シルヴァリオラグナロク Flowers on the Asgard   作:ズレス

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過去編の続きです。
アレックス周りはかなりオリジナル設定・自己解釈が今後も多めになると思われます。


第二使徒《Brother of light》2

 アレックスは、時々夢を見る。明晰夢を。それが夢だとわかる夢を。

 そして、その夢では何も見えない。触れない。臭わないし、味わえない。身動き一つ取れない暗闇だけが、そこにある。

 否。暗闇だけ、ではない。

 ーーどくん。

 どくん、どくん。

 聞こえてくるのだ。そんな音が。

 心臓の音が。

 それを聞くたび、思い出す。

 これは、自分が子宮の中に居た時の光景だ。それを、自分はリフレインしているのだ。

 聞こえているのは、(あいつ)の、心臓の音だーー。

 そして、聞こえるのはそれだけ。それだけなのだ。

 自分の心臓の音は、聞こえない。弟の心臓の鼓動に、かき消されているかのように。

 そういう認識を得た瞬間、アレックスの意識は強制的に夢から引きずり出される。覚醒するのだ。

 そして、その夢を見るたびにアレックスは思う。

 ーー何故、自分なんかが、兄として生まれてしまったのだろう。と。

 

 リージェント・ストリート。

 1800年代に建設された、白亜の壁が立ち並ぶ、ロンドンの中でも随一のショッピング・ストリート。

 2500年代にあってもなお、その歴史ある通りは、原型を留めたまま残留していた。大破壊……いま現在は、日本消滅現象と呼ばれている……の衝撃を受けロンドンの地形の大半がどこかへ消え去ったが、それでもそこはまだ人々の活気共々、ロンドンにその姿を残している。

 半導体が全滅して三年。電子機器の大半は使い物にならなくなったが、それでも人はありあわせのものをやりくりしながら、そうやって今日という日を生き抜いていた。

「それでも、破綻が来る日が待っている」

 ストリートの飲食店の一つ。21世紀初頭のファミリーレストランのような雰囲気のその店の奥。店内の何処からも目立たないボックス席で、アレックスは、目の前に運ばれてきたフィッシュアンドチップスを口元に運んでから、小さくそう呟いた。

「いまこの国が保ってるのは、うちの製品が使い物になるからと、英国(ここ)の政治や経済の指導者たちの大半が健在だったからだ。例の現象の結果起きた、地形のシャッフリング。それがこのロンドンでは比較的まともだった。何せ、削られたところに、エジンバラの……俺たちのお膝元の構造物が流れ着いたんだからな。同じ国のもの同士がくっついた。そのおかげで、インフラと政治、その両方が辛うじて機能している。だからこそ人々はまだ平穏でいられる」

「ええ」

「エドの奴も、あいつの知り合い達と一緒になってそのあたりの橋渡しを良くやってくれてる。三年前に比べたら、このあたりも大分落ち着いてくれた。……お蔭で俺は、君と安心してデートに来れる」

 はは、と笑いを浮かべるアレックス。そんな彼に、オウカは苦笑を向けた。

「アレックス。ほら、ソース付いてる」

 アレックスの頬に伸びる細い指先。

 それは、つつ、と、優しい感触で、彼にこびりついた汚れを取り去った。

「あんまり自分を卑下しないの。彼と貴方なら、貴方のほうが私は好きよ」

「……オウカ」

「彼の政治力には確かに目を見張るものはあるけど、それだって貴方の影響あってのものでもあるわ。彼はNVG総帥の実弟(おとうと)。だからこそ政界や経済界ともパイプを作れる。彼の知り合い達との縁にしたって、最初の取っ掛かりはそこからでしょ? それに、貴方にだって何人も権力者の知り合いは居るじゃない」

「それはまあ……そうだが」

 オウカの言うことも間違いではなかった。アレックスにも、人脈はあった。父から、そしてそれ以前にも遡り、代々培ってきた一族の人脈が。その人脈に基づいた、知り合いの権力者達は確かにいる。

