角人の和解共闘ルートという妄想。

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復讐の刃

 

 

「お前か…」

 

 

暗闇に包まれた暗室、忌まわしき簒奪者共の唾棄すべき城塞、その広大な城の最奥。

 

我らから全てを奪った憎きあの男が、そして今は遂に受けるべき報いを受け、無様な死肉と化した城の主が居た場所。

 

そしてその場に立つ俺の背後から聞こえる足音、誰のものなのかは解っていた。

 

 

「終わったな」

 

「あぁ…」

 

 

この地では見ない趣の鎧に身を包む者が一人。

 

褪せ人の戦士、この地の外からやって来たあの連中の同類。忌まわしい黄金樹の律に与する者、やがては我が刃で刻むべき者の一人。

 

だが今だけは、共に城主に立ち向かった協力者。

 

 

「お前も見ただろう、メスメル…奴の最後を、あの苦悶に満ちた顔と断末魔を!」

 

「よくも我らを汚物と罵ったものだ、どちらが真に汚物か、自分でも解っていただろう!」

 

 

復讐を遂げた、この手で奴を殺してやった。

 

我らの街を焼いたあの忌み火を凌ぎ、串刺し公の象徴たる槍を躱し、邪悪なる奴の本性の姿を暴き、遂にその時は来た。

 

戦いの終局、後ろにいる褪せ人の一撃がメスメルの体勢を崩し、そして我が刃がそこに吸い込まれていく。

 

食い込む刃、吹き上がる血、消えていく奴の命、我が刃が、遂にその悲願を成したのだ。その光景を思い起こせば思わず昂りと共に声は張り荒らぐ。

 

 

「復讐はこれで終わりか?」

 

 

褪せ人はそれを見ても変わらず、ただ少ない口数のままに問う。そして俺はその言葉に否と答えた。

 

 

「……いや」

 

「奴の死は始まりに過ぎない」

 

「我が刃で黄金樹の祝福を受けし者は全て刻んでやる、奴ら全員が俺の敵だ、俺はもう誰も許せない」

 

「そうか」

 

「あぁ……そしてその中にはお前もいる」

 

 

振り向いて明確な敵対の意を露わにしても、やはりこの褪せ人は動じる様な反応は示さなかった。

 

 

「………」

 

「お前は他の褪せ人と違うのだろう、黄金樹とマリカに次なる王として選ばれている、その祝福が証だ」

 

「今は、見逃そう、だが次にあった時、俺はお前を刻まねばならん、そうせずにはいられない」

 

「そうか…」

 

「それは残念だ」

 

 

形だけでも共に歩んできた、だがそれもここまで。一方的にそれを告げ、もう何も言うことはない。

 

そう思っていたが奴の予想外の言葉が気にかかった。

 

 

「残念だと?」

 

「おかしな事を言う、俺との敵対など、いずれはそうなると容易に想像できた筈だ」

 

「そうだな、ただお前とはもう少し話したかった」

 

「不可解な…お前達黄金樹の民が角人である俺と話したい事などないだろう」

 

「少なくとも私にはある、お前が角人だからだ」

 

 

褪せ人の発言の意味が解らなかった、ずっと復讐のみ目的とし、その他の全ては二の次だった。だが今初めて、この褪せ人に興味にも似た疑問が湧いてきた。

 

 

「どういう意味だ」

 

「…これで最後というのならば、お前には話しても良いだろう、他ならぬお前には」

 

「私の旅の終着、本当の目的について」

 

 

多くは語らず、なんの為に戦うのかも解らなかったその褪せ人、それが初めてその思惑を語り出した。

 

褪せ人が語り、そこで見聞きしたものを、俺はもう忘れることができないだろう。

 

 

「そうだな、まず見せた方が早いだろう」

 

「…! お前、妙な真似を…」

 

 

褪せ人が何かを取り出そうとする、敵意は感じなかった。だが褪せ人が行おうとするその行動に、その手より現れたソレに、本能的な強い不穏を感じたのだ。

 

咄嗟に自ら鍛えた刃に手が伸びる、抜き放ち、構える寸前でしかし、視界に入ったその光景から俺の動きは止まった。

 

 

「……なんだ…ソレは…」

 

 

暗室の闇を光が照らす、だがただの光ではない。迸る炎や雷の様な荒々しさ、祈祷による聖光の様な暖かみ、輝石の魔術による吸い込まれる様な蒼い煌めき。

 

それらの光のどれとも似つかぬ、酷く淀み混じり合った何か、泥濘む泥にも似た光。

 

醜悪で、歪で、汚らわしく、悍ましい。だがどこか、俺の中の何かが惹かれている。褪せ人が取り出したソレからはそんな光が鈍く放たれていた。

 

 

「ソレは…大ルーンか…?」

 

 

淀みきった泥色の瘴気を放つ円環が褪せ人の手に浮かび上がる、ソレはメスメルらマリカの子供達、デミゴッドが持つというエルデンリングの欠片に似ていた。

 

