「わしも行くぞい!」
ギルドマスターが宣言する。
≪鉱山都市≫の地下に存在した巨大な空間が姿を現し、カーシュナーたちは調査を進める中で一つの文献を探し出した。その内容は、一人の研究者とその研究について書き記されていた。その最後には衝撃的な結末が記されており、著者本人が、モンスター素材と融合し、新たな≪造獣≫(ゾウジュウ)になるという内容のものだった。
そして、その研究者が、カーシュナーたちが≪霊峰・咲耶≫での≪煉狼龍≫(レンロウリュウ)ラヴァミアキスとの激闘の果てに遭遇した謎の巨人なのではないかという結論に達したのだ。
事の確認のため、カーシュナーたちは≪霊峰・咲耶≫行きを志願した。これに対して、ギルドマスターが自身の考えを宣言したのであった。
「それはやめたほうがいい」
白い獣人がギルドマスターをとめる。
「これは竜人族の悲願に通ずる古代の記憶に至る可能性を秘めたことですじゃ! とても人任せには出来ませんのじゃ!」
ギルドマスターが興奮して言い返す。
「残念だが、あなたは認められてはいない。訪ねても道は開かれないだろう」
「それはどういうことですかな?」
「申し訳ないが、これ以上を語ることは許されてはいないのです。ただ、実際に≪霊峰・咲耶≫で彼と出会ったカーシュナー君たち以外の者が訪ねても、決して出会うことはかなわないはずです」
「カーシュちゃんたちに同行したとしてもですかのう?」
「はい。彼ら以外の者が同行した場合、出会うことは出来ないでしょう」
「シロちゃんでも無理なの~?」
チヅルが何かを悟った表情で尋ねる。
「無理~」
白い獣人がチヅルに合わせて間延びした口調で答える。場の緊張感が一気に崩壊した。
「ギルマス~。シロちゃんでも無理なんだから~。諦めな~」
「そうそう。オレらに任せてくれればいいんだよ。あそこ寒いしさ。オレらがちゃんと調べてきてやるから、ここでお茶でも飲んで待っててくれや!」
リドリーが気楽に請け負う。
「君たちでも会えるかどうかはわからない」
「えっ! マジですか!」
「あくまでも、彼の気が向けば会えるだろう」
「無駄足の可能性もあるってことかい」
ハンナマリーがうなる。
「心配するなモン! カーシュと一緒ならきっと会えるモン! カーシュを嫌いな奴なんていないモン!」
「モモンモは適当に言っているだけだけど、オレもカーシュと一緒なら大丈夫だと思うニャン!」
「ボクもそう思うアン!」
3人の獣人が口々に意見を口にする。カーシュナーに対する信頼があふれかえっている。
「うんむ。確かにそうかもしれんのう。カーシュちゃんや、すまんが頼まれてくれるか?」
「はい。どうなるかはわかりませんが、頑張ってみます」
「ファーよ。王立古生物書士隊を代表して行くんじゃ。しっかりとカーシュちゃんを支えるんじゃぞ」
「了解ッス! 極上のお酒の用意をお願いするッス!」
「おおっ! そうじゃった! 手土産にいい酒を持っていくのは常識じゃしのう! さっそく行商ばあさんに相談しよう!」
ギルドマスターとカーシュナー一行は、残りの調査を隊長じいちゃんに任せ、地下空洞を後にしたのであった。
二台の荷車に、黄金芋酒の詰まったタルをびっしりと乗せ、念のために幻獣チーズも持って、カーシュナーたちは≪鉱山都市≫を後にした。
これがカーシュナーたち以外のハンターであれば、つまみ食いとつまみ飲みを心配されるところだが、基本酒を飲まないカーシュナーたちにその心配はなかった。これは未成年だからというわけではない。カーシュナーたちはスラム街で生活していた時に、常に頭をフル回転できる状態にしておく必要があったため、飲酒を忌避していたためである。この習慣は南の大陸に移住した後も残り、ハンター恒例のクエスト終了後の宴会でも、ポポミルクをジョッキになみなみと注いで飲んでいた。
長旅ではあるが、一度は歩いた道である。カーシュナーたちは天候にも恵まれ、順調に≪霊峰・咲耶≫を目指していた。しかし、季節のめぐりが悪かった。冬にさしかかりつつある南の大陸では、南下するほど冷え込みが厳しくなってくる。
カーシュナーたちが再び≪霊峰・咲耶≫を視界に納める距離まで来た時には、一面雪景色となっていた。
「きれいだね~。荷車引くのしんどいけど!」
「そうだな~。真っ白の世界だもんな! 荷車押すのしんどいけど!」
「しんどい」
ハンナマリー、リドリー、ジュザが、雪景色の美しさに感嘆しつつも、雪のせいで運搬が困難になったことへのグチをこぼす。
ハンナマリーが引く荷車を押すカーシュナーと三人の獣人たちは、特に苦ではないようで、シャドウアイ越しの純白の景色に素直にはしゃいでいた。