 しかし、その知り合いの権力者というのは……端的に言って、汚職や腐敗の噂もある者たちが大半だったのだ。既得権益を擁する者たち。資本家。言ってみれば、そういう存在だ。

 他方、エドワードの知り合いというのは、大半がそういった悪い噂とは無縁の者たち。そしてそれ故に、強固な団結を誇る集団だった。革新を志す者たち。それも、口先だけの政治屋や、21世紀以来台頭していたネット上で無責任な言説をバラ撒くアジテーターとも違う。相応の権力と資金、技術を蓄え、意志をも兼ね備えた本物の革命家たち。

 そしてアレックスは、エドワードや彼らにとってみれば、資本家たちの抑え役(・・・)なのだ。だからこそ民衆の中にはアレックスを支持する声もあるし、オウカのようにアレックスの方にこそ好意を寄せてくれる者もいる。

 ーーだが、だからこそアレックスはコンプレックスを感じずにはいられないのだ。

(そんなの、エドっていう真に人望を集める存在あっての評価じゃないか……)

 それはさながら、月と太陽の関係だ。暗い夜空にしか浮かべない(あに)。煌々と煌めき、万民を照らす太陽(おとうと)。そして何処まで行っても、月の放つ光などというのは、太陽の輝きの反射(おこぼれ)でしか無い。

「それに、何ていうのかしら。……彼は、輝き過ぎてるのよ。清廉すぎるの」

 だがそんなアレックスの自責を拭うように、オウカは言葉を続けた。

「例えば、父なら……多分、彼と貴方とで、家柄や立場抜きにして、人物のみで評価したうえでどちらと関係を深めるか選ぶなら、貴方を選んでたわ」

「君のお父さん……コノハナ官房長官か」

「ええ」

 脳裏に浮かぶのは、背丈の小さな男の姿。だがその覇気は、弟にさえ勝るとも劣らないものだったとアレックスは記憶していた。

「アレックス。貴方は、白にも黒にも染まらない気質を持ってる。それはとても大切な素質だと、私は思うわ」

「ありがとう……オウカ。君のその言葉があれば、俺は、もっと頑張れると思う」

 その言葉にほころぶアレックスの顔。だが、彼はすぐにまた表情を真剣に戻す。

「けど、それでも……現実問題、破綻が近づいてるのはマジのことだ」

 そこから彼は、声を少しトーンダウンさせた。

 この席は半導体の壊滅以前より、ハイテクではなくローテクを重視した防諜のもとでこういったことを話すための特別な場所でもあるのだが、それでも大声で話すことは憚られるものだったからだ。

「うちの製品の寿命の問題もあるし、工場の機械類は全滅しているせいで再生産のめどが立たないってこともある。……が、それ以上に、政治と経済の主導者とは別……我が国の象徴が、今、消滅していることがまずい」

「……王室(・・)、ね」

「……そうだ」

 それは、このグレートブリテン(United)及び北アイルランド連合王国( Kingdom)にとって、あまりに致命的な事実を示す話だった。

「よりによって、あの現象は、バッキンガム宮殿(・・・・・・・・)を巻き込んでしまった……。そのせいで、当時、国王陛下主催の晩餐会のためにそこに集まっていた、陛下ご自身や王妃さま、皇太子殿下……それ以外にも、ほぼ全員の王位継承権保有者……少なくとも一般に知られるほど高位の継承権を持つ人たちはその全員が、皆何処かへと消え去ってしまった……。本当に、ごめんなさい。アレックス……」

「君のせいじゃ、ないよ。ただ、とにかく、そこをどうにかしないとまずい。我が国の精神的支柱は、やはり王室なんだ。その王室が実質的に消滅していることが知られたら、此処も他と同じ様なことになりかねない。今はどうにか弟の主導で誤魔化しているが、それだっていつまで保つか。……エドの手腕を疑う気はないけど、こういうのは誰がやってもいつかは限界が来るんだ」

