「おや、どうも」
「にゃ? シグマさんじゃにゃいですか」
ウラの王を決める戦い。
ソレに向けて、世界各国がどうやら蠢いている。
らしい。
ワタシはともかく、ボンバーマンもといWWW。
その名が記された看板を無視することは中々出来なかったのだろう。
まあワタシとしてはどうでも良いのだ。
少なくとも。
ある程度の数が集まり、セレナードの王権に正統性を担保出来さえすれば。
幾らか。
ウチの子達の中でも参加したいという声が聞こえて来ていた。
参加は別に構わない。
ただ、懸念は二つ。
他国に鹵獲されないか。
デリートされないか。
これだけである。
参加したいとの声を上げた子達には、そう言った懸念やら注意事項やらを伝えて回っていた所だった。
その中の一つ、『アカデミア』。
ネットワークサービスによる広範な学習サービス業。
未だ、人間の家庭教師も続けてはいるが。
中でも人気なサービスが二つある。
一つは、ウイルスバスティング学習サービス。
現状、まだ学校にウイルスバスティングの授業が取り組まれていない状況。
『オフィシャル』がどうやら組み込めるようにと働き掛けているようだが、教育関連の部署と盛大に揉めているらしい。
教育ですから。
なので何時になるやらと言った様相なのだ。
故にこそ。
ぶっちゃけそれだけ見れば赤字な、ウイルスバスティング学習サービス。
ネットワークや電脳世界を、ネットナビに動き回らせれば遭遇するウイルス。
その対処法を学ぶサービスの需要は現在、中々に見込めていた。
ちなみに、毎月千ゼニー。
ある種、必要なインフラなのでコレを高額にする意味は薄いための措置である。
「――それで、どのようなご用件で? あの子の様子でも見に来ました?」
三体。
シグマの引き連れて来ていたネットナビ達を眺める。
アメロッパの製造した『オフィシャル』所属。
特別仕様の、いわゆるフラグシップモデルとでも称すべき、ネットナビ達。
興味深そうに。
それか面倒臭そうに。
あるいは詰まらなそうに。
シグマの後ろに付いて歩いていたソレ等を一瞥してから、視線を戻した。
「いや。プルーンの発表もだが……あの件はご存知だろう?」
「……もちろんにゃ! ある意味、主催にゃので」
様子見はある種、予想通りだが。
あの件。
要するに、ウラの王を決める戦いか。
表のエリアで大っぴらに言うことでもないと、濁し、配慮しているのだろう。
確かに、ウラに入るような者達には分かるよう、様々な場所にスタッフマン達を使って看板や会場近くまでのショートカットの設置を進めている。
いるが、あくまでも裏側として。
表側では、動いていない。
そういうことなので頷いてみせれば、同じようにシグマも頷いた。
「アメロッパの一部でも、その件について動くことになっている――治安維持として」
「おや? まあ、いつもご苦労様ですにゃあ」
「はっはっは! 当然のことだとも」
治安維持。
表向きは。
そう言う体で動くということだろう。
形ばかりの言葉を投げれば笑い飛ばされて終わる。
まあ、はい。
ご苦労様と言いながら。
その苦労を作った側であるからして。
「――ともかく、近いだろう?」
「近いですにゃあ」
「なので一つ、どれほどの強さの参加者が出てくるかの目安として、一戦願えないかとな」
「ああ、にゃあるほど」
ケツアゴで後ろのナビ達を指した姿に納得を示す。
後ろの連中は露骨に嫌そうな顔をしているが。
そこは見なかったことにしておこう。
と言うか、そういう方なのか。
訪ねてきた理由は。
「にゃら……ランクとしてはAで構わないですか?」
「ソレが最高ならば、そうなるな」
「にゃにゃ……」
「噂は聞いておる」
「何処から漏れましたかにゃあ?」
目を細めてみせても、
「ハッハッハ」
軽く笑われただけだった。
