銃、手榴弾、幽波紋(スタンド)   作:春雨シオン

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今回からエデン条約編に入っていきます。ここを書きたいがために始めた連載でしたが、ここまで続けてこられたのは皆さんの応援あってこそです。本当にありがとうございます。


Part11 そして歯車は動き出す

「……待ってくれ。いくつか確認したい。」

 

 

 何とかそれだけを絞り出した。先生は一体、何を考えているんだ?

 

 

「まず一点目。そんなことが可能なのか? 話を聞く限り、桐藤ナギサは外部の人間を相当警戒しているはず。シャーレの先生であるあんたならまだしも、私のような完全なる余所者を受け入れるとは思えない。」

 

「それに関しては大丈夫。トリニティは三頭政治と言って、3人の生徒がトリニティの生徒会長ともいえるホストを交代しながら行っているんだ。その内の1人が、私の計画に賛同してくれることになってる。」

 

「……二点目。私の役割が不明瞭だ。どういう屁理屈で私をねじ込む?」

 

「名目上は私の護衛だね。でもそれだけじゃあナギサを納得させるには弱い。最悪の場合、リンゴがスタンド使いであることをバラさないといけないかもしれない。」

 

「最後に三点目だ。私には学籍がない。どこから転入したかもわからない奴が、トリニティに信用してもらえるとは思えない。」

 

「問題ないよ。補習授業部には既に、謎の転校生って子がいるからね。その子もおおむね受け入れられてるから、リンゴも大丈夫だと思う。」

 

 

 ……矢を追うのであれば、スタンド絡みの犯罪が増加しているトリニティを調査するのが最も効果的だろう。そのために内部に侵入するというのは、正直悪くない考えだとは思う。

 

 だがそれでも、不安要素が多すぎる。

 

 

「それに、これはリンゴが私に言った、協力の条件にも当てはまるんじゃないかと思うんだ。」

 

「う……。」

 

 

 確かに私は矯正局から出るとき、2つの条件を付けた。一つは衣食住の保証。それからもう一つが、『どこかの学校へと編入させること。』

 

 私はおよそ、教育と呼べるものを受けたことがない。いや、正確には教えを受けたことはある。だがあんなものを教育とは、口が裂けても言いたくはない。だからこそ、かねてより学を身に付けたいと思っていた。

 

 

「リンゴは年齢としては2年生のあたりだけど、補習授業部にも1年生のカリキュラムから勉強してる子がいるんだ。どのみち補習は必要だと思ってたから、これはちょうどいい機会なんじゃない?」

 

「それは……そうだな……。」

 

「リンゴ。嫌だったら、どうしてもとは言わない。私は生徒のやりたいことを全力で応援するつもりだけど、生徒の道を決めることはしたくない。だから、この話を受けるも受けないも自由だよ。」

 

 

 先生の説得を受け、私の心の天秤は懸念よりも期待の方に傾きつつあった。トリニティを調査する必要はあると思っていたし、学校に行ってみたいという私の夢にもつながる。

 

 

(ひょっとしたらこれは……『運命』という奴なのかもしれない。)

 

 

「わかった。先生、私をトリニティに入れてくれ。」

 

「……! 本当にいいんだね?」

 

「ああ。覚悟を決めたよ。」

 

 

 覚悟……それは暗闇の荒野に、進むべき道を切り開くことだ。多少の障害に恐れをなし、足踏みをしているわけにはいかない。

 

 

「……ありがとう。それじゃあまずは、ティーパーティーの子に会いに行こうか。」

 

「私の入学を手引きしてくれるという奴か?」

 

「うん。フレンドリーな子だから、きっとすぐに仲良くなれると思うよ。」

 

 

 先生はすぐにスマホを取り出し、どこかへメッセージを送信する。すぐに返信が来たあたり、事前に話をつけておいたのだろう。

 

 

「今から会えるそうなんだけど、リンゴの方は大丈夫?」

 

「問題ない。行こう、先生。」

 

 

 椅子から立ち上がり、私はカフェを出た。太陽がやけに眩しくて、思わず顔をしかめた。私の気持ちも知らないで、よくもまああんなに輝けるものだ。両手をポケットに突っ込み、強く握りしめた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 テラスに繋がる扉を、先生は二度ノックした。はーい、と鈴を転がしたような綺麗な声が向こう側から帰ってきたのを確認してから、扉のノブをひねった。

 

 

「あっ、いらっしゃい先生! それで、こっちの子が……。」

 

「こんにちは、ミカ。そうだよ、転入させてほしい生徒。」

 

「初めまして。黒沢リンゴです。」

 

 

 久しぶりに、矯正局で培った取り繕うスキルを使う羽目になった。ミカと呼ばれたトリニティのトップは確かに気さくな印象を受けるが、だからといって粗相があってはよくない。

 

 

「あははっ☆ いかにも余所行きってカンジ! 緊張してるの?」

 

