銃、手榴弾、幽波紋(スタンド)   作:春雨シオン

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Part3 砂狼シロコ その①

 ―――アビドス高校学区内、とあるマンション

 

 

「ここに砂狼シロコが住んでいるのか?」

 

「うん。ほとんど毎日、顔を合わせて話をしようとしてたから、ここにずっとこもってるのは確認済みだよ。」

 

「買い物なんかで外に出たことは?」

 

「シロコちゃん、結構しっかり備蓄するタイプみたいでさ。今のところ姿は見てないよ。」

 

 

 エレベーターが目的の階層に到着し、私たちの会話は終わった。ホシノを先頭に廊下を歩き、やがて一つの部屋の前で立ち止まった。

 

 

「ここだよ。どうする、とりあえずインターホン鳴らす?」

 

「いや、少し待て。私が位置についてからだ。」

 

「位置?」

 

 

 質問に答える代わりに、私はシロコの部屋のドアに触れた。

 

 

『スティッキィ・フィンガーズ』。」

 

 

 私の傍に、またしても人影が現れる。これが私のスタンド、その(ビジョン)だ。スタンドが拳でチョンと触れた個所に、拳だけは通りそうな小さな穴が開く。穴に手を差し込み、鍵のつまみのようなものがないかと探すが、どうやらそういうつくりではないようだ。その光景を覗き込むようにして見ていたホシノは、穴をまじまじと見て困惑の声を上げた。

 

 

「な、何それ……? ドアに……チャック?がついて、穴が開いてる?」

 

「チャックじゃない、ジッパーだ。私は壁や床にこうしてジッパーをつけ、通り抜けることが出来る。これを―――」

 

 

 スティッキィ・フィンガーズは、今度はドアの真ん中あたりに拳で触れる。さっきよりもずっと大きなジッパーが、ドアを両断するかのように走る。

 

 

「これでいつでも入ることが出来るはずだ。私はお前たちが入った後、シロコに奇襲をかける。」

 

「うへ、おじさんたちは囮ってこと? 参ったなあ。」

 

「ついて来ると言ったのはお前だからな、悪いが文句はなしだ。」

 

「待って、リンゴ。わかってると思うけど、あまりひどい怪我は……。」

 

「……大丈夫だ、先生。私の―――いや、このスタンドなら、一撃叩き込むだけで決着がつく。」

 

 

 『スティッキィ・フィンガーズ』。私がこの能力に目覚めたのは、本当に奇妙な体験だった。だが、今それは重要なことじゃあない。大切なのは『何が出来るか』だ。

 

 

 このスタンドの能力は、拳で殴ることによって発動する。殴った場所にジッパーをつけ切開をしたり、くっつけたりすることも出来る。その対象はたとえ人間が相手でも問題はない。また、能力を私が解除しない限り、切開した部分が物理的な破壊になることはない。相手を傷つけず、制圧することも容易なはずだ。

 

 

「私は隣の部屋から入って、都合がよさそうなポジションを探す。見つけたらそこに待機して、頃合いを見てこのドアに付けたジッパーを開く。それが合図だ。突入するか、それとも説得しながら近づくか……それは任せる。とにかく、シロコの注意を引いてくれ。」

 

「了解。そういうことなら、私に任せて。もちろん、先生の身の安全もね。どうせ隠れててって言っても、無理矢理にでもついて来るだろうしさ。」

 

「ご、ごめんねホシノ。足だけは引っ張らないようにするから。」

 

 

 作戦は決まった。後は実行するだけだ。

 

 

「それじゃあ先生、号令を頼む。」

 

「え? 私でいいの?」

 

「私はあんたの部下なんだ。あんたの命令がほしい。」

 

「そ、それじゃあ……作戦開始! シロコを助けに行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 リンゴが隣の部屋に入っていく背中を見送りながら、ホシノは先生に尋ねた。

 

 

「ねえ、先生。あの子のこと、本当に信用していいの?」

 

「ホシノ?」

 

「……ううん、やっぱり答えなくていいや。先生が生徒のことを疑ったりするわけないもんね。」

 

「もちろんだよ。リンゴはちょっと当たりが強い時もあるけど、本当は優しい子だと思うよ。私と出会った日にも、自分から銀行強盗を制圧しちゃったしね。」

 

「うへ~。また先生、そんなトラブルに巻き込まれちゃって大変だね~。でも、そっか。銀行強盗か。」

 

 

 ホシノは何かいたずらを思いついたかのように笑った。先生がシロコと話をしようと何度もアビドスに足を運んでいた間、ホシノは常に険しい表情だった。後輩のために何もしてやれない自分を責めるようなその態度に、先生も心を痛め続けていた。

