モンスターハンター ≪新世界≫   作:南波 四十一

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新武器種、完成!!

 伝説の鍛冶職人の弟子、レノは、愛らしい顔立ちに不似合いな深いシワを眉間に刻み付けていた。それは、カーシュナーたちから持ち込まれた奏双棍(ソウソウコン)と演舞棍(エンブコン)の問題点に頭を悩ませていたからだ。

 問題点は次の二つ。

 1、長棍(チョウコン)状態から双棍(ソウコン)状態への形態変形の際、上手く二分割された棍を掴むことが出来ないこと。

 2、奏双棍の補助機能である笛効果の大元である、各種効果を持つマウスピースがアイテムポーチを圧迫するため、狩猟に必要なアイテムの持ち込みが制限されてしまうこと。

 以上の2点が大きな問題になっていた。

 当初障害になるのではないかと考えられていた演舞棍の≪型の舞い≫だが、そもそも型の数が演舞棍ごとに四つしかなく、後はその組み合わせと効果を覚えるだけだったので、カーシュナーたちはあっという間に覚えてしまい、何の障害にもならなかったのだ。

 レノもマウスピースがアイテムポーチを圧迫する可能性は気づいていたのだが、鬼人笛や回復笛などのように、使用していると一定の確率で壊れてしまうものと違い、奏双棍は何回使用しても壊れないので、アイテムポーチを圧迫するデメリットよりも、笛を好きなだけ使い続けられるというメリットが上回ると考えていたのだ。

 しかし、カーシュナーに指摘されるまで気がつかなかったのだが、鬼人笛や回復笛などをそもそも狩猟に持ち込まないハンターが結構な数いるという現実が、奏双棍の存在価値を低くしていた。

 鬼人笛と鬼人薬グレート、どちらを持ち込むかと言われれば、ほとんどのハンターが鬼人薬グレートを選ぶだろうし、回復笛と生命の粉塵、どちらを持ち込むかと言われれば、ほとんどのハンターが生命の粉塵を選ぶだろう。どこの誰が好き好んで持ち込みたいアイテムを諦めて、それほど優先順位の高くないアイテムを持ち込むというのか。

 奏双棍を切り捨てようかと考えた時、カーシュナーはその決断は早すぎると待ったをかけた。実際に使用したからこそわかる。奏双棍は優れた武器であると。

 苦心いて開発したレノとしては、カーシュナーにそこまで言ってもらえるのならば、どれ程苦労しようとも、諦めたくはなかった。

 さらには、奏双棍、演舞棍、両棍に共通する致命的欠陥であるすっぽ抜けも何とかしなくてはならない。

 しかし、新しい発想が浮かんでこない。眉間のシワは深くなるばかりであった。

 

「マウスピースって効果ごとにかなり構造が違うの?」

 悩んでいるレノにカーシュナーが問いかける。

「そんなに構造は違わないわよ」

「じゃあ、どうやって発揮される効果を変えているの?」

「マウスピースに取りつけるリードが大きく影響しているの」

「リード?」

 カーシュナーが小首をひねる。それを見たレノが、可愛いな~、と思いながら、マウスピースから小さな板状のパーツを取り外してカーシュナーに手渡した。

「こんな小さなパーツで効果が変わるの?」

「各効果ごとに、リードは使用する材質も違えば、加工処理の仕方も全く違うのよ。鬼人マウスピースに回復マウスピース用のリードをつけて吹き鳴らしても、ただ音が鳴り響くだけで、何の効果も発揮されないの」

「マウスピースの構造はほとんど一緒なのに?」

「そうなのよ。リード9割、マウスピース1割、くらいな感じの役割分担なんだけど、この1割が重要なのよ」

 レノの説明を受けて、カーシュナーが考え込む。

「その1割は他の方法で補うことは出来ないの?」

「出来ないのよ。その1割を最小限にまとめたのがマウスピースの交換システムだったの。奏双棍本体にマウスピースを取り付けることは可能よ。狩猟笛は、もともとマウスピースが一体になっている構造だらね。でも、奏双棍で同じことをすると、1種類の効果しか吹けなくなっちゃうのよ」