「だからこそ、その前に……解決策を見つける必要がある、ということね」

「そうなんだ。だから」

 と、そこで唐突に、部屋の外からコンコンというノックの音が聞こえてくる。

「どうぞ?」

「ヘイルウッド伯。電報が届きました」

 アレックスの声に、部屋に入らぬまま外からそう声を掛けてくるのは、この店に務めている者の中でも信用のおける男……まさしく先に出た、アレックスの持つ人脈の中のひとり……の声だった。

「……電報だって? 入ってきてくれ」

「はい」

 その声に、外にいた男は入室すると、アレックスに一通の紙を手渡した。

「こちらです」

 その声に頷きながら、アレックスは文面を読み……オウカへと向き直った。

「オウカ。……出かけよう。準備ができたらしい」

 

「くそ、くそっ、どうしたんだよっ」

「……ん?」

 店を出た二人の耳に、慌てるような声が入ってくる。

 それは、店の入口のすぐ傍らに立っている、二十代ほどの青年の声だった。彼の横には、スタンドで立たされた状態のバイクが一台。

 数百年前、21世紀頃のデザインを模したバイクだ。これもNVGの製品であり、半導体を用いていないがために生き残った数少ない機械製品の一つであった。

 そのバイクのキーを、青年は何度も何度も回している。だが、バイクからはエンジン音が響いてこない。どう見ても、何らかのマシントラブルだった。そして、青年はキーを回す都度、どんどん顔に浮かぶ焦りの色を濃くしている。

 ……そんな彼のもとに、アレックスは歩み寄る。

「見せてみて」

「えっ?」

 狼狽する青年を他所に、アレックスはバイクへと視線を落としながら、その周囲を一周する。そして一つ頷いた。

「ああ、ここだな。クラッチ周りのパーツがちょっとズレてる」

 ……更に。彼は、右手を振りかざすと。

「ここをこうして、っとォ!!」

「ちょッ!??」

 バンッ、と一発、バイクを平手打ち。結構イイ感じの金属音が通りに響く。

 さながら、日本の昭和時代のテレビを殴って直そうとする中高年の男性が如き所業を行う近未来企業の総帥。何やってんだとツッコまれること請け合い、というか実際に持ち主が思わず狼狽してしまったその行動は、しかし。

 ーードルン、ドルルン。

 あろうことか、その手の非現実的な戯画に描かれるがごとく、修理完了という結果を導くのだった。息を吹き返すバイクのエンジン。それを見て持ち主は驚愕しつつも、アレックスに頭を下げた。

「あ、ありがとう」

「どういたしまして。ただそれ、色んなパーツにガタが来てるよ。多分乗って10年3ヶ月くらいだろ?」

「えっ!? そ、そうだけどなんで……」

「分かるんだよそういうの。よく上り坂とかをあがるのに使ってるね。葉っぱや土が割と多いけど剥き出しではない場所……舗装されてる山道だな」

 そして、そこから彼は、青年の耳元に小声で言う。

「大切な人と、二人乗りをすることも多いのかな? ……後ろに乗せてるのは女の子だろ? それも、こいつに乗り始めてからずっとその娘、一人だけ。一途だね。君にとってこいつは、二人の思い出を作ってくれた相方ってことなのかな?」

「えっ、あっ」

「傷の付き方からして、細かい修理や手入れも結構頻繁にやってくれてるんだね。使い捨てにしたくないって気持ちが滲んでる。……作ってた側としても嬉しいな、そういうの」

「つ、作ってた側? もしかして」

「しー。俺達がここに来たのは、一応秘密ね」

 青年から離れて、自分の口元に指を押し当てるアレックス。

 イギリス国内で、アレックス・ヘイルウッドは有名人なのである。

 そんな彼の正体に気づいたか、青年はどこか嬉しそうな顔を浮かべて、頭を何度も下げたあと、バイクに乗って去っていった。

「相変わらずね貴方」

「まあね。機械が相手なら、俺は無敵だよ」

 これはアレックスの才能だった。彼には、機械を外観からひと目見ただけでその詳細情報の尽くを事細かに把握できてしまうという才能があるのだ。今やってのけた通り、修理が必要な箇所を見抜くことに始まり、衝撃や熱などの干渉をどう加えればその結果どうなるか、その機械をどれだけの時間どんな風に、誰が使ったかまでもが全て分かる。複数のスキャニング装置を使わなければ検査しきれないようなことを、肉眼によるただの一瞥で全て把握出来てしまう。

