C104にて頒布予定だった二次小説です!

[この物語は、ある未来へ至る為の、前日譚]

完全新作の、Fateシリーズという題材をお借りした二次小説です。
これまで執筆した全てのシリーズと関連性はありません。

本作のキャラクターイラストは甲甲魚A先生(X:@jiajiayuA)に描いて頂きました!

面白かった方やご意見がある方は是非感想をお待ちしています!

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黄白

【登場人物紹介】

 

黄鬼牌(ファングイパイ)

 

和名:黄鬼牌(こう きはい)

墺門警察に新たに赴任した新人警察官

 

 

【挿絵表示】

 

 

王鉄明(ワンティエミン)

 

和名:王鉄明(おう てつめい)

黄鬼牌の育て親

 

王翠花(ワンツイファ)

 

和名:王翠花(おう すいか)

王鉄明の実孫、黄鬼牌の直属の上司

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「おい、今日が何の日か覚えているか?」

「ん?ハロウィーンの前夜祭か?まだ十五だぞ。」

「馬鹿言っているんじゃねぇよ。ほら、例の……」

「あぁ、本土の」

「態々澳門(マカオ)まで出向してくるとはご苦労なこって」

「しかも訓練校上がりの超弩級新人らしいぞ」

「所属は?」

「飛虎隊(フェイフードイ)」

「マジかよ。王鉄明(ワンティエミン)とこの」

「ここ十年で指揮系統が大きく変化したからな。新人は付いていけねぇだろう。ちなみにその新人の名は?」

「黄鬼牌(ファングイパイ)」

「変わった名前だな。せめて辞めちまう前までは覚えておいてやるか」

 

井戸端会議に花を咲かせる中年刑事二人を尻目に、『超弩級新人』は気怠そうに廊下を歩いていく。

すれ違う者たちは、彼の身なりに怪訝な表情を浮かべた。

それもその筈、この男、黄鬼牌は、正義の名の下に着用すべき制服を脱ぎ捨て、普段着で現れたのだ。

シンボリックな龍と虎の和製アウター(通称スカジャン)に、天井照明を煌々と反射するシルバーアクセサリー。

髪はライトブラウンに染め、研修資料の一つも持たず、悠々と道の真ん中を闊歩している。

人を見た目で判断するなとは世の常だが、署内の雰囲気からして、彼はどちらかというと捕縛される側、である。

職務質問の感覚で玄人たちは声をかけるが、黄は証明の為の黒手帳をヒラヒラと開示してみせた。

 

「偉大なる王鉄明先生の部屋はどこにあるんだ?」

「この廊下の突き当たり、右に曲がれば特行組の支部がある。……新人が、口の聞き方には気をつけろよ」

「へいへい」

 

黄にとっては、上層部のやっかみも右から左である。

現代社会への適応がまだ不十分であるが故だろう。

通常、警察訓練校への在籍は一年に満たない。それは本土であろうが特別行政区であろうが同じ。

だが黄のいた場所だけは違う。

名前さえ存在しない国家最大の機密施設。訓練生たちは、その位置が青海省の山間部に位置することから、施設のことを『深山(シェンシャン)』と呼んでいた。

両親が既に他界した黄は、育て親となった王鉄明によって齢十一で施設に放り込まれ、十年間をその場所で過ごすことになる。

結果、浮世離れした感性が磨かれたのだ。

そのことに対し、黄は何の感情も抱いていない。王鉄明という人間に対しても同様に。

 

黄がノックもせず扉を勢いよく開けると、そこには御歳七十を超えた男が贅沢なルームチェアにふんぞり返っていた。

その額には深く皺が刻まれており、両腕は瘦せ細り、血管が浮き出ている。

だがこの署内にいる全ての者が、彼に畏怖の感情を抱くだろう。正義の代弁者は、その威圧感だけならば中国マフィアと何ら大差ない。

この男こそが王鉄明。未だその職を辞すること無く、最前線で指揮を取り続けている猛者である。

 

「まだ隠居していなかったのか、爺爺(イェイェ)」

「あぁ。おかげさまでな、やんちゃ坊主。十年ぶりにしては幼い顔つきだ」

「親代わりのくせに十年も放置しやがって。授業参観ぐらい来たらどうなんだ?」

「馬鹿言え、深山にそんなハートフルなイベントが存在するワケがねぇだろう」

 

暫く冗談を言い合った二人。側から見れば親子水入らずの時間だが、互いにそのような『家族愛』を演出する気はさらさら無い。

王は、黄を特殊部隊の戦闘要員とすべく本土から呼び戻した。

黄は黄で、何らかの信念に従い、この地に降り立った。

互いが相手を使える駒としか見ていない。

だが、二人が向いている方向は奇しくも同じ。

何故、警察官として生きるのか。

権力への渇望か、はたまた富の安定か━━━━━━否。

 

「深山で学んだ全て、その脳みそと肉体に刻みつけてきたんだろうな?手ぶらでのこのこやってきたからには、出来ないとは言わせねぇ」

「当たり前だ」

「なら、早速てめぇの存在意義を隠居ジジイに見せつけてみろ、期待している」

 

