銃、手榴弾、幽波紋(スタンド)   作:春雨シオン

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Part7 春葉原行き超特急 その①

「あははっ! 誰かと一緒にお風呂なんて久しぶりー!」

 

「騒ぐなくっつくな! くそ、離れろッ!」

 

 

 どうしてこんなことになったんだ。私はただ単に、こいつ―――一之瀬アスナから、奴のスタンドや『矢』の情報を聞き出したかっただけだった。なのにこうして一大チェイスを演じさせられた挙句、知らない場所でシャワーを浴びている。

 

 なんとかアスナを個室のシャワーに押し込み、ようやく落ち着いて入浴できるようになった。もうもうと湯気を立てる暖かい湯を浴びると、ついため息が漏れてしまう。

 

 

(誰かとシャワーを浴びるなんてのは、矯正局じゃ当たり前だった。こいつらはそんなこと、知りもせずに生きていくんだろうな。)

 

 

 あそこでの暮らしに不満はない。だがこうして娑婆での生活を体験してみると、やはり物足りなさを覚えるのも確かだ。……故郷での生活など、もはや思い出したくもない。

 

 

「……よし。アスナ、私はそろそろ上がるぞ。悪いが、お前も早くしろ。」

 

 

 アスナに敵意はない……はずだ。このシャワーの最中、私を攻撃できるチャンスはいくらでもあったはず。その時に何もしなかったのが証明になるだろう。だがそれでも、能力のわからないスタンド使いに背を向けるつもりはない。

 

 

「アスナ? どうした?」

 

 

 個室のシャワールームの扉の先、私の言葉に対する返事は帰ってこない。ただ虚しく、シャワーの水音だけが響いている。何故だか追い立てられるように悪い予感に駆られ、私は扉に手をかけた。

 

 

「……開けるぞ。」

 

 

 息を呑みながら、ゆっくりと扉を開ける。こちらに背を向けるアスナは、一見どこも変わった様子はない。

 

 

「おいアスナ。そろそろ私は上がるからな。」

 

「―――ねえ。」

 

「ん?」

 

「……頭って、どうやって洗うんだっけ?」

 

「―――ッ!」

 

 

 スタンド攻撃―――! アスナの虚ろな瞳を見た瞬間、私は理解した。高校3年生が、頭の洗い方がわからないなんてことがあるわけがない。アスナに冗談を言っている様子もない。で、あるならば。

 

 

(記憶を操作するようなスタンド使いがいるッ! クソっ、先にアスナが狙われたッ!)

 

 

 まだ体の節々には疲労から来る痛みが残っていたが、私の心の底から湧き上がる熱い何かが、その痛みを吹き飛ばした。アスナは確かにスタンド使いだ。だが、だからといってスタンド使いに攻撃されていいわけじゃあない。

 

 

「脱出するぞッ! ネルたちと合流するッ!!」

 

 

 アスナの手を掴み、シャワールームを飛び出す。とっさにバスタオルをひっ掴み、アスナの方に投げ渡した。ほとんど扉をぶち破るように部室に飛び込む。あっけにとられた表情でこっちを見ている3人に叫んだ。

 

 

「ネル! アスナがヤバいッ! 頭の洗い方がわからないだとか、妄言を吐き出した!」

 

「なっ……!」

 

「おそらくスタンド攻撃だッ! 何が何だかわからないだろうが、私の傍を離れるなッ!!」

 

「な……何やってんだテメェェェ!?」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「……と、いうわけです。アスナ先輩がそうやってフリーズするのはよくあることであって、何者かの攻撃ではないんです。わかりましたか?」

 

「……ああ。」

 

 

 ……アスナが攻撃されたというのは、私の早とちりだった。説明によれば、アスナは時々こうやって、電池が切れたみたいに動けなくなることがあるらしい。その時のアスナは階段の登り方や箸の使い方、頭の洗い方なんかの出来て当然のことすら出来なくなるようだ。今回たまたまそれが起き、それを私がスタンド能力によるものだと勘違いしてしまった、ということだ。

 

 

「ったく、いきなり二人とも全裸で飛び出してきやがって……誰かに見られたらどうするつもりだよ!」

 

