新大陸は、海底大地震の被害を差し引いても、豊富な資源に恵まれていた。当初は港湾都市の跡地のような、かつて栄えた文明社会の跡地を利用して拠点を定めようと調査を進めていたが、滅びるには相応の理由があり、仮に文明跡地に拠点を定めても、同様の理由で拠点が滅んでは何の意味もないので、拠点は北の大陸との航路も考慮に入れた場所に、一から開拓されることになった。これは南の大陸が豊富な資源に恵まれているからこそ出来た選択であった。
拠点の建設に際し、スラム街からの移住者たちは貴重な戦力となった。
今回の調査団の遠征は、あくまでも調査が主体であり、移住はその結果を見て判断することになっていた。そのため、拠点の設置は北の大陸と南の大陸間の航路確保がメインであり、南の大陸には調査団用の仮拠点を設営し、調査終了後はすべて解体して北の大陸に戻る予定だった。
そのため、乗船しているのは探索、調査のスペシャリストばかりで、拠点の建設、管理を行える人的資源には乏しい船出だったのだ。だが、予定外に移住を希望して参加してくれたスラム街の住人たちのおかげで、一気に本格的な拠点建設まで行えることになったのだ。
場所の選定がすみ、環境調査がすむと拠点の建設が始まった。
ハンターは3グループに別れ、それぞれが周辺域の調査、拠点周辺の警護、食料系をメインに、それ以外の素材採取と、役割を3つにわけ、週替わりで行うことになった。
作業が1ヶ月を過ぎ、拠点がさまになり始めたころ、予想外のトラブルがハンターたちに襲い掛かった。
もっとも、ハンター全てにではなく、ある武器をメインに使用するハンターたち限定で、そのトラブルは襲い掛かったのである。その武器とは、
≪操虫棍≫
近年開発された非常に優秀かつ強力な武器種で、かなりの数のハンターが、メイン武器をこの操虫棍に持ち替えたほどのすぐれものである。同時期に開発されたチャージアックスも強力な武器種なのだが、ハンターへの普及率では操虫棍には及んでいない。
操虫棍の最大の特徴といえば、段差などを利用せずに、武器そのものを使って繰り出されるジャンプ攻撃と、猟虫と呼ばれる様々なタイプの虫を使い、ときに攻撃し、ときにモンスターからエキスを採取してハンターを強化する、他の武器種とは明らかに性質の異なる二つの攻撃だった。
この特徴の一つである猟虫が、日を追うごとに主人であるハンターの指示に従わなくなってきたのだ。
昨日など、飛ばしたが最後そのまま飛び去ってしまい、丸一日探し回って、ようやくのんびり樹液を吸っているところを発見し、保護するというさわぎが起きていた。
程度の差こそあれ、操虫棍を使うハンター全員が、猟虫の制御がきかなくなる事態に直面しており、今では腕にとまらせておくことすら困難になっているハンターもいた。
事態を憂慮したギルドマスターが、王立古生物書士隊と古龍観測所に加え、操虫棍の製造経験が豊かな伝説の鍛冶職人に依頼し、原因の究明をはかった。
様々な意見が出され、多くの憶測がなされたが、答えには辿り着かず、伝説の鍛冶職人の、
「試しに猟虫をほったらかしにしてみたらええ」
の一言で、実験が始まった。
所有者の決まっていない予備のボーンロッドが実験に供され、付属のマルドローンが野に放たれた。
始めは困惑し、ボーンロッドを普段点検整備し、マルドローンに変化を与えない虫餌を与えていた伝説の鍛冶職人の弟子の周りをぐるぐると回っていたが、特にこれといった指示が出ないことを確認すると猟虫は森へと姿を消していった。見失ってしまうと意味がないので、猟虫にはペイントがされており、効果が切れる前にペイントが追加されることになっている。
始めのうちは食事時間になると戻ってきていたのだが、次第に戻らなくなり、3日もすると完全に戻らなくなってしまった。その後さらに4日間放置してから捕獲してみると、マルドローンはたったの1週間で二回り以上大きく成長し、人間の指示は完全に受け付けなくなっていた。
猟虫はおそろしい速度で野生化してしまったのである。
白い獣人に尋ねてみても、外部から生物が持ち込まれたのはこれが初めてのケースであるため答えることが出来ず、ファーメイが思いつきで言った、
「甲虫種が支配している大陸ッスから、虫の刺激になる何かがあるんじゃないッスか?」
の一言に、判断が落ち着いた。
この結果に、言ったファーメイ本人が一番驚いていたが、最終的に全員が支持したのにはそれなりの根拠があった。
