「『WHITE FANG 465』アンド『Eye of Horus』二刀流!」
アサルトライフルとショットガンの二挺を両手に構え、勝ち誇ったように笑うシロコ。一見馬鹿みたいな絵面だが、相対する私の頬には冷や汗が伝う。
(ここから私のスティッキィ・フィンガーズを叩き込むためには、あと3mは近づく必要がある……!)
ここから全力で駆けだしたところで、スタンドは弾丸を防ぐのに集中しなければならない。そうなれば弾幕に押されて、接近するどころではなくなるだろう。
「お前……砂狼シロコじゃあないな。聞いていたキャラと違いすぎる。スタンドそのもの、か?」
「ヒャハハ、中々頭がキレる奴じゃねえか! その通り、俺の名は『アヌビス神』!! この小娘のスタンドとして目覚めたが、あっさり乗っ取ってやったのよォ!」
「スタンドに、精神を乗っ取られる……!? バカな、そんなことが出来るわけがないッ!」
「もとより俺は独立したスタンド! いくら本体が生きているとはいえ、暴走して強化されたスタンドパワーに、心が弱った瞬間を狙えばこんなものよ。」
「さて……おしゃべりはここまでだ。この銃って奴はやたらと複雑な機構で面倒だが、火力だけは気に入ったッ! つい最近までは本体の精神が抵抗してきて面倒だったが、今は完全に俺が掌握した! かつて刀を本体としたように、銃を本体として一体化したのだッ! お前を倒して、俺は自由を謳歌させてもらうとするぜッ!」
「クッ……!」
やるしかない。奴の弾幕を潜り抜け、出来る範囲まで接近するしかない。本体に攻撃することは難しくとも、せめて銃だけでも破壊しなければ。
「まずはライフルからだッ! 食らってくたばれェーーーッ!!」
「スティッキィ・フィンガーズ!!」
スタンドの両の拳によるラッシュ。乱射される弾丸の雨を必死で弾き続ける。
「遅い遅い遅い遅いおそーーーいッ!!」
「ぐ、ああ……ッ!」
弾ききれなかった弾丸が体の節々に命中し、刺すような激しい痛みが走る。とにかく耐えるんだ。耐え続ければ、必ずチャンスが来るはず。
「このまま圧殺して―――んッ!?」
シロコ―――いや、アヌビス神が怪訝な表情になる。引き金を引いてもなお、弾丸が発射されない。これを待っていた。
「弾切れだ! 残弾くらい把握しとくべきだったな、マヌケッ!!」
アヌビス神はすぐさまショットガンを構えるが、その弾丸が発射されることはなかった。当然だ、ホシノのあれはポンプアクション。一発放った後には、ハンドグリップを動かして弾薬を排出する必要がある。奴が目覚めたのは最近のことだというが、銃はそう簡単に扱えるものじゃあない。
(私たちが銃を扱うのに、どれだけ練習してきたと思ってるッ!!)
「くらえッ! スティッキィ・フィンガーズ!!」
完全に射程距離に入った。スタンドの拳によるラッシュがシロコを襲い、それで決着がつくはずだった。だがその攻撃が、奴を捉えることはなかった。全てを躱され、後ろに飛び退くように距離を取られる。
「な……何……ッ!?」
「甘い甘い甘い甘いあまぁ~~~いッ!! お前の拳打、そのラッシュは既に覚えたッ!」
「クソっ、まだだッ!!」
避けられてはいるが、壁際に追い詰めているのは私の方だ。このまま打ちこみ続ければ、いつかは命中するはずだ! 右の拳を全力で繰り出すが、首をわずかに反らしただけで簡単に避けられてしまう。拳はシロコのすぐ後ろの壁に命中し、虚しくジッパーを付けただけに終わった。
「ば、馬鹿なッ!」
「もうお前の拳が命中することはないッ! そしてェーーーッ!!」
「ぐあッ!?」
突如、背中に激しい痛みと熱さが走る。灼けるような痛みだ。足に力が入らず、立っていられない。
「こ、これは……ッ!」
「砂狼シロコの武装は、完全にこの俺が掌握しているッ! 銃だけでなく、
反射的に振り向くと、小型のミサイルを何発も抱えた武装ドローンが、羽音もなく飛行していた。
「し、シロコのドローンはリモコンで操作すると、ホシノから聞いていたはずなのに……。」
「俺のスタンドは武装に宿るタイプだッ! それは銃だけじゃあなく、ドローンまでも操作できるッ!」
アヌビス神はニタァと勝ち誇った笑みを浮かべる。
「俺のドローンのミサイルは、お前の両足を完全に破壊した! もはやそこから、一歩でさえも動けまいッ!」
……悔しいが、正直その通りだ。どうやらドローンによる攻撃の威力も、スタンドによって強化されていたらしい。動かそうとするだけで激しい痛みが走り、立つこともできない。
