モンスターハンター ≪新世界≫   作:南波 四十一

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大型モンスター撃退作戦!

 浄化するための井戸の位置は、捕獲した超大型モンスターを係留した船着き場から一番近い井戸に決定した。撃龍船も本来ならばこの船着き場に停泊させたかったのだが、超大型モンスターの生態調査のためにスペースが必要だったため、やむなくかなり崩壊している少し離れた船着き場に停泊させていたのだ。

 発見した地下水道への入口は、崩壊してしまったうえに大木が根を張って半分覆ってしまっていたので修復は断念され、結局ファーメイが引きずり込まれた穴を拡張して探索を行うことになった。

 まずは先輩ハンターたちが先に探索に向かい、目的の井戸の位置を確認し、ルート確保が行われた。

 地下水道は都市全体に張り巡らされているため分岐点が多く、入口から井戸までのルートを中心に、枝分かれしているルートを次の分岐点まで探索し、必要最低限のエリアの確定が行われることになった。

 カーシュナーたち一行は、入口から海側に広がる分岐エリアの探索が任され、潜ることになった。

 当初はギルドマスターが、奇面族の子供であるモモンモにたいまつ代わりのランプのお面を装備させようとしたが、性格が攻撃的になることをヂヴァに指摘され、慌てて取りやめになった。カーシュナーたちのブレーキ役であるはずのモモンモにイケイケの性格になられては元も子もないからである。

 たいまつを片手に一行は、まず、入口から井戸までのルートの確認を行った。入口の位置さえ把握できていれば問題ないのだが、ファーメイがどうしても井戸の状況確認をしたいと言い張ったからだ。

 他の王立古生物書士隊員と古龍観測所職員たちも確認を希望し、カーシュナーも興味があったので、結局全グル-プで一度井戸の調査を行うことになった。ルート確保を行ったグループは、奥へとつながる分岐エリアの確認に向かい、残りのグループで井戸の調査を行うことになった。

 どうやら井戸は上水道の起点になっているらしく、カーシュナーたちが侵入に使っている下水道とは完全に設計が分けられていたのだが、長年の風化と、モンスターによる破壊行為によって、つながってしまったことがわかった。

 そして、井戸の底は、一面びっしりとキノコに覆われていた。ファーメイの見立てによれば、それはドクテング茸の一種で、北の大陸で見られるものよりもはるかに大ぶりで、毒性も強いだろうとのことだった。

 キノコの一角は派手に食い荒らされており、ここが両生種のエサ場の一つである可能性を示唆していた。

「これってもしかして、栽培しているんじゃないかな?」

 カーシュナーが疑問を口にする。

「まさか!! モンスターがキノコ栽培ッスか?」

「今回発見した両生種は、生態系の下位に属するモンスターだって言ってたでしょ?」

 ファーメイが頷く。これは彼女自身の体験を踏まえて導き出した答えだ。

「港跡地の地上部分に両生種の痕跡が見られなかった以上、ここ、地下水道が両生種の限定された生息エリアなんだと思うんだ」

 ファーメイがふんふんと頷く。

「本来臆病なのに、寄生植物の幻覚作用で縄張りを荒らすものには好戦的な姿勢を示すのも、ここでしか生き延びられないからだと思うんだ」

「それとキノコ栽培がつながるんッスか? キノコが生えているからここに生息しているのかもしれないッスよ?」

「入口からここまでの間にキノコが生えていた場所ってあった?」

「そういえば、全然生えてなかったっすね?」

「でしょ? これはボクの推測だけど、このキノコはある程度の光と新鮮な空気が必要なんじゃないかなって思うんだ。これは他のルートと井戸の底を調べないと断言できないけどね」

