冒険者代用品   作:小名掘 天牙

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前話ではこのような作品にご感想を下さり誠にありがとうございました。
今話は完全に趣味全開の【禁則事項】回となります。
楽しんでいただけましたら幸いです。


第弐話 昇天

「む、あれはなんじゃ?」

 

「大蚯蚓。下級妖魔の一種で、魔獣鉱脈の土地を肥えさせる性質を持ってるから、基本的には益虫扱いで狩られないまま放置されることが多いかな」

 

「あれは?」

 

「あれは小鬼。妖魔の中でも特に力が弱い代わりに数が多いのと、生物的な試行錯誤が激しいからか、亜種や変異種がやたらと多いんだよね。襲ってくるときは基本的に群れだから、単純な強い弱いで判断しちゃだめなやつ」

 

「では、あれは?」

 

「ああ、あれは粘菌だね。基本打撃や斬撃が効かないから、火薬類を持っていなくて呪術が使えない場合は逃げ一択の妖魔。脚は遅いから、それだけで避けられるんだけど、時々細い通路をびっしり埋め尽くしてることがあるから、そういう時は結構厄介なやつ」

 

 この日の魔獣鉱脈への潜航はいつになく多い会話から始まった。

 理由は概ね隣を歩く國臣くんで、本人曰く初めて入った魔獣鉱脈自体が物珍しいのか、先程からキョロキョロと忙しなく辺りを見回している。その紅い視線の先には概ね妖魔と冒険者がいて、まだ比較的表層ということもあって人通りもかなり多い分、至る所で戦端が開かれている。

 

「しかし……」

 

 一通り冒険者と妖魔の対峙する姿を見回した國臣くんが視線を戻してふと不思議そうに小首を傾げた。

 

「妖魔の種類も雑多じゃが、冒険者の種類も妙に雑多なように感じるのじゃが、わしの気のせいか?」

 

「ああ……」

 

國臣くんの言葉に、ぼくは直ぐに答えへと思い至る。

 

「表層の冒険者は主に二種類に大別されるんだけど、たぶん國臣くんの疑問はそのせいだろうね」

 

「ふむ?」

 

ぼくがそう言うと、國臣くんは興味ありげにこっちを見上げてくる。そうだね……

 

「まず、数が多い錆刀や錆槍を装備している人達は駆け出しの冒険者かな。基本、田舎から出てきたばかりだし、金銭も潤沢じゃないから、どうしても武器や防具の類が中古品や傷んだものになりがち」

 

「ふむふむ……」

 

ぼくの説明に、こくこくと頷きながら、さっと視線を巡らせる國臣くん。そしてすぐに得心がいったのか、「ふむ」ともう一つ大きく頷く。

 

「で、少数だけど常駐しているのが、元が一線級で今は半ば引退しているお爺さん達。装備が良いのも最前線に居た時にそういう装備を購入していたからで、体力が落ちた今でも当時の経験があるから、表層くらいなら潜れるし、何なら時々勇み足になっちゃう駆け出しの冒険者の人達なんかを遠回しにだけど助けたりなんかもしているね」

 

説明しながら、鉱脈内に油断なく視線を走らせているお爺さんの一人を指さすと、丁度出過ぎて縦長になった冒険者の一団を横殴りにしようとしていた小鬼の群に鋭く光る名刀を走らせて、妖魔の奇襲を根絶やしにしているところだった。

 

「つまり、若くて襤褸い装備の奴らは歓楽街に踏み入ったばかりの童貞小僧どもで、それを守ろうとするご老人達は年季が開けて場末の茶屋や酒場で酌をするようになった昔馴染みのところへ入り浸る()という訳じゃな」

 

「近いけれど言い方」

 

経験則から出た言葉ではあるんだろうけれど、実にらしい言いぐさに突っ込みを入れると、國臣くんは何故か嬉しそうに「くかかっ」と笑うのだった。

 

「ふむ、それではせっかくじゃし、そんな童貞小僧どもに少しだけ”おまけ”でもしてやろうかの」

 

そう言って、國臣くんはにんまりと人の悪い満面の笑みを浮かべると、上着の裾をツッ……とやけに色っぽい仕草で引き上げて、洋袴越しに股間で怒張する巨大な自分のそれを見せ付けながら、誰へともなしに口付けを投げる様な仕草を見せる。……どうやら、さっきから自分に向けられる多分に(・・・)興味ありげな視線に國臣くんも気付いていたらしい。……まあ、長期間魔獣鉱脈に潜り込む冒険団の中にはそういう人(・・・・・)を同行させる例も無いわけじゃないんだけど、流石にこの層の人達からしたらちょっと珍しいか。唯一心当たりがある老冒険者の人達だけがそんな國臣くんと、國臣くんに心臓を撃ち抜かれて真っ赤になる新人冒険者、そして何故かぼくを見比べて微苦笑を浮かべている。いや、なんでさ?

