太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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アルタラス解放

ル・ブリアス奪還

 

■アルタラス王国、旧王都ル・ブリアス。

 

 王宮の尖塔にパーパルディア皇国の旗が翻っていた。

 王都のい石造りの街並みは、一見すると以前のままのようだった。

 ただ一つ、街から笑顔が消え失せていることを除いては。

 

 統治機構の役人の姿が見えると、母親たちは慌てて娘を家に押し込んだ。

 

 反政府組織の疑い。

 

 その一言で、家は荒らされ、多くの住人が連行された。

 

 市場では、皇国の役人が商人の帳簿を取り上げていた。

 

「申告が少ない。隠しているだろう」

 

「そんなことはありません。これが全てです」

 

「では、家を調べる」

 

 商人の顔から血の気が引いた。

 

 金目の物は没収され、若い娘がいれば、取調べと称して連行される。

 

 それを知っているからこそ、彼は膝をついた。

 

「お待ちください。追加の納付金なら、どうにか」

 

「最初からそう言えばよいものを」

 

 役人は薄ら笑いを浮かべた。

 

 広場の反対側では、若い男が皇国兵に殴られていた。

 

 周囲の者は、見ていることしかできなかった。

 

 

 ル・ブリアス南方に、反攻軍の司令部が置かれていた。

 

 テーブルに地図が広げられ、街道、南門、港、兵舎、王宮が、小石や木片で示されていた。

 

 ルミエス王女は、その地図の前に立っていた。

 

 背後には、小さな黄色い太陽が描かれた二色旗があった。

 アルタラスの旗である。

 

 その隣には、旧王国で騎士団長を務めたライアルが立っていた。

 

 天幕の外では、兵士たちが装備を点検し、馬車とトラックの間を伝令が行き交っていた。

 

 

 シルウトラスを発った反攻軍は、各地に散っていた兵士や義勇兵を集めながら、千五百を数えるまでになっていた。

 

 小銃、軽機関銃、迫撃砲。剣と弓。

 練度も装備もまちまちであったが、思いは共通していた。

 

 王都を取り戻すという意思である。

 

 

 反攻軍の突破力を担うのは、イルメリアから供与された装甲車両群である。

 

 スクタトス歩兵戦闘車、十二両。

 

 スクタトス対空戦闘車、四両。

 

 輸送および補給トラック、十二両。

 

 数こそ少なかったが、反攻軍にとって貴重な戦力であった。

 

 

 ライアルは地図上の港を指差した。

 

「監察軍艦隊が残れば、王都入城後、背後から攻撃を受けます」

 

 

 イルメリアの連絡士官がうなずいた。

 

「港は、こちらで沈黙させます。ただし、王宮には攻撃を加えません。市街地への損害を抑えるためです」

 

 ルミエスは静かに答えた。

 

「王宮は、私たちが取り戻しましょう」

 

 ライアルは王女を見た。

 

「では、港への攻撃に合わせ全軍前進。第一隊と第二隊は南門へ。装甲部隊は城壁の魔導砲を攻撃。迫撃砲は兵舎を抑えろ。我々で王宮を奪還する」

 

 ルミエスは地図の上に手を置いた。

 

「始めましょう。王都を取り戻します」

 

 

 ル・ブリアスの港には、三十隻ほどの艦が停泊していた。

 植民地の警備を任された皇国監察軍の旧式戦列艦やフリゲート。

 

 港に浮かぶその姿は、まさに占領の象徴そのものだった。

 

 

 その日、皇国軍の見張りは上空からの侵入者に気づいた。

 翼端にエンジンを搭載した、見慣れない機体である。

 

「飛行機械だ!」

 

 見張りが悲鳴を上げたが、艦隊にはそれを迎え撃つ対空火器はなかった。

 

 

 フェン王国から飛来したのは、イルメリアのコリダリス攻撃機。

 全長十七・五メートル、最大速度六百六十五キロの軽攻撃機である

 

 

 コリダリスの機首で火花が瞬いた。

 十二・七ミリチェーンガンが甲板を薙ぐ。

 次いで、翼下から白煙を引いて七十ミリロケット弾が射出された。

 

 戦列艦の砲甲板が内側から爆発した。

 帆布に燃え移った炎は、乾いた索具を伝って一気に上へ走った。

 その隣の艦は魔導砲用の魔石に火が回り、炎を吹き上げていた。

 

 戦闘ヘリ程度の火力しかない機体でも、帆走艦を相手取るには十分だった。

 

 

 監視塔にいた兵士は、南方街道に上がる土煙を発見した。

 

 最初は商隊かと思えたが、隊列が掲げていたのは、アルタラス王国旗だった。

 

 その下を進む兵士の装備はまちまちだったが、歩調は乱れていなかった。

 

 先頭近くを鉄の馬車が進んでいた。

 車体の側面には、金色の十字が描かれていた。

 

 その後方には、幌をかけた輸送トラックが続いていた。

 荷台には兵士が乗り、銃口は外に向けられていた。

 

 アルタラス王国の反攻軍である。

 

 

「敵襲! 南方街道より敵襲!」

 

 監視塔から放たれた魔信は、王都外縁の守備隊へと伝わった。

 

 守備隊長は、最初その報告を信じなかった。

 

「アルタラスの兵だと? まだそんなものが残っていたのか」

 

 だが、続く報告は彼の顔色を変えさせた。

 

「敵は歩兵多数、鉄の馬車を伴い、マスケットのようなものを持っています」

 

