アイドルマスターシャイニーカラーズの現実イベント『LIVE FUN!』にて起きた出来事について、ゲーム内キャラクターにてリクリエイトした短編作品です。
キャラ解釈や時系列については齟齬あるかもしれませんが、ご容赦ください。

お気に入りいただけた場合はぜひ、『LIVE FUN!』をご鑑賞ください。
現在は配信サイトにて冒頭30分を公式無料配信中ですので、ぜひどうぞ。

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目を焦がす、星の輝き

「ルカちゃーん、早く行かないと差し入れのミセド無くなっちゃうよー」

「……うるさい」

ライブが始まって、少し経った。

私の少し前の廊下を歩きながら、時折振り返って声を掛けてくる同じユニットのアイドルをいなしながら私もまた関係者専用の廊下を歩く。

今回のライブは283プロダクションに所属するアイドルユニット全員が参加するライブだ。

周年記念ライブじゃなく、ファンに向けた感謝祭イベントのようなノリで、新曲披露なども特にない、言ってしまえば毒にも薬にもならないライブだ。

そんなライブに、私は参加していた。……コメティックの斑鳩ルカとして。

「ルカちゃん大丈夫? 体調とか……」

「あぁ?……別に……なんともねぇよ」

いつのまにか隣に先ほどのとは別の、同じユニットのアイドルが来て私の体調を気にしていた。

コメティックは先ほどパフォーマンスを終えたばかりだ。1stシングルの既存曲と、数ヶ月前にリリースしたシングル曲の2本だけ。

他の2人は歌い終わった後に肩で息をするほどに疲れていたようだが、私にとってはなんでもないパフォーマンスにすぎない。

だから、心配される謂れなどまったくないが、目元を下げて私の顔色を伺うそいつの仕草は、他のご機嫌取りとは違い、本当にこちらを心配しているような感じがする。

その感じが、とても居心地悪く、私は目を背けた。

「そっか。よかった〜、ルカちゃんに何かあったら大変だから〜」

「……んだよ、それ」

先日の音楽イベントの一件から、自分の中で何かが少し変わったのが、分かっている。

美琴はもう、私がいた頃とは違って。

でもそれが全部嘘だったわけじゃなくて。

好きだったと言ってくれる人もいて。

そうして、私には新しいユニットの――。

そこまで考えたところで、ふと廊下の先でさっき声を掛けてきたあいつが、何かを見つめながら立ち止まっていたことに気付いた。

「何してんだ。通行の邪魔だろ」

気付いた以上注意するのがそいつより長く芸能の世界にいた者としての当然と考え、いつもより少し大きめの声を出す。

しかし、そいつは私の注意に怯む様子もなく、ただ私と私の隣のやつに向けて、少し不安げな表情で、ある一点に指差したのだった。

「ルカちゃん、はるきちゃん、これ、大丈夫かな?」

「? 羽那ちゃん、どうしたの?」

指が差された先にはひとつのモニターがあった。

関係者が、現場のステージがどうなっているか確認するための簡易モニターだ。

問題がなければ、そこには今頃私たちの次にパフォーマンスをするユニットたちの姿が映っていて、変なことなんてないはずだった。

しかしモニターを指差していたそいつの様子から、隣にいたアイドルも何かを感じ取ったようで声をかけながらモニターを観た。

私も少し気になり、同じようにモニターの方へ視線を送る。するとそこに映っていたのは、想像とは違う光景だった。

「パフォーマンスをしてない……?」

「うん、そうみたい……なにかトラブルかな?」

私の無意識に出た呟きに、モニターへ指を差していたやつが答えた。

その通り、モニターには、何か問題が起きたように、本当なら歌い、踊っていないといけないアイドルたちが、マイクを口から離して、足を止めていた様子が映っていた。

