私だけが楽しいオーバーロード

自己満なので所々おかしいです

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望んだ夢 望まなかった現実

 

 

 

 

彼女がこの世に二度目の生を受けて、そこが以前好きだった物語の世界だと悟った時。初めに思ったのは最悪、の一言だった。

 

何事もやりすぎは良くない。それは誰もが理解している事だ。しかし、己が欲望を優先させた者がいたのだろう。それに賛同した者がいたのだろう。

その結果が、大気汚染に酸性雨。マスクがないと外に歩けもしないこの世界だ。

そして格差社会が蔓延り、皆働くために生きている。それはアーコロジーに住む者もだがアーコロジーの外、貧民層に住む者なら尚更のことだろう。

 

そして、彼女は貧民層の両親の元で三姉妹の二番目に生まれた。

彼女は物心がつき、前世の記憶がはっきりしてこの世の状況を理解した時。この親はバカなのかと心底呆れた。

金がないのにどうやって私たちを養うのか。働くにしてもその間、妹の世話は誰がするのだ。学校に行かせると言っているが義務教育がなく、従順な駒を育てんとするこの世界で前世、仮にも高校まで卒業した私はともかく、姉や妹は賭博でしかない。

 

そんなことを考えているうちに、案の定親は片方死に、彼女は何とか通わせて貰っていた学校を卒業し社会人になり、学歴も相まって下請けの会社でそれなりの地位に着いていた。

週六出勤。帰りをできるだけ早くしようと部下に仕事を割り振り、己も膨大な数の書類を捌く日々。

 

そんな日々にも娯楽は見いだせる。元々彼女は内向的でアウトドアよりインドアだ。

"前"からゲームやアニメは好きで、著作権切れの漫画やアニメを漁っていたり、最近は新しいものにも手を出している。

そんな中、一際目を引くものがあった。

 

DMMO-RPG ユグドラシル だ。

 

ゲームとしての興味と、己がこの世界に入った後、どのような変化が起こるのかという興味故だ。

 

惹かれるがまま、彼女は本日リリース! と表示されている画面のURLをタップし、インストールをする。

 

種族はもちろん悪魔。異形種だ。梟の見た目で魔法詠唱者。

本当は暗殺者なども面白そうだと悩んだのだが、魔法を使えない悪魔って・・・、と考えたら暗殺者はあっさり除外された。まあそれは、NPCを作る機会があった際に採用しよう。

 

アバターの設定が出来たら、とりあえず街中でチュートリアルを行いアイテムを買う。

淡々とした作業のようなこの感じはあまり好きではなく、思ったよりクソゲーなこれを今にもログアウトしてしまいそうだが、彼女はそんな気持ちを抑えこみレベル上げに専念する。

幸い、翌日は休みだったので疲労を感じるまでレベル上げをし続けた結果、六三Lvにまで上がった。

ビルドは気持ちガチ。ソロだが火力に全ブッパ。回復はアイテムで賄っている。リリース直後は攻略ページもなく、手探りなこともあり、あとから直せばいいだろう精神だ。

 

一通りすることが終わると、一気に思考が回る。

もし、あのギルドの誰かに誘われたら己は断れないだろう。また、そのような機会があったら嬉々としてものにするだろう。

でも、それは全ていいように解釈した場合のみだ。ゲームを長く続けるなら楽しくやりたい。

その日は疲れきって布団に入り即寝した。

 

 

レベルがカンストし、 ちょくちょく攻略サイトが立ち上がってきた頃。

最近、あの異形種狩が流行りだしていき、亜人や人間の町に行きにくくなった。アイテムの使用でセカンドアバターを作り、人間になってアイテムを買うこともあるのだが、レベルが高いプレイヤーに会うと直ぐにバレ、PKされそうになるということがちょくちょくだが、多くなってきたのだ。

 

そんな中、いつも通りモンスターを狩っていると卑下た笑い声が聞こえてきた。しかも内容は最悪だ。

 

