スクール下克上・超能力に目覚めたボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました   作:鏡銀鉢

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どうやら俺は超能力者だったらしい

 リア充かボッチかと聞かれれば、俺はソロ充だと答えるつもりでいた。

 

 俺に恋人はいない。

 友達もいない。

 けれど、リアルが充実していないわけではない。

 

 小学生の頃から毎日好きなゲームを二時間以上プレイして、好きなお菓子を食べて、お気に入りコンテンツの新作情報に胸を躍らせ、一人でカラオケを熱唱して、飲食店で好きなモノを注文して食べてきた。

 

 時間も労力もお金も、他人を気にすることなく自分のために使い、人生を謳歌してきた。

 

 むしろ、社会的地位なんて無いに等しい小中学生のクセに、マウントを取り合ったり、ボッチを回避したり、インスタのイイネを稼ぐべく、好きでもないことに時間と労力とお金を浪費している連中を眺めていると、何と戦っているんだろうと思う。

 

 だから、一人でも人生が充実している俺はソロ充で勝ち組だと思っていた。

 

 けど、俺はそうした連中にいじめられていた。

 

 その都度、ガツンとやり返す俺は強いと思っていた。

 

 でも、中三の秋、口裏を合わせる証人のいる連中の言うことが真実となり、担任は俺に、謝罪をしなければ高校への推薦状は書けないと言ってきた。

 

 無実の罪で頭を下げさせられた時、俺は自分がボッチなのだと気が付いた。

 

   ◆

 

 高校入学から一週間。

 2040年4月12日の木曜日。

 

 四時間目の数学を受けている俺は、黒板や数学教師ではなく、目の前のMR画面に注目していた。

 

 耳の裏に装着しているデバイスは、常時、学内ローカルネットと接続されている。

 

 そのデバイスが、MR黒板と同じ数式を表示している。

 

 数学教師が、自分の手元に表示されているMR画面を操作すると、黒板に重なるようにして表示されているMR映像が更新されて、生徒一人一人の目の前に表示されるMR画面も、更新される。

 

 AR技術とMR技術が発達し、皮膚に装着したウェアラブルデバイスが脳に直接電気信号を送り、五感に補正をかける現代では、教師の顔や黒板を見る生徒はいない。

 なのに……。

 

「えー、では奥井(おくい)、次の問題、解いてみろ」

「はい」

 

 30代の男性数学教師に指された俺は立ち上がり、問題文を読み上げた。

 

 これだけ科学が進歩しても、学校はリモートにならず、生徒たちを校舎に集め、教師と同じ部屋で口頭の授業を受けさせ、わざわざ立ち上がって問題を解かせる。

 

 何故それが必要なのかを忘れ、考えもせず、妄信して、無意味なものを、【伝統】の二文字で覆い、残そうとするのは、大人の悪癖だ。

 

 40年後、今の文部科学省の大人が全員退職した後に何か変われば上出来だ。

 

「なのでXイコール――」

 

 答えを言おうとした瞬間、首筋に冷やりとした衝撃が走った。

 

 まるで、氷の塊をシャツの衿から背中に入れられたような。

 

 俺は素っ頓狂な声を上げて、その場で背筋を仰け反らせた。

 

 ――違う。ようなじゃない。これは本物の氷だ。

 

 教室のみんなが笑う中、俺はバタバタと、慌ただしくシャツをズボンから抜いて、氷を握りしめた。

 

 氷は表面が溶けていて、濡れたシャツの感触が気持ち悪い。

 

 こんな低俗なことをする馬鹿は、一人しかいない。

 

 怒りで眉間に縦皺を刻みながら、俺は勢いよく振り返った。

 

「坂東(ばんどう)!」

 

 後ろの席に座る長身の男子は、コワモテにニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら、鼻で笑った。

 

「あ? なんだよ奥井。授業中に変な声出しちゃって?」

「お前のせいだろ!」

 

 俺が手の平を開いて突き出してやるも、坂東は余裕を崩さなかった。むしろ、計画通りとばかりに、喉の奥で愉快な笑いを押し殺していた。

 

「おいおいまたかよ奥井ぃ。そうやっていつもオレを悪者扱いするのやめろよなぁ。俺が氷を入れた証拠がどこにあんだよ?」

「どう考えたって、お前の超能力、【アイスキネシス】だろうが」

 