ランク。
要するに、市民ネットバトラーのライセンス。
いわゆる原作。
アレと一緒だ。
依頼掲示板だとかをクリアしていけば上がった、アレと。
ウイルスバスティング学習サービス。
それと並行する形での、一種の指標。
お墨付き。
どこまでなら安全に活動できるかの目安として。
この指標は比較的人気がある。
近所のウイルス程度ならば対応出来る、Eランク。
暴走ネットナビに安定して対処可能な、Bランク。
『オフィシャル』所属に近しい領域の、Aランク。
そしてそれ以上の領域。
Sランク。
詳細を言うならば、Aランクとは。
ウラインターネットの浅層に出現するレベルのウイルスを模したプログラムくん。
暴走した、という想定の、戦闘用ネットナビ。
ソレ等を相手に出来るレベルと言うのがAランク。
ただし現状、Aランクでも両手で数えられる程度しか居ない。
そのAランクの方を、当然本人の承諾を得た上で、『オフィシャル』に推薦してもいる。
市民ネットバトラーのSライセンスがそうであったように。
ちなみに余談だが。
人気サービスのもう一つが、オンラインネットバトルサービス。
基は、ゼフラム社が作っていたコロッセオ。
ソレを正統進化させたのがゲーセンなんかにおいてあるネットバトルマシンだが。
派生進化させた形のモノが、ネットバトル空間。
云わば安心安全なネットバトルが出来るようにした代物。
それが、今の話のサービスである。
要するにオンラインバトル。
使用可能なのは、Dランク以上から。
参加料一回50ゼニーの負け抜け。
無差別マッチからランク別マッチまで様々。
更に余談だが。
Aランクのスネークマンが無差別マッチの実質チャンピオンとして日夜暴れ散らしており、許可を得て流しているワールドワイドウォッチングの動画でも大変人気である。
ご退場願うため二十五戦目とそれ以降の五戦毎にウチの子達を送り込んでいるが、そのような退場勧告すらも嬉々として楽しんでおられる。
あのご夫人、ヤンチャが過ぎる。
閑話休題。
Sランク。
ウラインターネットを散策出来るレベル。
まだまだ円熟していない所為か到達者は居ない、本来予定していた『オフィシャル』推薦の領域。
ソレに挑んで貰えるというのは、良い試金石になる。
「…………構いませんが、お願いが」
「なんだ?」
「映像に残してよろしいですか?」
「ダメだが?」
「そこを何とか! 世間に流すんじゃなく、Aランク認定者の目指す先として、届いている方々限定にしますから! ね?」
「考えておこう」
そう閉められてしまった。
考えておこう。
大体断られる常套句である。
しかし、撮影の許可自体が降りたことは行幸。
此方での検証で使う分には文句も出まい。
外にも出さないし。
形ばかり仕方なさそうに肩を落とし、スタッフマンとアイコンタクト。
【なんです?】
「……ダイアちゃんとこの時間なら……アサギ、あとプルーンを呼んで下さいにゃ」
【プルーンもですか?】
「アレは最近働き詰めのハズにゃ。あんまり時間はないと思うけど、気分転換にも丁度良いでしょ」
「ふむ……プルーンを呼んで下さるのは有難いが、その三体か?」
「良いでしょ? じゃ、観戦ルームに行きますかにゃ――あ、後ろの方々も着いて来てくださいにゃあ」
駆け足で去って行くスタッフマンを横目に、シグマを見やる。
異論は。
ない様子。
一つ頷いて見せたので、案内へと移る。
無言の案内。
最中、シグマの後に着いて来ているナビ達を振り返りながらさりげなく見やれば。
ソレに気付いたらしくニヤリと笑った。
「……そうだな。歩きながらではあるが、それぞれ自己紹介を」
「ハッ。スタッグマンだ」
「俺ぁアリゲイツマンだ」
「アルマジロマンと申す」
側頭部から火を角のように吹いているのが、スタッグマン。