「ちょこまか逃げんじゃねえよ。」

「レベル一桁が調子に乗るなよなあ。」

 

その声を聞き、彼女はどの時代でもゴミはいるんだなと実感する。

助けるか助けまいか迷い、そちらに目線を向け、襲われている側を見ると黒山羊のアバターが転がされていた。

 

そして考えた末、彼女は助けることにした。

あの人であれなんであれ、助ける代わりにフレンドになってもらおう。ソロ脱出のいい機会だ。

 

「〈魔法位階上昇化(ブーステッドマジック)〉、〈魔法の矢(マジック・アロー)〉。・・・あ、あの、大丈夫ですか?」

 

立てます?

 

そう言って差し伸べた手は振り払われずに済んだ。人見知りプラスコミュ障が話しかけたのだ。吃るのはご愛嬌。

 

「あ、ああ。ありがとう、ございます。」

 

 

これがウルベルト·アレイン·オードルとストラス·ド·プランシーが初めて会った時の話である。

 

 

 

 

フレンドになった直後、交流が少なかった二人は、ほんの小さなきっかけで軽口を言えるまでになりリアルで会うまでの友達になっていた。元々似たような性格をしていた二人は、色々なイタズラをして他プレイヤーで遊び楽しめる感性を持っていた。

 

そして、子供みたいに遊んでいるといつの間にクランに入っていた。

経緯としては、元々誘われていたウルベルトがストラスを誘ってくれたのだ。

 

その後はお互いクラン内で仲がいい人が出来、二人で遊んでいた時ほどの絡みは無くなったが、リアルでは愚痴を言い合うように連絡をしたり、休みが合うとクランの数人を誘ってご飯に行くプチオフ会をしたりなど、仲の良さは健在だった。

 

 

 

 

 

 

先日、ナザリック地下大墳墓を皆で攻略した。

今は、ギルドホームとなったここを皆で会議しながら思い思いにハウジングやNPC制作をする。

ストラスはそういうセンスが皆無なので、端っこでNPCの設定を練ってたり、著作権切れの"前"好きだった漫画や小説、アニメなどのピックアップをしていた。

そんな中、ウルベルトを除けば一番仲がいいヘロヘロに呼ばれる。

 

「ストさーん。そっちどう? こっちはブリムさんとクドゥさんで全体の輪郭は出来た感じなんです。 」

「おつー、ヘロちゃん。どうと言われましても、ここで一人作業。特になんにもしてないから。」

「いやいや。いっぱいアドバイスしてたじゃないですか。」

「いや、ほんと皆私になに期待してるのやら。それよりさ、」

 

素っ気ない振りをしていても、嬉しいんだなとヘロヘロは認識しヘロヘロ自身も笑みが浮かぶ。ストラスとヘロヘロが談笑していると、ある一角から聞き覚えのある声が響いた。

 

「頑固だなあ、たっちさん! そうじゃねえって言ってるだろ! 」

「貴方も分からない人ですね、ウルベルトさん。」

「まあまあ、落ち着いて下さいよお二人とも。」

 

黒山羊と聖騎士の喧嘩に骸骨の宥め役。皆、一度顔をそちらに向けるも直ぐに各々の作業に取り掛かる。いつもの事だからだ。

 

「それより? 何です? 」

「そうそう。ヘロちゃんのNPC見せて欲しいなーって。もう出来たんでしょ?プレアデス? プレイアデス? ってやつ。 」

「見てくれますか! ホントですか! ストさん、来て来て!」

 

ストラスがテンションの上がったヘロヘロに着いて行くと、何人ものメイド服を来た女達が並ぶ場所に着いた。

 

「見てくださいこれ! 僕の性癖を詰め込んだNPC、ソリュシャン·イプシロンです! 」

 

性癖と声高々にのたまったヘロヘロに若干面食らうも、何とか持ち直ししっかりとそのNPCを見る。

死んだような目にタイトなスカートと露出する胸元。

なにか反応をした方がいいのだろうかと、ストラスは素直に感想を告げる。

 