 俺は声を荒らげて抗議するも、坂東は涼しい顔だった。

 

「だーかーらー、証拠がないっつってんだろ?」

 

 坂東は人を馬鹿にし腐った声を上げて立ち上がる。

 

「お前が家から持ってきた氷を授業中に背中に入れての自作自演かもしれねーじゃん。もちっと頭使えよ、ん~?」

「ッッ」

 

 坂東の言う通り、俺の背中に入れられた氷は、形も大きさも、冷凍庫の氷ケースで作れるようなシロモノだ。

 

 坂東が、アイスキネシスで作った証拠はないし、こうしている間にも唯一の証拠品である氷はみるみる解けて、自動隠滅されようとしている。

 

「たく、証拠もねぇのに人を悪者扱いとか頭悪すぎ。そういう決めつけはよくないでちゅよ奥井ちゃ~ん」

 

 声にわずかなドスを込めて、坂東は長身から俺を見下ろしてきた。

 

 ガタイが良くスポーツ万能の坂東に見下ろされると、けっこう迫力があった。

 俺はチビじゃないのに、こいつとの身長差は年々開いている気がする。

 

「つうか、この氷帝・坂東亮悟(りょうご)様が、なんでテメェみたいな低能にかまわないといけないんだよ? 相手見てもの話せよ低能!」

「小一の時からお前が近くにいる時しか起きてないだろ!」

「せんせー、また奥井がオレに冤罪をかけてきまーす。こういうのはいけないと思いまーす」

 

 今度は、ころりと平坦な声を作り、坂東はそうそうに判断を数学教師に投げた。

 

 数学教師は、面倒くさそうに眉をひそめて、眼鏡の奥から、ジロリと俺を睨みつけてきた。

 

「奥井、授業中に騒ぐな」

「でも」

「坂東がやった証拠はないんだろ? それにそういう個人的なことは休み時間にやれ。お前はもういい。吉本、問題の続きを解け」

 

 他の生徒が立ち上がると、坂東は勝ち誇った顔で席に座った。

 

 俺も、理不尽な状況への憤りを押し殺しながら、着席した。けれど、もうまともに授業を受ける気分にはなれなかった。

 

   ◆

 

 四時間目が終わって昼休みになると、俺は二階の購買でコロッケパンを買って、テラスの飲食スペースを目指した。

 

 高校に入ったらお弁当、というのも考えたが、そんなものを鞄に入れておけば、坂東たちが何をするかわからない。

 

 なんの因果か、あの劣悪男子、坂東亮悟と俺は小学校一年生の頃から、10年連続同じクラスだ。

 

 それは同時に、このゴミみたいな学園生活が、10年目に突入したということでもある。

 

 そして、教師たちの対応は、一貫して俺の頭を押さえつけるものだけだった。

 

 そもそも、教師とは教育大を卒業すれば社会に出ることなく学校に勤務し、22歳の若さで親子ほど年の離れた保護者から【先生】と敬語を使われ、目下の子供たち数十人を支配する役職に就く。しかも、安定した公務員で降格も減給もない。

 

 結果、社会を知らない坊ちゃん学生は、権力者気取りのバカ殿様と化す。

 

 教師にとって生徒間トラブルは、自分の仕事を増やす面倒ごとであり、コスパ重視で立場の弱い生徒を黙らせることしかしない。

 

 ちなみに、熱血教師ドラマに憧れて教師になった奴は、別の意味で厄介だったりする。頭がドラマ脳なので、

 

『坂東君は不器用なだけで本当はお前とお友達になりたいんだよ!』

『同じクラスの仲間をお前は信じられないのか!』

『よし! じゃあ坂東と遊ぶんだ! そうすればお互いの理解も深まるさ!』

 などと言い出す。頭が痛い。

 

 

 広い中庭の見えるテラス席は、今日も混んでいた。

 

 板張りの床に並んだ白い丸テーブルの間を縫うように歩いて空席を探すと、奥に誰も座っていないテーブルを見つけて、なんとか確保する。

 

 今日は運がいい。

 

 けど、坂東の一件で、気分良くコロッケパンを食べることはできなかった。

 

 頭の中は沸々とした怒りでいっぱいで、喉には溜飲が溜まり、コロッケパンの味もわからない。

 