北の大陸で与えられる虫餌では、姿かたちの変化や能力の向上はあっても、巨大化したことはこれまでなく、実験に使用したマルドローンは、自力で餌を確保するようになってから、短期間で巨大化したことが理由だった。
ギルドマスターはただちに操虫棍を使用するハンターたちを、大陸手前の島で拠点建設の防衛に当たっているハンターとの入れ替えを指示した。
彼らは全員G級ハンターであり、当然ながら彼らが手にしている操虫棍はどれも最終形まで強化された貴重な逸品ばかりだった。このまま南の大陸で調査に当たっていると、彼らの猟虫も野生化してしまい、操虫棍としての機能は大きく低下してしまう。
幸いなことに、一つ手前の島にいるハンターの中には操虫棍使いはおらず、人数分の入れ替えを行うだけですむが、入れ替えが完了するまでの間、戦力ダウンするのは大きな痛手だった。
一つ手前の島に戻らなくてはならないハンターたちも、南の大陸を去らねばならないことを無念に感じていた。
その一つ手前の島にはカーシュナーたちの仲間のルッツとその妹であるリンが残っている。二人のことをとても気にかけているグエンが、各島に建設中の拠点の状況把握を理由に、二人の様子を見に戻ることになった。実際各拠点の状況次第では、一度南の大陸での調査を中止し、引き返すことになるので、かなり重要な役回りである。
野生化したマルドローンは、放置して南の大陸の生態系に悪影響をもたらしてはまずいので、マルドローンも無理やり一つ手前の島に運ぶことになった。環境の変化がどう影響するかを見ることもできるので一石二鳥である。
操虫棍使いのハンターとグエンとマルドローンを観察する王立古生物書士隊員を乗せ、撃龍船は短い航海に旅立った。
数日後、入れ替えのハンターたちが到着し、一人の少女をいっしょに運んできた。
豊かな黄金の髪に深い青色をした瞳を持つ少女は、まるでハンマー使いのハンターの様に、大きな金槌を肩にかつぎ、南の大陸に降り立った。
少女はカーシュナーを探し出すと、グエンからの手紙を差し出した。カーシュナーは少女に礼を言うとさっそく読み上げた。カーシュナーの周りには、姉のハンナマリーとリドリーにジュザ、王立古生物書士隊の新人隊員であるファーメイ、オトモアイルーのヂヴァと奇面族の子供のモモンモが集まっていた。地下水道の冒険以来、ほぼこのメンバーで行動している。
グエンの手紙の中にはルッツとリンの近況がつづられていた。これといったトラブルもなく、平和に日々を過ごしていることがわかり、カーシュナーは手紙を送ってくれたグエンに感謝した。手紙の中ほどで、カーシュナーたちを爆笑させた一文があった。
「リンがオレのこと間違えて、お父さんって呼んでくれたんだよ! オレは不覚にも泣いちまったぜ!」
グエン本人は不覚と思っているようだが、カーシュナーたちにはその時の光景が目に浮かぶようだった。こんなにやさしい人間が、どうやってギルドナイツの職務を果たしてきたのか不思議でならない。
手紙の最後には、手紙を運んでくれた少女に協力してほしいという内容が記されていた。
「カーシュナー君、君同様新しい時代に不可欠な、面白い女の子だよ」
グエンの評価がかなり高いことがうかがえる。
周囲を見回すと、先程の少女がギルドマスターに手紙を渡しているところだった。
カーシュナーたちが歩み寄ると、少女は笑顔で手を差し出してきた。カーシュナーも満面の笑みで少女の手を握り返した。心の全てを溶かしてしまいそうなカーシュナーの笑顔に、少女は耳まで真っ赤になってしまう。
「手紙を運んでくれてありがとう。ボクはカーシュナー。よろしく」
「……グエンさんの言う通りだ! すごい破壊力だね! カーシュナー君の笑顔って!」
強く握りしめられた手は、愛らし顔とは裏腹に、手のひらに固いたこのある職人の手だった。
カーシュナー以外の全員もそれぞれ名乗り、握手をかわしていく。
「わたしは土竜族のレノ。鍛冶職人として修行中で、伝説の鍛冶職人の弟子です」
全員と握手を交わしたレノは、元気よく自己紹介した。
「あれ?レノって土竜族なの?」
カーシュナーが小首をかしげて尋ねる。どう見ても人間か海の民にしか見えないからだ。
「そう! 土竜族! 生んでくれた両親は人間だけど、赤ん坊だったわたしを引き取って育ててくれたのは土竜族のみんなだから、わたしは土竜族なの!」
「了解!」
レノの説明に全員があっさり納得する。
「えっ? …今の説明でいいの?」
あまりにもあっさり納得されてしまったので、言ったレノの方が戸惑う。