「ふーん、金髪青眼に縦巻きロール。可愛くていいんじゃない? 」

 

素っ気なく思えるそれも、仲が良ければ相手の本心は分かるというもの。

ヘロヘロは賛同が得られたことに歓喜し、表現したいがために笑顔のスタンプを連投する。

 

「だよね! いいよね! でもまだ職業だけ決まってなくて。種族は僕と同じスライム系にしたんですけど。ストさん、何かいいのありませんか? 」

「・・・暗殺者とかどう? 私のNPCもそれにしようと思っててさ。オソロにしようぜ。」

「暗殺者か。・・・アリですね。」

 

納得したヘロヘロはその場でコンソールを開き、NPCの設定を付け加える。

 

「よし、細かいのは後でいいや。ストさん、一通り終わったんでこの階層見て回りませんか? 」

「いいよ。ついでに設定のことで聞きたいことあるんで、ウルベルのとこにもよりまーす。」

「はーい。」

 

ヘロヘロは定位置になりつつあるストラスの魔法の腕に移動し、未だ喧嘩しているウルベルトの方まで移動してもらう。

早く行きたいストラスは、己を優先し空気を読まずそこへ割って入った。

 

「闘技場来いよ。殺す。」

「勝てるもんなら、どうぞ。」

 

「ウルベルー。ちょっとNPCのことで。」

 

呼びかけられたウルベルトは視線を少しだけストラスに向けると、少し冷静になったのだろう。いきり立っていた肩は落ち着いているが、目の前のたっち·みーを叩き潰したいのか口調は強い。

 

「ああ、ちょっと待てストラス。こいつ潰してすぐに行く。」

「魔法詠唱者の貴方が私を潰す? 面白い冗談ですね。」

「あんだとゴラァ! 」

 

売り言葉に買い言葉。

それに呆れたストラスは腕の中で焦っているヘロヘロを気にせず間に割って入り、ウルベルトの顔の前で指を鳴らす。

 

「NPCのことで、用、あるんだけど。」

「お、おう。」

「たっちさん。悪いんですけどこれ、連れていきます。」

「はい、ストラスさん。意味の無い争いなど産みたくありませんから。」

 

煽るようにたっち·みーが言うとウルベルトがまたいきり立つが、ストラスに引きずられその場は収まった。

 

そんな、ナザリックのある日。

皆がリアルを放り出してまでハマったこの時期はまさに黄金期と呼べるだろう。

 

 

 

 

数年後

千五百人の侵攻から、皆燃え尽きたようにログインする頻度が減っていった。その前から予兆はあったのだが、キリが良かったのだろう。

世の中の物価高騰や増税によりリアルが苦しくなっていたのもある。

 

そして、ストラスも一年ログインしたりしなかったりを繰り返し、味変で他のゲームをしていたり。ユグドラシルへは、資金調達とNPCと話すためにインしていただけだった。まあ、返事が帰ってくるわけないのだが。

 

そしてリアルではウルベルトの"お願い"で、瀕死のベルリバーを匿ったり無理やり採用して、会社にねじ込んだりもした。日常生活において、何回か危ない場面はあったが、毎回ほんとにギリギリでバレないということがよくあった。

今のでバレなかったのかと、三人で冷や汗をかきながら笑ったこともある。

 

そんなギルドの仲間にはウルベルト、ベルリバー、ヘロヘロ、やまいこを除いてほとんど連絡も取り合っていない。

モモンガとは、ログイン時に顔が合えば挨拶をするくらいだ。元々積極的に関わる方ではなかったし相性が良くないだろうと必要最低限関わらなかった。

 

ストラスはギルメンの職業を基本的に知っている。本人から聞いたり、誰かと話している声が聞こえたり。人間観察が趣味であるので、仲間のことだと殊更観察し、記憶に残る。

だから、あからさまにおかしい理由で引退したりする人がいると、"前"に見たモモンガの表面しか見ず、意味もなく罪悪感により己を律しようとする考えに苛立ちを感じるのだ。リアルに思い入れがない分、そちらの事情を疎かにしやすい。それが明白なのにも関わらず。それを今も考えているのだろうと思うと余計に。