 ――これから三年間、あの馬鹿と同じ学校で過ごすのか。

 

 そう考えるだけで、脳味噌が石化していくように頭が重く、不快な気分になっていく。

 

 坂東亮悟は、およそ考えつく限り、最低の人間だ。

 

 傲慢で嫌味で他人を攻撃することが大好きで性格はジャングルジムのようにねじくれ、【自分】の脚本通りに動くことを【他人】に強要し、自分にはそれだけの権限があると思い込んでいる。

【地球中心天動説】ならぬ、【自分中心他動説】を、地でいく男だ。

 ――しかも、なんだってあんな奴が【超能力】を持って生まれてんだよ。

 

 

 2040年現在。世界では、100人に一人の割合で、超能力者が生まれると言われている。

 

 今から十数年前、世界中で超能力少年が見つかり、彼らはお茶の間の人気者になり、一大超能力ブームが起こった。

 

 けれど、超能力者が次々見つかり、非日常は日常になり、ブームは去り、超能力は左利きや天然パーマ同様、個性の一種になった。

 

 国と地域によっては、超能力者が迫害されたり崇拝されたりしているらしいけど、日本では、人による、という感じだ。

 

 実際、いじめにあっている人もいるけど、坂東は小学校時代から男子のリーダー格というポジションを欲しいがままにしている。

 

 ――超能力があるからあんな性格なのか、元から歪んだ性格が、超能力のせいで増長しているのか……いや、きっと後者だろう。だって……。

 

 自然と、視線が横に流れる。

 

 二つのテーブルを使う大グループの中で、癒し系アイドルのように扱われているのは、長い黒髪をハーフアップにした、目の覚めるような美人だった。

 

 落ち着いて大人びた雰囲気。声は柔和で、大きなタレ目は親しみやすく、つい気を許してしまいそうになる。

 

 彼女を視界に入れて、目を留めない人はいないだろう。

 

 自分が一番でないと気が済まない自己顕示欲の強い一部の女子でさえ、敗北感の後にほだされてしまいそうだ。

 

 内峰美稲(ないみねみいな)。

 隣クラスの、同じ一年生だ。

 

 入学一週間にして誰もが認める学校一の美少女で、全男子憧れのマトだ。

 

 彼女も超能力者だが、気取った風はなく、社交的で人当たりが良く、誰に対しても優しい、慈愛が服を着て歩いているような少女だ。

 

 ――同じ超能力者でも、坂東とは月とスッポンだな。

 

 そして、そのスッポンが徒党を組んで現れた。

 

 

 テラス席に乱暴な足音がどやどやと乗り込んできて振り返ると、坂東が取り巻きの男子たちを引き連れてきたところだった。

 

 そのまま、俺と目が合うと、獲物を見つけたハイエナのように獰猛な笑みを浮かべた。

 

 坂東は大股に、まっすぐこちらに向かって歩いてくると、周囲を意識しながら声高に叫んだ。

 

「おいおいおい、駄目だろ奥井。テーブル席を一人で占領して少しはみんなの迷惑を考えろよな」

 

 誰よりも迷惑を考えない奴に言われたくない。

 

 けど、坂東にとっては俺を攻撃出来ればそれでいいのだろう。

 

 いつだって俺を攻撃できるポジション取りをするので、もう坂東はキャラがブレブレだ。

 

 この馬鹿をどうあしらおうか考えていると、取り巻きたちまで騒ぎ出す。

 

 トドメとばかりに、坂東が声を荒立てた。

 

「迷惑野郎がスカしてんじゃねぇぞ。とっととどけよ。マナーを守れマナーを!」

 

 もう立ち位置がわけわかんなくなっている馬鹿とかかわること自体がうっとおしかったので、俺は黙って立ち上がり、その場を後にした。

 

 そして坂東たちは、俺の立ち退いたテーブルに座った。

 

 ――周りの迷惑と言っておきながら、自分らが座りたかっただけだろ。

 

 俺は心の中で吐き捨てた。

 

 背中越しに、取り巻きたちのバカ騒ぎが聞こえてくる。

 