「それじゃあ、新武器種としては説得力に欠けちゃうね」

「そうなの! その説得力を求めて開発したマウスピースの交換システムが上手くいかなかったのよね~。やっぱり奏双棍は無理なのかな~」

 レノは作業場の床に大の字になって倒れると、大きなため息を漏らした。

「ハンターがその1割を負担出来ないか?」

 それまでレノとカーシュナーの会話を黙って聞いていたジュザが、全身でお手上げ状態を表しているレノに問いかけた。

「ハンターが?」

「そう」

「……出来ないことはないと思う。リードって草笛の草みたいなものだから、演奏者の技量次第でいくらでも音色は変えられるの。扱う人の技量さえ確かなら、マウスピースの構造を平均的なものにすれば、リードを交換するだけで、各効果を吹き分けられると思うわ」

「それではダメなのか?」

「でもそうすると、吹き鳴らすだけで、練習なしで誰でも扱えるっていう利点がなくなっちゃうのよ」

「狩猟笛使いは演奏の練習はしないのか?」

「もちろんするわよ。大雑把に見えるかもしれないけれど、狩猟笛って使いこなすにはかなりの技量が必要なんだから」

「何故そこまでする?」

「えっ?」

「武器として考えるなら、ハンマーで十分だ」

「……それは…」

 即答できないレノに代わってジュザが答える。

「それだけの価値があるからだ」

「…………」

「扱いが難しくても、努力に値する価値があれば、ハンターは必ずその武器を手にするはずだ」

 そこまで話すとジュザは胸を押さえて顔をしかめた。

「普段しゃべらないくせに、どうしてしゃべるのがつらい時に限ってよくしゃべるんだよ」

 ハンナマリーが苦笑しながらツッコむ。

「まあ、ジュザの言う通りだろ。扱いが簡単なのも確かに利点かもしれないけどさ、上位やG級に上がるようなハンターに、努力を惜しむような人間はいないって。命掛かっているんだから」

「価値を求めようよ。そのための努力ならボクたちがするからさ。その上でまた問題が出てきたら、みんなで考えよう」

 カーシュナーたちの言葉に、レノは床から跳ね起きた。

「みんなありがとう。考えすぎて逆に思考が停止していたよ。わたしは職人なんだから、手を動かして試行錯誤するべきだったよ!」

 レノの眉間からシワが消え、全身に気合がみなぎる。

「よし! さっそく試作してみよう!」

「あ~、せっかく気合入ったところ悪いんだけどよう。すっぽ抜けの対策の方が先だろ?」

 リドリーが申し訳なさそうに口を挟む。

「はうっ! 忘れたかった現実!」

「いや、忘れんなよ…」

 すっぽ抜けの対策がクリアされない限り、どれだけ奏双棍の改良を進めても、演舞棍共々実用化の目途は立たないのである。

「そうだね。そっちが先だよね。私だけはまだ実戦で奏双棍も演舞棍も使用していないんだけど、練習と実戦ではやっぱり扱いの難易度が違うのかい?」

 全員で開発段階の武器を狩猟に持ち込むと、クエスト自体を失敗する可能性があったので、最も火力の高い大剣を使うハンナマリーだけは、保険の意味で新武器種を使用していなかったのだ。

「そうだね。そんなに違いはないと思う。実際練習でもかなり激しい動作の中で形態変形をすれば失敗するよ。ただ、同じ失敗でも、練習中ならただのすっぽ抜けで済むんだけど、実戦だと間違いなく二次災害が起こるんだよ」

