冒険者代用品   作:小名掘 天牙

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先話はご感想ご評価誠にありがとうございました。
いつも、大変励みにさせていただいております。
今話も楽しんでいただけましたら幸いですm(_ _)m


第肆話 嬌乱艶目・黒槍酒

 下半身以外は美少女な二十六歳男性だった國臣くんが、下半身含めて美少女な二十六歳女性になった数日後のこと、

 

 

 

 

ぼくは魔獣鉱脈で鎖鎌を振り回していた。

 

 

 

 

「よっ」

 

 鎌の刃と反対側に付けられた分銅鎖。錆の浮いた中で、やや分銅に近いあたりにだけ浮いた強い光沢の部分を支点に、軽く遠心運動を加えていた鉄鎖を投擲する。

 暗い洞窟内をじゃっという擦過音が響き、ぼく含め四人の冒険団の鼻先に現れた、棍棒を握る大型の大鬼の頭蓋骨に硬い分銅が着弾する。

 

「ゔぅ!?」

 

棍棒の射程外からの不意打ちに困惑する鬼の右目が分銅の衝撃で眼孔からぶっと吐き出されて、視神経が繋がったまま、乱杭歯の突き出た口元でぶらんぶらんと揺れている。

 そして、左右の眼球が脳髄に送り込む情報の齟齬に、明らかな狼狽を見せる鬼を見て、他の三人が即座に踊りかかった。

 

「おらっ!!」

 

「くたばれ!!」

 

「死ねっ!!」

 

怒号とともに、鬼を引きずり倒す三人の手に握られているのは鍬や鎌をはじめとする錆びた農機具。二度三度とそれらを振り下ろすものの、武器の質のせいか、中々鬼に留めを刺せないでいる。と、

 

「離れてください」

 

そんな三人を遠巻きにしていたぼくは、ふと感じた気配に声を掛けると、同時に手繰り直していた分銅を今度は直線ではなく、やや癖をつけて投擲する。

 僅かに弧を描いて、乱れた軌道で伸展する鉄の鎖。それが、興奮していた三名の冒険者の間を縫って、振り抜かれ掛けていた鬼の太い棍棒の幹にじゃらりと上手く絡み付く。

 

「先に武器を狙ってください」

 

次いで、坑道に反響したぼくの声に、前の三人は慌てて鬼の手元に群がり、樫の木の幹の様な棍棒を握る根菜切れを思わせる太さの指に攻撃を加える。流石に神経のかたまった部位への集中攻撃はいくら魔獣とはいえ耐えきれなかったらしく、堪らず棍棒を取り落とす。その棍棒を引きずって鬼の手元から引き剥がすと、改めて分銅を手繰りながら、冒険団の後方から狩りの様子を観察する。

 あまり、慣れてはいない所作だったものの、流石に手負いかつ無防備な魔獣に負けることはなかったらしく、数分後には無事に始めての鬼討伐を完了させたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「いやぁ、流石は城下町の冒険者様だぁ! なんと礼を言うたらよいが!!」

 

 鉱脈から出た瞬間に冒険団の団長さんから掛けられた第一声は、良くも悪くも冒険者らしい毒気とは無縁な、素朴な感謝の言葉だった。

 

「おら達も田植えさ終わっで冒険さするよになってなんげどもがし、やっぱり餅は餅屋だな! 本業の人にさ後ろにいでで貰えっと心強ぇ!!」

 

差し出されたゴツゴツの手を握り返すと、快活な笑顔と共にその手をブンブンと振り回される。そんな、無邪気な反応にぼくはつい「いえ、そんな……」と返事をする。実際、ぼくがこの冒険団に寄与した部分は決して大きくはなくて、今しがたし返却した鎖鎌に出来た擦れや手垢の痕から見るに、ぼくは負傷離脱している正規の後衛の人物の動きと役割を純粋に真似た、正しく代用品に過ぎなかった。何なら、普段は地元で農家を営みながら、農閑期の出稼ぎだけでここまでの動きと技術を身に着けた誰かの方が遥かに才能に恵まれた本業(・・)と言っていいだろう。ぼくを本業と呼ぶ要素は、単に冒険を生業にしているという点にしか集約されていなかった。

 そして、そんな技量の人物を束ねる冒険団の団長が、その程度の事実に気付かないはずもなく、そこを折り込んだうえでの“専門家”だからこその「いえ、そんな……」なのだった。

 

「こちらこそ、頼りになる前衛の皆さんのおかげで、安心して戦うことができました」

 

それでもまあ、こっちもこっちで礼儀というものがあるので、冒険中に思ったことを正直に伝えてみる。

 ぼくの様な代理代用品の冒険者が割り振られる役割は往々にして刀や槍を握る前衛の場合が多い。これは、単純に妖魔と切った張ったをする前衛の冒険者の方が負傷率が高く、補充要員の需要が高いという事情に加えて、縁もゆかりも無ければ、金銭以上の義理も無い代用品に押し付けるなら単純にしんどい(・・・・)仕事の方がいいという、極めて人間的な感情に由来する事象だった。

 それ自体に不満があるわけではなく、何ならきつくて汚い仕事こそがぼくの商機ですらある以上、その辺は織り込み済みですらある。ただ、こういった稼業をしている中でも、時折ぼくの腕を見込んでと、仕事に対して一定の敬意を払う人間がいて、そういう意味では、今回の冒険団の団長さんは珍しくも皆無ではない人物像だと言えた。

 

「んだばどうでしょ。良がったら今後もおら達と正式に……」

 

そんな人だからこそ、こういう言葉が出てくるのだろう。それが本心からなのかは分からないけど……。ただ、そんな言葉へのぼくの答えはいつも決まっている。

 

「すみません」

 

儀礼的なものではなく、本心からの言葉ならなおさらに。

 

「んですか……」

 

間を置かない言葉に、やや残念そうにしてくれる団長さん。

 

「ぼくでは九分を九分九厘には出来ても、十一には出来ないので」

 

ぼくの心情を抜きにしても……ね。傷口に出来た瘡蓋は傷が治るまでの仮の蓋にはなれても、いずれ傷が癒えれば邪魔にしかなれない。

 

「ですが、また手が必要になった時はいつでもお気軽に声をかけてください。そんな機会は無いに越したことはないですけどね」

 

それでも丁寧な佇まいの団長さんにそう答えて一礼をすると、「あはは。その時は頼りにさせていただきで」と返されて。そのまま飯匙倩屋へと足を向けたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 先の冒険の精算を終えて飯匙倩屋の店先へ出たところで、先の冒険団の人達から「あ、ちょ、ちょっど待っでぐれせんせ(・・)」と呼び止められた。って、“先生”?

 

「どうかしましたか?」

 

突然の妙な呼び方に首を傾げながら振り返ると、先の三人が息を切らしながら飯匙倩の建付けの悪い引き戸を閉じるところだった。

 その一番手前にいた団長さんが「すまね」と息を整えながら、なぜか妙に期待に満ちた視線を向けてくる。

 

「いや、でってまんず、先生もお人が悪い!」

 

「はぁ……」

 

そして、一通り落ち着くと、なぜかにやにやととした意味ありげな視線とともに、こっちの胸元をちょいちょいと肘で小突いてくる。んー?