 

(……ま、いっか)

 

別に、何か不利になるわけでもないし。

 周囲の冒険者の人達の好機の視線に晒されながらも、表層では特にすることも無いぼく達はそろそろ歩みを進めて、淫魔の住まう中層へと急ぐことにする。

 

(それにしても……)

 

一応、足元に注意しながら、ぼくの誘導に従って歩く國臣くんを見ながら、ぼくはふとある疑問を抱く。

 しなを作り、表情を仕上げればあどけなくも蠱惑的にもなれる國臣くんだけど……、

 

(この見た目でガチガチのタチ(・・)だって気付いていないのかな? ……いないんだろうなあ)

 

正直、近くに居るぼくが一番見た目によらないと思っちゃってるし。

 

「む? どうかしたのか?」

 

「んーん、なんでも」

 

「そうか」

 

「ならば()いが」と呟いた國臣くんの両目が中層に向かう都度にギラギラとした獣欲の色を帯びていき、次第に吐息が粘り付くように熱を持ち始めていることに気付くのも、多分ぼくだけだろう。股座に出来た天幕がさっきの挑発混じりの”無料奉仕”に比べて明らかに肥大していることにも、辛抱堪らなさそうに内股になっているのにも。

 

(こんな人の間に生まれた淫魔みたいな人間に篭絡されたら最後、お尻の穴が酷いことになっちゃうんだろうなあ……)

 

「む? どうかしたのか?」

 

國臣くんの”()”という人達のことを思い浮かべながら、埒も無いことを考えていると、目敏くそれに気付いた國臣くんが隣でこてんと頭を横に倒す。

 

「いや、なんでもないよ」

 

そんな國臣くんに肩を竦めながら、ぼくも歩を進める。……うん、

 

「そろそろ気を引き締めて。ここから先が中層だから」

 

「おおっ!」

 

ぼくが注意をすると、両眼を期待に輝かせて、喜色の笑みを浮かべる國臣くん。表層に比べて格段に危ないのは本当なんだけどな……、

 

(……ま、いっか)

 

隣で「むんっ!」と気合を入れ直す國臣くんを見て、ぼくは軽く全身の筋肉を揺らし解したのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 で。雑多な表層を通り抜けて、淫魔が住まう鉱脈中層へと差し掛かって来た訳なんだけど、

 

「見つかったか?」

 

「全然」

 

「……そろそろ見つからんか?」

 

「気配も無いけど」

 

「…………もういいじゃろ!?」

 

「だから、まだだって」

 

中層に入って十五分ほどしたあたりから、國臣くんがすっかりこの調子だった。まあ、鉱脈に入る前から既に二つの意味で期待に膨らませてたわけだから仕方ない気もするけれど……、

 

「なら、せめて尻を貸して「殺すよ?」

 

息遣いも荒く、両眼を爛々とさせて袖を掴まれると、流石に色々な意味で危機を感じるんだけど。

 ぼくが手刀を落とすと流石に一瞬正気に戻ったらしく、「あうぅ……」と頭を抱えながらも何も言わずに隣を付いてくる。けれど、それも十数秒のことで、すぐに吐息が早くなり、発情した野犬の様なはっ……はっ……という浅く速い息遣いが聞こえてくる。

 

(性欲が強いと大変なんだね……)

 

そんな國臣くんを見て、ぼくは素直にそう思った。いや、ぼくも普通に男だし、そういうのが分からないんじゃないんだけど、なんて言うか、國臣くんはそういうのとは格が違うというか……こんな容姿なのにね。

 

(しかしそうなると、國臣くんが我慢出来ているうちに早く淫魔を見付けないとなあ……正直、我慢が限界になった國臣くんに飛び掛かられたら状況によっては結構危ない可能性もあるし)

 

元々の期待もあるにせよ、抑えが利かなくなりつつある國臣くんを見て、ぼくは改めて周囲の鉱脈を見回した。

 淫魔という存在はそれ自体の戦闘力もあって海鶴の鉱脈の中では中層に生息をしているが、その需要に対する生息数という意味ではかなり希少な妖魔に分類される。元々の数も中層の妖魔の中では比較的少ない方だしね。と、

 

「むっ!?」

 