リドリーと一緒にジュザが引く荷車を押しているファーメイも、その尋常ならざる脚力のおかげで、雪の中の運搬作業は苦にならないらしく、時折手を止めると、『≪鉱山都市≫~≪霊峰・咲耶≫間狩猟道路整備工事(案)』と題された専用ノートに各地の地形や天候による変化、影響を書き留めていた。意外な才能である。
惑わしの樹海の入口にさしかかった一同の前に、巨大な何かが這いずった跡が不意に現れた。地中から姿を現し、そのまま惑わしの樹海の奥へと向かったようで、まるでカーシュナーたちのために除雪してくれた格好になっている。
「こりゃあ、助かるね」
ハンナマリーがのん気な感想を口にする。這いずった跡はまだ新しく、近くに大型モンスターが存在する可能性を強く示唆しているのだが、わかっていながら気に留めていないらしい。
「≪霊峰・咲耶≫まで続いていてくれると楽なんだけどなあ」
リドリーも軽口を叩く。
「酒ひっくり返されるのだけは勘弁」
ジュザの言葉に、全員が嫌な顔をした。
「酒死守だモン!」
「もう一往復は勘弁だアン!」
モモンモとクォマが叫ぶ。
「他のルートを探すかニャン?」
ヂヴァが尋ねる。
「どうかな? 迂回した先で遭遇するかもしれないからね」
ヂヴァの問いにカーシュナーが答える。
「まあ、何かいたらその時さ。楽出来るうちは楽させてもらおうじゃないか。酒だけは護らないとシャレにならないけどね」
そう言ってハンナマリーは荷車を引き始めた。もう一台もその後に続く。
空を覆うように茂っていた樹木がなぎ倒されているおかげで、カーシュナーたち一行は足元明るく進むことが出来た。この臨時の樹海路を開いてくれたモンスターは相当な重量の持ち主らしく、溶岩の凹凸で本来はかなり進みにくいはずなのだが、砕き敷ならされているおかげで非常に進みやすくなっていた。
その結果、カーシュナー一行は、道を開いてくれていた当人に追いつくことになった。
「蛇竜種!!」
ファーメイが驚きの声をあげる。
一行の目の前に、全長50メートルはあろうかという細長い身体に、雪景色に溶け込む純白の鱗を持ち、灰水晶を思わせる、くすんだ色合いの甲殻を持つ蛇竜種が姿を現した。目の周りが鮮やかな赤で縁どられ、筆で描いたかのようにスッと後頭部へと流れている。見るだけならば、非常に美しいモンスターだ。
雪に鮮血が走ったかのように、目の前の蛇竜種が大口を開けて威嚇してくる。
先頭にいたハンナマリーが、大剣に手を掛け、蛇竜種をにらみつけたまま力を溜めていく。
1段階、2段階、3段階、そして4段階目を過ぎ、力が第五の門を開け放ち、ハンナマリーの眼光に宿る。
蛇竜種は威嚇をやめ、猛烈な勢いで≪霊峰・咲耶≫のふもとへと去って行った。
蛇竜種の白い後姿を見送りながら、ハンナマリーがゆっくりと力を解いていく。
「…ハンナ、すごいな」
ジュザが心底感心する。
「大型モンスターをひとにらみで追い返すニャンて信じられないのニャ!!」
クールが売りのヂヴァが興奮してまくしたてる。
「ちくしょう! ≪煉狼龍≫ラヴァミアキスとの一戦以来、でかく差をつけられちまったみてえだな!」
リドリーが悔しがる。
口々に褒められ、照れくさそうにしているハンナマリーの周りを、モモンモとクォマがはしゃぎまわる。
「ファー、あれはなんてモンスターなんだい?」
ハンナマリーが照れ隠しに話題を変える。
「未確認モンスターッス! 蛇竜種と思われるモンスター自体南の大陸ではまだ発見されていないんッスよ! 驚きッス!」
「そうなのかい! 追いかけて討伐した方がいいかい?」
「いや! それはやめときましょう! どう考えても弱い者いじめにしかならないッスからね! とりあえず帰ったらギルドに報告して、必要なら再調査ということにしましょう!」
「確かに、全力で逃げているモンスターを討伐するのは気が引ける」
ジュザが同意し、全員うなずく。
「これ、みやげにするモン!」
モモンモが何かをファーメイに差し出す。きらりと輝くものを受け取ったファーメイが歓声をあげる。
「鱗じゃないッスか!! どうしたんッスか、これ?」
「ハンナにビビッて逃げてく時に落としていったんだモン!」
「さすが、採取の鬼! メチャクチャ助かるッス!」
「みんな注意力が足りないモン!」
モモンモに指摘され、全員慌てて周囲を探しだし、このあとさらに三つの落し物を雪の中から手に入れた。その内の一つは間違いなくレア素材と思えるもので、一同は縁起の良い白蛇の落し物を手に入れたと上々の気分で≪霊峰・咲耶≫のベースキャンプに向かったのであった。