「まあまあ先輩。リンゴさんもアスナ先輩を守るために必死だったんですから。とりあえず体を拭いて、改めて着替えてきてください。床の水滴は私たちがお掃除しておきますから。」

 

「……すまない。」

 

 

 ひとまず体を拭き、用意された着替えに袖を通す。それがいわゆるメイド服であったことには、大いに抵抗を覚えたが、用意されたものに文句をつけられるほど上等な身分というわけではない。大人しくそれを着て、ネルたちのもとに合流した。

 

 

「では、気を取りなおして話を進めましょうか。まずは自己紹介からいたしましょう。私たちはCleaning&Clearing。気軽にC&Cとお呼びください。私はコールサイン03(ゼロスリー)、室笠アカネと申します。以後、お見知りおきを。」

 

02(ゼロツー)、角楯カリン。狙撃手を務めている。」

 

01(ゼロワン)、一之瀬アスナ! よろしくね!」

 

「そんでアタシが00(ダブルオー)……美甘ネル。覚えときな。」

 

 

 4人の自己紹介を受け、私も名前と身分を明かす。シャーレから貰った入館許可証によって、私のことは信用してもらえたらしい。つくづくシャーレの影響力は恐ろしい。

 

 

「話は大体聞いてる。お前はアスナに聞きたいことがあるらしいな?」

 

「ああ。アスナの持つ『能力』と、それを身に着けた『経緯』だ。」

 

「それを知りたがる理由は?」

 

「私にも同じ能力がある。『スタンド』と呼ばれる能力だ。……だがこいつを身に着けるためには、ある『道具』が必要だ。私はその道具を追っていて、アスナがそれに接触した可能性があるからだ。」

 

「その道具ってのは何だ? 何のためにそれを追う?」

 

「……矢だ。黄金細工の矢。私はそれを、破壊するために探している。」

 

 

 ネルの真っすぐな視線に見据えられ、自然と背筋が伸びる。しばしの静寂の後、ネルが自分の膝を叩く音が沈黙を破った。

 

 

「よし! 信用してやる。シャーレのお墨付きもあるわけだからな。」

 

「感謝する。それじゃあ―――」

 

「ただし! アタシらからの質問にも答えてもらう。アスナのことだ。」

 

「……聞こう。」

 

「お前は今、アスナにもスタンドって能力があると言ってたな。それについて教えろ。」

 

「わかった。スタンドとは―――」

 

 

 私は一通り、自分が知る限りのことを話した。無論、スティッキィ・フィンガーズの能力についてなどは隠してだ。説明を聞いたネルやアカネの顔はより一層険しくなったが、それも仕方ないことだろう。これを一発で理解できる奴など、そういるわけがない。

 

 

「その、スタンドのせいで、日常生活に悪影響が出ることはあるのか?」

 

「アスナのような症状が出るのか、と聞かれれば、少なくとも私に関してはNOだ。だがスタンドの能力によっては、そういったことがあるのかもしれない。」

 

「……そうか。」

 

「それを確かめるためにも、アスナのスタンドについて詳しく知りたい。出して見せてほしい。」

 

「……おいアスナ! どうするかは、お前が決めろ。」

 

「いいよ!」

 

 

 深刻な顔をしていたネルだけでなく、おそらくは私も―――あっけにとられた顔をしていた。言わない方が得だとわかってはいたが、それでも口にせずにはいられなかった。

 

 

「アスナ、もう少し真剣に考えろ。スタンド使いにとって、能力を知られるということは戦いになったとき、大いに不利になるということだ。」

 

「でも、リンゴちゃんが私と戦うってこと、多分ないでしょ?」

 

「あン? なんでそう言い切れんだよ。」

 

「ん~、なんて言うか、直感?みたいな感じ!」

 

 

 直感? いや違う、完全に見えた。

 

 

「見えたぞアスナ! お前のスタンドがッ!」

 

 

 私はアスナの右手首を掴んだ。アスナの驚く表情と共に、その手から何かがはらりと零れ落ちた。

 

 

「付箋……ポストイットという奴か? ネルやカリンたちには見えていなかったようだが、今お前はこれを見ながら話していたな。」

 