中々見つからない淫魔を求めて、半ば中層を虱潰しにしていた最中、隣で俯き気味にとうとう譫言まで呟き出していた國臣くんが、不意にカッと両目を見開いてバッと顔を上げた。

 

「どうかした?」

 

そんな突然の奇行……既に大分奇行に走っていたけど、それらとは毛色の違う強勢的な奇行に、ぼくは首を傾げる。

 

「……いる」

 

「へ?」

 

果たして返って来た、ぼそりと吐き出される怨嗟の様な声に、ぼくは思わず間抜けな声で聞き返した。

 

「いるのじゃっ!」

 

「あ、ちょっと???」

 

けれど、そんなぼくの疑問符は既に耳に入っていないのか、國臣くんは制止した手も振り切って、直前まで睨み付けていた鉱脈内の坑道の一つへと、一切の迷いも無く駆け出してしまったのだった。ふむ……

 

「仕方ないか」

 

正直、このまま死んだとしても依頼主の独断と先行になるから、あんまり気にする必要も無いんだけど、良くも悪くもこう明け透けな人だと流石にこれで事故死は目覚めが良くない。

 そう考えて、フリッフリッと揺れる國臣くんの白い尻尾を追いかけてたわけだけど……、

 

「見つけたぞ!!!」

 

「嘘だろ???」

 

國臣くんが突っ込んだ坑道の先。その突き当りにいたのは、白い肌に局部を強調する様な特徴的な紋様を宿した美貌の妖魔……海鶴魔獣鉱脈の淫魔の姿で間違いなかった。

 

「あれじゃよな? あれで合っておるじゃろ? 合っておるじゃろなっ!?」

 

「あ、うん」

 

こっちに掴み掛らんばかりの國臣くんの剣幕に思わず首を縦に振る。いや、淫魔なのは間違いないんだけど……、

 

(どういう直感で察知したんだろうね、これ……)

 

正直、淫魔の気配以前に、そこかしこで妖魔が跋扈しているせいで、その中からこの妖魔の気配だけを的確に抜き取るなんて、熟練の冒険者でもまず不可能な所業なんだけど……。

 

(旺盛極まった陰間の性欲恐るべし……)

 

どんな方向性であれ突出した能力は、何かしらの使い道があるのが常だけど、まさかこんなところでこんな能力が発揮されるのを目の当たりにすることになるなんてね……。

 そんな事を考えながらも、ぼくは今にも淫魔に躍りかかろうとする國臣くんを一旦押し留める。既に表層にいた時の倍ほどに膨らんだ股間の天幕の先に薄っすらと染みを作った國臣くんが血走った目を向けてくるけど、このまま始めちゃうと手痛い反撃を食らうから、もうちょっとだけ辛抱してね。

 鉱脈の地べたに座り込んで、驚愕と怯えからか、微かに身体を震わせている黒い御髪の淫魔。横髪に刺した桃色の花弁が特徴的なその前で、ぼくは腰を落としたまま手早く刀の鯉口を切る。そして、

 

「んっ」

 

その淫魔を囲う虚空。先人が残した灯りも疎らな中空に向けて、都合三度、刀を振るった。

 

「「ぎゃっ!?」」

 

「かぽっ!?」

 

「………」

 

(上がった悲鳴は三つ。けど、気配は四つか……)

 

手近なところに掛けてあった燭台を取って、斬り捨てた気配の方に明かりを向けてみると、そこには一刀が貫通したらしく瀕死となった二匹の鉱脈野犬と、天頂から両断された細い四肢のある真竹の妖魔。そして、

 

「粘菌か……」

 

その三匹をぐるりと囲うようにしてぶくりと泡を立てる、大きな水溜りの姿があった。

 

「これは……」

 

突如顕になった数匹の妖魔の姿に、後ろからひょっこりと顔を出した國臣くんが驚いたように目を見開く。

 

(まあ、淫魔の生態を知らなきゃ、そういう反応にもなるか)

 

さっきは性欲の力もあって、謎の察知能力を発揮した國臣くんだったけど、流石にそういう対象として見れない妖魔に対しては勘の鋭さは発揮されないらしい。……見れないよね?

