「ウぉぉん! 慰メろサーゲス!」
「帰れ」
全力疾走で飛び掛かったが。
突き出された拳に自分から突っ込んだ。
嫌な音が顔面から伝わってくる。
一瞬ぎょっと表情を変えたのを感じ取れたが問題あるまい。
「前が見えネぇ……」
「……まずそのお面を外せ。不愉快じゃ」
「ウす…………」
陥没した感じのお面を外し、《ミニボム》で処分。
次いで回転イスで体を此方に向けて来たその姿と向き合った。
「……マあまずは、作戦成功おめデとう」
「嫌味か?」
「流石に違ウが?」
何でそう、穿った見方をするのやら。
わざとらしく溜息をついて見せれば、少し気まずそうな顔をした。
まあ、ワタシのファーストコンタクトが悪かった。
おふざけ全開だったのだから。
とりあえず、と言った形でワタシも自身で生成したイスに腰掛ける。
そして、サーゲスが向き合っているモノへと目を向けた。
目の前のテーブル。
其処に堆く積まれた、データの山々。
奥地のモノをコピーした代物が主だが。
流石は科学省。
適当に一つ取ってみても、何段階か研究の質が違うように感じられる。
感じられるだけ。
具体的にどの辺りが、と聞かれても雰囲気的なサムシングとしか答えられない。
まあ、アレだ。
光親子が居るからレベルが高いんだろうな、みたいな先入観。
とりあえず何事もなかったように突っ込み戻す。
その内、色々と貰いに来るとは思う。
追々の研究で使いたいようなモノは多分あるし。
「まア、なんダ……作戦が成功しタことと、ワイリー様が見たくナいモン見たのハ別問題だロ」
「理屈はそうじゃな」
「だっタらソレで仕舞ダ仕舞。建設的な話をしヨうぜ?」
鼻で笑われた。
「……具体的には?」
「怒らレた。慰めロ」
鼻で笑われた。
「……建設的な話をしたい。時間を取れるか?」
「ア? ……マあ、三十分ぐらイなら」
「充分じゃ」
僅かな間をおいて。
しかしどこか悩まし気ながら、サーゲスがそう言った。
ワタシとしてはサーゲスの様子を見に来ただけだ。
何かあるなら付き合おう。
座ったままの姿でテーブルへと向き直り。
徐に指で数回叩いた。
すると何やらパスワード入力画面と思しきモノが出てき、手慣れた具合に二十回ほどそれらを押した。
なるほど。
その番号か。
一応覚えておこう。
感心と共に何度か頷いていれば、数秒。
視線を他所へとやった。
釣られて向ければ、少なくとも先程まではなかったショートカットが現れている。
「へエ、面白い仕掛けダ」
「ふん! 着いて来い」
そのまま立ち上がり。
等することもなく。
座ったまま。
イスが滑るように動き始めた。
キャスターらしきモノはないけど、動くのか。
恐らくは普段使いの移動用乗り物の応用なのだろう。
見た雰囲気が、その。
完全にイスで遊んでいる子供である。
着いて来ないワタシに対して回転させて体を向ける所とかまさに。
まあそんなこと言ったらまた顔に拳が来そうなので足を進める。
頷き、サーゲスが何事もなかったように動き。
やがてショートカットの所で消えた。
追って入る。
「………………フぅん」
「コッチじゃ」
「へイへい」
着いた先は、研究室か。
比較的小奇麗に見た目を整えられており、感覚でもウイルスの類が発生しないよう注意していることを感じられる。
ショートカットの光は、消えていた。
侵入されても出られないように、と言うことだろう。
そのように立ち止まって見回していれば声を掛けられたので、其方へと足を進めれば、
「…………」
「どうじゃ」
カプセル。
何か、モンスターとかを調整するような縦長で透明なカプセル。
その中に、二体のネットナビが居た。
いや。
ガワだけか。
中身に機能を盛り込まれているのは分かる。
分かるが、まだ重要な部分。
ネットナビとしての根幹である、疑似人格プログラムまでは入っていないことを察せられた。
「名前ハ?」
「ん? …………バイオレンとアジールとしておこう。バイオレンスとアジャイルを元としてな」
「名前はキチンと決メてやんな」
「今、キチンと決めた」
「なラ良いガ」
バイオレンスは暴力。
アジャイルは俊敏。
名は体を表すと言うことだろう。
如何にも力自慢と言った風貌のバイオレン。
比較的すらりと細長い体躯をしたアジール。
そして賢者の意味に近しいサーゲスときた。
