少年は願った、たった一度のチャンスを。
太古の願望器は、それに応え、彼のための戦争を、彼のためのサーヴァントを用意した。
プライド高めな貧乏少年が、他の英霊と契約して、一年後に聖杯戦争が始まります。
スラム街の夜は暗く、砂漠の暗闇は、極寒を伴う。
この時期になると、街の人々は早くに仕事を終え、明かりを灯し、温もりの充満する部屋で布団を被り、身を寄せ合いながら眠りにつくのだ。
昼間、日差しが強く長くは遊べない子供は、眠る前、昼と夜の隙間に、涼やかな風と共に遊ぶのだ。
短い時間でも、子供が子供らしく遊べるのは、この時間帯だけなのだ。
しかしそれに不満を感じる子供はいない。
この街は治安が悪い。
子供を愛する親というものは、極めて稀少であり、親に愛を注がれ育った子供はほとんどいない。
この街は、捨て子や孤児というのを、野ネズミと同じ頻度で目にすることができる。
野ネズミは、財布を持たず、家財を持たない、だから店主の目を盗んで、果実や肉の売りものを盗み、喰らうのだ。
それは、孤児も同じこと。
孤児は人であり、人として扱われない。
今朝見かけた孤児が、夜、蝿にたかられているのも、珍しい光景ではない。
そうとなっては、ネズミどころか、野生の野糞と同列としてでしか扱われない。
哀れなことだ、しかし、彼らを憐れむのは子供か、異邦人のみだ。
そして、ここにもまた一人、哀れな子供が一人、埃とダニまみれのボロ布で身を包み、寒さに身を震わせていた。
毛玉のような、不潔な黒髪。黄金なんて物とは縁も感じさせないような、黒い瞳。
栄養不足により、十分に成長ができていない、小さな背丈。
孤児にしては大きい方だろうか、しかし、十六という歳を考えれば、やはり見窄らし過ぎるだろう。
この少年に名前はない。
ただ、呼び名はとても多かった。
黒鼠、泥棒ネズミ、スス野郎、クソガキ、死に損ない、野良犬。
全て蔑称で、どれも親から呼ばれたことはなかった。
少年は、母を知らず、父を知らず、文字を知らず、贅沢を知らず、満腹を知らず、清きを知らず、愛を知らなかった。
正義や悪、善政や悪政など、彼にとっては関係のないこと、知らない、知る必要のない言葉だった。
彼が考えていることは常に、大人に気付かれない場所、そして、売り物を盗む方法だけ。
彼は安眠を知らない。
眠る時、意識は常に浅瀬にある。故に、夢を知らず。
少年は決して寝そべらない。
寝そべっていると、逃げる時に、足が遅れるからだ。
今宵も、夜が明ける。
日が上ると、この街は姿を変える。
極寒と暗闇の砂漠の街が、陽の光が強く照射する灼熱の街へと変貌する。
日が上ると同時に、住民は店を開く準備をし始める。
店を開く準備が終わった頃、少年は瞼をあげ、黒い瞳が顔を見せる。
少年にとって、ここからが一日の始まりであり、一日一日が、九死に一生を得る為の人生の分岐点なのだ。
一日でも失敗すれば、その日のうちに餓死してしまうだろう。
街に出れば、すぐに異邦人が目に入った。
異邦人とわかるのは、その服装だ。
白を基調とし、水色や青、銀や金を散りばめていて、汚らしい少年からすれば、目の眩むような雰囲気だ。
異邦人には稀に、この街を知らず、情け深いものがいる。
孤児や浮浪は、口を開け、彼らが恵んでくれるのを魚のように待っている。
彼らは、平和な世界から来た彼らは、貧しいものを見慣れず、彼らに過分な哀れみを抱いてしまう。
貧しいものはその心につけ入り、食べ物を望む。
金を欲しがらないのは、金よりも、食事の方が彼らの同情を誘うと知っているからだ。
同情に目が潤い、異邦人が浮浪や孤児に食料を分け与える。
食料を分けられた者は、大粒の涙を流しながら、感謝を述べる。
その声を聞きつけた者が、さらに恵みを求めて、異邦人の元へ集まる。
元からいたものも、一度食べたことにより、理性が効かなくなり、さらに食料をめぐむ。
ここまでくると、大抵の異邦人は呆れて去って行く、しかしたまに今回のように、調子付き、さらに食料を分け与えるものもいる。
餌を求め群がる魚の様。
少年は、そう思いながら、軽蔑した目で浮浪者と孤児、そして異邦人を睨みつける。
その目には、炎の様な野心が燃えている。
異邦人のいないところで、露店から食料を盗もうと、場所を変える。
場所を変えると、少年は違和感を抱いた。
盗む予定だった露天の店主が、いつもよりも穏やかな笑顔を浮かべていたのだ。
息を殺し、身をかがめ、影に潜み、品物へと近づく。
後少し、というところで露天の店主に見つかってしまった。
商品である果実を一つ、とっさに抱え込み、走り出す。
すると、後ろからの声が、少年の足を止めた。
「持っていけ」
先ほど少年が盗んだ露天の、店主の声だ。