 

 

「ねえ、先生? シロコちゃんが出てきてくれたらさ、一回くらい銀行強盗を見逃してあげない? いやむしろ、先生も覆面を被って―――」

 

「それは流石に遠慮したいかな。」

 

「うへ、やっぱり?」

 

 

 矢のもたらした被害と、それに伴って増加しつづける犯罪。シャーレに押し寄せる相談を処理し続ける先生は、先の見えないトンネルの中を歩いているように感じていた。何も解決できない自分に苛立ちを覚えた日もあった。それでもホシノの和やかな表情を見ていると、ほんのわずかな光が差し込んできたと思えた。

 

 

 その想いを肯定するかのように、ジッパーが開く音が響いた。まさしく、閉ざされていた道が拓かれた瞬間だった。

 

 

「―――行こっか、先生。」

 

「ああ、行こう!」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「シロコちゃん、私だよ。ホシノだよ。」

 

「シロコ! 話をしにきたんだ、顔を見せてほしい!」

 

 

 二人は突入ではなく、説得を選択した。二人にとってシロコは倒すべき敵ではなく、大切な後輩であり生徒であったからだ。玄関から廊下を通り、リビングのドアを開いた、その瞬間。

 

 

「ッ、先生、危ない!」

 

 

 咄嗟に盾を構えたホシノ。その腕に無数の衝撃が走る。

 

 

「大丈夫、ホシノ!?」

 

「私は平気! それより早く隠れて!!」

 

 

 ホシノの足元に、盾に受け止められた弾丸が何発も転がる。体に対するダメージはないが、それでも一つの事実が重く心にのしかかる。

 

 

「シロコちゃん……。私たちを、撃って……!」

 

 

 ホシノは決意を込め、ショットガンと盾とを構える。後輩に銃を向ける日が来ることになるとは思わなかったが、やらなければこちらがやられるはずだ。

 

 

「先生、どうすればいい?」

 

「……こうなってしまった以上、しょうがない。ホシノ、リビングに突入できる?」

 

「それしかないね。先生はここに隠れて、絶対に体を出しちゃダメだからね!」

 

 

 覚悟を決め、ホシノはリビングの中に飛び込んだ。真昼だというのにカーテンを閉め切り、電灯もつけていない薄暗い部屋の中に人影を認めると、躊躇なくそれに向かって引き金を引く。

 

 瞬間! まったく同時だった。シロコも全く同時に、ホシノに向かって引き金を引いた。銃弾の雨がホシノに向かって放たれるが、それらは再び盾に阻まれ、ホシノに傷一つつけることは出来ない。

 

 

 ―――そのはずだった。

 

 

「うッ……!?」

 

「ホシノ!? 大丈夫!?」

 

「大丈夫だから、出てこないで!」

 

 

 背後から投げかけられる先生の声に、ホシノは大声で応えた。だがそれが虚勢にすぎないことは、誰が見ても明らかなことだった。

 

 

(なんで……!? 今私は、絶対に盾を構えていたはず……!)

 

 

 ホシノは盾をちらりと確認したが、どこにも異常はない。だというのに、シロコが放った弾丸は盾を貫通し、ホシノの体を撃ちぬいていた。

 

 

「シロコちゃん……強くなったね。」

 

「……。」

 

 

 ホシノの呼びかけに、シロコは沈黙で返した。その虚ろな顔に、ホシノは見覚えがあった。

 

 

(まるで、初めて会った時のシロコちゃんみたい。なんというか、自分の意志がないみたいな……。)

 

 

「いや、シロコちゃんじゃないのかな? 君、誰?」

 

「答える必要はないなあ。こいつの体は、もう俺が貰った。」

 

「ッ!!」

 

 

 間違いなく、自分を慕ってくれている後輩の声。だが話し方も、立ち振る舞いも、すべてが目の前にいるのがシロコではないことを証明していた。

 

 撃たれたホシノの腕の痛みは、一瞬のうちに消え去った。ただ目の前の相手に対する、怒りだけが彼女を支配した。

 

 

「シロコちゃんの中から出て行け!!」

 

 

 怒りのままに発砲するホシノだったが、シロコはすぐにソファの後ろに姿を隠す。ソファに無数の穴が開き、弾丸は綿の中で力尽きた。

 

 

(避けた! 前のシロコちゃんより速くなってる!)