 

「いや、おら達もせっかくの海鶴城下町だはげ、冒険が終わっだら一遊びしでど思っでだんどもや……」

 

そこまで言った団長さんが他の三人と目配せをしあい、そして同時にニヤッと黄色い歯を見せる。

 

「先生。海鶴の色街さ詳しみででねが」

 

「おい、どうしてそうなった」

 

団長さんの言葉に、ぼくは思わず頭を抱えた。

 いや、別にぼくも海鶴の歓楽街に足を向けないわけではないし、気が向けば奮発して少し良い店に上がることもあるにはある。けど、間違っても“先生”なんて呼ばれる程の達者ではないし、少なくとも「こんな済ました顔しで中々の好き者だな」なんて言われる様な色男ではない。そういう表現が当て嵌まるのはぼくなんかじゃなくて、國臣くんみたいな人間だろう……ん?

 

(いや、待った)

 

そこまで考えたところで、ぼくはふと思考を止める。

 

「……その話、誰に聞いたんですか?」

 

「飯匙倩屋の主人さだども」

 

「やっぱりか。あのクソ店主」

 

ぼくの質問に、逆に「なぜそんな事を?」とでも言いたげに顔を見合わせた三人の口から出てきたのは、案の定の人物だった。

 たぶん、ぼくが國臣くん(性欲魔人)と組んで冒険をしたことを茶化しての言葉だったんだろうけど、まさか態々外から来た人に言うかな……いや、言うな。あの店主なら。

 

「「「……」」」

 

大凡の状況を把握して三人に視線を戻せば、変わらず期待に満ちた視線をこっちに向けてきている。ふむ……、

 

「一応確認しますけど、地元に奥さんは? それに、負傷したもう一人はどうするんですか?」

 

「へっへっ。そんだ野暮は言いっごなしだぁ。な? せんせ」

 

ぼくの確認に、後ろの一人が肩を揺らす。

 

(あー、なるほどね……)

 

 つまり、この三人は鬼の居ぬ間に洗濯をしたいと。まあ、それ自体は出稼ぎの人達には珍しくもないんだけどさ……。何なら、田舎から出てくる人なんて、そういう人が大多数だろうし。それよりもだ、

 

(これ、鎖鎌の人の取り分をちょろまかす(・・・・・・)つもりだね)

 

 期待に両目を輝かせているのはそれとして、どこかソワソワとした所作に彷徨う視線。明らかに気にしている袂を見れば、その懐に単純に暖かくなった以上の物が紛れてるのが察せられた。ただまあ……

 

(その指摘も野暮(・・)か)

 

別に、ぼくは正義の味方でもなければ裁判官でもないしね。

 冒険団のことは冒険団で決めることだし。そこに部外者でしかないぼくが口を挟むのは違うだろう。で、それはそれとして、

 

(ぼくじゃ本当に良い店を紹介出来ないんだよなあ……)

 

前段はぼくの邪推でしかないけれど、邪推が当たってたとしたら、この人達はその分を使い切る程度には良い店(・・・)望んでいるということになる。そうなると、少なくともぼくが普段入っているような、歓楽街の外れにある場末の風俗店では満足して貰えないだろう。かといって、無下にも出来ないしなぁ……。

 

「まあ、そうですね」

 

結局、ぼくが出した方針は、

 

「どこが気に入るかは人それぞれですので、一旦歓楽街に行ってみますか?」

 

本人達任せの先送りなのだった。

 

「「「そうごねど!!」」」

 

そんな、ぼくの内心を知りもしない三人は、やったとばかりに拳を握ったのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 すったもんだの末に、ぼくと件の冒険団の人達三人は虹色に光り輝く海鶴の歓楽街へとやってきていた。

 既に、今夜抱く相手を妄想してか鼻息荒く店先の客引き女を品定めしている三人に、敏感に小金の臭いを感じ取った娼婦や遊女達は、出で立ちもあって与し易しと見たのか、うっとりと陶酔した様な流し目や口付けと共にチラチラと胸元や太腿周りを開いては直接的に色仕掛けをしてくる。

 

「うーむ……」

 

途端、誰ともなしに生唾を呑み込む三人。正直、ぼくとしてはこのまま本当に負けて、どこかの店に突っ込んで行ってもらえたら楽なんだけど、流石に今の手持ちで普段行くような歓楽街の入口も入口にある安茶屋を狙うのはもったいなさ過ぎるという算盤を弾く程度の理性は残っているのか、後ろ髪を引かれているのが見え見えでも、決してそちらを振り返ろうとはせず、むしろ決然とした面持ちで歓楽街の奥へ奥へと両脚を繰っている。

 流石にこの場で適当なことをするのも気が引けるし、いい加減状況を打破する必要があるんだけど、果さてどうしたものやら……

 

「む? 紅夜ではないか?」

 

「ん?」

 

と、そんな事を考えていると、不意に脇の方から聞き覚えのある特徴的な嗄声が、喧騒の中を縫って耳の中へと飛び込んで来たのだった。

 その嗄声の方に目を向けてみれば、あの日と同じく白髮を下ろして豪奢な小袖に袖を通して前帯を結んだ國臣くんが、その衣装に負けず劣らず煌びやかな看板の前で不思議そうに小首を傾げていた。

 

「國臣くん」

 

「うむうむ」

 

ぼくが思わず名前を呼び返すと、満足げに頷いた國臣くんが高下駄を履いた足回りも気にせずトテトテとこちらに近付いてくる。

 

「どうしたのじゃ? こんなところで」

 

「こんなところって自分で言う?」

 

「だって、おぬしは基本的に場末の安宿じゃろ? この辺は中心街ではないが、おぬしの馴染とは趣が違うからのう」

 

「なんで、ぼくの馴染が把握されてるのさ」

 

いや、何となく理由は分かるけどさ……。

 

「ああそうか!」

 

と、國臣くんが合点がいったとでも言うように、ポンッと白い手を打つ。

 

「ついに、わしに尻を預ける気になったのじゃな? よし、任された! この百戦錬磨の腰技にて、一刻もせぬ間に菊座でしか果てられぬ身体へと調教し尽くしてやろうぞ!」

 

「その戯言を本気で言ってるなら、脳天かち割るからね? そもそもそんなつもりはないとか、生えてないだろとか、そういった事情一切抜きに、直接的な暴力に訴えかけるからね?」

 

ニンマリと好色な笑みを浮かべてスリスリと股座を擦り付けてくる國臣くん(馬鹿)の白い脳天を掴むと、捕獲された本人は何が面白いのかケタケタと笑って「すまんすまん」と蟀谷に掛けられた指圧も気にせずに軽く肩を竦める。

 

「して、実際どうしたのじゃ?」

 

「ん、そうだね……」

 

ぼくが手を離すと、ニヤニヤ笑いを引っ込めて、事実不思議そうに小首を傾げる國臣くん。

 ぼくがどう説明したものかと首を傾げていると、それ(・・)に気が付いたのか、ヒョイッとぼくの後ろに目をやって「後ろの其奴らが理由か?」と赤い両目を瞬かせてくる。対する後ろの三人はといえば、國臣くんの美貌に一瞬で胸を撃ち抜かれたのか、その顔を見た瞬間ビシリと硬直して、なぜか不自然なまでに姿勢を正して硬直する。

 

「あー、まあ?」

 

「なるほどのぅ……」

 