 

 そこには、『自分の能力についてリンゴに説明する』と示されている。恐らくは、『次に行うべき行動を文章で示す』スタンドなのだろう。驚きに目を見開いていたアスナの顔が、みるみるうちに明るくなる。

 

 

「すごいすごい! 見えるんだ、これ!」

 

「おいちょっと待て、どういうことだ?」

 

 

 私の両手を握り締め、ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねるアスナを遮り、ネルが話に割り込んでくる。

 

 

「スタンドはスタンド使いにしか見えない。おそらくアスナは、この付箋のようなスタンドを今までも何度も目にしていたんだ。だがスタンドのことも知らない相手に、見えない付箋に指示が書かれていて云々という説明をしても理解できなかっただろうからな。単なる直感ということにしていたってところか。」

 

「そこまでわかっちゃうのー!? リンゴちゃん最高!」

 

 

 こいつがどうして、私にこれほどまでに懐くのかようやくわかった。こいつにとって、スタンド使いに出会ったのは私が初めてだからだ。

 

 誰しも秘密を抱えて生きている。同時に、ありのままの自分を受け入れてほしいという願望も持っている。だが私たちは―――スタンド使いは、誰からも理解されることはない。アスナだってそうだ。自分の能力を、誰に話しても理解されることはなかった。私が現れるまでは、だが。

 

 

「それなら、その付箋にはなんて書かれてんだ?」

 

「ああ。内容は―――ッ!?」

 

 

 ()()()()。付箋の内容について話そうとした瞬間、口が開かなくなり、言葉を発することが出来ない。な、何が起こっている?

 

 

「おい、どうした?」

 

「リンゴちゃんでも駄目なんだ。この内容について話そうとしたら、いきなり口が開かなくなっちゃうの。リンゴちゃん、別のこと話そうとしてみて!」

 

「―――ハッ! ハァ、ハァ……。た、確かに別のことを話そうとした瞬間、口が動くようになった。」

 

 

 無理矢理手で口を塞がれているような、奇妙な感覚だった。内容について“話す”ことは確かに禁止されているらしい。なら、別の手段ならどうだ?

 

 

「スマホのメモに転写を……駄目か。指が動かなくなる。」

 

 

 試しに『こんにちは』と入力しようとすると、今度は問題なく行えた。この分だと、他の方法を使っても内容を、他者に伝達することは出来そうにない。

 

 

「つまり、その付箋の内容を知るためには実際に『見る』しかありませんが、スタンド使いでないと付箋そのものが見えない、ということですか……。」

 

「ああ。アスナ本人の行動を補佐するのに特化したスタンドだ。」

 

 

 他にも知りたいことは多々ある。例えば、私がこれからとるべき行動も示してくれるのかどうか。他には、アスナが突発的に陥る忘却現象と関連があるのか。

 

 

「アスナ。この内容は、意識的に更新できるのか?」

 

「ううん! いつの間にか、勝手に切り替わってる感じかな。あっ、ホラ見て! 今変わってる!」

 

 

 付箋に目をやれば、スープに浮いた油のように文字が紙から浮き上がり、ぐにゃぐにゃと形を変えていく。変化が収まったとき、そこにはこう書かれていた。

 

 

『春葉原の4番ホーム傍の宝くじ売り場で、119325番を買う』

 

 

「……何だ? これは?」

 

「わかんないけど、多分これを買ったら当たるんだと思う! ねね、行ってみようよ!」

 

「ま……待て、おい!」

 

 

 震える指でスマホをタップし、ミレニアムの宝くじ売り場を検索する。今売られている宝くじは『新春ビッグチャンス』……一等は―――

 

 

「ご、5千万円……だと!?」

 

「おい待ちやがれ! 何話してんだ?」

 

 

 ネルが私のスマホを覗き込み、私と同じように息を呑む。付箋の内容に言及することは出来ないが、行動を見て推測することは出来るらしい。

 

 

「お、おいこれ……! まさか、当たるってのか!?」

 

「わからない! だが、もしそうなら―――」

 