半分雪に埋もれたベースキャンプを掘り出して、その日は休むことにした。明日はいよいよ謎の巨人の調査開始である。
ファーメイは惑わしの樹海で遭遇した蛇竜種に関する報告をまとめていた。
「この地方限定のモンスターなのかな?」
カーシュナーがファーメイに尋ねる。
「可能性は高いッスね! 蛇竜種はガブラスみたいな小型のものも含めて未発見だったッスから、大型甲虫種が少ない≪霊峰・咲耶≫周辺で生息していると考えられるッス!」
「いままでの≪霊峰・咲耶≫周辺の調査では見つからなかったんだよね」
「そうなんッス! ただ、調査は≪霊峰・咲耶≫を中心にして行われたので、周辺地域はそれ程細かく調査出来ていないんッスよ!」
「じつは冬季限定のモンスターってことはないかな?」
「!!!!」
「この地域が南の大陸では唯一の寒冷地帯ではあるけど、実際に常に雪があるのは≪霊峰・咲耶≫の中腹より上だけでしょ? でも、中腹は≪煉狼龍≫ラヴァミアキスの縄張りだから生息できない。あの真っ白な身体で樹海に住んでいるのはどう考えてもおかしいからね」
カーシュナーの意見を急いで報告書に書き加えながら、ファーメイは自分の考えを口にする。
「体色を周囲の環境に合わせて変化させられるモンスターなのかもしれないッス! もしくはアルビノ個体の可能性もあるッス!」
「なるほど!」
「でも、大型甲虫種の活動が鈍くなるこの季節に現れたのは、カーシュ君の考えを強く後押しするとも言えるッス! 冬眠ならぬ夏眠をするモンスターの発見かもしれないッス!」
その後も新発見の蛇竜種モンスターを話題に一同はひとしきり大騒ぎし、狩場の中にいるとは思えない明るさで一晩を過ごしたのであった。
日の出とともに出発したカーシュナー一行は、天候が荒れやすい冬山にあって、滅多にない晴天に恵まれていた。
中腹は前回訪れた時よりも高く雪が積もり、雪崩の危険性を感じさせる。北の大陸では、地域によっては季節ごとに狩場を封鎖することがあるが、白い獣人の情報により、寒冷地とはいえ冬の影響が狩場に大きく作用しない≪霊峰・咲耶≫では、異常気象でも発生しない限り、封鎖処置は設けないことになっている。もっとも、運に大きく左右される問題なので、訪れたはいいが、雪に阻まれる可能性もある。
突風、もしくはモンスターのエリア移動の影響か、前回≪煉狼龍≫ラヴァミアキスが起こした雪崩によって封鎖されていた山道も通行可能な状態になっていた。
カーシュナーたちは、とりあえず前回謎の巨人に遭遇したエリアへ移動することにした。
激闘の跡は雪の下に去り、吹雪によってならされた雪原が広がる。エリアの一角に、岩肌が露出した箇所があり、以前にはなかったはずの洞窟が口を開けていた。
「あんな洞窟記録にないッスよ!」
ファーメイが興奮して声をあげる。
「あっ! あそこは≪煉狼龍≫ラヴァミアキスが水蒸気爆発したところだよ!」
当時の状況を思い出したカーシュナーが、つられて大声をあげる。
「…だけど、あんな洞窟あったかい?」
当時を思い出しながら、ハンナマリーが首をひねる。
「なかったよ。雪崩で埋まっていたからね」
「よく覚えてるよなあ」
リドリーが感心する。
「とりあえず行ってみようか」
ハンナマリーの号令に従い、一行は新たに出現した洞窟へと進むことにした。
「どうやら小型モンスターが掘り起こしたみたいッスね!」
洞窟の入り口付近は無数のモンスターの足跡で踏み固められていた。どうやら新たなねぐらを発見したと考えたらしく、足跡は洞窟の奥へと続いている。
「雪に埋もれていないところを見ると、比較的新しいみたいだね」
「オレらが到着するまでは吹雪いていて、最近になってほじくり返したのかもな」
ハンナマリーの意見に、リドリーが自分の考えを付け加える。
「かもしれない」
草原地帯から≪霊峰・咲耶≫を目指していた時、行く手の天候がかなり荒れていたことを思い出し、ジュザが賛同する。
「よし! とにかく入ってみよう!」
ハンナマリーが荷車を引きながら洞窟内へ足を踏み入れると、そこは、人工的に掘り抜かれた真っ四角な通路だった。
「ここも作られた洞窟なんだね」
ふもとから中腹へと至るルートは、自然洞窟を現在の技術では再現不可能な、床も壁も天井も垂直な人工の通路でつながっていた。カーシュナーたちが足を踏み入れた洞窟も同様で、どうやら運搬路として活用されていたらしく、何やら複雑な模様を持つ車輪の跡が床に残されている。上り勾配がつき、美しい三角錐型をしている≪霊峰・咲耶≫の山肌に沿って続いているのか、緩いカーブを描いている。