褪せ人はソレを手にしたまま静かに語り始める。

 

 

「この影の地の外、我らの故郷である狭間の地でエルデンリングが砕かれた…以来、二本指はエルデンリングの修復を我ら褪せ人に望んでいる」

 

「知っているぞ、次なる王がその役目を果たすのだろう?その為に卑しくもお前達は、黄金樹に与する者同士で殺し合う」

 

「そうだ…エルデンリングを修復するのに必要な欠片たる大ルーン、それとは別に、律に新たな概念を組み込むのが、この修復ルーン」

 

「かつてマリカがそうした様に、この世界の法則を定義し、新たなる時代の始まりとなる礎だ」

 

「何だと?」

 

 

その言葉で自然と褪せ人の掌で揺らめく円環に視線が向く、円環の中心の、底など無い深淵の如き黒に。

 

それは祝福などとは似ても似つかぬ、強い不吉と邪気を纏い、呪いと絶望を内包している様に思えた。

 

 

「ソレが…?組み込まれる新しい律だと?」

 

「お前は一体何をするつもりだ?」

 

 

この褪せ人が俺やレダとその同胞共とは違うということは薄々察知していた。秘したる目的があるのか、影の地にも神人ミケラの唱える新たな世界にも、本当の意味で褪せ人の興味はないのではないか、と。

 

しかしこの褪せ人が抱える目的は、どうやら俺の想像の及ばない場所にあるようだ。

 

 

「私の目的は新たなる世界の始まり、坩堝への回帰だ」

 

 

声の抑制や感情は変えず、淡々と語る。円環の光に照らされた無機質なヘルムに包まれた褪せ人の顔、俺は初めて目の前のこの褪せ人が不気味に思えた。

 

 

「坩堝だと…」

 

「そう、お前達、角人に説明はいらないだろう」

 

「混じり角だ、古い時代に置いてそれは祝福だった、だがマリカの統治する世界では、長らく混じり角は忌むべき呪いとされていた」

 

「………」

 

「時折生まれてくる混じり角の者は忌み子とされ徹底的に差別、隠匿された。角を全て抜かれ、王都の地下に捨てられる」

 

「それでも生き残った者も居たが、真っ当な人間として扱われる事は決してなかった」

 

「…ふん、あの毒婦のやりそうな事だ」

 

「この地だけでは飽き足らず、自らが治める地でも我らの信仰を嘲り踏み躙るのか」

 

「それで?坩堝への回帰と言ったな、どういう意味だ」

 

 

「この修復ルーンは、これより後、生まれてくる全ての生命をその混じり角の忌み子へと変えるのだ」

 

 

「………は?」

 

 

俺は言葉を失い、ただ意味をなさない滑稽な声を上げるしかできなかった。今、褪せ人はなんと言った?

 

 

「一人の男がいた、その者は生まれながらの差異に苦しめられ、やがて一つの結論を見出した」

 

「呪われた生がこんなにも苦しいのなら、いっそ全てが呪われれば良い、全てが呪われた世界では、己と同じ苦しみが生まれ落ちる事は二度と無い」

 

「何を…言っている」

 

「これはその男が世界を呪い続けた果てに生み出した、私がエルデの王となればこれを使いエルデンリングを修復し、彼の望んだ世界が訪れる」

 

「いや…待て、それは…」

 

 

余りにも予想を超えた話だった、俺は何とか言葉を紡ぎ、思い浮かんだ疑問を褪せ人に問うことができた。

 

 

「それをしてお前に何の理がある…忌み子でも、角人でもないお前が、黄金樹が異端と遠ざけたソレを広める理由は何だ」

 

 

呟く様に、思わず口から溢れた様に、静かに、だがハッキリと、褪せ人は答えた。

 

 

「私は今のこの世界が嫌いだ」

 

「なに…?」

 

「我ら褪せ人を陥れ、犠牲を積むことを強いた全ての元凶マリカ、奴の定義した祝福も呪いも、良しも悪しも、全てが欺瞞に過ぎない」

 

「ならば全てを破壊してやると決めた、もし私が治める世界があるのなら、そこにあるのはあの女が呪いと忌み嫌った原初の祝福が相応しい」

 

「全ての民が忌み角を持つとはつまり、古き祝福である坩堝への回帰とも呼べるのではないか、私が治めるべき世界はそこにある」

 

 

「………」

 

 

俺は今度こそ呆然として立ち尽くした、努めて冷静に絞り出そうとした声は、自分でも解るほどに動揺を含んでいた。

 

 

「では…お前は黄金樹を、エルデンリングをソレで呪うというのか?黄金樹の、マリカの祝福を受けた身でありながらそれを裏切ると?」

 

「そうだ」

 

「褪せ人として戦いを強いられたからか?」

 

「角人、過程は違えど解るはずだ、お前には」

 

「幾つもの悲劇を目の当たりにし、蔓延った反吐の出る欺瞞と、その元凶」

 