 

 

 

 

そんなユグドラシルもサービス終了。

 

しかし、本題はここからだ。

ストラスは匿っているベルリバーとウルベルトに"前"の話を話した。

 

相手の秘密を知ってしっまったのもある。また、不確定だが確実な逃げ場があると持ち出した時、ベルリバーが何でもいいから教えてくれ、と迫ったのもある。ストラスが秘密をこれ以上抱えて居られなかったのもある。

 

こんな矛盾だらけの言葉に切羽詰まるほど焦っていたのだ。 だからストラスはそれを利用して、道連れを二人追加した。

 

また、やまいこもサービス終了の直前になって連れていくことにした。

それはサービス終了まで一週間を切ったある日。その日は久しぶりにやまいこから連絡が来ていた。

アーコロジー内のクーデターにより家族が大怪我を負ったそうだ。治療をするにしても教師のやまいこにも払えない膨大な金が必要だったようで、泣く泣く亡くなったそうだった。気分転換に誰かと話したいと、ストラスを呼んだそうで、それならばとサービス終了日のユグドラシルに誘った。

 

ヘロヘロに関しては、忙しいのだろう。前ほど連絡は取れていないが、何事もなければ最終日にログインしてくるはずだ。そこをストラスとウルベルトで引き止める。

 

また、やまいこ達を誘ったのも理由がある。正直、ストラスは転移後のアインズ·ウール·ゴウンの魔王軍のようなあの感じは好きではなかった。

 

慢心の塊。転移後の世界ではただの異物な癖に、我が物顔で椅子に座る現実を見ないゲーム脳の外道。これはNPCに言えることだが。しかし、ゲームの種族特性の影響を受けると分かっていたなら何か対策をしておくべきなのだ。そして元来、私たちのような異物は引きこもっておくべきだ。だが、実際ギルドホームの維持のために外に出なくては行けなくなってしまった。なれば、必要最低限の装備等で良かったのだ。これらは我らに限らず全ての転移してきたプレイヤーに言えるが。しかし、孤独かつすぐに流されユグドラシルに依存しているモモンガはそのような決定を出せないだろう。あのギルドマスターはそういう演技が上手いだけで命令役というより調停役だ。

だから、ストラスよりモモンガと仲がいい行動派の四人が最適だろうと考えたのだ。

 

いや、ヘロヘロはそうでもないか。

ふと、久しぶりに友人の姿を思い出したストラスはふっ、と笑みを浮かべた。

 

 

 

サービス終了の日。

ストラスは諸事情のあるベルリバーのタイミングに合わせるため、ギリギリまでログインしないことにした。その代わりに、ウルベルトとやまいこにヘロヘロを引き止めて貰うよう変更し、仕事に向かった。

 

 

二十三時五十分頃

 

ユグドラシルにストラスとベルリバーのログインが表示される。ヘロヘロのログイン履歴を確認すると、嬉しいことにログアウトしていなかった。また弐式炎雷のログイン履歴を確認し、驚いたものの心が温まる。

弐式炎雷とはストラスから積極的に話すではないものの、あちらから話しかけてくればワイワイするくらいの仲だった。ストラスは結構好いている。

 

すると不意に、ベルリバーらへ〈伝言(メッセージ)〉が繋がる。

モモンガからだ。

 

「ベルリバーさん! 来て下さったんですか! 」

「あ、ああ。久しぶりです、モモンガさん。あの、ストラスさんと寄るところがあるので、そこ行ったらすぐ行きます。多分王座の間ですよね? 」

「はい! ウルベルトさんとやまいこさん、弐式炎雷さんにヘロヘロさんも来てくださってるんです! ストラスさんも、ベルリバーさんも待ってますね! 」

「はい。ではまた、後で。」

 

伝言(メッセージ)〉が切れ、二人はストラスの自室まで歩く。

 

