モンスターハンター ≪新世界≫   作:南波 四十一

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≪鉱山都市≫

 ≪巨木林≫からさらに南へ下ると、この大陸では珍しい山岳地帯が現れる。比較的なだらかで、広大な森林地帯が広がる南の大陸には、白い獣人の情報によれば、北の大陸にあるような、狩場として認定される程の規模の≪砂漠≫や≪沼地≫は存在せず、大陸全般を見渡しても、雪もほとんど降らないという。

 山頂に雪が降るほどの標高を持つ山も少なく、例外的に、大陸の南端付近に極端に標高の高い円錐形の山が、すそ野に小山を従えてそびえている程度であった。

 ここ大陸中部には、豊富な鉱石を産する大陸では数少ない山々が連なっている。

 その一角に、古代都市の跡地があった。

 ≪鉱山都市≫

 山一つを掘り抜き、地下深く、広く築かれた広大な空間を、調査団は≪鉱山都市≫と名付けた。

 居住区画の多くが、都市を囲む岩壁に掘り抜かれており、岩壁に囲まれた中心部には、おそらく公共施設であったであろう石積みの建築群の残骸がみられる。

 都市の入口は、崩落のためにわずかな隙間を残すだけとなっているが、岩石に押しつぶされた一部を除いて、隙間なく舗装された幅広の石畳が、ゆるやかな傾斜を描きながら都市中央へと続いており、当時の繁栄ぶりを想わせる。

 ≪鉱山都市≫は、北に入口を構え、その左右に半円を描くように岩壁が続き、崩壊した建築群を抱きかかえるような形をしている。入口の丁度反対に、さらに地下深くへと続く坑道が口を開いている。

 坑道に一歩足を踏み入れると、そこには全く別の世界が開かれる。

 そこは製鉄・鍛冶のための広大な工業空間になっていた。残念ながら、長い年月の影響で腐蝕し、≪鉱山都市≫の文明レベルを推し量れるような設備は残されていなかったが、隅々まで活用されていた形跡のある広大な空間は、それだけで文明レベルが高かったことが推測できる。

 調査初期の段階で≪鉱山都市≫を訪れた土竜族の男性は、終始言葉を忘れて、高度な技術の名残りを眺めていたという。

 初期調査を終えて拠点に戻った土竜族の男性は、ギルドマスターにこう言った。

「さびた塊からのみ生産可能な武器の謎が、ここに眠っているのかもしれない」

 調査団は、大陸全般に広げていた調査の手を、一度≪鉱山都市≫へと集中させたのであった。

 

 

「ようやくオレたちにも開放されたな~」

 ≪鉱山都市≫の入口を前にして、リドリーが大きな伸びをする。北の大陸と違い、村や都市が存在しないため、大陸の北端に構えた拠点から、カーシュナーたちはやってきたのだ。それはもはや、狩猟に向かうというよりも、一つの旅だった。

「ファーメイも初めてなんだよね?」

 カーシュナーが、わくわくが止まらなくなっているファーメイに尋ねる。

「はい! ボクも初めてッス! 初期調査からも、その後の集中調査からも外れてしまったので、超~楽しみにしていたんッスよ!」

「ここにはG級ハンターでも手こずるようなモンスターがいたんだって?」

 ハンナマリーが、入口を前にしてテンションが上がったのか、ストレッチを始めながら尋ねる。

「そうなんッス! 以前狩猟した≪爆臭虫≫(バクシュウチュウ)みたいに、特殊な能力があって厄介なんじゃなくて、体力、攻撃力、守備力、敏捷性、そして凶暴性の全てが高いレベルで融合した超強力モンスターだったらしいッス!」

「まだいるのか?」

 ジュザが早くも百戦の気をまといながら尋ねる。

「いないッス! いなくなったから、うちらに狩場として≪鉱山都市≫が開放されたんッスよ! だいたい、今日は採取ツアーで来ているんッスから、変なやる気出さないでほしいッス!」

 カーシュナーたちは、今回は狩猟依頼ではなく、初めて解放された≪鉱山都市≫に採取ツアーで来ていたのだ。当然狩場を知ることも大きな目的の一つである。

「狩っちゃいけない決まりはないぜ?」

 リドリーがニヤリとしながら言う。いたずらを考えているときの顔だ。

「そうッスけど、G級クラスのモンスターッスから、もし乱入してきたら、今度は現場の判断なんて言い訳通らないッスよ! 素直にクエストを中止して撤退しないと、下手したら≪鉱山都市≫の開放そのものが取り消されかねないッスからね!」

 ファーメイが厳しくたしなめる。カーシュナーたちが≪鉱山都市≫を出入り禁止になると、同行担当であるファーメイも、結果として≪鉱山都市≫に入れなくなってしまうからだ。

