銃、手榴弾、幽波紋(スタンド)   作:春雨シオン

14 / 16
中々返信できませんが、毎回感想を楽しみに読ませていただいております。ありがとうございます。


Part14 補習授業部 その③

 私たちは一週間、寝食を共にしながら勉強を続けた。わからないところを教え合い、中々理解できないことへのいら立ちを宥め合い、折れそうになる心を支え合った。

 

 そしてそんな日々には、当然トラブルもつきものだった。突然の停電で勉強が出来なくなり、急遽休みにしたらゲヘナまで駆けずり回る羽目になった。だが友達と輪になり、くだらない話をだらだらするのは……そうだな、正直楽しかった。このぬるま湯につかっていたいという気持ちがないわけではないが、今の私には夢がある。今この時を大切に、精一杯楽しむことにした。

 

 

 泣いて笑って、私たちは一週間を乗り切った。その間幾度か模試が行われたが、私たちは全員が合格ラインの60点を超えることに成功した。これならきっと、本番の試験も問題はないだろう。

 

 

「皆さん……! 本当に本当に、よく頑張りました! 後は本番で、いつも通りの実力を発揮するだけです!」

 

「うん。最後まで気は抜かない。」

 

「わ、私だって絶対合格するんだから!」

 

「ふふっ♡ 皆さん、すごくやる気みたいですね♡ ところでヒフミちゃん、試験会場は前と同じ場所なんですか?」

 

「そういえばまだ、確認をしていなかったですね……トリニティの掲示板に……え?」

 

「え、ええっ!? うそ、嘘ですよね!?」

 

 

 ヒフミの肩越しにスマホの画面を覗き込む。補習授業部の『第2次特別学力試験』に関する変更事項のお知らせ、と書かれた見出しが目に入った。

 

 

「試験範囲を従来の約3倍に拡大? 合格ラインを60点から90点に引き上げとする……?」

 

「は、はあ!? そんなの無理に決まってるでしょ!?」

 

「昨日急にアップされたみたいです……し、試験直前になってこんな……。」

 

「……成程な。どうやらティーパーティーのナギサとやらは、どうしても私たちを退学にしたいらしい。」

 

「た、退学!? 何よそれ、どういうことなの!?」

 

 

 しまったな。つい口に出してしまった。だがその事実を知らないのは、この場でアズサとコハルのみ。ハナコやヒフミがその事実を知っているのは、先生の天井裏に隠れて盗み聞きさせてもらった。こうなったら全員でこの事実を共有した方がいいはずだ。

 

 

「……リンゴさん? 何故あなたは、そのことを?」

 

「悪いな。夜中にヒフミやハナコがこそこそと部屋を出て行くものだから、つい盗み聞きしてしまった。」

 

 

 私がトリニティの生徒でないことやスタンド使いであることは、今は伏せていた方がいいだろう。ただでさえ混乱している皆に、これ以上の情報を伝える必要はない。

 

 

「それに見てくれ、皆。試験会場がゲヘナになっている。」

 

「げ、ゲヘナ!? どうしてトリニティの試験を、ゲヘナで受ける必要があるんですか!?」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!! 退学って何、どういうこと!?」

 

「リンゴ、私も初耳だ。」

 

「先生、説明してくれるか?」

 

「……うん、わかった。」

 

 

 先生は補習授業部の皆に、この補習授業部の正体を語った。3回の試験に落ちれば、全員が退学になること。トリニティの裏切り者を探し出すためつくられたこと。

 

 

「成程。裏切り者が誰かわからないのなら、疑わしい者をまとめて排除する……。ふふっ、あの猫ちゃんが考えそうなことですね。」

 

「そんな……こ、この中に裏切り者なんて、いるわけないじゃない! なんでそんな……。」

 

 

 コハルは目を真っ赤にして、今にも泣きだしそうだ。……流石に胸が痛む。

 