 このために、嘗ては彼の渡航や移動に制限を掛けている国家まであるほどだった。第五次大戦勃発後は、それが特に顕著となった。

 その際の窮屈さを思い出したか、アレックスは一つ苦笑し、そして本題を思い出す。

「それじゃ、そろそろ行こうか」

「ええ。例の場所に、ね」

 

 ーーそうして、彼らはその場所へと辿り着く。

 そこは、NVG本社ビルの1F。ロビーとなる大広間だった。

 

 そこに……巨大な穴があった。そしてその穴の周囲はビニールシートで覆われ、また穴の床にはそれに沿うようにして仮設の階段が設置されていた。

「ようやくだな。ここの通路を掘り返すまで三年も掛かっちまった」

「あの時は驚いたわ。施設の入り口を開いた瞬間、土砂に一気に押しつぶされたんだもの」

「驚いたのはこっちだよ。……ある日いきなり、真っ赤っ赤になった君が、ユウヤやハルト、イザナさんを抱えたまま地面から飛び出してきたんだぜ? 日本に居るはずの君がイギリスの地面をぶち破って現れるとかどういうことだ、知らない間にイギリスはブラジルと位置を入れ替えたのかなんて思ったよ」

「ああ……アレね……」

 思い起こされるのは、三年前……日本が消滅した日。

 その日、地形のシャッフリングが行われたのは前述の通りだ。その時に地形の転移先の座標となった場所とは、何も地上だけではなかった。地中や海中も含まれていた。更に再出現する際の地形の向き(・・)さえ、上向きのものが上向き、下向きのものが下向きとは限らない有様だった。現に米国の自由の女神像は、海中に逆さまになって転移している。幸いにも、エジンバラにあったこのNVG本社は、ロンドンにそのままの姿勢でワープしただけで済んだのだが。

 ーーそしてまさしく転移のあった後、一時間ほど後。

 本社のロビーまで降りて来ていたアレックスの目の前で、オウカが地面と床をぶち破り飛び上がってきたのだ。

 要するに、オウカ達四人が勤めていた、次元間相転移式核融合炉壱番機を安置していた場所たる出雲大社は、NVG本社の地下50メートル……建物で言えば、地下15階前後ほどの深さ……の地中に転移してしまったのである。それも、やや斜め上を向いた状態で。

 そんな状態で外に出ようと出入り口を開けばどうなるか? 当然、その斜め上を向いたまま開いた口から、重力に従って土砂が流れ込むことになるのだ。その土砂に、オウカ達は巻き込まれた訳である。当然ながら、施設の中にいた状態で転移をしたオウカ達に、自分たちが施設まるごと土の中にいる状態となっていたことなど知る由もない。準備も覚悟もあるはずがなかった。

 四人の、後に神祖と呼ばれる研究者達は、早速生き埋めという地獄に叩き込まれた。誰もが狼狽し訳も分からず土に流される状態で、オウカはーー本能的に、その身に秘めた異能を開放した。

 後は簡単だ。重力に逆らうように大雑把な方向を見定め、周囲に居た同僚たちを引っ掴み、増強された腕力で引きずり、肉体が放出する熱で周りの土石を融かして溶岩とし……その溶岩の中を不死の肉体で泳ぎ続けたのである。そして地上にようやく這い出た時ーー眼の前にいたのがオウカの恋人であるアレックスだったのは、彼女たちにとっては最高に近い僥倖だったと言えるだろう。驚愕こそあれ、彼は程なくオウカ達を受け入れた。それは、NVGという旧西暦の一大勢力そのものが彼ら四人のバックに付いたということも意味した。