 

 

 自身の銃撃を躱され驚いたホシノ。そのほんの一瞬の膠着が、命運を分けた。シロコはソファの裏から銃を乱射したのだ。弾丸は何も遮るものはないと言わんばかりにソファを貫通し、構えた盾をも貫き、そうして再びホシノを襲った。

 

 二度目の銃撃は、一度目よりも遥かに火力を増していた。少なくとも、喰らったホシノはそう感じた。特に額に命中した一発は、彼女の意識を混濁させるのに十分な威力があった。

 

 

「お前の銃撃は既に覚えた! もう何発撃とうと、俺に命中することはない!」

 

「シロコ、ちゃん……?」

 

「ダメだ、シロコ! ホシノから銃を―――!!」

 

 

 霞みつつあった視界の中、ホシノは向けられた銃口をぼんやりと見ていた。先生のものらしき足音を聞き、止めなければと思うのに、体は言う事を聞かなかった。

 

 

『スティッキィ・フィンガーズ』!!」

 

 

 突然声が響いたかと思うと、ホシノの体は宙に浮いていた。まるで野球ボールでも放り投げるかのように、誰かがホシノを投げ飛ばしたのだ。

 

 

「―――リンゴ!」

 

「やれやれ、奇襲は失敗だ……。だが、お前を倒すのには、何の支障もないな。」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 しくじった。スティッキィ・フィンガーズを使って真上の部屋に上がり、その床に穴を開けてホシノとシロコの戦いを観察し、好機と見れば仕掛けるつもりだった。だが現実にはこうしてホシノを助けるために部屋に飛び込み、得体の知れないスタンド使い相手に体を晒してしまっている。

 

 

(何をやっているんだ私は……!! クソっ、先生がいるからだ。そうに決まっている!)

 

 

 ホシノが危険に晒されたとなれば、自分にはまったく関係のない銀行強盗にさえ首を突っ込むお人よしの先生のことだ、必ず介入しようとするはず。そうなれば先生の命の危機だ。スティッキィ・フィンガーズはホシノを掴み、先生の方へ放り投げた。

 

 

「先生ッ! そいつを連れて外へッ!!」

 

 

(とにかく、終わったことを嘆いてもどうしようもない。)

 

 

 先生を背後に隠すように立ち、砂狼シロコを見据える。意識は完全にホシノと先生から外れ、私しか目に入らないようだ。

 

 

「なっ、何者だお前! まさかお前も、スタンド使い!?」

 

「答える必要はないッ!! くらえ、スティッキィ・フィンガーズ!!」

 

 

 スタンドの拳によるラッシュを繰り出すが、どれも間一髪のところで回避される。こいつ、やはり素早いッ!

 

 

「クソっ! このスピードからして、近距離パワー型ッ! 今の俺じゃ100パー不利だぜッ!!」

 

「逃がさんッ!!」

 

 

 シロコは体を翻し走りだした。それと同時に、後ろ手に転がすように何かを投げる。奴め、リビングからさらに奥の部屋へ逃げ込むつもりかッ!

 

 

「くッ……!」

 

 

 投げられた小さな筒は大量の煙を吐き出し、あっという間に視界を覆う。奴はいつの間にか、スモークグレネードまで調達していたらしい。

 

 

(どうする……!? 奇襲が失敗した以上、一度二人を連れて離脱するか!?)

 

 

 二人の戦いを観察してわかったことだが、奴の攻撃手段はスタンドではなく銃撃が中心だ。そして盾やソファを弾丸が貫通するあたり、撃った弾丸が物体を透過する能力と見た。

 

 

(ならばこの場面、追撃以外の選択肢はないッ!)

 

 

 とにかく結論は変わらない。射程距離まで近づいて、スティッキィ・フィンガーズを叩き込む。抜け目なく閉じられていたリビングのドアを、飛びつくように開いた私を出迎えたのは、アサルトライフルの銃弾ではなかった。代わりに一発、爆発音のような轟音が響く。

 

 

「クッ!?」

 

 

 咄嗟にのけぞるように躱すが、胸に刺すような鋭い痛みが走る。躱し切れなかった弾丸が命中したらしい。デカいばかりで役にたったことがない。常々動きづらいと思っていたが、とうとう足まで引っ張ろうというのか、私の胸は。

 

 

「クックックッ……どうだ、これが何かわかるか? リンゴとやらよォ~~~。」

 

 

 どうやら私は、見込み違いをしていたらしい。奴は初めから、逃げるつもりなんて毛頭なかった。奴は、『あれ』を取りに行っていたんだ。

 

 

『WHITE FANG 465』アンド『Eye of Horus』二刀流! お前は今、ここでやることにしたぜッ!!」

 

 

 もとから所持していたアサルトライフルに加え、ホシノが持っていたショットガン。二挺を両手に構えたシロコが、腕をクロスさせるようにして両の銃口で私を狙っていた。

 

 

 

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