 カーシュナーがよく考えながら説明する。

「だな。すっぽ抜けたせいで攻撃チャンスを不意にしたり、攻撃そのものをミスしたりするからな」

 リドリーがかつての失敗を思い出しながら、顔をしかめて同意する。

「ボクなんか、この前の狩猟で、すっぽ抜けた片方の棍をジュザにぶつけるところだったからね」

 カーシュナーも珍しく顔をしかめている。

「練習でもすっぽ抜けるのかい? 私はまだすっぽ抜けたことがないけど、モンスターと相対していないのにミスが出るってことは、使用法に根本的な問題があるね」

「そうかもしれないね。熟練度の問題かと思ってそのまま使用していたけれど、武器としての使い方そのものを、一度見直してみるべきなのかもしれないね」

「形態変形の機構に問題があるのかな?」

 レノが若干不安そうに尋ねる。

「いや、変形機構は優秀だと思うぜ。南の大陸への航海の途中で、スラッシュアックスとチャージアックスを試させてもらったけど、この二つの武器種よりもはるかに構造がシンプルで、その分変形にかかる時間が短いから、一瞬で長棍と双棍を行き来できてオレは好きだけどな。変形にストレスを感じないのがいいよ」

「やっぱり? わたしも変形のストレスを極力なくすことを考えて変形機構を考えたんだよ。スキル≪抜刀術≫、≪納刀術≫が標準装備されてるんじゃないかって思えるくらいの傑作が出来たと思ったんだけどね~。それが扱いの邪魔をするとは思わなかったよ」

 レノが残念そうに首を振る。

「そこまで悲観しなくていいと思うぜ。オレが使ってみた感じでは、後ひと工夫って気がするんだけどな」

「そうだね。ここですっぽ抜けないために変形速度を落としたりしたら、いいところが一つなくなるだけだと思う」

 リドリーの意見に、カーシュナーも賛同する。

「良さを殺さずに改良か~。でも、そのくらいじゃないと、ハンターズギルドも師匠も、新武器種として認めてくれないよね~。アイデア~。降りて来~い」

 レノが天に向かって両手を差し上げる。

「なあ、レノ。素人丸出しで聞くけど、棍をヒモで結んじゃダメなのか? そうすればすっぽ抜けてどっかに飛んでくこともないだろ?」

 ハンナマリーが聞きにくそうに尋ねる。あまりにも短絡的な考えなことを、ハンナマリー本人がわかっているからだろう。

「立ち回りに支障が出ちゃうんだよ。ねえ、ジュザ。例えば、双剣をヒモでつないでも普段と変わらずに立ち回れる?」

「難しい。ヒモが短いと双剣が上手く振れない。逆に長いと体捌きの邪魔になる」

「そうだよな~。ごめん! つまんないこと聞いた!」

 ハンナマリーが手を合わせて頭を下げる。

「やめてよ! ハンナ! 一緒に考えてくれてるだけですごく助けられてるんだから!」

 頭を下げられて、かえってレノは困ってしまう。

「あのさ、立ち回りって、変えちゃいけないの?」

 カーシュナーが不思議そうに尋ねてくる。

「えっ?」

「棍を双棍状態にしたときの立ち回り。双剣の立ち回りをそのまま取り入れているけど、どうしてもそうじゃないといけない理由ってあるの?」

「…あ~、そうだね、どうしてもって訳じゃないけれど、もうすでに一つの武器種として認定されている武器の立ち回りだから、無駄なく洗練されている訳だし、それにあえて手を加える必要はないと思うんだけど?」

 答えつつも、レノ自身も何か引っかかるものを感じていた。

「双剣は切断武器だけど、双棍は打撃武器でしょ? この違いを上手く活かせないかな?」

 カーシュナーのこの一言に、レノは雷に打たれたような思いがした。

「降りてきた~!! っていうか、思い出した~!! 昔、東方出身だって言うハンターさんから、モンスター用じゃない、対人用の武器で、2本の棒を鎖でつないで、ものすごい勢いで振り回す変な武器見せてもらったことあったよ!」

 一人で大興奮している。

「いいヒントになりそう?」

「イメージはもう浮かんでる!」

 レノは勢いよく答えると、昔、見せてもらったという変な武器の試作に取り掛かった。

 

「あだああぁぁっ!!」

 リドリーが立派過ぎる竜人族並の鼻を押さえてうずくまる。レノが試作した変な武器を試していたら、振り回した棒が鼻に直撃したのだ。

 レノ自身この変な武器の特性は、過去に一度見たことがあるだけなので把握できていない。そのため、「こんな感じ!」と、言って試作したばかりの変な武器をブンブン振り回し、ものの見事に側頭部を痛打していた。