ぼくがそんな三人を他所に曖昧な肯定を返すと、もう一度「ふむ」と頷いた國臣くんが「そこな三人よ。名は何というのじゃ?」と確かめてくる。

 

「あ、き、喜八だぁ!」

 

「か、勝次です」

 

「きゅ、きゅきゅ」

 

「きゅ?」

 

「久兵衛です! よろしゅう!!」

 

裏返った冒険団の一人、久兵衛さんの声に道行く人達が一瞬何事かと立ち止まって奇異の視線を向けてくる。ただ、緊張のせいか声を上ずらせた三人はといえば、そんな周囲の視線に反応する余裕も無く、顔を紅潮させたまま、ただ不思議そうに自分達を見上げてくる國臣くんの美貌に魅入られていた。

 

「……喜八殿に勝次殿。それに久兵衛どのじゃな! うむ、覚えたぞ!」

 

果たして、謳うように三人の名前を口ずさんで、満足げに破顔する國臣くんを見て、パァァと表情を綻ばせる団長さん達。

 

「えっと?」

 

そんな一人と三人を見比べて、どう声を掛けたものかと首を傾げていると、不意にこっちをバッと振り向いた三人が、なぜか血眼になってぼくの方へと詰め寄って来たのだった。

 

「せ、せんせ!!」

 

「なんですか?」

 

「あ、ああ、あのお方は!?」

 

一番真ん前に立って胸倉を掴んできた団長さんこと喜八さんがどもりながら、鼻息荒く問い詰めてくる。

 

「えっと、國臣くん?」

 

天楽坊ではお(りゅう)って呼ばれてた気がするけど、今はなんて名乗ってるんだろ。

 

「か、彼女も買えるんだが!? おら達の金で買えるんだが!?」

 

隣の勝次さんも、同じく明らかに焦燥に駆られた様子で肩を掴んでくる。

 

「えっと、どうなんでしょう?」

 

ぼくも國臣くんの今の奉公先の料金とかよく知らないし。

 

「んだば、せめてこのお嬢さんをおら達に紹介を!!」

 

そして、最後に悲鳴にも似た声で吠える久兵衛さん。色々と言いたいんだけど何よりもまず、そいつは元服を終えた成人男性二十六歳です。

 

 

 

 

「なんじゃ。おぬしら、わしとまぐわいたいのか?」

 

 

 

 

そんな応酬をしていたぼく達を見て、納得したように再びポンッと手を打つ國臣くん。その「おぬし“ら”」って、ぼくは含まれてないよね?

 

「で、できるだか!?」

 

けれど、警戒するぼくを他所に、例の三人はむしろかなり乗り気らしく、興奮した様子で國臣くんの方へと身を乗り出す。

 

「うむ。わしは今、この劇場で働いておるからの」

 

そう言って、國臣くんがクイッと親指を向けた先にあったのは、淫猥な格好をした男女がしなだれかかる飾りの施された「劇場 沸起奔放(ふきほんぽう)」の文字だった。

 

「ここが?」

 

「天楽坊を出てからの、わしの奉公先じゃ」

 

確かめると、國臣くんがコクリと頷く。

 

「ここは劇場の文字通り、演目形式の見世物小屋での。わし含め数十名の演者が観客を相手にする。中には触れることを禁ずるものもあるが、わしのはまぐわいもありじゃ。演目後に演者を買うこともできるゆえ、気に入った相手が居れば、演目後に番台で頼めば閨を共にも出来るぞ」

 

つまり、國臣くん以外にも気に入った相手がいれば買うのは自由と……。なるほど。

 

「ということらしいですが、どうします?」

 

念のための確認に、バッとこっちを振り向いた三人が無言でガクガクと首を縦に振る。ま、そうなるよね。

 

「っていうことみたい」

 

「うむ。委細承知じゃ。それでは四名様ご案内〜」

 

頷いた國臣くんが、間延びした声で入口で客引きする店員に声を掛ける。……って四人?

 

「おぬしも入っていくじゃろ?」

 

思わず聞き返したぼくに、「おぬしとわしの仲ではないか」と國臣くんが白い歯を見せる。いや、一体どんな仲なのだと。そもそも、お互いを認識してから、精々数日がいいところでしょうに。

 けれど、そんなぼくの内心の反論は「行ぎましょ」と左右から肩に手をかけてくる三人(冒険団)に抑え込まれて、ズルズルと劇場へと押し込まれてしまう。

 

「あ、そうじゃそうじゃ」

 

と、ぼくが劇場に連れ込まれる直前、前を歩いていた國臣くんが思い出したように、こっちを振り返った。

 

「この劇場でのわしの名は雪兎(せつと)太夫(たゆう)じゃ。覚えておくのじゃぞ」

 

そんな國臣くんの自己紹介に、いつも通り「あー、うん」と曖昧に応えようとしたぼくの声を、

 

「「「はいっ!!!」」」

 

という三人の気合の入った返事が遮ったのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 初めて足を踏み入れた沸起奔放(ふきほんぽう)の場内は、四方を暗幕に囲われた寄席に近い形式の造りをしていた。

 ただ、その細かな内装には大きな違いがあり、客席は所狭しと並ぶ寄席の様な形ではなく、小料理屋の様な脚高の食卓が均等に配置されていて、各客ごとに食卓に着くと運ばれてきた無料の清酒に口をつけることになる。

 そうして、最後に入った観客までがほろ酔い加減になった頃、場内の灯りが全て落ち、代わりに李色(すももいろ)をした照明が食卓の中心に挿し込まれた細長い舞台の中心を焼き、同時に妙に艶めいた笛の音がどこからともなく流れ出した。

 

「おっ、あれさ見れっちゃ」

 

 そんな音楽が佳境に入った頃、隣の喜八さんが何かに気付いた様に舞台の袖を指差す。見れば、そこには髪を短く切り揃えた洋服の女性が数名、客席に挿し込まれた舞台の中心へと歩みを進めていた。

 そんな女の人達が観客の中心に立つと、一拍置いて笛の音に激しい三味線の音が加わる。その瞬間、じっと舞台の中心で立ち尽くしていた女の人達が、三味線の調子に合わせて激しく身体を揺すり始める。

 激しく髪を振り乱し、腰を振るその踊りに、着物に比べて短い洋服の裾が弾けて、その内の色彩豊かな下帯が露わになる。胸元もさらしとかをしていないのか、明らかに布地を荒々しく波打たせて、見る人に至極肉感的で扇情的な印象を抱かせた。

 昔ながらの座敷に上げる妓楼や遊郭では、まず目にすることのない演目に魅了された観客達が、どこからともなく生唾を呑む音や、興奮した口笛を響かせている。

 

「「「おおおおお!!」」」

 

件の三人も、物珍しい演目に惹かれたのか、拳を握って歓声を上げている。

 と、そんな観客の反応を見てか、一瞬舞台の上で目配せをし合った女の人達が、後頭に手を添える様にして科を作る。そして次の瞬間、項の辺りで止められていた釦を外したのか、手を戻したのと同時に四人分の乳房が桃色の舞台の中心で露わになったのだった。

 

「「「「「うおおおおおおお!!!!!!」」」」」

 

今度は劇場全体で爆ぜる歓声。劇場に足を踏み入れた時点で、今夜の腹が決まっている自分達の欲情をド直球に抉る姿に、観客の男達は矢も盾もたまらずとばかりに、その場でたちあがろうとする。