「レノを育てた土竜族の人たちは、レノを人間として意識せず、仲間として育ててくれたんでしょ?」
「うん。行商人のおじさんに教えてもらうまで、自分が人間なんだって知らなかったし、わたしが尋ねるまで、村のみんなもわたしが人間だってこと忘れていたの」
「それならレノは間違いなく土竜族だよ」
「うん!」
これまで、自分が持つ土竜族としての誇りをなかなか理解してもらえなかったレノは、初めてその誇りが満たされるのを感じた。村のみんなは当たり前に受け入れてくる。レノが土竜族であることに誇りを持つことは当たり前のことだと思っている。しかし、この感覚が、村を一歩出るとまったく通用しない。むしろ忌避の目見られることさえある。それはレノにとって、仲間である土竜族を侮辱されているように感じられ、悔しい思いを何度もしてきた。仲間の土竜族を誇りに思うからこそ、レノはこれまで主張を貫いてきた。
カーシュナーたちは、レナの仲間を誇る気持ちを含めて受け入れてくれたのだ。
グエンの言った一言がいま初めて理解できた。
「彼らは最高だよ」
修行のために村から旅立って以来初めて、村には一人もいなかった同世代の理解者をレノは得たのだった。
彼らが打ち解けるのに時間はいらなかった。感覚が出会った瞬間から互いを受け入れていたからだ。
「グエンさんの手紙に、レノに協力してやってほしいってあったんだけど、何をすればいいのかな?」
カーシュナーが、エメラルド以上の輝きで、翡翠色の瞳を好奇心に輝かせながら尋ねる。
レノは担いでいた金槌をおろすと、真っ白な歯を光らせて笑った。
「新武器種の開発!」
「おおぉ!!」
全員が驚きの声をあげる。
「武器種って決まっているんじゃないのか?」
リドリーが尋ねる。ハンターとしてのキャリアの短い彼らは、ハンターの武器の歴史など知らない。いまある武器種が始めからあったものだと思うのは当然と言えた。
「決まってないよ。武器種は、ハンターという職業が生まれた時からずっと、より強力な武器を求めて開発が続いているんだよ」
「いまある武器じゃダメなのかい?」
ハンナマリーが尋ねる。
「ダメじゃないけど、新しい狩場が増えるたびに、いままで遭遇したことのない新種のモンスターが発見されて、新しい素材が次々と鍛冶職人のもとに持ち込まれているの。それだけでも新しい武器の派生先の研究が必要だし、何より、今まで有効だった戦略が、新モンスターには通用しないことがあるんだよ。大抵は、狩猟に持ち込む武器をモンスターと相性の良い武器に持ち替えたり、持ち込む武器の属性が有効な武器に持ち替えたり、罠とかタル爆弾を併用するとかの工夫をして、新しい戦略を組んで対応するんだけど、それだけじゃ厳しいこともあるの!」
「つまり、それぞれのモンスターに合った武器種が本当は必要ってことッスか?」
「うん。でも狩猟には大連続狩猟なんていうタイプの異なるモンスターたちを一回のクエスト中に討伐しなければいけないものもあるから、ある程度の汎用性が不可欠なんだよ。1種類のモンスターはあっという間に討伐できても他の種類のモンスターを全然討伐できなくて制限時間をオーバーしちゃったら、クエスト失敗になっちゃうからね」
「大連続狩猟はよくあるのか?」
ジュザが眉間にしわをよせて尋ねる。想像しただけでも、大連続狩猟の困難さがわかるからだろう。
「下位のハンターだと滅多に依頼は回ってこないけど、上位以上に上がれば多いみたいだよ。大連続狩猟じゃなくても、モンスター同士の縄張り争いは頻繁に起こる厄介ごとだから、2頭同時討伐クエストでも、まったくタイプの異なるモンスターを討伐しなくちゃいけないことは多いから、どちらかに有効な装備編成で挑むと、クエストを失敗することはよくあるんだよ」
全員黙り込んでしまう。レノは慌てて言葉を足した。
「だから、片方のモンスターに対しては相性のいい武器種で挑んで、もう片方のモンスターには有効な属性になるように武器を選んだりするし、そのためにも、選べる武器種は多い方が戦略の幅も広がって、ハンターの助けになるんだよ!」
「おおぉ!」
今度は感嘆の声があがる。
「それで今回は、大陸の特性で操虫棍が使用不可能になっちゃったから、それに代わる武器種を開発しようって訳なんだ」
全員おおいに納得したようで拍手が沸き起こる。レノは照れくさそうに頭をかきながらも、拍手には嬉しそうに応えた。
「新しい武器種のアイデアとかは、もうあるの?」