「ボクは集中調査でも調べきれなっかた場所を調べてみたいけどね」

 カーシュナーのこの言葉に、ファーメイが食いつく。

「ボクもッス! ボクも! くぅ~~! 早く調べたいッス!」

 鼻血を噴き出さんばかりの勢いで、ファーメイが興奮する。

 その様子を見たハンナマリーが、お手上げの仕草で首を振った。

「今回はファーメイにつき合ってやるか」

「やったーッス!」

 ファーメイのバカでかい声が、周囲の山々にこだました。

 

 

「ファーメイ! 狩場で不用意に大声を出すんじゃない! 中にまで聞こえて来たぞ!」

 ≪鉱山都市≫駐留調査団員が、ファーメイを叱る。

 怒られたファーメイが全力で謝るのだが、その声もまたバカでかかった。

「うちの新人が迷惑かけてすまんな」

 ファーメイを叱っていた駐留調査団員は王立古生物書士隊員で、ファーメイの先輩だった。

「まったくですよ。どんな教育しているんですか」

 リドリーが、ファーメイを見て、ニヤニヤしながら抗議する。

「リド! その裏切りはダメッス! シャレにならないッスよ!」

 今度はファーメイが、リドリーをポカポカ叩きながら抗議する。

「こんな感じで楽しくやってます」

 そんな二人を見ながら、ハンナマリーが後ろ頭をかきつつ駐留調査団員に言った。さすがに緊張感がなさ過ぎるとでも思ったのだろう。ここは仮にも狩場の中なのだ。

「先輩! その後の調査はどんな感じなんッスか?」

 問われた調査団員は、口の前に指を一本立てると静かにするように促してから説明した。

「都市に関する情報はほとんど進展なしだ。聞いてるとは思うけど、文明が発達していたおかげで、情報はすべて書類で管理されていたんだ。そのせいで、全部風化して残っていないんだよ。生き残った書物でもないかと中央の施設群をひっくり返してまわったけど、成果はなかったよ」

「岩壁の居住区はどんな感じなんッスか?」

 ファーメイが、今度こそ、ちゃんと声を落として問いかける。

「これからじっくり調べるところだよ。もっとも期待は薄いけどな」

 調査団員は両手を広げて首を振ってみせた。

「狩場としてはどうなんですか?」

 ハンナマリーが尋ねる。

「都市部には、素材の類は何もないことが確認されたよ。メインの狩場になる坑道は細分化されてい過ぎて危険だから、区域制限を設けてある。それでも採掘できる鉱石は豊富だよ」

「鉱石以外の採取素材はないのかモン?」

 採取の鬼が尋ねる。問われた調査団員は、モモンモをたかいたかいしながら説明した。

「キノコの類が採れるけど、良質のものはほとんどないね。それと、地底湖ってほどじゃないけど、坑道の一部が浸水していて、その近くでだけ珍しいコケが採取出来るよ」

 最後に高々と放り上げてからおろす。

「そいつは楽しみだモン!」

 たかいたかいしてもらって嬉しかったモモンモがはしゃぐ。

「モンスター情報はどうなているのかニャン?」

 今度はヂヴァが問いかける。調査団員は同じようにヂヴァをたかいたかいしようとしたが、サッとかわされてしまった。少し残念そうにしながら調査団員が答える。

「大型モンスターでは≪尖貫虫≫(センカンチュウ)が時々現れて、小型モンスターでは≪化け蜘蛛≫(バケグモ)と≪飛甲虫・黒≫(ヒコウチュウ・クロ)が結構出現する感じかな」

「手強いんですか?」

 ハンナマリーが尋ねる。

「どうかな? うろついていても採取ツアーが認められるくらいだから、問題ないんじゃないかな? 問題があれば討伐依頼が出ているはずだからね」

「なるほど」

 ジュザが納得してうなずく。

「先輩。ここにいたすごいモンスターのことは聞けないんッスか?」

「悪いな。G級にならないとこのモンスターに関する情報は開示できないんだ。まだ、上位に上がったばかりだろ?」

「やっぱりッスか…」

「ファーメイがカーシュ君たちとの同行をやめて、G級ハンターの同行になれば開示できるぜ」

 調査団員がニヤリとしながら言う。

「さよなら、ファー」

 リドリーが手を振る。

「冗談じゃないッスよ!」

「さよなら」

 他のメンバーたちがリドリーに乗っかる。

「絶対にやめないッス! ボクも一緒にG級に上がるッス!」

「すぐに興奮するクセを直せ。好奇心は熱く。冒険心は高く。観察する眼は常に—―」

「平常心で!」

 大きな声で答えたファーメイのおでこを、調査団員は爪で小突いた。これがけっこう痛い。

「わかっているなら実践しろよ。いくら仲が良くても、ハンターの足を引っ張るようなら交代させられるんだからな」

「わ、わかったッス」

 ファーメイは額を押さえつつ、神妙な面持ちでうなずいた。

 

 

