スクール下克上・超能力に目覚めたボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました   作:鏡銀鉢

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稼げ2000兆円!

 ひとまず、学園の生徒たちを総務省に連れて来て、それから俺ら能力者は講堂の席に着いて、早百合部長の緊急報告に耳を傾けた。

 

「まず、貴君らには今一度、我々の置かれた状況をまとめておこう」

 

 早百合部長は眉間にしわを刻み、声は怒りどころか、憎しみで濁り切っていた。

 

 ――怖ぇ……。

 

「日本の年間予算は100兆円。だが税収は50兆円。足りない分は国債を発行することで賄っていた。国債とは債権、借用書のようなものだ。日本は50兆円分の国債を国内外の投資家や銀行、保険会社に売る、つまり借金をしている。その額は実に2000兆円だが、悲観することはない。自分で自分にしている借金だからだ」

 

 その話は、以前にも聞いた。

 

「何故なら国債の大半は日銀こと日本銀行が買い取っているからだ。日銀は政府機関で身内だ。政府が日銀に借金をしても、それは同一人物が財布を二つ使い、財布Aが財布Bに借金をしていると言っているようなものだ。日銀は政府の必要に応じて一万円札を刷り、表向き、借金という名目で政府に渡している。だから借金が2000兆円あっても日本は破産しない。な、の、に、だ!」

 

 早百合部長の額に、青筋が浮かんだ。

 

「総理は日銀総裁に次期財務大臣のポストを約束しておきながら、お友達人事で仲の良い議員を財務大臣に据えた。腹を立てた日銀総裁は国債を買わないと言い出し、ならばと他の銀行や保険会社も国債を買わず、今年の日本の予算は税収の50兆円だけだ。その上、海外で日本円の価値が下がり輸入はできなくなった。だから、貴君らに協力を仰ぎ、50兆円を稼ぎながら輸入品目を手に入れて国内の企業を守った。そうしたら今度は次の償還日(返済日)、ようは年内に2000兆円、厳密には日銀保有分の1600兆円を払わないと資産を差し押さえるとはフザケた話だ!」

 

「あれ? でもサユリちゃん。確か日銀が保有している国債って返済義務がないんじゃなかったっすか?」

 

「その通りだ。厳密には、日本が来年返すという【借り換え証】を発行すれば来年に返済を繰り越せる。毎年行使している特例法だがな」

 

「それってもう特例じゃないんじゃ……」

 

「その通りだ。日銀総裁は先程、緊急記者会見で、本来は許されないことだから今年は【借り換え証】を受理しないと正式に発表した」

 

「いやいやいや、どう見てもただの報復じゃないっすか!」

「そうだ。報復だ」

 

 視線を鋭く、早百合部長は、冷徹な声で言った。

 

「日銀総裁の計画では、半分の予算に音を上げた総理大臣が謝罪し、次期財務大臣になるはずだった。だが、我々が日本を救ってしまった。それ故の第二攻撃だ」

「そんな横暴を独断でできちゃうんすか!?」

 

「日銀総裁、金田康則は金田法皇の異名を持つほど絶大な権限を持つ人物だ。日銀はおろか、日本国内のあらゆる銀行に金田派閥が蔓延り、日本の銀行、金融業界は金田康則が牛耳っていると言ってもいい。奴の決定に逆らう者などいないさ」

 

「どこの悪の総帥っすか!?」

 

 詩冴が素っ頓狂な声を上げ、早百合部長は頭を抱えた。

 

「まったく。日銀への借金を返せば国内から日本円が消滅するのに、なんという愚考だ」

 

 ――【日銀に】返したら日本円が消滅? なんか、妙な言い回しだな?

 

 詩冴に続いて、俺は手を挙げた。

 

「早百合部長、それはどういうことですか?」

 

「うむ、先程も話した通り。【借金】という名目にはなっているが、実際は経済規模拡大に伴い、日本政府が市場に流すべきと判断した通貨を日銀に増産させたに過ぎん。つまり、借金2000兆円とは、単に今まで日銀が刷った通貨のトータル額なのだ」

 

「え? じゃあそれを回収して日銀に返したら……」

 

「無論、国内の流通通貨が消滅する。第一、日銀は通貨を作っている大本だ。自分らで作れる金を返してもらってどうする? 返してもらえないからと何の不足がある? 桐葉のローヤルゼリーを売って稼いだ1億円で公共事業費を払えば、1億の金は建設会社の社員の給料となり、社員が金を使い、金が市場を回り、経済が活性化する。だが、その1億を日銀に渡せば、それで終わりだ。流通通貨が1億円分減るだけで、経済はむしろ鈍化する」

 

「ぐぁああああああ、何と言う極悪人っすか! マリアちゃん! 日銀総裁のお宝フォルダを全個人情報を添付してネット上に念写するっす!」

 

「わかりました」

「わかるな!」

 

 俺は空手チョップポーズで真理愛を制した。

 

「それで早百合部長、総理大臣と財務大臣はどうする気ですか?」

「私に投げてきた」

 

 真顔で言った。

 俺は思考が停止した。

 

「……え?」

 

 早百合部長は、沈鬱な表情で重いため息をついた。

 

「先程も言った通り、今の財務大臣は長く国会議員をしているのに、役職に就いたことがなくて可哀そうだからと選ばれた財務の素人だ。総理も、大学は法学部で経済には疎い。そこで、財政破綻問題は異能部の管轄だと私に投げてきた」