 その姿を見てリドリーが、「情けねえなあ」と、言いながら、レノが差し出した変な武器を受け取った数分後に訪れた悲劇兼喜劇であった。

 悲劇が喜劇を呼び、喜劇はさらなるいけにえを求めた。

 次に変な武器を手にしたハンナマリーが、すねを押さえてうずくまる。大きく振り回し過ぎた棒の先端が、ハンナマリーのむこうずねを叩いたのだ。

 涙目のハンナマリーから変な武器を受け取ったカーシュナーが、ゆっくり振舞わしながら、動きの特性を確かめて行く。

「これは遠心力をいかに活用するかで、発揮できる性能が大きく変化する武器だね。これは難しいけれど、かなり面白そうな武器かもしれない」

 カーシュナーは、新しいおもちゃをもらった子供の様に笑うと、一心不乱に扱い方の試行錯誤を始めた。

 その動きは次第に複雑さを増していく。身体の前でのみ振り回していたものが、身体の後ろを回り、右手に握られていたと思ったら、いつの間にか左手に握られている。扱いにくいかと思われていたその形状は、恐ろしいほどに無駄がなく、単純に見えた構造は、複雑な動きを可能にしていた。

 不意にカーシュナーが一連の動作の速度を速めた。それはもはや、動きを目で追うことすら難しい領域に達していた。

 速度を増そうとすれば正確性はどうしても低下する。幾度となくカーシュナーの身体から、肉を打つ鈍い音が響き、その都度インナー姿の身体にアザが刻まれていく。弟に激甘のハンナマリーが一度止めようとしたが、その声も届かないほど深く集中している。

 そんな修練が、1時間以上続き、気がつくと鈍い音の響きは消え、代わって空気を切り裂く音がカーシュナーの周囲を包んでいた。

 百戦錬磨のハンナマリーたちが、自然と戦いの気を腹の底に溜め込むほどの力が、いまのカーシュナーにはあった。

 みんなで変な武器などと呼んでいたものは、極めて殺傷能力の高い優秀な武器だったのだ。

 修練に一定の納得がいったのだろう。カーシュナーは最後に武器を脇で挟むようにキャッチすると、腹の底から長くゆっくりと息を吐き出し、動きを止めた。それは腹の底に溜まった戦いの気を逃がす作業であり、戦士が日常に還るための儀式でもあった。人を魅了してやまない笑顔と思いやりに満ちたやさしさが印象的なカーシュナーだが、カーシュナーという人間を形作る骨格は、まぎれもなく”戦士”であった。

「レノ。これ、今度鉄の棒と鎖で作ってよ」

 首にタオルを掛けるように武器を引っ掛けたカーシュナーがレノに依頼する。

「うん。わかった。後で作っておくね。……それにしても、カーシュすご過ぎるでしょ!!」

「思わず見入った」

 ジュザもうなずく。こちらはまだ無意識にまとった百戦の気が抜けていないので、切り裂くような迫力がある。

 鼻血が止まったので、鼻の中に残った血の塊を取りながら、リドリーもうなずく。こちらは途中で戦いの気を抜いていたので、普段の飄々としたリドリーのままだ。

「カーシュ。こっちに来な」

 いつの間にか応急セットを持ってきていたハンナマリーが、カーシュナーを手招きする。

「アザだらけじゃないか! まったく!」

 口では文句を言いつつも、大きく優しいその手は、打ち身によく効く軟膏を塗りこんでいた。

「骨はやっていないだろうね?」

「大丈夫だよ」

「拠点にいてまで傷だらけになっていたら、お前そのうち、じいちゃんたちに檻にでも入れられちまうぞ」

 ハンナマリーは苦笑交じりに冗談を言った。言ってる途中で、あの竜人族の老人たちなら本当にやりそうだなと思ってしまったのだ。弟が周囲の人々から愛されるのは姉として素直に嬉しいが、自分も含め、過保護になり過ぎる傾向が強いのだ。