明らかな異常事態。

見てわかるそれに、画面いっぱいに会場に訪れたファンと、壇上にいるアイドルたちの不安が可視化されたかのように映し出されていた。

「そんな……! イルミネの、みんなの歌が……!」

隣では同じユニットのアイドルが口に手を当てて、まるで自分のことのように画面に映るアイドルたちのことを憂いていた。

私はそんな会場の様子と、アイドルたちの様子を見て、ため息を一つだけ吐いた。

―――もうあいつらのパフォーマンスはここで終わりだろう。

トラブルが起きた以上、解決までには時間を要する。要した時間は、必ずどこかで穴埋めしないといけない。

アイドル業界に関わらずどこでも起きうる、一般的な対処行動だ。

そうしてそれが今、画面に映るあのイルミネーションスターズとかいう奴らに被さっただけのこと。

自分の中に慰み程度の同情が湧き起こるのを感じながら、しかし心は冷静だった。

どれだけ綺麗な言葉を並べようと、イレギュラーは起こって、そのツケは誰かが背負って……奪われる。

だったら最初から何も期待なんてしなくていい。

そうした少し前に抱いていた思いが、沸々とまた心根に生えてくる。

(コイツらもまた奪われる……。私と同じように……そうだ。結局何も持たないのが一番……)

自分で呟いた心の言葉が、そうして私をまた思考の沼に堕とそうとする。

何も持たないと、自戒した自分に戻ろうとした、その時だった。

「「―――えっ。」」

「―――は?」

私たちは、星の輝きを見た。

 

 

***

 

 

「―――アカペラで、歌ってる?」

目の前にある光景に、一瞬理解が追いつかず。

私、七草にちかは隣に美琴さんがいるのも忘れて、ステージの様子が映ったモニターを見ながらそう呟いた。

 

事件は先ほど起こった。

着替えを終えて、出番までまだ少し時間があった私たちSHHisは、控え室の空いてるスペースを借りてパフォーマンスの最終確認をしていた。

そして控え室ということは、つまり他の出番待ちのアイドルもそこにいるということで、彼女たちは和気藹々と出番までの時間を過ごしていた。

それは、別にいい。まず私たちとでは目指すステップの先が違うのだから。

私たちはSHHis。パフォーマンスでファンに感動を与えるユニットなんだから。

だから、馴れ合いとかそんなのは、いい。邪魔さえしてくれなければ、私たちは私たちで頑張るから。

そうやって、少しだけ時間も見ながら美琴さんと打ち合わせをしていたら、ふと他のアイドルたちがすこし騒がしくなったことに気が付いた。

なに、確認の邪魔なんだけど、と思わなくもなかったけど、そんな敢えて空気を悪くするようなことは私もしたくないので、その原因を確かめるべく、私と美琴さんは騒ぎの中心になっていた、ステージモニターを遠目で覗いた。そして。

「えっ、もしかして機材トラブル……?」

「そうみたい、だね」

モニターに映るステージの様子を見て、すぐに分かった。

音が流れていない。

今はイルミネーションスターズの出番の時間だ。

もう既にパフォーマンスが始まっていないといけなくて、というかさっきまで音楽流して歌って踊っていたはずだった。

なのに、ステージでは何も音が流れていない。

明らかな設備トラブルだった。

そして、音が流れていない以上、壇上のアイドルは何もできるわけがない。

会場にはただ、何かトラブルが起きたのだろうことが伝わったファンたちの、間を埋めるためだけの虚しい手拍子の音だけが響いていた。

「イルミネの子たち、大丈夫かな」

「……はい、そうですね」

隣で美琴さんが純粋にイルミネを心配する声が聞こえた。

私はちょっとだけ震えた声で答えながら……内心、少し安心していた。

 

私の時に、トラブらなくて良かった、と。

 