「モモンガさんと話さなくて良かったのか?」

「そこまで仲良くないのに何話すの。そんなのよりやる事あるでしょ。まだ早いよ、レバー。」

「・・・気が緩んでた、悪い。」

 

ベルリバーはまだ危険な立ち位置にいるのだ。この短時間でもうハッキングされていると考えていい。謝罪をしたベルリバーにそれでいいと言うようにストラスは頷き、己の部屋に入り並んだNPCを見る。

ストラスが創ったNPCのうちの一人、最上位悪魔カーシモラル·クロウリーだ。

〈付き従え〉とコマンドを打ち時計を見ると、二十三時五十六分。もう時間が無い。

 

「指輪、持ってるよね? 」

「ああ。引退する時、装備はモモンガさんに渡したけど、指輪系のアクセサリーはアイテムボックスに入ってる。」

「じゃあ、玉座の間の前で。」

 

無事指輪で転移し同時に玉座の間に入ると、五体の異形種と〈真なる無〉を持つ守護者統括のアルベドがいた。そのうち一体はほぼ寝ているが。

扉が開くと皆、同じ方へ向き声をかけてくる。

 

「お、やっと来たな。」

「ストちゃんもベルリバーさんも遅いよ! 」

「ストラスさん、ベルリバーさんおひさー。」

「あと三分ですよ!早く早く! 」

 

弐式さん久々ですね。

ストラス、ヘロヘロさん持って。

うん。ヘロちゃーん? こりゃ、起きないか。

すやすやだねえ。

明日早いみたいですし、寝かせてあげましょう。

ていうか、なんでここに〈真なる無(ギンヌンガガプ)〉?

たしかに。

まあ、最後だしいいじゃないですか。

 

二十三時五十九分

 

 

 

「楽しかったなあ。」

誰かが呟いたその声は、真の意味で使われることのなかった広い玉座の間に響いた。

 

 

 

 

「皆さん。今日は本当に来てくれてありがとうございました。あの、最後はあの言葉で締めませんか。」

その声に皆口々に賛同する。

 

 

 

「せーの」

 

 

 

「「「「アインズ·ウール·ゴウンに栄光あれ!」」」」

 

 

 

 

 

・・・一

 

「あれ? 」

 

歯車が回り始める。

 

 

 

 

強制ログアウトでゲームが落ちると思われた。が、目を開けてもそこは自室ではなく些かリアルに見えるナザリック地下大墳墓の玉座の間だった。

 

慌てるモモンガ達を横目に、ストラスはウルベルトとベルリバーの三人で確認作業をする。

 

「身体どう? 」

「うわ、ホントに嘴動いてるよ。」

「本当だ。ウルベルトさんも口、動いてる。」

「レバーは結構えぐいね。口が多すぎて。」

「確かに。生で見るとグロいなベルリバーさん。」

「後で〈人化の指輪〉渡す。」

「ああ、あれか。了解。」

 

〈人化の指輪〉とは、よくあるガチャのおまけアイテムで正確には人化ではなく、変化だ。種族を選ぶと名前が変更される仕組みで、後から替えはきかない。一定のMPを貯めないと使えず、装備するとセカンドアバターを設定できるようになる。そして、〈人化の指輪〉にすると異形種が入れない人間限定の街でも入ることができるのだ。しかし、種族レベルが無くなり完全に耐性が外れ、最長五時間の五回切りという完全遊びのアイテムだ。しかしガチャのおまけでありえないくらい出てくるのでストラスは手持ちの他に自室のスタッシュにカンストしてる指輪が何百個もうまっている。

 

他の仲間に聞こえないように三人でコソコソ喋っていると、モモンガ達が声を上げる。

 

「GMコールが反応しない! 」

「こっちも! 運営に繋がらない! 」

「どうしよう、明日四時起きなのに。遅刻だけはまずい。」

「俺もですよ。クビになったら生きてけない! 」

 

こんな中でもストラスの腕の中のヘロヘロは未だ眠ったまま。

各々騒いでいると突然、鈴のなるような声が響き皆驚きで声のした方へ振り返り、黙り込んだ。

 