 友達を疑いたくないと悩むコハルも、裏切り者であることを隠しているアズサも、どちらも直視することが出来ず、私は黙って目を伏せていた。

 

 

「皆、急いで準備しよう。ここを見て、時間は深夜の3時と書いてある。今から出ないと間に合わない。」

 

「……アズサ? お前、ひょっとして……」

 

「うん。まだ諦めない。障害物の多さに文句を言ったところでどうにもならないし、怒るのも嘆くのも、終わった後でも出来ることだ。」

 

 

 目の前が急に開けたような気分だ。そうだった。不可能に思えることでも、挑んで成し遂げたのが私じゃなかったのか。

 

 

「アズサの言う通りだ。限りなく不利ではあるけど、私たちはまだ試験に落ちたわけじゃない。」

 

「わ、わかりました。すぐに出発しましょう!」

 

 

 私たちはすぐに装備を整え、ゲヘナへと出発した。今はエデン条約の準備のために、ゲヘナの治安維持機関である風紀委員会が多忙にしているだろうし、ゲヘナの不良たちが我が世の春を謳歌しているはずだ。そうでなくとも、トリニティの制服を着た私たちがゲヘナにいるという事自体、絡まれる十分な理由になる。戦闘の備えが必要だ。

 

 

 

 

 

 

「案の定というか、何というか……ゲヘナの不良は相変わらず元気だな。ハナコ、怪我はないな?」

 

「ええ、アズサちゃんとリンゴちゃんがほとんどやっつけてしまったので♡」

 

「よし、引き続き進もう。」

 

 

 ヒマリとエイミに貰ったこの銃、やはり馴染む。余計な騒ぎにならないよう、スタンドは封印しての戦いだったが、まったく不足はなかった。今頃コハルとヒフミ、それに先生は美食研究会とかいう謎のテロリストに連れまわされているところだろうか。私たちも温泉開発部を名乗る火炎放射器を持った生徒や、ツインテールの風紀委員に包囲されてヤバいところもあったが、何とかスタンドを使わずに切り抜けられた。

 

 

「2時45分……何とか時間に間に合ったな。」

 

「あっ、皆さん! そっちも無事だったんですね!」

 

「ヒフミたちも間に合ってよかった。さあ、早く会場に入ろう。」

 

 

 指定された場所は、どこからどう見ても廃墟でしかない。ここで退学を賭けた試験が行われるという事実よりも、幽霊が出るという噂の方がよほど真実味がある。

 

 

「ど、どうしてナギサ様はこんなところを……。」

 

「何だっていい、早く始めよう。ほら、ここに試験用紙がある。」

 

 

 不発弾の中に、紙と通信機が入れられている。いや、通信機というよりも、録音を再生するような機械か? 録音されていたのはティーパーティーのホスト、ナギサによる試験の説明だ。内容は一般的なものだったが、最後に『お気をつけて』と述べられていたのが気になる。ただの試験で、何を気をつける必要があるんだ?

 

 

「気になる点はあるが、とにかく時間がない。皆、急ごう。」

 

「そ、そうですね! 皆さん、頑張りましょう!」

 

 

 皆自分の分の用紙をとり、ボロボロの椅子にためらいがちに座る。私もすぐに問題用紙を裏返し、全ての問題に目を通す。本来の作戦は得意な弾道学や数学で出来るだけ点を稼ぎ、苦手な古代語は最低限の点がとれればいいというものだったが、合格ラインが90点以上となった今、そうはいかない。とにかく早く、正確に数学を終わらせ、古代語に時間を―――――

 

 

 そこまで考えた私の思考は、突然起こった大爆発に遮られた。熱、衝撃、音――――嗚呼、また爆発か……。

 

 

 

「ゲホッ、ゲホ……爆発……!? そうだ、先生!! 先生、無事か!?」

 

 

 私の体にのしかかる瓦礫をどかし、先生に向かって叫んだ。もしあの人がこの爆発に巻き込まれでもしていたら―――!