モニターを観る。

見ているだけで、ステージの、音のない、助けのない状況が、とても恐ろしいと感じた。

私たちはパフォーマンスという技術で、観客たちを魅了する。

それしかできる方法を知らないから。

なのにステージでは技術を活かすための武器である、音を奪われるなんて。

自分が同じ状況に落ちた時のことを考える。

顔面が青ざめるのは必至だろう。足も止まって、声を出すことだって出来なくなるかもしれない。なんだったら壇上で吐いてしまう可能性だってある。

そんな恐ろしい想像を、自分が立っていないにも関わらず、モニターを観るだけで思い起こしてしまう。

だからこそ、自分じゃなくて良かった、とまず先に思ってしまった。

そうして私は、そんなことをまず先に思った私自身がすごく嫌になった。

卑屈で、才能もなくて、他人の不幸で安堵する自分が、とても醜く思えた。

「……」

視線をモニターから足元に下げる。

こんな表情だれにも見せたくなかった。

特に、私の手を取ってくれた、ステージに上がってくれた美琴さんには。

ただただ、自分の不甲斐なさを情けなく思い、遂には目をぎゅっと閉じる。

そんな時。

あり得ない声が、聴こえた。

「えっ?」

咄嗟に顔を上げて、モニターを見た。

そこには、先ほどまでステージの上で足を止めていたアイドルの姿はもう、いなかった。

そこには、音という武器を奪われたはずなのに、懸命に戦う、アイドルの姿があった。

「―――アカペラで、歌ってる?」

目の前にある光景に、一瞬理解が追いつかず。

私、七草にちかは隣に美琴さんがいるのも忘れて、ステージの様子が映ったモニターを見ながらそう呟いた。

控え室にいた他のアイドルたちも同じように、驚いた顔でモニターを見ているのが視界に入る。

誰もがその姿に、歌に、輝きに目を向けざるおえなかった。

そして、輝きは連なっていく。

『―――♪』

画面の向こうで歌が大きくなった。

イルミネの声が大きくなった、わけではない。

観客が、イルミネの歌に輝きを灯したファンたちが、一緒に歌い始めたのだ。

声はドンドンと連なって、大きくなっていく。

最後には控え室にいたアイドルの人たちもみんな歌い始める。

隣の美琴さんも……私も含めて。

『―――!―――!』

そうして歌は終わった。

締めを彩るアウトロも、光の演出もない中、ただアカペラの歌い終わりの余韻だけを残して、再びステージから音は消えた。

だけど、すぐにそんな静寂は引き裂かれる。

会場のファンの喝采によって。

鳴り止まぬ拍手によって。

輝きを与えられた者の感謝の声によって。

あのアイドルたちは、やり遂げたのだった。

気づいたら控え室内でも拍手と喝采が鳴り響いていた。

イルミネと同期のユニットの人たちは、まるで自分のことのように泣いて喜びながら近くの人たちと手を繋いだり抱き合ったりしている。

私はそんなふうに大袈裟に反応することができなくて、ただ幻を見ていたかのように放心をしていると、誰かが肩を叩いてくれた。

「凄かったね。イルミネ」

美琴さんだ。肩を叩いて、声を掛けてくれた美琴さん。いつもならそれだけで緊張して上擦った声が出てくるのに、今はそうはならなかった。

その理由は、もう分かっている。

「美琴さん……私……」

手が震えている。

それを拳にして強く握りしめることで抑える。

イルミネは、私が「馴れ合い」と評してバカにしたあの人たちは、私にはできないことをした。

いや違う。そうじゃない。

私は、アイドルを見たんだ。

 

____あれこそが、アイドルなんだ。

 

「アイドルに、なりたいです」

震えた声で、私はそう口にした。

聞こえたのはきっと美琴さんだけだろう。

美琴さんも、私のそんな言葉を聞いて、少し驚いた表情をした。

でも、少しだけモニターに映る、イルミネの姿たちを見て、そして。

「うん、なろう。私たちも。アイドルに」

綺麗な笑顔で私にそう答えてくれた。

「……っ! はい!」

アイドルに、なるんだ。

 

***

 

美しいものを見た。

何を、なんて言われても分からないけど。

それでもこれが美しいんだ、って自信を持って言えるものを、今日初めて知った。

 

