魔々勇々の二次創作です。
ミネルヴァのファンの女の子の話です。

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きらきらぼし

「今日さ、アイドル、見に行かない?」

学校から帰る途中、友人にそう誘われた。

ちょうど今日、彼女の好きなアイドルの試合があるらしいのだが、一緒に行く予定だった子が急な用事で行けなくなったらしい。それでチケットが一枚余っているのだとか。

「アイドル?なんで?」

私はアイドルの試合を見たことがない。興味がないからだ。

テレビで中継もそれなりにやっているけれど、それも見たことはなかった。

私も彼女も友達が多いほうではないけれど、それでも私よりは興味のある子がいるのではないだろうか。

「いいから一回だけさ、行こうよ。すっごい楽しいから。ね?」

そんなにいいものなのだろうか、あんまり気は乗らないのだけれど。

「そこまで言うなら…………まぁ、いいけど」

せっかくのお誘いだし、ここで断って気まずくなるのも嫌だったので行ってみることにした。

「やった。じゃあついてきて。ぜったい気に入るよ」

どこからその自信が来るのだろう。そう思いながら少し早歩きになった彼女についていった。

 

しばらく歩くと試合会場にたどり着いた。おぉ、結構人がいる。

「今日はさ、ほんとにいい席とれたんだよね。余らせるのもったいなくって」

そう言いながら彼女はずんずん前へと進んでいく。どうやら最前席らしい。なるほど、これは確かに余らせるのはもったいない。

「さ、ここだよ。」

手招きして席はここだと教えてくれる。

そういえば、今日は結局誰と誰の試合なのだろう。ここまで来たものの聞いていなかった。席に着きながら聞いてみる。

「今日ってさ、誰が出るの?」

「あ、言ってなかったっけ」

いそいそとカバンからグッズを取り出しながらそう言う。すごいな、グッズとかあるのか。

「ミネルヴァだよ」

ミネルヴァというアイドルは、彼女の話を聞く限りどうやらなかなか人気らしい。どんな人なのだろう。

「ほら、そろそろ始まるよ」

しばらく話をしていたらいつの間にか開始時間になっていたらしい。さて、どんなものなのだろう。多少は楽しめるといいのだけど。

人影が見えた瞬間、さっきまでは多少ざわつく程度だった会場のあちこちから歓声が湧き上がる。すごい声量だ。さっきまで隣でそれなりに落ち着いていた彼女もめいっぱい声を上げている。この子こんなに大きい声出せたのか。

隣の友人の変貌に気を取られていたが、この人気ぶりを見るにたぶんいま入場してきたほうがミネルヴァなのだろう。

どんな人なのだろうか。そう思って目を向けた。

 

その瞬間、目を奪われた。

星のような人だった。きらきらと輝いている人だった。私の目を焼き尽くしてしまうのではないかと思うほどに。

二度と目が見えなくなったとしても、それが彼女の輝きに焼き尽くされた結果ならいいかもしれないと、そう思った。

 

いつの間にか試合は終わっていた。放心している私を見て友人は得意げに言った。

「ね?楽しかったでしょ?」

本当にその通りだと思った。

 

そこからはもうあっという間だった。

ミネルヴァのグッズはなんでも買ったし、彼女が出る試合のチケットの抽選結果に一喜一憂した。

ファンサービスをもらった日は眠れないほど興奮した。とにかく彼女は輝いていた。

バイトも増やした。きちんと自分の力で手に入れたお金で彼女を見たかった。

友人は私がここまで一気にのめりこむとは思っていなかったようで驚いていた。

私も驚いていた。ここまで一人の人を好きになるのは初めてだったから。この”好き”が恋愛感情なのか、それとも憧れなのかの区別はつかないけれど、それでもいいと思った。

 

そうやってミネルヴァのファンになってしばらく経った頃、彼女は負けた。抽選に外れて行けなかった試合だった。

負けたのははじめてのことだったと思う。私がファンになる前の試合の映像も集められるだけ集めたけど、そのどれもが勝ち試合だったから。

街中に失望の声が溢れていた。期待していたのに、だとか、強いから好きだったのに、だとか。

とても腹が立った。はらわたが煮えくり返るというのはこういうことなのかと理解した。そうじゃないだろう、と思った。ファンならば、励ますものなのではないのか。一言言い返してやりたいとも思ったが、そんなことをしたってなんにもならないだろう。少し熱くなりすぎている。頭を冷やそう、そう思って人の少ない場所を目指した。

夕焼けで赤く染まった風景を眺めながら、ぼんやりと堤防を歩いていた。人通りの少ない場所に来たものの、結局頭の中では街で耳にした数々の声が響いている。私は当事者でも関係者でもないただのいちファンなのに。それほどまでにミネルヴァというアイドルは私の中で大きな存在になっていたのだなと、そう思った。

ふと、河川敷のほうに目をやると、女性が座り込んでいるのが見えた。なにかあったのだろうか。まぁ、あまりかまうのもよくないだろう。私も今はそんなに余裕があるわけではないし。そう思って目を逸らそうとしたが、なんだか見覚えがあるような気がする。いや、絶対に見たことがある。あれは、あの人は。