「……この前リーダーが破壊した機材の弁償をしても、まだ9割以上残りますね。」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ先輩。アスナ先輩はそれでいいのか?」

 

「いいよ? 宝くじ当たったら、皆で山分けだね!」

 

「お……おい待て、私は……!」

 

「もちろんリンゴちゃんも一緒! はやく買いにいこ!」

 

 

 私は付き合わないからな、と言おうとしたが、アスナに遮られた。だが正直、5千万円というのは魅力的な提案だ。ここにいるのは全部で5人……アスナが言うように山分けするのであれば、私の取り分は1千万になる。それだけの金があれば、人を雇って『矢』を探させることも視野に入れられる。

 

 

「決まりだな。おう、行くぞおめえら!」

 

「……待て。この格好のまま行くのか?」

 

「あぁん? てめえの普段着の方がよっぽど恥ずかしいだろうが!」

 

 

 ……納得がいかない。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 こうしてC&Cの4人に、もう一人メイドを加えたパーティは一路、春葉原の宝くじ売り場を目指すことになった。モノレールを使い正門まで移動したのち、電車で春葉原まで移動する。普段は気にならない人の目がやたらと気になるし、ひらひらとしたスカートも落ち着かない。こんな防御力の低いものを着て、どうしてこいつらは平気なんだ?

 

 

「そ、その、言いにくいんだが、リンゴ。足を組むのはやめた方がいい。」

 

「……今はそんなに混んでいないし、特に気にする必要はないと思うが?」

 

「いや、スカートだと、その……み、見えてしまうからな。」

 

「……!」

 

 

 最悪だ。こんなもの履いたことがないから、まったく気づかなかった。慌てて足を下ろしたとき、ちょうど電車は駅に到着した。何人かの生徒がぺちゃくちゃと喋りながら乗り込んできた。もう少し気づくのが遅れたら、大変なことになるところだった。この電車は春葉原行きの特急、この駅を超えたら後は一直線だ。

 

 

(ん……?)

 

 

 恥ずかしがっている私の隣に、一人の生徒が腰掛ける。大して混んでもいないのに、わざわざ隣に座って来るのか。ただでさえ隣にアスナがくっついていて狭いってのに、何を考えているんだ?

 

 軽く睨みつけてやったが、ヘッドホンをつけているそいつは音楽に集中しているのか、私の視線に気づきもしない。席を離れようかとも思ったが、そうなるとアスナもついてくる。ただでさえメイド服で目立っているのに、無駄な騒ぎを起こしたくはない。そう思い、あとしばらくの辛抱だと我慢するつもりだったのだが―――

 

 

(……クソ、音漏れか? さっきから隣でシャカシャカシャカシャカうるさいぞ。)

 

 

 私の隣に座った奴のヘッドホンから漏れ出てくる音がやたらとうるさい。私の反対側に座っているカリンも少し顔をしかめているあたり、あそこまで聞こえているのか。ヘッドホンの意味がないだろう。流石に注意してやるとしよう。これは私がムカついたからじゃなく、周りにとって迷惑だからだ。そうに決まってる。

 

 

「おいお前、さっきからずっとうるさいぞ。少しは音量を下げろ!」

 

「えっ、そう? ごめんごめん、ならこっちに変えるからさ。それならいいでしょ?」

 

 

 言いながらそいつが取り出したのは、さっきまで使っていたのとは別のイヤホンだ。確かにこれなら、音漏れはマシになるだろう。100%納得したわけではないが、ひとまずこれで許してやろう。

 

 

 そう思い、またしばらく時間が経ったとき。私の肩に重いものがのしかかった。例の音漏れ野郎だ。

 

 

(こいつ、音漏れの次は居眠りか? どこまで私をイラつかせるんだ。)

 

 

 肩を叩いて声をかける。だがそいつは何の反応も示しはしなかった。

 

 

「おい! 話を―――ッ!?」

 

 

 違う。居眠りじゃあない。だらんと脱力した体を見た時、それを確信した。嫌な予感がして立ち上がると、そいつは支えを失ったみたいに倒れた。慌てて首筋に指をあてるが、脈は正常なようだ。

 

 

「こいつ……気絶しているッ!」

 