「でも、この武器の持っている性能はかなり理解出来たよ。これがもっと前に手に入っていたらなあ…」

 カーシュナーが、長くもない人生を振り返りながらこぼした。スラム時代の苦闘の日々を思い出しているのだ。

「私はなくてよかったよ。こんなもんがあったら、お前大人しく後方で控えてなんかいなかったはずだからな」

 ハンナマリーが、カーシュナーのクセの強い髪の毛をクシャクシャにかき回しながら言う。

「カーシュの言いたいことはわかるけどよ。言ったところでどうにもならねえんだ。それよりも新武器種の良い案とかは出たのか?」

 リドリーが、取り戻せない過去の後悔の中からカーシュナーを現実に引き戻す。

「今までの武器種にはない動きが可能だからね。双剣の立ち回りを完全に白紙に戻して、立ち回りを新たに考案すれば、棍をすっぽ抜けないようにヒモなんかでつなぐことは、欠点の修繕だけじゃなくて、新しい可能性につながると思うよ」

「カーシュの言う通りだよ! わたし、今まで新武器種の開発が結構順調に進んでいたおかげで、かえって今までのアイデアに捕らわれ過ぎていて、新しい発想に否定的になってたことがよくわかった! 新しい武器種を作ろうとしているのに、新しい発想を否定していたら、良いものなんて出来るわけがなかったんだよ! いや~、お恥ずかしい! わたしもまだまだだね。何年も故郷や師匠の下で修業してきたのに、こんな基本的なことがいまだに身についていなかったんだから」

 悔しそうであり、それ以上に嬉しそうに、レノは言った。

 その様子を少し離れたところからうかがっていた伝説の鍛冶職人が、満足そうな笑みを口元にたたえる。

 弟子の成長を確認した師匠は、金床を鎚が打つ音と、溶岩地帯をを思わせる熱気に満たされた自分の居場所へと帰って行った。

 

 ジュザの回復を待つカーシュナーたちは、二手に分かれて行動することになった。ハンナマリーとリドリーは、周辺地域での採取を担当し、療養中のジュザとカーシュナーは、新武器種の開発に専念することになった。

 南の大陸では様々なことが規制緩和されているが、特徴的なものの一つに、仲間内でのアイテムの共有が認められ、アイテムの譲渡に関するレア度による規制がなくなっていた。

 これはハンターズギルドが存在しないことによるサポート体制の弱体化を補うためのものとして取り入れられたものではあるのだが、それは建前で、カーシュナーたち新人ハンターを支援するための方便であった。

 事実、カーシュナーたち以外のハンターたちは、北の大陸で用いられているルールを順守している。アイテムは当然個人管理だし、レア度の高いアイテムの受け渡しは行っていない。

 わかりやすく説明すると、カーシュナーたち(特にカーシュナー)を気に入っている調査団一行が、彼らを甘やかしたくて一致団結して作ったマイルールなのだ。

 さすがに、上位、G級素材を気前良く分け与えてしまうと、カーシュナーたちの狩猟技術の向上の妨げになってしまうので、下位素材のみの譲渡に制限しているが、本心では、自分に特に必要なければ、≪古龍の大宝玉≫クラスのレア素材をプレゼントして喜ばせたいと、全てのハンターたちが考えていた。

 人間性を重視して集められた調査団の構成員たちではあるが、人が良過ぎである。と、言うよりも、カーシュナーがとんでもない、女たらしならぬ”人たらし”なのであった。

 そんな周囲の環境のおかげで、カーシュナーたちは二手に分かれても、採取に赴かないメンバーの素材不足に悩まずにすむのである。ちなみに、カーシュナーたちは先輩ハンターたちによるモンスター素材のプレゼントは、すべて丁重に断っていた。

 余談ではあるが、そのせいで、ハンターたちの間では、カーシュナーたち(主にカーシュナー)は、どんなものならプレゼントを受け取るのか、また、何が好きなのかといった情報が、≪雪山深奥≫や≪霊峰≫、≪溶岩島≫や≪禁足地≫といった、ハンターにとっては知る者とて少ない幻の土地並の価値を持ってやり取りされていた。