「仮にそうだとしても、井戸の底にキノコが生えるからここに生息しているんじゃないッスか?」

「井戸がある上水道とボクたちが通ってきた下水道は本来つながっていなかったんだ。でも、ここはモンスターの手によってつながれている」

「キノコが生えていたからつなげた可能性はないっすか?」

「もっと基本的なことを考えて。ここはいまでこそ滅びてしまっているけれど、かつては巨大な港湾都市であり、おそらく都市国家だった場所なんだ。そんな場所の井戸の底に毒キノコが生えるような環境だったら、これほどの規模にまで都市が発展することはなかったと思うんだ。水は生活の中心だからね」

「なるほど! 両生種のモンスターが地下水道に住み着いたのは、この港湾都市が滅びた後のはずッス! その前に住み着こうとしたら、住人たちの手で討伐されていたはずだし、そもそも両生種の食料であるキノコが生えるような環境なら、ここに地下水道が発展するほどの都市は誕生しなかったはずッス! そう考えると、このキノコ類は都市滅亡後に持ち込まれたことになり、繁殖環境に適した井戸の底と通路をモンスターが意図的につなげた可能性が高くなるってことッスね!」

「あとはキノコを食べてる位置をよく観察して」

 ファーメイはカーシュナーの言葉に従い、井戸の底を見渡した。そして一つの規則性に気がついた。

「キノコの成長が一定じゃなく、何段階かに分かれて広がっているッス!」

「食べる範囲を決めて、キノコの成長に合わせて食べる場所を変えている証拠だね。これは牧場のシステムといっしょなんだよ」

「すごい観察力ッス! カーシュ君! ハンター辞めて王立古生物書士隊に入るべきッス!」 

 ファーメイが感嘆の叫びをあげる。

「ファーの目が節穴なんじゃないのか?」

 リドリーのツッコミが入る。

「偉そうに言っているッスけど、リドは気づいたんッスか?」

「カーシュほど深いところまではわかんねえけど、キノコの成長が均等に分かれていて、なんだか人工的な感じだな~くらいには思ったぜ」

「…マジッスか?」

「みんなも気づいていただろ?」

 リドリーの問いかけに、カーシュナーたち4人以外のハンターは一様に首を横に振った。王立古生物書士隊員と古龍観測所職員の中にも正直に首を横に振る者が多数いる。

「お主ら4人はハンターとしての経験こそ浅いようだが、資質は極めて優れているようだニャン」

 腕組をしたヂヴァが感心して言う。アイルーらしからぬバリトンボイスが地下水道の壁に反射し、無駄に良い声を響かせていた。

「どうでもいいけど、早くキノコを採集してしまうモン。これじゃ、いつまで経っても探索が進まないモン」

 それまで黙って一同の話を聞いていたモモンモが口をはさむ。単純に飽きたらしい。

「ごめんね。モモンモ。確かに君の言う通りだよ。早くキノコを取り除いて水源の浄化が可能か確認しないといけなかったね」

「そうだモン! お前ら無駄口が多すぎるんだモン! それとキノコは丁寧に採集するんだモン! この採取の鬼と謳われたモモンモ様の目の黒い内は、雑な採取は許さないんだモン!」

「は~い」と全員が素直に答え、早速キノコの採取が行われた。

 

 

 採取後素材を無駄にすることを絶対に許さないモモンモの厳しい指導により、一同は一旦採取したキノコを撃龍船に運搬し、1グループが水源の浄化を確認するために残されると、他のグループはようやく地下水道の探索に向かった。

 カーシュナーたちの主たる目的は、超大型モンスターの生態調査を行っていた王立古生物書士を襲撃したモンスターがどこから港内に侵入したのかを調べることだった。地下水道の地図作製と状態の把握も当然の目的ではあるが、今後もこの港跡地は水の補給地として利用することになるので、井戸を含めた港までの地下水道の安全確保は絶対なのである。

 海が近いせいか、先程までは膝丈程度だった水位が胴体近くまで上がってきている。オトモアイルーであるヂヴァと奇面族の子供であるモモンモは当然すでに水没し、一番小柄なカーシュナーもほとんど泳いでいるような有様になっていた。