「あるよ! 撃龍船に試作品が積んであるから、取ってくるね!」
言うが早いか、レノは撃龍船に向かって駆けでした。
「ボクも手伝うッス!」
その後をファーメイが追いかけ、あっという間に追いついてしまう。
「ボクらも積荷の荷卸しを手伝おうか」
駆け去るレノとファーメイの後を追って、カーシュナーたちも撃龍船に向かって歩き出した。
「じゃ~ん! 奏双棍≪ソウソウコン≫と演舞棍≪エンブコン≫で~す!」
レノは厚手の布で丁寧に包まれた二組の包みを開くと、カーシュナーたちに新武器種の試作品を披露した。
どちらも二振りの棒状の武器で、素材にはなぞの骨をメインに作成されていた。おそらく機能確認が目的のもので、攻撃力や切れ味は考慮されてはいないであろうことが素人目にも見て取れた。
「操虫棍は猟虫の存在を抜きにしても、非常に優れた武器種です。全武器種の中で、唯一自力でのジャンプ攻撃が可能で、他の武器種よりも多く乗り攻撃のチャンスが生まれます。これに加えて猟虫によるエキス採取からのハンター自身の強化による能力上昇は強力な火力を有しましたが、猟虫が使用出来なくなってしまったため、このままでは乗り攻撃による転倒狙いのサポートがメインになってしまいます。これではソロでクエストに挑む際には火力不足に陥り、パーティを組んでモンスターに挑む際は、下位のモンスターならばさしたる問題はありませんが、強力なモンスターに挑む際には、他のハンターの負担が大きくなってしまいます。そこでわたしは猟虫がいない操虫棍の機能改善と、追加効果を考案しました」
一息でここまで説明する。たいした肺活量である。
「まずはこちら! 奏双棍!」
レノはどちらかというと若干細身の二振りの棍を取り上げた。そして、奏双棍といっしょに包んであった手のひらサイズのアイテムを取り上げ、片方の奏双棍に取り付ける。
「これはマウスピースというもので、奏双棍に装着することで、各種笛や狩猟笛の演奏効果に近い効果を発揮することが出来ます。これらには、狩猟笛のような演奏技術は必要なく、各効果ごとに存在するマウスピースを付け替えることで、誰でも使用が可能です」
説明するとレノは早速奏双棍を吹き鳴らしてみせた。とたんにカーシュナーたちの体力が回復する。
「回復笛だモン!」
いまの回復で元気が余ってしまったモモンモが小躍りしながら叫ぶ。
「次はこれ! 演舞棍! モモンモちゃん、そのまま≪強走≫効果の踊りを踊って!」
レノは奏双棍を演舞棍に持ち替えると、一定の型で演舞棍を振り始めた。その姿は武術の型を披露する演武のようであり、王宮で披露される美しき踊り子たちの演舞のようにも見えた。
レノが演舞棍を振るのに合わせて、演舞棍から笛のような音が流れてくる。奏双棍もそうであったが、この演舞棍も内部が中空になっているようだ。
レノの舞いが、ある一定の繰り返しを経た時、カーシュナーたちのスタミナが一気に湧き上がった。これに合わせてモモンモの≪強走≫の踊り効果が加わる。
「なんだこれ! まるで一晩中でも走り続けられそうだ!」
ハンナマリーが驚きの声をあげる。
「鬼人化し放題」
ジュザも驚きを隠せない様子で呟いた。
「この演舞棍は、奇面族の踊りを参考に、狩猟笛を演奏する代わりに一定の型を舞うことで、その効果を得られるように作られています。また、この舞いで得られる効果は、オトモアイルーや奇面族のサポート効果と重複せず、重ね掛けが出来るんです」
「うおおおぉ! 最高だモン! おいらもほしいモン!」
演舞棍が気に入ったらしく、モモンモはレノの周りをクルクルと飛び跳ねて回った。
「それ盲点! 確かにこの演舞棍を小型化出来れば、奇面族にはうってつけの武器になるわ! 奇面族はお面に比重を置くせいで、自身の装備は結構いい加減だったりするから、上手く行けばすごい戦力アップになるわ!」
新しい思いつきに浮かれたレノが、モモンモといっしょになってクルクルと回り始める。
リドリーはレノの予想以上の新武器種の効果に感心しながら、隣りで翡翠色の瞳をきらきら輝かせながら、感心しつつも頭では冷静に新武器種を吟味してるカーシュナーに感想を尋ねてみた。
「そうだね。いままで猟虫で行っていた強化を、笛や演奏効果、踊り効果で代用しようってことだね」
「しかも、奏双棍か? これは使用者に熟練度が求められない分、効果が単調なのに対して、演舞棍? の方は熟練が必要な分、狩猟笛並に豊富な効果が期待できる。操虫棍が使用できなくなってからたいした時間もなかったのに、こうやって比較できる武器種を2種類用意してくるんだから、本気で新武器種の開発を考えているのが伝わってくるよな」