「如何されましたか? 至高なる御身よ。」

「え、え? ア、アルベド? なんで喋ってるの? NPCが喋れるパッチってなかったよね? え? 」

 

困惑しきっているやまいこがそう呟くと、なんで喋ってるの、しか耳に入らなかったのだろうか。アルベドは失態をしたと言うように顔面蒼白になり懇願する。

 

「許可もなく発言し申し訳ありません、至高の四十二人であるやまいこ様! 如何なる罰も受ける所存でございます! しかし、差し出がましく、不敬とは存じますが何卒。何卒ナザリックを、我々下僕を捨て去るという選択だけはお辞めいただけないでしょうか! 」

 

その言葉に皆、衝撃を受け放心する。

耐えきれず泣き出したアルベドへ最初に駆け寄ったのは弐式炎雷だった。

 

「頭上げてよ! ちょっと色々わかんないこと起きてるのにいきなり言われても困るし、別に誰もお前達のこと捨ててないよ。」

 

弐式炎雷はその言葉でさらに泣き出したアルベドに慌て、見てないでどうにかしてよ! と周りに助けを求める。

やまいこやモモンガが遅れて駆け寄る中、ストラスやウルベルトは動かなかった。

 

そしてストラスやウルベルトは他のメンバーと違い、特に放心せず落ち着いていた。だからこそ、アルベドに近づこうと思わなかった。感性が死んでいる訳ではなく、彼女の涙が嘘泣きである可能性も否定出来ないし、〈真なる無〉を使われると対魔法詠唱者では不利すぎるという、まあ疑心暗鬼だ。駆け寄ろうとした、分が悪いベルリバーも押し留めた。

 

結局、いくら慰めても落ち着かないためモモンガが魔王ロールでアルベドを落ち着かせることとなり、他のNPCへ外の情報収集を命じて王座の間から退出させる。

 

"気が許せる者のみ"となった王座の間では、皆ため息を吐き早くも疲れを見せていた。

しかし、状況を整理し話し合うにはまず、全員が起きている必要がある。だから手始めにストラスの腕で寝こけているヘロヘロを叩き起した。

 

「ヘロちゃーん? ヘロヘロー?もう八時なってるけど起きないで大丈夫かー?遅刻よー。」

「はち、じ・・・・・・・・・八時!? やばいやばいやばい! クビにされる! なんで起こしてくれなかったんですか!? いや、寝落ちした僕が悪いか。それよりも早くナーブギア落とさないと。あれ? 落ちない、こんな時にバグか? 最悪だ。ストさん、腕から降ろして下さい。・・・あれ? なんでコマンドが出ない?というか、なんでこんなリアルな感触が、しかもいい匂いまでする。・・・は? いい匂い?ありえない。 電脳法において嗅覚は制限されてるはず。は? どういうことだ? ストさん分かります? 僕、早く帰らないと仕事が・・・」

 

飛び起きたヘロヘロを落ち着かせながら拙いながらも説明し、常時発動型スキルを外してもらう。今の今までストラスのHPを削っていたのだ。

ストラスはやまいこに回復してもらいながら、皆で闘技場に行かないかと提案するモモンガの話を聞く。

 

「私達のスキルとか魔法も確認したいですから。それと、皆さんは完全不可知化をして貰えませんか。さっきのアルベドの反応を見るに大丈夫だと思うんですけど念の為に。大丈夫だと判断したら私から合図を出します。」

「でも、それじゃあモモンガさんは、」

「皆さんはブランクがあるでしょうし、仮にも私はギルマスですから。格好をつけさせてくれませんか。」

「・・・分かりました、モモンガさんの案に賛成します。」

「それなら、アルベドに伝えないよう言っておかなきゃいけませんね。」

「じゃあ皆さん、指輪の試運転も兼ねて先に行っておいてくれませんか。ヘロヘロさんとベルリバーさんの装備取りに行くので。」

「確かに、みんなフル装備の方がかっこいいですし安心ですもんね! でも、暗号とか覚えてます? 」

「それは私が。」

「そうですか、それでは皆さん後で。」

 