 

 ハンナマリーとリドリーを見送ったカーシュナーたちは、奏双棍の改良という問題もあったが、その奏双棍と演舞棍に共通する変形機構に関する改良を優先的に行うことにした。

 まず、ギルドマスターに教えてもらい、正式名称がわかった変な武器こと”ヌンチャク”の操り方の中で、カーシュナーが有効と思える一連の動きを双棍状態で再現できるかを確かめた。そして、再現できるものと出来ないものとに分け、そこからさらに再現できないものを、棍と棍の連結に使用している鎖の長さを調節することで、ヌンチャクの動きを再現できるものと出来ないものとに振り分けていった。

 次に、再現可能な動きの中から、威力、操作性を考慮して、鎖の適正な長さを求めていった。その結果、鎖を長くすることで得られる利点は、より高い遠心力を利用して、一撃の威力を高めることだけと判断し、それらの動きは排除することになった。どれ程威力を高めようと、所詮は軽量の打撃武器である。重量を利用して繰り出されるハンマーや狩猟笛の一撃には敵わない。威力の代わりに犠牲になる攻撃の手数とコンボの連続性の方が、はるかに重要だった。

 それでもすべての動きが無駄になったわけではなく、発想の転換で、いくつかの動きは長棍状態で繰り出されることになった。

 鎖の長さを短く設定したことで、双剣の動きを模倣した鬼人化からの乱打攻撃は再現不可能になってしまったが、鬼人化そのものは発動できるので、乱打の放ち方に手が加えられることになった。もっともこれに関しては、カーシュナーに腹案があり、いざ試してみると、その攻撃スピード、威力共に、これまでの乱打を超える威力を発揮した。これまでが、太鼓をバチで叩くように放っていた乱打を、身体の周囲を回るように振り回し、回転力を利用しての超連続攻撃へと昇華させたのだ。レノはこの攻撃に改めて名前をつけた。

 ≪乱打・回天≫(ランダ・カイテン)と――。

「ずいぶん大袈裟な名前をつけたね」

 カーシュナーが苦笑して言えば、

「ハンターはね。結構こういうのが好きなんだよ」

 と、レノが、ニヤリとしながら答えた。

 猟虫による強化からの火力アップの代案として中心に据えられていた乱打の実用化の目途が立ってからは早かった。

 カーシュナーからの提案で、奏双棍と演舞棍の機能の一体化が図られた。

 奏双棍は笛効果からの強化が目的であり、演舞棍は、型を舞うことで、狩猟笛の演奏効果と同等の強化を図ることを目的として試作されていた。前者が扱い方を簡便にすることで、新人ハンターでも即対応出来ように図られたのに対し、後者は扱いを複雑にする代わりに、高い機能を持たせたものであった。

 レノの考えとしては、このどちらが実戦でより有効的かを見極めて、どちらか1本を、新武器種としてハンターズギルドに申請するつもりでいた。しかし、実際に使用したカーシュナーにより、どちらの機能も有効であること、有効とわかっているものをどちらか一方だけ排除することは、ハンターにとって損失でしかないと説かれ、機能の一体化と、奏双棍機能の改善に昼夜を問わず取り組んだ。

 レノの体調を心配したカーシュナーとジュザが休憩を勧めたが、

「アイデアが湧いて来ている内に形にしないと、まとまらなくなるから」

 と、言って作業に没頭した。

 その甲斐あって、奏双棍と演舞棍の機能を併せ持った試作棍が完成した。

 ここからは、カーシュナーの出番であった。

 自身の提案によって、笛効果をマウスピースの内部構造に頼らず、ハンター自身の演奏の技量で吹き鳴らすための訓練を始めた。参考になればと、非番の狩猟笛使いに頼み込み、狩猟笛の練習まで行った。ここで練習につき合ってくれた狩猟笛の名手、G級ハンターのヨーコの指導力が光った。

