スクール下克上・超能力に目覚めたボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました   作:鏡銀鉢

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合法ハーレム

「じゃあ警察の人が来たらこの通り魔女と、あと下水道の伊集院の回収を頼むか。真理愛、悪いけど今日は事情聴取――」

 

 彼女の表情に、俺は言葉を失った。

 真理愛はいつも、どんなことがあっても眉ひとつ動かさない。

 

 なのに、その彼女が眉を八の字に垂らして、目に涙を溜めていた。

 

「私は……愚かでした……」

 

 急にどうしたんだと、俺は真理愛に歩み寄って、彼女の気持ちに寄り添えるように話を聞いた。

 

「私は今まで、他人の期待に応えようと、それが正しいのだと信じていました。ですが、実際にはただ他人の言いなりになって、騙されて……自分の行動が何を招くか、自分の頭で考えるべきでした」

 

 後悔の涙に濡れた声はあまりにも儚げで、聞いているだけで、心が辛くなってくるほどだった。

 

 まるで幼い子供のようにスカートを握りしめ、真理愛は肩をふるわせて涙をこぼした。

 

「私は思慮が足りない頭の悪い女でした。だから、あんな男に騙されるんです。ハニーさんがいなかったら、私は、あの男に気を許してしまったかもしれません」

「それは違うぞ」

 

 迷うことなく、俺はきっぱりと断言した。

 

「え?」

「確かに、真理愛は伊集院に騙されたかもしれない。でも、それは俺ら全員同じだ。それに、真理愛の行動のどこに問題があったんだ?」

 

「ですが、芸能人やスポーツ選手のスキャンダルを暴けば、ファンの人は傷つきます。私は、大勢の人が傷つくとも思わず、ただ盲目的に人の犯罪を暴いて、ネット上に晒して、それで己の使命を果たしたつもりで有頂天になっていたに違いありません。私はきっと、天狗になっていたんです」

 

「それのどこが悪いんだ?」

 

 声を引き締めて、俺は噛んで言い含めるように真理愛へ俺の想いを伝えた。

 

「まず、誰かが捕まれば、その人を大事に思う人が悲しむ。だからと言って、犯罪者を野放しにしていいわけじゃない。大事に思ってくれる人を悲しませたのは警察じゃない、犯罪者本人だ。そうだろ?」

「……それは」

 

 真理愛は反論の言葉を持たなかった。けれど、まるで自分で自分の罪を許したくないかのように、彼女はうつむいてしまう。

 

 だから、俺は彼女の頑なな想いを開くように、語気を強めた。

 

「一般人だろうと、芸能人だろうと、犯罪は犯罪だ。だけど、芸能人は捕まった時に悲しむ人が多いから犯罪をしても暴かない、捕まえない、見逃す、そんなことが許されていいのか? 俺は思わないぞ」

 

 俺の声が届いたのか、わずかに上げてくれた彼女の視線を見つめ、たたみかける。

 

「真理愛は上級国民相手でも怯まず悪事を暴く、公明正大な最高の女だと俺は思っている。今回、悪いのはファンを悲しませたミュージシャンと、逆恨みして真理愛を襲った通り魔女だ」

「……ハニー、さん」

「じゃあもしも舞恋のサイコメトリーや麻弥の探知で大物芸能人を検挙してファンが悲しんだら、舞恋と麻弥が悪いのか?」

「そんなことはありません! お二人は治安の為に励んでいらっしゃる立派な方です。あっ」

 

 自分で言って気づいたらしい。

 言葉を飲み込んで、じっと、俺の顔を見上げてくれた。

 

「だろ? だからさ、真理愛は何も悪くないんだよ。でも、他人の言いなりになっちゃうのはほんとだから、気を付けろよ。主に詩冴とか」

 

 真理愛を安心させるよう、歯を見せて笑ってから、俺は彼女の頭をなでた。

 

「真理愛は誰のものでもない、真理愛は真理愛だけのものだ。やりたくないことはやらなくていいし、他人の言いなりになることもない。他人の期待に応えたいって気持ちは立派だと思うけど、本当にやりたくないことはしなくていいんだ。真理愛は、真理愛のやりたいように生きていいんだぞ」

「……」

 

 何故か、急に真理愛は自信を失ったように身を縮めてしまう。

 

 それから、まるで懺悔をするような語調で、おずおずと不器用なくちびるを開いた。

 

「あの、それは、我慢しなくてもいいということでしょうか? 他人に気遣わず、自分のしたいことをしても」

「当たり前だろ。つうか、真理愛以外の誰が真理愛のやりたいことをやるんだよ?」

 

 また何故か、ぽ~っと、彼女の頬が染まっていく。

 

 どうしたんだろうと俺が観察していると、不意に、彼女の手がそっと俺の腕に触れてきた。

 