 

「「「「……」」」」

 

対する舞台の上の女性達はといえば、そんな観客の反応も慣れたものなのか、それとも狙い通りとでもいった気分なのか、澄ました顔で微笑を浮かべると、剥き出しになった乳房(にゅうぼう)を見せつけるようにふるふると胸元を揺すって、ぶるぶるぶるっと大きな乳房(ちぶさ)を震わせてみせる。

 膝上に手を当てて前屈みになりながら、立ち上がって上体を反らしつつ水を浴びるように桃色の光を浴びながら。

 そうして、一頻り乳房を振り乱す踊りを披露すると、食い入るように舞台を見詰める観客の前で、二人の踊り子が背中を向ける。

 胸元を露わにするために釦が外されて、剥き出しになった白い背中から下の、ふわりと余裕のある洋服の裾からでも分かる豊かな臀部を突き出すと、ふるふると尻たぶを震わす二人の横で、残りの二人がそれぞれに肩から滑り落ちた袖口へと手を掛ける。そして、一息で引きずり下ろされる色鮮やかな洋服。代わりに現れたのはシミ一つ無い白い肌に覆われた、むちむちとした肉感的な背から臀部だった。

 

「「「「「っ!!」」」」」

 

その踊り子の姿に、今度は息を呑む観客。その視線はムッチリとした彼女達の臀部に食い込む下帯と、その下帯をジュクジュクと湿らせるドロドロの愛液へと注がれていた。

 本当的な肉感に、感情以前の情動を揺さぶられて、口を噤む観客達。けれど、それは興奮の消失を意味してはいなくて、むしろ、その光景に吸い寄せられる男達は舞台という一つの隔たりのせいで、血走った両眼に怒りさえ滲ませていた。

 そんな男達を前に、両隣で衣服を引き摺り下ろした二人の踊り子が膝をつくと、捻れた下帯に食い込まれた秘部を無理矢理割り開いて、ドロドロと滴る蜜へとこれ見よがしに舌を這わせたのだった。

 

「あっ……」

 

「んっ……」

 

それまで、微笑だけをたたえた澄まし顔だけを浮かべていた二人の、初めて響かせた喘ぎ声。それは(かす)かなものでしかなく、押し殺されてもいたものの、興奮し切った観客の嗜虐心を擽るには十分過ぎて、男達はこれから食うはずの最上の肉達を舞台の下から食い入るように見上げている。けれど、その舌先による愛撫はピチャピチャとした啄む程度で切り上げられて、代わりに入れ替わるように二人の秘所に舌を這わせていた二人が尻を突き出して、同じく洋服を剥ぎ取られると、これまた同じく下帯の食い込んだ女陰から、粘つく体液を啜り取られる。

 そして、四人全員が下帯一枚になると、再び先の振り付けを繰り返す。

 前屈みになって、上体を反らして乳房を。観客に背を向けて突き出したお尻を。

 その繰り返しが終わると、徐々に遅く小さくなり始める囃子の調子。そして、三味線の音が止む頃、踊りを終えた四人が綺麗に整列し、最後にベベンと鳴った弦の音に折り目正しい一礼をしたのだった。

 

「「「「「うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」

 

同時に爆発する観客席。やんややんやという歓声と、沸き立つ口笛に、彼女達は初めの微笑を浮かべながら、口元に手を当てて、口付けを弾き渡す様な仕草を見せる。そんな彼女達の仕草に観客は更に色めき立ち、四人の踊り子が舞台を後にするまで、その絶叫は止むこともなかったのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 四人の洋装の女性による踊りを皮切りに、沸起奔放(ふきほんぽう)の舞台に上がる演者の見せるそれは、どれもこれもが目新しいものばかりだった。

 上半身裸の筋肉質な青年達による、逆立ちや宙返りを中心とした軽業の様な演舞。まだ水揚げ前と思われる、小さな子供達による簡単な振り付けの顔見せを兼ねた簡単な舞踊。中には一糸纒わない女性達を楽器に見立てて、音楽家風の装いをした男が局部を爪弾いて啼かせるというものや、目元を覆う仮面を被った男達が金箔で固められた褌一丁で、劇場上から降りてきた大きな輪にしなだれ掛かり、客席上空でぐるりと全身を回してみせるという、よく分からないものまで存在した。

 

(あ……)

 

 そうして、夜も次第に更けて、徐々に客席に空の酒瓶が積み上がり始めた頃、舞台袖に備え付けられた演目の看板がぺらりと捲られ、『雪兎(せつと)太夫(太夫)“水滴る黒槍酒”』の演目が告げられたのだった。

 

「うぃーっ」

 

「どうすっがなぁ……どうすっがなぁ……」

 

「……っ!?」

 

一応同じく席で見ている三人はといえば、既にこれまでの演目で大分楽しんだらしく、一応お目当てだったはずの國臣くんの源氏名(雪兎太夫)には、あまり目立った反応を見せないでいる。

 演目が告げられると、一度劇場内の照明が全て落ちて、舞台奥から一筋の光が劇場入口の方へと射し込む。

 

(あ、國臣くんだ)

 

その光の筋を追いかけると、丁度白い髪をした前帯姿の人影が、壁に掛かる暗幕の合わせ目から姿を現した所だった。

 

「……」

 

どうやら、國臣くんもぼくに気付いたらしく、一瞬だけ視線が重なった瞬間、微かに白い歯を剥いて見せた。

 劇場内に姿を現した次の演者(國臣くん)の姿に、舞台近くに座る観客の人達がひゅーっ!と口笛や歓声を上げる中、カンッ!と鋭い銅鑼の音が劇場内に大きく反響したのだった。

 そして始まる、低い太鼓の音色を主軸とした、何処か独特の調子の音楽。その音楽に合わせて軽く前振りとばかりに踊りを見せた國臣くんが重ね着した小袖のまま、器用に前に締めた帯に手を掛ける。

 

「「「「「おおっ!!」」」」」

 

(ん?)

 

そんな、早速の本番に周りが色めき立つ中、ぼくは一つ妙な事に気がついた。

 

(高下駄じゃない?)

 

先の客引きの折、ごく普通の花魁のように高下駄を履いていたはずの國臣くんが、この劇場内では何故かそれを履いていなかった。一瞬、踊りの邪魔になるからかと思ったものの、店先で器用に高下駄を繰っていた國臣くんが、今程度の舞踊で始末に困るとはとても思えない……。

 そんなぼくの疑問符は、金糸で作られた國臣くんの帯がハラリと落ちた瞬間、全て氷解することになったのだった。

 

「「「「「っ!!!!!」」」」」

 

國臣くんの演目用の衣装が露わになった瞬間、それまで歓声と熱気に満ちていた場内が、ハッと息を呑む音に押し潰された。

 そんな観客の視線の中心は小袖を脱ぎ捨てた國臣くん。けれど、その装いはこれまでの人達ともまた似ても似つかない独特のものだった。

 

 

紅く、濃い朱色に染められたその衣装は、まるで漆に塗り固められたかのような強い光沢を放っていた。

 

薄い肌に吸い付くような、二の腕と太腿まで届く長手袋と長靴。

 