しばらく進むと通路は急な角度で折り返していた。どうやら通路は山頂に向かうらしく、この先も何度か折り返して登って行くことになるようだ。
折り返し地点は広い空間になっており、小型鳥竜種モンスターの≪白雪鳥≫(ハクセツチョウ)がたむろしていた。警戒の鳴き声が壁に反響し、うるさくてかなわない。
クォマが進み出る。言葉はなくともその意図を理解した一行は、耳をふさいで背を向ける。
全身で大きく息を吸い込むと、一瞬だけ息を止め、通路が反響で振動するほどの大爆音を放つ。
通路の各所から、長年かけて溜まった埃が降ってくる。
カーシュナーたちが振り向くと、そこには大爆音で目を回す≪白雪鳥≫の群れがいた。
≪煉狼龍≫ラヴァミアキスとの死闘の際は、自身が生み出した爆音であばらを痛めていたが、新たな特技を完全に身につけたらしく、振り向いた全員の視線を、誇らしげな笑顔で受け止めていた。
全員に頭をぐりぐりとなで回され、クォマは嬉しそうに笑った。
無益な殺生を避けたい一行は、≪白雪鳥≫が目を回している隙に折り返しを一気に駆け上がり、さらに上を目指した。
上に何かがあると保障されているわけではないが、何もなかったとしても、何もないことが証明されるので、調査がまだまだ進んでいない≪霊峰・咲耶≫では、無駄足になるということがない。一行は迷いなく進み、ファーメイは嬉々として新情報を報告書に書き加えていった。
外の様子がわからないため、時間の経過が測れないのだが、腹時計の具合から夕刻と判断し、カーシュナーたちは次の折り返し地点でキャンプを張ってその日一日を終えた。
もし、この通路を発見できず、中腹から道を探しつつ山頂を目指していたら、どれ程進めただろうか。だが、この通路のおかげで、明日の早い時間の内に山頂を拝めそうだった。山頂まで続いていたらの話だが――。
翌日も変化のない壁と登り勾配の通路を見上げながら、カーシュナーたちは進み続けた。時々同じところをグルグル回っているだけなのではないかと錯覚することもあったが、「酸素が薄くなってきたね」というカーシュナーの一言で、登り続けていることを実感することが出来た。
ギルドマスターが大量に持たせてくれた酸素玉を頬張りつつ歩を進めていると、代り映えしない状況に不意に変化が生じた。
通路内の温度が急激に下がったのだ。外気が大量に流入しているとしか考えられない。
足を速めた一行が、何回目かの折り返しを通過した時、前方に光が差し込んでいるのが確認出来た。
「全力だモン!」
そう言ってモモンモが荷車を押しだした。
「負けちゃダメッス!」
隣りで荷車を押していたファーメイが、負けじと荷車を押す。
荷車が二台並んでも充分な幅を持つ通路だったため、なみなみと黄金芋酒の詰まったタルを載せた荷車を、勾配がきつくなりだした通路で、どちらが早くてっぺんまで運べるかというレースが、いきなり開幕した。仲が良く、ノリの良い一同は、酸素が極端に薄い中、全力で荷車を引いていく。
二台が同時に光の中に飛び込んだときには、全員フラフラの状態になっていた。後先考えず、ノリで行動してしまうところは、まだまだ子供である。
凍りつきそうな寒さも、この時ばかりは心地よかった。
目を焼かれないようにするために、シャドウアイを装着してから光の中に飛び出した一同の目に、不思議な光景が広がっていた。
そこは職人が磨き上げたかのように、見事な半円形をした≪霊峰・咲耶≫の山頂の火口だった。照らす光を全て集めて空へ投げ返そうとしているかのように、まばゆい光に満ちている。
火口の縁と底との中間地点に開いた通路の口から、カーシュナーたちは火口の底に荷車を運んだ。ここならこれ以上滑り落ちる心配はない。
一同は荷車を置くと、フラフラだった先程の様子がウソのような勢いで、≪霊峰・咲耶≫の最も高い場所目指して駆けだした。
狭い縁に立ち、世界を見渡す。
ごみ捨て場のようなスラム街から、よくもここまで来たものだと、カーシュナーたちは目頭が熱くなる想いだった。
雲海が広がり、その先に、世界の丸みを映した南の大陸が広がっている。≪鉱山都市≫から歩んできた道のりが、立体地図でも見るように確認出来た。
足場の狭い火口の縁を、一列になってぐるりと回る。先程立った位置からちょうど180度移動した位置に立ち、世界を眺め渡す。深い青をした海と、霞の向こうに南の大陸第三の大陸の姿が見える。気のせいかもしれないが、一同の目には巨大な白い鳥が舞っているように見えた。
絶景を堪能した一同が振り向いたとき、火口の底に≪巨人≫がいた。
虚を突かれた一同が、足を滑らせ火口を転げ落ちていく。外側に落ちなかったのが不幸中の幸いだった。