そう思った瞬間、彼女のもとへ走り出していた。自分でもびっくりするくらいのスピードだった。学校でタイムを計った時の倍は速かった気がする。

「あ、あのっ」

「ミネルヴァさん、ですよね」

少し上ずった声でそう尋ねた。

「…………あァ。そうだよ」

ミネルヴァさんは振り返る。とても疲れている様子だった。こんな彼女を見るのは初めてだった。

「どうした?アンチかよ?文句でも言いに来たか?」

口調だけはいつものアンチと喧嘩するふうだけど、声に覇気がない。いつも見ていた彼女と、今目の前にいる女性は同一人物なのだろうか。そう思うほどに今のミネルヴァさんは疲れ切っていて、憔悴しているように見えた。今回の敗戦はかなり堪えていたのだろうか。

「いえっ。ぜんぜんそんなことは、ない、です」

なにかできることはないだろうかと思った。私が憧れたスターである彼女に、できることがあるのなら何かしてあげたいと思った。あんなに輝いていた彼女が、こんなにも弱っているのに、私はなにもできないままなのだろうか。それは嫌だった。でも、私になにができるのだろう。ただのいちファンでしかない私が、輝く星であって、天上の存在である彼女に、なにを言えるのだろう。ただの観測者が、空にきらめく星にかけることのできる言葉など果たしてあるのだろうか。そんな思考が頭の中でぐるぐる回る。

「あのっ!」

大声を出してそんな思考をかなぐり捨てる。そんなことよりも、言うべき言葉があるのだ。言いたいことが、彼女に伝えたい言葉があるのだ。精一杯の声で、彼女に伝えなければ。いちファンとして。

「ずっと。ずっと。応援してますっ!」

「ファン歴は、そんなに長くないですけど、まだまだ知らないことばっかりですけど」

「わたしっ、ミネルヴァさんのこと好きです!グッズもたくさん買いました!ファンになる前の試合映像もかき集めて、繰り返し見てます!」

「相手を殴るときの表情が好きです!ファンサめちゃくちゃしてくれるところが好きです!試合終わった後のちょっと傷がある顔が好きです!もちろんいつもの傷ひとつない顔も好きです!明るいところが好きです!声が好きです!ぜんぶ、ぜんぶ好きです!」

「ずっとミネルヴァさんのこと応援してます!負けたからってファンやめたりしません!だって、ミネルヴァさんは、ずっと、」

 

「ずっと、きらきら輝く、一番星だから!」

 

言ってしまった。ミネルヴァさんも目を丸くしている。引かれただろうか。我ながらかなり恥ずかしいことを言ってしまったような気がする。顔が熱い。たぶん今の私はゆでだこのようになっているだろう。

目を丸くしていたミネルヴァさんが、少し微笑んで答える。

「ありがとな」

お礼を、言われた。ミネルヴァさんが、私に、ありがとうと、そう言った。これは夢だろうか。

「ちょっと落ち込んでたんだけどさ、元気出たよ」

彼女は立ち上がって伸びをする。

「よし。次の試合、見てな」

わしゃわしゃと私の頭をなでてから、彼女は笑顔で言った。

「ぜってー勝つから」

そう言って走り去っていった。私はなでられた頭に手を置きながらしばらく放心していて、気が付いたころには辺りが暗くなり始めていた。

 

ミネルヴァさんは宣言通り、相手を殴り飛ばしてKO勝ちを取っていた。

街を歩いていると、彼女を称賛する声があちこちから聞こえてきた。調子がいいなと思ったが、少し気分が良かった。その声を聞きながら、あの日の堤防へと足を運んだ。

 

ミネルヴァさんと会って少し話をしたあの日から、ずっと考えていた。本当の彼女は、あの時に見た弱々しい彼女なのか、それとも私のよく知るアイドルとしての彼女なのか、どちらなのだろうと。

「どっちも、かな」

そうつぶやく。どちらも彼女なのだ。きっと。

ミネルヴァという一人のアイドルが輝きを持った存在であることに変わりはないし、あの敗戦を乗り越えて今はより輝いているようにも思う。彼女に対する愛情がなくなることなど決してないと言い切れる。ただ、あの日の疲れ切った彼女を見たことで、私が今まで見てきたのはミネルヴァ・ハイライト・スターの”アイドル”としての一面であり、彼女自身のことは私が思っていた以上に分かっていなかったのだなと思った。

今でも私はただのいちファンであり、こんなことを思うなんておこがましいにもほどがあるけれど、彼女の横に並び立てるような時が来ることは決してないのだと、彼女を支えられる存在に私はなりえないのだと、私がファンで彼女がアイドルである限り、彼女の内面を知れるような日は来ないのだと、改めてそう思った。

でも、それでもいいのだ。あの日の二人の会話は奇跡のようなもので、私の中で大切にしまっておけばいい。何にも勝る輝く宝物として。そしてまた、これまで通りにアイドルとしての彼女を応援し続けるのだ。

「よし!」

頬をぱちんと叩いて気合を入れる。きっとミネルヴァさんはこれまで以上に人気が出る。そうなるとチケットの抽選、グッズ販売と、これまで以上に厳しい戦いが繰り広げられるだろう。

「がんばろう!」

そう言って走り出す。今日はバイトも入れていないし、特に用事もないけれど、なんだか走りたい気分だった。

 

あぁ、ミネルヴァさん。私はあなたの横に並び立てない。星にはなれない。共に輝けない。観測者のひとりでしかない。でも、あなたに魅せられた者の一人として、あなたの弱みに少しでも触れた人間の一人として、強く願う。あなたが、隣であなたを支えられるような誰かと出会えますように。

どうかあなたが、あなたと共に輝ける星に出会えますように。


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