「リンゴ、いつもの感じでいいんだよ。」

 

「そうそう、私はそういうの気にしないから大丈夫!」

 

「……そういうことなら。」

 

 

 あまり謙遜しすぎるとかえって失礼だろう。ここはミカの言葉に甘えさせてもらうことにした。

 

 

「先生から話は聞いてるかな? 私の名前は聖園ミカ。ティーパーティーで、パテル派のリーダーをやってるの。よろしくね、リンゴちゃん。」

 

「こちらこそ、よろしく頼む。早速だが、まずは私の目的とミカの目的を確認しておきたい。」

 

「なーにリンゴちゃん、アイスブレイクはいらない感じ? まあそういうことなら、話を進めちゃおっか!」

 

 

 改めて椅子に座りなおしたミカは、一つ咳ばらいをしてから話を始めた。今までのふわふわとした雰囲気はどこかに消え、真剣な表情になっている。この切り替えが出来る辺りは、流石に一学校のトップといったところか。

 

 

「私の一番の目標はナギちゃんの不安を取り除いてあげること。先生から話を聞いてると思うけど、毎日ずっと働き詰めだし、日に日にやつれていく感じがしてて隣で見てるだけでもすごく辛い。」

 

「だから私がどうにかして、この問題を解決してあげたいなって! ……もう今となっては、ナギちゃんは私にも話をしてくれないんだけど。」

 

 

 ミカは軽く笑みを浮かべながら話しているが、それが作り笑いであることは誰の目にも明らかだった。こいつもこいつで、私たちには推測することしか出来ないような苦労があるのだろう。少しだけ、私の中でミカの印象が変わった。

 

 

「……でもでも! 私には難しいことはよくわかんないんだよね。スタンドだとか、裏切り者だとか……そういうめんどくさ……じゃなくて、難しいことは全部ナギちゃんとセイアちゃんに任せっきりだったから。そういうわけだから、本当に猫の手でも借りたいって状況なの!」

 

 

 お願い!と勢いよく頭を下げたミカを見下ろしながら、私の頭は既に算盤を弾いていた。ミカが政治や交渉に慣れていないというのは、どうやら本当のことらしい。シャーレの先生という後ろ盾があるとはいえ、私のように素性も知れない者に自らの弱みを晒すべきではない。それを躊躇なく行ったこいつは誠実な人物ではあるのだろうが、賢いとは言えない。

 

 

(いや、雰囲気に惑わされて油断するな……。ミカもトリニティのトップの1人、それなりの能力はあるはず。)

 

 

 どの道今回、トリニティに協力するのを断るという選択肢はない。そうなればミカと接触する機会は何度か訪れるはずだし、その際に見極めてやるとしよう。

 

 

「……で、どうかな? トリニティ(わたしたち)に協力してくれる?」

 

「そういうことなら、ぜひ協力させてほしい。私の目的……スタンド使い探しとも一致するしな。」

 

「わあっ、やったやった! ありがとうリンゴちゃん!」

 

 

 ほとんど抱き着いて来るくらいの勢いで喜ぶミカ。アスナの距離感の近さを体験していなければ、もっと戸惑っていたところだろう。

 

 

「それじゃあ、これがリンゴちゃんの学生証ね。急ピッチで作ったものだけど、偽造とかじゃないちゃんとした奴だから! 銃器の種類だけは登録されてないから、後で申請に行ってね。」

 

 

 差し出された一枚のカードを、私は両手で受け取った。ほんの数グラムしかないもののはずなのに、妙にズシリと重みを感じる。

 

 

「わかった。他に何か、注意点はあるか?」

 

「うーん……とりあえずしばらく生活してみて、それで不便なこととかあったら教えてほしいって感じかな? そうだ、モモトーク交換しようよ! 結構忙しいけど、リンゴちゃんからのアポだったら最優先にしちゃうから!」

 

「も、モモトーク? 大丈夫なのか、それは……。」

 

 

 連絡先はほとんどないと思っていた私のスマホに、いつの間にかトリニティのトップというビッグネームが刻まれた。いきなり大物と同じ場所になったシロコとアスナは……まあ、そういうのを気にしそうなタマでもないか。

 

 

「うん! じゃあこれで、今日の集まりはお開きにしよっか! 先生、また今度ゆっくり話そうね。」

 

「うん、もちろん。ミカも体に気を付けて。」

 

 

 私たちはミカに別れを告げ、テラスを出た。テラスに繋がる扉を閉めた時、ようやく呼吸が出来るようになった感覚を覚えた。

 

 

「どう? リンゴ、ミカはいい子だったでしょ?」

 

「すぐには判断できない。……だが、悪い奴ではなさそうだ。それより先生、次はどうする?」

 

「次は……ちょうどそろそろ時間だから、補習授業部の皆と顔合わせをしておこうか。」

 

 