王は黄へ向けて一枚の紙を差し出した。

それは所謂、辞令、である。随分簡素であるが、彼が所属すべき部隊の名が刻まれていた。

 

『澳門治安警察局 特警隊 特別行動組』

通称『澳門飛虎隊(マカオフェイフードイ)』

 

マカオ警察が誇る強力無比な武装集団、中でも高度機密的部門に属する特行組は、その活動記録もトップシークレットとされている。

時に私服潜入捜査員、時に重武装と目出し帽(バラクラバ)。

マフィアの抗争、テロリズム、社会を脅かす凶悪犯罪にスピード感を以て対処する。

黄はその一員となるポテンシャルを有していた。

 

「いきなり暗部とは…………予想はしていたが」

「俺の孫が働いている。王翠花(ワンツイファ)だ。色々と学んでくると良い」

「孫がいたのか、しかも刑事」

「あぁ、直属の上司になる女だが、歳はてめぇと同じ二十一だ。おっと、期待するなよ?奴には既に婚約者がいる」

「何も言ってないぞ、爺爺」

 

血生臭い戦場に、恋を探しにくる馬鹿がいるだろうか?

彼は爺爺の下品な思考に呆れてモノも言えなくなる。

そもそも王鉄明からすれば、血の繋がりを除いて、どちらも孫だろう。

 

「……オレはもう行く」

 

黄は手渡された紙をポケットに仕舞い込むと、王鉄明に背を向けた。

これ以上言葉を重ねる必要はない。

あとは、実践あるのみ。

彼は名残惜しさなど感じるべくもなく、扉の外へと歩き出した。

そして別れの直前、王は黄の背へと声を掛ける。

 

「黄鬼牌、ここはてめぇの『夢』が叶う場所だ」

 

黄はその一言に立ち止まり、ゆっくりと振り返る。

彼の頬は少しばかり緩んでいた。

かつて王へと告げた、彼の夢。

それは幼子が抱く根拠のない理想だ。

 

彼自身、今も心に燻り続けている。

 

「そうか、それは良いな」

 

黄は今度こそ、王の部屋を退出する。

こうして、ここから、黄鬼牌の物語は始まりを告げたのだった。

 

 

【黄白(きはく)】

 

 

【この物語は、ある未来へ至る為の、前日譚】

 

 

中華人民共和国特別行政区『澳門(マカオ)』

現在20XX年時点の人口は約八十万人。七割は中国系民族だが、近年はアメリカンやヨーロピアンも多く移り住んでいる。

マカオは清朝時代にポルトガル領となり、1999年に行政管理権は中国へと返還された。故に今なお、西洋的な文化が色濃く残る都市だ。

マカオ最大の特徴は、世界最高峰のカジノタウンを有する点である。

今や米国資本『S』の進撃は本場ラスベガスを離れ、マカオを蹂躙した。乱立する総合エンターテイメントリゾートは途方もない利益を生み出し、高度に、そして歪に進化し続けている。

年間三千万人の観光客を招き入れ、快楽と苦痛の波に飲み込んでいると言えよう。

ドレスで着飾った勝者たちが、煌びやかなマカオリゾートを闊歩する裏側で、敗者は深い闇へと引き摺り込まれていく。

━━━━この街は、多くの罪に満ちている。

 

「だからこそ、私達がここにいるのです」

 

王翠花がホワイトボードの前で自信満々に言い切ると、刑事たちから拍手喝采が巻き起こった。

犯罪率の上昇は止まるところを知らない。マカオは今、有体に言えば治安が悪い。

警察が目を光らせる数メートル先で、今日も凶悪犯罪が白昼堂々行われている。

黄鬼牌は、翠花が用意した資料を浅く読みながら、大きく欠伸をした。

 

特別行動組へと配属され二週間。

黄は訓練と座学の日々を繰り返していた。

毎日が戦場……というのは、志望者をふるい落とす為の方便でしかない。

実際のところ、犯罪は起こっている。起こってはいるが、見つからない。

法を犯す者たちの手口は、日々巧妙となり、尻尾を捕まえるにも多大な時間を要する。

潜入捜査官が成果を出すのは、一日二日の努力ではないのだ。

深山育ちの世間知らず坊やに与えられるロールでは無い。上長の判断は至極真っ当である。

そして特行組は最大規模の組織犯罪への抑止力として機能する。

武装警察という枠組みにおいて、言わば横綱の立ち振る舞いを要求される。

十年前の大規模な組織改革による、完全分担制の賜物だ。

王鉄明を含む上層部の弛まぬ努力によって、一人あたりの仕事量が減少、代わりに個々が抱える責任はより重くなった。

常に全部署が連携しつつ、各々の仕事をパーフェクトにこなす。

仕事(ビジネス)においては理想郷。黄もそれは把握している。

軽犯罪、重犯罪問わず、現場を駆けずり回るのは、別働隊の役目だそうだ。

特行組はマカオ警察の切り札として、常に待機していなければならない。

この『待つ』という動作が、彼に重くのしかかる。

給与としては申し分ないが、働いて得た対価として考えると、貰い過ぎな気がしてしまう。

深山で育った同期たちは、皆本土で戦っているのだろうか?

