次は赤色になるよう頑張っていきますので、引き続きお付き合いいただけると幸いです。
「敵スタンド使いの名は『ビートイット』! 奴は私の攻撃を喰らって、動けなくなっているはずだッ!」
うめき声をあげる負傷者たちの処置をアカネに任せ、私たちは運転席のある車両へ一直線に向かう。急がなくては、電車そのものが爆発してしまうタイムリミットが迫っている。
「おいリンゴ! 奴は動けねえってのはマジなのか?」
「私のスティッキィ・フィンガーズは、当たりさえすれば必殺だ。私を信じろッ!」
「ハッ! なら後は、見つけ出して叩くだけだなッ!」
私たちのいた車両以外にもガラスやつり革の被害が見てとれる。『今夜はビートイット』の能力が及ぶ範囲は、電車全体をすっぽりと包み込むほどに広いようだ。
「ク……ッ! やはり、そう簡単にたどり着かせてはもらえなさそうだ! アスナ、お前はスピーカーを……!?」
いない。いつの間にか、アスナがどこかに消えている。
「アスナッ!? どこに行った!?」
「いつものことだ、気にすんな! あいつは好きにやらせんのが一番強いんだよ!」
ネルの力強い言葉は、何故か自然と私を納得させるような『スゴ味』があった。私より遥かにアスナとの付き合いは長いわけだし、ここはネルの言葉を信じるとしよう。
「わかったッ! 急ぐぞ、次が運転席のある車両だッ!!」
ドアをこじ開け、車内に飛び込む。敵のスタンド使いが仕掛けた罠などを警戒してはいたが、一見それらしきものは見当たらない。
「あったッ! 運転席はすぐそこだッ!」
「カリン! お前はここで狙撃準備してろ!」
「了解!」
「リンゴ! お前はアタシと運転席に突入すんぞ!」
「よし……!」
もうここまで来れば、いちいち振動のことなど気にしていられない。仮に服が爆発したとしても、気絶する前に奴をぶちのめすだけだ! 全力で駆けだした私たちに、外からの風が襲い掛かる。すぐにフリルが振動の限界を迎え、爆竹のように次々と爆発していく。
「リーダー! リンゴ!」
「こんなもんでアタシをやれると思ってんのか、オラァ!」
「私も問題はないッ!」
爆発の煙に包まれた私たちを見てか、背後からカリンの声が飛ぶ。だが私もネルも、この程度で倒れるほどやわではない。
「遅れんじゃねえぞ、リンゴ!」
「こっちの台詞だッ!」
ネルの姿を初めて見た時、こいつは間違いなく強いと感じた。ミレニアム……いや、キヴォトスでも指折りの強者だと。
(だがまさか、ここまでとは―――!)
飛び散ったガラス片が再び振動し、小規模な爆発を繰り返す中を避けながら走る俊敏性。爆発を喰らっても身じろぎ一つしない強靭さ。こいつに仮に接近されたら、スティッキィ・フィンガーズがあっても勝てるか怪しいだろう。
「ハッ! やるじゃねえか、リンゴ! アタシにここまでついてこれんのは、てめえが初めてだッ!」
「そりゃどうも……!」
「最後までついてこいッ! あの野郎をぶちのめすまでなッ!」
……不思議な感覚だ。爆発を喰らい、敵との直接対決が目前に迫っているというのに。
(足が軽い―――! 仲間がいるだけで、こんなにも違うのか?)