「奥井ってほんと迷惑ですよね」

「まぁな、オレ、ああいうマナーの悪い奴って放っておけないんだよね」

「亮悟は正義感強いからな」

「亮悟さんて付き合っている女いないんすか?」

「ばっかお前、亮悟さんは【能力者】だぞ。そこらの女が釣り合うかよ!」

 

 明らかに、内峰を意識した発言。

 

 振り返れば、どいつもこいつも、内峰のほうをチラチラと意識しながら坂東を持ち上げて、坂東も正義の味方面をしている。

 

 けれど、内峰はまるで聞こえていないように、自分のテーブルの人とだけ会話していた。

 

 内峰のことが好きなのは、坂東も例外じゃない。

 

 加えて、同じ超能力者同士、自分と付き合うのが当然だと思っている節がある。

 

 けど、現実は御覧の通りだ。

 

 その光景は、ちょっと気分がいい。

 

 反面、失恋した時の八つ当たりは俺に向けられるんだろうと思うと、気が重かった。

 

   ◆

 

 重たい気分を引きずったまま、五時間目も終わり、迎えた放課後。

 

 初老の男性担任は粛々と帰りのホームルームを進行し、連絡事項を口頭で告げながら、同じ内容のメッセージファイルを、俺らのデバイスに送りつける。

 

 学校さえ終わってしまえば、坂東たちとは無関係だ。

 

 小学校と中学校の頃は、放課後になれば胸のすくような解放感に溢れ、喜んで家に帰った。

 

 でも今は、どうしたら坂東と縁を切ることができるかと考えるばかりだった。

 

 俺が狙われる理由は明白だ。

 

 俺が、浮いているからだ。

 

 幼い頃から、誰もが坂東の超能力を褒め称える中、俺は無関心だった。

 

 ついでに、クラスで唯一SNSをやっていないし、みんなの間で流行っている各種コンテンツにも、無関心だった。

 

 それが、坂東たちには目についたらしい。

 

 曰く、

 『スカしてんじゃねぇぞ!』

 『みんなとは違う俺カッコイイとか気取ってんのか目ざわりなんだよ!』

 ということらしい。

 

 そういえばイジメが始まったのは、坂東が自分のSNSをフォローしてイイネをつけるよう言ってきて、それに対して『俺SNSやってないから無理』と言った翌日からだった気がする。

 

 でも、今更SNSを初めたところで遅いだろう。

 

 ――詰んでるなぁ、俺の人生……。

 

 数は力。少数派は、いつだって多数派の暴力に踏みにじられる。

 

 俺は、一生坂東には勝てないだろう。

 

 十五歳の春にして苦い現実に打ちのめされ、虚しさでうつむいた時、

「連絡は以上だ。でも今日はしばらく帰るのは待っててくれ」

 担任の声に、俺は顔を上げた。

 

 みんなも、隣近所となんだなんだと騒ぎ合う。

 

 俺も頭の中で、日付や曜日を確認しながら、今日は何か特別なことがあったかと考えを巡らせた。

 

 教室のドアが勢いよくスライドしたのは、次の瞬間だった。

 

 

 

「やぁ、待たせたな諸君」

 雄々しい声とたくましい足取りで入室してきたのは、黒スーツとタイトスカートに身を包んだ、覇気漲る美女だった。

 

 顔立ちはひたすらに凛々しく、世が世なら、薙刀一本で軍をまとめあげ、天下に覇道を布いて然るべき人相だった。

 

 体格も、男子にひけを取らない長身で、要塞のような威圧感を持つバストの重量に負けることなく、背筋は鉄筋のように伸びている。

 

 教卓の横でくるりと腰を回して、彼女は凛とした視線で俺らを射抜いた。

 

「私は総務省管轄、異能部部長、龍崎早百合(りゅうさきさゆり)24歳だ。今日は、さる国家プロジェクトの人材集めの為、超能力者の招集に来た!」

 

 クラス中の視線が、坂東に集まった。

 

 坂東は、口角を上げて、待ちわびていたかのように笑った。

 

 まるで、売れっ子役者が、ハリウッド映画の主演オファーを受けたかのような態度だった。

 

 けど、龍崎さんは坂東を一瞥もせず、クラス全体へ語り掛けるように、話を続けた。

 

「既に異能部では何人もの能力者に協力を要請し、念写、探知、サイコメトリー能力者の力を借りて、日本中の超能力者を特定し、招集している」

 

 龍崎さんが廊下へ目配せをすると、坂東以外では一年生唯一の超能力者、内峰美稲が、綺麗な黒髪を揺らしながら、やわらかい足取りで入ってきた。

 

 その後ろには、見慣れない美少女が歩いている。

 

 やや小柄で、栗毛のショートカットをワンサイドアップにした、可愛らしい女の子だった。

 

 内峰と同じ優しそうなタレ目だけど、内峰のような大人びた感じはない。むしろ、未だに中学一年生のような初々しさがあった。

 

 ――彼女も、この学校の超能力者だろうか? だとしたら、上級生?