「ファー。モンスターの特徴を教えてよ」

 妙に大人しくなってしまったファーメイに、カーシュナーが尋ねる。

 カーシュナーたちは駐留調査団員たちと別れて、坑道に足を踏み入れていた。

「そうッスね。先に遭遇しそうな小型モンスターから説明するッスかね。まずは、≪飛甲虫・黒≫ッス。このモンスターは名前が示す通り、北の大陸でも確認できるブナハブラの近縁種ッス。身体が一回り大きいことを除けば、その生態はブナハブラと何も変わらないッス。頭部が小振りで、ブナハブラの体色が赤いのに対して、この飛甲虫は艶のある黒色をしているッス」

「麻痺針に気をつけていれば大丈夫だね」

「そうッスね。次が鋏角種の≪化け蜘蛛≫ッスね。大きさは≪巨木林≫にいた≪狩蜘蛛≫(カリグモ)と同じくらいッスけど、つがいで行動することが多く、遭遇するときは、常に2匹いると思った方がいいッス。名前に現されている通り、体色を変化させて周囲に擬態していることが多いッス。単体での能力は≪狩蜘蛛≫の方が上なんッスけど、使う糸まで周囲に擬態させる能力を持っていて、ハンターでいうところのシビレ罠のような感覚で使用してくるので要注意ッス」

「そいつは厄介そうだな。大型モンスターを相手取っているときに足を取られたら、回避に失敗しちまうぜ」

「確かに」

 リドリーの意見に、ジュザも真剣な表情でうなずく。双剣使いのジュザはガードすることが出来ないので、回避行動を妨げられるのことは、狩猟の危険度が一気に跳ね上がることに直結するのだ。

「そうッスね。G級のハンターさんたちも、この≪擬態糸≫(ギタイシ)には手を焼いたって聞いているッス」

「要注意だね」

 ハンナマリーも難しい顔でうなずいた。

「ただ、≪擬態糸≫の粘着力は短時間で効果が切れるらしいッスから、他のモンスターと同時に相手取らなければ、それほど脅威ではないそうッス」

「討伐順序はこれで決まりだな」

「まず、≪化け蜘蛛≫」

 リドリーの言葉に、ジュザがうなずく。

「最後の≪尖貫虫≫ッスけど、このモンスターはこの山岳地帯で一番よく見られるモンスターで、一応甲虫種に分類されているんッスけど、甲殻種の特徴も合わせ持っている変わり種ッス」

「それは厄介な特徴なのかい?」

「厄介って程ではないッスけど、腹部が海老みたいに進化していて、脚での移動も行うッスけれど、戦闘になると、この独特の腹部をバネみたいにしならせて、移動及び攻撃をしてくるッス」

「なるほど、確かに話を聞く限りじゃ、突進力が優れているくらいの印象しか受けないね。でも、上位モンスターに位置づけされているってことは、それなりの理由があるんだよね?」

 カーシュナーが尋ねる。

「そうッス。基本的な攻撃力が高くて、攻撃のバリエーションもかなり豊富な上に、防御力も体力も高いんッス。はっきり言って、下位とはモンスターとしての格が違うッス」

「腕が鳴る」

 ジュザがニヤリとする。リドリーが悪ふざけするときのニヤリと違い、ジュザのニヤリには、まるで周囲の空気を圧迫するかのような迫力がある。気の弱い人間なら、それだけで逃げ出すだろう。

「≪尖貫虫≫の攻撃方法は、強力な前脚によるものと、名前の由来となった鋭く頑丈な長い一本角によるものがあり、これに加えて、睡眠ガスまで使ってくるッス」

「動きはどうなの? 素早いの?」

「前後にかなり速く移動するッス。その反面横方向の動きが鈍く、その辺が攻略の糸口になるみたいッスね」

「なるほどな。上手く遭遇できればいいんだけどな」

 採取ツアーで来たことなど忘れたかのように、ハンナマリーは言った。

「まあ、とりあえずは坑道をぐるっと一回りして、地形と採取ポイントを覚えるッスよ」

 ファーメイのの一言で、一同は坑道を奥へと進んで行った。

 

 坑道は想像していたよりもはるかに広々としていた。そして、そこかしこに枝道が伸びている。

 換気機能が生きているようで、空気の淀みも少なく、どのような原理でそうなっているのか理解できないが、天井の一部が淡い光を発しており、たいまつがなくても不自由はしない。

「ファー、何で天井光ってるんだ? ヒカリゴケでも生えているのか?」

 リドリーが素直に尋ねる。あまりにも不思議なのでいつもの冗談も出てこない。

「調査団で一部を切り取って調べたんッスけど、はっきりしたことは何もわかっていないそうッス。わかったことは、岩盤の表面にこの発光物が塗られていること、岩盤そのものが発光しているわけではないことと、この発光物は、太陽光に触れると光を失い、暗闇に戻すとまた発光するってことだけッス」