名は体を表すと言わんばかりの如何にもな、アリゲイツマン。
鎧武者に近しいアーマー姿をしているのが、アルマジロマン。
流し見た限り、全体的に肉弾戦型とでも称そうか。
如何にも火を扱いそうなスタッグマンを除いた二体は特攻をしそうな雰囲気がある。
いや。
アルマジロマンはアーマーのような装備が目立つものの、腰元に刀を着けている。
組討ちを狙うタイマン特化型だろうか。
であれば、テッカを呼んで上げた方が喜んだかも知れないが。
相手を見てから呼ぶのは、模擬戦と言う都合上、よろしくないだろう。
「何方も中々強そうですにゃあ」
そう、お世辞だけ伝えて。
ふと視線を少し脇に向ける。
えっちらおっちら小走りに走っている小太りな黄色のナビ。
見計らったような調子で此方に向かって来ている姿を。
「えっほえっほ……あ、お疲れ様デシ」
「お疲れにゃん」
そうとだけ言葉を交わし、足を止めて頭を下げたその横を通り過ぎる。
刹那。
ワタシの視線が外れた時。
わざとらしくシグマと視線を合わせたのを感知しながら。
沈黙のまま数十秒ほど。
事前にスタッフマンが開いてくれていたゲートの先のショートカットへと乗った。
先は当然、観戦ルーム。
VIP用の。
防諜対応も当然確りと済ませてある。
なので来るまでの刹那に黒のスーツ姿にチェンジ。
続いて入って来た四体も周囲を見やり、微かに歓待の声を漏らしていた。
VIP用だ。
ガワも相応、整えてある。
さながら夜のバーのように。
壁に囲まれた薄暗い室内に、一部はカウンター席と酒瓶に似た何かの飾られた棚。
中央の、それぞれ五体は座れそうなドデカいソファが三つにテーブル。
そして入ってきた正面に当たる壁一面。
観戦用の大モニターには今まさに、映像が流されるようになっている。
今、流れているのはスネークマン。
トリッキーな動きで翻弄しながら、相手の《フレイムソード》を躱している。
暴れ散らしている結果、当然ながら対策されているのだが。
むしろソレすらも楽しんでいる様子なのは流石。
其方も興味深そうに眺めていたのを遮るように前を通り。
視線が此方に向いたのを確認してから、手でソファを示す。
まずはシグマが端のソファへと腰を下ろし。
次いで、その対面側のソファのど真ん中にアリゲイツマンがどっかりと座った。
僅かな沈黙の中。
アルマジロマンがワタシに視線を送って来たので頷けば。
申し訳なさそうに中央のソファに腰掛け、スタッグマンもその横に続いた。
【どうぞ】
空かさず。
カウンターに居た黒服のスタッフマン二体、ただし帽子はそのまま、が各々の前に琥珀色の液体の入ったシャンパングラスを置いた。
ちなみにリンゴジュース。
シャンパンは元よりアルコールの類は現状、ただただ苦いだけでナビの舌に合わないので。
優雅にグラスを掴み、映っている試合を楽しみ始めるシグマを他所に。
アリゲイツマンは無遠慮に一飲み。
そのまま、量が少ないと文句を垂れ始めているので目配せ
バケツサイズのコップで用意され、嬉々として大口に流し込んでいる。
遠慮の欠片もない。
アルマジロマンは置かれた際に軽く頭を下げただけ。
手を付けず、熱心に試合の様子を眺めるばかり。
そしてスタッグマンだが、
「………………」
どうにも落ち着きがない。
シグマの動作を真似てグラスに口を付けはしたものの。
半分も飲まない内に置いてしまった。
そのまま貧乏揺すりとまではいかないまでも、手足が細かに、忙しなく動いている。
緊張しているのだろう。
恐らくは。
分からないでもない。
如何にも新進気鋭。
シグマは、ワタシが凝り性だから人間の空間を真似ただけと思っているだろう。
アリゲイツマンとアルマジロマンはそもそも興味がないタイプと見た。
残るスタッグマンはどうやらこのような空間は、言うならば肌に合わない、というのが一番近しいのではないか。