「ここまで来たら、もう水中戦のつもりで行くよ! 足がつくからって地上にいる感覚で動くんじゃないよ!」

 ハンナマリーの指示が飛ぶ。各自がギルドマスターが持たせてくれたアイテムポーチの一番上に酸素玉を移動させ、いつでも使えるように準備する。

 しばらく進むと地下水道は瓦礫にふさがれて行き止まりになったが、水位はさらに上がり、水面に顔を出せているのは長身のハンナマリーとリドリーだけになっていた。

「ちょっと潜って様子を見て来てやるモン」

 泳ぎに自身があるのか、モモンモが偵察を買って出る。

「一人では危険だニャン。オレも一緒に行くニャン」

 ヂヴァが同行を申し出る。

「ヒゲが濡れても知らないモン」

「フッ。そこいらの子猫と一緒にしないでもらおうかニャ」

 言うが早いか、ヂヴァはモモンモを置いて先に潜ってしまった。ネコかきと言うべきか? 以外に泳ぐのが速く、あっという間に見えなくなってしまう。

「ちょ! ちょっと待つモン! おいらが先だモン!」

 慌ててモモンモがヂヴァの後を追う。

「お目付け役が先行しちまったけどいいのか?」

 リドリーがぼやき口調でリーダーであるハンナマリーに尋ねる。

「このくらいはギルマスじいちゃんの計算の内ってことだろう。うちらの仕事は、後はモンスターの侵入経路を見つけるだけだし、歩いてきた感覚だと、この辺りが隊長じいちゃんたちが襲われた港の正面くらいなんじゃないか?」

「おそらく」

 方向感覚に優れるジュザが答える。

「ボクも見に行っていいッスか?」

「ダメ!!」

 好奇心を抑えきれないファーメイに全員がダメ出しをする。

「トラブルメーカーは大人しくしていろ」

「ひどいッス! たった1回丸呑みにされたくらいでトラブルメーカー扱いはないッスよ~」

「丸呑みをたった1回って言えるその神経の太さはどこからくるんだよ」

 リドリーが呆れて首を振る。

「いや、そんな、それほどでも…」

「褒めてねえよ!」

 照れるファーメイにリドリーが鋭くツッコミを入れた時、ヂヴァが水面に勢いよく顔を出した。

「申し訳ないニャン! オレがついていながら、モモンモがモンスターに丸呑みにされてしまったニャン!」

「ええぇ~」

 やっぱり、といった視線がファーメイに突き刺さる。

「ま、待つッス!! これは濡れ衣ッス! ボクのせいじゃないッス!」

 全員両手を上げると、お手上げの仕草で首を振った。ちゃっかりヂヴァまでお手上げポーズで首を振っている。

「よし! 助けに行くか! ヂヴァ! モモンモを呑み込んだのは小型の方か? それとも大型の方か?」

 ハンナマリーがヂヴァに尋ねる。

「大型ニャ! この下は砂地がえぐれたようになっていて、おそらくそのまま港に続いているようニャンだけど、その真ん中辺りの砂地に潜って隠れていたのニャ!」

「了解! 全員酸素玉はすぐに使えるようにしてあるね? 息継ぎ出来る場所なんてないと思いな!」

 ハンナマリーの号令を受け、全員が酸素玉の確認を行った。そして、水中用ランプにたいまつの火が移される。これはイキツギ藻で作られた芯を用いて作られた特殊なランプで、密閉空間でも自身が排出する酸素を燃焼材料にして燃え続けることが出来るのである。

 彼らは一斉に潜ると、ヂヴァを先頭に大型両生種のもとへと向かった。

 しばらく潜ると、ランプの明かりの中に巨大な両生種のシルエットが浮かび上がった。その周りには4体の小型モンスターの影も見える。

 さらに近づくと大型両生種ののどの奥で何かが暴れまわっているのが確認出来た。すでに胃袋に納められ、新たな犠牲者が出たのでない限り、モモンモはまだ生きているようだ。

 周囲に水の濁りがないようなので、毒はまだ吐かれていないらしい。それだけでもかなり立ち回り方を考えなければならないのでありがたかった。

 ハンナマリーが手信号で合図を送る。スラム街時代に身につけた技術がおおいに役立つ。

 ハンナマリーの意図を理解した3人がそれぞれ行動に移る。火力が弱い片手剣のカーシュナーとライトボウガンのリドリーは小型両生種の排除に向かい、大剣のハンナマリーと双剣のジュザは大型両生種に向かった。