ネルたちC&Cは、目的が一致した仲間だ。その点に関しては信用していいだろうし、戦闘力に関しては言わずもがなだ。そんな奴らと共に戦うというだけで、こんなにも勇気が湧いてくるのか。こんなにも気分が高揚するのか。
「運転席だ! リンゴ、飛び込むぞ!」
「ッ、ああ!」
いつの間にか、私たちは運転席にたどり着いていた。服は数々の爆破によってとうにボロボロだが、体には何の問題もない。ビートイットを仕留めるのに、1ミリグラムも支障はない。
「開けるぜッ! オラ、ビートイット! 覚悟を―――」
運転席に飛び込んだネルに続き、私もドアをブチ破って突入する。だが私たちは、そこで見た者に言葉を失った。
「……い、
誰もいない。敵のスタンド使いどころか、運転手すらいないのだ。
「ば……馬鹿なッ! 運転席に隠れるような場所なんてどこにもないッ!」
「おい見ろ、リンゴ! 操縦桿だ!」
ネルの声に視線を向けると、確かに操縦桿のようなレバーが独りでに動いている。まさか―――
「まさか、この電車! 初めから自動運転だったのかッ!?」
「つまりビートイットの野郎は、電車とは全くの無関係ってことかよ!」
しまった……! 全身から一気に血の気がひく。
「車内アナウンスは、運転席からでないと行えないと思い込んでいた……! だが違う! あのスピーカーがスタンドなのだから、どこからでも放送が出来たんだッ!」
「ビートイットは初めから、電車を止めるつもりなんてなかったってのか!?」
《ようやく気付いたようだなマヌケ共がぁ~~~~~~ッ!!》
再び鳴り響く車内アナウンスに、私は弾かれるように頭を上げた。すぐさまどこかにスピーカーはないかと探すが、どこにも見当たらない。
《ボケがッ! 一発てめえに喰らってんのに、わざわざ姿を晒すかよォ~~~! 私がわざわざ出てきてやったのは勝利宣言のためだッ!! 馬鹿正直に運転席を目指して走ってゴールしたお前らへのご褒美代わりになァ~~~ッ!》
「貴様……! は、初めから、乗客たちを切り捨てるつもりだったのかッ!」
ビートイットの話し方には、もはや何の知性も感じられない。車掌の真似事をして敬語を使っていたが、これが本来の奴の性格なのだろう。
《ククク……元はと言えば、お前が悪いんだぜェ? なあ、黒沢リンゴさんよォッ!》
「!? こいつ、私の名前を……!」
《てめえを
「てめえ……! ゲス野郎が、今すぐぶっ殺してやる!」
《やってみろよ単細胞のチビメイドがッ! もうすぐ電車と一緒に吹っ飛ぶてめえらに、それが出来るってんならよォ~~~~~ッ!!》
ネルが悔しそうに機械をぶん殴ると、それだけでブスブスと煙を上げ始める。
《黒沢リンゴ……! 私はこれからてめえの懸賞金と、5千万の宝くじを手に入れるッ! それでもてめえから受けた、このジッパーの傷の恨みは晴れないぜッ! てめえが爆発するところを眺めながら、ザマミロ&スカッとの笑いをするまではなァ~~~~~~~ッ!!!》
「……クソが!! リンゴ、手伝え! このクソ電車を止めんぞッ!」
「ダメだ……。止め方なんてわからない!」
「やってみねえとわかんねえだろうが! 早くしろッ!」
「で、出来ないッ! 出来るわけがないッ!」
そうだ、今から電車を止めるなんて出来るわけがない。
―――だから、ここから助かるためには、ビートイットを見つけ出して叩くしかない。
私は運転席のマイクをひっつかみ、あらんかぎりの大声で叫んだ。
「アスナッ!! お前だけが頼りだッ!! 敵は私の、ジッパーの傷を受けているッ!!」
すぐにスピーカーたちが振動に反応し、次々と爆発の轟音が轟く。それでももう、この戦いはアスナに任せるしかない。……この私が、誰かに何もかも任せるしかないとは。本当にヤキが回ったとしか言いようがない。
「頼むぞ……アスナ。」
―――――――――――――――――――――――――
ビートイットは電車の中、開いて不安定なジッパーの傷を押さえながら、リンゴの叫んだアナウンスを聞いていた。
「アスナ? あのポストイットのスタンド使いだな……?」
黒沢リンゴが最後の頼みの綱にしたのは、戦闘能力すら持たないスタンド使いだとは。本当に切羽詰まっているとか言いようがない。
「もう少しだ……。もう少しで、この電車の連結部分も爆破が完了する……。」
そうなれば、ビートイットがいる車両は電車に置いて行かれる。この車両と次の電車が衝突することにはなるだろうが、その頃にはとうにおさらばしている。あと5秒も待っていれば、勝ちが確定するのだ。
(5……4……3……2……!)