 

 

「大丈夫! それより皆、一体何が……!」

 

「も、問題用紙も解答用紙も吹き飛んだ……。もう試験は、受けられない。」

 

「なるほどなるほど……こういう手も使ってくるんですね♡」

 

 

 

 ……一週間、私たちは本当に頑張った。その結果はこれだ。解答を書き込むことすらなく、点数を付けられることすらなかった。補習授業部、全員不合格――――。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 ……失意の中、私たちはトボトボと合宿所に帰り、シャワーも浴びずに泥のように眠った。とにかく一晩ぐっすりと眠り、皆がもぞもぞとベッドから起き出してきたのはとうに昼を過ぎてからだった。誰かに指示されたわけでもなく、なんとなくいつもの教室に集まった私たちの沈黙を破ったのは、意外にもコハルだった。

 

 

「……もう嫌! こんなに頑張ったのに、し、試験すら受けさせてもらえなかったんでしょ!? しかも不合格なら退学だし!!」

 

「コハルちゃん……。」

 

 

 気持ちは痛いほどわかる。私だって、初めて勉強する楽しみを味わった。今までできなかったことが出来るようになった喜びも、わからないことに頭を悩ませる苦しみも、全てが充実していた。そして培われた実力を試す機会には、緊張と興奮が入り混じったワクワクとした気持ちがあったのに。

 

 

「……とりあえず、ナギサにお礼参りに行くか。」

 

「ちょ、ちょっとリンゴちゃん!? いくら何でもそんな……。」

 

「いえ、私も賛成です。暴力を振るうのはともかく、せめて話を聞かなければ。」

 

「は、ハナコちゃんまで……!」

 

 

 立ち上がりながらチャンバーを覗き込む。問題ないな。爆発の際、熱や衝撃でフレームが歪んでいないか不安だったが、ナギサを撃つのに支障はないだろう。出口に向かって歩き出したが、私が手をかけるよりも先に扉が開かれた。

 

 

「皆、ごめん。私も朝になってからすぐにナギサに会いに行ったんだけど、どこにいるのかすらわからなかった。」

 

「先生! お怪我は……。」

 

「ありがとう、ヒフミ。大丈夫だよ。」

 

「リンゴ、ハナコ、落ち着いてほしい。気持ちはわかるけど、自分たちの立場を悪くするだけだよ。」

 

「……そうだな。すまない、冷静じゃなかった。」

 

 

 とにかく椅子に座りなおし、私たちは話し合いを行った。これからどうすべきか、何か出来ることはないのか。結局出た結論は『とにかく今まで通りの勉強を続けよう』というものだ。相手が何をしてくるかわからないが、今できることをやるべきだと。もう夕日も傾きかけているが、それでも寝る時間になるまでほとんどノンストップで勉強をし続けた。

 

 

「そ、そろそろ寝ましょうか。皆さん、頭も体も疲れているでしょうし……。」

 

「賛成……もうへとへと……。」

 

 

 シャワーや歯磨きなどを済ませ、私たちはベッドに入った。私も同じようにしたが、遅くまで寝ていたためか中々寝付けない。それにもうすぐ、あいつが起き出すはずだ。

 

 

「……。」

 

 

 起きたな。音の位置から考えて、こいつはアズサだ。こそこそと部屋を出て行ったのを確認してから、私も部屋を出た。あいつが毎夜のように外に出るのは確認済みだったが、こうして私が起き出すのは初めてのことだ。恐らくは、スパイとしての定期連絡……相手は『スクワッド』あたりか。

 

 

「……あ。」

 

「アズサ。定期連絡か?」

 

 

 しばらく待っていると、アズサが用事を済ませて帰って来た。廊下で待っていた私に少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに平静を取り戻した。

 

 

「……うん。リンゴの方は、眠れないのか?」

 

「遅くまで起きてたからな。お前もそうなら、少し話さないか?」

 

 