 ハンナマリーたちの接近に気づいたモンスターたちが動き出す。両生種の割に、水中での動きはそれほど速くはない。

 全力で泳いで近づくカーシュナーを、リドリーの放ったLv2通常弾が追い抜き、一番手前にいた小型両生種に命中する。一瞬動きの止まった小型両生種にカーシュナーが追撃を入れ、そのままの勢いでモンスターと交差するように泳ぎ抜ける。一カ所に留まると毒攻撃の餌食になりやすいため、攻撃の手数よりも回避を優先したのだ。

 毒攻撃の反撃を受けるかと思ったが、以外にもモンスターは毒による攻撃は行わず、直接攻撃を加えようと、カーシュナーを追ってきた。その動きにはどこか精彩さが欠けている。

 カーシュナーはとある可能性に思い至り、リドリーに手信号で合図を送ると、港へ続いていると思われる方向に全力で泳いで行った。

 進んでみるとそこには、小型両生種がようやく通れる程度の穴が瓦礫と岩場の間に口を開けていた。

 カーシュナーは納得して一つ頷くと、再び全力で泳ぎ、引き返した。

 そこではリドリーが孤軍奮闘し、小型両生種を一人で引きつけて立ち回っていた。カーシュナーは早速手近にいた1体に盾攻撃からのバックナックルを入れていく。この攻撃により、ダメージを受けた個体は途端に動きを止める。疲労状態に陥ったのだ。

 カーシュナーはそれ以上の追撃は避け、リドリーにも手信号を送り、自分と同様に追撃を控えるように指示を出すと、別の小型両生種に同様の攻撃を叩き込んでいく。

 不思議なことに、盾攻撃からのバックナックルコンボを受けた小型両生種たちは全て疲労状態に陥り、動きを止めてしまった。

 カーシュナーが推測したことは、小型両生種がかなり体力を消耗しているのではないかということだった。その理由が、港内が大量の毒に汚染されていながら、港内には大型両生種が侵入出来るだけのスペースがなかったことにある。つまり、港内を汚染した毒は、全て小型両生種の仕業ということになる。あれだけの範囲に毒をまき散らしたら、小型両生種の毒袋は一時的に空になる。毒の原料が食料の毒キノコであることから、現在小型両性種は毒袋の補充のために食事から得られるエネルギーの全てが消費されている状態で、体力の回復は行われていないのではないかと推測したのだ。

 その推測は正しく、大量の毒をまき散らして体力を消耗していた小型両生種たちは、カーシュナーのスタミナを奪う攻撃であっさりと疲労状態になってしまったのだ。

 さすがにこれだけの情報を手信号で伝えることは出来ないので、カーシュナーはリドリーへの説明をすべて省いてしまった。いくら説明しようとするだけ無駄だとしても、その全てを迷わず切り捨てられる思い切りの良さは並ではない。

 状況が今一つ理解出来ないリドリーだったが、カーシュナーのすることに疑問を挟むことはしなかった。会話が出来ない以上細かいことはわからない。解決できない疑問を持ち続けることは、単に思考を鈍らせることにしかならないからだが、それは理解は出来ても実践することが非常に困難なことである。にもかかわらず、それをごく自然にこなしている。カーシュナーとリドリーの信頼関係の深さがうかがえる連携だった。

 二人は小型両生種にとどめは刺さず、放置してハンナマリーたちに合流した。

 カーシュナーはすかさず手信号で立ち回り位置の変更を指示する。ハンナマリーたちはこれまで、最悪の場合撤退することを考慮に入れて地下水道側を背にして立ち回っていた。だが、カーシュナーはそれを反転させ、港側を背にして立ち回ることにしたのだ。それは脱出経路の間に大型モンスターを入れることになる。それは常識で考えれば避けねばならないリスクの高い立ち回りだったが、他の3人は迷わず指示に従った。