 それが、三年前。アレックス達はそこから時間を掛け、オウカが泳いできた痕跡を逆に辿る形で、少しずつ土砂をかき出し、仮設とは言え道を作り上げ、どうにかして出雲大社へと繋がる道を構築したのだ。

 その薄暗い道を、彼らは歩む。そしてーーそこへと辿り着いた。 

「……此処か」

 眼の前に広がるのは、第三次世界大戦を境に改修された国宝たる場所。

 今や消滅した日本国。その島根県は出雲市に存在していた、出雲大社そのものだった。

「ええ。やっぱり、変わってない。……あのときのまま……」

 そうぼやくオウカ。かつて彼女が脱出した時から、ここの姿は変わらぬままだ。

 もっとも、地面にはかなりの土砂や礫が入り込んではいた。そのせいか、オウカはだいぶ歩きづらそうだ。これまでの二十年と少し、彼女はこの手の肉体労働とは無縁だったから、当然かも知れないが。

 そしてそんな彼女に気を配りつつも、アレックスは周囲を見渡す。ーーそこで、気付いた。そもそも、自分が、周囲を見渡すことが出来ていることに。

 此処は地面の中。地中だ。だのに、周りを見渡せる。それがどういうことか。彼は理解し、上の方を見上げる。そこには、幾本もの電灯(・・)が灯っていた。

「電灯は生きてるのか。……こいつらもうちの製品だったけど……うーん……? 何か、違和感が……」

「アレックス。それより、本体の融合炉を」

「あ、ああ。ちょっと見てみよう」

 と、オウカに言われて慌てて視点を戻すアレックス。眼の前にある巨大な階段を、彼らは登る。

 果たしてーーそこに、それは在った。

「こいつが……」

 鎮座するのは、巨大な鉄塊。今や何一つ稼働音を立てぬ、沈黙する金属の塔。

「ええ。私達の研究成果。ーー次元間相転移式核融合炉、壱番機(オリジン)よ」

 それこそはかつての世界を救う発明となるはずだった……しかして、世界を滅ぼしかけた悪魔の如きものへと貶められた、オウカたちの発明品だった。

「……なるほど……」

 それを見つめながら、アレックスは周囲を回る。

 時折、ふむふむと頷いたり、目を細めたりしながら、彼は炉の周囲を一周した。そしてーーひとつ、頷いた。

「うん、やっぱりそうだ。……これの中枢部はまだ死んでいない。っていうか、ほぼ完全に残ってるよ。機能自体は生きている」

「間違いないの?」

「間違いない。忘れたかい? 機械が相手なら、俺は無敵なんだよ。前に見せてもらった同型機のことを思い出してみても、間違いない」

 アレックスのその言葉は確信に満ちておりーーそして、恐るべきことに事実でもあった。

 彼の才は、この巨大な機械……数々の技術を詰め込まれた、もはやある種の工芸品とすら呼べる……の、文字通りの核心を、僅かな時間でありながらことごとく看破していたのだ。

 更に、それだけではない。

「再起動は?」

「通常の手段じゃまず無理だろうね。当たり前だけど、スイッチが入らない。裏技的な方法としては……そうだな。何か、これの炉心と似たようなものを活性状態で近づける、とかかな。そうしたら、きっとこいつはまた動き出す」

 オウカに問われたことに、彼はテンポよく応えてみせた。後の世で強欲竜と呼ばれる異常者が成し遂げたことを、彼は分析していたのであった。

「……似たようなものを、活性状態で……?」

 そしてその返答に、オウカは思考の海に没入する。

「オリハルコン……は、駄目だわ。何処にあるかもわからないし……。何か、代用になりそうなものは……」

「ユウヤのアレはどうかな。高純度の星辰体が含まれてるのは同じだろ?」

「確かに。それなら何とか……」

 今後の指針を定めつつある二人。……と、その瞬間、どかどかという大きな足音が彼らの下方から聞こえてきた。

 見下ろすと、彼らが入ってきた出入り口に、一人の妙齢の女性が立っている。両手には、ラップトップ型のコンピュータと、ゴーグル状の機器。

 彼女の外見はとても美しい。スタイルは美麗の一言だったし、顔立ちも良い。絶世の美貌と言っても差し支えはなかっただろう。ーーその、般若としか呼びようがない表情を除けばだが。