 

 世界初の超能力者が生まれたのは十八年前だから、計算は合う。

 

 二人の美少女と美女の登場に、クラスの男子たちは色めき立ち、全員、謎のキメ顔を作っている。なんてあさましい光景だろう。

 

「彼女は恋舞舞恋(こいまいまいこ)。昨年度より協力してもらっている、サイコメトリー能力者だ」

 

 どうやら、うちの生徒、というわけではないらしい。

 

 サイコメトリーは、確か、触れた対象の情報や、過去に何があったかを読み取る能力だったな。

 

「彼女は優秀な能力者でね。触れなくても、視界に入れるだけで、相手が能力者かどうか判別できる。恋舞舞恋、事前の念写調査で、このクラスに超能力者がいるらしいんだが、誰かわかるか?」

「そんな必要はないですよ」

 

 やや食い気味に、坂東が悠々と立ち上がった。

 

 気取った笑みで前髪をかきあげ、思い切りカッコをつけてから、坂東は芝居がかった口調で言った。

 

「オレがこの学園最強の超能力者、坂東亮悟です。もっとも、みんなは氷帝って呼びますけどね」

 

 ――誰も呼んでいない。いつもお前が自称しているだけだ。

 

 俺は心の中でツッコんだ。

 

「まっ、オレは学生の身分ですけど、国のためなら力を貸しますよ。内峰、これからはこの学校を代表して、一緒に頑張ろうぜ」

 

 ナンパ師のようにわざとらしい笑みで、坂東は早くも内峰に媚びを売り始めた。

 

 内峰は嫌がることなく、いつもの優しい表情で「うん、がんばろ」と愛想笑いを返した。

 

 その光景に、俺は嫌な気分になった。

 

 別に、内峰のことが好きで取られた気分になった、というわけではない。

 

 流行りに流されない例に漏れず、俺は他の男子たちとは違い、内峰に恋愛感情は抱いていない。

 

 魅力的な女子だとは思う。

 

 他の、頭の軽そうな女子とは違い、内峰は大人びていて、知的で品がある。

 

 でも、それだけだ。

 

 俺は内峰のことを詳しくは知らない。

 

 俺の持つ内峰への好感は、アイドルの女の子を見て『ふーん、綺麗な子だね』というのと変わらない。

 

 男女の仲になってお付き合いをしてデートをしたいとか、そういう感情は無い。

 

 俺が嫌だと思ったのは、坂東にとって都合よく世界が回る現状にだ。

 

 世の中が不平等なのは知っている。

 

 今更そんなことに文句を言うほど子供じゃない。

 

 でも、悪人に幸運が転がり込むと、やっぱり嫌な気持ちになってしまう。

 

「あ、龍崎さん、あの人はアイスキネシスの持ち主なんですけど……」

 

 恋舞と呼ばれた、栗毛をワンサイドアップにした女子が、ためらいがちにこちらへ歩いてきた。

 

 俺の背後の席に立つ坂東が、何かを期待する顔で待ち構えた。

 

 そして、恋舞は俺の横を通り過ぎ……ずに踵を返した。

 

「ん?」

 

 俺を見下ろす彼女と目が合った。

 

 近くで見ると、ますます可愛いらしい。

 

 人畜無害そうというか、思わず守ってあげたくなってしまう、そんなタイプの女の子だ。

 

 初対面なのに、勝手に家庭的とか、子供に好かれそうとか、色々と想像が膨らんでしまう。

 

「この人も、超能力者です。テレポーターです」

 

「へ?」

 

 それは俺と、そして教室中の口から出た疑問符だろう。

 

 虫の足音でさえも聞こえそうな静寂を、坂東が破った。

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