「後は猟虫効果による移動速度のアップと、攻撃の手数の増加による火力アップに代わる何らかのアイデアが必要になるね」
「今のアイデアだけじゃ不足か?」
リドリーが意外そうに尋ねる。リドリーにはどちらも十分魅力的な武器に思えていたからだ。
「各種笛の効果は、それぞれの効果を持つマウスピースが必要になるでしょ?」
「いいじゃんか、狩猟ごとに使いそうなマウスピース? とかいうのを持ち込めばすむ話だろ?」
「環境不安定の狩場じゃ事前に必要なものは吟味出来ないよ。それに、アイテムポーチを圧迫するのもマイナス要素だね」
「アイテムポーチか! すっかり忘れてた! そうか、そう考えると、笛とか鬼人薬とかを持ち込むのと大差ないか。むしろ武器に装着したり、付け替える手間が発生する分マイナスか。全体に効果があるのがメリットかもしれねえけど、それは防具のスキルとか、回復なら生命の粉塵で補えるもんな」
「舞いの方も狩猟笛と同等の効果で、扱いにも同等の技術が必要だとすれば、攻撃力で上回る分狩猟笛の方が性能は上ってことになってしまう。そうなると武器種として新しく採用されるのは難しいね」
「その辺を踏まえて協力しろってことかねえ?」
「そうだね。いまボクが言ったことはレノもわかってるはずだからね。使ってみてわかることもあるはずだから、まずは実戦で使用してみることだね」
「よろしく頼むぜ」
リドリーが髭に埋もれた口をニヤリと曲げる。
「やっぱりボク?」
カーシュナーが苦笑を返す。
「いや、基本はカーシュと誰か一人で使用して、その一人もオレとハンナとジュザが交代で使用して感想をカーシュに上げるのが効率がいいんじゃねえかな。4人全員で狩猟に持ち込むのは危険すぎるだろ」
「確かに」
「悪いな。分析力でお前さんの上を行く人間なんて、オレには想像もつかねえからな。お前さんにやってもらうのが一番なんだよ」
「正直に言うと、すごく楽しみなんだ」
「実はオレもだ」
二人は笑いながらこぶしを合わせると、奏双棍に手を伸ばした。
「ちょっと待った、お二人さん!」
モモンモとクルクル回っていたレノが、カーシュナーとリドリーに待ったを掛ける。
「まだ説明していない武器性能があるから、試すのは説明を聞いてからにして」
「説明の途中で遊ぶなよ」
リドリーがクレームを入れる。
「ごめん。いいアイデアが浮かんだから、つい、はしゃいじゃったよ」
レノが舌を出しつつ謝る。
「どんな武器性能なんですか?」
「この2種類の武器は、どちらも操虫棍の特徴であるジャンプ攻撃が出来る新しい武器種の開発が目的で試作したものだから、当然長い棒状のものでないと意味がないの。こんな操虫棍の半分しか長さのない2本の棍じゃ、もちろんジャンプは出来ない。それをあえて二つに分けたのには意味があるんだよ」
「どんな?」
「理由の一つは攻撃の手数。操虫棍は猟虫に赤エキスを採ってきてもらわないと、どうしても連続攻撃の回数が少なくなる。でも、この大陸にいると猟虫たちが野生化して指示に従わなくなるから、赤エキスを手に入れることは出来ない。これは白エキスによるスピードアップもそうなんだけど、猟虫がいないと得られない効果なんだよ。他の攻撃力や守備力のアップ、体力の回復はアイテムの持ち込みで対応出来るけど、こればっかりはどうにもならない」
レノはお手上げの仕草で首を振る。
「白エキスによるスピードアップは、狩猟笛の演奏同様、舞いによる自分強化でなんとか対応出来たんだけど、赤エキスによる攻撃回数の増加だけは、猟虫による赤エキスの採取以外に手段は見つけられなかったんだ」
「じゃあ、ダメなのか?」
「そこで根本的な考え方をかえてみたの。武器の形状を長い棒状のものにこだわらず、手数の多い双剣と同様の形状にしてみようって」
この意見にカーシュナーが賞賛の笑みを向ける。
「見事な発想の転換だね。ジャンプ攻撃を生かすために操虫棍の機能を開発の大元にしたのに、全体的な性能の向上のために、あえてその棍を半分にするなんて、そう簡単に思いつけるものじゃないよ」
カーシュナーの褒め言葉にレノが照れる。
「思いついたのは偶然なの。操虫棍と同じ長いタイプの棍を試作していたとき、材料にしていたなぞの骨に不良品が混ざっていて、出来たと思って性能を試していたら、真ん中で真っ二つに折れちゃったの。それを見て、可変機能をつけて、スラッシュアックスとか、チャージアックスみたいに二通りの攻撃手段を織り込むことを思いついたの」
