長の言葉を遮るかのように、俺たちの背後から銃声が聞こえてきた。
しかしそれは撃たれた音ではなくて、こちらから……暁先輩が撃った銃声だった。
「おい! 時間がねぇぞ! 俺たちの所にも来やがった!」
暁先輩が叫ぶ。
「嫌です! 隊長!! 撤退なら隊長も一緒に!!!!」
「蓮!! 行くぞ!! このままじゃ共倒れになっちゃうぞ!!!」
「離してください寛治先輩!! 隊長が! 千堂隊長が!!!」
…………
……
……
「行ったか……」
俺達が分断されて暫く経った後、何とか俺はその場で襲ってきたテロリスト達の鎮圧に成功した。
「ふー…………」
ポケットから取り出した1本のタバコを口に咥えて少し休憩をする。そして空なんで見えやしないのに無意識に首を上に向けていた。
そういや蓮がウチに入ってきてから1年経ったなぁ……結局アレも渡せないままだったし、これを機に渡しちまっても良いかもな。
最初は頭カチンコチンの奴だったのに今じゃ感情のままに叫びまくってまぁ……良い事ではあるか。
きっとアイツは強くなる。
強くなってみんなを守れる奴になる。優しさも知った。仲間の大切さも知った。後は……
“愛情”を知れば……
そんな時、やっとこさ敵さん達を気絶させたと思っていたら、奥の階段から複数の足音が激しく鳴り寄ってくる。
そして、案の定の奴らが何丁もの銃口を俺に向けてきた。
「はあ……ちょっとくらい休憩させてくれよ」
連絡用のスマホにメッセージを打ち終えた俺は、咥えていたタバコを投げ捨てる。
「体がもたねぇっつの」
もっと吸っていたかった気持ちを抑え、俺は重い腰を上げた。