見事に滑り落ちているため、自力で止まることは出来ない。早々に諦めた一同は、滑るに任せて体勢だけを整える。
自分に向かって突っ込んでくるカーシュナーたちを、≪巨人≫は頓着することなく眺めながら、黄金芋酒のタルを上手そうに口に運んでいた。
滑り落ちてきたカーシュナーたちは、あぐらをかいた巨木ほどもある脚に当たってようやく止まる。
≪巨人≫は黄金芋酒がよっぽど気に入ったのか、脚に当たったカーシュナーたちには一瞥もくれず、赤ら顔を真っ赤に染めてご満悦である。
圧倒的な強者の威はまったく変わらないが、戦いの気を一切まとっていないため、不思議と存在感が薄い。≪霊峰・咲耶≫と一体化しているようなイメージだ。
黄金芋酒を一タル空けると、左の手で新しいタルを掴み、空いた右手のひらを上にして、カーシュナーたちへと差し出した。
カーシュナーが迷わず差し出された巨大な手の指の一本に手を掛ける。つられてハンナマリーたちも手を載せる。
《よくここまでたどり着いた。新しき人々よ》
言葉が、骨を伝わり頭蓋を振動させたかのような感覚で伝わり、頭の芯に響く。
驚いて手を放す一同に、カーシュナーが手を戻すように視線でうながす。
《≪不死の心臓≫を譲ってくれたこと感謝する》
「!!!! なんで言葉がわかるんッスか!!」
不自然な事実に気がついたファーメイが、驚いて大声をあげる。
これを聞いた≪巨人≫が大笑いする。
《ずいぶんと賑やかな者がいるようだな》
「ファー、仮にも王立古生物書士隊の代表なんだから、落ち着けよ。オレたちまで恥ずかしいだろ」
リドリーに注意され、ファーメイが≪巨人≫にペコペコ頭を下げる。
《かまわんよ。ここでは君たちは寒かろう。場所を移すとしようか。ついてきなさい》
≪巨人≫はそう言うと立ち上がり、少し離れた場所を巨大な手を使って猛烈な勢いで掘り返した。つるりとした平らな地面が姿を現す。そこに≪巨人≫が手を触れると地面が引き戸のように横に流れて開き、登ってくるときに使用した通路よりもはるかに整った通路が現れた。
≪巨人≫の手招きに応じ、カーシュナーたちは荷車を引いて後に続く。
身の丈20メートルを超える≪巨人≫にはさすがに窮屈なようだが、天井は高く、≪鉱山都市≫の坑道天井部分にあった発光物が天井一面に塗られているようで、中は昼間のように明るかった。
いきなりモモンモが≪巨人≫に取りつき、毛足の長い体毛を伝ってスルスルと登って行く。
止めることも出来ず、一同が呆気に取られていると、モモンモは肩まで登り、そこに座り込む。
これには≪巨人≫も驚いたようで、黒目ばかりの目を大きく見開いている。
磨き上げた黒曜石のような瞳にお面姿を映しながら、モモンモは、
「乗せてってくれだモン!」
と言って気安く片手を上げた。
驚きの去った≪巨人≫がゲラゲラ笑う。
壁面に反響し、クォマの爆音咆哮並の威力になる。
あまりに笑い声が大きかったため、モモンモが弾き飛ばされて肩から落ちる。
これを大きな掌で受け止めた≪巨人≫は、モモンモを肩に戻してやった。
「びっくりしたモン!」
お面越しでもわかるくらい、モモンモは慌てていた。
黒い瞳がモモンモをじっと見据える。
《君も重すぎる悲しみを乗り越えてきたようだな。優しい手に支えられ、その小さな手にやさしさを持って支えている》
「おっ! 手をつながなくてもおしゃべり出来るモン!」
モモンモが、声の響く頭に手をやる。
《先程の接触で、君たちの個別の生態周波数を確認した。以降は接触なしでも念話(ネンワ)は可能だ》
この声はモモンモだけでなく、全員の頭に響く。
「この会話はどうやって成立しているのですか?」
カーシュナーが基本的な疑問を口にする。
《正確には会話ではないのだ。発しようとする意志に付属する思考を伝達し、互いの脳内に思考が達すると、思考をその頭脳の持ち主の記憶から、伝達された思考を表現しうる言葉、映像、体験などを選び出し、変換しているのだ》
「ということは、人によってそれぞれ異なる表現で伝わっている可能性もあるわけですか?」
《君はずいぶんと聡いな。まさしく君が例えた通りで、ここにいる全ての者が、それぞれ異なる文化圏で育ち、異なる言語を話すとしても、変換可能な知識、記憶等があれば、意志の疎通は可能なのだ。逆に、用いる言語が同じでも、生まれ育った環境、地位、財力、権力、教育、一個の人間を形成する要素が大きく異なる場合は、まったく変換できない場合もある》
「王族や貴族には、私たち難民が流した血と涙の味は理解できないってのといっしょだね」
ハンナマリーが憤慨混じりに言う。