「思いつくところがさすがだね」
ハンナマリーも素直に感心する。
「そこで、半分にした棍でも鬼人化出来ないかと思って試してみたら、出来たの! さすがに長さが半分になる分攻撃力は落ちるんだけど、攻撃の手数が多い分、トータルダメージでは赤エキスの強化を受けない状態での操虫棍の攻撃ダメージ総量を上回ることが出来たの」
「すごい発見だよ!」
「ただね。双剣と違って、鬼人化までしか出来ないの、真鬼人解放とか、鬼人強化みたいな、鬼人化の上位性能は発揮されなかったから、双剣の開発初期の性能しか持っていないんだよね」
「でも、乱舞が出来るのは大きい」
双剣をメイン武器にしているジュザが感想を口にする。
「あっ、乱舞の事なんだけど、双剣と違って棍での攻撃は打撃攻撃になるから、わたしは棍による乱舞攻撃のことを区別しやすくするために≪乱打≫って呼んでいるの」
「≪乱打≫!!」
全員なぜか言葉の響きがハマったらしく、声をそろえて叫んだ。
「すごく乱暴そうな響きだね」
カーシュナーが苦笑する。
「意外とレノって暴力的な性格なんじゃねえか?」
リドリーが若干引き気味に言う。
「そんなことないよ! 実際に使用すると太鼓の乱れ打ちみたいな動きになるから≪乱打≫って命名したんだよ!」
レノが必死に説明する。
「めった打ちに殴り殺すから≪乱打≫なのかと思ったッス!」
ファーメイが混ぜっ返す。
「違うよ~。そんな凶悪なイメージじゃないよ~」
「話がそれるんだけど、太鼓の乱れ打ちってなに? 太鼓って知ってはいるんだけど、実際に演奏してるところ見たことないんだよ。太鼓も実物は見たことないしさあ」
途方に暮れるレノに、ハンナマリーが質問する。
「あっ! そうなんだ! 太鼓があれば説明できるんだけど…」
言いつつ周囲を見回すレノに、モモンモが助け舟を出す。
「小タルを使えばいいモン! おいらが男気あふれた乱れ打ちを披露してやるモン!」
「さすがモモンモちゃん! ナイスアイデアだよ!」
二人は撃龍船に行くと小タルを運びだし、拠点建設に使用した木材の端材をバチ代わりにして演奏を始めた。
自ら演奏を申し出ただけあり、モモンモの腕前はたいしたものであった。いつの間にか周囲に見物人が集まり、 レノがモモンモの演奏に合わせて舞い、強走効果を得ると、モモンモの太鼓の乱れ打ちに合わせて、手近にあった倒木に、≪乱打≫を叩きこんで見せた。
確かにレノの言う通り、その動きは非常によく似ており、レノが≪乱打≫と名付けたのもうなずけた。
演奏と≪乱打≫の共演が終わると、見物人たちから拍手が沸き起こった。ちょうどいい休憩の余興になったようだ。
「ありがとうな。二人とも。いいもの見せてもらったよ」
ハンナマリーが手を叩きながら感謝する。
「話はそれたけど」
ジュザが小声でツッコむ。それを聞きつけたカーシュナーがくすくす笑いながら話の軌道を修正する。
「攻撃の手数の問題を、双剣の鬼人化の応用で解決しようとしたことはよくわかったけど、他にも棍を二つに分けた理由があるんでしょ?」
「えっ? ああ、あるよ。それは、手数も問題だったんだけど、攻撃力の低下がそもそもの問題なの」
モモンモとの共演に夢中になっていたレノが、我に返って説明する。
「鬼人化からの≪乱打≫で十分なんじゃないのか?」
リドリーが首を傾げて尋ねる。強走効果に加えて、攻撃力や防御力を上昇させてから叩き込む≪乱打≫には、十分な破壊力があったからだ。
「双剣をメイン武器にしているジュザならわかると思うけれど、≪乱打≫は隙の大きい攻撃だから、モンスターが罠に拘束されていたり、麻痺や気絶状態みたいな、≪乱打≫を打つのに十分な条件が整っていないと、モンスターの反撃を受けるリスクの大きい攻撃なんだよ」
「確かに、乱舞は注意して使わないと危ない」
レノの説明にジュザが大きくうなずく。
「そうなると、通常攻撃時のダメージ蓄積量が足りなくなるの。それは狩猟時間が長引くことになり、ひいてはハンターの身に及ぶ危険の増加につながるの」
「そうだね。大型モンスターとの戦闘は、たった一撃で戦局が大きく変わるからね。狩猟時間が長引けば、それだけクエストを失敗する可能性は高くなるね」
ハンナマリーが厳しい表情でうなずく。
「そこで思いついたのが、棍を二つに分けることで、棍を双属性武器化することなの!」