 

深い溜息。

 

黄は何も、己の力を誇示したいわけではない。平和が一番という思想を強く持つ。

だが暇を持て余しているのは事実だ。

 

「黄鬼牌、集中力が欠如していますね」

「寝不足だ、申し訳ない。だが内容は全て頭に入っているぞ、翠翠(ツイツイ)」

「馴れ馴れしい!…………実務では貴方のような人間から真っ先に命を落とすのです。誇張ではありません」

 

特行組の仲間たち全員が、だらしない黄を見て、口角を上げた。

出世競争最初の脱落者が決まったことへのほくそ笑み。

内部なんてこんなものか、と黄は呆れ返る。

王鉄明のお眼鏡にかなえば、安定の地位が担保されるのだ。

正義という旗印の下で行われるのは、醜い蹴落とし合いでしか無い。

黄は連中から目線を外し、近付いてくる翠花を眺めてみる。

艶やかな黒髪を纏め、間違っても目に髪がかからないようにしている。

制服の着こなしも、見事と言わざるを得ない。彼女ほと隊服が似合う女性もそういまい。

同郷らしいつり上がった目に、高い鼻筋、濃く赤い口紅。言葉を選ばずに言うならば、気の強い女性に見える。

事実そうだが、それは別段悪いことではない。

この社会で生き抜くには、男を出し抜く強さも当然必要だろう。

舐め回すように観察した後、黄は興味を失ったように目を逸らした。

残念ながら黄のタイプではない。彼の好みはブロンドヘアの妖艶な西洋美人だ。

例えるなら有名女優の『ワイルドウルフ』のような━━━━

 

「あれ?翠翠、昨日と違うフレグランス?」

「話を聞きなさいな……全く。貴方は警察官ではなく、警察犬?……確かに香水を変えましたが」

「やっぱり!同じ柑橘系だけど、微妙に香りが違うと思っていた」

「くだらないことにはよく気づくのですね」

 

黄の特技は、これだ。

彼の五感は常人に比べ研ぎ澄まされている。些細な謎や変化を逃さず、事件解決の道標とする。

これが活かされる場面は、まだ無いが、実に仕事向きな長所と言えよう。

職場の男性陣の日々の変化も察知しているが、気味悪がられるだけなので口は噤んでおこう。

黄は手元の資料に目を落とし、翠花との会話を断ち切った。

彼女は黄に裂く時間が無駄であると判断し、彼に背を向け教卓へと戻る。

 

「続いては、……滅多に対峙しませんが、墺門でも流通が確認されている『XSA(クロサ)』について━━━━」

 

翠花がマーカーを手にし、ホワイトボードに向き合った刹那。

心臓が飛び跳ねるような警告音が署内を駆け巡った。

黄を含め、訓練された者たちの顔付きが変わる。

翠花の表情が強張っているのが理解できる。

特行組の招集。それが意味するのは、特別行政区を揺るがす事件の発生。

彼らは隊列を組み、一斉に教室を後にした。

 

 

マカオ某所、大型ショッピングモールで起こった、若年組織による立てこもり事件。

マフィア崩れの元受刑者、ポルトガル国籍の男『オズマール』が指揮する、鬱屈した若者たちの一台蜂起である。

中国マフィアに食い物にされた、哀れな子鹿たち。

警察庁上層部の指示により、彼らの管轄は武装警察から一般警察へと移譲された。

完全に、マークが外れた、ことが起因する不手際である。

オズマールは警察組織を油断させるため、機を狙っていた。

実に賢しい男であると翠花は解説する。

密売業者との取引は全てパソコンを介さず録音機で原始的に行い、リゾートに持ち込まれる寝具の数々に武器や薬物を潜ませていた。

入念に計画を立てていたのだろうことが伺える。

故に、黄には彼の意図が分かりかねた。

特行隊は完全武装し、大型車両に揺られている。

現地へと辿り着くまで、あと五分。

突入経路から人質解放、組織の制圧まで、全てが共有されている。

最も緊張が走る時間。

黄は顎に手を当て、物思いに耽っていた。

 

「(オズマールは何故、全メディアが注目するような騒動を?)」

 

己を誇示するかのような犯行は、頭の良い男には余りにも似合わない。

元受刑者であれば尚更、警察庁の圧倒的戦力について正しく理解している筈。

オズマール自身が将軍(ジェネラル)となり旗を振る必要性。

警察を欺いた男ならば、この行動の意味は……?

 

「陽動でしょうね」

 

黄の思考は、翠花に読み取られていた。

警察を欺いたオズマールという男への最大警戒を、彼は利用しようとしている。

現場の監視カメラに映し出された犯人たちは、犯罪経歴の無い、或いは軽犯罪のみの不良青年集団。

足が付かないように徹底されている。

警察の威信をかけたテロリズムへの対抗、その隙に何らかの行動を起こそうとしているオズマール。

黄は翠花に感心すると共に、ある疑念を抱いた。

作戦内容は、ショッピングモール内の人質解放、そして犯行グループの完全制圧。

オズマールが真に陽動目的だとして、彼の野望をくい止めることは作戦内容に含まれていない。

憶測の域を出ない為なのだろう。

 