「古代の技術ってこと?」

 カーシュナーが尋ねる。

「まさしくその通りッス。そして、古代の技術の方が、ボクたちの持つ文明技術よりもはるかに高度だったってことッス」

「なるほどな。それより、区域制限ってどうやって判断すればいいんだい?」

 ハンナマリーが尋ねる。

「光っているエリアが、狩場として公認された指定区域で、暗いエリアが立ち入り制限区域ッス」

「なるほどね。そりゃ、わかりやすくていいね」

 軽口を叩きつつ、カーシュナーたちはエリアを探索していった。調査団員の言葉通り、鉱石の採掘箇所が驚くほど多くあり、モモンモを狂喜乱舞させた。

 どうやら天井に塗られた発光物は、照明の役目の他に、主要採掘箇所を案内する役目も果たしているようだった。それを考えると、狩場を区域制限したこともうなずける。

 採掘を続けながら進んで行くと、坑道が二つに分かれている箇所にさしかかった。これまでだと発光物が見られなかった枝道に、光の道しるべが続いている。

「水の臭いがするニャン」

 ヂヴァが枝道の方を指さす。

「珍しいコケだモン!」

 調査団員の言葉を思い出したモモンモが興奮する。

「よし。行ってみよう」

 ハンナマリーの号令で、カーシュナーたちは枝道を進むことになった。

 

 枝道の奥は、湧き出た地下水によって塞がれ、行き止まりになっていた。水際周辺に大量のコケが生えている。

 どうやらこのコケは、精算素材のようで、食材として用いられるらしい。

「料理長へのいいお土産だニャン」

 拠点の厨房を取り仕切るアイルーとヂヴァは仲が良く、これまでのクエストでも、よく食材用素材を採取していた。

 ヂヴァだけでなく、全員料理長にはお世話になっているので、取り過ぎに気をつけながら採取する。

 コケを採取するカーシュナーたちの背後の水面がゆらりと波立ち、音もなく黒い影が近づいてくる。

 水際まで近づいた影は、一転、それまでの静寂をけたたましい水音で破り、カーシュナーたちに襲い掛かってきた。

 採取に夢中で気づいていないかのように見えていたカーシュナーたちは、全員余裕の前転回避でモンスターの不意打ちをかわす。陸に上げるために、わざと気づいていない振りをして誘いをかけたのだ。

「やっぱり≪尖貫虫≫ッスね」

 姿を現したモンスターを見て、ファーメイが確認する。先輩のお灸が効いたのか、冷静に状況判断している。

 現れた≪尖貫虫≫は、確かに特徴的な姿をしていた。

 その名の由来となった一本角は、いまは背中に収まっている。これが攻撃の際にはまるで頭部に兜を被るように移動してくるというのだから驚きだ。岩盤を簡単に掘り抜く前脚は大きく、ショウグンギザミのように鎌状になって折り曲げられている。もっとも、鎌の刃にあたる部分がのこぎり状になっており、より凶悪な印象を与える。鎌の刃の背の部分は分厚く広く、小手をはめているように見える。ダイミョウザザミのように、防御に使われたらかなりの性能を発揮しそうだ。

 そして、もっとも特徴的なのが、まるで海老の腰のように変形している腹部だろう。

 先程水面から飛び出してきたのも、脚の力ではなく、この特徴的な腹部をバネのようにしならせて攻撃してきたに違いない。腹部の先端は扇のように広がり、地面をしっかりと捉えられるようになっている。

 ファーメイの説明通り、甲虫種にも甲殻種にも見える。背中に退化した翅の名残がなければ、甲殻種と判断されていたかもしれない。

「どうするんッスか? 狩るんッスか? 別に無理に狩らなくてもいいんッスよ」

 討伐依頼のクエストではないので、素材を集めたなら無視しても構わない状況だった。

「軽く手合せ」

 言葉とは裏腹に、やる気満々でジュザが言う。

 この先討伐依頼がかかった際に、≪尖貫虫≫の動きを知っていることは狩猟成功の大きな助けになる。狩る狩らないは別にして、ここで少しでも多くの生の情報を集めておくことは、けして無駄にはならない。

「よし! 様子見優先で立ち回ってみるか。みんな、油断するんじゃないよ!」

「おう!」

 