 

「なんて言うのかな。番とも違うし、強いて言うなら……」

 

「言うなら?」

 

「親衛隊……かな?」

 

一瞬脳裏を過った疑念を一旦置いておいて、個人的に割合しっくりくる、この場に転がる妖魔の躯の正体を口にしてみる。

 

「親衛隊じゃと?」

 

「そ」

 

訝るように片眉を持ち上げる國臣くんに、ぼくは軽く淫魔の生態について説明する。

 

「淫魔は鉱脈を訪れた冒険者の精を搾り殺す性質から、一般には甘い美貌で男を誘って、その手管で骨抜きにする女の妖魔という認識を持たれているけれど、実際には同族の雄も存在していて、その分布はほぼ均等。じゃあ、なんで雄の淫魔の存在があまり周知されていないのかというと、単純に美貌から敵愾心を持たれにくいということと、何よりも雌の淫魔と違って交合即死とならない性質から、一々騒ぎ立てられる事がまずないというのが大きいんだよね。そして、そんな雄の淫魔の存在以上にあまり知られていないのが、淫魔が率いる親衛隊の存在なんだ」

 

仲間の野犬や竹の妖魔を囲いながらすぶり……ずぶり……と触腕を伸ばそうとする粘菌から距離を取りながら、ぼくは刀を鞘に戻す。

 

「淫魔はその生態上、より多くの生物と交合することで自身の性技を磨こうとする性質と、身体を差し出すことで他の妖魔の庇護下に入ろうとする嗜好を持っているんだよ」

 

「つまり、こやつらが……」

 

「そーゆーこと」

 

口籠る國臣くんに、ぼくは首肯を返す。

 

「厳密には淫魔より力のある妖魔と無い妖魔の割合も半々くらいだし、何なら単に身体の相性が良かっただけの妖魔が群れを形成する場合も少なくないから、純粋に防衛機能のみの場合の方が少ないらしいけど、まあその辺は割愛で」

 

「なるほどのう……」

 

一通り説明を聞き終えると、心底納得がいったように頷いた。

 

「相分かった。つまり、こやつらはわしの穴兄弟というわけじゃな」

 

「さも当然のように、その発想に思い当たるという事実にドン引きだよ、この野郎」

 

かっかっかと大笑する國臣くんに手刀を落とすと、「ふぎゅっ!?」と踏まれた猫みたいな悲鳴を上げたくせに、何故か機嫌良さそうにニヤニヤとした意味ありげな視線を向けてくる。……いや、笑ってても分からないからね?

 

「……ま、いっか」

 

それよりも、さっさと仕事を終わらせないと。

 今だにけたけたと笑い転げている國臣くんを置いておいて、先に足元の淫魔の肩に手を掛ける。

 

「!?」

 

 さっと変わる淫魔の表情もまあ、追加で退けておいて……親衛隊の躯とは反対の方向へと、その淫魔の身体を放り投げる。

 

「!?!?!?!?!?!?」

 

途端、声にならない悲鳴を上げて飛んでいく淫魔。ごく低空の軌道を取らせたのもあって、蝙蝠のような翼で軌道修正して逃げ出すこともなく、目論見通り鉱脈の地べたに墜落する。

 

「!?」

 

ザッという砂利が軋む音を立てながら、その親衛隊との距離が十分に取れたのを確かめて、ぼくは改めて刀を抜くと、その刃先を皮の薄そうな淫魔の首筋へと突き付ける。

 

「これで、ぼくの仕事はほぼ完了だけど……」

 

余計な親衛隊は斬り捨てたし、残る一匹は多分足の遅い粘菌のみ。となると、後は國臣くんがどうするかだけだ。

 

「準備はいい?」

 

「ああ……」

 

状況を理解してか、情欲に瞳を濡らした國臣くんが不敵な笑みに口角を持ち上げる。

 

「生まれる前から出来ておるとも」

 

 その自信たっぷりの宣言の通り、洋袴の前袋に建てられた天幕はぱんぱんに張っていて、今この瞬間にも弾けそうになっているのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 自身の親衛隊を斬り捨てた刀を突き付けられて怯える淫魔を前に、國臣くんは刀を引くようにと目配せをしてくる。

 まあ、これ以上の身辺の保護はぼくの管轄じゃないから別にいいんだけど、本当に大丈夫?

 ぼくが念のため首を傾げるも、國臣くんは幼い容姿とは裏腹に、実に落ち着いた様子で首を縦に振る。まあ、國臣くん(依頼主)が問題無いと思うなら、これ以上ぼくがどうこう言うのも流石に野暮かな。

 指示通り刀を引くと、ほんの一瞬だけ毒気の無い微笑を浮かべる國臣くん。けれど、それは本当に一瞬のことで、即座に獣欲に駆られた雄の顔になると、刀刃から解放されてホッと胸を撫で下ろす淫魔の前で舌舐めずりをしながら、今にも張り裂けそうになった洋袴の前合わせにほっそりとした指を入れて、上から順に釦を外していくのだった。