「陽動だとしたら、オズマールを直ちに止めなければならないだろう?」

「それは今回の任務の範囲外です」

「可能性だとしても、それをみすみす見逃せというのか?未来の犠牲者を生む可能性だってある」

「それはそうでしょうね。私たちはいつだって後手に回る、それが常です」

「分かっているならどうして……」

 

現場に到着するまであと一分足らず。

翠花は大きく息を吐き、黄の肩に手を置いた。

それは優しく諭すような行為ではない。

グローブ越しにでも、その手の甲の血管が浮かび上がっていることは分かる。

 

「特別行動組、それはただの所属名に過ぎない。我々は墺門飛虎隊を名乗る前に、一人一人が市民を守る警察官です。我らのすべきことを、絶対に見誤るな、黄鬼牌!」

「っ……!」

 

そして大型車両はショッピングモール数メートル圏内に到着した。

既に他部署の警官たちが在留し、入口を警察車両が覆っている。

キープアウトの黄色テープの外側で、大手メディアと興味本位で事を見守る群衆が溢れ返っていた。

黄は自身の頬を殴りつけ、覚醒する。

翠花の言葉こそが真実だ。深山で学んだことを捨て去る所だった。

警察官の使命はいつだって、ただ一つだ。

 

「GO‼︎」

 

翠花が声を張り上げる。

瞬間、二十一名の特行組部隊がシールドを手に突入した。

群衆はまるで映画のような臨場感に息を呑むが、これは現実そのものだ。

今にも、この中で尊い命が犠牲になるかもしれない。

市民の美しい休日を、絶望の一日にしてはならないのだ。

だから彼らは走る。

彼らは三チームに別れ、人質の救出へと向かった。

黄は入口付近で獲物を待っていた青年たちに襲撃される。

彼らは二階から機動隊へと照準を定めた。

凡そ日常では一般人が目撃することのない短機関銃を装備している。

 

「SMG⁉︎」

「怯むな、黄鬼牌!」

 

突如降り注ぐ銃弾の雨。

黄の隣に立つ高身長の丈夫は、盾を構えたまま前方へとせり出た。

自身が標的となることを目的とした行動だ。

勇敢な行動だが、無謀と履き違えているとも言える。

新たに開発された最高防弾性能の盾と言えど、集中砲火を浴びれば……

迷う暇など無い。

黄はすぐさまフラッシュバンを二階へ投擲する。

閃光と轟音が辺りを包み込む直後に、彼らは階段を駆け上がった。

 

「5(ファイブ)!」

 

通信機器を介して、敵数の共有が為される。

先の閃光手榴弾で意識を失った者が三名、よってあと二名の制圧が必要となる。

三名の仲間が先行し、P90を武装した青年を囲い込む。

自動小銃の銃口を彼に向け、ホールドアップを命じ、足元へ武器を捨てさせた。

無論、それで油断するならば特行組は名乗れまい。

犯人グループの青年を手荒く壁に叩きつけると、両手を拘束した上で、全身をくまなく確認する。

手榴弾でも所持していようものなら、この場にいる者全員に命の危険が生まれる故だ。

黄を含めた四名は、雲隠れしたもう一人を探す。

一分にも満たない時間の攻防である。人間の足ではそう遠くまでは離れられまい。

黄は落ち着いて、五感を研ぎ澄ませる。

僅かな匂い、音を聞き漏らさない。

ヒトの呼吸音にすら真剣を尖らせる。

広大な深山で培われた技術、今こそ発揮するとき。

 

リロード音。

北西の方向、婦人服関連の売り場。

 

「更衣室……っ!」

 

どうしてそんな所に?という疑問はさておき。

黄と仲間たちは売り場へと直行した。

そしてカーテンの奥に隠れ潜む青年を取り囲んだ。

 

「武器を捨て、手を上げろ」

 

カーテンを引き裂いた仲間は、青年を散弾銃を手放した片腕を拘束する。

瞬間、武装を解いたかに思えた彼は、腕を大きく振り被った。

その手には鋭利なアーミーナイフが握られている。

一秒で特行組の一名が犠牲になる。そんな未来が待ち受けていた。

否。

黄は持ち前の瞬発力で、これに応戦する。

振り下ろされる数センチ手前で、青年の顔面に拳を叩き込んだ。

加減の無い一発が、青年の頬骨を粉砕する。

そして後ろへ大きく倒れ込む彼を捕縛。

その手際の良さに、思わず仲間の一人が唸った。

 

「やるな、黄鬼牌」

「当たり前だ」

 

そして気絶した残り三人も抜かりなく処理し、入口ゲート付近の制圧が完了する。

 

「残り三名の武装解除確認ヨシ」

「マル三チーム完了ヨシ、人質ゼロ、二名は待機、五名はそれぞれマル一マル二へ合流」

「承知(イエッサー)」

 

黄は盾役となった丈夫と共に、翠花のいるマル一チームへと合流すべく走る。

彼女たちはパジェロに取り付けてある巨大梯子を用いて、三階層から突入した。

銃撃戦は黄のいたゲート付近のみで発生している。上層階は不気味なほどに静かなままだ。

妙だと、二人は思う。

可能性として考えられるのは、敵が隠れ潜み、未だ情報戦が行われていること。

或いは、人質の存在により、手が出せなくなっていること。

通信機器からの伝達は、指示された地点での待機命令である。

三階飲食フロアへと転がり込んだ黄らは、柱の影に潜伏しつつ状況を確認する。

中央広場付近に、人影がいつくも散見される。

注意深く見つめると、いた。

マル一チームの四名と、十五名を超える一般人。そして武装した青年が三名と、中央に立つ白人の男。

 