「おっと! やっぱり身体は硬いな!」

 大剣の一撃を弾き返されながらハンナマリーが声を上げる。

「脚はいける!」

 ジュザが吠えるように報告する。

「腹はどうだ!」

 自身は頭部から腹部にかけて貫くようにLv2貫通弾を撃ちながら、リドリーが問いかける。

「ゴム質の皮みたいな手応えだよ! 斬撃は通ると思うけど、打撃はダメージが通りにくい感じ!」

 演武・奏双棍をいろいろな位置、角度で叩き込んでいたカーシュナーが報告する。

「カーシュ! 交代だ!」

 双剣を持つジュザが、カーシュナーに声を掛ける。打撃の演武・奏双棍では相性が悪いのならば、斬撃の双剣の出番である。

「姉さんも腹部を狙ってみて! ダメージの蓄積がどんな影響を与えるか確認したいから!」

 リドリーの射線に入らないようにしつつ、≪尖貫虫≫の頭部近くで注意を引きつけていたハンナマリーがうなずき、カーシュナーと位置を入れ替える。

「注意を引くことに専念しな! 前脚の攻撃は、鎌として使われるよりも、甲の部分をパンチの要領で繰り出してくる攻撃の方が動作が小さいうえに素早くてヤバイからね! 引っ込めて守っているように見えても、不用意に飛び込むんじゃないよ! カウンターがくるからね!」

「わかった! 注意を引きつつ、前脚には打撃の方が効果的か探ってみるよ!」

「まかせる!」

 カーシュナーたちは、初見の≪尖貫虫≫を、情報と言う意味で次々と丸裸にしていった。途中怒り状態になり、腹部を使ってエビが逃げるように瞬時に後退してみせたかと思えば、後退することによって生じた空間を利用して、腹部で地面を蹴りつけて、巨大な一本の槍のように突進してくる。

 ここがメイン坑道並の広さを持っていたら、かなり脅威になる攻撃だっただろうが、狭い枝道ではカーシュナーたちハンターをはるかに上回る巨体を誇るモンスターにとっては、動きを極端に制限されてしまうため、突進の軌道が簡単に読める単調な攻撃になってしまい、≪尖貫虫≫最大の攻撃力を誇る突進攻撃は、全て虚しく空間を貫くだけの結果になった。

 怒りが納まると≪尖貫虫≫は疲労状態に陥り、カーシュナーたちの集中攻撃を受けることになった。

 どうやら腹部は部位破壊出来ないようだが、斬撃の通りがよく、ダメージの蓄積量が上がるほどに怯みやすくなっていった。

 カーシュナーが狙っていた前脚は、予想通り打撃に弱く、両前脚とも部位破壊されていた。それでも攻撃力が落ちないところはさすがと言えるだろう。

 そして、もっとも≪尖貫虫≫に大きなダメージを与えていたのが、リドリーの貫通弾による攻撃だった。有効射程距離の取り方から、射撃ポイントに至るまで、ここまで一発も撃ち損じがない。ダメージ重視で立ち回っていたため、正面に近い角度からでは一本角に弾道を逸らされてしまうので、一本角を避けて狙撃していたが、一本角の破壊を優先して立ち回っていたら、≪尖貫虫≫は今ごろ、自慢の一本角をへし折られていたことだろう。今日のリドリーの射撃はそれ程に冴えわたっていた。

 下位のモンスターならばとうに力尽きていただろうが、さすがに上位クラスのモンスターともなると体力が違う。カーシュナーたちを振り払うと、固い岩盤を掘り抜いてエリア移動していった。潜りきる前にペイントボールを当てておくことは忘れない。

「追うよ!」

 ハンナマリーが噴き出す汗をぬぐいながら言う。

「このままいけそうだな」

 消費した弾を調合で補充しながらリドリーが言う。絶好調なため上機嫌だ。

「リド一人でもいけそうだ」

 こちらは、砥石で双剣の切れ味を直しながらジュザが言う。

「確かに手強いけれど、やりにくくはない相手だね」

 カーシュナーも同意する。

「そうだね。でも、おそらく広さのあるエリアに移動するだろうから、そうなってくると、あの一本角の突進は厄介なことになるんじゃないかい?」

 ハンナマリーが油断しないように釘を刺す。

「一本角をへし折るモン!」

 モモンモが飛び跳ねながら主張する。カーシュナーたちが狩猟している間、モモンモは踊り効果でサポートし、ヂヴァはうるさく飛び回る≪飛甲虫・黒≫を駆除してまわっていた。

 ちなみに、この辺りの地下水の溜まりは≪飛甲虫・黒≫の産卵場所のようで、水中には半透明の幼虫たちの姿を見ることができる。エリアに足を踏み入れた際、≪飛甲虫・黒≫を狙って待ち伏せていた≪化け蜘蛛≫に遭遇したので、一瞬で討伐していた。

 ここにもコケ以外に採掘箇所があったので、≪尖貫虫≫を慌てて追わず、全て採掘してから追跡に入った。

 ペイントボールの臭気を追ってたどり着いたエリアで、≪尖貫虫≫は鉱石をむさぼり食っていた。どうやらグラビモスと同様、鉱石から栄養を得ることが出来るらしい。

 カーシュナーたちの存在に気づいた≪尖貫虫≫が、背中に回っていた一本角を頭部に引き寄せ被る。そして、姿勢を低くすると腹部に力を溜めこみ、一気に弾いて突進して来た。

「一本角はオレにまかせろ!」

 リドリーがLv3通常弾が装填されたライトボウガンを振ってみせる。

「よし、まかせた!」

 ハンナマリーが答える。

 全員突進の軌道から離れると、狩猟が再開された。

 