《それもまた真実と言えよう。支配階級にある者に、隷属を強要される者の痛みは決して理解出来はしないだろう》
「それにしても、ずいぶんと便利だな。どうやってるんですか?」
リドリーが、慣れない敬語で質問する。
《君たちにもいくらかの≪竜大戦≫の知識があるようだな。これは龍と戦うための≪使役竜≫(シエキリュウ)や≪使役獣≫(シエキジュウ)を操るための技術なのだ》
「これがあれば通訳いらずだね」
ハンナマリーが感心する。
《それがそうでもないのだ。この技術を通訳代わりに用いたりすると、発するつもりのなかった思考まで、ときには相手に伝わってしまうことがあるのだ》
「ウソがつけない」
《一概にそうとは言い切れないのだが、怒りや恨み、嫉妬や後悔など、強い感情は、当人は抑えているつもりでも伝わってしまうことが多いのだ。これでは一般人同士のやり取りであれば、最悪でも個人間の刃傷沙汰ですむが、これが国家レベルになると戦争に発展しかない》
「なるほど」
《もっとも、≪竜大戦≫などという世界を滅ぼす大戦争に用いられている時点で、たいして意味のない制限であったがな》
≪巨人≫の思念に皮肉な色が混じる。
「その技術はまだ残っているんスか?」
《それに応えることは出来ない。≪造竜技術≫につながる可能性があるものは、どんな些細なものも、後世に伝えることは許されていないのだ》
「なるほど! それが聞けただけで充分ッス! ボクが所属している王立古生物書士隊にこんな言葉があるッス! 『好奇心は道を歩ませる一歩となり、強すぎる好奇心は道を踏み外させる二歩目となる』 ボクも≪造竜技術≫なんかにつながるような情報はほしくないッス!」
「おおっ! よく余計な二歩目を踏み出すファーにしちゃあ良い事言った!」
「でしょ~。……はっ! 全然褒められてなかったッス!」
憤慨するファーメイに一同大笑いし、≪巨人≫も音量を抑えて笑った。
「話は変わりますが、ボクたちは≪鉱山都市≫で≪竜戦士≫の外甲殻に書き込まれた情報が、あなたの手によるものではないかと考えて≪霊峰・咲耶≫に来たんです」
カーシュナーが本題に入る。
《なるほど、≪鉱山都市≫と名付けたか。確かに、かつてはその名の通りの活気に満ちた都市国家であった。まさかまだ崩れもせずに残っていたとはな。ましてやあの駄文が発見されるとは、思いもよらなんだ》
≪巨人≫は過去を見つめる視線を天井に投げた。
「発見された文献では、あなたが人体実験をするまでの記録しか記されていませんでした。あの後、どんなことが≪鉱山都市≫で起こったのですか?」
《すまん。実は人体実験後の記憶がないのだ。はっきりと意識を取り戻したとき、私は巨大な龍と戦っている最中だった。そこがどこかもわからず、また、どれ程の時間が過ぎていたのかもわからなんだ。始めは実験が失敗し、私は単なる≪使役獣≫として、≪獣戦士≫(ジュウセンシ)にでも改造されて戦線に投入されたのかと考えた》
≪巨人≫はそこまで話すと、目の前に現れた大きな扉に、火口で通路の入口を開いた時と同様手を触れた。巨大な扉が音もなく滑るように壁の中に収納される。
「これだけでもすごい技術」
ジュザが感心する。
《入ってくれ》
先に入った≪巨人≫が一同をうながす。
そこには、なんらかの動力炉とおぼしき設備が無数に並び、いまも低い振動音を発して稼働していた。
全員あまりの光景に声も出ない。ただただ神話級の世界に存在したかつての超文明の遺産を眺めた。
「こ、こんなもの、私らに見せていいのかい! さっきまずいみたいなこと言ってたじゃないか!」
ハンナマリーが慌てて問い詰める。
《問題ない。当時の最先端技術を理解した技術者でもない限り、理解することは出来ない。私ですら技術的なことはほとんどわからないからな》
「確かに、すごいってことしかわかんないッス!」
《それに、当時と並ぶだけの技術力がない限り、ここに入ることは出来ないのだ》
「なるほどね。まさか帰さないつもりかと疑って悪かったね」
《気にするな。君と他の3人は、危機的状況に備える本能が発達している。それ相応の苦境を乗り越えたのであろう。疑うのはむしろ当然だ。私の配慮が足りなかった。申し訳ない》
≪巨人≫の言葉に、珍しくハンナマリーが恐縮する。
《ここは空調が整備されている。ここで話そう》
≪巨人≫はそう言うと、その場に座り込んだ。3人の獣人がすかさず黄金芋酒入りのタルを運ぶ。
「ど、どうぞだアン!」
クォマがビビりながら黄金芋酒を勧める。ヂヴァもそうだが、恐れているというより、神を相手にしているかのように畏れているのだ。