それは突然起きた。

控え室で4人で話してた時だった。

「……ステージ、何かあったみたい」

樋口がモニターに顔を向けながらそう言った。

私や雛菜や小糸ちゃんも樋口と同じ方を向いたら、確かにそこには歌ってない真乃ちゃんたちの姿があった。

「ぴぇ!? き、機材トラブルかな……?」

「はえ〜、なんか大変そう〜」

ステージの様子を見ながら、小糸ちゃんと雛菜が声を出してた。

樋口はなんか言いたそうな感じだったけど、なんも言わなかった。なんも言いたくなかったのかもしれない。

「あー、ヤバいね。音出ないのは」

「……緊張感」

私もなんか言ったら、そしたら樋口がなんか言ってきた。確かに、ステージの緊張感、すごそう。

「これ、一旦終わる感じなのかな〜?」

「……どうだろうね。一旦MC挟んで機材チェックするんじゃない? まぁとりあえずは今のパフォーマンスは終わるのかもだけど」

雛菜が口にしたことに、樋口が答えてた。

樋口が言ったことがその通りだったらつまり、イルミネーションスターズの歌はこれで終わりということだ。

「えー、嫌だな」

「嫌って……そんなわがままでどうにかなるやつじゃないでしょ」

「それはー、そうだけど」

そうやって、私たちは話をしていた。

周りはなんか、不安とか心配とか、そういう雰囲気になってた感じだけど、これが私たち、というか私だから。

だから、真乃ちゃんたちのことは残念って思いながら、私たちでその仇をとるぞって、なんか勝手に思っていた。

そしたら、それが始まった。

『―――♪―――♪』

その歌声は、突然聴こえてきた。

最初はとても儚くて、弱かった気がする。

でも、聴こえた。

ちゃんと私の耳に届いた。

モニターを見た。

真乃ちゃんたちがいた。

一生懸命に歌っていた。

ひとりじゃない。みんなと歌っていた。

みんなだ。ステージの上だけじゃなくて、会場全体で。

みんなで歌っていた。

歌声はたくさん重なり合っていってドンドン強くなっていった。

とても、輝いていた。

 

美しいものを見た。

何を、なんて言われても分からないけど。

声でもなくて、顔でもなくて、

―――目に映らない、耳に聞こえないなにかを見たんだ。

これが美しいんだ、というものを初めて知ったんだった。

モニターから目が離せなくなってた。

わかった。

あれが。

美しいものなんだ。

 

「―――浅倉?」

肩を叩かれて、目が覚めた。

寝てたわけじゃないのに、目が覚めた感じだった。

『明かりー! 消さないでくださーい!』

気づいたらモニターでは既に歌は歌い終わっていたみたいだった。

「あれ? ステージ、終わったの?」

「見てなかったの?……呆れた。すごい歓声と拍手もらってたでしょ」

「あー、残念。見逃したかぁ」

樋口に質問したらなんでかため息で返された。

周りを見てみたら、なんか皆すごい泣いて感動してる感じだった。小糸ちゃんも泣いてて、雛菜がそれを見て笑ってるのが見える。すごい。感動したんだ。

「すごいねほんとに」

「……ん、ホントに。さすがイルミネって感じ」

「じゃなくてさ」

私の言葉に樋口が返してくれた。

樋口も感動したのかなって思ったけど、でも私が言いたいのはそれじゃなくて。

「アイドル、ってさ。すっごく綺麗だなって」

「……は?」

樋口がなんか不機嫌そうな顔してるのが見える。

でも私もなんか良い気分だから、そういうのを無視した。

「ヒラヒラしてて、シュッとしてて、それで……キラキラしてる。……うんそんな感じ」

「いや、意味不明なんだけど」

「えー」

樋口は最後まで話を聞いてくれたけど、結局伝わらなかったっぽくて、またため息を吐いてた。

分かんないか。うーん。

どうやって伝えようかちょっと悩みはじめながら、でもそれよりも伝えたいことが思い浮かんだので、私はもう一度樋口の方へ向いた。

「樋口」

「なに?」

樋口は目だけをこっちに向けて、聞いてくれる。

そんな樋口の目を見て、言った。

 

「私さ。アイドル、なってよかった」

 

目を合わせて、本音を伝えた。

美しいものに出会えたから。

私は、ああ、なりたいから。

なりたいそれを、知れたから。

その喜びを真っ先に樋口に伝えたかったから。

だから、声に出して伝えた。

樋口は、何も返さなかった。

ただ私の言葉を聞いて、ちょっとだけ俯いてから、深呼吸をしてた。

それで、言った。

「そう。よかったね」

「うん、よかった」

話はそれで終わった。

私の見た美しいものはまだ、ステージで美しいままだった。

 