「双属性武器化?」
自信満々のレノとは対照的に、カーシュナーたちはピンと来ない表情で首をひねる。
「みんな属性のついた武器持ってる?」
レノの問いかけに全員首を横に振る。
「そっかあ! みんなハンターになったばっかりなんだよね。たたずまいが一流ハンターみたいだから、つい忘れていたわ!」
一流と言われ、全員もれなく照れる。なぜかファーメイ、ヂヴァ、モモンモの3人も照れている。むしろカーシュナーたち以上に一流という言葉に過剰反応していた。
ファーメイたちに冷たい視線を投げているカーシュナーたちに、レノは双属性武器について説明した。それは双剣の一部の武器にのみあるもので、火と氷など、異なる二つの属性を有している特殊な双剣だった。
「そんな双剣があるのか!」
双剣をメイン武器にしているジュザが、驚きの声をあげる。
「これは大連続狩猟なんかだとかなり有効なんだけど、逆にどちらかの属性に対して強いモンスターの1頭討伐狩猟とかだとむしろマイナスに働いて、火属性のみとかの単独属性の双剣の方が有効だったりするの」
「使いどころ次第ってわけか。それを取り入れるのか? マイナス要素があると新武器種として認定してもらうのは難しくなるんじゃないのか?」
「さすが、リドリー。よくわかってるね。そこで出てくるのがわたしが考案した新技術!」
「おっ! まだなんかあるのか?」
レノは一度大きく胸を反らすと、演舞棍の包みにいっしょに入っていたパーツを取り上げ、持っていた演舞棍に装着した。
「これはカートリッジといって、本来なら武器に属性を付与する上でとても重要な、≪○○袋≫、麻痺袋とか火炎袋を、脱着可能にしたものなんです!」
そういうとレノは、カートリッジを装着した演舞棍を自慢げに掲げた。
「…ごめん。レノ。たぶんすごい発明なんだと思うんだけど、そのすごさがわかるだけの知識がないんだ」
カーシュナーが申し訳なさそうに言う。
会心のネタだったのだろう。レノは一瞬しょんぼりしつつも、
「問題ないです! そういうものだと理解してもらえれば十分です!」
無理矢理自らをを奮い立たせて答えた。その際、レノの目の下の皮膚がビクビクッと痙攣するのを、カーシュナーは見なかったことにした。
「属性を付け替えられるようにして、汎用性を持たせたってことか! そのカートリッジを開発したことのすごさはいまいちピンとこねえけど、これなら通常攻撃時のダメージ率も、属性効果で上がるんじゃねえか?」
「…ピ、ピンとこないですか。他のことはそこまで理解できるのに、これだけ……ま、まあ、そういうことです。双剣にも言えることですが、どうしても一撃の物理ダメージが弱いので、属性ダメージが非常に重要になってきます。そして双剣と一番違う改良点は、同種のカートリッジを装着することで、単独の属性値に特化し、その属性値を引き上げられるという点です」
「それは奏双棍も同様なのかな?」
「はい。メインの攻撃機能を同じにして、補助機能の実戦における有効性を比較しようと考えて2種類の武器を試作したんです」
「なるほど。本当によく考えられているね。それで一つ確認しておきたいことがあるんだけど、奏双棍も演舞棍も武器系統が打撃になっているけど、この武器重量で気絶取れるの?」
気になって奏双棍の重さを確認していたカーシュナーが尋ねる。打属性の代表的な武器にハンマーがあるが、その派生武器である狩猟笛も共に超重量を持つ武器である。片手で振り回せる武器で、人をはるかに上回る巨体を持つモンスターを、果たして気絶させられるのかと思うのは当然であった。
「大丈夫。気絶は取れるよ。ハンマーと比較して考えると到底不可能に思えるもんね。人間に例えるなら、ハンマーが棍棒で、奏双棍や演舞棍だと小枝で頭を叩かれるようなイメージになるのかな? 人間いくら手数多く叩かれても、小枝で気絶はしないからね」
レノが腕まで組んで何度もうなずく。
「これも何か秘策があるの?」
「確かに、新しい技術を組み込んで気絶を取れるようにはしたけど、気絶の取り方には色々な手段があって、武器だけでも、大剣の横殴りとか、片手剣の盾攻撃だったり、弓による曲射でも気絶は取れるんだよ。大剣の横殴りはハンマーの攻撃にイメージが近いから納得出来るかもしれないけど、片手剣の小さな盾や矢が命中することで気絶が取れることを考えると、必ずしも超重量攻撃でモンスターの脳を揺さぶらなくても気絶は取れるんだよ。これが、防具のスキルと組み合わせれば、双剣でも気絶させることは出来るんだよ。超一流の狩猟テクニックが必要だけどね」