プチリ……プチリ……と音が鳴るたび、留め具の拘束から解放された國臣くんの淫欲が、眼前の淫魔に喰らいつこうとでもするように、ミチリ……ミチリ……と柔肌を保護する薄布を引き裂かんばかりに怒張する。そして、最後の釦が外されたその瞬間、溜めに溜められた國臣くんの獣欲の塊がついにその全貌を顕にしたのだった。

 

 

 

 

それは”巨塔”だった

 

陰茎という種を撒くためだけの器官としてはあまりにも巨大

 

小柄な体躯に不釣り合いなそれ(・・)の頂は、臍部(さいぶ)を超えて水月にまで届こうしている

 

その巨大な男根を弓形になるまでそそり勃たせる血潮は、國臣くんの鼓動に合わせてかビクリ……ビクリ……と魔羅の肉柱へと纏わり付いた大小無数の血管を脈打たせていて

 

”巨塔”が今この瞬間にでも決壊してしまいそうなことすら知ったことかとガチガチのそこへ押し寄せようとしているように見える

 

過剰に充満した血潮によって赤黒く変色したそれは、凶暴な欲望を解放する瞬間を今か今かと待ち構える異様で醜悪な大蛇(おろち)のようにバックリの割れた口腔からぼたぼたと粘つく体液を滴らせている……

 

そんな、巨大で異様な塔だった

 

 

 

 

 まるで盛りのついた種馬か、西洋の悪魔から生えたとしか思えない巨根が、薄幸抻美少女と見紛う美貌の陰間の股座からいきり()つという異様な光景。

 

「!!!!」

 

そして、そんなどす黒く醜悪で淫靡な肉塊の威容に飲まれたように茫然と両目を見開く淫魔の顔面を、パンパンに詰め込まれた情欲と暴欲の肉塊がベタンッと音を立てて殴り付けたのだった。

 その瞬間、殴打の衝撃と強直の重量に押し潰された分厚い尿道の先からブビュッと透明な粘液が飛び散る。おびただしい量の國臣くんの先走り液に(かんばせ)を穢されて、ようやく妖魔は自身に向けられているのが情欲という言葉すら生ぬるい、暴力的な激情であることに気が付いたのだった。

 

「持て成さぬか、愚図が」

 

巨大な男根で殴られた瞬間、本能的になのか、怯えていたはずの表情の中に、一瞬だけとろんとした陶酔の様な表情を漏らした淫魔を見下しながら、その威容を見せ付けるようにねっとりとした手付きで、自分の分身をしごき上げる國臣くん。

 そんな國臣くんの所作に、淫魔はおずおずといった様子で坑道の内壁へと上体を預ける様にして仰向けになる。その間に、一応邪魔にならないように、ぼくは國臣くん達と粘菌の妖魔の丁度中間にあたる位置に移動する。まあ、これなら最悪いつでも國臣くんを連れて逃げられるしね。流石に明日の朝までやってもいない限りは粘菌が國臣くんに到達するなんてことはないだろうけど念のため。……本当にやってないよね?

 ぼくの一抹の不安を他所に、二人の行為は進んでいく。両足を蟹股にして広げた淫魔が、その股間でじゅくじゅくと熟れる花弁を開いて媚態を見せると、國臣くんは満足げに頷いて、躊躇なくそこに自分の物を宛がったのだった。

 

「っくぅ……。まさか、これほどの悦楽とはのぅ……」

 

一瞬の抵抗の末、ごぶりと音を立てながらも一息で最奥まで結合する一人と一匹。普通の人間のもの(・・)では、まず食いつくだけでも難儀しそうな國臣くんのそれを容易く呑み込み尽す淫魔。けれど、そのほっそりと括れていたはずの腹部にはぼっこりと不自然な膨らみが出来上がっている。

 

「……ゆくぞ!」

 

「!?!?!?!?!?!?」

 

そして、そんな宣言と共に、國臣くんの交合が開始される。素面ならあどけない美少女とも見紛う楚々とした美貌からは考えられない、百戦錬磨のタチ陰間の腰使い。その技はたった一突きで性欲の妖魔であるはずの淫魔を悶え狂わさせる。自分の下で身悶える淫魔を見下ろしながら、けれど國臣くんは知ったことかとでも言わんばかりに一切の躊躇も容赦も無く自身の腰を打ち付けていく。

 ぼごり、ぼごりと波打つ淫魔の腹部。まるで内臓という内臓をぐちゃぐちゃに掻き乱して蹂躙する様な絶え間ない抽送に、けれど組み敷かれた淫魔もまた次第に苦悶の悲鳴とは違う、熱の帯びた嬌声を上げ始める。

 