 補習授業部。私がこれから所属することになる部活か。話を聞く限り、成績不振かつ退学させられかけている不良たちだ。ナギサがスタンド使いを恐れている、という情報を踏まえると、スタンド使いが混じっている可能性もあるな。

 

 

「ああ。行こう、先生。」

 

 

 拳を握り、開く。それを何度か繰り返し、手の感覚を確かめる。場合によっては戦闘になるかもしれない……戦いの覚悟を決めておこう。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「な、何よその恰好! エッチなのはダメ、死刑ッ!!」

 

「あら……あらあらあら! 素晴らしいですねリンゴさん、まさかそんな破廉恥な格好で出歩くなんて、私と道を同じくする同志……いえ、先達といったところでしょうか。」

 

「……大した歓迎だな、先生。」

 

「えーっと……い、いい子たちなんだよ。本当に。」

 

 

 補習授業部の部室に入った私たちを待ち受けていたのは、小さなピンク色と大きなピンク色だった。小さなピンク色の方は、私を見て顔を真っ赤にしながらピーピーと騒いでいる。私の服装は胸元が大きく空いているため、ここに来るまでも結構な視線を感じた。ミレニアムでアスナやエイミと出会ったから、最近は感覚が麻痺していたのかもしれない。

 

 

「あ、あはは……。ともかく、まずは皆さんで自己紹介をしましょう! 今はまだ一人足りないんですが、すぐに戻って来ると思いますので!」

 

 

 ブロンドの髪を後ろでまとめた少女が場を仕切る。あまり目立たなさそうな印象だが、意外とリーダーシップがあるのかもしれない。

 

 

「まずは私から……阿慈谷(あじたに)ヒフミと言います。この補習授業部の部長をやらせていただいています。」

 

「黒沢リンゴだ。よろしく頼む。」

 

「はい、よろしくお願いします! リンゴさんは初めましてですよね? クラスはどこなんですか?」

 

「実を言うと、今日転校してきたばかりなんだ。一応学年は2年だが、カリキュラムが遅れているか1年生のものから覚える必要がある。迷惑をかけるかもしれないが、精一杯努力するつもりだ。」

 

「そ、そうなんですね……! アズサちゃんも転校生と言ってましたし、やっぱり学校を移るというのは色んな苦労があるんでしょうね……。」

 

 

 ……アズサ、か。懐かしい、そして聞きたくもない名前だ。あいつがここにいるはずもないし、この湧き上がる黒い感情は胸の内にとどめておこう。

 

 

「では、次は私ですね♡ 初めまして、先輩。私は浦和ハナコといいます。以後、お見知りおきを。」

 

「ああ、よろしく頼む。だが私は2年生だから、お前の先輩ではない。」

 

「いいえ、その装いを見れば一目瞭然です! あなたは私と同じ道を、更に一歩先に進んでいるとお見受けしました。差し支えなければ、先輩と呼ばせてください。」

 

「わ、わかった。」

 

 

 大きい方のピンクは浦和ハナコ、だな。私の舎弟か何かのような態度だが、それが心からのものかどうかはわからない。ミカと同じように、警戒しておく必要があるだろう。

 

 あとは小さい方のピンク……なのだが、先生の陰に隠れて出てこない。隠れながらもこちらをチラチラと伺っているあたり、何と言うか仔猫みたいな奴だ。

 

 

「ほらコハル、自己紹介しなきゃ。」

 

「わ、わかってるわよ! うぅ……で、でもやっぱり変態……

 

 

 ……とんでもなく不名誉な印象を抱かれているような気がする。もう面倒だ、私から話すとしよう。小さなピンクの方まで歩み寄り、目線を合わせるために少し屈む。

 

 

「な、何してるのよ! み、み、見えちゃうでしょ!? 近づくな変態!!」

 

「……私の名前は黒沢リンゴだ。よろしく頼む。」

 

「し、下江コハル!! コハルだから! 早く胸元隠しなさいよ!!」

 

 

 心配しなくても、下にはちゃんとインナーを着ている。コハルの思うような事態にはならない。

 

 

「ひ、ひとまずこれで今いるメンバーの自己紹介は終わりましたね! もうそろそろアズサちゃんが……。」

 

「すまない、遅くなった。」

 

 

 扉が開かれる音とともに、一人の生徒が入って来た足音が聞こえる。奴が補習授業部、最後の1人なのだろう。何気なく音のする方を向けば、雪のように真っ白な長髪をなびかせる、色白の少女が目に入った。頭や翼を色とりどりの花で美しく着飾ったそいつを認識したとき、私の喉の奥の方から、息を絞り出す音がした。

 

 

「む、知らない人……そうか、あなたが補習授業部の新入部員か。私の名前は白州アズサ、よろしく頼む。」

 

 

 白州、アズサ。振り上げかけた右腕を、左腕と理性が無理矢理押さえつけた。

 

 

 

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