 ハンナマリーの予想通り、≪尖貫虫≫の突進攻撃は、広い空間を手に入れたことで厄介なものになった。突進中も前脚で軌道修正してくるため、非常にかわしにくいのだ。先程の枝道ならば、なまじ軌道修正すると、壁に激突してしまうので、ただ真っ直ぐに突っ込んでくるしかなかったが、十分な広さがあれば、思いのほか小回りが利くことがわかった。

 始めのうちは距離を取って回避しようとしていたが、追尾性能が高いことを理解してからは、逆に足元付近に位置取ことによって上手くかわしていった。それでも、人間の移動能力と巨体を誇るモンスターでは比べるまでもなく、一度目の突進をかわしたことで生じる距離を上手く利用され、カーシュナーたちは何度も危険な場面に遭遇した。

 そんな中で力を発揮したのが、リドリーだった。カーシュナーたち他のメンバーが派手に動き回っておとりの役割を果たしてくれたおかげで、リドリーの放つ弾丸は、≪尖貫虫≫の一本角に確実にダメージを与えていった。

 どれ程激しく動こうとも、動きの先を呼んだ精密な射撃は的を外すことはなく、ほどなくして≪尖貫虫≫自慢の一本角は、根元でへし折られることになった。頭部を守る役割の果たしていた一本角を失ったことにより、≪尖貫虫≫の頭部がむき出しになる。

 怯んだ隙にカーシュナーがジャンプ攻撃を行い、露わになったばかりの頭部に演武・奏双棍を叩きつける。その勢いのまま乗り攻防に持ち込み、カーシュナーは見事に転倒させてみせる。

 ここぞとばかりに攻撃を集中させる。≪尖貫虫≫の背から投げ出されたカーシュナーは受け身から一転立ち上がると≪尖貫虫≫の頭部に駆け寄り、双棍状態にした演武・奏双棍を頭上で交差させると鬼人化し、≪乱打・回天≫(ランダ・カイテン)を叩き込む。

 棍こよる物理的ダメージと、特殊構造によって発せられる音波により、≪尖貫虫≫の脳が激しく揺さぶられ、≪尖貫虫≫は目を回して倒れ込んだ。

 さらなる追加攻撃が加えられ、≪尖貫虫≫はついにその生命活動を停止した。

 冷汗をかく場面は何度かみられたが、上位モンスター相手に完勝と言っていい内容だった。

 ハイタッチが繰り返され、採取の鬼が振り回す演舞棍もどきに追い立てられて慌てて剥ぎ取りが行われる。そのかたわらでファーメイが、≪尖貫虫≫の細部をスケッチしていた。

 剥ぎ取りも無事終わると、ほぼ満タンになったアイテムポーチを抱えて、カーシュナーたちは坑道を引き返し始めた。採集はもうほとんど出来ないが、まだ回っていないエリアを探索しながら戻ることにする。

 大きな満足感で満たされたカーシュナーたちの足取りは、激闘の後だというのに、ずいぶんと軽かった。

 

 

 空気の流れが不意に変わり、カーシュナーの鼻を血の臭いがかすめた。

 一瞬ではあったが、それは濃い血の臭いだった。過去に多くの仲間を無情に失ったときに嗅がされた、大量出血の臭いだ。

 カーシュナーの気配が一気に険しくなる。血の臭いに触れなかった他のメンバーが驚いて振り返る。

「どうした、カーシュ?」

 ハンナマリーの問いかけにも答えず、カーシュナーは嫌な予感に突き動かされて、臭いの元を探した。

 微かな物音が、張り詰められていたカーシュナーの神経に触れる。

 物理的な理解を超えた超感覚がカーシュナーを導く。

 それは、張り出した大岩に隠されるようにして存在していた枝道だった。

 そこに、小さな影がうずくまっている。

 カーシュナーは一瞬アイルーがいるのかと思った。しかし、頭部の形状がかなり異なる。大きく広い額はアイルー以上に大きく、いまはカーシュナーを鋭くにらみつけている瞳は、アイルーの倍近くある。鼻と口の形状は頭部全体から見るとかなり小さく、アイルーと違い前に突き出している。その小さな口から鋭い牙がのぞき、警戒の呻り声が漏れている。

 それは、見たこともない獣人だった。

「こいつ、誰だモン?」

 モモンモの声に反応し、獣人は警告の声を強くした。

 カーシュナーがスッと横に手を伸ばし、他のメンバーを抑える。

 カーシュナーの意図を察したハンナマリーたちは、数歩退き息を潜める。濃く漂う血の臭いが、ハンナマリーたちにも獣人の状態を理解させた。目の前に現れた獣人は、深手を負っているのだ。それも今すぐ治療が必要な程の深手を。