「オズマール…………っ」

 

黒幕自らが犯行現場で堂々と佇んでいる。

多少なりとも兵士のような格好をしている青年たちとは異なり、派手なオーダーメイドスーツにブランド物の革靴を着用している。

テロリストであると認めることが困難な姿だ。

余裕綽々といった表情は、どこからくるものなのか。

特行組の戦力が圧倒的に上回る中で、犯行グループは武器を捨てない。

人質がいる優位性。

特に十五名も一般人がいるとなると、警察は手出しができない。

尊い命が一つでも奪われようものなら、世間からのバッシング、警察組織の権威は失われるだろう。

否、違う。黄にとっては、世間評など考える間も無かった。

誰一人殺させない。

善良な市民、任務にあたる仲間たち、全員が生きて帰還する。

これは黄鬼牌の夢であり、プライドだ。

 

『警察官になり、絶対に全員救い出す』

 

くだらない子どもの理想で終わらせない。

そのために、歯を食いしばり、深山という過酷な環境で生き抜いてきたのだ。

黄は熱い気持ちに蓋をして、冷静さを心掛ける。

犯人グループ、オズマールへの怒りは今必要ない。

カリスマの如く演説する黒幕の言葉へ耳を傾ける。

状況を打破するための糸口、それを決して逃さない。

 

「オズマール、貴様の要件は理解した。金と逃走用車両はこちらが直ちに用意する。人質を解放しろ」

「ノンノン、君たち警察諸君は知性が足りない。用意するのが先だ。人質は普通に考えて後だろう?」

「高齢の方と子どもは直ちに解放しろ。……お前たちにとっても足手纏いになる筈だ」

「いや、万が一君たちのミスで若き命が儚く散ったら、世間の印象はどうだろうね?成人男性が死ぬより、子どもが無惨に殺された方が実にバッドエンドらしい!」

「オズマール……貴様……」

「人質が減れば、君たちも『やりやすい』のだろう?そうはいかない。さっさとこちらの要求通りに動け。一人ずつ殺していくぞ?」

 

オズマールは所持していたハンドガンを蹲る女性の後頭部に押し当てた。

女性の悲鳴がこだまし、市民たちはパニックに陥る。

 

「辞めろ!オズマール!」

「クク、冗談だよ、焦るなって」

 

黄の隣にいる丈夫然り、オズマールに銃口を向けるマル一チーム然り、彼への不快感と圧倒的な怒りが増殖する。

だが黄はどこまでも澄み渡る空のような心持ちを保つ。

オズマールの目的は、金。

だがそれは、この状況に対してあまりにもそぐわない。

もし金が目的なら、銀行強盗でも行えば良いだろう。

広大なショッピングモールで大規模な組織犯罪を行うメリットがどこにある?

逃走用車両の用意、というのも意図が不明だ。

不良少年たちの親玉を気取り、犯行に及んだならば、当然逃走用経路は確保している筈。

そこには足のつかない車両があり、逃げ延びることが出来るはずだ。

警察の用意する車など、GPSで位置情報を把握されるのがオチだ。

頭の切れるオズマールの選択とは思えない。

銃口を向けられている状態で威風堂々たる態度。

命の危険に晒されれば、誰だって多少なりとは怯む筈だ。

 

「黄鬼牌、オズマールの要求金額は一億MOP(パタカ)(※日本円で約二十億)だ。こんなもの用意できるわけがねぇ」

「一億……」

 

尚更、現実的じゃない。

銀行を襲撃せず、注目されやすいショッピングモールを選び、法外な金銭を要求する。

目的は、何らかの時間稼ぎ、か?

一体何のために?

 

その時だった。

黄はオズマールと人質のいる中央広場とは真逆の、商業トイレ付近からの微かな物音を聞いた。

この場にいる誰もが察知できないものだろう。

逃げ遅れた市民が、トイレに篭っている?

それかこの状況を理解しておらず、ただ長時間用を足している?

兎に角、状況を確認せねばなるまい。

 

「ごめん、トイレの方から物音がした。念の為確認に行く」

「この状況で単独行動は危険だ。今は放っておけ」

「それはその通りだが、一般市民なら危険を伝えなければならないし、万が一敵ならば、特行組は背後を取られる可能性がある。すまないが、ここは任せたぞ」

 

黄は仲間の静止を振り切り、敵に見つからぬよう一人でトイレの方へと向かった。

 

入口から壁に沿って進む。荒くなる呼吸を抑えつつ、慎重に。

水洗センサーに認識され、水が流れ出すことを警戒している。

男子トイレの三つの個室のうち、一つに鍵がかけられていた。

慎重に下から覗き見ると、ブランド物の革靴が垣間見える。

 

「(あれ?)」

 