 守備隊長は舌打ちした。

 

「門を閉じろ。竜騎士を出せ。反乱軍など、空から散らせばよい」

 

 その命令は、すぐに崩れた。

 

 港から黒煙が上がったからだった。

 

 次いで、南門付近の城壁に迫撃砲弾が落下した。

 

 飛竜の待機所、兵士の詰所、魔信施設。

 

 その一つ一つに砲弾が降りそそいだ。

 

 パーパルディア兵たちは、ここで初めて気付いた。

 

 この攻撃は衝動的なものではなく、計画的な武装蜂起であると。

 

 

 南門前で、反攻軍の歩兵は一度足を止めた。

 

 城門は閉ざされ、門楼では兵士がマスケット銃と弓を構えていた。

 

 ライアルは指揮車両から城門を睨んだ。

 

「装甲車両を前へ。門は壊すな。敵だけを潰せ」

 

 

 低いエンジン音が地面を震わせ、スクタトスが前に出た。

 

 砲塔がゆっくりと動き、門楼に向けられた。

 

―ドドドンッ

 

 たった一度のバースト射撃で門上の足場が砕かれた。

 

 

 続いてイルメリアの工兵が走り、門の構造と閂の位置を確認した。

 

「破れます」

 

 ライアルはうなずいた。

 

 閂と留め金だけが爆破され、城門が内側に倒れこむ。

 

 

 最初に門をくぐったのは、反攻軍の下士官ヴィダルである。

 

 彼は古びたライフルを肩にかけ、片手に王国旗を握っていた。

 

「王都に入ったぞ!」

 

 反攻軍から歓声が上がった。

 

 

 南門を抜いた反攻軍は、王宮のある高台に向かった。

 王都は戦場に変わっていた。

 

 パーパルディアの兵が、広場や交差点に陣取っていた。

 統治機構の役人たちは、書類や金品を抱えて逃れようとした。

 監察軍の一部は、建物の角からマスケット銃を放った。

 

 反攻軍は、通りを一つずつ押さえながら進んだ。

 

 装甲車両は通りの中央で停止し、皇国の陣地を吹き飛ばした。

 歩兵はその後方で、家々から逃れ出てきた市民を誘導した。

 

 ルミエスは指揮車から市街を眺めていた。

 

 歓声はまだ少なかった。

 人々は窓や戸口の影から、恐る恐る様子をうかがっていた。

 

 

「王宮前広場まで、あと二町」

 

 伝令が報告した。

 

 ライアルがうなづく。

 

「第三隊を右翼へ。統治機構庁舎を封鎖する。逃げる役人は捕らえろ」

 

「はっ」

 

「王宮に向かいます、姫様」

 

 ライアルはルミエスを見た。

 

「ここから先は、敵の抵抗が強くなります」

 

「分かっております」

 

「王宮の門は我々が破ります。姫様は旗が上がる瞬間にお入りください」

 

 ルミエスは少し考えてから言った。

 

「任せました」

 

「必ず」

 

 ライアルはそう答え、前線に向かった。

 

 

 白い石壁と尖塔を持つ王宮は、アルタラス王家の象徴であった。

 

 統治機構の役人と監察軍の残兵は、王宮に逃げ込んでいた。

 港の艦隊は沈黙し、南門は破られ、市街地は制圧された。

 それでも彼らは、王宮に籠もれば時間を稼げると考えていた。

 

 反攻軍は、王宮前の広場で停止した。

 

 スクタトスIFVは通りの角に展開し、砲塔を王宮に向けた。

 だが、王宮へ入る突入隊はアルタラス人のみで編成されていた。

 

 ライアルがその先頭に立った。

 

 王宮の正門を越えなければ、王都を取り戻したことにはならなかった。

 

 王宮の窓からパーパルディア兵がマスケット銃を突き出した。

 魔法弾が石畳を削り、矢が盾に突き立った。

 反攻軍は軽機関銃で応射し、火点を潰していく。

 

 工兵が門に取り付いた。

 留め金が砕かれ、扉が押し開かれた。

 

「突入!」

 

 反攻軍が王宮になだれ込んだ。

 

 廊下は狭く、銃声が石壁に反響した。

 階段の踊り場では、監察軍の兵が槍を構えていた。

 反攻軍の兵は盾を前に出し、横から回り込んだ。

 豪奢な絨毯は泥と血に汚れ、壁にかけられた王家の肖像画は硝煙で霞んだ。

 

 ライアルは大広間へと進んだ。

 

 そこには、パーパルディアの統治官がいた。

 彼は王座の前に立ち、なおも皇国の権威を口にしていた。

 

「ここは皇国統治下の施設である。反乱者どもが踏み込んでよい場所ではない」

 

 ライアルは足を止めなかった。

 

「そこは、アルタラスの玉座である」

 

 統治官の護衛が前に出た。

 

 短い戦闘で護衛は倒され、統治官は床に押さえつけられた。

 彼はなおも喚いたが、誰も耳を貸さなかった。

 

 ライアルは大広間の奥へと歩み、王座の背後に掲げられていた旗を見上げた。

 

「降ろせ」

 

 兵士が皇国旗を引きずり下ろした。

 

 

 その日、ル・ブリアスの尖塔に、アルタラスの旗が翻った。

 

 王都はアルタラス人の手で奪い返された。

 

【挿絵表示】

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。
沖縄・アルタラス編は終了です。
次回から、パーパルディアの斜陽に移ります。

【挿絵表示】
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