そして、同じく漆塗りじみた鞣し革の一重帯が細く括れた國臣くんのお腹を囲みながらも、最後の一端であるへそ周りで、黒い紐が亀甲の様に柔らかそうな白いお腹を縛り上げている。

 

胸元は当然というべきか露わにされていて、ただ他の演者の様な豊満さはなく、掌に収まるほどの小ぶりそれが腰回りの革帯に絞り出されて、やけに扇情的にふるりと揺れている。

 

 

どことなく奇怪寄りな、けれど、それ以上に扇情的な國臣くんの衣装に観客全員が呑まれる中、皮肉げに口元を歪めた國臣くんはグイッと後ろの方から何かを引っ張り出すような仕草を見せる。

 果たして、國臣くんから場内に引きずり出されたのは、黒革の目隠しと、固そうな球状の轡を掛けられた、全裸の女性だった。

 

「ん゛も゛っ、ん゛ふっ……ん゛っ!?」

 

その女性の細首に嵌められた同じく黒革の首輪から伸びた手綱を握る國臣くんが反対の腕を振るうと、パアンッという派手な破裂音と共に、その女性がビクンッと身体を仰け反らせて、ぶるりと痙攣を見せる。途端、見せ付けられる巨乳。けれど、観客の視線は女性の豊満な肉体ではなく、振り抜かれた國臣くんの右手に握られた、太い馬用の一本鞭に注がれていた。

 

「ゆくぞ」

 

絶句する観衆と止まない囃子の中、グイッと彼女の手綱を引いて、國臣くんが客席の中心を割って舞台の上へと登ってゆく。見れば、女性のお尻の穴には桃色の棒が突き刺さっていて、彼女が階段を一段登るたびにクイックイッと尻尾のように揺れていた。そして、その時になって、ぼくは國臣くんの最後の装いに気が付いた。

 燦々と降り注ぐ桃色の照明に照らされ、軽く舞台の中心で一回りした國臣くんの腰元で揺れていたのは、手袋や長靴と同じく漆塗りの鞣し革で作られた布地の小さな下帯。ただし、その下帯の股座にはこれ見よがしに黒光りする、太くゴツい、巨大な張形がそそり立っていたのだった。

 

「「「「「……」」」」」

 

何よりも雄弁なその衣装に、強制的に國臣くんの演目を脳髄の奥へと捩じ込まれた観客が息を呑む。先の出囃子を考えれば、舞台の上へと引きずり出された猿轡の女性がどれだけ滅茶苦茶にされてしまうのか、想像すらつかなかったのだろう。もっとも、

 

本人の物(・・・・)よりは大分いさ小さいね。あれ)

 

國臣くんの本来の魔羅を考えれば、大分有情な気がしないでもないぼくなのだった。

 舞台に上がった國臣くんは四つん這いになった裸の女性と相対すると、まるで上下関係を刻み付けるかのように、彼女の栗毛の頭を踵の尖った長靴(ちょうか)で踏み付ける。顔面を踏み潰された彼女が「ん゛も゙゛っん゛も゙゛っ」と媚びるように反対の長靴に顔を擦り付けると、満足げに頷いて、左手の一本鞭を彼女の頤に添えるとクイッとその(かんばせ)を軽く上向かせたのだった。

 

「ん゛!?」

 

そして、彼女と目隠し越しに視線を重ねると、溝鼠に踊りかかる猟猫の様にクネリと身を屈めて、その首筋に牙を突き立てる様に、女性の唇へと噛み付いたのだった。

 二瞬……三瞬……、そして、一呼吸が終わる頃、カチャッという軽い音と共に、國臣くんの暴力的な口付けが終わりを告げる。再び上体を起こした國臣くんの口元には、今しがた目の前の女性に嵌められていた、固い球轡が咥えられていたのだった。

 まるで噛み千切ったかのようにぬらぬらと体液を滴らせて揺れる猿轡を、ペッと無造作に吐き捨てる國臣くん。客席の最前列で食い入るように二人の接吻を見ていた観客への軽いおまけ(・・・)を済ませると、再び引き上げた彼女の(かんばせ)に、國臣くんは自分の股間で揺れる張り形をベチンと無慈悲に叩き付けたのだった。

 無言の乱暴で粗野な仕草。けれど、何よりも雄弁な命令(・・)に、舞台上の彼女は即座に國臣くんの股座でいきり立つそれを喉奥までゴキュッと呑み込んだのだった。

 ジュゴッジュゴッと音を立てて行われる、荒々しく野性的な吸茎(きゅうけい)。その股下の女の動きに合わせて、時折躊躇なく張り形を突っ込む國臣の腰使いと、咳き込みえずきながらも口淫を止めない女の姿に、次第に単純な性的興奮とは違う、異様な情動に観客達が突き動かされ始める。チラッと見れば隣の三人もそれは同様で、皆一様に生唾を呑みながら、先の性欲とは違う暗い情動の様なものを目に浮かべてるのが見て取れた。

 煌びやかな踊りや派手な演目とも違う、直接的かつ直球的な行為が延々と続くかと思われたとき、不意に右手の手綱を引っ張った。

 ジュポンッと音を立てて引き抜かれる、黒い陰茎形の張り形。女性の涎塗れになったそれを無理矢理引き抜くと、國臣くんは力任せに手綱を振り回して、そんな彼女の身体を舞台奥へと引き摺り回した。

 途端、均衡が崩れて横転する女性。その弾力を感じさせるお椀型の乳房が天井を向いてふるんっと揺れる中、國臣くんは観客に見せ付けるように舞台前で仁王立ちになると、頭上でブンブンと一本鞭を振り回した。そして、パアンッとその鞭を胸の前でしごいたのと同時に、いつの間にか先の彼女を磔にした×字(ばつじ)の板が舞台奥へと立てられたのだった。

 

「「「「「……」」」」」

 

これから行われる行為の雄弁すぎる宣言に周りが息を呑む中、國臣くんは荒く喘ぐ生贄に相対し、くるりと観客に背を向ける。

 

(あ、墨……)

 

その白い背中の中心。紅い革帯の上からは、先日は気が付かなかった、何か女性の顔の様な入れ墨模様が覗いていた。

 けど、大方の視線はそっちの入れ墨ではなくもう一つの方、下帯食い込む白い尻たぶの右側にでかでかと彫り込まれた“雄”の一字に注がれていた。

 

(うわ、絶対勘違いされるやつじゃん。それ……)

 

プリッと形の良いお尻に彫られた“雄”の一文字。まあ、どう見ても男の身体が好きでたまらない、酷く卑猥な淫売であるという宣言に見えなくもない。実際は一撃で子袋を押し潰す剛直を誇る雄であるという宣言なんだろうけど。……つか、なんて入れ墨だ。

 そんな、観客の視線が集中する中、國臣くんは一本鞭を大きく振りかぶると、一切の躊躇も容赦も無く、磔になった彼女の体へとそれを振り抜いたのだった。

 ヒュパッという風切音が鳴った直後、パァンッ!!という発砲音にも似た破裂音が響く。

 

「っ〜〜〜!!!」

 

同時に目隠しをされた彼女が身悶え、純白の肌の上に胸元から腰まで続く赤い鬱血の傷痕が作り出される。

 

「ふんっ!」

 

肌に浮いた脂汗が照明によってキラキラと光る中、國臣くんが返す刀で二の太刀を見舞った。

 