「天然物の淫魔の肉は至高の快楽じゃな。調教済みの養殖はおろか、自称名器の阿婆擦れにも、ただ快楽を満たすためだけに人類が生み出した業の結晶たるほと(・・)の形でも味わったことがないぞ!」

 

徐々に昂揚を帯びた國臣くんの声音が、次第に余裕が無くなっていくのを感じながら、ぼくはふと何の気なしに、交合する二人の方に目を向けた。

 

「……ん?」

 

一見何もないただの交合……そう見えたはずの光景に、ぼくの脳裏を過ったのはなぜか強い違和感だった。

 交わる二人に違和感はない。その所作や表情、細かに息遣いにも不審な点は見当たらない。それでも念のためと、揺れる國臣くんの純白の後ろ髪からゆっくりと視線を落としていって、とうとう二人の結合部に辿り着いた瞬間、その隙間から一筋の黒い線が零れ落ちたのだった。

 

(破瓜?)

 

こういった行為の中では別段珍しくも無い、というか誰でも通るはずのそれを捉えた瞬間、ぼくは刀を抜いて、國臣くんの方へと駆け出していた。

 

(やられた……)

 

初めに一歩を蹴ったのに遅れて脳裏を過ったのは、強い焦燥感だった。

 淫魔はその生態から、生まれながらにして異性を誘うために完成された肉体を有する。そして、その美貌と肉体をもって妖魔を誘い、骨抜きにし、ただただ自身に従う群れを形成する。この淫魔に従っていたのは粘菌を含め、四匹の妖魔。当然、これらの四匹は目の前の淫魔と肉体関係があるはず。いや、無いはずがない。なら……なぜ淫魔の女陰から破瓜の血が流れ落ちて?

 可能性は一つ。この淫魔の手管が凄まじく、交合すら経ずに妖魔を従えることができた可能性。けれど、これはない。いくら手練れとはいえ、ごく普通の人間でしかない國臣くんに良いように遊ばれているのでは、どう考えてもそこまでの力はない。

 もう一つの可能性。それは、この妖魔が、どう見てもただの淫魔にしか見えない妖魔が淫魔ではない別の何か(・・・・・・・・・・)の可能性だ。その正体は分からない。けれど、状況を鑑みれば後者の可能性がどう見ても高くなる。そして、仮にそれが真だとしたら……、

 

(この妖魔の能力は一体?)

 

ただ、交合相手を搾り殺す淫魔とは違う妖魔かもしれない。或いは淫魔ともこの状況とも無関係な妖魔かもしれない。けれど……

 

「!?」

 

一瞬重なった妖魔との視線。その双眸が微かに愉快そうな嘲笑を帯びた気がした。気がしただけかもしれなかった。けど、

 

「くっ!!」

 

「む? むおおおおおおおおおおっ!?!?!?!?」

 

突発的な勘に従って、夢中で交合を続けようとする國臣くんの小さな肩を掴んで、無理やり妖魔から引っぺがす。その瞬間、ボロンッと女陰から引き抜かれた陰茎の先端から、噴水の様に白い精が噴き出て、仄明かりに染められた鉱脈に白い虹を掛けるのを置いて、ぼくは右手に握った刀を絶叫していたはずの淫魔(・・)の首筋へと叩き付けていたのだった。

 

「!?」

 

そう、叩き付けていたはずだった。

 ぼくが振り抜いた切っ先が細い首筋の皮目を切り裂こうとしたその瞬間、目の前にいるはずの淫魔の抵抗がふっと宙に掛かった靄の様に掻き消えたのだった。

 まるですっぽ抜けたような感触に、宙を泳ぐ体を慌てて引き戻しながら振り向くと、いつの間にか絶え絶えだったはずの吐息や所作が平時の人間のそれと同じくなった妖魔が、実に愉快気な視線を、ぼく達の方に向けてきていた。

 

「……」

 

 僅かに細められた双眸。そこに浮かんでいたのは明らかな嘲笑の色だった。

 

(やっぱり、淫魔じゃない別の何か……「な、なああああああああああ!?!?!?」

 

刀の切っ先を向けながら、目の前の妖魔の隙を伺いつつ距離を測っていると、不意に國臣くんの悲鳴が緊張の糸の間に割って入って来たのだった。

 

「! くっ!」

 

一瞬、背後の絶叫に意識を奪われかけた瞬間、両眼を愉快そうに細めた妖魔の輪郭がぼやけ、徐々にその存在感どころか実態までもが薄く透明になっていく。

 咄嗟に一刀を見舞ってみたものの、当然というべきか、刀刃は妖魔の肉体を素通りして、ひゅんっという風鳴りだけが追いかけてきた時には、すっでにその存在は元から何も無かったかの様に僅かな痕跡すら残さず、この坑道から掻き消えてしまっていたのだった。