***

 

「機材トラブル、現在確認中です! ストレイライトさんはもうしばらくお待ちください!」

ステージセット裏。

あと数歩でも先に進んで幕の外に出れば客席の前という場所に、わたしたちは居た。

進捗状況を伝えにきてくれたスタッフの人がまたどこかに行ったら、周りには私たち以外誰もいなくなっていた。

「ふぐぅ……イルミネのみんなぁ……」

「ちょっと愛依……マジ泣きしないでよ? メイク崩れるわよ」

「うん〜分かってるぅ……けどぉ」

般若のお面を被った衣装を着てる愛依ちゃんが、すっごく泣きそうな顔をしながら冬優子ちゃんと話してるのが聞こえる。

冬優子ちゃんはそんな愛依ちゃんに泣き止むようにずっと言い聞かせていた。

「まぁ気持ちは分かるけど……あんな姿を見せられたら、ふゆだってかなりきてるもの」

「マジ!?冬優子ちゃんも!?」

冬優子ちゃんの答えに愛依ちゃんが泣きそうな顔から一転して驚いた顔に変えた。

冬優子ちゃんはなんかすごくびっくりした顔をしている。

「急に泣き止んだわね……まぁホントよ。……アレが、アイドルってやつなのね、って本気で思ったわ」

「ほわぁ……やっぱりイルミネって凄いわぁ」

冬優子ちゃんの言葉に愛依ちゃんがなんかすごく感心したような声を上げてる。

わたしも2人の話に混ざりたかったけど、でもそれよりすっごく気になってることがあって、だからわたしはそれをずっーと考えてるところだった。

「……んで、あんたはさっきからなにジーッと黙ってんのよ」

冬優子ちゃんがこっちに話しかけてきた。

もう少し考えたかったけど、無視すると冬優子ちゃんは怒るからそれはしない。

「……考えてるんすよ」

「何を?」

冬優子ちゃんがまた質問してきた。だから返す。

「イルミネの、あの歌っす」

「えぇ。それが?」

冬優子ちゃんはまだわたしの考えてることが分かんないみたいだ。

だからもう全部言うことにした。

「音が、なかったっす。いつも音楽を流しながら歌って、踊って、お客さんたちを楽しませてるのに、今回は音が無いのに歌ってたっす。なのにお客さんがいつも以上に拍手してたっす。それにダンスも踊ってなかった。これってどういうことか分かるすか、冬優子ちゃん。もしかして歌もダンスも、必要なんてないんすか?」