 ジュザが手信号で攻撃を身体の裏側に行うように指示してきた。背中を覆う根がモンスターの肉質を固くしており、はじかれてしまうからだ。これは事前に予測していた事態であり、万が一遭遇した際には最初に確認することになっていた。

 しかし、カーシュナーはジュザの指示に首を振ると、ジュザには脚への攻撃を指示し、ハンナマリーには顔への攻撃を指示し、リドリーには首のコブを攻撃するように指示を出した。そして地下水道の方向を片手剣の先で指し示す。これだけでカーシュナーの意図は3人に伝わった。

 希少性の高いモンスターのため、討伐が禁じられているので、撃退するために大型モンスターにとっては行き止まりになっているこの場所から追い出す事が先決なのだ。

 ジュザへの指示は、脚にダメージを蓄積させて攻撃の手を緩めさせることが目的であり、ハンナマリーへの指示は、大型両性種の口を開けさせてモモンモを救出することが目的である。そして、リドリーにあえて固いとわかっている背中に攻撃するように指示を出したのは、モンスターの心を折る以上に寄生植物の生存本能を、戦う方向から、逃亡する方向にへし折らない限り、この大型両性種を撃退することは不可能だと判断したからだ。

 カーシュナーはダメもとでこやし玉を投げつけてみた。結果は予想通りで、幻覚物質で全身の感覚が麻痺した大型両性種には効果を示さなかった。せめてモモンモを吐き出してくれればと思ったのだが、上手くいかなかった。

 腹を決めた一同は、指示された部位に攻撃を集中させていく。

 モンスターの攻撃は、その大半が強靭な後脚を使った突進攻撃だけなのだが、直撃しなくても、攻撃よって発生した水流に巻き込まれると身体が翻弄されてしまうため、思ったように攻撃を入れることが出来ない厄介な攻撃だった。たまに動きが止まった時に左右の前脚を振り回して来るが、水の抵抗のため、有効な攻撃にならず、逆にカーシュナーたちに攻撃のチャンスを与えることになっていた。

 脚へのダメージが蓄積したのだろう。突進攻撃の威力が極端に弱まった。

 一瞬、大型両生種がエリア移動の仕草を見せたが、不意に大型両生種の目が光を失い、めちゃくちゃに暴れ始めた。

 一度は力を失ったはずの突進攻撃が、さらなる勢いを持って繰り返される。

 スピードと攻撃力がはるかに増し、初期装備のカーシュナーたちでは受けきれないレベルの攻撃になる。

 こうなってしまうとさすがのカーシュナーたちでも打つ手がない。しばらくは回避に専念し、観察を続ける。

 大型モンスターとの戦闘経験がほとんどないためカーシュナーたちにはわからなかったが、大型両生種の行動は、怒り状態に酷似していた。だが、これこそが寄生植物による代行操作だった。宿主である大型両生種の本能はカーシュナーたちの攻撃に嫌気がさし、エリアチェンジをしたがっているのだが、生息圏を守ろうとする寄生植物によって、逃走に傾いている本能が闘争に書き換えられ、無理矢理暴れまわっているのだ。

 本能と行動の不一致。これこそが、ファーメイに本来ならば全身を縛るはずの恐怖ではなく、それ以上に不快感を強く感じさせた要因であった。

 攻撃が不発に終わり業を煮やしたのか、大型両生種は突進をやめると、それまでずっと閉じられれていた大口を開け、周囲の水を飲み込んでいった。それはチャナガブルの吸い込みかみつき攻撃によく似ていたが、ハンターを吸い込む意図はなく、ただ大量に周囲の水を取り込むだけの行動だった。

 取り込める量が限界に達したのか、一瞬大型両生種の動きが止まる。

 そのわずかな隙を突いて、モモンモが囚われていた大口から飛び出してきた。

 全身に絡みついているぬったぬたの唾液を、まるで火属性やられ状態になったときのように水中を回転して振り払うと、カンカンに怒り狂い、何やら不思議なダンスを踊りだした。しかし、ダンスは最後まで踊られることはなく、酸欠に陥ったモモンモは不意に動きを止め、スーッと浮かび始めた。

(い、意味がわからん!!)

