スクール下克上・超能力に目覚めたボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました   作:鏡銀鉢

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人気のない場所でしっぽりしてはダメ

 局長室を出た俺は、緊張が解けると同時に沈鬱な溜息を洩らした。

 

「やれやれ。日本が経済破綻したから助けたのに、助けたら外国から身柄を狙われるって、理不尽すぎんだろ」

「人生なんて理不尽の連続だけどね。それでハニー、夏休みはどうする?」

「シサエは海に行きたいっす♪ というわけで明日みんなで水着を買いに行くっす」

 

 拳を突き上げてテンションを上げる詩冴に、俺は呆れた口調を返した。

 

「お前はもちっと緊張感を持てよ」

 

 その一方で、意外にもしっかりものの美稲が異論を唱えた。

 

「う~ん、でも早百合局長も人の多いところで過ごすよう言っていたし、海はいいと思うよ?」

「それは、まぁな」

「でしょ? それにハニー君の【テレポート】に私の【リビルディング】、桐葉さんの【ホーネット】があれば、軍隊でも連れて来ない限り拉致なんてできないよ」

 

 俺を安心させるように、美稲が穏やかな笑みで語り掛けてくる。

 

「理屈はわかるけど、慎重派の美稲がそんなことを言うなんて意外だな」

「だって、もしかしたら拉致の脅威は一生消えないかもしれないんだよ? 一生引きこもるわけにもいかないしでしょ? リスク回避のための引き算人生じゃ、生きているなん言えない。私は、ウィズリスクのまま生活できる方法を選びたいな」

 

 俺の胸に異論や反論の言葉はなく、いつのまにか平常心を取り戻していた。

 美稲の言葉は、聞いているだけで自然と落ち着ける。

 これも、美稲の持つ包容力のなせる技だろう。

 彼女に感謝しながら、俺は微笑を洩らして頷いた。

 

「だな、じゃああとでみんなにも声をかけようぜ」

「うん。特に茉美さんの参加は必須だよね? 能力抜きで一番強いの彼女だし」

「ヒーラーが物理最強ってどうなんだそれ?」

 

 茉美ってラノベ主人公みたいなスペックだよなぁ、と考えていると、伊集院が興奮気味に声をかけてきた。

 

「それって有馬さんも来るんだよね? 僕も一緒にいいかな? 僕も同じ四天王で狙われているしいいよね?」

「俺はいいけどみんなはどうだ?」

「ボクはやだな。だってそれ夏休みの間中ずっとだよね? ハニー以外の男がいたら脱ぎにくいじゃない?」

「脱ぐなよ!」

 

 俺は右手で空手チョップのポーズを取った。

 

「シサエもハニーちゃん以外の男子の目があると女の子の服を脱がせにくいからいやっす」

「脱がせるなよ!」

 

 俺は左手も空手チョップの形にした。

 

 桐葉と詩冴が俺の手におでこをこすりつけてきた。ふたりとも目を細めて子猫のように可愛かった。

 

「う~ん、私はいいけど、伊集院君て真理愛さん目当てだよね? 下心丸出しの状態の人はちょっとねぇ」

「恋愛は自由だろ? 好きな人にアピールするのも当然のことじゃないか」

 

 伊集院が力説すると、美稲は困り顔で首を回した。

 

「真理愛さんはどうする?」

 

 美稲に解答権を渡された真理愛へ、伊集院の熱い視線が注がれた。

 それから、真理愛は鋼のような無表情で無感動に、だけど真摯な眼差しで告げた。

 

 

「伊集院さん、空気を読んでください」

 

 

 衝撃で俺は石のように固まった。

 

 まさか、真理愛に叱られるサピエンスがいるとは思わなかった。

 

 伊集院は、天井を見上げて遠い目をしていた。

 

 なんだろう、最近、伊集院を見ていると慈悲の心しか湧いてこない。

 

 最初はムカつくカッコつけのイケメン野郎だと思っていたけど、今は怒りの片りんすら感じない。

 

 俺は伊集院のささやかな幸せを祈りながら、講堂へ向かったのだった。

 

 

   ◆

 

 

 翌日の土曜日。昼。

 

 芸能・スポーツ業界の麻薬使用者が一斉検挙され、そこから売人たちも次々逮捕されているというニュースが世間とネットを騒がしている中、俺らは街の大型デパート、その水着売り場に来ていた。

 

「ハニーちゃん、見てください、このメンバーを」

 

 詩冴が、マンガなら劇画タッチになりそうな重厚な表情で声を震わせていた。

 