考えてることを、全部冬優子ちゃんに言った。

でもそうしても冬優子ちゃんは、表情を変えずにわたしを見つめるだけだった。

代わりに、愛依ちゃんがなんだか驚いた感じでわたしの言葉に返してくれた。

「あ、あさひちゃん。それは違うくない? 今回のイルミネのアレはトラブルで音が出なかっただけで……」

「じゃあなんでお客さんは楽しんだんすか?」

「そ、それは……えぇとねぇ……」

愛依ちゃんは私の言葉に何か返そうとしてくれてるけど、なんか時間が掛かりそう。

だから冬優子ちゃんの方に目を向けた。

冬優子ちゃんはさっきと変わらずに、わたしに目を向けているだけだった。

なんだか目を逸らすのが嫌だったから、わたしも冬優子ちゃんの目を見つめ返した。

それが少し続いたあと、冬優子ちゃんは突然ため息を吐いた。

「……あんた、ホンットになーんも分かってないのね、アイドルのこと」

「? なんすかそれ? 教えてほしいっす」

「嫌なこった」

わたしが頼んだら、冬優子ちゃんはすぐに断った。いじわる。

「前にあんたに見せたはずよ。『アイドルの戦い方』ってやつを。あんたはそれを何も学んでないの?」

「『アイドルの戦い方』……?」

その言葉を聞いて、ちょっと考える。なんか聞いたことあるなぁと思って。

そうしてたらでも、冬優子ちゃんに止められた。

「やめなさい。もう出番前よ。パフォーマンスの雑念になるわ……今はこれからの一発に集中しなさい」

「えぇ……でも気になるっすよ。さっきの真乃ちゃんたちの感じ……」

そう言って、さっきの光景を思い出す。

ステージの裏。出番を待っていたら、ステージから漏れ出ていた音が消えて、歌声も中断されていた。

途端に騒がしくなるステージ裏のスタッフさんたち。わたしたちは出番を待っていたところに、待機をお願いされた。

何が起きてるのか分かんない状態で、みんなが困っていたような感じだった。

そんな時、ステージから声が聞こえた。

音はないのに。歌声が。

冬優子ちゃんも、愛依ちゃんも、その場にいた全員がびっくりしていた。

わたしもびっくりした。

さらに、声は大きくなった。

ステージにいる人だけでは絶対に出せない量の歌声が、ステージ裏にまで届いた。

わたしはそれになんだか、心が震えた気がしたんだ。

 

「あれがいったいなんなのか。知りたいんすよ」

 

冬優子ちゃんに目を向ける。

今度はしっかりと。

そうしたら冬優子ちゃんは今度はため息じゃなくて、笑顔を見せた。

「そう……でも、それは今じゃ無理ね」

「えぇ? なんでっすか?」

「だってそれを知るにはあさひ、あんたにアイドルとしての『がんばり』ってもんが足りないからよ」

「『がんばり』……?」

急に変なことを言う冬優子ちゃんに頭を傾げる。

でもその冬優子ちゃんの言葉は愛依ちゃんは理解してるようで、わたしの肩に手を置いた。

「そうだよあさひちゃん。あれは、イルミネのみんながこれまで頑張ってきたことの、集大成なんだよ」

「しゅーたいせー、っすか?」

「うん、そう!」

愛依ちゃんの言葉に、よく分かんないままそのまま返したら、愛依ちゃんがすごい笑顔で返してくれた。

それで次に冬優子ちゃんの方を見ると、また笑顔でわたしを見つめていた。

「ふゆたちストレイライトとイルミネじゃ、『がんばり方』ってもんが違うのよ。だから、今はアレについては忘れなさい。その代わり……ふゆたちは、ふゆたちのやり方で観客たちを感動させるんだから」

「『がんばり方』が、違う……」

冬優子ちゃんの言葉に、頭に何かが走った気がした。

そうしたら、分かんないけど、分かった気がした。

「分かったっす……それで出番はいつすか?」

「切り替えた途端気が早いわね……機材チェックが終わるまでよ。それまで集中切らさないようにね。ふゆはスタッフさんたちに今の状況をもう一度聞いてくるわ。愛依、一緒に来る?」

「あっ、うん!じゃあうちも行く!あさひちゃん、大人しくしててねー!」

そうして冬優子ちゃんと愛依ちゃんはその場から離れていった。

1人になってる間に、一つだけ思い出したことがあった。

あれはまだ他の事務所の皆と顔合わせがまだだった頃。

河川敷で、偶然真乃ちゃんと出会った日のこと。

もう全然覚えてなくて、忘れてしまっていたその日のことを、なぜか今、思い出した。

 

『私も、もっと頑張らなきゃ』

 

真乃ちゃんはそう言って、それで。

 

『何をっすか?』

 

わたしはそう聞いた。

 

「そっか」

 

その時の真乃ちゃんの言葉が頭の中をぐるぐると回る。

それで、ようやく理解できた気がした。

 

「真乃ちゃんは、『頑張った』んすね」

 

あの感動を。

あの奇跡を。

だからこそ。次は。

 

「それじゃあ次は」

 

そう次は。

 

「わたしたちが『頑張る』番すね」

 

輝きに彩られたステージ。

アイドルが戦う場所。

あぁ、はやく。

戦いたいなぁ。

 

***

 

星空の奇跡。

 

眩い星の願いに、空が答えて生み出した一時の煌めき。

 

そしてそれは迷光に、透明に、宝石に、彗星に、

 

新たな軌跡を歩ませる、星の道となった。


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