 声にならない突っ込みを全員が入れる。

 珍しく場の空気を読んだファーメイがモモンモの回収に向かい、お面の下に酸素玉を無理矢理押し込んだ。

 意識が回復したのだろう。きょとんとしているモモンモの両脇をファーメイとヂヴァが掴み、安全圏に引っ張っていく。

 間一髪、ファーメイたちがいなくなった空間から、カーシュナーたち目掛けて、濃厚な毒液が混じった水流ブレスが襲い掛かってくる。

 水の吸い込みからブレスまでの間隔が若干開いたのは、おそらく毒液を水に混ぜ込んでいたためだろう。場合によっては単なる水流ブレスが時間差なく襲い掛かってくる可能性がある。思い込みでタイミングをはかると痛い目に遭いかねない。

 吸い込んだ以上吐き出すのはわかりきったことなので、事前に武器を納めて身構えていたカーシュナーたちは、この水流毒ブレスを回避することに成功した。だが、厄介なことに、吐き出されたブレスはその勢いを失った後、毒液を残していった。そのため、エリア内で移動出来る範囲が制限される。

 状況の打開策を考えていると、安全圏に避難していたファーメイが、興奮してなにやらしきりと合図を送ってくる。カーシュナーたちの様に手信号での意志疎通が出来ないため、ただ身をくねらせている様にしか見えない。

 見かねたヂヴァとモモンモがファーメイに協力して、ジェスチャーを送ってくる。

 今度はわかった。背中のコブがどうやら開いているらしい。

 カーシュナーがハンナマリーに視線を送ると、それだけで理解したハンナマリーが上昇して行く。逆に残った3人は左右に散りながら大型両生種の下へと潜って行く。

 注意を引きつけるために、リドリーは時折攻撃しながら潜り、ジュザは一気に水底まで潜ると底を蹴り、勢いをつけて後脚へと武器出し攻撃を叩きこんでいった。カーシュナーは大型両生種の視界の隅に常に入るように位置取りし、誰か一人に大型両生種の意識が集中しないように立ち回った。

 ハンナマリーは大型両生種の真上を取ると酸素玉を使い、攻撃のタイミングを待った。真下に潜ったリドリーの攻撃が続けざまに大型両生種の腹部にヒットした瞬間、大型両生種の動きが止まる。

 ハンナマリーはこの隙を逃さず一気に潜行すると、花というより、獣が大口を開けているように開いているコブに武器出し攻撃を叩きこんだ。

 開いていたコブが驚いたように瞬時に丸まり、元の形状に戻る。それまで暴れまくっていた大型両生種が怯えたように振り向き、大剣を背負うように構えて溜め攻撃の大勢に入っていたハンナマリー目掛けて毒液を吐き掛けた。

 ブレストとは違い、タコが墨を吐き掛けるような攻撃だったため、物理ダメージはほとんどないが、それでも毒液に触れた瞬間からハンナマリーの体力は徐々にけずられ始めている。にもかかわらず、ハンナマリーは一瞬も怯むことなく巨大な大剣を振り下ろすために力を溜め続けた。大型両生種に据えられた目が、全身に力が満ちて行くごとに鋭さを増していく。練り上げられた闘気と、数々の修羅場をくぐって身に纏った百戦の気が混じり合い、水を伝って大型両生種をからめとる。

 まるでガララアジャラににらまれたテツカブラの様に射すくめられた大型両生種が、ハンナマリーのアイアンソードが振り下ろされる寸前に、異様な動きでその場を離れると、上手く泳ぐことすら出来ない有様で逃走に掛かった。