「さあ、今度こそおしまいだッ! 次は銃撃だけじゃあなく、ドローンとも同時の掃射ッ! お前を完全に破壊するッ!!」
「
「お前が楽しそうに勝ち誇っている間ッ! 私の攻撃は既に完成していたぜッ!!」
「へッ?」
アヌビス神の表情が困惑に歪む。私の勝利宣言に、ほんの一瞬攻撃が遅れる。そのほんの一瞬のタイムラグが命取りになった。
「なぁッ!? な、何だこの、この殴られたような痛みは!?」
アヌビス神の後頭部に、スティッキィ・フィンガーズの碧い拳が命中する。殴られたということは、ジッパーを付けられるということ。シロコの首を一周するようにジッパーが走り、少しづつ開いていく。
「ば……馬鹿な、ありえないッ!! お前はそこから、一歩も動いていないのにィーーーッ!?」
「『スティッキィ・フィンガーズ』。倒れた時、私は自分の腕に触ってジッパーをつけていたッ!」
諦めかけた私の頭の中に、突如稲妻のようにアイデアが閃いた。私の腕にジッパーをつけ、それをリンゴの皮を剥くみたいにグルグルとほどいていくことで、私の腕を伸ばすことが出来るのではないか、と。
倒れ込みながら、スティッキィ・フィンガーズで床に穴を開けた。穴を体の背後に隠しつつ、伸ばした腕をその穴の中に通していく。後は床下を通し、事前にシロコの背後についていたジッパーから飛び出させる。いくら伸ばしているといってももとは私の腕、一発のパンチを放つくらい造作もない。
「な……何だッ!? 何が起こっているんだッ!? な、何で、ヒィーーーッ!? お、俺の体が倒れているのが見えるンだァーーーーッ!?」
「スティッキィ・フィンガーズは首を切断した……。だが心配するな。私が能力を解除しない限り、首はつながったままだ。」
「―――そして、訂正してもらおう。その体はお前のものではない。砂狼シロコのものだ。」
「わ……わかったッ! お前、いやあなたには逆らいませんッ! か、体だってすぐにお返ししますからッ!」
腕に付けたジッパーを閉じ、私の腕を元に戻す。少しずつ足の痛みもひいてきて、立ち上がるのに支障がない程度には回復した。アヌビス神はすっかり怯え切ってしまったようで、額にダラダラと脂汗を浮かべている。
「それでいい。だがその前に、やっておくべきことがある。」
「な……何を―――」
振り向きざまにスティッキィ・フィンガーズの拳を振るう。高速で振るわれるラッシュは飛来するミサイルを全て叩き落し、全ての兵装を撃ち尽くしたドローンは虚しくフラフラと飛行を続けていた。
「こんなこと考えてるんだろうと思ったんだ。お前、いよいよ許すわけにはいかなくなったな。」
「ひ…ひぃ……!」
頭と胴体を切り離したことにより、アヌビス神は銃を扱えなくなっている。だが手を使わずに操作が出来るドローンならばまだ攻撃が可能であり、奴が最後の逆転のチャンスに賭けるのは容易に想像がついた。
「震えてるぞ? 安心しろよ……お前のように、私にもご主人様がいてな。その人は出来るだけシロコを傷つけないでほしいと言っていた。だからお前をめちゃくちゃにぶん殴ったりはしない。」
「じゃ、じゃあ、助けてくれるのか……?」
「だが! 私の目的はお前を力で屈服させることだ。最後のダメ押しをしとかなくっちゃあな……。」
「砂狼シロコは殴れない。だから代わりに……」
悠然とした足取りで、私はあるものを拾い上げた。それを見ていたアヌビス神の顔が青を超えて蒼白になっていく。
「ま……まさか……!?」
返答の代わりに、銃を宙へと放り投げる。重力に従い落下してくるライフルの下では、スティッキィ・フィンガーズが拳を握りしめていた。
「お前と一体化しているというこの銃を、代わりにバラバラにすることにした。」
「や……やめろッ! やめてくださいッ!! ば、バラバラは嫌だッ!! 粉々に粉砕されるのはもう嫌だァーーーーッ!!」
シロコの背後から飛び出すように、黒い犬と人間を混ぜたようなビジョンが現れる。どうやらこいつが『アヌビス神』のビジョンらしい。今更出てきたところで、もう全ては終わっているが。
右手だけの軽いラッシュだが、それでも私の拳は命中するだけで致命傷だ。
「ギ……ギニャァーーーーッ!!」
銃にジッパーが走るのに従って、アヌビス神の体も無数のジッパーが横断していく。私が満足してラッシュをやめたころ、そこにあったのはもはや初めは何だったのかわからない鉄屑のみで、犬のようなビジョンは跡形もなく消えていた。壁の弾痕や焼け焦げた床の跡だけが、その場で起きたことを照明していた。
「砂狼シロコを制圧するという任務……
「だが……」