 彼女が頷いたのを確認して、地下の食堂に場を移した。二人分のマグカップに牛乳を注ぎ、スプーン一杯のはちみつを入れ電子レンジで温める。5分ほど待てば、もうもうと湯気を立てるホットミルクの出来上がりだ。アズサに片方を手渡し、私も一口含む。優しい甘さと共に、体にじんわりと暖かさが浸透していくのを感じる。

 

 

「美味い。アリウスでは、脱脂粉乳しか出なかったからな。」

 

「……アリウスの外で食べるものは、あそこと何もかも違う。ただのクラッカーでも、サクサクしてた。歯を痛めるんじゃないかと思うほど、噛みしめる必要もない。」

 

 

 しばらくはお互い何も話さず、ただミルクを飲み続けた。私から質問してもよかったが、アズサから話してほしかった。アズサに信頼されていると、確かめたかった。

 

 

「……私は。」

 

「!」

 

「私は、スクワッドの皆にも教えてあげたい。外の世界には、こんなに美味しいものがあるんだって。勉強をするのは楽しくて、モモフレンズたちは可愛い。いや、スクワッドのメンバーだけじゃない。アリウスの生徒全員だ。皆、幸せになる権利があるはずなんだ……。」

 

「アズサ……。」

 

「私はここに、ティーパーティーのトップを消すために送り込まれた。でもそんなことしたら、キヴォトスはますます混乱してしまう。エデン条約もなかったことになってしまう。」

 

 

 アズサは本当に、心から迷っているみたいだった。私に話すべきか、それとも話さざるべきか。こちらから何とか聞き出したい衝動に駆られたが、必死にこらえた。

 

 

「……リンゴ。」

 

「何だ?」

 

「リンゴに、スクワッドの皆の()()()()()()()()()()()。」

 

「ッ!? それは……!」

 

「私はリンゴが……アリウスの生徒会長になると言ってくれた時、本当に嬉しかったんだ。『出来るわけがない』と思いながらも、『もしかしたら』が消えなかった。不可能だと思われていたアリウスからの脱出を果たしたリンゴなら、もしかしたら……と。」

 

「だから、私にもあなたの夢を手伝わせてほしい。どんなに辛くても、虚しくても……抗い続けたいと思うんだ。」

 

 

 思わず顔がほころんでいくのを感じる。現実的に考えて、何ひとつ前に進んだわけではない。だがこうして、私の夢について来てくれる人がいてくれる。それも、誰よりもここにいてほしいと思った人だ。

 

 

「よし、ひとまず今日はもう寝よう。明日からも合宿は続くし、私たちが不合格になったせいで、皆まで退学になるのは避けたい。」

 

「うん。怪しまれないよう、私が先に部屋に戻る。それじゃリンゴ、おや―――」

 

「あっ、ちょっと待ってくれ! 最後に一つ、聞いておきたいことがある。」

 

「なんだ?」

 

「聖園ミカがアリウスと仲直りしたいと言ってきたと言っていただろう? だがスパイをやるような末端の者までに、トリニティのトップが接触してくるとは考えづらい。どうやってそれを知ったんだ?」

 

「ああ、それは―――」

 

 

 今度はアズサの顔がほころぶ。何かとても大切な、楽しい思い出を話すみたいに。

 

 

「サオリが―――スクワッドのリーダーが、教えてくれたんだ。ほんの少しだけ笑みを浮かべて、嬉しそうに。」

 

 

 おやすみ―――と言って、今度こそアズサは去って行った。私はしばらく、呆然と突っ立って動けなかった。

 

 

(笑った? 錠前サオリが、嬉しそうに? アリウスとトリニティが仲直りするなどという、夢物語を聞かされて……?)

 

 

 仮定に仮定を重ねた、予測とすら言えない粗末なものだが……錠前サオリの心にも、希望というものが芽生えているのかもしれない。もしそうなら、私たちが手を取る未来もあるかもしれないのか?

 

 高鳴る心臓を押さえつけながら、私は食堂の電灯のスイッチを消した。今夜は眠れそうにない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。