そう言うことか。
「賢さ。力。速サ――と?」
「そうなる」
そしてコイツ等をわざわざワタシに見せたということは、
「――――疑似人格プログラムの設計ダな」
「それを依頼したい」
まあ、そうなるか。
無言で歩を進める。
止められることはない。
カプセルに入れられた二体。
その様子を確かめる。
元々、ワタシに見せるつもりがあったのか。
プロテクトや暗号化の類は見当たらない。
それを踏まえた上で。
なるほど。
これは中々。
バイオレン。
赤を基調とした筋肉ダルマのような風貌に、辮髪のように伸びたチェーンとその先のトゲ付きハンマーは《ブレイクハンマー》系統か。
当たれば一溜まりもない、と体現したような様相。
対して、アジール。
紫を基調とした礼服を着込んでいるような姿に、その背中へと無造作に携えられているのは長くも鋭いブレイド系。
速さで以って斬り刻む、そのような設計思想か。
「………………ワイリー様はなんテ?」
「いや、何も言っておらん」
「其処は頼めヨ」
「お手を煩わせる訳には行くまい」
「最後に、最モ重要な部分をオ願いしタい、とデも言ヤあ喜んでヤって下さるゼ」
「……ふうむ…………」
顎を擦りながら悩まし気な顔をしているが。
分かる。
割と納得している雰囲気が漂っていることは。
であれば後は、
「断られタら対応スる」
「…………それがベターじゃな」
そう言うことになった。
それはさておき。
ちょっと気になることもある。
「んデ、気になルんダが」
「なんじゃ」
「何だっテ、ナビを?」
しかも戦闘型を。
「ああ……まあ、お前になら良いか。別組織を組み立てておこうと考えてな」
「別組織?」
「睨むな。『WWW』はワイリー様のための組織。だからこそ、別で情報を引っ張れる組織を用意しておこうと思うてな」
なるほど。
唯一絶対のトップを仰ぐ組織。
そう言った組織は得てして、トップにとって都合の悪い情報はシャットアウトされがちだ。
報告されないことの方が都合が悪くとも。
そしてそう言った情報がワイリー様の直参であるワタシ達に回ってこないことも想像に難くない。
だからこその別組織。
表向きは恐らく、パインの方と同様、ワイリー様とは無関係を貫くだろう。
だが、より深く。
恐らく此方とは違い、ウラインターネットの深奥に根を張る形にするのか。
そのための戦闘型ネットナビという訳か。
「……ウラに?」
「そうじゃ。ワシは別に、『WWW』としても『WNO』としても表立っておらん。誤魔化すのに問題あるまい」
「そうカ」
「そうじゃ」
まあ、納得は出来る。
納得は。
それはそれとして気になるのだが、
「デ。結局、助手は?」
助手。
相変わらずオイルマンが手隙の時は手伝わされているのだろうが、色々増えて来ていることもあって暇を持て余している訳でもない。
先程まで居た場所。
堆く積まれていた情報の山々。
それ等を整理するための助手をどうにかしたいと昔、ボヤいていた記録があるのだが。
そのような言葉を。
何気なさを装って掛ければ。
答えは沈黙。
気まずそうに顔を逸らした。
「………………純粋な性能と戦闘力の両立は思うた以上に困難じゃった」
「マあ……ワイリー様も両立は出来るケど、絶対的に戦闘力に比重置くタイプだしナ」
汎用的な性能。
戦闘能力全般。
どちらを優先するかと言えば、ワイリー様は戦闘能力全般を優先される。
何故なら、優秀で有らせられるから。
ご自身が優秀であるが故、わざわざ優秀なネットナビを作って助手をさせる必要性が薄い。
勿論、任せるべき所は任せるだけの裁量はあろう。
だがそれこそ、完全補助型ネットナビであるカリキュラマンのようなネットナビは不要。
プラネットマンが拗らせている理由もある種、其処にあるだろう。
惑星外の技術に興味があって作りはしたが、其処まで。
深い所は大体ご自身でされる。
と言うか、ワイリー様ご自身でしか出来ない。
そう言う所がある。
そして恐らく、サーゲスの思考回路もソレに近いのだろう。
ワイリー様ご自身が、何かあった場合での電脳世界の代理。
そう称しておられたのだから。
正直、手を借りたい。
だが、自分で用意する分には相応に優秀であって欲しい。
電脳世界の代理なのだから、ワイリー様には頼り難い。
その辺りか。