《ありがとう。テチッチ族の少年よ》
≪巨人≫に礼を言われ、クォマは照れてモジモジする。
「お口に合うかわからニャいけど、幻獣チーズもどうぞだニャン」
酒の肴にと、ヂヴァが念のために持ってきたつまみを差し出す。
≪巨人≫は巨大な指で器用にチーズをつまむと巨大な口に放り込んだ。かなり気に入ったらしく、表情を崩してヂヴァに礼を言う。ヂヴァも普段のクールさなど見る影もなく、照れくさそうにニヤニヤしていた。
《話がそれてしまったな。私が人体実験後に、時間を置いて自我を取り戻したことは、完全ではないが、実験の成功を意味した。私は目の前の龍との戦いを放棄し、≪鉱山都市≫へと戻る道を探した。それと同時に、戦闘を放棄できた段階で、私は≪使役獣≫に改造されていないことがわかった。≪使役獣≫は指示された戦闘を、戦況がどれほど不利であったとしても、新たな指示がない限り放棄して撤退することは出来ないからだ》
≪巨人≫はそこで一息つくと、黄金芋酒をグイッとあおった。実際にしゃべっているわけではないのでのどが渇くわけではないのだが、人間だった当時の習いが出たのであろう。
《私は実験が失敗と判断され、娘が処分されてしまったのではないかと考えおおいに焦った。現在位置を知るのに手間取ったが、別大陸ではなかったおかげで私はなんとか≪鉱山都市≫にたどり着くことが出来た。だが、私がたどり着いたときには≪鉱山都市≫はすでに滅んだ後だった。私は娘がどうなったかどうしても確認したくて都市に入った。そこには我が物顔でのし歩くモンスターたちがたむろし、私の行く手を遮った。単なる科学者でしかなかった私だが、素材とした獣の本能がモンスターの群れを退けてくれた。それはかつての≪造獣≫など及びもつかない、≪造竜≫すらも凌ぐ驚異的な強さだった》
《私は血まみれの手で瓦礫を取り除き、娘が安置されていた保存槽のもとへ向かった。当然と言えば当然だが、保存槽は空で、隣りに安置していた娘のペットの≪造獣≫の姿もなかった》
《世界は≪竜大戦≫の真っただ中だった。私は他国の造竜技術者に捕らえられることを恐れ、≪竜大戦≫の終結まで身を隠すことにした。それからはあてもなく各地を彷徨った。しかし、それが無用に各エリアを支配するモンスターとの争いを招くことに気づいた私は、安住の地を求めた》
《この地は≪龍脈≫の真上にあり、大陸に無数に存在していた各国家にエネルギー資源を供給する≪世界共有基地≫だった。大陸の心臓部とも言えるこの≪霊峰・咲耶≫は、当然その防衛機能も高く、幾度も古龍の襲撃を退けた。だがある日、空を覆うほどの巨大な白銀の龍が現れ、人類の最後の抵抗を粉砕した》
「すいません。話の腰を折って申し訳ないんですが、《龍脈》って何なんですか?」
カーシュナーが申し訳なさそうに口を挟む。
《我らが暮すこの世界は、一個の巨大な生物であると言える。深く傷つけばその活動をやめ、地上に生きる全ての生命と共に死滅してしまう。龍脈とは、世界の生命活動を支える力の流れの事なのだ。人間に例えると、血管とその中を流れる血液のようなものだ。《龍脈》は世界の数か所で合流し、力の集積地といえる≪力場≫を形成する。この≪霊峰・咲耶≫は、世界に数か所しかない≪力場≫の一つなのだ》
この説明に、一同はあっけに取られる。話のスケールが大き過ぎるのだ。
≪巨人≫は一同が大まかにではあるが《龍脈》の意味を理解したと察し、話を元に戻した。
《人類が滅びた≪霊峰・咲耶≫を、私は安住の地とすることにした。もっとも、もはや他国の造竜技術者に追われる心配のなくなった世界で、人でもなく、モンスターでもない、滅びた文明の遺物にどんな安らぎがあるのかと己を笑ったがな》
≪巨人≫の思念に、深い苦みと寂寥がにじむ。
《どれ程の歳月が過ぎたか、ある日、人類に終焉をもたらした白銀の龍が≪霊峰・咲耶≫を訪れた。私は終わりが訪れたと歓喜した。≪不死の心臓≫を組み込まれたこの身体に死をもたらすことは、私には不可能だったからだ。しかし、死という永遠の安らぎは、私にもたらされることはなかった。白銀の龍が私に与えてくれたのは、意外なことに、ある一つの使命だった》
《私は実験の名目で、多くのモンスターを殺してきた。そこに人らしく悔いる心も、罪の意識もなくだ。その罪の深さを、いまの私は知識として理解は出来ても、余りにも自らが掘り返してきた罪が深すぎて、痛みを感じることが出来ない。どうしようもなく罪深い存在なのだ。にもかかわらず、白銀の龍は私の罪を許し、人類が残した≪竜大戦≫最大の遺物である人工の≪不死の心臓≫の回収を命じた。同時に、もしこれから先の未来において、再び人類が成長し、≪竜大戦≫の名残を求めた時、これを阻止するように命じられた。手段は私に任せると言ってな》