「ぎ、ぃ〜〜〜!!!」

 

今度も歯を食い縛り、痛みに耐える彼女。けれど、その力みのせいか、あるいは防衛本能か、はたまた性癖からなのか、國臣くんの鞭に痛打された瞬間、女性の股下の花弁からプシュッと音を立てて透明なサラサラの体液が噴霧されたのだった。

 その反応は止まることがなく、國臣くんが更に、もう一発と鞭打を加える都度に激しく大きくなっていく。そして、

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

都合十度の鞭打ちを受けた頃には、じょぼじょぼと黄色い液体が零れ落ちて、その股下に大きな水溜りを作っていたのだった。

 

「頃合いか」

 

そんな彼女を見据えて、短鞭を手放した國臣くんが一歩前へと進み出る。目の前の彼女に咥えられて、べとべとにされた張り形をにちゃにちゃと扱きながらそうする姿は、次に行われる攻めを雄弁に言い表していた。

 

「ふんっ!」

 

果たして、次の瞬間に行われたのは遠慮会釈も無い、無造作な結合だった。入れ墨の彫られたお尻を引き締めて、力任せに打ち込まれる交合に、×字になった女性がブンブンと首を振って悶えるのも気にせず、國臣くんは欲望のまま、好き勝手に腰を振るっていく。磔にされた彼女のお腹に、ぼこりと不自然に出来た膨らみが、國臣くんの抽送の都度に蠢き、女性の内臓を抉っていく。

 小柄な少女の見た目からは考えられない、荒っぽくねちっこく、それ以上に繁殖本能を想起させる腰つきに、次第に周囲の観客は呑まれるように、國臣くんの交合へと魅入られていく。そして、

 

「お゛ぉ゙゛ぉおおおっ!!!」

 

発情した雄牛の様に喉を鳴らして、×字の彼女が絶頂するのと同時に、國臣くんは股間の張り形を彼女の女陰からずるりと引きずり出したのだった。

 

「ふぅ……」

 

磔台の上でぐったりとした彼女を前に、股間の張り形の根元を持ってピッピッと雫を切っていた國臣くんは、今度はカツカツと音を立てて、舞台下の観客席へと続く階段を一歩ずつ降りてくる。

 そして、最前列に座っていた身なりの良い商家の隠居らしい老人の前に立つと、股間の張形を突き出して、「いかがする?」と意味有りげに問い掛けた。

 

「そうだな、こいつに混ぜてくれ」

 

果たして、商家の隠居らしき老人はその手の遊びに慣れていたらしく、國臣くんの問い掛けに一瞬考えると、右手に持っていた朱色の大盃を差し出したのだった。

 

「相分かった」

 

そんな老人の仕草に、納得したように頷いた國臣くんは突き出した張形を酒坏に沈めると、女の蜜を混ぜ込むように、くるくると酒盃の中身を男根形のそれでかき混ぜたのだった。

 

「うむ……美味い」

 

そうして、ちゃぷりと國臣くんが股間の一物を引き抜くと、女性の愛液を混ぜ込まれた酒精を一息に飲み干す老人。そうして満足げに頷くと、おひねりとでも言うように、國臣くんの下帯に何分かの金を捩じ込んだ。

 

「あ、俺もっ!」

 

「こっちも頼むぜ!!」

 

「まあ、待つのじゃ。蜜を蓄えねばならぬからの」 

 

演目の意図を理解して、我も我もと酒坏を差し出す観衆を宥めながら、國臣くんは再び舞台の上に戻り、酒精を帯びた張形を再び女性の陰部へと突っ込む。先の交合から何とか息を整えていた彼女は再び襲いかかってきた暴力的な性交に、再び苦悶の声を漏らして喘ぎ狂ったのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 國臣くんが粗方へと竿酌(・・)を終えた頃、とうとう最後尾にいたぼく達の席の番がやってきた。

 すでに最前列の一等地から始まった、変態的な酌は劇場全体に回り、残すところはぼくを含めた四人。喜八さん達だけになっている。

 

「「「ふーっ、ふーっ」」」

 

特に、國臣くんに引っ掛けられて入店を決めた三人は目的の本人があられもない姿であられもない酌をするというだけで、血眼になりながら鼻息荒く腰を揺らして歩いてくる國臣くんを睨み付けている。

 そんな三人の存在と空気に気が付いたのか、周りから分からない程度に軽く苦笑を洩らすと、多少のおまけのつもりなのか、途中の観客達に引っ張りだこだった時と比べて、幾分か時間を掛けながら、ねっとりとした色っぽい足取りで、こつり……こつり……と、ぼく達の席へとやって来たのだった。

 

 

 

 

そして、それがいけなかった。

 

 

 

 

 先の國臣くんの客引きからここまで、焦らしに焦らされた隣の三人は、すでに焦らし尽くされて國臣くんの体に焼き焦がれていた。しかも、道中の國臣くんの客あしらいを見て、多少のおいた(・・・)は大目に見てくれる……少なくとも、一番待たされた自分達は一番大目に見てもらえても良いはずだと勘違いしたらしい。

 元より田舎からの出稼ぎで、あまり色街に慣れてない人達なこともあり、ただでさえ怪しかったそこら辺の線引きを欲望に負けて誤魔化した三人は、

 

「お、おらもう我慢でぎねっ!!!」

 

「おらも!!」

 

「あ、ずりーぞ!! おらも! おらもだぁ!!」

 

あっさりと、最低限の節度を踏み越えてしまったのだった。

 

「!!」

 

 口々に叫んで、近寄ってきた國臣くんに踊りかかる三人。咄嗟に背中から蹴りをくれるものの、手前の二人が邪魔になって、一番最初に飛び出した団長(喜八)が國臣くんに届いてしまう。

 

「く、太夫!!」

 

咄嗟に國臣くんに声を掛けるも、完全に発情した雄牛の突貫には一拍追い付かない。ぼくの声が場内に響くのと、毛むくじゃらの太い腕で國臣くんの細腰(さいよう)を掻き抱いた団長が、そのふっくらと掌に収まるくらいに膨らんだ胸にむしゃぶりついてじゅぞぞぞぞっ!という音を立てたのがほぼ同時のことだった。

 

「うっわ……」

 

その生理的嫌悪感を覚える不協和音に、一瞬手出しを躊躇する思考が脳裏を過る。そして、その一拍遅れの間にカッと紅い両眼を見開いた國臣くんが、

 

「この……痴れ者があああああああ!!!!」

 

殺気立った怒号と共に、いきり立った男の股間を蹴り上げたのだった。

 

「あぎゃっ!?」

 

そんな、猿みたいな悲鳴を上げて、股間を抑えながら悶絶する団長。

 

「ふんっ!!」

 

「はおっ!?!?」

 

そんな団長の股間を、更に長靴(ちょうか)の鋭利な踵で追撃する國臣くん。

 

「どうやら……多少丁重にと考えたわしが誤っておったようじゃ……」

 

そして、白目を剥いて泡を吹く団長を、解体屋へ持ち込まれる豚を見るような目で見下ろした國臣くんが、そう宣言しながら団長の脇腹に爪先を入れて、蹴り上げるようにしてゴロンとその身体を俯せにひっくり返す。そして、再び股間を蹴り上げるようにして天頂へ尻を突き上げさせると、この冒険団全員が履いた、土汚れの目立つもんぺ(・・・)に手を掛けて、それを一息に引きずり下ろしたのだった。