「イザナさん!?」

「伊佐那」

 その女性……神代伊佐那は、黙ったまま二人を睨みつけるようにすると、そのまま動力炉の前に歩み寄る。歩み寄り、そして、手に持った機器の電源スイッチを押す。

 押す。

 押す。

 押して押して押して押して押してーー連打していた。当然、電源は入らない。なにせ半導体が機能を失っているのだから。

「な、なあイザナさん。どうしてここに……」

「黙ってて頂戴。ああ、クソ、だめだ。これもだめ。これもだめ……!! なんで!? ここから全部がおかしくなったのよ!? じゃあここでならイケてもいいじゃないの!!!!」

 アレックスの声に、イザナは怒号で返す。そんな彼女を見て、アレックスは悲哀の視線を送った。

(……彼女は、此処でなら機械が息を吹き返すかもしれないと思ったのか……)

 そうしてアレックスは、小声でかたわらのオウカに声を掛ける。

「イザナさんは、まだあんな調子なのか……?」

「ええ。昔は……仕事が振られていれば、こなしてくれるんだけどね。今はずっとああよ」

 はあ、とため息をつくオウカ。彼女の心中を慮り、アレックスは静かに言う。

「……VRジャンキー、か。やはり、把握してなかったんだよな?」

「勿論よ。……いくら彼女の功績が大きいとは言っても、そんな症状があると知っていればまず抜擢はされなかったわ。特に日本じゃ、例の思想(・・・・)もあまり浸透してなかったし」

「クソっ!! 此処でならイケるはずなのにッッ!!」

 ガンっと、床を思い切り蹴りつけるイザナ。

 彼女のそれは、明らかに客観的分析を欠いた発言だった。何処であろうとも関係はない。だが、彼女には、そんなことを受け入れられる冷静さは残っていなかったのだ。

「……イザナさん、それは無理だよ」

 そんなイザナを見かねて、アレックスは声をかけた。

「全ての金属が超伝導状態になっちまってるんだ。半導体は使い物にならない。VR機器を含めて、デジタル制御がされていた機械はもうただの金属とプラスチックの塊でしかないんだ」

 そんな彼の方を見てーーVR中毒者は、唐突に掴みかかった。

「アレックス! そうだ。貴方は機械なら無敵のはずでしょ!? ねえ、直してよ! これを!! ねえお願いだからッ!!!」

 そう喚くイザナの目には涙すら浮かんでいた。もう我慢出来ない。限界だ。そういう色が、ありありと伺えた。だが、そんな彼女に、アレックスは静かに首を横に振るしかなかった。

「無理だ……。直せないんだよ。俺にも他の誰にも……」

「ーーッッ!!!!!」

 崩れ落ちるイザナ。そんな彼女を、二人はもう、黙って見つめるしかなかった。

 ーーと。そんな中だった。

「みんなッッ!! たっ……大変だっっ!!」

 突如として、新たな人影が、動力炉の近くに走り寄ってきた。それは、その場の全員にとって見覚えのある姿。

「ハルト! どうしたんだ!?」

 アレックスが言うように、金髪を振り乱す男性は九条榛士。イザナとやり取りをしていたために気づけなかったが、彼が新たにここに入り、階段を駆け上がってきていたのだ。全力疾走してきたのだろう。彼は両手を膝に付き、肩で息をしていた。

「そ、それが……、それがっ!!!」

 そんな中でも、ハルトは必死に、伝えるべきことを口にした。

「ーーユウヤが、攫われたんだッッ!!!」

「……、何だって!??」

 驚愕の声が、その場に木霊した。




神祖たちはまだ全然人間的なので、こんな感じです。
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