本末転倒。
可哀想。
ちょっとぐらい、手を貸してやるべきか。
貸してやるべきだろう。
世話になる予定もあるし。
「…………金、あルか?」
「いきなりなんじゃ? ……いや、本当になんじゃ?」
「イヤ、ほラ、何処ゾにネットナビ製造もしテるヤツ居んだロ?」
「………………ああ、そう言う……」
胡乱なモノを見る目から一転。
得心行ったように頷いた。
大事だから、建前。
ワタシとしては無償でやっても良いのだが。
それなり数、スパイを飼ってるので怪しまれるのは避けたい。
その点、依頼。
ソレに対応する形であれば、周りの目も心配ない。
「しかし、もうすぐ忙しくなるんじゃあないのか?」
「ソの先も考えテ、な? 生き残るタメにモ」
「ふむ……」
目を細めてワタシを見て来る。
しかし、大事なのだ。
未来を考えるのは。
余裕と言う訳ではないが。
やることがないのと、やることがあるの。
どちらの方が良いかと言えば、やることがある方が先を考えるだろう。
なければ考えない。
なのでワタシの生き残る理由付けの、多少のだが、補強にでもさせて貰う。
そう言う意図もある。
「……ボンバーマン」
「なんダ?」
「何処かに腕の立つ、ネットナビ製造をしている奴を知らんかのぅ?」
「詳しクは知らネえが……二日後の夜中の零時から一分間だけパインがネットナビ製造の依頼窓口を開くラしいな。ほラ、伊集院PETカンパニー向けに? 詳しクは知らねエが」
「そうか。覚えておこう」
そう言うことになった。
「あ、ところでじゃが」
「ン?」
「最低限、条件は付けれると考えて良いんじゃろうな?」
「…………参考まデに、どんナ?」
「女性型以外」
「えェ…………………………」
『ふぅん、そうか……』
「よろしいでしょうか?」
『構わん。その……アジールとバイオレンか? 此方に寄越せ。やってやろう』
軽く鼻を鳴らしたワイリーの姿に、サーゲスは静かに頭を下げた。
ボンバーマンの言っていた通り。
サーゲスからのお願いは非常にスムーズに。
それこそ、何処か機嫌良さそうな姿を見せながら、通った。
此処まで巧く行くとむしろ、拍子抜けですらある。
無論、サーゲス。
そのようなことは顔に出す筈もない。
早速、用意していたその二体へと目を向けていたワイリー。
その姿にふと、サーゲスは思う。
ボンバーマン。
ではなく、パイン。
ネットナビを造ってくれることになっている。
何故ネットナビを、造れるのか。
まるで意味が分からないが、造れるアレが。
そのことを、ワイリー様にお伝えすべきか。
「ワイリー様」
伝える必要は別にない。
ない、が。
果たして。
伝えない必要もまたない。
と。
『……ん?』
「パインの奴が近々、ネットナビ製作の窓口を開くそうです。一分だけ」
『一分だけか』
「ええ、一分だけ。有償じゃそうですが」
短い会話であった。
しかし、ワイリーの頭脳。
ソレがあれば、何故、サーゲスが知っているかに辿り着くことも容易かった。
一から十まで完全に、とまでは行かずとも。
『…………そうか』
「ワイリー様も何か、依頼はしないのですかな?」
『ワシが依頼して見ろ。他を断りかねん』
「……ああ、そうかも知れませんな」
興味はある。
だが。
と言うような調子の言葉に、思わずサーゲスは頷いた。
此度。
あくまでもサーゲスのコトが優先事項である。
ソレを邪魔するのはよろしくない。
そう考えるだけの理性は、ワイリーにあった。
頻りに口元の髭に触れている辺り、興味がない訳では決してないのだろうが。
そのようなまま。
口を閉ざして、数分。
その間も手を止めていなかったワイリーだったが、止まった。
唐突に。
スペックの確認を進める中でも特段、引っ掛かるような所でもない場所で。
「…………如何されましたか?」
『いや、なにサーゲス。その一分は別に、お前だけに限定している訳じゃあないじゃろう?』
「依頼するのですかな?」
『ワシはせん。ワシはな…………じゃが』
思い出したようにメールを開く。
送られて来ていた写真。
ゆりこが気にしているからと、時折来る中の一つ。
金髪の子供。
『伝手のついでじゃ。どちらの損にもならんじゃろう――――あの雪国の連中はモチロン、パインにもな』
その姿を眺めながら、小さく目を細めながら。