店主はとても筋肉質で、顔も厳つい、腕も太く、声も太く低い。
いつもなら、石を投げるなり、追いかけるなりして、少年の足を止めようとする。
しかし、今日は違った、その声は随分と優しく、穏やかで、慈悲のこもる声だった。
その様子に、少年は足を止め、振り返り、店主を強く睨んだ。
「なんだ、行かねえのか」
少年は何も言わず、ただ店主を見つめている。
ギラギラとした瞳は、何を語ろうとしてるのか。
しかし、それをどう思ったのか、店主は少し楽しそうに話した。
「息子が都にいっちまってな、少しだけ寂しくなったんだよ、それだけだ」
少年は、その言葉を聞き、さらに眉を釣り上げた。
そして、必死の形相で手に持っていた果実を地面に叩きつける。
果実は一撃で粉々になり、少年は颯爽と踵を返し、何かを振り払う様に走り出した。
それを見た店主は、もちろん穏やかなままではいられない。
その顔を憤怒にたぎらせ、少年を追いかける。
「この、クソネズミがあ!」
少年の足は、意外に速く、しばらくすると店主を巻くことに成功した。
しかし、店主が噂を流し、この街のほぼ全ての店を持つものは、少年を警戒し、その日はついに、食料に巡り会えることはなかった。
そう、思われていた。
日が降り始め、少年は体力付き、宿の前で膝をついた。
元々ないものは、鳴りようがなく、どれだけ空腹でも、腹がなることはない。
少年の前に、一つの影が立つ。
昼間の異邦人だ。
彼は、少年に手を差し伸べた。
その手には、一人分のパンが握られていた。
少年の黒い瞳は、そのパンに食いついて離れない。
しかし、少年の意思は違った。
その精神力を持って、パンから目を逸らし、異邦人の眼を睨み上げた。
ひとしきりの我慢をしたからだろう、疲労のため息が少年の口から漏れる。
それは、まるで獣の様だった。
異邦人は困惑したように、目の前のパンを揺らす。
ご馳走が目の前で揺らいでいるというのに、少年の目は異邦人の瞳を睨んだまま。
それを不気味に思ったのか、異邦人はパンを取り下げ、睨みつける少年を蹴り飛ばした。
そして、急いで宿の中に戻る。
罪悪感を消すためにも見えるし、少年から逃げた様にも見えるが、少年にとってはどうでも良いこと、痛む脇腹を抑えながら、隠れ家へと歩き出した。
隠れ家に着くと、少年は糸が切れた様に横に倒れた。
ここまで無防備でいるのは、少年にとって随分と久し振りなことだった。
少年は、この世界を呪った。
今の現状を呪った。
同時に、小さな疑問が浮かぶ。
あの時、大人しく果実をもらっていれば、パンを受け取っていれば、何か違ったのだろうかと。
空腹極まり、徐々に死へと近づいていく。
少年の意識は、徐々に夜の深海へと落ちていく。
少年に選択肢はなかった。
生まれつき、物心ついた時にはこの様な生活をしていた。
人からものを恵まれるなど、彼の野犬の様な誇りが許さなかった。
くだらないプライド、そう笑うだろうか。
そんな余裕はない、そう罵るだろうか。
少年は、魔神に願う。
自分の赤い血管を通して、流れる、青い血に、その魔神に。
新たなチャンス、一回限りでもいい、選択肢が欲しかった。
賭けをする為だけの、参加料を、ベッドできるだけのチップが。
ランプの魔神は応えた。
少年の体を巡る血は応えた。
太古の願望器は応えた。
少年の皮膚から、泥が漏れた。
砂漠の闇に照らされ、黒く見える青い血だ。
少年から溢れた泥は、隠れ家の中心に、機械的に流れる。
まるで、誰かに描かれるように、隠れ家の床に模様を描く。
模様が完成した。
それは魔法陣だった。
少年は、かろうじて動く腕を、魔法陣へと伸ばした。
魔法陣を描く黒い線と、少年の手が触れた。
青く、眩く、しかし朧げな光が、部屋を照らした。
少年は見た。
魔法陣の中に佇む、人影を。
その人影は、少年へと問いかける。
「問おう、──────────」
少年は、野心の灯る瞳を魔法陣へと向けながら、瞼を閉じた。
少年
ステータス(18=D)
筋力:18
耐久:17
敏捷;18
魔力:A+
幸運:2
『黄金律:-EX』
効果:富を得られない。
現在のステータス
最初に描く物語は────
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英雄王(キャスター)
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アルトリア(セイバー)
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佐々木小次郎(アサシン)
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エミヤ(アーチャー)