スクール下克上・超能力に目覚めたボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました   作:鏡銀鉢

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ぱゆんぱゆん

「……はい」

 

 だけど、それはとても小さな声だった。

 

「どうしたの? まだ何か気になる?」

「……桐葉のおかげで、私が卑怯じゃないのはわかりました。でも、みんなの態度は変わりません。みんなが間違っていても、その間違っているみんなが考えを変えてくれるわけじゃありません」

 

 麻弥の言葉に、俺は考えさせられた。

 

 人種差別がいい例だろう。

 

 人種差別が悪いことは誰でも知っている。

 

 でも、今でも世界には歴然と人種差別による被害が横行している。

 

 どれだけ言葉を尽くしても、麻弥が冷遇される現実は変わらない。

 

 麻弥を説得できれば済むと思っていた自分の考えの浅はかさに、俺は恥ずかしくなった。

 

 でも、桐葉は即答で尋ねた。

 

「前の学校の人たちとは、今でも交流があるの?」

「……ありません。でも、近所に住んでいる人もいます」

「なら、麻弥もボクや美稲と同じ、この官舎にお引越しする? ボクが早百合部長に頼んであげるよ。家賃はボクが払うからさ」

「……」

「あとは、ネット上に悪口を書き込まれるだけ?」

「……はい」

「なら、ネットを見るのをやめるか、それでも気になるなら、気になった分だけボクとハニーに甘えていいよぉ」

 

 麻弥をもみくちゃにするようにして、桐葉は体を揺すった。

 

「実はね、今朝、ネットでボクのこと検索したんだ。そしたら思った通り、今までボクを蔑んできた連中が、好き勝手なことを書いていたよ。でもいいんだ。だって、もうボクとはかかわりのない連中だから。1000人のどうでもいい連中からけなされても、ハニーや麻弥がボクを好きでいてくれるなら、それでいいから。あとはそうだな……世界一素敵なハニーを持っている勝者の余裕?」

 

 桐葉が、いたずらっぽく笑った。

 

 彼女の彼氏自慢が気恥ずかしくて、口の中でくちびるを噛んでしまう。

 

 でも、それ以上に嬉しかった。

 

「ボクは、ハニーも友達もみんな持っているからね。マウントを取り合う友達や妥協した恋人とごっこ遊びしている連中が何を言っても、負け犬の遠吠えだよ。でもね、麻弥はボクの友達だから、ボクは麻弥と同じ教室で勉強したいな。麻弥は?」

「私も」

 

 桐葉の肩口から、麻弥の小さな頭がぴょこんと飛び出した。

 

「私も、桐葉と同じ教室で勉強をしたいのです」

 

 いつもと違い、確かな願いがこもった声だった。

 

 それだけに、麻弥の強い想いを感じることができて、俺は嬉しかった。

 

 二人は姉妹のように抱きしめ合い、麻弥は桐葉の胸に甘えた。

 

「…………」

 ぽよんぽよん。

「…………」

 ぱゆんぱゆん。

「…………あの、桐葉、話は変わるのですが」

 

 急に、麻弥の声に熱がこもる。

 

「なーに?」

「おっぱいはどうしたら大きくなるのですか?」

 

 ――ふぁっ!?

 

 感動的な場面から一転、突然、雑なラブコメ漫画みたいなシーンが展開された。

 

「う~ん、やっぱり好きな人に揉んでもらうことかなぁ」

「だから誤解されるようなこと言うなよ! ていうか俺と会う前からデカかっただろ!?」

「あ」

 

 思わず声を出した俺と、麻弥の視線が合った。

 

 ここは俺の部屋なのに、覗き見がバレてなんだか気まずい。

 

 俺が右往左往して、俺を取り押さえていたみんなは静かに後ずさって、その場からフェードアウトを試みる。意外とずるい。こういう奴らこそが卑怯者である。

 

 麻弥は、お人形さんのような無表情で、とてててて、と駆けてくると、ぺたんこなお胸を突き出して言った。

 

「揉むのですか?」

「え?」

 

 フェードアウトした女性勢が一瞬で戻ってきた。

 

 そして俺を床に押し倒した。

 

「見損なったっすよハニーちゃん! まさか、まさかマヤちゃんに手を出すなんて!」

「ハニー君おっぱいならなんでもいいの!?」

「ハニーくん、サイコメトリーしていい? いいよね!?」

「このスケベ! 変態! おっぱい国民! あたしのおっぱいもそういう目で見ていたのね!」

「ぎゃああ! 蹴るな蹴るな! 助けてくれ真理愛ぁ!」

「え? 誰をですか?」

「俺をだよ!」

 

 俺がうつぶせで空手チョップのポーズを取ると、桐葉が叫んだ。

 

「ハニーこれ見て!」

 

 ソファから立ち上がり、桐葉はMR画面を10倍に拡大して、俺らの前に飛ばしてきた。

 

「ん? 日銀総裁、金田康則、緊急記者会見?」

 

 テレビモードのMR画面には、記者会見場に現れた、初老の男性が映っていた。

 

 彼が、総理と喧嘩して日本を財政破綻に追い込んだ諸悪の根源だ。

 

 マシュマロをほおばったように頬が丸く、小さな丸眼鏡が顔に埋まっている、太った男だった。

 

 デバイスが視界を補正してくれる現代では、アクセサリーとしての役割が大きい眼鏡だが、世代を考えると、あれは本物の眼鏡だろう。

 

 初老以上の人には、未だにデバイスに抵抗を持つ人が少なくない。

 

 レンズの奥から、いかにも陰湿そうな眼を光らせ、金田総裁はカメラ越しに、こちらを睨みつけてくる。

 

「単刀直入に言います。私は本日、外貨獲得のため、日銀が保有する1600兆円分の国債を、海外へ売り払うことを決定致しました」

 

 リビングの空気が凍り付いた。

 

 俺とみんなの息が止まったのがわかる。

 

 俺らは、政治と経済に明るくない現代っ子だ。

 

 でも、この一か月半、早百合部長の話を聞くうちに、その仕組みを把握してきた。

 

 だからこそ、国債を海外へ売り払うことの重大さがよくわかる。

 

 国債という名の借用書は、身内の日銀が保有しているからこそ、返済義務がないのだ。

 

 なのに、それを海外へ売り払ってしまったら、日本は海外へ1600兆円支払わなくてはいけない。

 

「滅ぶぞ、俺らの日本が」

 

 俺の口から洩れた言葉に、誰もが頷いた。

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