 カーシュナーは何も言わなかった。ただ、狩場の真ん中で、武器を外し、防具も外し、インナーだけの姿になる。

 寸鉄帯びない姿になったカーシュナーは、ゆっくりと獣人に近づいていく。一歩ごとに獣人ののどから発せられる警告音が危険な色を帯びてくる。

 最後の一歩を、カーシュナーは予想に反して素早く近づいた。そして優しく頬に手を添える。

 常識で考えたら、手首を食い千切られかねない危険な行動だ。

 しかし、あまりの素早さと、予想外の行動だったため、傷ついた獣人は驚きのあまり反撃をためらってしまった。これが野生動物だったら、仮に触れることに成功したとしても、カーシュナーは手ひどい反撃を受けていたことだろう。本能による反射反応をしないということは、そのまま、この獣人の知能レベルの高さを表していた。

 触れた手からは震えと冷たさが伝わってくる。獣人には、カーシュナーの温かさが伝わったのだろう。いつの間にか呻り声が治まっている。

 気が抜けてしまったのだろう。獣人はカーシュナーの手に、頬をあずけるように意識を失った。

 

 それはひどい傷だった。背中を一撃で切り裂かれ、尻尾は根元からなくなっている。モンスターの強烈な一撃を受けたことは疑いようもなかった。

 獣人は小柄な見た目に反して頑丈な身体を持っている。そうでなければ、アイルーにしても、奇面族にしても、ハンターに同行して狩場に足を踏み入れることなど許させるわけがないのだ。

 その獣人に一撃で重傷を負わせている。先程討伐したばかりの≪尖貫虫≫には不可能だろう。上位モンスターの中でもトップクラスか、G級モンスターの仕業に違いない。

 その場で施せる限りの治療を施す。スラム街時代はケガや病気をしても医者のかかることなど出来なかったカーシュナーたちは、現場の叩き上げの技術ではあるが、下手な町医者以上の腕を持っていた。

 この中ではずば抜けた器用さを誇るリドリーが治療にあたる。ファーメイの巨大な背負い袋の中に、各種回復アイテムが入っていて助かった。今回は採取ツアーで来ていたため、回復薬グレートしか持ち込んで来ていなかったのだ。ここまでの重傷になると、回復薬や回復薬グレートでは気休めにもならない。

 意識を失っている内に、リドリーは傷口を回復薬グレートで丁寧に洗い、それぞれの髪の毛で作った臨時の糸と、≪化け蜘蛛≫からはぎ取った牙を加工して作った針を使って傷口を縫合していく。切り飛ばされてしまった尻尾の傷口は、わずかに残った尻尾の付け根を縛って止血し、タオルに回復薬グレートを染み込ませて、包帯代わりにもう一枚のタオルで固定した。

 一応の応急処置が終わったところで、リドリーはファーメイから受け取ったいにしえの秘薬と秘薬2本を、口の隙間からゆっくりと、時間をかけて飲み込ませていった。

 全ての処置が終わった時、獣人のまぶたが震えながら開き、濡れた大きな瞳が現れる。

 一瞬の混乱は、カーシュナーの笑顔と出会って静まった。言葉が通じないどころか、種族も違う獣人をなだめてしまうカーシュナーの笑顔の威力に、一同は改めて驚かされた。

 姉のハンナマリーが、半分呆れながら感心する。

「お前は天使か」

 ハンナマリーの言葉は全員の感想であった。

 意識を取り戻した獣人はなんとか起き上がろうともがく。止めたいが言葉がわからないので対応が出来ない。ヂヴァとモモンモがそれぞれの種族の言葉で止めるが、やはり通じなかった。

 仕方なく、カーシュナーは支えて立ち上がらせてやった。

 獣人は、カーシュナーの防具の袖を掴んで弱々しく引く。そして、傷の痛みに震えながら、か細い声で何事かをカーシュナーに訴えた。

 言葉など通じなくても、今この時、この獣人が伝えたいことは一つしかない。

 助けを求めているのだ。自身が重傷を負いながら、その上で、自分ではない誰かを助けるために、獣人は必死に想いを伝えようとしている。

 その姿に、カーシュナーはかつての自分を重ねていた。幼く、弱く、己自身の力では、何一つ変えることが出来なかった無力な自分の姿を—―。

 獣人は倒れていた枝道を指し示している。

 カーシュナーは大きくうなずくと、獣人を背負い立ち上がった。

「おい! カーシュ!」

 思わずリドリーが声をかける。

「この先に何があるのかはわからない。でも、ボクは行くよ」

「今度こそ現場の判断なんて言い訳は通らないッスよ!」

 ファーメイが慌ててカーシュナーを制止する。

「せめて、ちゃんと報告してから、指示を受けて行動すべきッス!」

 ファーメイの言葉は紛れもない正論だった。カーシュナーも言われるまでもなく理解している。ギルドマスターがカーシュナーたちに課している義務は、あくまでも未開の地で、ハンターを含めた調査団員の誰一人危険にさらされることがないように、全員を守るために課しているものであって、けしてギルドの権威を振りかざしてのものではないことを。