呆然と足元を見る。もとは銃だったものが散らばり、子供が癇癪を起こして散らかした後のようだ。
「これ……元に戻さないと駄目、だよな……。」
―――――――――――――――――――
「シロコちゃーん、これ銃のどこ? というか、何?」
「ん…多分、ストックの一部だと思う。グリップはもっと手に馴染む。」
「シロコ、これは?」
「マガジン、かな。弾は触られてないから無事みたい。」
戦闘が終わり、私は先生とホシノの二人を呼び戻した。そうしてホシノ立ち合いのもと、砂狼シロコの意識が戻ったことを確認し終わった。
……今は、私が文字通りバラバラにした銃の復元作業にあたっている。私たちは当然銃を分解して整備する方法は知っているが、こんな風に刃物でやたらめったらに切り離したような破片は知らない。
「おっ! こことここ、くっつくんじゃなーい? リンゴちゃん、ほらやってみて。」
「わ、わかった。」
シロコと私以外には見えていないだろうが、断面にはしっかりジッパーがついている。二つをくっつけてジッパーを閉じれば、もとから繋がっていたように接合できる。
「お~できたできた。これ多分グリップ部分だね~。」
「ん。あともうちょっと。」
長く苦しい道の果て、ようやく銃は完成一歩手前まで来た。最後の破片を取り付け、とうとう銃が完成した。
「いやぁ、や~っと完成したよ~。シロコちゃんの銃、復活~。」
「俺も復活ゥーーーッ!! 冥府の神である俺様は不死身ッ! 不老不死ッ!! スタンドパワァッ!?」
「どこまでも予想通りな野郎だ。銃が完成したらお前も蘇るだろうと思っていた。」
私のスティッキィ・フィンガーズがアヌビス神の首をがっちりと捕える。横目でちらりとシロコのを見るが、驚きの表情はあるものの苦しんでいる様子はない。
「これが――!」
「そうだ、砂狼シロコ。お前のスタンドだ。」
スタンドはスタンド使い以外には見えない。ホシノと先生は私たちの話についていけていないだろうが、既にホシノは先生を自分の後ろに隠して守っている。流石だ。
「まっ……待ってくれッ! 違うんだ、本当に気の迷いだったんだッ! い、今はほら、本体のシロコさんに絶対服従なんだ!」
「……シロコ。スタンドを動かしてみろ。」
「どうやるの?」
「自分の体を動かすようにやればいい。スタンドは『精神のエネルギー』。お前のイメージした通りに動かせるはずだ。」
「ん……。」
少しだけ表情を強張らせたシロコだったが、決心したように左の掌を前に差し出した。
「お手。」
「……。」
「……。」
アヌビス神は差し出されたシロコの掌に、ぽすんと自分の掌を置く。
「ん、完璧。」
「いや、お前がそれでいいんならいいんだが……」
「いいわけあるかァーーッ! ふざけてんじゃあないぞ、この本体がァ!」
アヌビス神は不満の声を上げるが、まあ本体のシロコが満足しているならそれでいいだろう。
「それより、お前には聞いておきたいことがある。答えてもらうぞ、アヌビス神。」
「く、クソ……。釈然としないが、またバラさられるのだけはごめんだッ! 答えてやるよ。」
「べネ。まずはお前が生まれた経緯だ。お前は確か、もとはシロコのスタンドではないような口ぶりだったな?」
「俺は本来、500年前の刀鍛冶のスタンドだった。そいつの作った刀に宿り、本体が死んだ後もなお俺だけは生き残り続けてきたのだ。」
「スタンド使いが死んでも……? そんなことが可能なのか?」
「そんなもの俺に聞かれても、実際こうして存在しているんだから仕方ないだろう。とにかく俺は刀に宿り、その刀を抜いた者の精神を乗っ取って世の中を渡り歩いてきた。だがある日、その刀は粉々に粉砕され、残った部分もナイル川の底に沈み……! あぁーーーーッ! 思い出しただけで狂いそうだッ!! あの孤独、あの静寂ッ!!」
何かを思い出したのか、アヌビス神が頭を抱えてうめき声をあげる。
「おい、早く続きを話せ。」
「そ、そっからはあんたらの知っている通りだ。ナイル川の底で考えるのをやめていたら、いつの間にかこいつが本体になっていた。俺は誰かが刀に触れたのかとも思ったが、突然強烈な飢えと渇きに襲われたんだ!」
「飢え?」
「そうだッ! この本体め、飯どころか水すら飲みやがらねえ! このままじゃ死んじまうと思った俺は、必死で体を乗っ取って、ここまで命を繋いでやったんだッ! そういう点じゃむしろ、感謝してほしいくらいだぜッ!!」
「そ、その……。」
シロコが私の腕を引っ張る。何か言いたいことがあるらしい。シロコの方に体を寄せると、耳元で囁くように告げた。