人間を隅々まで観察する黄だからこそ察知できたのだろう。

今トイレに篭っている者の着用している革靴は、オズマールが履いているソレと同様のものだ。

このような状況で敵の靴の情報まで仕入れているのは、黄の多面的な視野の賜物である。

そして僅かに見えるスーツの裾もまた、同様のもの。

黄の中での疑念が確信へと変わっていく。

その時、洋室トイレの扉内で、オズマールと同じ声の持ち主が何者かとの会話を始めた。

黄は慎重に聞き耳を立てる。

 

「ブツはもう運び込まれたんだろうな?」

『ブツ?』

「馬鹿野郎、『XSA(クロサ)』だよ。私がここまでリスクを冒しているんだ。失敗は許されない」

『それならば直に完了しますよ、ボス』

「よくやった。『ジェスター』からの反応は?」

『奴からの連絡はありません。こちらを最大限警戒しているのかと』

「あの野郎、次に会ったら承知しねぇぞ」

『ところで、もう一人のボスの状況は?』

「上手くやっている。本物の私と瓜二つだが、あのナリで近代兵器の数々が一切効かないときた。『XSA(クロサ)』様々だよ。奴ならば警察連中が束になろうが決して負けない」

 

黄は息を呑む。『XSA(クロサ)』のことをまだ理解していない彼だが、何か得体の知れない脅威であることは確かだ。

電話の相手の言葉から察するに、ボスというのはオズマール本人に違いない。つまり扉の向こう側にいるのは、本物のオズマール。

『XSA(クロサ)』というのは、自身のクローンか同じ皮を被ったロボットを創造する技術のことなのだろうか?

そしてそれは常人ならざる力を有すると個室に籠る男は言っていた。

かつて見た映画で、そのようなものはあった。

黄のいない十年間で技術革新があり、それが悪用されているのかも知れない。

 

ふと中央広場で銃撃音と女性の悲鳴が轟いた。

急ぎ確認すると、オズマールがその手に持つハンドガンで、特行組の仲間一人の右肩に風穴を空けたのだ。

その場に崩れ落ちる特行組の一員。

悠長に話を聞いている場合では無さそうだ。

黄は覚悟を決め、施錠された鍵を破壊し、扉を勢いよく開く。

するとそこには、オズマール本人と思しき人物が目を丸くして座っていた。

 

「な……」

「オズマール!」

 

黄は彼の腕に掴み掛かる。

だがオズマールは決死の思いで黄の動きを読み、転がるように脱出した。

まさか自身が警察の目に留まってしまうとは露にも思っていなかったのだろう。

慌てふためきながら、トイレ入口へと全速力で走り去る。

二人のオズマールが同時に存在する事実。

黄はこの有り得ざる状況に困惑しつつも、彼を捕まえるべく加速した。

 

「ヒィ!」

「待ちやがれ!」

 

オズマールは中央広場に向けて走っていく。

彼の革靴の音に反応を示したものが、皆振り向いた。

そして誰もが困惑する。

明らかに異常な何かが発生している。

広場に佇むもう一人のオズマールも、額に汗を浮かべた。

 

「マズい!私を助けろ!『バーサーカー』!」

 

逃げるオズマールはそう叫びながら、自身の右手を翳した。

黄は彼の手の甲に浮かび上がる三つの痣を注視する。

刺青のようにも思える何らかの紋様。

赤色のそれが、青白く光り始めた。

人体発火現象の予兆なのだろうか?

黄にはあらゆる事が理解不能。だが、危機であることは確信している。

 

「オズマール!」

 

黄は彼をようやく背中から捕え、羽交い締めにする。

黄と共に行動していた丈夫も、ハッとした後に、彼らの元へと走り出した。

オズマールはその間も腕を振り回しながら抵抗を続ける。

そして中央広場、バーサーカーと呼ばれたもう一人のオズマールもまた、人質を置いて動き出していた。

黄の胸騒ぎは止まらない。

バーサーカーとは何だ?

何が起きようとしている?

 

だが、黄の危惧とは裏腹に。

様々な思考、様々な行動が複雑に絡み合うこの現場に、終止符を打つものが現れる。

ショッピングモール最上階からの銃声。

空から降ってくる一発の弾丸は、余りにも正確に、オズマールの右手の甲を貫いた。

血飛沫と共に、光り輝く痣は色を失い、彼は痛みに苦しむ喘ぐ。

 

「狙撃手(スナイパー)⁉︎」

 

呆気に取られていた犯行グループの青年たちは、銃口を上層階へと向けた。

そして黄と彼らが見た者は、スイス製のボルトアクション狙撃銃を構える一人の女。

王翠花の姿である。

そして特行組は彼らの油断、一瞬の隙を逃さない。

 

「確保!」

 

青年たちに突撃し、近接戦から、彼らを地面タイルに叩き付ける。

オズマールを囲む者たちと、傷を負った者を除き、全ての特行組が集結し、青年たちの制圧が完了する。

残されたもう一人のオズマール、バーサーカーと呼ばれた男は、どういう原理か、肉体が解けるように消滅していった。

 

「マスター、すみません、力不足でした」

「そ、そんな、私の『サーヴァント』が、こんな…………」

 

光の粒子となる、というのが正しい表現だろうか。

同時にオズマールの腕から先ほどの痣も消え去り、彼はガックリと項垂れた。

通信機器から、翠花の声で任務完了(オールクリア)が告げられる。

黄はオズマールの両腕を縛り上げながら、安堵の溜息を零したのだった。

 