「ということは、その新しい技術のおかげで、超一流の狩猟テクニックがなくても気絶が取れるようになったってことなのかな?」
「そうだよ。双剣で気絶を取ろうと思ったら、抜刀術【力】を発動させて、その上で武器出し攻撃を頭部に当て続ける必要があるからかなり難しいんだけど、この技術を組み込むことで、全攻撃で気絶値を蓄積させられるようになったの。おまけに、頭部だけじゃなく、首に攻撃を入れても気絶値が蓄積されるから、かなり気絶を取りやすくなるはずだよ」
「首に攻撃して気絶するの!」
「当て身?」
カーシュナーが驚き、ジュザが思いつきを口にする。
「当て身かあ~。発想がすごいね! 大剣の背でモンスターの首筋を叩いて気絶させられるかな~? 今度王立古生物書士隊に研究依頼出してみようかな。……って、また話がそれちゃった! 実際は、音波を使って気絶とめまいを起こさせるんだよ!」
「音波?」
「みんなは大きな音でめまいを起こしたことってある?」
レノの問いにリドリーが大きくうなずく。
「ファーにやられた! 耳元でバカでかい声出されて目が回ったことあるわ!」
リドリーの言葉に、なぜかファーメイは照れくさそうにする。
「なんで褒め言葉として受け取れるんだよ! お前の大声でオレは目を回したんだぞ!」
「!? まるで火竜の咆哮のような素晴らしい声って意味じゃないんッスか?」
リドリーのツッコミに、ファーメイが真顔で問い返す。
「……もうそれでいいや。お前さんの天然には敵う気がしねえよ」
リドリーがお手上げの表情で首を振る隣で、ファーメイがヂヴァとモモンモとハイタッチを交わしている。彼女は何かに勝ったのだ。
「…音でめまいを起こせることはわかったよ。身に染みているからな。でも、モンスター相手に本当にそんなこと出来るのか? 仮に出来たとして、そんなでかい音ハンター自身も耐えられないだろ?」
隣りでどや顔をしていたファーメイの首を絞めながらリドリーが問いかける。
「大きい音で気絶させるんじゃなくて、音による振動で、モンスターの脳と三半規管を揺らして気絶させるんです」
「脳はわかるけど、三半規管ってなんだい?」
耳慣れない言葉にハンナマリーが首をひねる。
「耳の奥にある、平衡感覚なんかをつかさどる大事な器官ッスよ! 三半規管が異常をきたすと、人間ならめまいや吐き気とか、他にもいろいろな障害が発生するんッスよ!」
新人とはいえ王立古生物書士隊の隊員であるファーメイが説明する。
「奏双棍も演舞棍も、打つと同時に強い音波を発生する仕組みになっていて、打撃による衝撃との相乗効果で、モンスターに気絶値を蓄積していく仕組みになっているの。ちなみに首を打っても気絶値が溜まるのは、骨伝導と言って、振動が骨を伝わって行くからなの。モンスターの頭部は甲殻や鱗に守られていて非常に硬くて、打属性武器では弾かれちゃうことが多いから、比較的肉質が軟らかい首への攻撃でも気絶が取れるのは、実は狩猟をスムーズに進める上で非常に重要なことなんだよ」
「なるほど。笛や演奏の技術を取り入れたのは、猟虫に代わる強化システムとしてだけじゃなく、メイン攻撃の強化も考えてのことだったんだね」
カーシュナーが心底感心する。グエンが高く評価するのもうなずけた。
「じゃあ、さっそく使い方の練習を始めようか。ある程度使いこなせないと実戦での正しい評価が出来ないからね」
カーシュナーが奏双棍を取り上げ、リドリーがレノから演舞棍を受け取る。
「強化必要。このままだと狩猟にならない」
ジュザが指摘する。
「そうだね。操虫棍が使えないこの大陸でこそ必要になる新しい武器種だからね。生産素材は全部この大陸産のものでまかなった方がいいね」
ハンナマリーがジュザの意見に賛同する。まったく新しい試みに、カーシュナーと同じ翡翠色をした大きな瞳が好奇心に輝いている。
「新モンスターの素材がどんな風に使われるのか、いまから楽しみッス!」
興奮するハンナマリーたちの隣りで、二つに分割されていた棍を1本の長い棒状の棍に変形させたカーシュナーとリドリーが、さっそくジャンプの練習を始める。
棍の先端が地面をしっかりと捉え、一瞬しなった棍が二人の身体を宙に持ち上げる。
「うわぁ!!」
二人の悲鳴が交錯し、続いて派手に木の枝に激突する音が響いた。
木の枝に引っかかった二人の助けを求める声に、ハンナマリーたちの笑い声が重なった。