「ホシノ先輩には言わないで。きっと、すごく怒られるから。」
「……事実か?」
「え?」
「事実かと、聞いているんだ。」
「う、うん……。」
私の口元に、何か生暖かいものが流れる。誰にも見られないようにそれを拭いとる。どうやら唇を噛む力が強すぎたあまり、皮膚が切れて出血してしまったらしい。
(落ち着け、落ち着け……。)
今はそういう場面じゃあない。感情を押さえろ、自分をコントロールするんだ。
「……話を変えるぞ。お前たちは『矢』について知っていることはないか?」
「矢……私が刺された奴のこと?」
「そうだ。何でもいい、知っていることは全て話せ。」
二人の話を一通り聞いたが、これといった収穫はなかった。シロコは矢に射られた後、後輩を傷つけたショックから部屋にずっと籠っており、それから変わったことはなかったと証言し、アヌビス神に至っては矢に射られたことさえ記憶になかった。
「……クソ。苦労の割に収穫はなかったな。」
「あなたは、あの『矢』を追ってるの?」
「……ああ。」
「それなら、収穫がなかったなんてことはない。」
シロコは胸を張って言う。
「なぜなら、私があなたの力になるから。」
「……はぁ?」
「ん、今の私もあなたと同じスタンド使い。私があなたの仲間になってあげる。」
「ちょ、ちょっと待て本体! お前、あの『矢』がどんだけヤバい代物なのか知ってて言ってるのか!?」
自信満々のシロコの態度と裏腹に、アヌビス神が抗議の声を上げる。
「ん、アヌビスは私のスタンドなんだから私に従うべき。」
「そ、そいつはそうだが……。」
「それに、矢のことが不安なのは私だって同じ気持ち。私はたまたまスタンドが目覚めたけど、ノノミやセリカ、アヤネに先生はそうならないかもしれない。」
「うへ、シロコちゃん。私のことは心配してくれないの~?」
「ホシノ先輩は強いから、きっとスタンドに目覚めるはず。でも心配しないで。私がホシノ先輩も守ってあげる。」
「あ、ありゃりゃ。後輩からすっごい期待を向けられてる気がするなあ……。」
「私も守られる側なんだね……。」
「ん、先生は弱いから、ずっと私の傍にいるべき。」
いつの間にか先生とホシノが話に混ざり、和気藹々と会話が盛り上がっている。それがやけに眩しくて目を細めていると、コソコソとアヌビス神が話しかけてきた。
「お、おいリンゴ! シロコを何とかしてくれよ!」
「私をあんなに手こずらせたお前の戦闘力だけは信用している。手伝え。」
「ゲッ……! な、何でわからないんだお前らは! 強い奴に、敵わない奴には忠誠を誓って服従するのが、一番安心な手段だってのに……。」
強い奴……服従……安心……。
「……私は、奴隷に甘んじていたくはない。」
「え?」
「お前と話をして、改めて決意が深まったよ。必ず『矢』は叩き潰す。絶対にだ。」
そのためになら、協力者がいるというのは悪い事ではないはずだ。特にスタンド使いの仲間は、一人でも多い方がいい。
「砂狼シロコ。改めて名乗っておこう。黒沢リンゴ……シャーレに所属している。」
「ん、私は砂狼シロコ。これからよろしくね。」
差し出した手を、シロコはしっかりと握り返す。手のひらからじんわりと暖かさが伝わって来る。いつの間にかカーテンが開かれていた窓からは、キラキラとした日差しが差し込んでいた。
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「これは……由々しき事態ですね。仕方ありません、予定よりも早いですが、先生とコンタクトをとりましょう。」
「いいの? 部長。正直私も、100%勝つ自信ないんだけど。」
「構いませんよ、エイミ。評判通りの人物なら心配はないでしょう。それに、この超天才清楚系美少女ハッカーの私には、それなりの備えがありますから。」
「この『スタンド』という特異現象……ふふっ、私たち『特異現象捜査部』の出番とは思いませんか?」
アヌビス神 本体-砂狼シロコ
【破壊力:B スピード:B 射程距離:E 持続力:A 精密動作性:C 成長性:C】
銃やドローンなどの武装に憑依し、火力などの基礎性能を向上させたり、弾丸が物体を透過するようになったりと強化する。本来兵器はスタンドに効かないが、アヌビス神によって強化されたものはスタンド扱いになり、攻撃が可能になる。
本来は別人のスタンドだったと証言しているが、現在は完全に砂狼シロコのコントロール下にあるようだ。それでも自分の意志がないわけではないようで、勝手に話をしたりお菓子を食べたりしている。