そう言ってストラス、ウルベルト、ベルリバー、ヘロヘロを残し他のメンバーが転移する。

そして、三人は最初から居た意思疎通できるであろうNPCの方に向き、ストラスが声をかけた。

 

「カーシモラル·クロウリー。聞こえているのなら自己紹介を。」

「はっ。お初にお目にかかります、皆様。ストラス·ド·プランシー様に創造されし最上位悪魔、カーシモラル·クロウリーでございます。まずは、ウルベルト·アレイン·オードル様、ベルリバー様、ヘロヘロ様、またやまいこ様、弐式炎雷様の御帰還に深い感謝と忠誠を。」

「・・・宜しく。」

 

カーシモラルは創造主に差し出された"黒の手"を取り、立ち上がるその流れで手の甲にキスをする。

ストラスは突然のことにビクッとし"黒の手"を反射的に引っ込めてしまったが、カーシモラルは気にする素振りもなく一歩引いて指示を待った。

そこに声をかけたのはウルベルトだ。

 

「あー、カーシェ。今から宝物殿に行くんだよ。悪いんだが着いてきて貰えないか?」

「悪いだなんてとんでもない。もちろんでございます。ウルベルト·アレイン·オードル様。」

「・・・長いだろ、ウルベルトでいいよ。」

「至高の御方を略称で呼ぶなんて恐れ多い。しかし御命令とあらば承りました、ウルベルト様。」

 

敬うような口調にウルベルトは腹の底から気持ち悪く感じ、己が大嫌いな支配者層の人間になった気がして吐き気がする。

 

「敬うような態度は気分が悪いからやめてくれよ。俺はそんな人間じゃない。」

「よろしいので?」

「そういってるだろ。もっと気軽に接してくれ。」

「あ、俺も。」

「じゃあ僕も。そもそも、敬れるような人間じゃないですし、底辺も底辺ですよ。」

 

ヘロヘロも自虐をしながらウルベルトの言葉に賛同する。その流れでギルメン同士自虐雑談が始まるも突然当てられた怒気にビクッとして口が止まる。

 

カーシモラルは事情を聞かされていたとはいえ耐えきれず怒気を出してしまった。それにより、驚かせてしまった至高の御方に申し訳なさが募る。しかし、真摯に謝罪をにすると大袈裟と感じてしまわれ、先程言われたラフに接してくれに反するので軽く頭を下げるだけに留めた。

 

「驚かせてしまい、申し訳ありません。」

「それはいいけど、どこに怒る要素あった? 私全部喋ったよな? いや、だいたいだけども。」

 

創造主がその疑問を持つのは妥当だと言える。常々ストラス様は我々NPCにとって知ることさえ禁忌だろう秘密を己ともう一人に話してくださった。

 

「ええ、知っています。しかしだからこそ、その実感を嫌でも持つものです。ストラス様は共感性に欠けるため、ご理解いただけないかと思いますが。」

「え、うっざ。正論だからか余計うざ。」

「それより早く宝物殿へ行かなくていいんですか? いつまでもここで話していては、先に闘技場に赴かれている方々をおまたせしてしまいますよ。」

「無視えぐ。しかも責任転換やば。」

 

他のNPCから見れば不敬も甚だしい極刑案件だろう。しかし、ストラスもカーシモラルも楽しそうに会話をしている。

玉座の間に残ったギルメンは先程のアルベドを思い出しながら、二人の会話を羨ましく思う。

 

「あはははは、コントかよ! そうそう、俺たちにもそんなふうに話してくれ。」

「本当はタメ口でもいいんですけどねえ。」

「さすがに無理じゃないです? てか、そろそろ宝物殿行きましょうか。三人を待たせても悪いですから。」

 

宝物殿には指輪がないと転移できない。

カーシモラルは創造主から差し出された手を嬉しそうにとった。


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