胸の高鳴りと共に、頭の中でカウントダウンが進む。そしてとうとう、その時が訪れた。
「1! 私の勝ちだァ~~~~~~ッ!!」
高らかな勝利宣言と共に、爆発音が鳴り響く。その轟音はビートイットの耳に、ファンファーレのように鳴り響いた。
「ハハハハハ! これでこの車両は切り離された! 後は減速して止まるのを待った後、ゆっくり脱出すればいい!」
「さて、それじゃあ勝利の美酒に酔うとするかな……。」
ビートイットは密造品の缶ビールを取り出し、デコピンの要領で缶の底を叩く。細かい振動が小さな爆発を起こし穴を開ける。穴からは滝のように中のビールが流れ出し、ビートイットは底に口をつけ、喉を開くようにしながらぐびぐびと一気飲みを行う。
「ブハァ~~~~~~ッ!! イェス、イェスッ!」
飲み干した缶をぐしゃりと握り潰し、それを遠くに放り投げる。床に転がった缶は少しだけ震えた後、爆発してどこかに消えた。
「ん……待てよ、金具が爆発して切り離されたはずなのに、何故前方の車両との距離が離れない? たかがビール一本で、そこまで酔ったとでもいうのか?」
「……まさか。」
嫌な予感に駆られ、ビートイットは駆け出した。金具が確かに爆破されたことを確認するためだ。
「……なっ」
「何だ、これは!?」
そこで見たのは、にわかには信じられない光景だった。金具は確かに爆破されていた。だが、車両は切り離されてはいなかった。
「ふ……付箋で、繋がっている! バカな、どんな強度をしてやがるんだッ!?」
疑問の答えの代わりに、無数の銃弾が襲いかかる。ビートイットは防御すら間に合わず、それを真正面からモロに喰らった。
「アハハッ、見つけた! あなたもスタンド使いなんでしょ? だって、私のスタンドが見えてるもんね!」
無邪気な笑みを浮かべながら、一之瀬アスナが現れた。床に倒れ伏しながら、ビートイットは震える声で尋ねた。
「な……何で……? なんで金具を、スタンドで固定したのに、ノーダメージなんだ……? 爆発は確かに、お前を襲ったはずなのに……!」
「爆発? うん、確かに食らったよ!」
言いながら、アスナは手袋を外す。確かにそこには爆発の痕跡があったが、手のひらをほんの少し赤くする程度のダメージしか与えられていない。
「でも、私のスタンドは100枚とか200枚とかあるみたいなんだよね。そのうちの数枚が爆発したところで、ほんのちょっと痛いくらいだよ!」
「ぐ……群体型……!」
―――スタンドには、様々なタイプがある。『スティッキィ・フィンガーズ』のように、人型をしたもの。『今夜はビートイット』のように、物や動物の形をとるもの。『アヌビス神』のように、何か物体に宿るもの。
そして、アスナのスタンドのように、小さなビジョンが沢山存在する群体型だ。
この群体型には、ある特徴がある。ビジョンが複数存在するために、その内の一つが破壊された程度では本体に返るダメージが少ないという点だ。そのため、金具を固定している付箋たちが爆発のダメージを受けた際、本体のアスナが受けたダメージはごくわずかに抑えられていたのだ。
「私の能力は、次に何をするべきかわかること! ここにほら、『金具をスタンドで固定する』って書いてあるでしょ?」
「そ……そんな……! そんなの、ズルだろ! そんな能力、勝てるわけないじゃないかッ!!」
頭をかきむしりながら喚くビートイット。もはや勝者の余裕はどこにもなく、無様に負け惜しみを騒ぎ立てるしか出来ない。その声は彼女自身のスタンドによって拡散され、より広範囲に恥をさらした。