 もともと、どんなことでもその要点を掴む能力に優れているカーシュナーは、ヨーコの指導上手も手伝って、瞬く間に奏双棍の演奏技術のみならず、狩猟笛の演奏技術まで身につけてしまった。

 この練習を通してG級ハンター、ヨーコが、新武器種に興味を持ち、狩猟笛と新武器種の二刀流になるのはしばらく後のことであった。

 奏双棍の笛効果が、ハンターの演奏技術で補えることが証明されたおかげで、アイテムポーチを圧迫していたマウスピースは棍そのものに装着固定され、リードと呼ばれる小さなパーツのみの交換で演奏効果の変更が出来るようになった。また、このリードと呼ばれるアイテムのクエストへの持ち込みは、ガンナー用の弾専用ポーチにセットしての持ち込みが許可されたおかげで、通常のアイテムポーチへの負担は完全に取り払われることになった。

 演舞棍の”型の舞い”も棍をつなぐ鎖の影響でそれまでの型で舞うことが出来なくなってしまったため、新しい型を見つける必要が生じた。

 このころにはモンニャン隊を結成してクエストに出ていたヂヴァたちが帰ってきていたので、奇面族の三人に協力してもらい、新しい型を見つける作業が始まった。

 ケガの状態が一番重いモモンモは、ジュザの膝の上に座り、指導者気取りでチッチキとチョロンボにダメ出しをしていた。

「お前らがそんなことじゃ、カーシュの練習にならないモン!」

「うるさいッチ! 余計な口出しするなッチー!」

「そうだッチョ! 差し出がましヤツは嫌われるッチョ!」

 身体以上に口を動かしつつも、3人はよくカーシュナーを助け、新しい舞いのための型は出来上がっていった。

 補助機能が大詰めを迎えた後は、立ち回り方の精査となった。

 ここで意外な人物が力になった。フリーのオトモアイルー、平八である。

 平八はもともと東方文化に憧れて、シノビの道を目指したアイルーであった。しかし、生来の”なんとなくそんな感じ”な性格のせいで、東方文化の知識がごちゃまぜで、シノビの世界とは関係のない、ヌンチャクに対する造詣が深かった。

 レノにさっそくアイルー使用のヌンチャクを作ってもらい、その奥義を伝授していく。

 カーシュナーの独自の修練で極まったかと思われたヌンチャクの扱いが、さらに練度を増していく。その都度双棍の扱い方も修正され、さらに深く、鋭く磨きが掛かっていった。

 ジュザの胸のケガが癒えるころ、改良と修正作業が終わりを迎えた。

 

 日を改めて、ギルドマスター及び伝説の鍛冶職人と、G級ハンターの主だった実力者が集まり、レノから申請された新武器種の認定審査が行われることになった。

 非番のハンターと手の空いている調査団員も、一目見ようと次々と集まってくる。

 まずはレノが進み出て新武器種の補助性能の説明が行われた。レノの説明に合わせてカーシュナーが実演してみせる。

 伝説の鍛冶職人の弟子とはいえ、年若い少女が作った武器ということで、軽く考えていた人々の間から、感嘆の呻きが漏れる。中でもレノの同僚に当たる伝説の鍛冶職人の弟子たちの間から漏れ聞こえた呻きには、賞賛と同量の嫉妬が込められていた。

 それは猟虫に代わる補助システムを作り出そうと、細部まで考え、練られ、工夫が凝らされていた。ことに、笛による強化は発動までの時間が極めて短く、型の舞いによる効果は幅広く、より強力にハンターを強化してくれる。状況に合わせて2種類の強化方法が選択できることは、紙一重の実力を持った強敵と相対するとき、そのたった一枚の実力差を補ってくれるものであった。

 続いて、長棍、双棍状態での立ち回りが披露された。モンスター代わりの丸太に次々と攻撃が繰り出される。長棍状態での立ち回りは、猟虫による強化前とほぼ一緒だったが、片側が刃物ではないことを利用した、自身の身体に巻きつけるようにして繰り出される叩きつけ攻撃は、モンスター代わりの丸太を見事に粉砕してみせた。使用者が軽量小柄なカーシュナーであることを考え合わせると、尋常ではない破壊力である。