 大きなふたつの瞳に俺の顔を映しながら、真理愛は一歩踏み込んできた。

 

「好きです」

 さらに一歩、互いの胸を押し付けてきて改めて、

「私は、ハニーさんのことが好きです!」

 と、熱い声で涙をにじませた。

 

 俺が戸惑っていると、真理愛は小声で、だけど押し殺しきれない感情を響かせながら、自分の想いを口にした。

 

「ハニーさんは、一度も私に何かをしろと命令しませんでした。いつも、やりたくなければやらなくていいと言ってくれました。どうしたらハニーさんのお役に立てるのかわかりませんでした。だけど、ハニーさんは期待に応えなくても、私のことを肯定してくれるんです……桐葉さんのことも、美稲さんのことも、舞恋さんのことも、麻弥さんのことも、いつだってハニーさんは、私たちを助けてくれます!」

 

 それは、お人形のようだった少女が初めて見せた、裸の感情だった。

 

 真理愛は、凄く魅力的な少女だと思う。

 真理愛に好きだと言われて、嬉しくないわけがない。

 彼女の気持ちに応えて、彼女を幸せにしたいとは思う。だけど、それはしちゃいけない。

 

 だから俺は、迷うことなく彼女を優しく突き放すことにした。

 

「そっか、ありがとう、凄く嬉しいよ。でもごめん、俺は桐葉のことが好きだから」

「わかっています。でも、好きでいていいですか?」

 

 抑えきれない想いが溢れたように、瞳から大粒の涙を流しながら、彼女は懇願してきた。

 

「愛してくれなくてもいいので、私はハニーさんのことを好きでいても、いいですか!」

「ッ」

 あまりに純な想いに、胸が痛んだ。

 

 否定させまいとするように、ぎゅっと、俺の腕に触れる手に力が込められて、言葉を飲み込んでしまう。

 

 好きな子がいるのに、恋人がいるのに、俺と結婚まで考えてくれる桐葉がいるのに、今の言葉で揺れ動いてしまった。

 

 真理愛の気持ちに応えたいと、願ってしまい、強いショックを受けた。

 

 自分の意思の弱さと、言いようのない感情が交錯して、自分で自分がどうすべきかわからなかった。

 

 だけど、こうして悩んでいる時間すべてが桐葉への裏切りだ。

 俺の沈黙が長引くほど、桐葉を傷つけてしまう。

 

 ――ごめん真理愛。本当にごめん。俺じゃあ、お前を幸せにすることはできないんだ。

 

 自分の無力を嘆きながら、俺は懺悔の言葉を口にすべく、喉を奮い立たせた。

 

「ボクはそれでもいいよ」

 

 えらく軽い口調で、桐葉が俺らの横に立っていた。

 

「…………へ?」

 

 ぽかんとする俺を無視して、桐葉は真理愛にまくしたてた。

 

「ていうかうちのマンション引っ越す? 逆隣空いているし、美稲につなげて貰えば行き来も自由だよ。じゃあ真理愛、二号さんとして一緒にハニーを可愛がろうね」

「いやちょっと待て桐葉お前自分が何言っているのかわかっているのか!?」

 

 俺がツッコむと、桐葉は不満そうにくちびるを尖らせた。

 

「いいじゃん。だって真理愛が将来他の男と結婚しちゃったらその旦那の都合に振り回されるんでしょ? 真理愛と遊びにくくなっちゃうじゃない。ならせっかくハニーのことが好きなんだから、一緒に暮らせばずっと一緒だし、一夫多妻のほうが女子チーム有利だし。それに」

 

 桐葉はガッツポーズを取りながら、とびきり悪い顔をした。

 

「真理愛がいればずっとボクのターン」

「なんのターンだよ! ていうかその、ほらあれだ、もしも俺が桐葉よりも真理愛のほうを大事にしたらとか考えないのか?」

 

 俺の問いかけに、桐葉はころりと表情を変えた。

 

「そこはほら」

 

 不意に、桐葉のくちびるが迫ってきた。

 桐葉の口が俺の口を塞いで、熱い舌が俺の舌をひとなめしてから、桐葉は笑顔で口を離した。ささやかな水音のあとに、彼女は完全勝利の顔で一言。

 

「本妻の余裕だよ」

 

 頭の中が幸せな気持ちでパンクした。

 

「おっしゃるとおりです」

 それを遺言に、俺の意識は遠のいた。

「ハニーさん!」

 

 崩れ落ちた体は、きっと真理愛が支えてくれているんだろう。

 遠くから、ばたばたと誰かが走って来る音がする。

 どうやら警察が来たらしい。

 さて、この状況をどう説明しようかと、俺は悩みながら気絶した。

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