 おそらく、これまで逃走ではなく闘争を指示し続けていた寄生植物が、ハンナマリーの放つ気にのまれ、元々逃げたがっていた大型両生種に逃走の代行操作を行ったため、二つの系統から同様の指示が飛んだ身体が上手く反応出来なかったのだろう。両生種にもかかわらず、平泳ぎではなくバタフライのような泳ぎで地下水道の奥へと逃走して行く。疲労状態から回復していた小型両生種も後を追ってエリアチェンジして行く。

 吐き掛けられた毒液の靄の中から、ハンナマリーが沈み込むように抜け出してくる。

 急いで泳ぎ寄るカーシュナーたちの目の前で、ハンナマリーの身体が微かな光のようなものに包まれる。

 ハンナマリーは顔を上げると、ダメージ毒の影響で幾分青ざめているが笑みを浮かべ、ガッツポーズを決めているモモンモの方を指さした。

 どうやら先程ハンナマリーを包んだ微かな光は、モモンモの踊り効果だったらしく、そのおかげでハンナマリーが受けた毒は解毒されていた。続けざまに回復効果のある踊りをモモンモが踊り、全員の体力が回復する。

 

「依頼達成ッス!!」

 

 ファーメイが水中にも関わらず叫ぶ。その大声は水を伝わり、ファーメイの喜びまで運んできた。

 自然と全員の頬もゆるみ、モンスターの撃退達成の喜びが湧き上がる。

 互いが吸い寄せられるように集まり、水中で肩を組んで輪になると、器用にクルクルと回り始めた。

 笑いがあふれ、笑うために酸素玉を使うという、なんとも贅沢な酸素玉の消費が続く。一緒になって笑い転げていたモモンモが不意に笑いやめると輪を崩し、怒りはじめた。

「こんなことしている場合じゃないモン!! お前ら周りをよく見るモン! 落し物だらけだモン!」

 モモンモに指摘されて周囲を見回すと、モンスターの素材らしきものがそこかしこに漂っていた。

「早くするモ~ン! 流されて見失うモン! もったいないモン!!」

 井戸の底でキノコを採取した時もそうだったが、どうやらモモンモは素材を無駄にすることが嫌いなようで、素材採取に関しては鬼の厳しさになってしまうようである。それでいて、酸素玉の贅沢使用は気にならないらしく、人一倍笑い転げては酸素玉を消費していた。こうなるともはや、子供のわがままと大差ない。

 突然、理不尽な採取の鬼軍曹と化したモモンモが、手にした武器を振り回して全員に迅速な素材採取を促す。

「早く採取するモン! もし素材が流されでもしたら、お前ら全員を島流しにしてやるモン!」

「うおっ! あぶねえだろ! やめろよモモ!」

 頭をピック状の武器がかすめたリドリーが文句を言う。

「口じゃなくて手を動かすモン! 目の前にあるだろモン! それを採取できなかったら、よく見えるように丸刈りにしてやるモン!」

 これを聞いたリドリー以外の全員がニヤリと笑う。

 頭髪の危機を鋭く察したリドリーは、いつにない真剣さで素材採取に奔走した。その姿を笑って眺めていたカーシュナーたちの背後に鬼軍曹が音もなく近づき、ピック状の武器を振り上げる。

 殺気に気づいたカーシュナーたちは、慌ててリドリー同様素材採取に奔走したのであった。

 

 その後撃退された両生種モンスターたちは、他の先輩ハンターたちの働きにより、地下水道の奥へと去って行った。

 調査団一行は、この港跡地を希少種モンスターの生息地と認定し、水源として確保された最低限のエリア以外を立ち入り禁止区域に指定した。

 エリア確保に際しては、土木・建築分野の専門家とした参加していた土竜族の男性が監督となり、水源エリアと繋がる水路を、崩壊した都市の瓦礫を利用して塞ぎ、港とつながっていた穴も、外から入り込めないように格子を設けて封鎖した。

