「なぁ聞いたかよ、”極上の海賊の秘宝”の噂」
「あぁ、数百年前の女海賊が遺したっていう伝説の宝だな」
「そこまでは有名だけどな、俺は最近さらに詳しい話を聞いたんだぜ」
「おいおい、お前酔ってんのか? カミさんに叱られるぞ?」
「うるせぇ! 黙って話を最後まで聞きやがれ! ……なんでも今もその船が、幽霊船としてこの街の近辺で彷徨っているらしい」
「うへぇ……俺怖いの苦手なんだよな。あとで一緒にお手洗い行こうぜ」
「やだよめんどくさい。……どうやら満月の夜の0時。あー、昔風に言うなら、テッペンってやつだな。その時間に幽霊船を見たって奴がここ最近増えているらしい。どうだ、お前も行かないか?」
「だが断る!」
「言うと思ったぜ腰抜けが」
「んだとぉ? お? 殴り合いすっか? お?」
「『一緒にお手洗い行こうぜ』なんて30にもなって言ってるお前が殴り合いだぁ? おいおいお前こそ酔ってるんじゃねぇか?」
「んだとぉ!」
「かかってこいやぁ!」
……満月のテッペンに幽霊船……ですか。
「バイトさんはどう思いますか?」
「私だったら一度は見てみたいですね! 幽霊船!」
「おーい弟子ー、厨房手伝えー」
「あっ、はーい! すみませんお客さん。師匠に呼ばれてるので行きますね」
「あっいえいえ、大丈夫ですよ〜。焼き鳥、美味しかったです」
「ありがとうございます! では失礼します!」
……店員さんがいなくなって、寂しくなったので私はお会計をすることにしました。
「a! 730円になり……なり……なります!」
なんかサメのコスプレした子がレジやってたけど、あそこって居酒屋じゃなくてコンカフェだったのか?
……まあいいか。
幽霊船、そして”極上の海賊の秘宝”。
私が大好きなおとぎ話だ。
今夜は満月! 0時に、なけなしのお金で買った小舟で幽霊船を探しますか!
……あとテッペンって死語じゃないよね?
……死語じゃ………な、………ない………ですよね?
■■■■■■
ほ、本当にありましたよ幽霊船。
私の船の何十倍も大きいですね。
コレだけ大きければ中にある財宝の数も期待できます。
で、でもやっぱりいざ乗り込むと思ってたよりも怖いですね。ギギギ……ギギギ……って揺れてますよ。
船内を散策していると床で何かが光り輝いていました。満月なのでよく見えますね。
拾い上げてみるとそれはそれは綺麗なアクアマリンでした。
拾い上げた直後、突然船内から足音が聞こえてきました。
階段をゆっくりと降ってきています。
やがて姿を現したのは、長い白い髪の、何処か見覚えのある少女でした。
『それは、私のもの』
少女がそう言った直後、周りに落ちていた武器がふわふわと浮遊し始めました。
『若き盗人よ、代償は命を持って償え』
少女がそう言った瞬間周りで浮いていた武器が私を目掛けて飛んできました。止まない雨のように延々と追いかけてきます。一発一発が弾丸のように速くだいぶ苦戦しましたが、接近戦へと持ち込み、反撃に成功しました。
足場は崩れ、少女は泡沫のように沈んで行きました。
なんとか戦闘に勝利できた私は急いで”極上の海賊の秘宝”を探し始めました。
宝物庫のような部屋を見つけました。
中には目の眩むような金銀財宝があたり一面に広がっていました。その中でも特に目を引いたのは赤いガーネットでした。
持ってきた袋に急いで宝を入れていると、またあの少女の声が聞こえました。
『それは私のもの。そう私のものだ』
さっきと同じように周りの武器が宙に浮かび、こちらに向かってくる。
しかもガイコツに呪いが宿って追いかけてきました。
お宝を持ちながらじゃ無理だ!
私は宝を一度置いておいて逃げました。
でも宝箱の前で追い詰められちゃいました。
亡霊たちが私の体を掴み、少女には首にナイフを当てられてしまいました。
「まだまだぁ!」
『!?』
私は少女の手をあえて引っ張って、亡霊たちを引き剥がしました。
そのはずみで宝箱が開きました。
その瞬間宝箱から眩い光が溢れ出しました。
宝箱の中にはうずくまりながら白骨化したであろう死体がありました。
それを見た瞬間少女は苦しみだし、手が透けているようにも見えました。
そして少女は宙へと浮かび、髪色が変わったのです。
そこでやっと私は気がつきました。
少女の服の胸あたりには、何かがあったであろう傷跡があったのです。
そして見覚えのあるなと思っていたアクアマリン。
そしてあの髪色。
「貴方は、私だったんですね」
そう気がついた瞬間宝箱から金貨の龍が現れました。
幽霊の私は龍の頭に立っています。
龍の咆哮ひとつで船が真っ二つに割れるほどの威力です。
でも、私は決めたんです。
貴方を救いたいと。
金貨の龍の背を走り抜けて、私は金貨の龍の頭を剣で突き刺しました。
その一撃で金貨の龍は砕け、幽霊の私は私に怯えていました。
そんな私を、私は剣を捨てて抱きしめました。
幽霊の私はきょとんとしていましたが、自分が受け入れられたことで泣いてしまいました。
暫くして幽霊の私が喋り出しました。
『「マリンのお宝は…この景色とここにいるキミたちです」……だなんて、もう遅いかな?』
「ううん。遅くなんてないよ。きっとみんな向こうで待っててくれてるよ」
『そう……だね。ありがとう、私。……この船は貴方のもの。今度は貴方のもの。どうか、私の様にはならないでね』
「約束する。約束するよ! 7つの秘宝や伝説のエルドラドを見つけた後、今度は私がみんなと必ず──必ず一緒にいるよ!」
『──ありがとう』
故郷の港町から鐘の音が聞こえる。
幽霊の私はどんどんと薄くなっていく。
『私ね、アクアマリンに宿っていたんだ。昔、大切な人からもらった、一味のみんなに見つけてもらった大切な、大切な宝物だから』
「……うん」
『だから私に託すね』
「……うん」
『頑張ってね。未来の私』
「お疲れ様、過去の私」
夜明けとともに鐘の音が聞こえる。さっきよりも大きく響いている。
『この船の名前はね、『宝鐘海賊団』っていうんだぁ……そっちは?』
「『宝鐘海賊団』だよ」
『そっかぁ……お揃いだね』
「…うん、そうだね……」
もう、幽霊の私の下半身は消えている。
すぐに上半身も消えてしまうだろう。
『”極上の海賊の秘宝”はね、私と、一味のみんなだったんだよ?』
「うん、今度はしっかりと手に入れるよ」
『頑張ってね』
「うん…」
私の目から涙が溢れ出ている。
『キミたち……おま…た……せ…………』
そう言って幽霊の私は成仏していった。
こうして曰くを宿した船は、希望を残して航くこととなった。
幽霊船に、宝の鐘が響くこと。
それが幽霊船戦の決着だった。