 

後日、黄は翠花と共に、王鉄明の部屋へと招かれていた。

例の事件は死者ゼロとして一般社会に讃えられる功績となったが、これで気を緩める愚か者はいない。

 

思考準拠型英霊構成ナノマシンプログラム、通称『XSA(クロサ)』

 

自身の知識、想像を媒介とし、過去の英霊を擬似的に現代へと蘇らせ契約するマイクロチップが、黄の知らない十年間に誕生し、悪用され続けている。

この世界に存在したとされる『魔術師』は、秘匿されし全ての情報を世界へと詳にした。

現代科学との調和を経て、この世界の新たなる技術革新を担ったとされている。

『XSA(クロサ)』を使用する者に制限は無い。同期元のチップを移植された者は『マスター』と呼ばれ、過去の英雄たちへのアクセス権限を得る。

そしてその知識と想像により、現代へ仮初の肉体を再構築するのだ。

この英霊たちは通称『サーヴァント』と呼称され、七種類の特性別に分類されるようだが、黄はまだ序の口レベルの知識しか有さない。

『XSA(クロサ)』の絶対数は非常に少なく、黄のように、未だその存在を知らぬ者も多い。

 

「━━━━以上が、報告内容です。やはりオズマールによって数個の『XSA(クロサ)』がマカオに持ち込まれていました」

「これは俺たち上層部の失態だな。俺が他の連中にも正しく共有しておこう、仕事が早いな、翠花」

「いえ」

 

翠花の頬は紅潮している。威厳ある祖父に褒められることに慣れていないのだろう。

黄は今回の任務に置いて、叱責処分が下った。

状況が不明瞭にも関わらず、待機命令を無視し、単独でトイレへと向かったことが原因である。

特行組は潜入捜査を除き、必ず二名以上で行動することが義務付けられていた。

黄の行動がきっかけとなり事件解決へと向かったが、それは結果論に過ぎない。

無辜の民間人を生み出していた可能性もあるのだ。

 

「やはり、右手に浮かび上がる赤い痣、通称『令呪』がマスターにとっての弱点であるようです。あれは合成ナノマシンの命令権である共に、現世へと繋ぎ止めるための構成要素の核だったと推測されます。何らかの形で皮膚組織に物理的な衝撃を受けた場合、英霊との接続が切れるようです」

「そうか、あの狙撃はそれが理由で……」

 

黄は翠花の行動力、状況判断能力、そして狙撃手としての腕前に感心した。

彼女はずっと本物のオズマールが近くでサーヴァントに指示を出していることを推察し、その影を追っていたのだ。

被害を最小限に食い止めたのは、特行組を纏め、的確な作戦内容を立案した彼女の手腕。

だが黄はどうやら彼女にとって期待する駒では無かったようだ。

オズマールが二人存在するかもしれないという事実を告げなかったのは、黄に余計な行動をさせないためであった。

結果、それは裏目に出てしまったが。

 

「オズマールの召喚したサーヴァント、クラスは『狂戦士(バーサーカー)』にカテゴライズされますが、その正体は未だ不明のままです。恐らくは変装が得意な英雄というところでしょうか。要求した逃走用車両を同じ顔のサーヴァントに運転させれば、自身は安全に国外へ逃げられると目論んだのでしょうね。彼の使用した『XSA(クロサ)』は回収済みです。」

「そして彼奴は取調室で黙秘を貫いているんだってな」

「そうですね。あとの数個については行方が分からずじまい、と」

 

黄も当然ながら、オズマールのトイレ内での会話内容は報告済みだ。

外部に連絡を取り合うものがいた事実に加え『ジェスター』という謎の存在。

オズマールの役目が陽動であり、『XSA(クロサ)』をマカオへ密売することが目的ならば、警察は彼に再度出し抜かれたこととなる。

━━━━マカオにはまだ、巨大な悪が潜んでいる。

 

「私の報告は既に終わりましたが、何故黄鬼牌もこの場に連れてくる必要があったのでしょうか?」

「あぁ、こいつには新しい任務(ミッション)を与えなきゃな、と思って」

 

王鉄明は悪い笑みを浮かべると、黄に向けて一枚のカードを投げた。

咄嗟にそれを受け取った黄は、それがトランプカードであることに気付く。

 

「なんだ?爺爺。オレと勝負か?」

「馬鹿言え。てめぇはトランプゲームの基礎も知らねぇだろう」

「カジノで休暇してこいという粋な計らいか?」

「半分正解だ」

 

王は続いて、二人の電子端末に情報を共有した。

十一月中旬、今年も開催される『マカオグランプリ』の広告が目に入る。

世界一とも名高い市街地レース、マカオ最大級の見せ物ならば、警察にとっての繁忙期だ。

特行組も当然、全員が駆り出される。

だが、王が指し示したのは、もう一つのファイル。

そちらにはマカオでもトップクラスのカジノリゾートこと『ベネチアンマカオリゾート』の詳細が載せられていた。

マカオグランプリ当日、毎年各国から多くの観光客が来訪する為、当然各地のホテルは満室御礼となる。

だが何故だろう。王が提示した資料によると、ベネチアンマカオリゾートは当日、指定の団体により貸切となっている。

これは前代未聞であるだろう。

熱心な大金持ちたちによるGP見物の為の貸切と一般的には判断するだろうが、王からすればどうにも、きな臭い。

そしてその貸切を行なった代表者こそ━━━━

 

「名前……『ゴーディエングラス=ジェスター』……っ⁉︎」

 

黄が確かに耳に刻んだ名が記されていた。

これには翠花も驚愕している。

偶然、なのか?