 

「…………ふぅ」

 

それでも僅かに残る奇襲の可能性を考えて構えをそのままにするものの、二瞬、三瞬という短い時間は、あの妖魔が完全にこの場から立ち去ったのだと確信するには十分すぎた。

 結局、まともに一太刀も入れられなかった刀を鞘に戻して振り返ったぼくが目にしたのは、

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

乱れた着衣も一切気にせず、茫然とした表情のまま一心不乱に自分の胸をふにふにと揉み続ける、一人の女の子の姿だった。というか、

 

 

純白でほつれ一つ無い艶やかな御髪

 

雪原を思わせる白い肌

 

その中心に二点色付く血色の双眸

 

 

……うん。

 

「えっと……國臣くん?」

 

身体的特徴を鑑みて、どう穿ってみてもそれしかありえない名前を口にしてみると、バッとこっちを振り返った九割國臣くんが絶望的な表情で「わ、わしの……」と呻きながらのろのろと立ち上がる。そして、

 

「わしの魔羅がのうなってしもうたあああああああああああああああああああ!!!!」

 

「うるさっ」

 

その渾身の絶叫がぼくの鼓膜を突き破り、鉱脈中層内の通路全域へと反響する。

 

「あー……まあ、そうだね?」

 

「他人事みたいに言うでない!!!」

 

きーんとなった両耳の塩梅を確かめながら相槌を打つと、涙目になった國臣くんが悲鳴混じりに掴み掛って来る。いや、まあ普通の男であるぼくでも悲鳴を上げたくなる状況で、ましてそれが國臣くん(性欲魔獣)なら余計にっていうのは分かるけどさ。

 

「二十年以上も連れ添ったのじゃぞ!?」

 

「待った……え?」

 

なんか、今割と衝撃的なことを聞いた気がするんだけど。

 

「なんじゃっ!?」

 

「いや、國臣くんって、ぼくより年上?」

 

小柄な体格以前に、黙っていればあどけない美童然とした容姿から、てっきり年下か高く見積もっても同い年くらいだと思ってたんだけど。

 

「わしが年上なのが気になるのか!?」

 

「気になるとはちょっと違うけど・・・・・」

 

なんていうか、凄い意外。

 

「ふんっならば今一度耳の穴をかっぽじって、その脳髄に叩き込むがよい!! わしの名は岩女山 國臣!! 数えで二十六!! 干支を二回り越えた、押しも押されぬ大和男児じゃ!!!」

 

「おー……」

 

直前の衝撃のせいか、或いは絶望の反動からか、妙な昂揚と共に薄めの胸を張って高らかに名乗りを上げる國臣くんを見下ろしながら、ぼくは思わず拍手を送る。

 

「っていうか、二十六ってぼくより大分年上じゃん」

 

そんなに離れてるとは……。ぼくが今十八だし、少なくとも八歳差?

 

「そこはほれ、普通の男よりも”潤い”を大事にしておるからの?」

 

そう言って、普段からの癖なのか悪戯っぽく腰をくねらせるんだけど、

 

「でも、その”潤い”を味わうための器官が無くなっちゃってるんだよね」

 

「……」

 

(あ、やば)

 

率直浮かんだ感想を口にした瞬間、國臣くんはビシリと硬直して、その顔を再び絶望に染めていく。

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

そうして、吐き出された二度目の絶叫をすんでのところで耳を塞いで防御する。……それでも結構うるさいけれど。

 

「魔羅が……魔羅が……わしの大事な魔羅が……わしの自慢の巨大な魔羅が……」

 

一頻り吠えて激情が引いたのか、今度は地べたに手を突いてさめざめと泣き始める國臣くん。一見、儚げで可憐な少女なんだけど、実際には淫魔を食いに来た二十六の野郎なんだよなあ……。

 

「ん? ……あー」

 

そんな國臣くんを見下ろしながら、同じ男として気持ちも分かるし、気の済むまで待とうかななんて思っていたけど、坑道の奥で微かに聞こえた物音に、その時間も無いことを悟る。

 

(っていうか、これだけ騒いでたら当然か。とはいえ、國臣くんはまだ立ち直るのには時間が掛かりそうだし)

 

「しょうがないか」

 

そんな計算を終えてから、ぼくは即座に座り込んだ國臣くんの細腰に手を回す。

 

「うぇっ?」

 