「右から順に有馬真理愛ちゃんDカップ、三又茉美ちゃんFカップ、恋舞舞恋ちゃんGカップ、内峰美稲ちゃんGカップ、針霧桐葉ちゃんHカップ……か、完璧だぁ、完璧すぎる、我が布陣の戦力はバケモノか、バケモノなのかぁ、ていうか超能力遺伝子って巨乳化効果があったのかぁ……ちなみにシサエはEカップっす……」

「ふゃっ!? じじ、Gカップもないよぉっ!」

「育雄! あんたやっぱり詩冴と共謀してあたしのおっぱい狙っていたのね!? そうなのね!?」

 

 恥ずかしそうに顔を赤らめながら胸を隠して、だけど攻撃性は真逆の舞恋と茉美。なんだろう、桐葉と一緒にいると、恥じらう女子の姿が新鮮で可愛く見えてくる。

 

「何ほわほわした顔してんのよスケベ! 変なこと考えていると封印したヒールフィストを解禁するわよ!」

「解禁早ぇなおい。ただムキになる姿が可愛いなって思っただけだよ」

 

 なんとなしに素直な感想を言っただけなのだが、舞恋と茉美はビクンと肩を跳ね上げた。

 

「ふゃっ!? かか、かわっ……ぁぅ」

「あんた彼女持ちのくせにしれっと口説いてんじゃないわよ! 巨乳美少女なら誰でもいいの!?」

 

 舞恋はワンサイドアップの、茉美はサイドテールの房を揺らしながら軽くパニクる。ていうか茉美、美少女の自覚あったんだな。

 

「うへへ、今日は楽しい一日になりそうっす」

「いまさらだけど詩冴って百合なのか?」

「むっ、失礼なことを聞かないでくださいっす!」

「わ、悪い」

 

 ――そうだよな。デリケートな話だもんな。無神経だったよな。

 

「せっかく女子という立場を利用して女湯では桃色パラダイスなんですから!」

「おまわりさーん、ここに犯罪者がいますよー」

「ぬぁっ!? 麻弥ちゃんとの扱いの差を感じるっす! これは差別っす!」

 

 ちなみに、麻弥はさっきから桐葉の下乳を頭突きで突き上げている。

 

「すごく、大きいのです!」

 

 むふーん、と大きく息を吐き出す麻弥の姿を確認してから、俺はあごをなでた。

 

「一言で言うと尊さかな。お前が言うと可愛くないし」

「シサエだって可愛いっす! ラブリーっす! このシミひとつない奇跡のアルビノ美少女が目に入らないっすか!? 世界はもっとシサエを愛し甘やかすべきっす!」

「だから手足をのたくらせるな不思議なダンスを踊るなGIF素材にしてネットにバラまくぞ」

「じゃあハニー、ボクらは水着選んでくるから」

「シサエもおともするっすぅ~ん」

 

 ゼロ秒で跳ね起きた詩冴は軽やかなステップで桐葉たちのお尻を追いかけた。

 あいつが世界から愛でられる日は遠いなぁと、憐みの念で眉が下がった。

 

「つうか、あいつらが戻ってくるまで暇だな」

 

 とりあえず、近くのベンチに座ってからハッとする。

 

 ――この状況、まずくないか? デパートの水着売り場で拉致する奴なんていないと思うけど、一応一人だし。

 

 少しでも何かあればテレポートで桐葉たちの元へテレポートしようと思った矢先、ベンチのすぐ隣に誰かが座った。

 

 OUが派遣した刺客かと警戒しながら首を回すと、黒のサイドテールとFカップが視界で揺れた。

 

「ま、茉美? 桐葉たちと行ったんじゃないのか?」

 

 背もたれに体重と両腕を預けたまま、足を組んだラフスタイルで彼女はぶっきらぼうに答えた。

 

「あたしは後でいいわよ。ていうか、いま行ったら絶対に詩冴がえっちな水着着せようとしてくるでしょ?」

 

 茉美が苦笑した直後、遠くから舞恋の悲鳴が聞こえてきた。

 

「詩冴! それヒモだから! ただのヒモだからぁ!」

 

 思わず、俺も苦笑いを浮かべてしまう。

 

「あいつ懲りねぇなぁ……」

「ほんとよね。それに、育雄って狙われてんでしょ? ボディガードが必要じゃないの。何ひとりになってんのよバカ」

 

 右を伸ばして、俺の眼前でデコピンを空ぶらせる。

 

 軽いツッコミ、お説教のエアデコピン。

 

 だけどデコピン越しに見える呆れ顔には慈愛があって、ちょっとそのデコピンに当たってみたい気分になる。

 

 俺の空手チョップにデコチューしてくる桐葉と詩冴も、こんな気分なのだろうか?

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