「どうしたんですか?」

 

「アカネ、救急車の手配だッ! こいつをすぐに運ばせろ!」

 

 

 私の要請は唐突なものだったが、アカネは理由も聞くことなくすぐに頷き、スマホで電話をかけ始めた。周囲の人間はざわつき始め、私たちの方に視線が集中したが、メンチを切っているネルに気づくとすぐに目を反らした。

 

 その間に、私は気絶した生徒を改めて観察する。顔色が悪いようには見えないが、何が気絶の原因だ? 最悪のケースも考え、どんな小さな情報でも得ておきたいと考えてのことだ。

 

 そして、ある特徴に気付いた。

 

 

「こいつ―――耳に傷がある。耳の穴の中の方だ。」

 

 

 この赤く腫れあがるような傷には覚えがある。そう、ちょうど爆発を至近距離で受けたりしたらこんな風な傷がつくはずだ。

 

 

「……耳に爆弾でもつけてたってのか? ……こいつが耳に着けていたのは、イヤホン……それは今、どこだ?」

 

 

 どこにも見当たらない。こいつが両耳に着けていたイヤホンは一体どこにいった?

 

 

「リンゴちゃん! ヘッドホンが!」

 

「ハッ!?」

 

 

 アスナの叫びに視線を動かす。主を失い、虚しく音楽をかき鳴らし続けていたヘッドホンに異常なことが起こっていた。

 

 

「な……なんだ……ッ!? この激しい『振動』はッ!」

 

 

 ヘッドホンが、ありえないほど大きく震えていた。ガタガタと震え続け、もはや跳ねるみたいに動き続けている。

 

 

「やばい……何かヤバいぞッ! 離れろアスナ!」

 

 

 私の叫びにアスナが反応し飛び退いた瞬間。一際大きく震えたかと思うと、ヘッドホンが音を立てて()()()()

 

 

 急病、叫び、爆発。周囲の乗客のざわめきは一層大きくなる。中には立ち上がり、車両を移動しようとする者も現れ始めた。

 

 

「救急車を次の停車駅に手配しました! リンゴさん、これは一体……?」

 

「スタンド攻撃だッ! 全員、私から離れるなッ!」

 

 

 流石はプロの集団というべきか、C&Cはすぐに私の傍に集まり、指示される前から周囲に警戒態勢をひいた。

 

 

(スタンドの(ビジョン)は見えなかった……。近距離パワー型ではないのか?)

 

 

「アスナ! お前の方は、何か妙なものは―――」

 

「キャアアアアアアアアアッ!」

 

 

 激しい悲鳴が、車両の後方から上がった。私はこみ上げるような嫌な予感に、蹴り飛ばされるように悲鳴の方へ駆け寄った。

 

 

「どうしたッ!」

 

「れ、連結部分が……! す、すごく震えてるの!」

 

 

 悲鳴を上げた生徒を押しのけるように、連結部分の金具を見る。確かにそれは、平時ではとてもありえないような激しい振動をしている。金具がギシギシと嫌な音を立て、今にも破壊されてしまいそうだ。

 

 

「い、今までの傾向から考えて……」

 

「この金具も、爆発するってのか!?」

 

 

 もしそうなれば、この車両は運転席のある車両とは分断される。線路のど真ん中に、複数の車両が取り残されることになる。

 

 

「そ、そんなことになったら、次にやってくる電車と正面衝突だ! 大勢の怪我人が出る! 場合によっては、ヘイローが壊れるかもしれないッ!」

 

「クソ……! どうするッ!?」

 

 

 金具は爆発するかどうか? 今日ほど、予想が外れてほしいと願った日はない。……答えはあっという間にわかった。現実は非情である、だ。

 

 

ドガァァアアアン!!

 

 

 轟音と共に激しい爆発が起こり、一瞬だけ焦げ臭い匂いを巻き上げ、そして列車に置いて行かれて消えていく。列車は未だ走り続けていたが、それが前方の車両に引っ張られて走行しているのか、それとも慣性に従っているだけなのか。私の背中で金具が見えていないだろう他の乗客には、知る由もないことだった。

 

 

 

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