であれば、
「…………ふむ」
と。
わざと口に出しながら、徐に視線をモニターに移す。
数秒。
そうすると映っていた映像が脇へとズレ、別のモノが映し出される。
仁王立つ、一体のナビの姿を。
「準備が整ったようですにゃ」
「隊長! 俺から行くぜ!」
「行ってこい」
「ほいっとにゃ」
弾かれるように立ち上がったスタッグマン。
一声掛けられているのを尻目に、指を鳴らす。
壁の一角が動き、奥のショートカットを露わとし。
駆け足、というほどの速さではないものの足早に半ば飛び込んでいった。
さて。
視線をショートカットからモニターへと移す。
三体とも、スネークマンの映像から流石に、今し方入場したスタッグマンへと移している。
『お前が俺の相手かよ』
『うむ! このミツモトダイア――ダイアちゃんがお相手するぞ。気軽にダイアちゃんと呼ぶが良い』
『誰が呼ぶかよ!』
軽い舌戦。
と言うよりも。
単純に呼ばれたいだけなのだろうが。
現実世界の教師を模した姿のダイアちゃんが仁王立ちから腕を解きながら頷き。
スタッグマンが両腕から炎を吹き出す。
ふむ。
これは、
「……殴り合いになりそうですな」
「どうでしょうかにゃあ」
両腕を軽く構えた。
ボクシングスタイル。
奇しくも同じ構え。
とでも言うべきか。
微かに眉を動かしただけのダイアちゃんに対し。
スタッグマンは目を丸くした後、獰猛に嗤った。
間合いは。
目測かつ現実換算で、十メートルほどか。
カウントが動く。
五。
四。
三。
二。
一。
『シーッば!?!』
瞬間。
跳ねるように突っ込んだスタッグマンが吹き飛ぶ。
対面。
『らぶはむ《マッハパンチ》』
拳を突き出したダイアちゃん。
「これは……!」
「ほぅ……」
「なぁ~んだ、何が起きた?!」
各々三体が身を乗り出して戦況を眺める。
ソレを他所に場は動く。
拳が振るわれる度に放たれる空を裂く一撃。
連撃。
しかしスタッグマンも流石は『オフィシャル』所属。
三発は真面に受けたが即座。
距離を置くことで観察へと移った。
意外。
あの性格だ。
無暗に距離を詰めると思ったのだが。
内心の評価を幾分か上げながらも引き続き観察に勤しむ。
双方。
ゆっくりと。
にじり寄るように距離を詰め合う最中。
再び空気が弾けた。
「おや」
「……アレぐらい出来ねば困る」
避けた。
体を僅かにズラすだけで。
再度スタッグマンが距離を置いたが。
観察ではない。
恐れのない歩み。
しかし、間合いの外側で。
おおよその間合いを読み切ったと見える。
ダイアちゃんもソレを理解したのだろう。
軽く頷き、拳を引き絞るように大きく振り被る。
ニヤニヤと余裕を浮かべていたスタッグマンから笑みは消え。
すぐさまに警戒を足に込めている。
『らぶはむ《コレダー》!』
『ッ、っとお……』
落雷の如き一撃。
上から降って来たソレはしかし、見事にバックステップで空かして見せた。
「あれ、見た目より範囲が広くて避け辛いんにゃけどねえ」
「ハッハッハッハッハ」
「とはいえ、此処からにゃ」
しかしやはり整った眉を微かに動かすだけで。
ダイアちゃんはゆっくりと間合いを詰めに掛かる。
単に距離を詰めていくだけ。
だが、間合いから逃れようとし続ける限りは何れ、エリアの限界に来る。
それがスタッグマンも分かっているのだろう。
面白くなさそうに舌を打ち。
わざとらしく両腕を構えた。
『《ラッシングバーナー》!』
瞬間、突き出された腕から炎が噴出する。
火球。
握り拳よりも二、三回りは大きいか。
それが一つや二つではなく複数。
燃え滾った火の粉のように襲い掛かった。
『ほうっ!』
『まだまだまだまだまだだぜェーーー!!!』
ラッシュ。
ラッシュ。
ラッシュ。