 そして、衆目に晒される、國臣くんや舞台の女性とは似ても似つかない汚れた臀部。國臣くんは黄ばんだ褌に締められたそれの後ろでガニ股にしゃがむと、その縦ミツを乱暴にずらし、その中心でひくつく菊門へと躊躇啼く股間の張形の尖端を充てがう。

 

「この上は優しくなどと夢思うでないぞ。今この時より、貴様を永遠の雌へと去勢してくれる!」

 

ドロドロの怒気に血色の両眼を燃やしながら、そう宣言した國臣くんが「おぬしらも!!」と吠えてこっちをグリンと振り向く。

 

「わしと寝たいというのならば叶えてくれようぞ! これが翌朝のおぬしらの未来じゃ!!」

 

「その『おぬし“ら”』に、ぼくは含まれてないよね? 絶対に含まれてないよね??」

 

血走った咆哮に震え上がる二人の冒険者の上で、ぼくは思わず問い返す。いや、流石にそんなことはないはずと思いながらも、それでも聞かずにはいられないくらい、國臣くんは頭に血が上っていた。

 果たして、ズブリッという会場全体に響くような異音と共に、団長の肛門が國臣くんの張形に犯される。

 

「お、おああああああ!?!?!?」

 

そして続く団長の困惑ともつかない絶叫とドスドスドスッという荒々しく腰を打ち付ける音に、ぼくは思わず天を仰いだのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 翌朝。まだ照り始めたばかりの白い朝焼けに包まれながら、ぼくは劇場・沸起奔放(ふきほんぽう)を出た。

 あの後、騒ぎを聞き付けて飛び込んできた支配人に差配されて、例の三人を除いた観客は思い思いの演者買い、充てがわれた適当な部屋で一夜を過ごした。

 ぼくも途中の演目で見掛けた女性を首尾よく買うことが出来たこともあり、つい今しがたまで彼女を抱いたまま厚いふかふかの布団に包まっていた。

 

「「ふぁ……」」

 

夜が遅かったのもあり、つい漏れた欠伸に、どこか聞き慣れた感のある嗄声がふわりと重なったのだった。

 

「國臣くん?」

 

「む? なんじゃ、紅夜ではないか」

 

隣を見れば、昨日の装いから飾り気の無い着流しに着替えた國臣くんが、化粧も落としてのんびりと太陽に向けて伸びをしているところだった。……なんか、おじさん臭いよ?

 

「やかましいわ。わしはこれでも二十六じゃぞ」

 

「そうでした」

 

人によっては完全におじさん扱いの年齢だったね。……ほんと、軽く詐欺だよね。

 

「で?」

 

「ん?」

 

「昨晩は楽しめたか?」

 

そう言って浮かべるニヤニヤとした笑みは、確かに自己申告の通り二十六が相応しい表情だった。

 

「あー、まあまあ?」

 

そんな國臣くんに、ぼくは昨晩抱いた女性を思い出しながら首を傾げる。

 茶色く染められた巻き髪が特徴的な女性で、ややぽちゃぽちゃとした体型だったけど、その分胸は大きくて抱き心地も良かった。まあ、お値段を考えればそれ相応。人によっては割とアタリってところかな?

 

「それは良かった」

 

ぼくの答えを聞いて、うむうむと頷く國臣くん。

 

「國臣くんの方は?」

 

「あやつら三人、今後一生菊座以外では()てなくしてくれたわ」

 

「うーん、南無」

 

國臣くんが容赦するなんてことは想像してなかったけど、あの三人は見事に去勢済竿兄弟にされちゃったのか……。

 

(次、依頼があったら対応考えないとな)

 

多分、どう転んでも変な方に転がる気がしてならないし。

 

「して、紅夜よ。今から暇か?」

 

「ん? まあ、この後は宿で寝直すくらいしか予定はないけど……」

 

「なら、これから少し付き合え」

 

「別にいいけど、どこに?」

 

「なに……」

 

ちょこちょこっと店先に歩き出していた國臣くんが、クルッとこっちを振り向く。

 

「この先に中々美味い唐蕎麦を食わせる屋台があっての。最近嵌まっとるんじゃよ」

 

「ふーん。ちなみに味は?」

 

「豚骨醤油に鶏皮脂じゃな!」

 

「へぇ、それは美味しそう」

 

「じゃろ?」

 

それならお相伴に預かろうかなと隣に並ぶと、スッタカタと軽い足取りで、國臣くんが明け方の歓楽街で鼻歌を歌う。

 

「でもさ」

 

「んむ?」

 

そんな國臣くんを見ながら、ふと浮かんだ疑問に、ぼくは首を傾げる。

 

「こんな時間からそんなもの食べてたら、國臣くん胃もたれしない?」

 

「ちょ、わしはまだそこまでいっとらんわい!!」

 

そう言って、キーッと怒った國臣くんがペシペシとぼくの二の腕をはたいたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「お、あったぞ。あそこじゃ」

 

 國臣くんが案内してくれた唐蕎麦屋は赤に黒抜きで“藤田亭”という文字が踊る暖簾を下げた、小さな台車の屋台だった。

 お店が近付いてくると次第に濃い豚と醤油の匂いが立って、一晩中動きっぱなしだった空きっ腹に刺さり、食欲を掻き立ててくる。幸い、暖簾の奥には他の人影もなく、ぼくと國臣くんは同時に店の暖簾を潜ったのだった。

 

「やっておるか?」

 

「……」

 

固い箱椅子に腰掛けながら尋ねた國臣くんに、気難しそうな店長が一瞬視線を上げて、端からは分からないくらいに首を縦に振る。そんな反応もいつものことなのか、嬉しそうに笑った國臣くんが「では、唐蕎麦一杯じゃ」と人差し指を立てる。

 

「ぼくも同じものを」

 

次いでジロリと向けられた視線にそう返すと、ムスッとしたまま「あいよ」と頷いた店主が滑らかな手付きで寸胴鍋をかき回し始める。

 

「お待ち」

 

ものの数分もしないうちにドンッと置かれたのは黒い丼で、中には國臣くんの説明の通り、豚骨で濁った出汁に濃い醤油が色付き、黄色い鶏皮脂がきらきらと暖簾の隙間から射し込む朝日を反射している。

 

「おお、来た来た! 来おったわ!」

 

そんな唐蕎麦を今か今かと待ち構えていた國臣くんが細長い食卓に置かれた割り箸と散蓮華を取ってパンッと手を合わせると、「いただきます!」の一言を置いて、早速唐蕎麦の丼へと齧り付いたのだった。

 

「いただきます」

 

ずぞぞぞぞっ!!と豪快に麺を啜る國臣くんの隣で、ぼくも軽く手を合わせてつゆに口をつける。濃く、こってりとしたその風味は、疲れた身体にじわりと染み渡り、全身を覆った疲労を押し流してくれるような力強さがあった。

 

「美味しい……」

 

はほっ(じゃろ)!」

 

「汁汁。飛んでる」

 

思わず呟いたぼくに、麺を啜ったまま振り返る國臣くん。こっちを指差すのは良いんだけど、そのまま喋るせいで唐蕎麦の汁がこっちまで飛んできている。

 