《その中で一つだけ条件を付けられた。≪霊峰・咲耶≫を決して離れてはならないという条件だ。これは単純に、私が世界を歩けばその地のモンスターとの争いが避けられないからだ。これ以上の殺生は、同じ命を持つものとして許されない所業だと、私自身も考えていたことだった》
《最後に白銀の龍は言った。『全ての罪の代価が支払われたとき、お前には想像もしていなかった報いが与えられるであろう』と、私は言った『時の終わりまで務めたとしても、私の罪が贖われることはないだろう』と、もし、本当にそんなことがあるとしたらだが、白銀の龍はその時微笑み、去り際に言葉を残した。『たとえそれが時の終わりまでかかろうとも、そなたはなさねばならぬ』と――。》
《以来私は≪霊峰・咲耶≫で≪不死の心臓≫を回収し続けているというわけだ》
長い話の間に、≪巨人≫は持参した黄金芋酒のタルを半分空けていた。
「成長した人類が、いま≪竜大戦≫の記憶を求めてここにいます。あなたはどの様に阻止なさるおつもりですか?」
カーシュナーが笑顔で尋ねる。戦いの可能性を一切考慮していない笑顔だ。
≪巨人≫の黒い瞳がゆるく和む。カーシュナーの笑顔は古代文明の≪巨人≫さえも篭絡してみせたようだ。
《中腹での≪煉狼龍≫ラヴァミアキスとの戦いを見させてもらった。君たちが命を軽んじる力を求めるとは考えられない。かつての私が持ち得なかった命に対する敬意が、あの戦いにはあった。だから、招いた。記憶がほしいというのならいくらでも与えよう。そして、≪竜大戦≫の記憶を警句と共に新しき人々へと伝えてほしい。白銀の龍と私の願いは、≪竜大戦≫を再現させないことなのだからな》
この言葉に全員が笑顔になる。想像していた以上にとんでもない存在から見込まれたという苦笑も若干混じっている。
「ここにいて≪不死の心臓≫を全部回収できるのかい? 拾い残しが出たら悪用されんじゃないのかい?」
ハンナマリーが疑問を口にする。
《後期型の≪造竜≫と≪造獣≫には人工≪不死の心臓≫が搭載されていたからな。世界各地にばら撒かれてしまった。≪不死の心臓≫は古龍の力をもってしても破壊することは出来ん。いまだにかなりの数が残されているはずだ。それを考えれば確かにここにいて私一人で処分しきることは不可能だ。だが、この任務に就いている者はおそらく私一人ではないと、私は考えている。あの白銀の龍がそんな穴だらけの計画を立てるとは考えられないからな》
「ちなみに、古龍ですら破壊することが出来ない≪不死の心臓≫を、どうやって処分しているんですか?」
《龍脈へ投じる。それで充分なのだ。始原の力は全てを生み出し、全てを無に帰せしめる。過ちで滅んだ文明は、原始へ帰るのだ》
「一人でさみしくはないのか?」
ジュザが不満げに尋ねる。≪巨人≫の過去の罪とその報いが現在の状況だということは理解したが、これではあまりにも課せられた罪が重すぎる。無間地獄と何も変わらない。≪竜大戦≫が生み出した罪はあまりにも多いが、この≪巨人≫が一人で始めたことではない。最後の生き残りだからといって、当時の人々の罪を一身に背負わせるのは間違いだ。
《心配はない。研究に没頭し始めたころから、私の感情は乏しくなっていたのだ。でなくてこの様な過ちを犯しようはずもない。だが、今日君たちと会うことが出来て、楽しいという感情を思い出すことが出来た。感謝する》
「…難しい話はこのくらいでいいんじゃねえか? 楽しんでくれてんなら、後は思い切りオレらも楽しもうぜ!」
リドリーが提案する。
「そうだね。宴会にしよう!」
カーシュナーが歓声を上げる。
「ハンナ、音頭頼む」
ジュザも珍しく、つり上がった細い目の目じりを下げる。≪巨人≫の純粋な喜びが伝播したのだ。
アイテムポーチとは別に持ち込んだそれぞれのリュックから、食料と飲み物が取り出され、乾杯の準備が整う。≪巨人≫も新しい黄金芋酒のタルの口を開ける。
「≪巨人≫の旦那と私たちの今日の出会いと、南の大陸、第一の大陸での全クエスト終了を祝って、乾杯!!」
「乾杯!!」
《乾杯!!》
モモンモが踊り、カーシュナーが舞う。クォマが歌い、ヂヴァが笛を吹き鳴らす。
≪竜大戦≫に関する謎は、まだほんの一部が解明されたに過ぎない。しかし、それは竜人族が長い年月をかけて求めても叶わなかった古代の歴史の1ページだった。
カーシュナーたちは、なんの欲もなく、ただ、新たに得た一人の友人との宴を、心ゆくまで楽しんだのであった――。