 

 ――大丈夫か、ウチの政府……。

 

 講堂に集まった能力者、もとい異能学園の生徒たちも、げんなりとざわついた。

 

「だが、チャンスでもある。日銀総裁に総理大臣、財務大臣の無能ぶりにハラワタが煮えくり返るが、このピンチを乗り越えれば、貴君ら能力者の社会的地位は確固たるものになるだろう。それに、私の政界進出の足掛かりにもなるしな」

 

 なんだかんだで、最後はニヤリと笑う早百合部長に、俺は強い頼もしさを感じた。

 

「それで、具体的にはどうするんですか?」

 

「まずは時間稼ぎだ。日本の借金は2000兆円だが、その全てが日銀にしているわけではない。国債の7パーセントは海外、12パーセントが国内の保険会社、1パーセントが国内の投資家だ。計400兆円を先に返すのが筋であると、総理には国民の前で答弁して頂く。そうすれば、体面を気にする日銀総裁も強くは逆らえないだろう」

 

「いやいや早百合ちゃん、二度も子供っぽい報復したらとっくになけなしの名誉も消し飛んでるっすよ」

 

「いや、多くの国民は経済に疎い。【自分で自分にしている借金】【日銀に借金を返済すると流通通貨が消える】という理屈を知らないからな。日銀総裁の報復は、台詞だけ見ると『2000兆円も借金があるからこれ以上貸せない』『2000兆円の借金はいつになったら返済するんだすぐ返せ』と、実に理にかなったものだ」

 

「むむむ、なんだかキタキツネにつままれた気分っす」

 

 ――何故に北狐限定?

 

 そこへ、美稲が軽く手を挙げた。

 

「早百合部長、私が都市鉱山から生成した金塊を、米国へ引き渡して米ドルを稼ぐのはどうでしょうか?」

「都市鉱山ではまるで足りん。足しになればと全て引き渡せば、国内で使う工業用の黄金がなくなってしまう。金鉱山でも見つかれば話は別だがな」

 

 今、探知能力者たちが未開発の地下鉱脈を次々見つけている。でも、金鉱脈は見つかっていない。

 

「そうでしたか……」

 

 美稲が肩を落とした。

 

 実際には、海水から無尽蔵に作れる。

 

 けれど、もしも金塊をアメリカのサイコメトラーに調べられたら、美稲が海水から作っていることがバレてしまう。

 

 そうなれば、国連は美稲の引き渡しを要求してくるだろう。

 

 それだけは、阻止しなければならない。

 

「だが考え方としては間違っていない。今、日本円は海外では価値が暴落して10分の1の円安だ。以前は110円で1ドルと交換してくれたが、今は1100円でないと1ドルと交換してくれないのだ。逆に、米ドルで財産を貯めていた者は、銀行で日本円に換金すれば10倍の額で戻ってくる。今、それで儲けた成金が不動産を買っているそうだ」

 

 講堂に集まった学生たちから「お小遣いを米ドルにしておけば良かった」と残念がる声が漏れた。

 

 今更言っても仕方ないだろう。

 

「だから金塊を米ドルに換金し、その米ドルを日本円に両替すれば2兆ドルで借金を返済できる。だから、外貨を稼ぐという美稲の指摘は正しい。問題は、何を輸出するかだ」

 

 俺は尋ねる。

 

「俺が採掘しているメタンハイドレートを売ることはできませんか?」

「ルートの確保に時間がかかる。アメリカ、ロシア、中東は燃料輸出国で、ヨーロッパはロシアから天然ガスを買っている。遠くアジアの日本からメタンハイドレートを買う必要がない」

 

 昔、アメリカは燃料を輸入する立場だった。

 

 けれどシェール層という地層からシェールオイル、シェールガスという石油とガスを作る技術が生まれてからは、燃料輸出大国として世界のエネルギー事情を牛耳っている。

 

「じゃあ、近所の東南アジアはどうですか?」

「今、PAU、東南アジア連合発足のためにゴタついているからな。まだ時間がかかりそうなのだ」

 

 その単語に、俺はネットニュースを思い出した。

 

「東南アジア連合って、EU(ヨーロッパ連合)みたいなものですよね?」

 

「そうだ。諸君らも知っての通り、我が国は日本円に代わり、金のインゴットで東南アジアから大量の衣類と食料を輸入し、多くの電子機器と部品を輸出している。結果、東南アジア全体に、最新の電子機器と黄金が溢れた。力をつけた今こそ、かねてより計画されていた東南アジア統一を目的とする連合、Pacific・Asian・Union、通称PAUを発足すべし、ということで各国の首脳の意見が一致したらしい」

 

「なんだか、壮大な話になってきましたね」

 

 まるで、映画や小説のような展開に、俺は、息を呑む喉を止められなかった。

 

「グローバル社会ではあらゆる国が繋がっている。一国の財政破綻、政変がバタフライ効果で世界中に波及し、世界がその在り方を変えることもある。PAUの話がまとまれば、エネルギー消費も拡大する。その時は、メタンハイドレートの出番が来るだろう」

 

「でも、それがいつになるかは未定なんですね……」

 

「そうだ」

 

 俺が歯噛みするように声を濁らせると、早百合部長は厳粛な表情で頷いた。

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