「ちゅるるる……んくっ。ふぅ……。なんじゃ、そう固いことを言うでない。わしとおぬしの仲じゃろ?」

 

「仲も何も、会って数日が良いところでしょうが」

 

ぼくの返事に「数日じゃが深い仲じゃろ?」と意味もなく意味有りげなことを言って、國臣くんは再びハフハフと唐蕎麦に向かう。

 

「仮にも天楽坊の一番人気の色子がそれでいいの?」

 

「逆じゃ逆。天楽坊を出たのじゃぞ?今更、一々細かい座敷の作法なぞやっておれんわ」

 

そう言って、モクモクと黄身の蕩ける卵を頬張りながら、「おぬしもモタモタせんでさっさと食わんか。せっかくの麺が伸びてしまうじゃろ」とこっちの丼を突いてくる。……ま、それもそうだね。

 ずぞっずぞぞっと、二人分の麺を啜る音だけが響く。暖簾の内側を蕎麦屋らしい薫りと音が満たす中、ぼく達二人はしばし麺へと夢中になった。やや塩気が強く、脂味も多めなその麺を食べ終えると、二人揃ってドンッと空になった器を食卓へと置いたのだった。

 

「「ごちそうさまでした」」

 

「どうぞ、またのお越しを」

 

無愛想な主人の一番長い返事を後に、ぼくと國臣くんは屋台を出る。暖簾を掻き分けて外に出ると、丁度次の客らしき人達がこちらを覗き込んでいるところだった。

 

「ふぅー食った食った」

 

「ぐえっぷ」と漏らしながら楊枝を咥えた國臣くんが、機嫌良さそうにお腹を撫でるのを見て、ぼくも「美味しかったね」と頷く。常日頃とはいかないけれど、冒険や歓楽街で頑張った後にはたまらない味な気がした。

 

「じゃろ!」

 

白い歯を見せながら嬉しそうに片目を瞑る國臣くんに肩をすくめ返すと、國臣くんはケラケラと嬉しそうに笑ってもと来た道とも違う方向へ爪先を向けたのだった。

 

「腹ごなしじゃ。少し付き合え」

 

「ん。了解」

 

頷いて隣に立つと、テクテクと歩き出した國臣くんが、徐ろに「して……」と口を開いた。

 

「先のわしの演技じゃが、おぬしの目から見てどうじゃった?」

 

「どうって、さっきの嗜被虐のあれ?」

 

「うむ」

 

頷いた國臣くんに、ぼくは少し考える。

 

「……あんまり嵌まってない感じかな」

 

最後の暴走を抜きにしてもね。

 ぼくの正直な感想は半ば予想されていたのか、國臣くんは特に気を悪くした様子もなく「じゃろうな」と頷いた。

 

「天楽坊を出た後、女の身でタチ(・・)を任される店を探しておっての。じゃが、わしはほれ、魔羅が自慢じゃろ? どうにも貝合せでおなごを相手にする店は肌が合わんでのう」

 

「さも当然のように振られても困るんだけど、まあそうだろうね」

 

海鶴の魔獣鉱脈で淫魔を組み敷いた國臣くんを思い返す限り、國臣くんの本分はあくまでも陰茎ありきの腰技だろうという気はした。

 

「ゆえ、張形を用いてタチをする店に潜り込んだのじゃが、なんというか……ちょっと違うんじゃよなぁ……。わしはタチじゃが、別に嗜虐趣味という訳ではないしのう」

 

「意味不明だけど、意図するところは何となく分かる」

 

挿入して攻めがしたいだけで、相手を痛め付ける趣味は無いってことだよね。

 

「こうなったら、男色家相手の店に潜り込むか? じゃが、そうなるとこいつ(・・・)が邪魔なんじゃよなぁ……」

 

そんな事をぼやきながら、國臣くんは自分の顔を掴んでグヌヌと呻く。まあ、修道趣味に受ける顔立ちじゃないよね。かと言って、お稚児さん趣味のお坊さんなんかを相手に出来るなら、天楽坊出てないし……、

 

「そうじゃ」

 

ぼくも頭をひねっていると、不意に隣の國臣くんがポンッと手を打った。……なんか、嫌な予感しかしないんだけど、いい考えが浮かんだの?

 

「ほれ、次の冒険の折に報酬に色を付けるとするじゃろ?」

 

「うん」

 

「そこで、道中おぬしが尻でわしに奉仕をしてくれれば「殺すよ?」

 

一片の容赦も無く、イワナガヒメがどうこうとか以前に、交合どころか命脈すら保てないくらい、ズタズタに斬り刻むよ?

 

「そう、釣れないことを言うでない。何ならわしの乳を揉ませてやるからどうじゃ? 交換条件じゃ!」

 

「そんな吸われただけでキレ散らかすような胸に価値はないからね?」

 

しかも、割とぺったんこだし。

 

「にゃにを! 小さい乳には小さい乳なりの汚し方と辱め方と嬲り方があるのじゃぞ!」

 

「そっちこそ、碌なこと考えてねぇじゃねーか」

 

しかも。ぼくより選択肢が酷いし。

 

「そもそも、大きい小さい以前に、野郎の胸じゃどれだけ譲歩されても何かする気は無いからね?」

 

「ぬむむ、このフニャチンめ」

 

「おう、今なんつった?」

 

このド変態は。

 

「大体、そっちなんか、付いてないじゃん」

 

「あ、それを言うか! 存在意義を奪われて傷心中のわしに、それを言うのか!!」

 

「傷心中の人間は人の尻を使おうとしな、って速っ!?」

 

身体的には冒険者じゃない一般人。何なら体躯に恵まれていない分、それ未満のはずの國臣くんの、異様に速い組付きに巻き込まれて、そのまま地面に背中を打つ。

 

「近くにも魔羅を取り戻した暁にはこの岩女山 國臣、これまで以上の浮き名を轟かせてやるわい!!」

 

「なんの決意表明だよ」

 

つか、浮き名は流すもので轟かすものじゃないだろと。

 

「ゆえに……紅夜!」

 

「なに? っていうか退いてもらえる?」

 

条件反射なのか知らないけど、腹の上で野郎に腰をヘコヘコされるのって、割と最悪の気分なんだけど。

 

「明日再び! 海鶴鉱脈へ挑戦するぞ!!」

 

「あ、予定決まったんだ」

 

取り敢えず、次の奉公先は決まったからかな。

 

「千年を越える生娘の膜をぶち破るため! いざ出陣じゃ!!」

 

「おーい、言い方言い方」

 

つか、本人……本神?じゃないからね?

 

「股を洗って待っておれ!」

 

「そこは首……いや、この場合は股で良いのか?」

 

「ちなみにわしは数日洗っておらんでも一向にかまわんッッッ」

 

「聞いてないからね?」

 

二十六歳男の煮詰めに煮詰めた性癖とかさ。ま、それはそれとして。

 

「じゃ、明日の朝、また飯匙倩屋でいい?」

 

ぼくの確認に、國臣くんは「うむ!」と力強く頷いたのだった。

 

 

 

 

騎乗位の姿勢のままで

 

 

 

 

その後、ぼくにありもしない噂が立ち上ったのを知ったのは、翌朝訪れた飯匙倩屋で平助さんのニヤニヤ笑いを見た時のことだった。

 

 

 

 

 




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