二人は同時に顔を見合わせた。

 

「その下のファイルを見てみろ。てめぇらの偶然が、必然になる」

 

王の指示通り、中身を確認した。

そこに映し出されていた一人の男に、翠花は素っ頓狂な声をあげた。

黄はこれが何者であるかを知らない。

 

「正体不明の世界的大物詐欺師『ジョーカー』」

 

「ジョーカー?」

「世界中の警察組織が躍起になって探しても、一切尻尾を見せないという、世紀の天才ですよ。悪徳企業を成敗したかと思えば、一国の皇女をたらし込め、国を崩壊させたともいう……そんな男がどうして…………」

「それは俺にも分からん、だが『XSA(クロサ)』に関係がありそうなジェスターと、詐欺師のジョーカー、ここに繋がりがあれば、やべぇ話だろうな?」

「これが事実なら、マカオグランプリの人員を割いてでも、このリゾートに向かわせるべきです!ジョーカーがカジノに現れて、碌なことが起こらないのは流石の私も分かります!」

 

翠花は最もな申し出をするが、王は首を横に振った。

凡ゆる面で、裏付けとなる証拠が不足している今、上層部の合意はどうしても得られない。

可能とすれば潜入捜査だが、ジェスターからの招待状を手にした者にしか、入口は開かれないようだ。

 

「で、その招待状というのが、それ」

 

王は黄の持つ、スペードのA(エース)を指差した。

何とか入手できたのがたったの一枚。これだけが、警察庁の介入余地なのである。

そしてそれは、黄鬼牌へと託された。

 

「ど、ど、どうして、どうして黄鬼牌なのですか!爺爺!」

「俺の可愛い実孫を危険に晒すわけにはいかねぇだろう?」

「冗談は辞めてください。……例え私が実力不足だったとしても、他に適任はいくらでもいた筈です。黄はまだ一切の経験をしていない。あまりにも無謀です…………私の部下の命を軽くお考えですか⁉︎」

 

彼女は黄を軽んじつつも、本気で心配していた。

同い年で、自身の部下にあたる若き青年。先の事件でも、経験が浅いなりに勇気を持って行動することが出来ていた。

そんな仲間を『XSA(クロサ)』の密売に関係するであろう男や、世界的詐欺師の暗躍する場所に行かせる訳にはいかない。

 

「翠花、てめぇはまだ黄鬼牌という人間を全く理解していないようだ」

 

王鉄明だけは黄の価値に気付き、彼こそが任務に適していると提言した。

彼の真の実力は、特行組では収まりきらないものであると。

 

「黄鬼牌、てめぇの夢はなんだ?」

 

その言葉は、これまでも、これからも、黄へと投げかけられ続ける。

そして必ず、彼は同じ回答を用意する。

 

「誰一人、犠牲者を出さず救出することだ」

「上等だ。頼んだぞ、新人捜査官」

 

これよりベネチアンマカオリゾートで行われるのは、トランプに準えた五十三名が招かれる一大パーティー。

そしてそこで執り行われるギャンブルは、世にも残酷なデスゲーム。

『XSA(クロサ)』を用いて生成した英雄同士を戦わせ、殺し合い、ただ一人の勝者を決める。

 

その名を『聖杯戦争(せいはいせんそう)』

 

黄鬼牌はただ一人、この悪夢に巻き込まれていく運命となる。

 

【黄白 完】

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

あとがき

 

初めまして、或いは、お久しぶりです。パープルハットと申します。

 

『黄白』いかがでしたでしょうか?

マカオが舞台ですので、中国人のキャラが多く登場します。

名前が分かりづらいので、それぞれ黄鬼牌(こうきはい)、王鉄明(おうてつめい)、王翠花(おうすいか)とお呼びください。オズマールはオズマールで笑

実はこれを執筆しているのはC104の二週間前でして、納期ピンチの状況です。もし皆様が今これを読まれているならば、それは印刷業者への依頼が間に合ったということです。

次回からは思い付きで進めるのを辞め、計画的に書いていきたいなと思います。

 

【追記】間に合いませんでした。自責の念も込めて、そのまま掲載しております。

 

今回、素敵なイラストを書いてくださったのは甲甲魚A先生。

いつもお世話になっておりますが、本当に繊細優美なイラストを描かれる素晴らしい絵師様です。

是非、この機会にXのフォローをよろしくお願いします。

 

この短編小説を手に取ってくださった心優しい皆様。

本当にありがとうございます。

もしお時間ある方は、また次回のコミックマーケットでお会いできたらと思います。

パープルハット完全新作Fate小説を用意して、他ならぬ貴方が遊びに来てくださることを心待ちにしております。

 


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