「おい……どうなってんだよ……」
隊長を後に背後から攻め込んできていたテロリスト達をやり過ごした俺たちは、作戦開始場所をよく観察できる小部屋の窓から周囲を確認していた。
先頭を走ってくれていた暁先輩が驚きの表情を現す。
「完全に嵌められたってヤツだね、これ」
外に広がる景色は、想定したものとは全く違っていた。民間人を巻き込まないために作られたバリケードをも奪われ、俺達内部の人間が出られないようにされてある。
外に配置されていた兵たちは皆無惨に射殺されていた。
「でも何かおかしいよ。あくまでテロリスト達の目的はこの電波塔の破壊でしょ? 俺たちをこの塔に閉じ込めるする必要はなくない?」
「それに隊長と別れたあの場所。あの爆弾は電波塔そのものを破壊するってよりも内部に潜った俺達が出られなくなるようにしている気もしてきた」
寛治先輩がそんなことを呟く。
確かにそうなのかも……電波塔を破壊する目的で設置されていたのなら、わざわざ梁に爆弾を設置する必要は無い。普通は柱を狙うはずだ。
それにテロリスト達はまだこの塔の内部にいるはず。だとしたら崩壊を進めてしまう事は自分の安全ラインが確保されるまでしないはず。
もしかして……なにか別の目的がある……?
「では、テロリスト達は電波塔の破壊ともうひとつの何か……目的があるということですか?」
「おれにも分からないよ。でも、わざわざこうして逃がさないように外周を固めてるんだ。きっとそれ相応の答えがあるはず」
「どの道、これじゃあ流石に外には出られないよ」
不自然な現象……敵の目的の謎……
「登るか。この塔の上まで」
「暁先輩……」
「ルートを見たら遠回りになるが上へ行けるのがあった。上がりゃあ疑問も謎も解ける、
……
そうだ。
近づくことが出来れば……死ななければ……全て。
「だね。行こうか」
…………
……
……
正直、何とかなるもんだと思っていた。
だって隊長は強い。
どんな奴にも負けなくて、誰よりも冷静で、全てが一流で。
きっと無事に上へあがっていて、テロリスト達も抑えていたりなんてしてると思ってた。
本隊のピンチを助けたりしてて、きっとそんな……ヒーローみたいな……
「…………」
「……」
「チッ…………」
動かない。
壁に寄りそうにように座っているそれは、微動だにしなかった。
体に複数ある赤い穴。
捨てられたタバコ。
落ちている銃。
「自分の命令も守れねぇのかよ……!」
「そんな……」
悲しかった。
胸が締め付けられるような喪失感も、現実を目の当たりにしても納得できない……したくない心も、色んなことを教わった思い出も。
様々な感情が入り交じるけれど、不思議と涙は出なかった。
こんなにも悲しいのに。こんなにも悔しいのに。
こんなにも憎い。
「先輩達は、上の救援に向かってくれませんか」
「……」
「本隊はもう半分以上崩壊しています。このままだともう時間の問題です。先輩達が加われば戦場を持ち直すことができると思います。撤退はその後でも」
「お前はどうする」
「少し。気持ちを落ち着かせる時間をください」
「死ぬぞ」
「必ず合流します」
「……そうか。行くぞ寛治」
先輩の離れていく足音が聞こえてくる。
「蓮……」
寛治先輩が心配そうに俺を見ていたが、気持ちを察してくれたのか黙って向かっていった。
勿論この場所が危ないのは分かってる。
でも、今この瞬間だけは一人が良かった。
「隊長。俺、隊長のようにはなれませんでした。背中を預けてもらえるくらい強くもなれませんでした。教えてもらった物のお返しが出来ませんでした」
「正直……恨んでます。隊長をこんなにした奴らを。殺してやりたいです……何もかも……」
「でも、やっぱり隊長が好きだから……隊長の信念は俺の信念。だから……受け継ぎます。失う気持ちがこんなにも苦しいのなら、もう誰もこんな気持ちは知らなくてもいいように」
そうして俺は隊長の横に落ちていた銃を拾う。
隊長の友達との約束の証。
俺の隊長との決意の証。
全てを引き継いで、俺は手に取った。
ああ……銃声が聞こえてくる。
誰かがこっちに向かってくる。
きっと奴らだ。
隊長を殺した……奴らだ。
俺はどんな顔をしてるだろう。
奴らを目にした時、どんな気持ちになるだろう。
どんどん近づいてくる足音、鳴り止まない銃声。響き渡る苦しそうな断末魔のような声。また人が撃たれてる。
次はきっと…………
その人影が現れた瞬間に合わせて俺はそれに向かって銃を突きつける。
死にたくないから。
守りたいから。
だから……
…………
だから………………
「泣いてるの?」
聞こえてきたのは少し幼い声。それは男でもなく……成人しているような低さでもなく……まるで子供のような……
「泣いてるのかも……」
滲む視界が元に戻った時、目の前に立っていたのは俺とそんなに年の離れていなさそうな女の子だった。
明らかに変な姿で……見たことの無い制服? を着用し、銃口をこちらに向けている。
女の子? 一般人?
わからないけど、きっとこの子は敵じゃない。
「後ろ……」
「うん……もう……死んでる」
俺は銃を下ろした。死んだという言葉を口にして、より強く脳が意識する。
「なんで……! なんで隊長が殺されなきゃいけないんだよ……!! 身勝手な犯罪者の馬鹿げた行為で人を救おうとした正義が犠牲になる!!! 殺してなんになる!? この電波塔を破壊して何が生まれる!?!? 無駄な犠牲を増やして……無意味に人が死んで……残るのは……何も……」
感情が爆発してしまう。
ずっと押し殺してきたモノが言葉となって叫びでる。
やっぱり俺は……
「一緒に行こう」
女の子も銃を下ろした。
「まだ上で音がするから、大切な人がいるんでしょ? 救世主になろう」
「……うん」
そうだ。まだ大切な人がいる。
一緒にいたい人が……まだ……
「行くよ。もう誰も死なせない……!」
こんなふざけた事なんか、全部終わらせてやるんだ。
決意を胸に俺は立ち上がる。金髪の女の子の隣に並ぶと、また奥の方から足音が聞こえてきた。
誰も死なせない。
味方も。
敵も。
もう二度と。
「誰も!!!!」
物陰から二人で飛び出した俺達は、襲ってきた敵に向かって銃を構えた。