『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい 作:藍沢カナリヤ
ーーーー風森ハイム201号室ーーーー
「それでは、第5回『兄さんとデートする権利争奪討論大会』を始めたいと思います」
「いえーい!」
「今回は負けないよ」
「ふんっ、わたしが勝つわ!」
「………………Oh」
とある日曜日の昼下がり。
我が城『風森ハイム』201号室にて、俺は天を仰ぎ見ていた。目の前のテーブルを囲んでいるのは、我が義妹・雪南、同居人・椎ちゃん、隣の住人・アンナ、下の階の住人・若菜お嬢様の4人である。身内の贔屓目を除いたとしても、トップクラスの美少女たちがなぜか『俺とのデート権』を巡ってバトルを繰り広げようとしているのだ。
…………フフフフ、男としては中々にうらやましい状況だろう、そうだろう。口角が上がっちまうぜ。
「じゃあ、最初は私からだね。遠治くん」
「おう」
「ひとつ聞きたいのだけれど、あの日、雪南くんを助け出した園咲邸での戦いから約1ヶ月が過ぎたわけだ」
「そうだな」
「あの戦いの前、私が君に告白をしたのを覚えているね。いや、覚えているはずさ。この1ヶ月間、伝え続けてきたからね。だというのに、返事を一向にもらえてないのは、一体どういうことかな?」
「………………」
「サイテーです、兄さん」
「うわぁ、お兄ちゃん、それはちょっとどうかと思うよ」
「男として、甲斐性がないわね」
途端に、背中に冷たいものを感じる。いやぁ、それはだなぁと答えるよりも前に、アンナが俺の顎に指を添えて告げてくる。
「というわけで、今回のデート権は私がもらうことにするよ。ね、遠治くん」
「それとこれとは話が別です」
「そーだそーだ!」
「話のすり替えよ!」
一斉に抗議するアンナ以外の女性陣。先駆けて口を開いたのは、
「こほん、1つ、いいかしら?」
若菜お嬢様であった。軽く咳払いをした彼女は、にっこりと笑顔を向けてから、俺の前に左手を差し出してきた。全員の視線が若菜お嬢様の左手に集中した次の瞬間に、その形が変わる。
「な!? お、おい、これって……」
「ええ。『クレイドール』の姿よ」
彼女の言う通り、左手のみが彼女の使うガイアメモリ『クレイドール』のものに変わっていたのだ。ふぅ、と息を吐いたと同時に、腕は元の若菜お嬢様のものに変わっていたが。
「??? えっと、若菜ちゃん、メモリ使ってないよね」
「ええ、使っていない。というより、メモリが出てこなくなってしまったのよ」
「…………『ガイアプログレッサー』のせいだね」
「ええ。お父様が残してくれた緑色の結晶石……あれを身体に取り込んだのが原因でしょうね」
「……あ、えぇと……すみません」
「いいえ、雪南のせいではないわ。わたしが貴女を助けたい。そう思ってやったことだもの。むしろ謝られるのは、わたしへの侮辱よ?」
「っ、ごめ…………いえ、ありがとうございます」
溢れかけた謝罪の言葉を飲み込む雪南と穏やかな笑みを返す若菜お嬢様。そんな光景を見て、しみじみ思う。2人が関わっていた時間は決して長くはない。でも、雪南を大事に思ってくれる若菜お嬢様は、本当にいい娘だと。流石は風都のアイドルだな。
「というわけで、遠治! 責任を取りなさい?」
「へ!?」
「「「!?!?」」」
「だって、そうでしょう。園咲若菜といえば、この風都のアイドルよ? それをこんな身体にしてしまったのだもの。これは責任を取って、わたしとデート……いえ、結婚するしかないでしょう?」
「若菜くん、理論の飛躍だよ、それは!」
「そ、そうですよ! そもそも責任ならだからわたしが!」
「ちょっと待った~!!」
「椎くん?」
「椎さん?」
俺に詰め寄ってきた若菜お嬢様がその声でピタリと止まる。近くに寄った彼女の表情が固まる。
「まったくぅ! 若菜ちゃんも、アンナちゃんも、お兄ちゃんを責めるのはよくないよ!! そうして、お兄ちゃんの罪悪感に漬け込むのはどうかと、ボクは思うなぁ?」
「「うっ」」
「! 椎ちゃん!!」
さすがは椎ちゃん! いやぁ、妹が天使で本当にお兄ちゃんは鼻が高いよ!