そして、羽の様にとはいかないけれど、二十六歳元男子とは思えないくらい軽い体躯を担ぎ上げると、困惑する國臣くんを右肩に乗せたまま、一気に鉱脈表層に続く通路へと走り出す。すると案の定、ぼくの背後の方でどどどどどっという無数の足音が響き始める。

 

(小鬼の変異種の群れあたりかな)

 

きーきーとした金切声と僅かに漂う糞尿臭。その辺から、そんな推測を立てながら、ぼくは表層へと登る天然の石段を、急ぎ駆け上ったのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 結局、ぼく達が転がる様にして魔獣鉱脈を出たのは丁度申二つといった頃合いだった。

 陽も大分傾きかけて、空が橙色に染まっているのを見ると、結構長い時間を交合に費やしていたんだなと妙な感心を覚える。っていうか、本当に底なしだね。

 そんな絶倫の精力を誇る國臣くんの方はといえば、ここまでの間に幾分気持ちが落ち着いたのか、軽く肩で息をしながらも、乱れた衣服を丁寧に整えている。さて、

 

「これからどうしよっか?」

 

「んむ?」

 

少し思案しながら首を捻ると、隣の國臣くんが不思議そうにこてんと頭を倒した。

 

「飯匙倩屋の主人に届出をして、解散ではないのか?」

 

「うん。手続きはそうなんだけどね……」

 

國臣くんの疑問に首肯しながら、ぼくは軽く蟀谷を揉む。

 

「呪術とか呪詛の類ならカカシ診療所かなーって」

 

「カカシ診療所?」

 

「うん、カカシ診療所」

 

どうやら、耳慣れない名前だったらしく、國臣くんが形の良い眉をひそめる。

 

「ほら、城下の南の方に下級士族とか平民向けの八犬館っていう藩校があるでしょ?」

 

「うむ。天楽坊にもよく来るぞ。教員の何人かはわしの客じゃ」

 

「……なんか、凄いことを聞いた気がするけれど、それは一旦置いておいて」

 

國臣くんの客ってことは、つまりそういうことじゃん。しかも何人か(・・・)って……うん、聞かなかったことにしとこう。これから言う“先生”がそういう趣味だったら反応に困るし。

 

「そこで薬草学を教えている先生が、学問の片手間にだけど収穫した薬草を使った診療所を開いているんだよ」

 

「ほう……」

 

ぼくの説明に、國臣くんは興味ありげに呟く。うん、どうやら心当たりは無いみたいだった。そんな事実に妙な安心を覚えながら、話を続ける。

 

「で、その先生なんだけど、薬草学以外にも呪術とか呪詛とかにも造詣が深いから、案外今回のことを相談してみても良いかなーって思ってさ」

 

「なるほどのう」

 

一通りの説明を聞き終えて、得心がいったように國臣くんはこくりと頷く。

 

「もし國臣くんの方で他に良い先生の心当たりがあるなら、そっちでも良いと思うけどさ」

 

「いや、わしの方は完全に伝手も心当たりも無かったゆえ、今の助言には感謝するぞ、紅夜よ」

 

そう言って、國臣くんはニカッと白い歯を見せる。

 

「歓楽街の方では病といえば性病じゃし、ただの風邪などは店の薬かせいぜいがあの辺りをうろついておる藪どもの見立てで済ませるくらいじゃからな。まあ、わしは生まれてこの方医者に掛かったこと自体が無いのじゃが」

 

「凄い健康だね」

 

“客に惚れる”、“子を孕む”の二つに加えて “性病に掛かる”が遊女の恥なんて言われてるけど、國臣くんはどうやらそういったものとは一切無縁らしい。抜群の精力も加味すれば、だからこんな年まで男娼をやっていられたんだなんて妙な納得をしてしまう。

 

「そういう訳じゃ。すまぬが案内してくれぬか?」

 

「外を出歩かぬわけではないのじゃが、如何せん藩校については不案内でのう」と首を傾げる國臣くんに「ん、りょーかい」と頷いて、一旦飯匙倩屋の方に足を向ける。

 

(しかし……)

 

今回の件、割と安請け合いしちゃったところがあるけれど、國臣くんの立場とか聞いた限りの得意客の顔触れを考えたら、結構な騒ぎになる可能性もあるんじゃないかな……。

 

(前途多難だなあ……)

 

「む? なんか言うたか?」

 

「んーん、何も」

 

首を傾げる國臣くんに肩を竦めて舗装された道を歩く。そろそろ店を開く準備を始めた歓楽街の前を忙しなく行き来するお姉さん達の影が、ぼく達の足元まで届いているのがやけに印象的だった。

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
TSヒロイン大好きマンの趣味全開な回でした。
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