 一瞬の変形の後、カーシュナーの両手には、ヌンチャク形状になった双棍が、右肩から背中を通り、左脇を抜けて、たすき掛けの要領で渡され、握られていた。

 この一瞬の変形に、もはや呻きではない、抑えようもない驚愕の声が上がった。伝説と呼ばれる鍛冶職人も、思わず目を丸くする。見事な形態変形機構だった。

 ここからのカーシュナーの双棍状態の実演は見事の一言に尽きた。

 遠心力を利して振り回される双棍を、棍が霞むほどのスピードで操り、それでいて遠心力によって生じる巨大な力に振り回されることなく2本の棍を操ってみせる。凄まじい体捌きであった。

 当初は宮女の華麗な舞のような演舞だったものが、いまでは武人の雄々しき演武へと変わった新しい型が舞われ、舞の効果がカーシュナーを包み、強化する。

 ここに鬼人化が加わり、≪乱打・回天≫へとつながる。

 ≪乱打・回天≫のために用意されていた特大の丸太が、木端微塵に弾け飛ぶ。

 ≪乱打・回天≫を収めたカーシュナーが、双棍の回転を止め、全身に満ちた戦いの気をゆっくりと吐き出す。少女のような顔立ちが、いまは厳しく引き締められ、戦士の表情を浮かべていた。

 戦いの気を吐き出し終えたカーシュナーは、棍を長棍状態に戻すと、深々と頭を下げた。実演終了である。

 いつの間にか息を殺して見つめていた人々が、歓声を爆発させる。それは、G級を極めし超一流ハンターをも魅了するほどの、見事な実演だったのだ。

 いつまでも贈られる鳴り止まない拍手の嵐に、レノとカーシュナーが照れくさそうに手を振って応えていた。

 見物客と同様に拍手を送っていた認定審査員たちが、自分たちの仕事を思い出して協議に入る。

 拍手がようやく鳴り止むころ、審議も終わり、代表としてギルドマスターが前に出る。

「協議の結果、鍛冶職人レノが考案した新武器は、威力、性能共に文句のつけようのないものであるということで意見が一致した。しかし、その性能故に、一般的な新人ハンターが最初に手にする武器としては極めて扱いが難しく、使いこなすことは不可能であり、むしろ狩場に無用の危険を持ち込む結果になるものと、我々は判断した」

 周囲の観衆がどよめき、レノの表情が一気にこわばる。

「よって、鍛冶職人レノより申請された今回の新武器は、穿龍棍同様、G級解禁の特別武器扱いとし、ここに新武器種として認定する! なお、特例として、修練を修め、見事新武器を習得したカーシュナーに限り、ハンターランクに関係なく、この新武器の使用を認めるものとする!」

 ギルドマスターの声が拠点に響き渡り、続いて先程をはるかに上回る歓声が爆発した。今度の歓声の中心は、もちろんここまで苦労して新武器種の開発に携わってきたレノたちだった。

 伝説の鍛冶職人の弟子たちが集まり、レノを胴上げする。なぜか調子に乗ったモモンモが胴上げに紛れ込み、一緒になって宙を舞っていた。例によってモモンモは誰にもキャッチされずに地面に叩きつけられていたが、レノは多少荒っぽくはあったが無事地面に下ろしてもらった。見物人たちもレノとカーシュナーの周囲に集まり、祝福の言葉を贈る。

 仲間にもみくちゃにされながらも嬉しそうに笑うレノに、ギルドマスターが尋ねる。

「レノや。この新武器種、なんと名付ける?」

「≪演武・奏双棍≫(エンブ・ソウソウコン)と名付けます!」

 レノの答えに、周囲にいた人々が歓声で応えた。もはやお祭り騒ぎである。

 この日新たに生まれた新武器種、≪演武・奏双棍≫は、これからさき積み上げられていくカーシュナーの数々の伝説を共に歩む相棒になるのであった。

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