腕が突き出される度に噴出する火球。
あるいは雨のように降り頻るソレ等を。
ダイアちゃんは躱す。
雨の合間を縫うように。
だが当然そのようなもの避け切れる訳もなく、
「……少しずつ治っているようだが、どう言うカラクリだ?」
「言う訳にゃいでしょ?」
「残念だ」
受けたダメージはしかし、回復していく。
当然。
ワタシにも仕込んだ、尻尾の火。
リジェネ効果は順調に稼働中。
さてこうなれば。
避けながら。
相も変わらず距離を詰めに掛かっているダイアちゃん。
火球の連打に切り替えたスタッグマンも徐々にだが押し込まれている。
このまま何事もなければ。
コーナーポストに追い込まれたボクサーのように滅多打ちにされるだけだが。
果たして。
そのように注目しながら眺めていれば。
徐々にだが火球の軌道に甘さが目立つようになってきている。
プレッシャーに押されたか。
否。
逆だ。
苛立ち。
思うように進んでいない状況にか。
それとも遠距離に徹する状況にか。
どちらにしろ。
スタッグマンの表情には明確にソレが目立ち始めている。
目聡くソレを察したのだろう。
ダイアちゃんは自然な動作で。
無意味に。
その長い髪を軽く直した。
見せ付けるようではなく極自然に。
余裕の表れを。
瞬間。
スタッグマンの体から吹き出していた炎が勢いを増した。
『テメエテメエテメエテメエテメエ! 余裕ぶっこいてんじゃねぇーーー!!!』
弾けるように。
一気に身を低く構えたスタッグマンが突っ込む。
既に構えていたダイアちゃんに向けて。
そして次の瞬間、
「おっ?」
「フフフ……」
思わず声が漏れてしまった。
らぶはむ《マッハパンチ》が空かされた。
軌道は完璧。
顔面コースだったのに。
「《チャージ 」
直前。
握り締めた両拳を殴るように床に突き立て急ブレーキを掛けたスタッグマンによって。
僅かだが射程外。
見極めも見事。
「 ラッシングバーナー》!!!!!」
燃え盛る。
青い焔を身に纏いながら。
両足のみならず両腕すらも駆けるための力に変えて。
一瞬の虚。
その隙を逃さぬ吶喊。
刹那の内に放たれた三発のマッハパンチを気にも留めず。
焔を纏った吶喊は勢いのままダイアちゃんに衝突した。
『ッ、テメエ!』
『――愛に溢れた素晴らしい突撃だった』
だがダイアちゃん。
ワタシの創ったネットナビはそれで終わる程に甘くはない。
燃え滾るスタッグマンの体を真正面から受け止めて。
現実換算で十数メートルほどは押し込まれたが。
それでも堂々と、立っている。
『此処から先は直接指導! 愛の鉄拳を直接叩き込んでやろう。光栄に思うが良いぞ』
『上等じゃねえの!』
体勢を整え。
ほんの僅かに距離を置き。
構え。
徐に各々、突き出した拳を軽く撃ち合わせ。
『――オラオラオラオラオラ!!!』
『――ラブラブラブラブラブ!!!』
次の瞬間。
互いの体に拳が突き刺さった。
「シグマさん、次、どちらが行きます?」
「…………此処からが所謂、良いトコロなのではないか?」
「ダイアちゃんはアレで中距離戦型にゃ~。直接の殴り合いになった時点でもうダメ!」
「……厳しい評価だな。だが、そう言うのならば……次はどちらが出る?」
「それがしが行きましょう」
殴り合いを背景に。
水を向ければすぐさまアルマジロマンが立ち上がった。
腰元の武器に手を伸ばしている辺り、戦意を抑え切れなくなったのだろう。
頷いて、特に意味なく指パッチン。
再び壁の一角が開き、奥への道が示される。
一礼し、足を向ける姿を尻目にシグマが口を開いた。
「しかし……あのレベルのナビが参加者か……」
「ん? ああ……ワタシもですけど、あの子達は不参加ですよ?」
「なに?」
シグマの視線が流れるように画面からワタシへと移る。
数歩、歩を進めていたアルマジロマンも足を止めて此方を見やり。