「なので、ボクはお兄ちゃんにメリットを提示します!」
「ほう? 聞こうじゃないか」
「お兄ちゃんはボクのメモリをご存じだよね」
「ああ」
『イマジナリー』。
椎ちゃんが使う『空想』の記憶を内包するメモリだ。能力は感覚を支配する能力。簡単に言えば、五感も支配する幻術のようなもの。それを彼女はメリットだと言ったのである。
「このメモリはとっても使えるよ!」
「…………いいや、椎ちゃん。もうメモリは使わなくていいんだ」
俺達は現在、今回の井坂撃破及び『ミュージアム』の壊滅という功績から、警察からガイアメモリの所持を黙認してもらっていた。ただし、それはあくまでも、メモリを極力使用しないこと、メモリを直差ししないことを条件に特例として見逃されているだけだ。黒に近いグレー。
というか、そもそも俺はこれ以上、メモリを使う気がないしな。あとのことは『仮面ライダー』諸君に任せればいいさ、ハハハ!
「へへへ、お兄ちゃんはやっぱり優しいなぁ」
「まぁ、可愛い妹には危険な目に遭ってほしくないからな」
本人が望んだとはいえ、戦いに巻き込んでしまったことには正直、引け目は感じていたわけだし。これを機会に、椎ちゃんのメモリは警察に返上してもいいくらいだ。
……うん、いい考えだ。ぜひそうしよう。
「……お兄ちゃん、催眠モノとか好きだよね?」
「!?!?!?」
「ボクならそれを実現できるんだよなぁ」
「…………」
「どう? お兄ちゃん、ボクから提示するメリットはこれで以上だけど……」
「…………」
考えるまでもない。俺は椎ちゃんのプレゼンを受け、揺るぎない答えを出した。
「椎ちゃん、詳しく話をーー」
ーーぎぎぎゅっーー
「いだだだだだだっ!?!?」
快諾しようとした俺の右耳が物凄い力でつねられる。痛い痛い痛い痛い!? とれちゃう!? とれちゃう!?
言うまでもなく、その暴力の主は、
「に・い・さ・ん?」
雪南である。にこにこと貼り付けたような作り笑顔を浮かべていらっしゃる。冗談だと返せば、ため息とともに、耳を解放してくれた。
「はぁぁ、本当にどうしようもないムッツリなんですから……」
「いたた……ったく、冗談だって」
「目が本気でした。何年一緒にいると思ってるんですか」
「ぴゅ~」
「はぁぁ」
さらにため息を吐く雪南。その間も椎ちゃんたちはあーだこーだと議論を重ねているようである。
「ふっ」
そんな光景を見て、つい笑みが溢れた。
「何、笑ってるんですか」
「いや、いいなぁと思ってな」
「脳ミソ花畑ですか? 4人が兄さんを取り合ってるという修羅場なの分かってます?」
「ま、それでも『平穏』ではあるだろうよ」
「兄さん、きっとそのうち刺されますね」
「そりゃ勘弁だな」
クールに毒づく義妹に、俺はそんな風に笑って返した。
………………ん?
「ん? 4人が取り合ってるって……あれ?」
「なんですか?」
「いや、数え間違いだろ。アンナ、椎ちゃん、若菜お嬢様……3人だろ?」
「………………はぁ」
「な、なんだよ?」
「兄さん…………死ねばいいと思います」
「お、おい!?」
そうして、毒だけを吐き捨てて、雪南はまたアンナたちとの議論に戻っていく。毒は吐かれた。ただ、それでも俺の心の中はひどく穏やかで。
「続くといいな、こんな『平穏』が」
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この世界にいきなり転生してしまって、最初はどうなることかと思った。化け物や事件に溢れるこの街で、どうにか雪南だけでも守って生きていけたら。そう思ってた。
けれど、雪南だけじゃない。椎ちゃんやアンナ、それに若菜お嬢様。それにここにはいないけど、冴子さん。俺の周りにこうして集まってくれた人たちを俺は大切に思ってる。
この街にはまだまだガイアメモリは残っていて、事件は絶えない。きっとこれからも災難が降りかかってくるだろう。俺はかなりの事なかれ主義者だから『エターナル』を持っていても、事件に関わるのなんて正直ごめんだ。
それでも、彼女たちがいてくれるこの『平穏』だけは、何がなんでも守りたいと、強く思う。
……だから、そうだな。
『平穏』とは程遠くも近いこの日常が、『末長く』続きますように。
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以上で『『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい』完結になります。
長い間、応援・愛読ありがとうございました。
途中、だいぶ更新頻度が落ちたにも関わらず、ここまで読み切ってくださった皆様には感謝しかございません。
前作主人公・黒井くんに引き続き、遠治くんも中々楽しい男でした。
煮え切らないムッツリな彼は誰を選ぶのか! そして、彼は本当の『平穏』を掴み取れるのか! きっと彼らがこれからの日常の中で答えを見せてくれるのだと思います。
ご感想やご質問、ご要望などいただけるものはすべてありがたく頂戴します! また、フィードバックできるものは返していきたいなぁと! 気軽にメッセージいただけると泣いて喜びます!
現在、CoCTRPGのシナリオ作成もしてるので、二次創作まで手を回せなくなっておりますが、もし気が向いたら、また何か書けたらなぁと思っております。
では、また。