「それらのせいで同胞が血を流し、時に互いに向けて刃を振るう事の虚しさ、苦しさ、怒り、嘆き…終わりのない憎しみが」

 

「……!」

 

 

俺はその言葉で、ずっと何を考えているか読みきれなかったこの褪せ人の心中を、理解することができた。

 

思えばその時、初めて褪せ人の目を見た。ヘルムの覗き穴に浮かんだ、その両目。

 

その褪せた両目には、俺と同じ色が浮かんでいた。

 

 

「これは復讐だ」

 

「我ら褪せ人を呪う神と、大いなる意志と、この世界に向けた、私の怨嗟そのものだ」

 

「私は必ずや成すぞ、その為には旧時代の残滓達も、ましてや神の齎す優しい世界など、邪魔でしかない」

 

「いずれ対立する運命、ならば早くに摘むのみだ」

 

「…それがお前がミケラの元へ向かう理由か…全てはその呪いの時代をもたらす為に…」

 

「そうだ、例え卑劣な裏切りだとしても、奴らに、マリカに私を非難する権利は無い、私がこれから憎しみと共に歩む道は、かつて奴が歩んだ道だ」

 

「かつてマリカが歩んだ…?どういう意味だ」

 

「マリカは巫女だった」

 

「………」

 

「マリカの故郷は、この地の巫女達の村だ」

 

 

どこまで淡々と、褪せ人は語る。この地で知り得たのであろう真実を、その真偽を問う気などなかった。

 

俺はもう、込み上げる感情を抑えられなかった。

 

 

「……は…」

 

「…くっ…は、はは」

 

「ククク、ハハハハハハ!!」

 

「巫女!?そうか!巫女か!ハハハハハ!!」

 

 

俺は笑った。嘲笑でも諦観でもなく、ただ可笑しくて笑った。果たしていつ以来だったか、こんなにも声を張り上げて笑ったのは。

 

 

「ハハハ!ならば全員、同じだ!!」

 

 

全てに納得できた。何故マリカがこの地を黄金樹の影に封じたのか、何故半神たる我が子に命じて角人を滅ぼそうとしたのか、何故マリカの掲げる律の下では混じり角が呪いとして忌み嫌われるのか。

 

全て、何もかも全てに納得ができてしまった。

 

 

「どいつもこいつも!皆、変わらぬ!」

 

「復讐で世界を作る者、復讐でその世界を壊す者!」

 

「俺も、お前も、マリカも、その呪われた律を生み出したという男も!全員、同じだ!」

 

「身勝手で、残忍で、醜く、歪み、狂い…」

 

「全員、呪われている」

 

 

余りにも滑稽過ぎた、自らが生み出した火種から広がった炎に身を焼かれ、悶え苦しんで怨嗟する。そしてそれはまた火種となり、自らを滅ぼしていく。

 

神も、人も、祝福も、呪いも、その隔たりさえも今は滑稽に思えた。全ての始まりと終わりは、結局は同じ感情だったのだ。

 

 

「フハハハハハハ!!」

 

 

俺は尚も笑った、気の済むまで笑ってもまだ笑い足りないと思う程に。褪せ人は無言のまま、俺の次の言葉を待っているようだった。

 

 

「……良いではないか」

 

「混じり角を宿した忌み子の時代だと?我らの崇めた坩堝の相が、マリカの憎んだ忌み角が、奴の治めた世界に広まるだと?」

 

「ハハハ!それ以上の復讐があるか!消し去りたかった我らの証が!世に満ちる!それも他ならぬ、マリカ自身が王たるを託したお前の手によって!」

 

「黄金樹の時代、その全てを穢し、絶望に落とす!まったくもって良いではないか!」

 

 

俺は歓喜した。その未来はまさに、俺にとっての理想そのものだった。黄金樹の民への復讐も、一族の復権も、その世界では全てが叶うだろう。

 

ただ、俺と同じ目をしたこの壊れた褪せ人に、それら全てを託せば良いだけのこと。

 

 

「ならば、ならばお前は王になれ、褪せ人」

 

「………」

 

「我らの憎む黄金の律を穢し、マリカの祝福、その全てを破壊する王になってくれ」

 

「必要ならば、俺がお前の刃となってやる」

 

 

俺はまるで誓いを宣言するかの様に、褪せ人に向けてそう言った。褪せ人の返答にはほんの少し、喜色が混じっている様に聞こえた。

 

 

「良いのか、次あった時に刻まなくて」

 

「お前の障壁となる者が死に絶えた後、王となったお前が望むのならそうしてやる」

 

「…フッ…」

 

「ククク…」

 

「ハハハハハハ!」

 

 

影の地に立つ広大な城壁、その最奥の暗室の闇の中で、笑い声が反響している。

 

絶望の祝福、その淀み濁った光に照らされて、笑う。

 

身勝手で、残忍で、醜く、歪み、狂い、呪われた我らが笑う。思い描いた、壊れた未来を想像して。

 

 

この復讐の刃が、敵の血に濡れる様を想像して。

 


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