「うーん、そんなに便利なものじゃないんだけど……あっ、ホラ見てみて! 次の命令が出てきたよ!」
その指示を確認したアスナはスタンドを投げ捨て、カートリッジを交換する。付箋の束から一枚零れ落ちた紙が、ビートイットの震える視界に移りこむ。何が書かれているのかを半分理解しながらも、彼女はそれを読まずにはいられなかった。どうか自分の推測が、外れてくれと願いながら。
「内容は―――『目の前の敵をぶちのめせ!』 アスナ、いっくよーー!!」
「う、う、うわぁーーーーーーーーーッ!!!」
『今夜はビートイット』 本体:ビート・イット アスナの銃弾を全身に喰らい、
―――――――――――――――――――――
アスナが敵のスタンド使いを倒したことで、電車は爆発の危機を免れた。ビートイットを名乗るスタンド使いには、色々と聞きたいことがある。私はこいつの護送をするため、ここでC&Cとは別れることにした。
「えーっ! 一緒に行こうよ!」
「おい、やめとけアスナ。こいつが目を覚ました時、脱走されたらやべーだろ。しかもリンゴの方には、何かいろいろと訳アリみたいだしな。」
「……察しが良くて助かる。宝くじの件だが、私の分は好きにしてくれ。」
「ハッ! なら、てめえの口座に送り付けてやるよ。私らが好きでやってんだから、文句はねえだろ?」
カリンとアカネも頷き、同意見だと示した。……本当に、いい奴らだ。
「ねぇねぇ、ホントに駄目? リンゴちゃん、私と一緒に来てくれないの?」
「……悪いな、アスナ。私も、その……寂しいよ。」
私はこんな風に、自分の感情を口に出来る奴だったのか。この数日間で色々な奴に出会い、少しは成長したということなのかもしれない。
「これが今生の別れってわけじゃない。いつでも会いに来い。」
「……わかった! また会ったら、今度はいっぱい遊ぼうね!」
「ああ。またな。」
何故か自然と、笑みがこぼれる。こうして自然な笑顔になるのは、いつぶりのことだろうか? 矯正局の中、取り繕った笑みを浮かべて自分の
(矢を壊せば―――その時、本当に……本当に、心から笑えるはずだ。)
C&Cからの別れの挨拶を背中に受けながら、遠巻きに私を見るワルキューレと共に歩き出した。いつの間にか夕日が沈みかけている空は、暖かな赤色をしていた。
―――――――――――――――――――
『ゴミを捨てるなら、ゴミ箱にまとめて捨てた方が効率的……そうは思いませんか?』
某所、某時刻。心なしか震える指で紅茶を傾けながら、彼女は呟いた。
『トリニティの裏切り者……暗殺者……異分子……。』
『……どうか、これで全てが上手く行きますように。』
To be continued……
『デイドリーム・ビリーバー』 本体:一之瀬アスナ
破壊力:なし スピード:なし 射程距離:B 持続力:A 精密動作性:C 成長性:C
ポストイットと呼ばれる、正方形に近い形の付箋のようなスタンド。100枚や200枚あると本体は証言しており、一つ一つは本体の精神力を反映し、紙よりも遥かに高い強度を持つ。
能力は「次に行うべき行動を文章として出力する」こと。文章が現れるタイミングは本体にも操作できず、傾向があるのかも不明。戦闘力はないに等しいが、本体の意志で自由な位置に出現させることは出来るため、沢山の付箋を組み合わせて長いロープのようにしたり、何枚も何枚も上から貼り重ねることにより、物体の補強をしたりすることなどが可能。