アリゲイツマンは相変わらず呑気にバケツでジュースを飲んでいる。
ように見えるが、何処か此方を探っているような気配を感じられる。
ふむ。
あまりにも派手に動かれて、『オフィシャル』の権威が下がるのも困る。
此処は一つ、釘を刺しておくか。
「ワタシは勝てない勝負に時間を割いて挑むほど暇じゃにゃいですし、あの子達も当日はパトロールだとかバスティングの講習会だとかで忙しいにゃ」
「予定がなくて参加したいって子達は警告した上で任せてますけど」と。
何でもないことのように。
そう言っておく。
予想通り凍り付いているシグマ達を尻目に。
タイミングよく画面内では決着が付いた。
インファイトを制し、両腕を空に掲げたコロンビアポーズ。
まあ想定通り、スタッグマンの方。
そのまま現れたショートカットへと突っ込んでいき、
「ハッハッハッハッハァ! やったぜ隊ちょ……どうした?」
「いや…………少しな」
「ふむ? ……あ、スタッグマンはおめでとうございますにゃ。流石に強いですにゃあ」
「当然だ! 『オフィシャル』が弱くて勤まるかよ!」
ボロボロながらも見事勝利したスタッグマンが、入って行ったのと同じショートカットから凱旋と共に戻ってきた。
その足は一瞬止まった。
ものの、ワタシの言葉に気を良くした様子でそのまま先程まで座っていたソファに勢いそのままに座った。
空かさず。
スタッフマンがグラスにジュースを注ぎ込めば。
勝利の美酒とでも言うかのように。
一息にソレを飲み干して見せた。
その斜め向かいで軽く顎を撫でているシグマが、口を開いた。
「…………であれば。王と成るつもりもないのに何故、王を決める戦い等と?」
「にゃはは! ご存知の通り、当初は単なる危険地帯だったウラは今、悪党が拠点にしながらソレ等が互いに喰い合う混沌の巷にゃ。そんでもってネットワークが発展すればするだけウラに関わる存在も増えるでしょうにゃあ」
沈黙は、僅か。
「……放っておけば表にまで混沌が滲み出てくる、と」
「そそ。悪影響が本格的に出てくる前に、形だけでも平定されてくれれば楽にゃんで」
「その手法が」
「そう、原始的な武力! かつて現実世界での国家が山賊から興ったと言われるように! ウラなんて場所、力で平定して貰えば誰だって納得できるにゃ。なんてったって、力で玉座を奪えるなんて夢を見れるんですからねぇ」
「にゃはは」と笑う。
予め用意していた答えはどうやらシグマのお気に召さないまでも、得心行くぐらいのモノではあったようだ。
と言うか。
ハッキリ言って、今回訪ねて来た理由は詰問が本命と思っていたのだ。
わざわざ『オフィシャル』のネットナビが四体も訪ねて来る等と。
普通に考えて。
「…………それで、何時まで突っ立ってるのかにゃ?」
「失礼――しかしお伺いしたいのですが、此度の参加者にはパイン殿でも勝てぬ者が居ると?」
「んー? ええ、まあ。正直、あの方の実権を認めるための出来レースぐらいに思ってるにゃ」
「ああ?! そりゃどう言うこったよ!」
追加分を、グラスを差し出して強請っていたスタッグマンがワタシに対して姿勢を起こす。
拍子に注がれていたジュースが腕に掛けられてちょっと慌ててはいるが。
まあ、其方はスルーしておこう。
「――――――『白い影』」
「にゃん?」
「……セレナードのことか?」
「ああ……はい。ご存知でしたか」
深刻そうな顔で急に何を言い出すかと思えば。
『白い影』。
なるほど。
セレナードの、現在の異名か。
確かフォルテは『黒い影』だとか言われていた時期があったハズ。
それに対を成すような異名と言うことか。
中々洒落た異名である。
セレナードは知らなそうだけど。
そう、内心で称賛していれば。
「…………ガハハハハハハハハハ!!!」
不意に。