 この作業の際、王立古生物書士隊が小躍りするような発見があった。

 両生種の卵が発見されたのだ。それは飛竜種や鳥竜種のものとは異なり、固い殻には守られてはおらず、細長い寒天状のものの中に、握りこぶし程度の大きさの卵が約50個、等間隔に並んでいた。この卵の数からも、この両生種が生態系の下位に属することがよくわかる。

 絶対ではないが、生存確率が低い生物ほど、産卵数が多く、年間の産卵及び出産回数も多くなる。大型に分類されるモンスターで、一度の産卵数がこれほど多いモンスターは、北の大陸にはなく、例外的にギギネブラが存在しているのみである。もっとも、ギギネブラの場合産卵期というものがなく、雌雄同体であるため、際限なく生み続けることが可能であり、その産卵はもはや種の保存を目的としているというより、戦闘の手段の一つと思える場合がある。実際、戦闘中に産みつけられた卵塊からはおそろしい早さで幼体であるギィギが生まれ、こちらは戦闘が目的ではないが、生存本能に従って、ハンターに襲い掛かってくる。

 ギギネブラとは根本的に違い、この両生種は純粋に種の保存のために、一度に約50個もの産卵が必要なのであろう。

 王立古生物書士隊は研究のため、この卵を5個だけ採取し、残りは水路を封鎖する前に奥のエリアへと移動した。

 カーシュナーたちは、この水源エリアの確保作業は免除され、周辺海域の採取活動が許可された。ここまで大活躍を見せたカーシュナーたちへの特別報酬である。

 海中食料の調査の際、この港周辺の海域には鉱石を採掘できる場所が以外に多いことがわかり、初期装備の彼らが武具をランクアップさせるにはもってこいの場所だったのだ。

 フィールドワークにたけているファーメイと、採取の鬼軍曹ことモモンモの協力のおかげで、カーシュナーたちは採取箇所の見極め方や、一カ所の採取箇所でより多く採取するコツを教わり、多くの素材を手にすることが出来た。

 水源の確保に成功し、海中食料が豊富だったおかげで調査隊一行はしばらくこの港跡地を拠点に周辺調査を行うことにした。

 その間にカーシュナーたちは、採取した素材を使って装備の強化を図ることにした。新人でありながら、カーシュナーたちは伝説の鍛冶職人の手で装備を作成してもらえることになった。北の大陸から南の大陸までの間に点在している島に拠点を築くために、ほとんどの鍛冶職人が各島で降りてしまい、南の大陸まで調査団に同行してくれた鍛冶職人が伝説の鍛冶職人と、まだ未熟なその弟子たちしかいなかったおかげである。もっとも、他に鍛冶職人がいたとしても、航海の間にすっかりカーシュナーに惚れ込んでしまった伝説の鍛冶職人が、カーシュナーたちの装備作成を他人にゆずりはしなかっただろう。

 調査の結果、この港湾都市は、ラオシャンロンのような超大型モンスターの襲撃を受け、その痛手が癒える前に、不幸にも他の大型モンスターの襲撃を受けて滅んだ可能性が高いことがわかった。これは北の大陸でもよくあることで、いくつもの街や村が興されては滅んでいる。しかし、それは住人の数がせいぜい100人から1000人程度の小さな規模のもので、都市国家の規模にまで成長した人類の生活圏が滅ぼされるなど考えられなかった。この港湾都市の住人は、おそらく3万人を越えていたはずである。

 調査結果に一部の者が戦慄を覚えていたころ、新装備を手に入れたカーシュナーたちを祝って宴会が行われることになった。実際は調査が一段落したので、みんなが大騒ぎするためのダシにされたのだが、カーシュナーたちには何の不満もなかった。

 これまで、大騒ぎすることなど許されない環境で生き抜いてきたカーシュナーたちにとって、それは初めて経験する開放感であったからだ。

 朝まで飲んで食べ、歌って踊り、生きているという当たり前のことをおおいに楽しんだ一同は、太陽が中天にさしかかるまで眠ると、本格的な活動拠点の設置場所を求めて再び海へと乗り出したのであった。

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