 カーシュナーはゆっくりと首を横に振った。

「助けてもらえない辛さを、ボクは知っている」

 カーシュナーの気持ちは、この一言で充分だった。ハンナマリーたちも、同じ苦しみを味わって、いまここにいるのだから。ファーメイも、ヂヴァも、モモンモも、海底大地震によって引き起こされた大災害によって家族を失い、これまでの生活の全てを壊されてしまった。今でこそカーシュナーたちとふざけ合い、笑って過ごしているが、大災害後の生活は、笑い方を忘れてしまう程の苦しさだった。

 握り返してもらえないとわかっていても、それでも助けを求めて伸ばした手が掴んだ現実の冷たさを、カーシュナーたちは一生忘れないだろう。

「助けられるだけの力があるのに、このまま何もしないでここから立ち去ることはボクには出来ない」

 さらに言葉を続けようとしたカーシュナーを、ヂヴァが遮る。

「みなまで言わなくていいニャン。カーシュの気持ちは痛いほどわかるニャン。オレも一緒に行くニャン。モモンモ、悪いけど今回採取した素材は破棄するニャン。こんな大荷物担いでは行けないからニャ」

 振り向いたヂヴァの視線の先で、モモンモがアイテムポーチをひっくり返して空にしていた。

「モモンモ!!」

「オイラも行くモン」

 お面で表情はわからないが、声がいつになく真剣である。採取の鬼が素材を捨てるのだから、本気でないわけがない。

「ファー。回復アイテムくれだモン」

 モモンモがアイテムポーチの口を開けて催促する。

「なに言ってるッスか! こうなったらボクも行くッスよ!」

 ここまで冷静でいようと勤め続けていたファーメイが、一気に興奮する。

「バ~カ。ファーはオレと一旦報告に戻るんだよ」

 リドリーが興奮するファーメイの肩を叩く。

「えっ! リドは行かないんッスか?」

「自分でさっき言っただろ。ちゃんと報告して、指示を受けるべきだって。ファーの言っていることが一番筋が通っているし、何より、ものすげえ嫌な予感がする。これはオレたちだけで処理しきれる気がしねえ。報告を後回しにしたせいで、他の調査団員に危険が及ぶ可能性だってある」

「でも、リドが行かないと戦力ダウンになるッスよ?」

 ここでリドリーは、いつものニヤリ笑いをファーメイに向けた。

「オレがいなけりゃ、逆に冷静でいられるだろ。全員そろっていると、どんな状況でも何とか出来そうな気がしちまうからな」

「そうだな」

 ジュザが苦笑する。

「ここは二手に別れよう。リドとファーは≪鉱山都市≫の入口にいた調査団員にこのことを報告に行ってくれ。その後は調査団の指示に従う。残りの私たちは、獣人の案内に従ってこの枝道を行く」

 ハンナマリーが決定を下す。

「みんな、無理しちゃダメッスよ!」

 ファーメイが、心配を顔いっぱいに浮かべて言う。

「安心して、ファー。ボクたちは戦いに行くんじゃない。助けに行くんだから」

 カーシュナーがファーメイの不安を和らげようと笑顔を向ける。

「カーシュ。オレたちはあのころよりも強くなった。誰かを助けられるくらいにな。でもな、それでも出来ないことはまだまだある。出来ることを全力でやろうぜ」

 リドリーの言葉に、カーシュナーは大きくうなずいた。

「リドこそ無茶するんじゃないよ。あんたが言ってた嫌な予感ってやつ。私もするからね」

「オレたちより、リドたちの方が大変かも」

 ハンナマリーの言葉にジュザもうなずく。自分たちこそ、これから明らかに危険だとわかっている事態に向かうにもかかわらず、引き返すリドリーたちの事が気に掛かって仕方がないのだ。

「心配すんな。お前らがいないのに無茶なんて出来るかよ。いざとなったら上手く逃げ回ってやるよ」

 スラム街時代は、確かな力を身につけるまでは上手く不当な暴力をかわしていた。力を身につけた後も、勢力としての全体的な力では、最後まで最大の力を得ることはなかった。自分たちよりも大きな力の扱い方は、この南の大陸の調査に参加している誰よりも心得ている。

 カーシュナーは獣人を片手で背負いながらリドリーにこぶしを差し出した。リドリーが応え、全員が二人のこぶしにこぶしを集める。もちろんヂヴァとモモンモとファーメイのこぶしもある。

「行こう!」

 カーシュナーの、静かだが、気迫に満ちた声が坑道内に響き、繰り返されるこだまが、まるで声援のように聞こえた—―。

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