アリゲイツマンが大笑。
そうしながら、細めた眼をワタシへと向けた。
「なぁ~にを言い出すかと思えばよお! テメエの実力不足をそォれらしく取り繕ってるだぁけじゃーねえかよ! おい!」
嘲るような。
しかし。
ふむ。
何か違う。
なので、あえてそのまま聞き流す。
舌打ち。
ソファから身を起こし。
にたりと音が立ちそうな具合に嗤った。
「空かしてんじゃーねェ! テメエの実力不足、思い知らせてやーるぜぇえ!」
「馬鹿が」
言い終わると同時。
そう来るか。
半ば呆れとも感心とも付かぬ思いで。
飛び掛かってくるアリゲイツマンを流し見。
「ギッ」
生成した《マジカルポテトスマッシャー》を手首のスナップで顎下に掬い。
爆発。
顎を強引に閉じられた勢いのまま中空で仰け反る。
その下へと一息の間もなく潜り込みアイ字バランスの要領で腹ごと真上に蹴り上げて、
「ネクストチャレンジャー!」
ちょっと品がないけどテーブルの角を足場に横まで跳び上がり、
「アーリゲイツマンにゃーん!」
「ゴガアアアアアアア!!!」
両足ドロップキック。
脇腹を抉り込むように穿ち。
そのままショートカットまで直送。
最中。
悲鳴とも雄叫びとも付かぬ声を残していった。
ぽすん。
と。
音は鳴らないものの。
ソファに着地。
あまり品がない。
見た目的には合ってるかも知れないけれども。
降りて。
軽くソファを払ってから腰を下ろし。
次いで自らグラスとりんごジュースを生成する。
それが必要なので。
「――部下が失礼しました」
「構いません。若さの特権ってヤツかにゃ?」
両膝に手を置いて頭を下げてくるシグマにそれだけ応え。
視線を流す。
画面へと。
釣られて周囲の視線も其方へと向かう。
画面内。
丁度、追って向かったスタッフマンがフルエネルギーでアリゲイツマンを回復している所。
迎え討つは、プルーン。
『――――テメエ等、揃いも揃ってぇよお、ふざけてんのかァ~……!』
『あー……? もう来ちゃった感じぃ?』
昔作ったプルルンソファ。
そこに仰向けに身を浸していたプルーンが、アイマスクを片目だけズラしながら。
心底から面倒臭いと思っているココロが伝わってくるような声音でぼやいた。
『おー…………んー……今から十五分何もしないでくれたらプルルンの不戦敗で良いっすけど、どう?』
わざわざ懐中時計のようなモノを覗きながら、そのような言葉を送る。
挑発としか思えなかったのだろう。
間違いなく本音でしかないのだろうが。
『《スピンホイール》!!!』
回転ノコギリ。
そう形容すべきか。
名前通りに回転しながら床を切り裂きながら襲い迫るソレ等を。
プルルンソファの上で寝転び只々横回転。
歯車の原理と同じようにソファもゴロゴロと横回転し、少し遅れて先程まであった場所を通り過ぎていった。
『うぉおん……お盛んじゃん』
『テメエーの体を開きにしてヤるってんだよお! 簡単に壊れてくれるんじゃ~ぁねえぞ! 《スピンアタック》!!!』
猛攻は収まらず。
その巨躯。
大咢をかっ開きながら竜巻の如き回転と共に執り行われる突撃。
自然界においてワニが獲物を引き裂くために行うデスロール。
正しく言葉を体現したかのような突撃をしかしプルーンは面倒臭そうに視線を向け、
『《ストーンキューブ》』
『バカが! この程度でオレが止まるわきゃぁね~~~だろぉ~! ガア!!!』
石のキューブ。
生成されたソレを然程と経たず抉り砕き、
『ガハハア! ぁア? 何処行き』
しかし時既に。
プルルンソファをトランポリンのように使い体を跳ねさせて。
《ストーンキューブ》よりも遥か上を取り。
腕程はあろう毒々しい液体の入った注射器を構えたまま。
その真上、
『《スタンポイズン》』
一瞬止まった脳天に向けて。
迷わず真っすぐ突き立てた。